石仏群のTLS計測で「重なりの分離」が重要になる理由
寺社境内、石窟、山道沿い、墓域、旧街道などに残る石仏群をTLSで計測すると、現地では一体ずつ確認できていた石仏が、取得した点群上では複雑に重なって見えることがあります。石仏同士の間隔が狭い場合だけでなく、前後方向に並んでいる場合、台座が接している場合、背面が岩盤や石垣と近接している場合などでは、単純に点群を表示しただけでは個体ごとの境界を判断しにくくなります。
TLSは対象物の表面までの距離を多数の点として取得できるため、文化財の形状記録に有効です。一方、レーザーが手前の物体に遮られれば、その奥側の面はその位置から取得できません。つまり、点群が高密度であっても、一つの設置位置から石仏群全体の形状を完全に取得できるとは限りません。特に石仏の肩、頭部、光背、台座などが隣接している場所では、手前の石仏による遮蔽が奥の石仏の欠測につながります。
このような点群を個体単位で整理せずに解析すると、石仏一体ごとの寸法、傾斜、欠損、表面形状などを評価したい場面で支障が生じます。たとえば、隣接する石仏の点が混ざったまま断面を作成すると、本来存在しない形状が輪郭として現れる可能性があります。過年度の点群と比較する場合にも、同じ個体を同じ範囲で抽出できなければ、変化量の解釈が難しくなります。
そのため、文化財TLS計測では「点を取得すること」だけでなく、「取得した点がどの石仏に属するのかを整理すること」が重要です。ここでいう分離とは、単に画面上で色を変える作業ではありません。座標、奥行き、面の向き、形状の連続性、複数視点からの観測結果、現地写真などを照合しながら、一つの個体として妥当な範囲を定義していく作業です。
また、石仏は工業製品のように一定の寸法や形状を持つわけではありません。長年の風化、欠損、補修、傾斜、沈下などにより、一体ごとに形状が異なります。したがって、「一定の寸法で自動分割すればよい」という考え方では対応できないことがあります。特に文化財では、摩耗や欠損そのものが記録すべき情報であるため、ノイズ処理や自動分類によって細部を消してしまわないことも大切です。
石仏群の分類では、自動処理と目視確認を対立するものとして考える必要はありません。点群処理によって候補領域を絞り込み、その結果を複数方向の表示や現地記録で確認し、必要な部分だけ人が修正する方法が現実的です。分類精度を高めるには、一つのアルゴリズムだけに頼るのではなく、複数の判断材料を順番に重ねることが重要になります。
分類手順1:座標合わせと不要点除去で分類前の点群を整える
最初の手順は、石仏を分類する前に点群そのものを整理することです。複数地点からTLS計測した場合、それぞれの点群が十分に位置合わせされていなければ、同じ石仏の表面が二重に見えたり、輪郭がずれたりします。この状態で個体分類を始めると、本来一つの面である部分を別の石仏と誤認する原因になります。
まず確認したいのは、複数スキャン間の整合性です。石仏の顔、肩、光背などの細部だけを見るのではなく、周囲の安定した地形や構造物を含めて点群全体を確認します。位置合わせの評価値が良好に見えても、局所的なずれが残っていることがあります。特に石仏群が狭い範囲に密集している場合、数値上は小さなずれでも個体境界の判定に影響する場合があります。
文化財計測では、後から同じ場所を再測する可能性も考えて座標基準を明確にしておくことが重要です。その場限りの任意座標で処理する場合でも、原点、軸方向、高さの扱いを記録しておくと、追加計測や再解析がしやすくなります。既知点や現地の基準点を利用できる場合は、それらと点群の関係を整理しておくことで、別時期のデータとの比較もしやすくなります。
位置合わせを確認したら、次に分類対象ではない点を整理します。石仏の周囲には、植生、落ち葉、草、ロープ、柵、参拝設備、仮設物、通行人などが点群に含まれることがあります。これらが石仏表面と接近していると、後工程の領域分割で同一物体と判定される原因になります。
ただし、不要点を一括して強く除去することは避ける必要があります。石仏表面には、細かな凹凸、風化した輪郭、欠損部、浮彫り、銘文などが存在するためです。孤立点除去の条件を強くしすぎると、実際には文化財の形状を示している点まで削除する可能性があります。分類前処理では、明らかに遠く離れた点や一時的な対象を中心に整理し、判断が難しい点は残しておくほうが安全です。
地面も重要です。石仏の台座と地面が連続している場合、地表点を完全に残したまま領域分割すると、複数の石仏が地面を介して一つの連結領域として認識される場合があります。一方で、台座の沈下や傾きを調査したい場合には、周辺地表も重要な観測対象です。そのため、地表点を削除するのではなく、石仏本体の分類用データと、地盤状態を確認するための保存データを分けて管理すると扱いやすくなります。
この段階では、石仏を完全に一体ずつ分離する必要はありません。重要なのは、後工程で個体境界を判断しやすい状態を作ることです。位置ずれや明らかな不要点が残ったまま高度な分類処理を行っても、元データの問題を分類処理だけで解決することはできません。
また、元の点群は必ず残しておきます。分類やノイズ除去を繰り返していると、どの処理によって点が削除されたのか分からなくなることがあります。文化財記録では、加工済みデータだけでなく、可能な範囲で原取得データや処理履歴を保持しておくことが、後日の再検証に役立ちます。
分類手順2:奥行きと遮蔽関係から石仏群を大きく分ける
前処理が終わったら、石仏群をいきなり一体ずつ抽出するのではなく、まず奥行き関係から大きなまとまりに分けます。石仏が前後に並んでいる場所では、正面表示だけを見ると輪郭が重なっていても、上面や側面から確認すると距離方向に明確な差があることがあります。
TLS点群には三次元座標があるため、画面上で重なって見えても、実際の位置関係を確認できます。正面、側面、上面など複数方向から表示し、石仏群がどの方向に並んでいるのかを把握します。斜面に沿って配置されている場合は、単純な水平面上の奥行きではなく、斜面方向を意識して見る必要があります。
このとき役立つのが断面表示です。石仏群を一定幅の断面で切り出すと、前列と後列の位置関係が分かりやすくなります。全点を三次元表示していると複雑に見える場所でも、薄い断面にすることで個体間の空間や接触関係を確認できます。
ただし、奥行きだけで完全に分類できるとは限りません。二体の石仏がほぼ同じ列に並んでいる場合や、台座が接している場合には、距離方向の差が小さいことがあります。また、傾いた石仏では頭部と台座で奥行きが異なるため、一つの距離しきい値で切り分けると、同じ石仏が複数の領域に分断される可能性があります。
そのため、奥行きによる分類は「個体確定」ではなく「候補領域の作成」と考えるのが適切です。たとえば前列、中列、後列のように大きく分け、その後の形状解析で一体ずつ整理します。
遮蔽関係の確認も重要です。ある方向から見て奥側の石仏が途中で途切れている場合、その部分が実際に欠損しているとは限りません。手前の石仏によってレーザーが遮られ、計測できていない可能性があります。別の設置地点から取得した点群では同じ部分が存在していることもあるため、欠測と実形状を区別しなければなりません。
石仏群のように凹凸が大きく密集した対象では、一方向からの点群だけで完全な分類を行おうとしないことが基本です。正面だけでなく、左右斜め方向や可能な範囲の背面側から取得したデータを重ねることで、個体境界を確認しやすくなります。
また、石仏と背景の分離もこの工程で行います。背後に岩盤や石垣がある場合、石仏背面との距離が非常に近いことがあります。正面から取得した点群だけでは両者が一体に見える場合があるため、側面断面を確認し、石仏と背景面の間にどの程度の空間があるかを調べます。完全に接触している場所では、距離だけでは分類できないため、次の手順で面方向や形状の変化を利用します。
分類手順3:法線方向と曲率の変化から個体境界を探す
奥行きで大きく領域を分けた後は、点群表面の向きや曲がり方を使って個体境界を探します。ここで利用できる代表的な情報が、局所的な面の向きを表す法線方向と、表面の変化量を示す曲率に相当する特徴です。
石仏の胸部や台座の側面など、比較的滑らかな面では近接点の面方向が似ています。一方、石仏と隣の石仏の境界、石仏と背景岩盤の境界、光背の縁などでは、面の方向が急に変化することがあります。この変化を利用すると、単純な距離だけでは分けにくかった境界を検出しやすくなります。
ただし、石仏そのものにも面方向が急変する部分があります。鼻、耳、手、衣文、台座の角、光背の縁などです。法線方向が変化した場所をすべて別領域にすると、一体の石仏が多数の小片に分かれてしまいます。そのため、局所的な面方向だけを見るのではなく、周囲との連続性を含めて判断する必要があります。
風化した石仏では、この問題がさらに複雑になります。表面が粗い場合、小さな範囲で法線を求めると、微細な凹凸によって方向が大きくばらつくことがあります。反対に、広すぎる範囲で平均すると、頭部や腕など本来残したい形状の特徴が滑らかに扱われ、境界を見つけにくくなります。
したがって、法線や曲率を利用するときは、解析する近傍範囲を対象物の大きさや点密度に合わせて調整します。一定値をすべての現場に適用するのではなく、実際の点群を確認しながら、石仏表面の細部を残しつつ個体境界が見える条件を探すことが重要です。
石仏の頭部と背後の岩盤が接近しているケースを考えると分かりやすいでしょう。距離だけを見ると二つの面がほぼ連続しているように見えても、石仏頭部は丸みを持ち、岩盤は異なる方向の面を形成している場合があります。この面方向の変化を利用すれば、境界候補を抽出できます。
一方、石仏が岩壁から直接彫り出されている場合は、背景と石仏が物理的に一体です。その場合、「石仏と背景の間に隙間がある」という前提では分類できません。彫刻表面の凹凸や輪郭を基準として範囲を定義する必要があります。つまり、分類方法は文化財の形態そのものに合わせる必要があります。
曲率の情報も同様です。石仏の輪郭や彫刻の境界では形状変化が大きくなる場合がありますが、風化による欠損や表面剥離でも曲率は大きく変化します。したがって、曲率が高い場所をそのまま個体境界と判断するのではなく、境界候補として扱い、他の情報と組み合わせます。
実務では、奥行き、法線方向、曲率、点密度、色付き点群がある場合の画像情報などを重ねて確認すると、単独の特徴量だけで判断するより安定します。自動分類は便利ですが、文化財の複雑な形状では、処理結果が現物の構造と一致しているかを確認する工程を省略しないことが重要です。
分類手順4:連結性と形状の連続性を使って石仏ごとの領域に分ける
境界候補が把握できたら、点群の連結性を使って一体ずつの領域に整理します。近接する点の距離や面方向などを条件として、似た特徴を持つ点を同じ領域へ広げていく考え方が利用できます。
石仏同士の間に十分な隙間がある場合は、比較的容易に分離できます。しかし文化財の現場では、台座同士が接触していたり、倒れた石仏が別の石仏に寄り掛かっていたりすることがあります。この場合、単純な距離による連結判定では複数の個体が一つの領域になります。
そこで重要になるのが、形状の連続性です。たとえば二体の石仏の台座が接触していても、それぞれの台座側面の方向、上面の高さ、胴部へ続く形状を追うことで、どこまでが一体の石仏に属するのか判断できる場合があります。
頭部、胴部、台座を別々に自動抽出してから一体に統合する方法もあります。ただし、文化財の石仏では頭部が欠損していたり、台座だけが別位置に移動していたりする場合があります。一般的な「石仏らしい形」を過度に前提とすると、現状そのものを誤って解釈する可能性があります。
分類では、現在残っている点群形状を第一の情報として扱うことが重要です。欠損した部分を推定して補う処理と、現状記録として点群を分類する処理は区別します。保存記録を目的とする場合、実測されていない形状を実測点と同じように扱わないようにします。
個体ごとの識別番号も早い段階で決めておくと便利です。ただし名称や番号は、現地台帳、既存調査、配置図などがある場合にはそれらとの対応を確認します。点群処理担当者が独自に番号を付けると、文化財管理側の記録と一致しなくなる場合があります。
たとえば現地で石仏A、石仏Bと仮称して処理する場合でも、その番号がどの方向から見た順序なのかを明確にします。正面から左から右へ番号を振ったのか、既存台帳に従ったのかが分からなければ、後から別の担当者がデータを利用するときに混乱します。
領域を確定するときは、一方向の三次元表示だけで判断せず、正面、左右、上面、断面を切り替えて確認します。正面からはきれいに分離できていても、背面側で隣の石仏の点が混入していることがあります。
点群を着色して個体ごとに表示すると確認しやすくなりますが、色分けそのものが分類精度を保証するわけではありません。境界付近を拡大し、どの点までを一体として扱ったのか確認します。必要に応じて境界周辺だけ手動修正し、自動分類結果を補正します。
この工程で重要なのは、「完全自動化」より「再現可能なルール」です。どのような距離条件や面方向を使い、どの部分を手動修正したのかを記録しておけば、別時期のデータにも同様の考え方を適用できます。文化財の経年比較では、分類方法が毎回大きく変わると、観測対象の変化と処理方法の違いを区別しにくくなるためです。
分類手順5:複数視点の点群と現地記録で分類結果を検証する
最後の手順は、分離した点群が実際の石仏配置と一致しているかを検証することです。分類処理が正常に終了しただけでは、文化財記録として妥当とは限りません。
まず、複数のTLS設置地点から取得した点群を利用して確認します。ある設置地点では手前の石仏に隠れていた部分が、別方向からは取得できている可能性があります。分離済みの個体を複数方向から表示し、輪郭が不自然に切れていないか、隣接する個体の表面が混入していないかを確認します。
石仏の裏側や側面は特に注意が必要です。正面からの見た目では問題がなくても、背後で岩盤や別の石仏と接している部分では分類境界が曖昧になることがあります。断面を一定間隔で移動させながら確認すると、三次元表示だけでは見落としやすい混入を発見しやすくなります。
現地写真も重要な補助資料です。点群だけでは判断しにくい接触関係でも、写真を見ると石仏と台座のつながりや背景との隙間が確認できる場合があります。ただし、写真は撮影位置やレンズ特性によって見え方が変わるため、写真だけで三次元位置を確定するのではなく、点群と照合しながら利用します。
配置図や既存調査記録がある場合には、それらも確認します。過去に一体として記録されている対象が、今回の分類では二つに分かれている場合、単純に処理結果を採用するのではなく、なぜ差が生じたのかを調べます。逆に、過去の図面では離れていた二体が現在の点群では接触している場合には、倒伏や移動などが生じた可能性も考えられますが、点群だけで原因を断定せず、現地状況や既存資料と合わせて判断します。
分類境界には、確実に判断できる部分と判断が難しい部分があります。文化財調査では、この不確実性を無理に消さないことも重要です。境界が判断できない場所を機械的に一方の個体へ割り当てるより、判断保留領域として記録したほうが後日の再解析に適している場合があります。
特に長期間にわたるモニタリングでは、境界の設定方法を記録します。同じ石仏の点群を毎年比較するとき、毎回異なる範囲を切り出してしまうと、体積や表面差分などの結果に分類範囲の違いが混入します。初回計測時に個体境界と処理ルールを整理し、それを次回以降にも適用できるようにしておくことが重要です。
分類結果は、単に「石仏1」「石仏2」というデータだけで保存するのではなく、元点群との対応関係が分かる状態にしておきます。分類済みデータだけが残り、原点群が失われると、境界設定を再検証できなくなるためです。
重なった石仏を正しく分けるために避けたい分類ミス
石仏群の点群分類では、処理を高度にすることより、典型的な誤りを避けることが重要な場合があります。その代表例が、正面表示だけで境界を判断することです。
二次元画面では重なっているように見えても、三次元空間では十分離れていることがあります。反対に、正面では別個体に見えても、背面側で接触していることがあります。必ず複数方向と断面で確認します。
次に注意したいのが、欠測部分を個体境界と誤認することです。レーザーが届かなかった部分には点が存在しないため、画面上では空間として見えます。しかし、その空間が実際の石仏間の隙間とは限りません。手前の光背や肩によって遮蔽されているだけの可能性があります。
逆に、異なる個体の点を一つの面として滑らかに補間してしまうことにも注意が必要です。点群から面を生成すると、近接する二体の間に実際には存在しない面が形成される場合があります。個体分離前に過度な補間を行うと、境界判断が難しくなります。
ノイズ除去の強さも分類結果に影響します。石仏表面に残る浅い彫刻や風化形状は、一般的なノイズと似た細かな凹凸として現れる場合があります。分類しやすくするために表面を滑らかにしすぎると、文化財として残すべき情報まで失われる可能性があります。
もう一つ重要なのが、すべての石仏が独立した立体物であると決めつけないことです。岩壁から彫り出された磨崖仏のように、背景と構造的に連続している対象もあります。この場合、完全な幾何学的分離は必ずしもできません。調査目的に応じて、輪郭で管理範囲を定義するなど別の考え方が必要です。
台座についても同様です。石仏本体と台座を一つの個体として管理するのか、台座を別部材として分類するのかは調査目的によって変わります。最初に分類単位を決めず処理を始めると、担当者によって結果が変わります。
したがって、点群分類では「何を一個体とするか」を事前に決めておくことが重要です。石仏本体、光背、台座、周囲の石組みなどをどの単位で管理するのかを明確にすると、分類作業の一貫性を保ちやすくなります。
分類後の点群を文化財調査で活用する実務ポイント
石仏を個体別に分離すると、点群は単なる三次元記録から、さまざまな調査に利用しやすいデータへ変わります。
代表的なのが寸法記録です。一体ずつ分類しておけば、高さ、幅、奥行きなどを個別に確認できます。ただし、測定値を比較する場合は、毎回同じ基準や測定位置を使う必要があります。石仏の最高点や最外縁は欠損などによって変化する可能性があるため、比較目的に合わせて測定基準を決めます。
傾斜の確認にも利用できます。石仏本体の軸方向や台座の上面など、比較対象を定義しておけば、複数時期のデータを比較できます。ただし、点群の位置合わせ誤差や基準座標の違いも結果に影響するため、小さな変化をすべて文化財の変位と判断しないことが重要です。
表面形状の差分解析にも、個体分類が役立ちます。二時期の点群を同一座標上で比較し、表面間の距離を確認することで、変化が生じている可能性のある領域を抽出できます。ただし、レーザーの入射条件、点密度、遮蔽、位置合わせなどによっても差が現れるため、差分表示だけで劣化や剥離を断定することは避けます。
断面比較も有効です。石仏を同じ位置で切り出し、過年度の断面と比較すると、傾斜や輪郭変化を確認しやすくなります。とくに台座付近や石仏背面など、目視では変化を判断しにくい場所では三次元記録の利点があります。
分類済み点群は、維持管理の情報整理にも使えます。一体ごとに識別情報を設定し、撮影写真、現地メモ、損傷記録などと対応付けることで、調査履歴を整理しやすくなります。
ただし、三次元データがあれば現地確認が不要になるわけではありません。石材の状態、微細な亀裂、表面の粉化、植生の影響など、点群だけでは十分に判断できない情報もあります。TLSは現地調査を置き換えるものではなく、位置と形状を客観的に記録するための手段の一つとして利用することが重要です。
また、将来の再利用を考えると、分類済みデータだけでなく座標系、計測日、計測条件、個体番号の定義、処理内容などを一緒に管理することが望まれます。数年後に別の担当者がデータを開いたとき、どのような基準で点群が分けられたのか分からなければ、比較資料としての価値が低下します。
TLSと現地測位を組み合わせて記録の再現性を高める
文化財TLS計測で個体分類の再現性を高めるには、点群内部の処理だけでなく、現地でどこを計測したのかを安定して記録することも重要です。
石仏群が広い境内や斜面に点在している場合、点群だけでは現地のどの場所に対応しているのか確認しにくくなることがあります。特に似た形状の石仏が多数存在する場所では、写真や名称だけで個体を識別すると取り違えが起きる可能性があります。
そこで、現地の位置情報とTLS点群を関連付けて管理する考え方が有効です。基準となる位置や個体の近傍位置を座標として記録しておけば、再調査時に対象場所を確認しやすくなります。
ただし、TLS点群の座標と現地測位の座標を組み合わせる場合には、同じ座標系、高さ基準、基準点の扱いになっているかを確認する必要があります。異なる基準の座標値をそのまま混在させると、見かけ上のずれが生じます。数値を記録することだけでなく、その座標がどの基準に基づくものかを明確にすることが大切です。
現場では、石仏群の位置、TLS設置地点、基準となる測点などを簡便に記録しておくことで、次回計測時の再現性を高められます。計測時期が変わって担当者も変わる場合には、座標と写真、個体番号を対応付けることで、同じ対象を追跡しやすくなります。
LRTK Phoneを利用できる現場では、高精度な位置情報を取得し、文化財の現地記録や測点管理に活用する方法も考えられます。TLSで取得した詳細な三次元形状と、現地で取得した位置情報は役割が異なりますが、両者を適切な座標基準のもとで関連付けることで、石仏群の配置確認や再調査時の位置再現を補助できます。
重要なのは、測位値を取得しただけで精度が保証されると考えないことです。衛星の配置、周囲の樹木や建物、崖や岩壁による遮蔽、補正情報の利用状況などによって測位環境は変化します。現場では測位状態を確認し、必要に応じて既知点などとの整合性を確かめながら利用します。
TLSと現地測位を組み合わせることで、詳細形状を記録する三次元点群と、対象物の位置を現地で再現するための座標情報を役割分担させることができます。文化財の継続調査では、この「同じ対象を再び見つけ、同じ基準で測る」ための情報が重要になります。
まとめ
文化財TLS点群から石仏群の重なりを分離するには、画面上で一体ずつ切り取るだけでは不十分です。まず複数スキャンの位置合わせと不要点を確認し、分類しやすい点群を作ります。そのうえで、奥行きと遮蔽関係から大きな領域へ分け、法線方向や曲率などの形状情報から個体境界を探します。さらに、点の連結性と形状の連続性を利用して個体領域を整理し、最後に複数視点の点群、断面、写真、既存資料などを使って結果を検証します。
とくに重要なのは、一つの数値条件だけで石仏を自動的に分類できると考えないことです。石仏は形状、配置、風化状態、欠損状態が一体ずつ異なります。台座が接している場合、岩盤と一体になっている場合、前後の石仏が重なっている場合など、現場ごとに境界条件も異なります。
また、TLSではレーザーが遮られた奥側の面は取得できません。点が存在しない場所を実際の欠損や隙間と即断せず、別方向からの点群を確認する必要があります。複数視点を確保することは、点群密度を増やすためだけではなく、遮蔽による欠測と実際の形状を区別するうえでも重要です。
分類後は、個体単位の寸法確認、断面比較、傾斜確認、表面差分、経年変化の記録などに利用しやすくなります。ただし、異なる時期のデータを比較するためには、座標基準、分類範囲、測定条件をできるだけ共通化する必要があります。
文化財の三次元記録では、細部を多く取得することと同じくらい、「どの個体を、どの範囲で、どの座標基準によって記録したか」を残すことが重要です。元点群、分類済み点群、個体番号、写真、処理条件などを対応付けて保存しておけば、将来の再解析や再調査にも利用しやすくなります。
さらに、石仏群の配置やTLS計測地点を現地で再確認できるよう位置情報を残しておくと、継続調査の再現性を高めやすくなります。詳細な形状はTLSで記録し、現地での位置確認や測点管理にはLRTK Phoneを活用するなど、それぞれの計測手段の特徴を理解して組み合わせることで、文化財計測の記録をより整理しやすくなります。