城跡や館跡、寺社境内、集落遺跡などに残る濠跡は、現在の地表では明瞭な溝として見えるとは限りません。長期間の堆積や造成、耕作、植生の繁茂などによって起伏が弱まり、現地を歩いただけでは位置や形状を判断しにくくなっているケースもあります。こうした微細な地形を記録する方法の一つが、TLSによる高密度な三次元計測です。
ただし、TLSで文化財を計測して点群を取得しただけでは、濠跡の微地形が自動的に見えるわけではありません。草木や落ち葉、石、構造物などの点が混在し、地表面そのものを読み取りにくい場合があります。また、地形全体の大きな傾斜が強ければ、濠跡によるわずかな凹凸が標高表示の中に埋もれてしまいます。
そこで重要になるのが、取得した点群から地表を整理し、微地形を読み取りやすい状態へ変換する地表面処理です。本記事では、「TLS 文化財 計測」で情報を探している実務担当者に向けて、濠跡の抽出で押さえておきたい6つの地表面処理を、計測から解析、確認までの流れとともに解説します。
濠跡の微地形抽出でTLS点群を使う意味
濠跡の調査では、現在の地表に残された微妙な高低差を読み取ることが重要です。濠が埋め戻されていたとしても、完全に周囲と同じ高さになるとは限りません。埋土の沈下、後世の造成、耕作、排水条件などの影響によって、浅い凹地や緩い段差として地表に痕跡が残る場合があります。
こうした変化は、現地で立ったまま眺めても把握しにくいことがあります。人の目は急な段差や大きな高低差には気付きやすい一方、広い範囲にわたって少しずつ高さが変わる地形については、その全体像を捉えるのが難しいからです。草や落ち葉が多い場所では、さらに判断しにくくなります。
TLSでは、計測位置から周囲の対象物までの距離を多数取得し、高密度な三次元点群として記録できます。地表を十分な密度で取得できれば、現地では気付きにくかった浅い窪みや連続する段差を、断面や標高分布、陰影表現などから確認できる可能性があります。
一方で、TLS点群は「地面だけ」を計測する仕組みではありません。草の葉、枝、樹木の幹、石垣、柵、建物、倒木など、照射されたさまざまな対象が点として記録されます。そのため、取得した点群をそのまま標高図にすると、濠跡とは関係のない対象物の高さが強く表示されることがあります。
特に文化財調査では、地表を傷つけたり植生を大きく除去したりできない場合があります。非接触で広い範囲を記録できるTLSには利点がありますが、計測後にどの点を地表として扱うかという判断が解析結果を大きく左右します。
また、濠跡を探す目的であれば、単純に最も細かい点群を作ればよいというわけでもありません。必要以上に細かな凹凸を残すと、石や落ち葉などの小さな対象まで地形として見え、かえって濠跡を判断しにくくなる場合があります。反対に平滑化しすぎると、本来検出したかった浅い凹地まで消えてしまいます。
そのため、TLSによる文化財計測では、計測密度と地表面処理を一体として考えることが大切です。
地表面処理1 植生や構造物を除いて地面候補を整理する
濠跡の微地形を抽出する最初の工程は、点群の中から地表面として利用する点を整理することです。TLSで林内や史跡公園などを計測すると、地面以外にも大量の点が取得されます。樹木の幹や枝、草、案内板、柵、ベンチ、建物などが残ったままでは、地形面を作成した際に不自然な突起として現れます。
そこで、まず点群を地表候補とそれ以外に分けます。基本的な考え方は、局所的な範囲の中で低い位置にあり、周囲の地表と連続している点を地表候補として扱うことです。
ただし、「最も低い点だけを残す」という単純な処理では十分ではありません。濠の内部には枝や落ち葉が入り込んでいる場合があり、地表より低い位置に異常点が発生することもあります。また、石垣や急斜面が存在する場所では、実際の地形が大きく変化しているため、周囲との高低差だけで機械的に除外すると、本来残すべき地形まで削除される可能性があります。
文化財の計測では、現地の状況を把握した担当者が点群を確認しながら分類することが重要です。濠跡を対象とする場合には、濠底、法面、肩部、周囲の平坦面が連続して残るように地表点を選びます。
草地では特に注意が必要です。TLSは上方から地面を見る航空計測とは異なり、比較的低い位置から斜め方向に照射することがあります。そのため、密生した草の奥にある地面まで十分に点が届かないケースがあります。この状態では、後処理だけで本来の地表を完全に復元することはできません。
計測前に草丈や植生密度を確認し、地表が見えにくい場所では観測位置を増やすことも検討します。文化財保護上問題のない範囲で、落ち葉や一時的な障害物の影響を確認しておくことも有効です。
地表分類の目的は、見栄えのよい滑らかな面を作ることではありません。濠跡として評価したい地形の情報をできるだけ残しながら、地形解析を妨げる非地表点を減らすことが目的です。
特に浅い濠跡では、肩部のわずかな変化が重要な手掛かりになることがあります。過度な地表分類や平滑化によってその変化を消してしまわないよう、処理前の原点群と地表分類後の点群を比較しながら進めることが大切です。
地表面処理2 外れ値と局所的なノイズを抑える
地表候補を抽出した後は、局所的な外れ値を整理します。TLS点群には、計測条件によって周囲から大きく離れた点や、実際の地表形状とは考えにくい孤立点が含まれる場合があります。
外れ値を残したまま地形面を作ると、一点だけ極端に高い山や深い穴のような形が生成されることがあります。標高差を色で表示した場合、このような小さな異常値によって表示範囲が広がり、本来見たい濠跡の微小な高低差が目立たなくなることもあります。
外れ値の確認では、周囲の点との距離や高さの差、点密度などを利用します。ただし、文化財の地形には人工的につくられた急な段差も存在します。そのため、周囲との差が大きいという理由だけで除去すると、土塁や濠肩などの重要な形状を誤って消してしまう可能性があります。
判断の基本は、その点が周辺の複数点と連続した面を形成しているかを見ることです。周囲に同じ形状を示す点がまとまって存在するのであれば、本来の地形である可能性があります。一方、局所的に少数の点だけが突出している場合には、ノイズや小さな障害物を疑います。
落ち葉や小石も注意が必要です。濠跡のような微地形を扱う場合、これらの小さな対象物の高さが解析したい地形変化と同程度になることがあります。点密度が高いほど、小石や枝などの表面形状まで詳細に記録されるため、高密度であること自体が常に有利とは限りません。
そこで、解析目的に合わせて局所的な平滑化を利用します。周囲の複数点から代表的な高さを求めることで、小さな突起や穴の影響を抑えられます。
ただし、平滑化の範囲を広くしすぎると、濠肩や底部の形状まで丸くなります。特に幅の狭い溝状遺構を対象とする場合は、処理範囲が対象地形より大きくならないように注意する必要があります。
実務では、一つの処理条件だけを採用するより、処理の強さを変えた複数の結果を比較する方が安全です。弱い平滑化でも確認できる凹地と、強い処理をしたときだけ現れる凹地では、解釈の信頼性が異なります。
原点群、地表分類後、外れ値除去後、平滑化後という段階を残しておくと、後から解析結果を検証しやすくなります。文化財調査では結果だけでなく、どのような処理によってその地形が現れたのかを追える状態にしておくことが重要です。
地表面処理3 地表点から連続した地形面を作る
地表点を整理した後は、点の集合を連続した地形面として表現します。点群のままでも断面や距離を確認できますが、濠跡のように広がりを持つ微地形を読むには、一定間隔の格子面や連続した地表モデルに変換すると把握しやすくなります。
この処理では、それぞれの格子位置に周辺点から推定した標高を与えます。これによって、標高の色分け、等高線、陰影、傾斜などの地形解析が行いやすくなります。
重要なのは、点が存在しない場所をどこまで補うかです。
TLSでは、樹木の裏側や斜面の陰、草の下などに欠測が生じることがあります。地表モデルを作成するときにすべての欠測を自動的に補間すると、実際には計測できていない場所にも滑らかな地形が生成されます。
例えば、濠の一方の肩と反対側の肩だけが計測され、底部の点がほとんど取得できていない場合を考えます。この状態で両側を単純につなぐと、実際の濠底とは異なる面が生成される可能性があります。反対に、補間しなければ欠測として残るため、その場所では判断できないことが明確になります。
文化財の解析では、欠測と地形を区別することが重要です。見栄えを整えることより、実際に計測された範囲を把握できることを優先します。
点群から地形面を作成した後は、必ず元点群と重ねて確認します。生成された面が点群から大きく離れていないか、濠の肩や底などの重要部分が不自然に丸められていないかを確認します。
また、断面表示も有効です。平面図では浅く見える凹地でも、濠跡と直交する方向に断面を切ると、周囲より低い帯状地形として確認できる場合があります。
濠跡が直線とは限らない点にも注意します。曲線状に延びる濠では、一つの直線断面だけでは地形を適切に評価できないことがあります。複数地点で断面を作成し、凹地が連続しているかを確認することで、単なる局所的なくぼみとの区別がしやすくなります。
地表モデルは解析の基礎となるデータです。後の処理で強い陰影や色分けを加える前に、この段階で地形面そのものが妥当かを確認しておくことが重要です。
地表面処理4 格子サイズと補間範囲を適切に設定する
地表モデルを作る際に結果を大きく左右するのが格子サイズです。格子が細かいほど詳細な地形を表現できるように見えますが、点密度や対象地形との関係を考えずに細かくすると、ノイズが増えることがあります。
濠跡を抽出する場合、まず検出したい地形の大きさを考えます。幅の広い濠跡を探す場合と、肩部に残る小さな段差を確認する場合では、適切な格子サイズが異なります。
格子サイズが細かすぎると、一つ一つの石、根、落ち葉などの影響を受けやすくなります。標高図に細かな斑点が大量に現れ、広い範囲に連続する濠跡が見えにくくなる場合があります。
反対に格子を粗くしすぎると、狭い溝や浅い段差が平均化されます。濠跡の肩と底が同じ格子の中に含まれれば、高さの差が小さく表現され、本来存在した凹地が不明瞭になることがあります。
したがって、一つの解像度だけで解析を完結させるのではなく、複数の格子サイズを比較する方法が有効です。
細かな格子では濠肩の詳細を確認し、やや粗い格子では広域的な連続性を見るといった使い分けができます。異なる解像度でも同じ位置に帯状の凹地が現れるのであれば、単独の小さなノイズとは異なる地形特徴として検討しやすくなります。
補間距離についても同様です。点が存在しない格子をどの程度離れた点から推定するかによって、地表面の形は変化します。
補間範囲を大きくすると欠測は減りますが、計測されていない範囲に人工的な地形を作る危険があります。特に樹木や建物によって大きく遮蔽された場所では、反対側の点を使って欠測を埋めてしまうことがあります。
濠跡の底部に欠測がある場合、これは解析上の重要な情報でもあります。無理に面を作るのではなく、追加計測が必要な場所として扱う方が適切なこともあります。
また、格子化による微地形の変化を把握するため、代表地点で元点群から直接求めた高さと地表モデルの高さを比較しておくと安心です。
地表モデルは実測点そのものではなく、実測点をもとに作成した表現です。この違いを意識しておくことで、処理された画像だけを見て濠の深さや形状を断定するリスクを減らせます。
地表面処理5 広域的な傾斜を除去して相対的な起伏を見る
丘陵地や傾斜地にある文化財では、濠跡よりも地形全体の傾斜の方が大きいことがあります。このような場所で標高をそのまま色分けすると、斜面上部と下部の高さの違いが強く表示され、濠跡による小さな凹凸が見えにくくなります。
そこで有効なのが、広域的な地形傾向と局所的な起伏を分離する処理です。
考え方としては、まず対象範囲の大まかな地形面を求めます。その後、元の地表標高から大まかな地形面の高さを差し引きます。すると、斜面全体の傾きが抑えられ、周囲よりわずかに低い部分や高い部分が相対的に見やすくなります。
濠跡が浅い凹地として残っている場合、この相対標高表示によって帯状の低まりとして浮かび上がる可能性があります。周囲に土塁状の高まりが残っていれば、低まりと高まりの組み合わせとして確認できることもあります。
ただし、この処理では「どの範囲を広域的な地形として扱うか」が重要です。
基準となる範囲が小さすぎると、濠跡そのものまで大きな地形として吸収され、差分から消えてしまう場合があります。反対に範囲が広すぎると、大きな斜面勾配が十分に除去されません。
そこで、対象とする濠跡の想定幅よりも異なる複数の範囲で処理結果を比較します。一つの設定でだけ現れる模様ではなく、条件を多少変えても同じ位置に連続して現れる起伏を確認することが重要です。
また、相対標高図だけで遺構を判断してはいけません。広域傾斜を除去すると、道路の路肩、排水溝、樹木の根元、現代の造成境界なども強調されます。
文化財の濠跡を検討する場合には、周辺の土地利用や現地の構造物を確認し、近代以降の造成による凹地ではないかを照合する必要があります。
処理前の標高図と処理後の相対標高図を並べて見ると、地形の読み違いを減らせます。処理後の画像では非常に強く見える凹地でも、実際の高低差はわずかである場合があります。
相対標高は微地形を「見つける」ために有効ですが、実際の高さや深さを評価するときには元の標高や点群へ戻ることが重要です。
地表面処理6 陰影・傾斜・曲率で濠跡の形を強調する
地表面が整ったら、標高だけでなく、陰影、傾斜、曲率など複数の表現を利用して濠跡の形を確認します。
陰影表現では、仮想的な光を地形に当てたときの明暗を計算します。浅い段差でも光の方向によって影が生じるため、平坦に見えた場所の微妙な凹凸を視覚的に把握しやすくなります。
ただし、照明方向に平行な地形は目立ちにくくなるため、一方向の陰影だけで判断しないことが大切です。光の方向を変えたり、複数方向からの結果を比較したりすると、特定方向だけで見えなくなる地形を減らせます。
傾斜量は、地表がどの程度傾いているかを示します。濠が浅く埋まっていても、底部そのものより濠肩の斜面が残っている場合があります。この場合、標高図では目立たなくても、傾斜表示では細長い帯として境界を追えることがあります。
濠の両側に傾斜変化が連続していれば、凹地の幅や方向を検討する手掛かりになります。
曲率は、地表がどのように曲がっているかを見るための指標です。凹地と凸地、肩部などを強調できるため、濠跡のような緩い凹地を探す際に役立つことがあります。
ただし、曲率は細かなノイズにも敏感です。点群に小石や落ち葉の影響が残っていると、微細な模様が大量に強調されることがあります。そのため、曲率を見る前に地表分類や格子化の条件を適切に整えておく必要があります。
相対的な起伏を強調する表示も有効です。周囲の平均的な地形と比較して低い場所を示すことで、緩く連続する濠跡候補を見つけやすくなります。
重要なのは、一種類の表示だけに頼らないことです。
標高図で低い帯が見え、相対標高でも凹地として残り、その両側が傾斜表示で確認でき、複数方向の陰影でも同じ地形が追えるのであれば、解析上の偶然による模様である可能性を絞り込みやすくなります。
逆に、一つの強調表示だけで非常に明瞭な線が現れても、他の表示では確認できない場合には、格子や補間処理などによる人工的な模様でないか確認した方が安全です。
地表面処理の目的は、地形を派手に見せることではありません。複数の視点から同じ地形を確認し、現地で再確認すべき場所を絞り込むことです。
地表面処理の前に確認したいTLS計測条件
解析の工夫だけでは補えないのが、現地計測時の欠測です。濠跡の微地形を読み取るためには、解析を始める前にTLS計測そのものが目的に適しているか確認する必要があります。
最初に確認したいのが観測位置です。濠の片側だけから計測すると、反対側の斜面や底部が遮られることがあります。浅い濠でも、草や土塁、樹木などがレーザーの通り道を遮れば、その奥は十分に取得できません。
そのため、一方向からすべてを計測しようとせず、対象を複数方向から観測することが基本になります。
濠に沿って観測位置を変えるだけでなく、可能であれば濠と直交する方向からも地表を取得します。複数方向の点群が重なることで、一つの位置からは見えなかった地表を補いやすくなります。
次に重要なのが点群同士の位置合わせです。
複数地点から取得した点群に位置ずれがあると、同じ地表が二重に記録されます。微地形解析ではわずかな標高差を扱うため、位置合わせのずれを実際の起伏と誤認する可能性があります。
位置合わせ後は、単に処理が完了したことだけで判断せず、複数観測に共通する安定した場所でずれを確認します。地面の平坦部、動かない構造物などを利用し、水平位置と高さの両方に不自然な差がないかを確認します。
座標系と高さの基準も統一しておく必要があります。異なる日や異なる計測方法の成果を比較する場合、座標の基準や高さの扱いが一致していなければ、地形変化と座標差を区別できません。
特に経年変化を調べる場合には、初回計測時から再計測を想定した基準を残しておくことが重要です。
植生の状態も記録しておきます。夏季の繁茂時と落葉後では地面の取得状態が大きく変わる場合があります。同じ場所を時期を変えて計測すると、微地形そのものではなく植生条件の違いが点群差として現れる可能性があります。
文化財のTLS計測では、点群データだけでなく、計測日時、観測位置、現地の植生状態、欠測の状況、位置合わせ方法なども記録しておくと、後の解析結果を説明しやすくなります。
濠跡らしい形を見つけてもすぐ遺構と断定しない
TLS点群の地表面処理によって細長い凹地が見つかると、濠跡の可能性を考えたくなります。しかし、三次元点群で濠のように見える形が確認できたことだけで、文化財としての濠跡と断定することはできません。
地表にはさまざまな原因で溝状の地形が形成されます。
現代の排水経路、農地の境界、旧道路、造成時の切土、樹木の根元、車両の通行跡なども、処理方法によっては濠跡に似た細長い凹地として表現されることがあります。
特に相対標高や曲率などの強調処理では、肉眼ではほとんど気にならない小さな起伏まで明瞭に表示されます。表示上は非常に大きな地形に見えても、実際の標高差は小さい場合があるため注意が必要です。
解析画面では必ず標高値や断面を確認し、表示の色だけで高低差を判断しないようにします。
濠跡の可能性を検討するときには、形状の連続性が重要な手掛かりになります。一部分だけに孤立した窪みがあるのか、一定方向へ連続しているのか、曲線や折れを伴いながら地形的に意味のある配置を示しているのかを確認します。
また、周囲の土塁や郭状の平坦面との位置関係も重要です。濠と考えられる低まりが、想定される防御施設の外側に沿って続いているのであれば、一つの検討材料になります。
一方で、その位置に現在の排水施設や道路境界があれば、現代の土地利用によって形成された可能性も考える必要があります。
既往の測量図や調査記録が利用できる場合には、TLS点群から得られた微地形との位置関係を確認します。ただし、過去の図面にも精度や基準の違いがあるため、図面と一致したという理由だけで判断するのではなく、一つの資料として利用することが大切です。
TLSは考古学的な年代を直接判定する技術ではありません。点群から分かるのは、現在存在している形状や位置関係です。その地形がいつ形成されたのか、何のために作られたのかについては、他の調査情報と合わせて検討する必要があります。
この役割を明確にしておくと、TLSの解析結果を過大評価せず、文化財調査の有力な基礎資料として活用しやすくなります。
現地確認と追加計測で微地形解析の確度を高める
地表面処理によって濠跡候補が見つかったら、次に重要なのが現地へのフィードバックです。
解析室で点群だけを見ていると、細長い凹地が何を意味しているのか判断できないことがあります。しかし、現地へ戻ると、そこに小さな排水路がある、植生が変わっている、地表の土質が異なる、わずかな段差が続いている、といった情報を確認できる場合があります。
このため、TLSは現地調査の代替というより、現地で見るべき場所を絞り込む道具として利用すると効果的です。
最初の計測では広い範囲を記録し、地表面解析から気になる場所を抽出します。その後、必要に応じて対象範囲を絞った追加計測を行います。
追加計測では、初回に欠測していた方向から観測したり、濠跡候補を横断するように観測位置を配置したりすることで、断面形状をより確認しやすくできます。
初回データを確認すると、「点群がないため判断できない場所」が見えてきます。この欠測位置こそ、追加観測地点を決める重要な情報です。
また、濠跡候補の位置を現地で確認するためには、点群の座標を現地位置と結び付けられる状態にしておくと便利です。
屋外で衛星測位を利用できる環境であれば、計測対象の座標管理や現地確認に高精度な位置情報を組み合わせる方法も考えられます。ただし、樹木、建物、地形などによって衛星信号の受信条件は変化するため、測位状態を確認しながら利用する必要があります。
現地で濠跡候補を確認する場合には、解析結果に示された一本の線だけを見るのではなく、周囲の地形との関係を確認します。濠肩候補、底部候補、土塁状の高まりなどを一体として見ることで、地形の意味を考えやすくなります。
再計測を行った場合には、最初のデータと同じ座標基準へ合わせます。異なる計測の点群を比較すれば、初回データで確認した凹地が再現されているか、欠測やノイズによる見かけの地形ではなかったかを確認できます。
こうした「計測、地表面処理、候補抽出、現地確認、追加計測」という往復が、微地形解析の信頼性を高めます。
まとめ
文化財TLS点群から濠跡の微地形を抽出するには、点群を取得した後の地表面処理が重要です。
まず植生や構造物などの非地表点を整理し、外れ値や局所的なノイズの影響を抑えます。そのうえで地表点から連続した地形面を作り、目的と点密度に合った格子サイズや補間範囲を設定します。
丘陵地などで大きな傾斜の中に濠跡が埋もれる場合には、広域的な地形傾向を除去して相対的な起伏を見る方法が有効です。さらに、標高だけでなく陰影、傾斜、曲率など複数の表現を組み合わせることで、浅い凹地や濠肩の連続性を確認しやすくなります。
ただし、地表面処理は存在しない地形を復元するものではありません。TLSで取得できていない場所を後処理だけで正確に補うことはできず、強い平滑化や補間によって実際とは異なる地形を作ってしまう可能性もあります。
そのため、原点群を保存し、処理の各段階を比較しながら解析することが重要です。地表面モデルや強調表示で気になる形が現れた場合には、元点群、断面、現地状況を確認し、必要に応じて追加計測を行います。
また、濠跡らしい凹地が見つかっても、それだけで遺構と断定することはできません。現在の排水路、道路、造成、土地利用などによって似た地形が形成される可能性があるため、既往資料や周辺地形、現地確認などと組み合わせて検討する必要があります。
TLSによる文化財計測の強みは、現地の三次元形状を高密度な点群として残し、計測後にもさまざまな角度から再検討できることです。濠跡のようなわずかな地形変化についても、適切な地表面処理を行うことで、肉眼だけでは捉えにくかった特徴を調査対象として整理できます。
広域のTLS計測で見つけた微地形を現地で確認するときには、点群解析と位置情報を連携させることも有効です。現場で座標を確認しながら濠肩や凹地の位置を追いたい場合は、LRTK Phoneを活用した位置確認や記録方法も、次の選択肢として検討できます。