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文化財TLS計測で磨崖仏の彫刻深さを捉える7つの照射角度

磨崖仏をTLSで計測するとき、単に岩壁の正面から一度スキャンすれば彫刻形状を十分に取得できるとは限りません。顔の輪郭、鼻や眉の張り出し、衣文の溝、光背の彫り込み、手指周辺の複雑な凹凸などでは、レーザーが届く方向によって取得できる面が大きく変わります。特に浅浮彫から比較的深い彫り込みまでが同じ岩壁上に存在する場合、一方向からの点群だけでは凹部や張り出し背後に欠測が残り、欠測部を面生成などで補間すると実際とは異なる浅い形状に見えることがあります。

TLSは対象物の三次元形状を非接触で記録する手段として文化財計測に活用できますが、取得結果は観測方向、対象面への入射条件、距離、表面状態、装置の仕様、周囲の遮蔽物など複数の条件の影響を受けます。そのため、磨崖仏の彫刻深さを扱う場合は、単純に点群密度を高くするだけではなく、どの方向からレーザーを当てれば必要な面を取得できるかを計画することが重要です。

本記事では、厳密な光学上の入射角だけではなく、TLSの設置位置と磨崖仏の表面方向によって決まる観測方向を実務上の「照射角度」として扱います。固定された角度値を正解とするのではなく、正面、左右、上下、対角方向などを組み合わせ、彫刻面を複数方向から観測する考え方を7つに分けて解説します。TLS 文化財 計測を担当し、磨崖仏の形状記録や経年比較に利用できる点群を作りたい実務担当者に向けて、現地計画から解析まで一連の注意点も整理します。

TLS文化財計測で磨崖仏の彫刻深さを捉える前提

磨崖仏のTLS計測で最初に整理しておきたいのは、「彫刻深さ」が単純な一点の距離ではないことです。平らな板に一定深さの穴が開いているのであれば、表面を基準として穴底までの距離を測ることで比較的分かりやすく表現できます。しかし、磨崖仏が彫られている岩壁は必ずしも平面ではありません。自然の岩盤にはもともとの起伏や傾斜があり、その上に浮彫や線刻、風化や損耗などが重なっています。

したがってTLS点群から彫刻深さを評価するときは、何を基準面とするかを先に決める必要があります。周囲の未彫刻面から局所的な基準面を推定する方法もあれば、特定位置に断面を設定し、周辺形状との相対差として表現する方法もあります。岩壁そのものが湾曲している場合には、単純な平面からの距離だけでは彫刻による凹凸と自然岩盤のうねりを分離しにくいことがあります。

もう一つ重要なのが遮蔽です。TLSは観測位置からレーザーの見通しが確保された面を取得するため、鼻の張り出しの奥、衣文の深い溝、光背の内周、手や腕の重なりなどでは、手前の形状がレーザーを遮ることで奥の面が点群化されないことがあります。この現象は点群密度を高くしても、同じ位置から観測している限り解消できない場合があります。必要になるのは密度の追加ではなく、観測方向の追加です。

また、レーザーが対象面に対して極端に浅く当たる条件では、反射強度や点の取得状態が表面材質、粗さ、距離、装置特性などの影響を受けやすくなる場合があります。逆に主要面を見通しやすい方向では全体形状を整理しやすくても、凹部の側壁や張り出しの裏側は隠れます。つまり、磨崖仏計測では「最良の一角度」を探すより、役割の異なる複数方向を組み合わせるほうが実務的です。

現地では文化財への接触を避けることも欠かせません。位置合わせ用の標識や機材を文化財そのものへ安易に固定せず、管理者の方針や保存上の条件を確認したうえで、周囲の安全な場所を利用します。岩壁周辺は足場が不均一であることも多いため、取得したい角度を優先するあまり、機材や作業者の安全を損なわないことが大前提です。

照射角度1:正面に近い角度で基準となる全体形状を押さえる

最初の観測位置として考えやすいのが、磨崖仏の主要面に対して正面に近い方向です。この角度は、像全体の輪郭や岩壁との位置関係を把握するための基準となります。正面から見える額、頬、胸部、衣文、台座などを一度に広く取得しやすいため、後から追加する斜め方向の点群を整理するときにも有効です。

正面照射の役割は、すべての彫刻深さを一度で取得することではありません。むしろ全体座標の骨格を作り、左右や上下から追加した点群がどの部分を補完しているか判断できる状態にすることです。正面点群の欠測域を確認すれば、次にどの方向へTLSを移動すべきか検討しやすくなります。

例えば磨崖仏の鼻が大きく張り出している場合、正面からは鼻先や両頬を取得できても、鼻翼周辺の奥まった面や鼻下の一部はレーザーが届きにくいことがあります。衣文についても、正面を向いた稜線は捉えられていても、溝の側壁が欠ける可能性があります。ここで正面点群だけを使って面を生成すると、欠測部分が補間され、本来とは異なる滑らかな形に見えることがあるため注意が必要です。

計測後は単純に点群が多いか少ないかを見るのではなく、彫刻の稜線、凹部、側面で点の分布がどう変化しているかを確認します。正面方向で十分な点が存在する部分は、その後の斜め計測を増やしても情報量の増加が限定的な場合があります。一方、輪郭の背後や深い溝に帯状の欠測が生じているなら、観測位置を左右へ振る必要があります。

また、正面位置を岩壁に近づければ必ず細かく取れるとは限りません。装置ごとの最短測距、測距精度、角度分解能、視野、周囲の足場、像全体を見渡せる範囲などを考慮し、必要な細部と全体形状の両方を扱える位置を決めます。極端な近距離配置では、一部の張り出しによる遮蔽が大きくなることもあります。全景を捉える基準位置としては、像全体を無理なく見通せることを優先し、その後に補完位置を追加するほうが整理しやすくなります。

照射角度2:左斜めから片側の彫刻面を補完する

正面計測で欠けやすい面を補う代表的な方法が、磨崖仏に向かって左側から観測する方法です。左方向へTLSを移動すると、正面とは異なる視線方向が得られ、鼻や頬、腕、衣文、光背などの片側面を見通しやすくなる場合があります。どちらの面が見えやすくなるかは、像の向き、彫刻形状、観測者から見た左右の定義によって変わるため、左右名称だけで決めず、現地で実際の見通しを確認します。

このとき重要なのは、「左へ移動するほど良い」と考えないことです。観測角度を大きく振りすぎると、今度は主要面に対してレーザーが浅く当たり、点の取得状態が変化したり、別の張り出しによって新しい遮蔽が生じたりする可能性があります。左斜め位置は、正面計測で欠けた側面を見通せる範囲まで移動し、取得状態を確認しながら調整するのが基本です。

磨崖仏では、人物像の輪郭以外にも光背や周囲の彫り込みが複雑な遮蔽を作ります。例えば光背の内側に彫刻がある場合、正面から見れば輪郭は確認できても、内周側壁が欠測していることがあります。左斜め方向を加えることで、その側壁の一部を取得できれば、光背の幅だけでなく彫り込みの奥行きを検討しやすくなります。

衣文のような細い溝では、溝底だけを取ることより、側壁と周囲の面を連続して取得することが重要です。溝底に数点だけ存在しても、周囲とのつながりが分からなければ深さ評価が不安定になります。左斜めからの点群を正面点群と重ね、溝の片側が連続した面として構成されているか確認すると、どの方向をさらに補うべきか判断できます。

左斜め位置から取得した点群は、採用する位置合わせ手法に応じて、正面位置との共通要素を確保します。点群同士の形状を使う位置合わせでは十分な重複領域が重要で、ターゲットや既知点を使う方法では必要な共通標識や基準の可視性が重要になります。狭い凹部だけを狙って観測位置を大きく移すより、像の主要部分や周囲の岩壁も含めて必要箇所を補完するほうが、後処理の選択肢を確保しやすくなります。

照射角度3:右斜めから反対側の彫刻面を補完する

右斜めからの照射は、左斜めからの計測と対になる重要な観測方向です。左右対称に見える磨崖仏であっても、実際の岩壁や彫刻形状、損耗状態まで左右対称とは限りません。そのため、片側から十分に計測できたからといって反対側の追加観測を省略すると、別の側壁だけ情報が不足することがあります。

右方向へTLSを移動すると、正面や左斜めとは異なる面を見通せるようになります。鼻や頬の反対側、耳周辺、衣文の別の側壁、腕と胴体の間などが代表的な確認箇所です。正面、左斜め、右斜めの三方向を基本候補として考えると、横方向の遮蔽を見つけやすくなります。

この三方向を比較するときは、単に各点群を統合した完成データだけを見るのではなく、観測位置ごとに表示を切り替える方法も役立ちます。ある凹部が一方向からのみ取得されているのか、複数方向から取得されているのかを確認すれば、その面の取得状況を判断する材料になります。複数方向から同じ面が観測されている部分では、位置合わせのずれや局所的なばらつきも見つけやすくなります。

また、左右方向から見た輪郭差は、後の断面解析にも関係します。もし位置合わせに回転ずれがあると、本来は同一の稜線が二重に見えることがあります。これを彫刻の細かな凹凸と誤認すると、深さ評価を誤る可能性があります。左右の点群を重ねた段階で輪郭が必要以上に厚くなっていないか、比較的滑らかな岩壁部分で系統的な差が出ていないかを確認しておくことが大切です。

左右の設置可能位置が限られている現場では、完全な左右対称配置にこだわる必要はありません。樹木、柵、参拝動線、崖地形などを避けながら、必要な面が見える位置を探します。重要なのは左右同じ距離に置くことではなく、正面計測だけでは見えなかった面を異なる視線方向から実際に取得することです。

照射角度4:上方からの俯角で上向き面と凹部を確認する

磨崖仏では横方向だけでなく上下方向にも遮蔽が発生します。眉や鼻、唇、胸部、手、衣文の稜線などには上下方向の張り出しがあり、同じ高さからの観測だけでは上向き面または下向き面が十分に取得できない場合があります。そのため、安全に設置できる場所がある場合には、標準位置より高い位置から下向きに観測する俯角方向が補完手段になります。

上方から観測すると、正面位置では見えにくかった上向きの面や、凹部周辺の一部を捉えやすくなることがあります。例えば肩部や腕の上面、台座の段差上面、彫り込みの上向き側などです。深い彫刻では、正面から見える輪郭と実際の底面の間に複数の側壁が存在しており、その一部が欠けることで深さ形状が不連続になることがあります。

ただし、文化財計測で高い位置を取るために不安定な斜面へ無理に機材を設置することは避けるべきです。磨崖仏周辺では落石、転倒、植生、湿った岩場など現場固有の危険があります。取得したい面があるからといって、安全に立ち入れない場所を観測候補にしてはいけません。既存の安全な通路や管理上利用可能な場所の範囲で、高さの異なる観測方向を確保します。

また、俯角を大きくすれば深い凹部の底まで必ず届くわけではありません。凹部の開口方向とレーザーの方向が合わなければ、上方からでも奥は隠れます。計測前に目視で凹部の向きを確認し、どちら側から内部が見えるかを考えることが重要です。

正面と上方から取得した点群を比較すると、像上部の細部だけでなく、岩壁面全体の位置合わせ状態も確認できます。上方計測では観測方向が変わるため、同じ岩壁を測っていても点の分布が異なります。共通して取得できた比較的安定した部分で両データが整合していることを確認したうえで、彫刻部の差を評価する必要があります。

照射角度5:下方からの仰角で張り出し部分の下面を捉える

上方からの俯角と対になるのが、低い位置から上向きに観測する仰角方向です。磨崖仏では鼻、顎、腕、衣の張り出し、台座の縁など、下側に隠れた面が存在します。同じ高さまたは上方からの観測だけでは、こうした下面が遮蔽される場合があります。

仰角方向を利用すると、張り出しの下にある側壁や凹部を補完できる可能性があります。特に顔周辺では、正面点群で鼻先と口元は取得できていても、鼻下や上唇周辺に欠測が残ることがあります。低い位置からの観測によってその部分の連続性が得られれば、顔面の断面形状を作る際に補間へ依存する範囲を減らせます。

衣文でも同様です。横方向から見ると一本の稜線に見える部分が、上下方向では厚みを持つ段差になっている場合があります。正面位置だけで作った断面では段差が丸く見えても、下方からの点群を追加すると急な側面が確認できることがあります。このように、彫刻深さを扱う場合は「底が何ミリ下がっているか」だけではなく、底へ至る側壁の形状を取得することも重要です。

一方、低い観測位置では地面、柵、草木などによる遮蔽が増えることがあります。岩壁の近くに植生がある場合、植物表面の点が文化財表面と混在することもあります。現地で除去や移動をしてよい対象かは管理条件によるため、安易に触れず、取得後に不要点として分離する必要がある場合もあります。

仰角方向でも、過度に浅い角度で岩壁面をかすめるような計測は、主要面の安定した取得に向かない場合があります。狙っている下面だけに集中するのではなく、位置合わせに使える周囲の形状も含めて計測し、補完点群として利用することが重要です。

照射角度6:対角方向から複雑な重なりを補完する

実際の磨崖仏は、単純な上下左右だけでは説明できない複雑な形状を持っています。顔の輪郭と光背が重なる部分、腕と衣文が交差する部分、斜め方向へ延びる彫り込みなどでは、左、右、上、下のいずれか一方向だけを追加しても欠測が残ることがあります。そこで有効なのが、上下方向と左右方向を同時に変えた対角方向の観測です。

例えば正面より少し高く、かつ左側へ移動した位置から観測すると、正面や同じ高さからは隠れていた面を一度に見通せる場合があります。反対に、低い右側からの観測が特定の凹部に有効なこともあります。どの対角方向が有効かは、像の形状と設置可能な場所によって変わります。

対角方向を選ぶ際は、闇雲に観測位置を増やすのではなく、既存点群の欠測分布を利用します。まず正面、左右など基本方向を取得し、欠測している場所を確認します。その欠測域を現地の像と照合し、どの方向からなら奥が見えるかを考えて追加位置を決めると効率的です。

この考え方は、計測時間やデータ量を管理するうえでも重要です。観測点数を増やせば必ず成果品質が比例して上がるわけではありません。同じ面を似た角度から何度も取得するより、現在の点群にない視線方向を追加したほうが、彫刻形状の記録に効果的な場合があります。

対角計測では、位置合わせの条件にも注意します。局所的な細部だけを狙うと、他の点群との共通領域や共通標識が不足することがあります。採用する位置合わせ手法に応じて、磨崖仏本体だけでなく周囲の岩壁や固定的な形状、必要なターゲットや基準を含めて取得します。文化財表面へ標識を直接設置できない現場では、周囲の安全な場所に設定した基準や、同一性を確認できる特徴形状を利用するなど、保存条件に合った方法を検討します。

照射角度7:浅い側方角度を補助的に使って側壁形状を確認する

七つ目は、彫刻の側壁に対して比較的正対しやすくなるよう、横方向へ大きめに観測位置を変える方法です。正面から見れば細い線にしか見えない側壁でも、観測方向を横へ振ることで面として取得できる場合があります。深い溝の側壁、像の輪郭付近、光背の縁などを確認するときに検討できます。

ただし、この方法は岩壁の主要面に対してレーザーが浅く当たりやすくなるため、補助観測として扱うことが重要です。角度が浅くなるほど常に精度が向上するわけではありません。表面の粗さ、距離、反射特性、装置特性などによって点の取得状態は変化するため、極端な掠れ方向を主要な深さ評価データとして無条件に採用するのは避けます。

有効なのは、正面方向では線状にしか取得できなかった側壁について、別方向から面の存在を確認する使い方です。例えば深い彫り込みの片側壁が正面点群では欠けている場合、観測位置を横へ移すことでその側壁へより正対した方向を作れる可能性があります。反対側壁についても逆方向から補います。

取得後は、浅い角度から得た点だけを見て形状を判断せず、正面や他方向の点群との重なりを確認します。重複領域に系統的なずれが見られる場合は、位置合わせだけでなく、観測条件による点のばらつきも検討する必要があります。局所的な側壁を補うことが目的であっても、周辺の基準となる面まで含めて評価することが大切です。

ここまでの七方向は、必ず七回計測しなければならないという意味ではありません。正面一回と左右二回で必要範囲を取得できる磨崖仏もあれば、複雑な凹凸のため上下や対角方向を追加する必要がある場合もあります。七つの角度をチェック項目として持ち、どの方向が不足しているかを現場ごとに選択するのが実務的です。

複数方向の点群を位置合わせして深さを比較する

複数角度からTLS計測を行った後は、それぞれの点群を共通の座標系で整合させる必要があります。ここで位置合わせが不十分だと、本来一枚である岩壁面が二重になり、彫刻深さと位置合わせ誤差の区別がつかなくなります。数値上の残差や適合度だけではなく、対象となる文化財表面や独立した確認点での整合状態を確認することが重要です。

位置合わせに必要な条件は手法によって異なります。点群同士の形状を使う方法では、隣接するスキャン間に十分な重複領域と識別できる形状が必要です。ターゲットや既知点を利用する方法では、必要数の共通標識や適切な幾何配置、基準座標との関係を確保します。どの方法でも、彫刻部だけに依存せず、利用可能であれば周囲の固定的な形状や独立した基準を組み合わせると検証しやすくなります。

統合後には、比較的滑らかな岩壁部分や検証用の特徴部で点群が二重になっていないか確認します。位置合わせに回転ずれがある場合、中央では一致していても端部へ行くほど差が大きくなることがあります。局所的な彫刻深さを比較する前に、対象範囲全体で系統的なずれがないか確認する必要があります。

また、位置合わせ後の統合、間引き、ノイズ除去、平滑化などの処理を強く行うと、保存したかった彫刻の凹凸そのものが弱くなる可能性があります。不要点の除去は必要ですが、小さな彫刻と不要点をどのように区別するかを考えながら設定します。特に風化した磨崖仏では、微細な凹凸が彫刻なのか表面劣化なのかを点群だけで断定することは難しいため、現地記録や写真など他の情報と合わせて確認することが望まれます。

経年比較を目的とする場合には、初回計測時から再現性を意識しておくことも重要です。将来同じ場所を再計測するとき、観測位置、基準、座標系、解析範囲、断面位置などが分からなければ、差分が実際の変化なのか計測条件の違いなのか判断しにくくなります。計測位置や観測方向、使用した基準、データ処理条件を記録しておくことで、後年の比較に利用しやすい成果になります。

彫刻深さを断面と基準面で評価する

統合した点群から彫刻深さを評価する段階では、単純な三次元表示だけでなく断面を使うと形状を理解しやすくなります。顔面の鼻を通る縦断面、衣文を横切る横断面、光背の溝に直交する断面など、評価対象に合わせて断面方向を設定します。

ここで注意したいのが、断面方向によって見かけの幅や距離が変わることです。溝に対して斜めに断面を切れば、溝の幅や側壁間の距離が別の切り方と異なって見える可能性があります。彫刻の形状を比較する場合は、対象となる稜線や溝に対してどの方向で断面を設定したかを明確にし、時系列比較でも同じ条件を再現できるようにします。

基準面についても同様です。磨崖仏周囲の岩壁が局所的に平面とみなせる場合は、周辺点群から基準面を求め、その面から彫刻点までの距離を確認する方法が考えられます。しかし自然岩盤が湾曲している場合、広い範囲を一枚の平面で代表すると、岩盤本来の湾曲まで彫刻深さとして数えてしまうことがあります。その場合は対象範囲を分けたり、周辺形状に合わせた基準面や基準曲面を検討したりする必要があります。

また、「最も深い点」だけを成果値として扱う方法には注意が必要です。一点だけ大きく外れた点が存在すると、その点が最大深さになってしまいます。彫刻の状態を把握する場合には、断面上で形状の連続性を確認し、周辺点との関係を見ながら評価します。孤立点や不要点をそのまま計測値として採用しないことが重要です。

磨崖仏の経年変化を見る場合も、二時期の点群間距離を表示しただけで変化と断定するのは避けます。位置合わせ誤差、観測角度の違い、点密度、表面の湿潤状態、植生、不要点除去の方法などによって差が生じる場合があります。変化が疑われる箇所では断面を使って両時期の形状を確認し、周辺の比較対象や独立した基準との関係も照合します。

こうした解析では、点群が存在しない領域と、本当に凹んでいる領域を区別することが重要です。三次元表示では欠測部分が抜けて見えるだけの場合もありますが、面生成によって自動補間すると実際には測っていない場所へ面が作られることがあります。磨崖仏の彫刻深さを記録する目的なら、計測点に基づく形状と補間された形状を混同しない運用が必要です。

文化財計測で避けたい照射角度の決め方

磨崖仏のTLS計測で避けたいのは、「高密度設定だから一方向で十分」「正面が最も正確だから正面だけでよい」といった決め方です。TLSの密度設定と、レーザーが物理的に見通せる範囲は別の問題です。遮蔽された場所には、同じ位置からどれだけ細かく照射してもレーザーが直接届きません。

反対に、あらゆる方向から大量に計測すればよいという考え方も効率的ではありません。観測位置が増えるほどデータ管理と位置合わせの作業が増えます。類似した角度を何度も追加しても、すでに取得済みの面が増えるだけで、必要な欠測が残る場合があります。現場ではまず基準となる方向を取得し、欠測を確認してから左右、上下、対角方向を選ぶ流れが合理的です。

角度を度数だけで管理する方法にも限界があります。磨崖仏の表面は一枚の平面ではなく、場所ごとに向きが異なるためです。TLS本体を岩壁全体に対して一定角度へ配置しても、顔部の側面には比較的正対し、胸部には斜めに当たるといった違いが生じます。重要なのは装置の向きを数値だけで決めることではなく、取得したい面に対してレーザーがどの方向から届くかを見ることです。

距離だけを優先して近づきすぎることも避けたいところです。細かな形状を取得するために近距離計測が有効な場合はありますが、装置によっては最短測距、視野、角度分解能などの条件があり、像全体が視野に入りにくくなったり、張り出しによる遮蔽が増えたり、位置合わせに必要な共通要素が減ったりする可能性があります。全体計測と部分補完を役割分担し、必要に応じて観測位置を追加します。

文化財周辺の安全や保存条件を無視した配置も当然避けなければなりません。理論上は良い照射角度でも、立入制限区域や不安定な斜面からしか取得できないのであれば、別の位置を検討します。文化財計測ではデータ取得だけが目的ではなく、対象物を保全しながら安全に記録することが前提です。

さらに、現地で点群取得の成否を確認せず、すべての判断を後処理へ回す運用も欠測の原因になります。可能であれば現場で点群を確認し、鼻の下、衣文の奥、光背内周、輪郭の側壁など、今回の計測目的に直結する部分が取得できているかをチェックします。現地を離れてから欠測が分かると、再計測が必要になる場合があります。

まとめ:7つの照射角度を組み合わせて磨崖仏の形状を残す

磨崖仏のTLS文化財計測で彫刻深さを捉えるためには、一方向からの高密度計測だけに頼らず、形状に応じて観測方向を変えることが重要です。まず正面に近い位置から全体形状を取得し、基準となる点群を作ります。そのうえで左斜め、右斜め、上方からの俯角、下方からの仰角、対角方向、側壁を捉えるための補助的な側方角度を組み合わせることで、張り出しの背後や深い溝に残る欠測を減らしやすくなります。

重要なのは、七つの位置すべてを機械的に使うことではありません。正面点群を確認し、どの彫刻面が欠けているのかを見極め、その面にレーザーが届く観測方向を追加します。必要な面が少数の方向で取得できれば、それ以上無理に観測位置を増やす必要はありません。反対に複雑な重なりがある場合は、左右だけではなく上下や対角方向まで検討します。

取得後は位置合わせの品質を確認し、統合時のずれを彫刻の凹凸と誤認しないことも欠かせません。さらに、彫刻深さを数値化するときは基準面、断面位置、距離方向を明確にします。自然岩盤の湾曲、表面粗さ、欠測、不要点、補間処理などを考慮せず、最大値だけを取り出して評価する方法は避けるべきです。

TLSによる文化財計測の価値は、立体的な形状を大量の点として残せることだけではありません。いつ、どこから、どの方向で計測し、どの基準で解析したかまで整理しておけば、修復前後の比較や経年変化の確認にも利用しやすい記録になります。磨崖仏のように移動できず、風化や周辺環境の影響を受け続ける文化財では、再現可能な計測条件を残すことが特に重要です。

現場ではTLSによる詳細形状の取得に加え、位置情報を伴う現況記録や確認作業を組み合わせたい場面もあります。屋外で必要な測位条件を確保できる場所など、利用環境を確認したうえで現場の記録や座標管理を機動的に進めたい場合は、LRTK Phoneを活用した運用も検討できます。TLSで取得する高密度な三次元形状と、位置情報付きの写真や測点などの現場記録を目的に応じて使い分けることで、文化財計測から確認、記録整理までの流れを実務に合わせて構成できます。

現場を3Dで残して、あとから測る。
実際の画面と動画で使い方を確認できます。

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