LRTKレフィクシア株式会社

文化財TLS点群から石垣天端の不陸を見抜く5つの標高比較

石垣天端の不陸をTLS点群で確認する意味

石垣の天端は、遠目にはほぼ水平に見えていても、詳細に計測すると石材ごとの高さの違い、局所的なくぼみ、盛り上がり、長い区間にわたる緩やかな高低差などが現れることがあります。文化財として残されている石垣の場合、こうした形状は必ずしも異常ではありません。築造当初からの形状、石材の寸法差、加工方法、後世の補修などが組み合わさって現在の天端形状が形成されているためです。

そのため、TLSを文化財計測に利用するときは、「天端が水平ではないから変状している」と単純に判断するのではなく、どの位置にどの程度の標高差があるのかを客観的に整理することが重要です。ここで役立つのが、地上型レーザースキャナーで取得したTLS点群です。天端を面的に記録できるため、目視や少数の測点だけでは捉えにくい形状を連続的に確認できます。

ただし、TLS点群から得られる標高値をそのまま並べれば不陸が分かるわけではありません。石垣の天端は平滑な人工床面とは異なり、一つひとつの石材に凹凸があります。雑草、苔、堆積物、目地、欠け、補修材なども点群に含まれることがあります。単純に各位置の最高点だけを拾うと、石材表面の小さな突起や植生を不陸として誤認する可能性があります。

石垣天端の状態を把握するには、同じ基準の標高を比較し、局所的な凹凸と広い範囲の傾向を分けて読む必要があります。さらに、過去のTLS点群と比較する場合は、座標系や高さの基準、点群の位置合わせ精度がそろっていることが前提になります。

TLSによる文化財計測の利点は、ある一点の高さだけでなく、その周囲を含めた形状を後から再確認できることです。調査時点では問題視していなかった場所でも、数年後に形状変化が疑われた際、過去点群を参照できれば比較資料になります。その意味でも、石垣天端の不陸は単発の数値としてではなく、位置と標高を結び付けた形で整理しておくことが大切です。

この記事では、文化財TLS点群から石垣天端を評価するときに利用しやすい5つの標高比較を取り上げます。それぞれの方法は目的が異なります。石垣全体の傾向を見る方法、石材間の段差を見る方法、基準面に対する偏差を見る方法、面的な分布を見る方法、経年変化を見る方法を組み合わせることで、不陸の状態をより慎重に把握できます。

標高比較の前にそろえるべき計測条件

標高比較を始める前に重要なのは、比較する値が同じ基準に載っているかを確認することです。TLS点群では非常に多くの点を取得できますが、点数が多いことと標高比較の信頼性が高いことは同じではありません。計測位置、標定方法、点群結合、座標変換などにずれがあれば、実際には動いていない天端にも標高差が生じて見える可能性があります。

特に複数地点から石垣を計測した場合、各スキャンを一つの点群へ統合するときの位置合わせ状態を確認します。天端周辺だけを見て整っているように見えても、石垣全体でわずかな傾きが残っていると、長い距離を比較した際に標高差として表れることがあります。点群結合の評価値だけに頼らず、形状が安定している場所や基準として使用した位置で不自然なずれがないかを確認することが必要です。

標高の基準も明確にします。現地座標を使用するのか、公共座標系などに接続した座標を使用するのか、調査独自のローカル座標を使用するのかによって、成果の再利用性が変わります。単独の調査で不陸を見るだけならローカル基準でも解析はできますが、将来の再計測との比較を想定する場合は、同じ基準を再現できる仕組みを残しておくことが重要です。

また、天端のどこを比較対象とするかも統一します。石垣天端には石材の最上面だけでなく、土砂、植生、排水施設、後世の構造物などが存在する場合があります。こうした異物を含めたまま標高を抽出すると、本来見たい石材の高さとは異なる値が得られます。点群を分類し、比較対象とする面を明確にしてから標高を扱う必要があります。

レーザーの入射条件にも注意が必要です。遠距離や浅い入射角では、天端付近の点密度が低下したり、石材の縁で点が不安定になったりすることがあります。石垣下部から見上げる配置だけでは、水平に近い天端面を十分取得できない場合もあります。そのため、天端を確認することが主目的であれば、必要な範囲を適切な角度から観測できる計測位置を検討します。

点群密度もそろえて考える必要があります。高密度な点群と低密度な点群をそのまま比較すると、代表値の算出条件によって結果が変化することがあります。特に時期の異なるデータを比較する場合は、同程度の空間単位で評価するか、一定の格子や範囲に集約した代表値を使用するなど、比較条件を合わせることが重要です。

標高比較は解析作業から始まるのではなく、計測計画と基準設定から始まっています。文化財のTLS計測では、対象を傷つけず詳細な形状を取得できることが大きな特徴ですが、その情報を将来まで比較可能にするためには、座標、高さ、計測範囲、処理条件を記録しておく必要があります。

標高比較1:天端の縦断標高を同じ基準線で比較する

最初に行いやすい方法が、石垣の延長方向に沿って天端の標高を取り出し、縦断的に比較する方法です。石垣が長く続いている場合、局所的な石材の凹凸を見る前に、天端全体がどのような高さの傾向を持っているかを確認できます。

重要なのは、毎回同じ考え方で基準線を設定することです。石垣は直線とは限らず、平面的に湾曲している場合や折れ曲がっている場合もあります。単純な東西方向や南北方向で断面を切るのではなく、石垣の延長に沿う基準線を設定し、その基準線上の距離と天端標高を対応させます。

ただし、天端点群の最高点をそのまま縦断標高にすると、石材表面の突起や小さな残存物の影響を受けやすくなります。一定幅の範囲から複数点を抽出し、その分布を確認したうえで代表的な標高を求めるほうが、局所的なノイズの影響を抑えやすくなります。どの統計値を代表値にするかは天端形状や解析目的によって決め、異なる調査時期でも同じ方法を使うことが重要です。

縦断標高を並べると、数個の石材だけが上下している場所と、数メートル以上にわたり緩やかに下がっている場所を分けて考えやすくなります。前者は石材単体の形状や据え方による可能性がありますが、後者については石垣全体の形状として記録する価値があります。

例えば、基準線上で標高が徐々に低下した後、再び高くなる区間があれば、その位置を点群表示へ戻して確認します。天端面だけで判断せず、石垣正面の孕み、石材配置、目地の開きなど周辺形状も合わせて見ることが重要です。不陸の位置と石垣正面の変化が一致している場合には、詳細調査を行う場所を絞り込む材料になります。

一方で、石垣が斜面に沿って築かれている場合など、もともと天端に勾配が付いていることもあります。この場合、水平線との差だけを見ると、本来の設計や地形条件による傾斜まで不陸として扱ってしまいます。既存図面や過去の記録、周辺地形を確認し、本来想定される縦断勾配と局所的な乱れを分ける必要があります。

縦断標高比較の強みは、長い石垣を一つの連続した形として把握できる点です。まず全体傾向を把握し、その後に局所解析へ進むことで、細かな凹凸だけに注目して全体形状を見失うことを防げます。

標高比較2:隣接する石材同士の相対標高差を比較する

二つ目は、隣り合う石材の天端標高を比較する方法です。縦断標高が石垣全体の傾向を見る方法であるのに対し、こちらは局所的な段差や高さの変化を確認するために適しています。

石垣天端では、石材ごとに形状が異なるため、表面の一点だけを比較すると差が大きく出ることがあります。そのため、石材ごとに一定の範囲を設定し、その範囲内の点群から代表標高を求めます。石材の角や欠損部だけを選ぶのではなく、比較可能な面をそろえることが重要です。

隣接する石材Aと石材Bの代表標高を求め、その差を計算すれば、石材間の相対的な高さの違いを整理できます。この比較を石垣の延長方向へ繰り返すと、どこで段差が集中しているのかを確認しやすくなります。

ここで注意したいのは、大きな相対標高差があるからといって、それだけで石材が移動したとは判断できないことです。もともと形状の異なる自然石を使用した石垣では、完成時点から天端に段差が存在していた可能性があります。また、過去の積み直しや補修によって高さが変わっていることもあります。

そのため、単一時点の点群から分かるのは、基本的には「現在この場所に標高差が存在する」という事実です。それが築造時から存在したものなのか、その後に発生したものなのかを判断するには、過去資料や過年度の計測データが必要です。

相対標高差を見る方法は、絶対的な標高基準の影響を比較的受けにくいという利点もあります。同じ点群の中で近接する石材を比較する場合、点群全体に共通している高さ方向の一定のずれは、石材間の差にはそのまま現れません。ただし、点群が局所的に変形するような位置合わせ誤差がある場合は影響を受けるため、基準確認が不要になるわけではありません。

さらに、石材の境界を明確にできる場合には、各石材の代表標高だけでなく、天端面の傾斜も確認できます。隣接石材との段差が小さくても、一つの石材内部で天端面が大きく傾いていることがあります。点群で石材面を面的に確認できるTLS文化財計測では、こうした一点測定では捉えにくい情報も残せます。

局所的な段差を把握した後は、石垣正面側の形状と関連付けて確認します。特定の石材だけが低く見える場合、その石材の下部に目立った空隙があるのか、周囲の目地に変化があるのか、単に上面が低い形状なのかを点群上で確認します。標高差を検出することと、その原因を判断することを分けて考える姿勢が重要です。

標高比較3:基準面からの標高偏差を比較する

三つ目は、石垣天端に対して基準となる面を設定し、その面から各点がどれだけ上下しているかを比較する方法です。縦断線だけでは把握しにくい、面的なうねりや局所的な盛り上がり、沈み込みを確認するときに有効です。

基準面の作り方は一つではありません。比較的安定していると考えられる天端区間を使って代表的な面を設定する方法もあれば、対象区間全体の傾向から面を求める方法もあります。重要なのは、解析の目的に合わせて基準面を設定し、その設定方法を記録することです。

例えば、本来一定の縦断勾配を持つ石垣に水平面を当てると、正常な勾配まで偏差として表示されます。そのため、石垣全体の方向や想定される勾配を考慮した基準面を使用する必要があります。単純に「水平との差」を不陸と定義しないことが重要です。

基準面が定まったら、天端点群の各点について基準面との高さ方向の差を求めます。正側と負側に偏差が分布することで、基準面より高い場所と低い場所を把握できます。ただし、石材表面の細かな凹凸まで含めると偏差が複雑になるため、解析する空間単位を目的に合わせて設定します。

文化財石垣では、数値を細かく出せることよりも、その数値が何を示しているかを説明できることが重要です。細かな表面粗さと、石材単位の高低差と、石垣全体の変形傾向はスケールが異なります。解析範囲を変えながら確認し、どの大きさの変化を見ているのかを明確にします。

基準面からの偏差が一方向へ連続している場合は、天端全体の傾斜として現れている可能性があります。一方、小さな範囲だけが周囲より低い場合は、特定石材の形状や局所的な変化として確認できます。さらに、低い区域が石垣正面方向にも広がっている場合は、三次元形状全体を詳しく確認するきっかけになります。

ただし、基準面はあくまで解析のために設定した仮想的な面です。基準面から外れていること自体が異常を意味するわけではありません。特に歴史的な石垣では、施工当初から現代的な平面精度を意図していない場合があります。基準面偏差は状態を定量化する道具として利用し、文化財としての構造的評価とは分けて扱います。

この比較方法を継続調査で利用する場合は、基準面を毎回作り直すのではなく、初回調査で設定した基準を再利用できるようにしておくことが重要です。毎回異なる点群から自動的に最適な面を算出すると、石垣自体が変化していても基準面まで変化し、差が小さく見える可能性があります。経年比較では、固定した基準と各時点の点群を比較する考え方が必要になります。

標高比較4:一定区画ごとの代表標高を比較する

四つ目は、天端を一定の大きさの区画に分割し、各区画の代表標高を比較する方法です。点群は非常に高密度なため、すべての点を直接比較すると細かな表面形状やノイズの影響を受けやすくなります。一定範囲に集約することで、石垣天端の高低分布をより整理して把握できます。

方法としては、平面上に一定間隔の格子を設定し、それぞれの格子内に存在する天端点群から代表値を求めます。代表値には平均的な高さを示す値や、外れ値の影響を受けにくい値など複数の考え方があります。どの方法が適切かは点群の状態によって異なるため、対象の表面状態を確認して決めます。

例えば、天端に一部だけ雑草が残っている場合、極端に高い点が少数含まれる可能性があります。こうした点を含めて単純な代表値を出すと、本来の石面より高い結果になることがあります。事前に植生や明らかな異物を除外し、それでも残る外れ値の影響を確認しながら集約することが重要です。

区画化の利点は、異なる時期に取得した点群を比較しやすくなる点にもあります。二つの点群では取得されている点の位置が完全には一致しません。同一点同士を直接比較しようとすると、対応関係を決める処理が必要になります。一方、同じ平面格子に区切って各区画の代表標高を比較すれば、同じ範囲を共通単位として扱えます。

ただし、区画を大きくしすぎると局所的な変化が平均化され、小さな不陸が見えなくなります。逆に小さくしすぎると、石材表面の粗さや点密度の違いに左右されやすくなります。そのため、確認したい現象の大きさに応じて区画寸法を決める必要があります。

石材単位で評価したい場合は、格子よりも石材の輪郭を区画として扱う考え方もあります。石材ごとの天端範囲を抽出し、各石材の代表標高を求めれば、隣接石材との比較や時系列比較に利用できます。一方、石材境界が不明瞭な場所では作業者による区画設定の差が出るため、長期的な再現性を重視する場合は規則的な格子のほうが管理しやすいことがあります。

区画ごとの標高を整理すると、石垣天端のどの区域が周囲より相対的に高いか、低いかを面的に把握できます。縦断線だけでは見落としやすい、石垣の奥行き方向を含む不陸を確認できる点が大きな特徴です。

天端幅が広い石垣では、外側と内側で高さの傾向が異なることがあります。その場合、一本の縦断線だけではどちらか一方の状態しか表せません。区画による比較を加えることで、外縁側だけが低い、中央部だけが高いといった平面的な特徴も捉えやすくなります。

標高比較5:異なる時期の点群で標高差を比較する

五つ目は、初回計測と再計測のTLS点群を比較し、同じ位置の標高がどのように変化したかを見る方法です。文化財の維持管理では、現在の不陸量だけでなく、それが時間とともに変化しているかどうかが重要な情報になります。

経時比較で最も重要なのは、二つの点群を同じ座標基準へ正確にそろえることです。点群同士が高さ方向にずれていれば、石垣が全く変化していなくても全域に標高差が現れます。したがって、比較対象の石垣だけを使って位置合わせするのではなく、周辺に長期的に安定している基準を確保し、その基準との関係を確認します。

特に注意したいのは、変化を確認したい対象そのものを位置合わせの基準として使用する場合です。石垣に実際の変形が生じていると、その形状へ後時点の点群を無理に合わせることで変化の一部が吸収される可能性があります。経年変化を目的とする調査では、変化対象とは別の安定した基準を用意しておくことが重要です。

座標をそろえた後は、同じ基準線、同じ区画、同じ基準面などを使って標高を比較します。初回と二回目で解析方法を変えてしまうと、処理方法の違いが標高差として現れることがあります。再現性を高めるには、計測条件だけでなく解析条件も記録しておきます。

例えば、初回調査で天端を一定区画に分割して代表標高を求めた場合、再調査でも同じ区画を使用します。それぞれの代表標高の差を見ることで、局所的な高さ変化を確認できます。ただし、点密度や遮蔽状況が大きく異なる区画では、その差が実際の変化なのかデータ条件の違いなのかを慎重に判断します。

また、季節条件にも注意が必要です。天端に土が堆積する場所、植物が生える場所、積雪や落葉の影響を受ける場所では、表面状態の違いが標高変化として現れることがあります。できるだけ同等の状態で計測するか、石材面以外の点を除外して比較する必要があります。

経時比較では、一回の再計測で差が出ただけで直ちに変位と断定しないことも重要です。計測誤差、点群結合、基準点、表面状態などを確認し、必要であれば再測や別の測定手段によって検証します。同じ場所で複数時期に同方向の変化が継続して確認できれば、維持管理上注視する場所を絞り込むための情報になります。

TLS文化財計測の価値は、過去の状態を三次元で残せるところにあります。初回調査時には問題が確認されていなくても、将来変化が疑われた際に過去点群を比較できれば、いつの時期からどの範囲で違いが現れたかを検討できます。そのため、初回計測から将来の比較を想定した基準管理を行うことが重要です。

不陸と変状を混同しないための読み取り方

石垣天端の標高比較で最も避けたいのは、標高差を検出しただけで構造的な異常と断定することです。文化財石垣には、歴史的な施工方法、自然石の形状、過去の補修、地形条件などによる不規則性がもともと存在します。

したがって、TLS点群から確認された不陸は、まず「形状上の特徴」として記録するのが基本です。その特徴がいつ生じたのか、現在進行しているのか、構造安定性に関係しているのかは、別の根拠を組み合わせて判断します。

例えば天端が局所的に低くなっている場合でも、該当石材が薄い形状であるだけかもしれません。一方、過年度点群と比較して同じ石材が継続して下方向へ変化していることが確認され、さらに周辺の石材配置にも変化が見られるのであれば、詳細な現地確認を行う理由になります。

天端だけでなく、石垣正面の変化も確認します。天端の標高差が大きい場所と、正面の孕みや出入りが目立つ場所が一致しているかを見ることで、三次元的な変形傾向を把握しやすくなります。また、石材間の目地、欠損、抜け、背面からの土砂流出が疑われる箇所など、現地で確認できる情報との照合も欠かせません。

周辺地盤との関係も重要です。石垣そのものが変化していなくても、背面地盤や天端付近の盛土が沈下している場合があります。TLS点群の範囲を石垣天端だけに限定せず、可能であれば周辺地形も同じ座標で取得しておくと、変化の範囲を判断する材料が増えます。

また、標高差の数値には必ず計測と処理の不確かさが含まれます。使用するTLSの性能だけでなく、対象までの距離、レーザーの入射角、表面状態、点群密度、スキャン位置、点群結合、座標標定などが最終的な比較結果へ影響します。小さな標高差を議論するほど、こうした条件の確認が重要になります。

文化財調査では、変化を必要以上に強く表現することも、逆に見逃すことも避けなければなりません。TLS点群は状態を客観的に整理するための有力な資料ですが、解析結果は現地観察や過去資料、必要に応じた専門的な構造評価と組み合わせて利用することが適切です。

TLS点群から標高比較を行う実務フロー

実務では、いきなり標高差を計算するのではなく、計測から解析まで一連の流れを統一することが重要です。

まず現地で石垣全体を確認し、天端の形状、植生、障害物、計測可能な位置、将来も使用できそうな基準位置などを把握します。天端だけを高密度に取得することを考えるのではなく、点群を安定して統合するための周辺形状や、後から位置を確認できる要素も取得範囲へ含めます。

次にTLSの設置位置を計画します。石垣正面を観測する位置だけでは、天端面への視線が浅くなり、必要な点が取得できないことがあります。可能な範囲で異なる視点を組み合わせ、天端面の遮蔽を減らします。文化財では立ち入りや設置位置に制約があるため、保護上の条件を優先しながら観測配置を決めます。

計測後は各スキャンを共通座標へ統合し、位置合わせ状態を確認します。特定の一部分だけではなく、石垣全域と安定した周辺部を確認します。位置合わせのずれが残った状態で天端を解析すると、解析精度をどれだけ高めても意味がありません。

その後、天端点群を抽出します。植生や人物、仮設物、落下物など、比較対象としない点を除きます。自動処理だけに頼らず、石材の縁や複雑な凹凸が誤って除去されていないかも確認します。文化財の形状では、一般的な地表面とは異なる凹凸が正常な形状として存在することがあるためです。

点群を整理したら、最初に縦断標高で全体傾向を確認します。そのうえで気になる区間について石材間の相対標高差を確認し、必要に応じて基準面偏差や区画ごとの代表標高へ展開します。一つの解析方法だけで判断するのではなく、異なる見方で同じ位置を確認することが重要です。

例えば縦断標高で局所的な低下が見つかった場合、その位置を区画標高でも確認します。縦断線上だけが低く周囲は変化していないのであれば、石材表面形状の影響かもしれません。面的にも同様の低下が広がっていれば、より詳細に確認する価値があります。

さらに現地点検の記録と照合します。点群上で特徴がある位置を現場写真や調査記録と対応させることで、数値だけでは分からない状態を把握できます。将来の再計測では、同じ位置を再び確認できるよう、座標情報を用いて管理します。

最後に成果を保存するときは、完成した図だけでなく、可能な範囲で元点群、座標系、標高基準、処理条件、抽出条件、比較範囲なども残します。解析結果だけを保存すると、後年に異なる方法で再検証したくなったときに対応できないことがあります。

石垣天端の継続観測で残しておきたい情報

文化財石垣の維持管理では、一度の精密計測だけでなく、後から同じ条件に近い形で比較できることが重要です。そのため、点群そのものと同じくらい計測条件の記録が重要になります。

特に残しておきたいのは、使用した座標系と高さの基準です。同じ石垣を数年後に再計測できても、過去点群がどの標高基準で整理されていたのか分からなければ、直接的な標高比較が難しくなります。ローカル座標を利用する場合でも、その座標を再現するための基準を明確に保存します。

TLSの設置位置や取得範囲についても記録しておくと、再計測時の条件を合わせやすくなります。完全に同じ場所へ機器を設置できなくても、どの方向からどの範囲を取得したかが分かれば、過去データで生じていた遮蔽や点密度の特徴を理解できます。

解析条件も重要です。天端点群の抽出範囲、縦断基準線、格子の位置と寸法、代表標高の算出方法、基準面の定義などを残しておけば、再調査で同じ比較を繰り返せます。特に基準線や区画は座標として保存しておくと、担当者が変わっても再現しやすくなります。

現地写真との対応も有効です。点群は形状を詳細に残せますが、表面の材質状態や植生、湿潤状態などについては写真のほうが確認しやすい場合があります。点群解析で標高差が見つかったとき、その時点で天端に何が存在していたのかを写真で確認できれば、原因の切り分けに役立ちます。

さらに、計測時の天候や表面状態も簡潔に記録します。雨天後に石材が濡れていた、天端に落葉が多かった、除草直後だったなどの条件は、後から点群を比較するときの参考になります。

継続観測では、「毎回最高精度で計測する」だけでは十分ではありません。同じ場所を同じ考え方で評価できることが重要です。初回調査の段階から再測を想定し、基準点、座標、計測範囲、解析単位を再利用可能な形で残すことで、TLS点群が長期的な文化財管理資料になります。

現場で基準位置や確認地点を管理するときには、三次元計測データと現地位置を結び付ける仕組みも考えておくと便利です。図面上で解析した注視位置を、次回の現地調査で迷わず確認できれば、点群解析と現場点検をつなぎやすくなります。

まとめ

文化財TLS点群から石垣天端の不陸を把握する場合、単純に最も高い点と低い点の差を求めるだけでは十分ではありません。石材固有の凹凸、築造時から存在する段差、長期的な勾配、植生や堆積物、点群処理の誤差などが同時に標高値へ現れるためです。

まず有効なのが、石垣の延長方向に沿った縦断標高の比較です。これによって、局所的な凹凸と長い範囲に及ぶ高低傾向を分けて確認できます。次に隣接石材の相対標高差を見ることで、石材単位の段差を把握できます。

さらに、基準面からの標高偏差を確認すれば、天端全体のうねりを面的に捉えやすくなります。一定区画ごとの代表標高を比較する方法では、高密度点群を適切な空間単位へ整理し、奥行き方向を含めた高低分布を確認できます。そして異なる時期のTLS点群を同一基準で比較すれば、現在存在している不陸と、時間とともに変化している可能性のある場所を分けて考える材料になります。

ただし、どの比較方法でも、標高差そのものを石垣の変状や危険性と直結させることは適切ではありません。TLSで確認できるのは三次元形状とその変化です。文化財石垣では、過去資料、現地観察、補修履歴、周辺地盤の状態なども合わせて評価する必要があります。

また、経年比較を目的とする場合には、解析技術以上に基準管理が重要になります。同じ座標系、同じ高さ基準、同じ比較範囲、同じ基準線や区画を再現できるようにしておけば、数年後の再計測でも過去点群を有効に活用できます。

TLSによる文化財計測では、対象全体を高密度な三次元情報として保存できるため、その時点では注目していなかった場所も後から検証できます。石垣天端の不陸についても、初回計測から標高比較の基準を明確にし、将来の再測を意識してデータを残すことで、単なる現況記録から継続的な維持管理資料へ発展させられます。

さらに、点群上で確認した位置を現地で再確認したり、石垣周辺の基準位置を座標で管理したりする場面では、現場で位置情報を扱える環境を整えておくことも有効です。TLS点群による詳細な形状記録と現地での位置確認を組み合わせたい場合は、LRTK Phoneを活用した測位・現場確認の方法も選択肢として検討できます。

現場を3Dで残して、あとから測る。
実際の画面と動画で使い方を確認できます。

LRTK Phoneの使い方・実例を見る
資料請求導入相談
現場をスマホで3DスキャンLRTK Phone実例を見る

技術記事一覧へ戻る →