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文化財TLS点群から修復材の盛り上がりを判別する5つの差分解析

文化財の保存修復では、充填材や補修材などを施工した箇所について、周囲の既存面よりどの程度盛り上がっているのか、施工後に表面形状が変化していないかを継続的に確認したい場面があります。目視や写真は表面状態を把握するうえで重要ですが、見る方向や照明条件の違いによって凹凸の印象が変わることがあります。そこで、表面形状を三次元座標として記録できるTLSを利用し、点群同士または基準面との距離を比較する方法が役立ちます。

TLSによる文化財計測では、壁面、石材、木部、土壁、漆喰面、装飾部材などの形状を多数の点として取得できます。修復前後や異なる時期の点群を共通の座標系へ配置できれば、同じ場所の表面位置がどの程度変化したかを差分として確認できます。修復前の点群が存在しない場合でも、修復箇所周囲の既存面から比較用の基準面を設定し、局所的な突出量を調べる方法があります。

ただし、点群上に差が現れたからといって、その値をそのまま修復材の膨張や劣化と判断することはできません。点群の位置合わせ、計測方向、入射条件、遮蔽、表面粗さ、点密度、基準面の作り方などによっても差分は発生します。複雑な三次元形状の変化検出では、位置合わせ誤差や表面粗さが検出可能な変化量を左右し、局所的な面に対する法線方向の比較が有効となる場合があることも報告されています。

この記事では、「TLS 文化財 計測」で情報を探している実務担当者を想定し、文化財TLS点群から修復材の盛り上がりを判別するための5つの差分解析を中心に解説します。単純な点群の重ね合わせだけでなく、基準の決め方、距離を測る方向、誤差との切り分け、時系列記録まで整理することで、将来の保存修復にも再利用しやすい三次元記録につなげられます。

文化財TLS点群で修復材の盛り上がりを調べる基本

修復材の盛り上がりをTLS点群から評価するとき、最初に明確にしたいのは「何に対する盛り上がりなのか」です。三次元空間上に、単独で盛り上がりという値が存在するわけではありません。修復前の表面、周囲の既存面、設計上想定した面、前回調査時の表面など、何らかの基準を設定して初めて突出量を求められます。

修復前後の点群が残っている場合は、修復前の表面を比較基準として利用できます。二時期のTLS点群を同じ座標系へ整合し、同じ場所の表面間距離を求めれば、修復後に外側へ変位した範囲や内側へ変位した範囲を把握しやすくなります。

一方、修復前のTLS計測が行われていない文化財も少なくありません。その場合には、現在残っている修復箇所周囲の既存面から局所的な基準面を推定し、その面と修復材表面との距離を評価する方法が考えられます。比較的平坦な壁なら局所平面を利用しやすいですが、柱、石材、彫刻、曲面壁などでは、対象物本来の曲率を考慮した基準が必要です。

たとえば湾曲した石材に修復材が施工されている場合、単純な鉛直面を基準にすると、本来存在する石材の曲率まで差分として表示されます。これでは修復材による局所的な盛り上がりと文化財本来の形を分離できません。表面形状に応じて比較方法を変えることが重要です。

また、修復直後から周囲より高く仕上げられていた部分と、時間経過によって新たに盛り上がった部分は意味が異なります。現在の一時期点群から分かるのは、原則として現在の表面形状です。いつ変化したのかを判断するには、過去の点群、施工記録、写真などの情報が必要になります。

文化財TLS計測で特に重視したいのは、最大値だけを求めることではありません。どの基準に対して、どの範囲が、どの方向へ、どの程度ずれているかを記録することが大切です。解析条件まで残しておけば、後年の再計測でも同じ考え方で比較しやすくなります。

差分解析1 修復前後のTLS点群を同一座標系で比較する

修復前と修復後のTLS点群が存在する場合、基本となるのが二時期の点群差分です。同じ文化財を異なる時期に計測し、両方の点群を共通座標系へ配置したうえで、対応する表面間の距離を計算します。

この方法で最も注意したいのは、差分計算そのものより先に行う位置合わせです。二つの点群全体がわずかに並進したり回転したりしている状態で距離を計算すると、実際には形状が変わっていない部分にも差が現れます。特に修復材の小さな突出を評価したい場合、位置合わせに残ったずれと実際の変化量の大小関係を確認する必要があります。

位置合わせの基準には、二時期の間で変化していないと判断できる部分を利用することが重要です。修復箇所そのものを位置合わせの基準へ大量に含めると、実際に変化した部分まで一致する方向へ点群が移動し、本来検出したかった変化が小さく評価される可能性があります。

文化財全体に共通して利用できる安定した基準が確保されている場合は、それを利用して各時期の点群を同じ座標系に管理すると比較しやすくなります。基準を直接利用できないケースでは、修復の影響を受けていない周辺面などを利用して整合させます。ただし、自動的な表面一致だけに依存するのではなく、整合後に既存部分の残差分布を確認する作業が欠かせません。文化財分野のTLSでも、複数地点から取得した点群の登録方法や登録精度が成果に影響することが検討されています。

位置合わせ後は、修復箇所周囲の変化していないと想定される場所で差分がどの程度残っているかを確認します。周囲の広い範囲まで同じ方向へ差が発生しているなら、修復材の局所変化だけでなく、位置合わせ全体の偏りを検討する必要があります。

反対に、周囲の既存面がおおむね一致し、修復材の施工範囲だけに連続した正方向の差が現れている場合は、実際の表面形状差として詳しく調べる価値があります。ただし、この段階でも材料の膨張など原因まで確定できるわけではありません。分かるのは、基準時期に比べて表面位置が変化しているということです。

また、床面に近い対象なら高さ方向の差で傾向を把握できる場合がありますが、垂直壁では高さ差を求めても突出量にはなりません。どの方向に距離を計算しているのかを必ず確認します。壁面から手前へ張り出す変化なら、壁面におおむね直交する方向の距離を見る必要があります。

修復前後の点群比較は直感的ですが、その信頼性は計測条件と位置合わせ条件に大きく左右されます。将来の差分解析を前提にするなら、初回計測の時点から基準位置、計測範囲、修復箇所、計測日時などを整理して残しておくことが重要です。

差分解析2 周囲の既存面から基準面を作って突出量を求める

修復前のTLS点群が存在しない場合でも、現在の点群だけから修復材の局所的な突出を評価できる場合があります。その代表的な考え方が、修復箇所周囲の既存面から比較用の基準面を作る方法です。

たとえば、比較的平坦な壁の一部に補修箇所があるとします。修復箇所を囲む既存壁面から点群を抽出し、その点群に適合する面を推定します。その面を「修復材がなかった場合の周囲から連続する面」の近似として利用し、修復材表面との距離を計算します。

ここで重要なのは、推定した基準面が元の文化財表面そのものを完全に復元したものではないという点です。古い壁面には施工時からの不陸、経年変形、傾き、表面の波打ちなどが残っている可能性があります。周辺点から作った基準面は、あくまで差分評価のための近似的な基準です。

広すぎる範囲を一枚の平面で表現すると、文化財本来の緩やかな曲がりまで平均化されることがあります。反対に、極端に狭い範囲だけで基準面を作ると、表面粗さや局所的な傷の影響を強く受ける可能性があります。そのため、対象形状を観察しながら適切な範囲を設定する必要があります。

また、基準面を推定する点群の中に盛り上がった修復材を含めすぎないことも重要です。修復材表面が基準面作成に使われると、推定面自体が修復材側へ引っ張られ、突出量が実際より小さく計算される可能性があります。施工範囲が分かっている場合は修復部を除外し、既存面を中心として基準を作る方が比較しやすくなります。

曲面を持つ対象では、一枚の平面ではなく局所的な曲面として基準形状を推定する方法が考えられます。石造物、円柱、彫刻、反りを持つ木部などでは、周囲の本来形状を無視すると曲率自体が差分になります。

基準面と修復材の距離を求めた後は、最大突出量だけでなく分布を確認します。中央部が広く持ち上がっているのか、境界だけが高いのか、一部に小さな突起があるのかで形状の意味は異なります。

たとえば最大差分が同じ値であっても、数点だけに現れる局所的な差と、修復範囲全体に連続する差では評価方法が変わります。周囲との連続性、突出している面積、境界での変化なども合わせて見ることで、修復材の表面形状をより適切に記録できます。

差分解析3 法線方向の距離で複雑な文化財表面を比較する

文化財の形状は必ずしも水平面や垂直面だけで構成されているわけではありません。石造物や彫刻、柱、曲面壁、装飾部材などでは、場所によって面の向きが連続的に変化します。このような対象では、X方向、Y方向、Z方向のどれか一つに固定した差分だけでは、実際の表面からの盛り上がりを表現しにくくなります。

そこで有効なのが、表面の法線方向を利用した比較です。法線とは、その場所の表面に対しておおむね直角となる方向です。基準側の表面について局所的な向きを求め、その法線方向に沿って比較対象までの距離を評価すると、面の向きが変化する三次元形状でも突出量を整理しやすくなります。

たとえば湾曲した石材の中央から側面へ修復範囲が広がっているとします。正面部分と側面部分では表面の向きが異なるため、一つの座標軸方向だけを距離として使うと、同じ程度に盛り上がっている箇所でも数値が異なって見える可能性があります。局所面の向きに合わせて距離を計算すれば、表面に対する張り出しという考え方で比較できます。

複雑な三次元表面の変化検出では、このような局所法線方向の比較によって垂直面や傾斜面を含む形状を扱える一方、法線の推定尺度や表面粗さ、位置合わせ誤差が結果に影響します。

文化財の場合は、特に表面粗さの扱いが重要です。風化した石材や土壁、加工跡が残る木部などは、もともと細かな凹凸を持っています。極端に小さい範囲だけから面の向きを推定すると、その細かな凹凸によって法線方向がばらつくことがあります。反対に広すぎる範囲から法線を推定すると、本来残したい細部の曲率を平均化する可能性があります。

そのため、対象となる修復材の大きさと周辺表面の粗さを考慮して解析範囲を決める必要があります。解析条件を変えると結果も変化するため、長期的なモニタリングでは処理条件を記録しておくことが重要です。

また、修復材と既存材の境界は面の向きが急に変化しやすい場所です。鋭い段差や欠けがあると法線方向が安定せず、境界部だけ大きな差が出る場合があります。差分図だけを見て判断せず、原点群と断面形状を合わせて確認すると、境界特有の影響を把握しやすくなります。

解析のために平滑化や点の間引きを行う場合も、元の点群を残しておくことが大切です。解析用データだけを保管すると、後から異なる条件で再解析したいときに元の表面情報へ戻れなくなる可能性があります。原データと処理後データを分けて管理することで、将来の検証性を保ちやすくなります。

差分解析4 断面差分で盛り上がりの形と広がりを確認する

三次元差分を色分けすると、どこに突出が集中しているかを視覚的に把握しやすくなります。しかし、盛り上がりがどのような形で形成されているのかを詳しく確認するには、断面解析を組み合わせる方法が有効です。

断面解析では、修復箇所を横切る位置に断面線を設定し、基準面と修復材表面、または二時期の表面形状を同じ断面上で比較します。三次元表示では把握しにくい細かな高さ関係を、二次元の輪郭として確認できます。

修復材の中央が滑らかに盛り上がっている場合、断面形状は既存面から中央へ向かって緩やかに外側へ膨らむ形になります。一方、修復材の端部だけが既存面より突出していれば、境界部に急な段差として現れます。同じ最大突出量でも、形状の違いを断面から区別できます。

また、断面は一方向だけでなく、必要に応じて異なる方向から確認します。縦方向では変化が小さくても、横方向では大きく盛り上がっていることがあります。不規則な形状を持つ修復範囲では、突出方向を一方向だけから判断しないことが重要です。

断面解析は、点群の位置合わせ状態を検証する際にも役立ちます。修復材だけでなく周辺既存面までほぼ一定距離で平行にずれているなら、局所的な盛り上がりよりも点群全体の位置ずれを疑う余地があります。

一方、既存面では二時期の断面が重なっているのに、修復範囲だけが外側へ膨らんでいれば、局所的な表面差として確認しやすくなります。三次元の色付き差分と断面を併用することで、解析結果の読み違いを減らせます。

長期比較では、断面をどこに設定したかも記録します。前回の断面位置と今回の位置が少し変わっただけでも、表面凹凸の大きい文化財では異なる輪郭を比較することになります。座標や文化財上の識別しやすい特徴を利用し、同じ断面を再現できるようにしておくことが有効です。

修復記録へ数値を残す際も、「突出量が何mmだった」という数値だけでは十分ではありません。どの断面で、何を基準とし、どの方向の距離を計測した値なのかを合わせて記録すると、後から結果を検証しやすくなります。

差分解析5 時系列TLS点群から変化傾向を追跡する

修復材の経過を確認する目的では、一度だけの比較よりも複数時期のTLS点群を継続的に蓄積することに大きな意味があります。文化財分野でも、多時期のTLS点群を利用して表面変化を把握する考え方が保存状態のモニタリングに活用されています。

たとえば修復直後を基準として、その後の定期調査で同じ場所を計測します。修復直後、第2回、第3回と点群が増えていけば、ある一時点の突出量だけでなく、変化がいつから現れ、どのように推移したかを確認できます。

一回の比較で差が見つかったとしても、それが修復時から存在していたのか、施工後に徐々に大きくなったのかは分かりません。修復直後の点群があれば、その時点の仕上がり形状を基準として後年の変化を追跡できます。

時系列では、最初の点群を共通基準として各時期との差を求める方法と、前回調査から今回調査までの差を順番に比較する方法があります。どちらの場合でも、比較基準を途中で変更しないことが重要です。

また、差分値が時間とともに単調に増えるとは限りません。文化財表面の状態は周辺環境や材料特性など複数要因の影響を受ける可能性があります。そのため、一回の増減だけから原因を決めず、時系列全体を確認します。

複数回の計測で同じ場所に連続した変化が現れ、その範囲が広がっている場合は、継続観察すべき場所として整理できます。一方、一回だけ大きな差が現れ、その前後では確認できない場合には、計測条件や位置合わせ、遮蔽なども検討対象になります。

時系列比較の精度を高めるためには、各回で対象範囲や基準、必要な点密度、解析方法を可能な範囲で共通化します。計測担当者が変わる場合でも再現できるよう、計測位置や対象名称、写真、日時などを残しておくことが重要です。

特に修復箇所が多数ある文化財では、「壁の補修部」といった曖昧な記録だけでは将来同じ場所を特定しにくくなります。修復箇所ごとに管理上の識別情報を持たせ、点群上の解析範囲と関連付けておくと追跡しやすくなります。

修復直後に目立った変化が確認されなかった場合でも、その時点のTLS点群には価値があります。将来の変化を判別するための基準面になるからです。文化財TLS計測では、現在の異常を探すだけでなく、将来比較できる基準データを残すという視点が重要になります。

位置合わせ誤差と実際の盛り上がりを切り分ける

TLS点群の差分解析では、計算結果に色が付くと、そのすべてが実際の形状変化のように見えることがあります。しかし差分には、文化財表面の変化以外の影響も含まれます。

まず確認したいのが位置合わせです。修復材を含む小範囲だけを見るのではなく、その周辺の変化していないと考えられる面まで広げて差分を確認します。周辺全体に同じ方向の差が出ていれば、点群同士の整合状態を再確認します。

次に、遮蔽や計測位置の違いを確認します。凹部、装飾の裏側、段差、突出部分などでは、ある時期には見えていた面が別の時期には死角になる場合があります。同じ面を比較しているつもりでも、実際には異なる位置の点同士を対応させている可能性があります。

入射条件の違いにも注意が必要です。対象面に対する計測方向が大きく異なると、取得される点群の密度や分布も変化する場合があります。文化財の変形計測では、計測条件が結果に影響し得ることが研究でも指摘されています。

点密度にも差が生じます。ある時期は高密度で細かな表面凹凸まで取得され、別の時期は点が粗ければ、局所的な距離比較が不安定になる可能性があります。将来的な時系列比較を予定している場合は、必要な解析尺度を意識して計測条件を設定することが重要です。

表面粗さも大きな要因です。土壁や風化石材では、本来の表面凹凸が修復材の小さな盛り上がりと同程度になる場合があります。一点の最大値だけを比較するのではなく、周囲の分布や連続性、断面形状を見る必要があります。

また、孤立した少数点だけに非常に大きな差が現れる場合は、対象物上の実形状か、異常点や異なる面との対応によるものかを原点群で確認します。最大値だけを機械的に報告すると、少数の外れ値に結果が左右されるおそれがあります。

重要なのは、検出された差分値と文化財上の異常を同義にしないことです。TLS差分解析は「どこに三次元的な差があるか」を整理する方法であり、その差が保存上どのような意味を持つかは別途検討する必要があります。

修復材の解析範囲を固定して比較条件をそろえる

修復材の盛り上がりを継続的に評価する場合、解析対象範囲の設定も結果を左右します。どこからどこまでを修復箇所として扱うかによって、平均的な差や差分分布の見え方が変わるからです。

修復範囲より大きな領域を含めれば、変化していない既存面の点が多数含まれます。その結果、修復材に明確な突出があっても全体的な統計値では小さく見える場合があります。

反対に、差分表示を見た後で値の大きい場所だけを選択すると、実際の修復範囲よりも変化を強調した結果になる可能性があります。できるだけ施工記録や写真などを参照し、解析前に修復範囲を定義しておくことが望まれます。

ただし、古い修復では施工境界が正確に残されていない場合もあります。その場合は現在の表面状態や写真などを合わせて確認し、「どこを解析対象としたか」を後から確認できるよう残します。

修復材の中央部と境界部を分けて観察する方法も有効です。境界では材料の切り替わりや段差があるため、中央部とは異なる差分傾向を示すことがあります。境界部の大きな値だけで修復範囲全体の盛り上がりを代表させないようにします。

時系列比較では、解析ポリゴンなどの対象領域を各回でそろえることも大切です。第1回と第2回で集計範囲が違えば、数値の変化に形状変化と範囲変更の両方が含まれてしまいます。

そのため点群だけでなく、対象範囲を示すデータや識別情報も保管しておくと再解析しやすくなります。「修復箇所Aはこの範囲を比較する」というルールまで残しておけば、担当者が変わっても同じ条件を再現しやすくなります。

差分を色で表示する場合にも比較条件を統一します。同じ差分値でも、表示範囲を狭くすると大きな変化のように見え、広くすると目立たなくなります。異なる時期の図を見比べる場合は、差分範囲やゼロ付近の扱いを可能な限り共通化します。

ゼロ付近をどこまで変化なしとして扱うかも、固定値を無条件に使うのではなく、対象表面の粗さ、点群品質、位置合わせ状態、解析目的などを踏まえて設定する必要があります。文化財ごと、対象部位ごとに条件が異なるため、全国一律の閾値で判断するのは適切ではありません。

差分表示だけで修復材の状態を断定しない

TLSによる差分解析は、修復材の盛り上がりを三次元形状として把握するうえで有効ですが、分かることと分からないことを区別する必要があります。

TLSで直接記録できるのは、基本的に計測時点の表面位置や表面形状です。基準面より外側に突出していることや、過去の点群から表面位置が変化していることは確認できます。しかし、その原因まで点群だけで確定することはできません。

たとえば、修復範囲が以前より外側へ変化していたとしても、それが修復材そのものの体積変化なのか、下地側の変形なのか、構造部材全体の変位なのかをTLS点群だけから区別できない場合があります。

また、修復前点群が存在せず、周囲の既存面から基準面を作った場合には、現在の修復材が周囲より突出していることは評価できても、その形状が施工時から存在していたのか、施工後に形成されたのかまでは分かりません。

そのため、TLS点群は写真、修復履歴、過去の調査記録、現場観察などと組み合わせます。表面のひび割れ、剥離、変色、境界部の状態など、形状以外の情報は写真や目視記録から得られることがあります。

必要に応じて材料や構造に関する専門的な調査も組み合わせます。TLSはそれらの調査を置き換えるものではなく、「どこにどの程度の形状差が分布しているのか」を客観的に整理するための情報として位置付けると扱いやすくなります。

特定の差分値を超えたら一律に危険と判断する方法も避ける必要があります。文化財は材料、構造、規模、修復履歴、保存方針が異なります。同じ突出量でも意味が異なる可能性があります。

したがって差分解析では、「異常を自動判定する」ことより、「前回と異なる形状が見られる場所を絞り込み、専門的な確認へつなげる」という使い方が現実的です。

TLS文化財計測を将来の再調査につなげる

修復材の盛り上がりを一度だけ調査する場合でも、将来同じ場所を再計測する可能性を考えて記録を作ることが重要です。高密度な点群が残っていても、どの修復箇所を、いつ、どの基準で計測したのか分からなくなれば、時系列比較に利用しにくくなります。

まず、文化財上のどの位置を対象にしたかを識別できるようにします。同じ壁面に複数の修復箇所がある場合には、それぞれを区別できる名称や管理情報を付けます。

次に、計測日時と対象範囲、TLSの観測位置、基準として利用した場所などを記録します。屋内や地下など衛星測位を利用しにくい環境では、現場内の共通基準との関係を残しておく方法が重要です。

解析後の成果についても、色付き差分図だけではなく、比較した時期、使用した基準面、解析対象範囲、距離を評価した方向、断面位置などを確認できる状態にします。画像だけが残り、解析条件が分からなくなると、数年後に同じ結果を再現することが難しくなります。

点群データは、可能な範囲で元の計測データと解析用データを区別して管理します。点削減、平滑化、外れ値処理などを行った成果だけを残すと、後に別の尺度で解析したい場合に必要な情報が不足する可能性があります。

さらに重要なのが、TLS点群と現場記録を結び付けることです。修復箇所の写真、対象名称、位置、時刻などが点群と対応していれば、数年後の再調査でも同じ場所を探しやすくなります。

広い文化財群や複数の建物を管理している場合には、「どこに修復箇所があり、どこまで計測済みなのか」という位置情報も重要になります。三次元データの精細さだけでなく、現場で再び同じ場所へ到達できる管理情報が継続調査を支えます。

屋外など測位条件を確保できる場所では、こうした現場記録を補助する手段としてLRTK Phoneを活用し、位置、写真、時刻、対象名称などを関連付けて残す方法があります。TLSによる高密度な三次元形状と現場で取得する位置付き記録を対応させることで、修復箇所の再特定や次回計測の準備を進めやすくなります。

TLS点群が表面形状の詳細な記録を担い、LRTK Phoneが現場における位置や写真などの補助記録を担うという形で役割を分ければ、「どの点群がどの修復箇所を表しているのか」を管理しやすくなります。将来の比較を考えるなら、解析を始めてから記録方法を考えるのではなく、初回の現場計測から継続利用を意識することが重要です。

まとめ

文化財TLS点群から修復材の盛り上がりを判別するには、点群上の距離を単純に計算するだけではなく、何を基準として比較するのかを明確にする必要があります。

修復前後のTLS点群が残っている場合は、二時期の点群を同じ座標系へ整合し、変化していない周囲の面まで確認しながら表面差を評価します。修復前データがない場合には、修復箇所周辺の既存面から比較用の基準面を設定し、現在の修復材が周囲に対してどの程度突出しているかを確認できます。

曲面や複雑な立体形状では、固定された一方向の座標差よりも、局所的な表面の法線方向に沿った距離が有効になる場合があります。ただし法線の推定条件や表面粗さも結果へ影響するため、解析条件を記録しておく必要があります。

さらに断面差分を併用すれば、最大突出量だけでは分からない盛り上がりの形や広がり、境界部分の段差などを確認できます。同じ位置に断面を設定しておけば、将来の再計測でも形状変化を追跡しやすくなります。

修復材の経過を長期的に管理するのであれば、複数時期のTLS点群を蓄積することが重要です。修復直後の点群は、その時点で異常が見られなくても、将来の比較基準として利用できます。

一方で、TLS点群に現れた差は、すべて実際の盛り上がりを意味するわけではありません。点群の位置合わせ、遮蔽、計測方向、点密度、表面粗さ、解析範囲などによっても差分が生じます。周辺既存面、原点群、断面、写真などを合わせて確認し、計測や処理による影響と実際の形状差を切り分けることが重要です。

また、TLSから把握できるのは主として表面形状です。修復材が盛り上がっている原因や材料内部の状態まで、点群だけから断定することはできません。修復履歴、写真、目視確認、必要に応じた専門的調査と組み合わせ、差分点群を状態確認のための定量的な資料として活用することが適切です。

文化財TLS計測の価値は、一度の調査結果を作ることだけではありません。同じ場所を将来再び計測し、過去の形状と比較できる三次元記録を残せることにあります。そのためには点群だけでなく、修復箇所の位置、計測日時、対象名称、解析範囲、基準面、断面位置なども一緒に管理する必要があります。

現場で「いつ、どこを、どの状態で記録したのか」という情報まで整理したい場合には、TLSによる高密度な形状記録とLRTK Phoneによる位置付きの現場記録を組み合わせる方法も有効です。修復箇所を再び探し出せる情報と三次元点群を結び付けておくことが、文化財の長期的な保存修復記録を次の調査へつなげる基盤になります。

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