金網越しの文化財TLS計測で偽点が生じる理由
博物館、収蔵施設、寺社、史跡の公開施設などでは、展示物や文化財を保護するため、金網や金属製の柵を隔てて対象を公開していることがあります。文化財を移動できない、保護設備を取り外せない、公開中の施設で計測する必要があるといった条件では、TLSによる文化財計測も金網越しに実施しなければならない場合があります。
このような環境では、単純に金網の奥へレーザーが届けば正しい点群が得られるとは限りません。計測結果を見ると、手前の金網面と奥の展示物表面の間に、本来存在しない点が浮いているように見えることがあります。展示物の輪郭から奥行き方向へ点が伸びたり、細い形状が実物以上に太く見えたりする場合もあります。こうした現象は、文化財本来の凹凸や欠損と区別しにくいため注意が必要です。
TLSから照射されるレーザーは、数学上の幅のない直線として対象へ到達するわけではありません。機器の特性や測距距離などによって、対象位置では一定の広がりを持ちます。そのため、細い金網の線材や網目の境界付近をレーザーが通過すると、照射領域の一部が手前の金網に当たり、別の一部が奥の展示物へ到達するような条件が発生することがあります。
手前と奥で距離が大きく異なる二つの面が一つの照射領域に含まれると、取得される距離値が境界部で不安定になることがあります。計測方式や対象表面の状態によって現れ方は異なりますが、金網と展示物の間へ点が分布したり、境界部の点群が厚く見えたりする可能性があります。
さらに、金網は細い金属線で構成されていることが多く、線材の曲面、塗装、さび、汚れ、表面処理などによって反射状態も変わります。奥にある文化財も、木材、石材、金属、陶磁器、漆面、顔料を含む表面など材質が多様です。そのため、金網だけを考えて計測位置を決めても、展示物側の入射角が悪くなれば、今度は必要な面の点密度が不足する可能性があります。
金網越しのTLS文化財計測では、偽点をすべて後処理で消せばよいと考えないことが重要です。文化財には細い装飾、彫刻、ひび割れ、欠損端部、補修箇所、工具痕などが存在するため、自動的な外れ値除去を強くすると、本物の形状まで除外するおそれがあります。点群をきれいに見せることより、実物を忠実に記録し、後から計測条件を説明できる状態を残すことが優先されます。
そこで重要になるのが、TLS、金網、展示物の位置関係を変えながら照射角を調整し、偽点が生じにくい観測方向を現場で探す方法です。特定の角度を一律に正解とするのではなく、左右、高さ、斜め方向を変え、金網の線材と展示物の投影関係を確認しながら計測位置を決めていきます。
照射角調整1 金網への正対を避けて斜め方向から計測する
最初に確認したいのが、TLSを金網の真正面へ置いた配置です。展示物の正面形状を記録しようとすると、計測者は自然とスキャナ、金網、展示物の中心をほぼ一直線に配置したくなります。しかし、金網越し計測では正対配置が必ずしも有利とは限りません。
金網を真正面から見ると、縦線と横線が規則的に並び、その交点も一定の位置関係で展示物の前に投影されます。展示物の輪郭や細部が金網線と重なっている場合、正面方向から高密度で繰り返し取得しても、遮蔽そのものが解消されない可能性があります。
そこで、基準となる正面方向を確認した後、TLSの設置位置を左右のどちらかへ移し、金網に対して斜め方向からレーザーが入るようにします。観測方向が変わると、手前の金網と奥の展示物の見かけ上の重なりも変化します。正面では金網線の後ろに隠れていた表面が、斜め方向では隣の網目から見える場合があります。
斜め方向からの計測には、偽点を判断しやすくする効果もあります。正面方向でのみ金網と展示物の中間に点が現れ、斜め方向では展示物の実面が明確に取得できていれば、正面側に存在する中間点を観測条件による不安定な点として検討しやすくなります。
ただし、斜めにすればするほどよいわけではありません。展示物表面に対して入射角が極端に浅くなると、点密度が低下したり、凹凸の裏側が新たに欠測したりすることがあります。文化財が複雑な彫刻や曲面を持つ場合には、金網を避けたことで別の部分が見えなくなることもあります。
実務では、最初から大きく移動するのではなく、設置可能な範囲で少しずつ左右へ位置を変えながらテスト取得を行う方法が有効です。位置を変更するたびに、金網と展示物の間に浮く点が減っているか、展示物表面の点密度が維持されているか、輪郭が不自然に厚くなっていないかを確認します。
重要なのは、特定の角度値を目標にすることではありません。網目寸法、金網線の太さ、金網から展示物までの距離、TLSから対象までの距離が現場ごとに異なるため、最適な位置も変化します。角度を数値だけで管理するより、実際に得られた点群を確認しながら、金網と文化財の分離状態が良好な方向を選ぶほうが実務的です。
照射角調整2 網目を通過する視線を意識して左右方向の角度を変える
金網越しに文化財を計測するときは、金網を一枚の平面として見るだけでは不十分です。一つ一つの網目を小さな開口と考え、TLSから展示物へ向かう視線がどの網目を通るのかを意識すると、効果的な計測位置を探しやすくなります。
正面から見たときに展示物の重要な突起が縦方向の線材と重なっていても、TLSを横方向へ移動すると、その突起へ向かう視線が隣の網目を通るようになる場合があります。金網と展示物の間に一定の距離があるほど、観測位置を少し変えたときの投影位置の変化も現れやすくなります。
逆に、金網と展示物が非常に近接している場合には、左右へ位置を変えても金網線と対象表面の重なりが大きく変わらないことがあります。その場合は左右方向だけで解決しようとせず、高さ変更や別方向からの追加取得も組み合わせる必要があります。
左右方向の調整では、一度に大きく移動するよりも、金網上の線材が重要部位の前からどの方向へ動くかを目視しながら位置を決めると効率的です。銘文、彫刻、欠損端部、接合部、細い装飾など、文化財記録で優先度の高い部分について、金網の交点や線材が重ならない観測方向を探します。
一つの角度で展示物のすべてを取得できなくても問題ありません。左側の重要部位は右斜め方向から、右側の部位は左斜め方向から取得するなど、部位ごとに有利な視線を使い分ける考え方が有効です。
このとき注意したいのが、単純に取得点数の多い方向を最良と判断しないことです。金網自体が大量に取得されれば、点群全体としては高密度に見えます。しかし、奥の文化財表面が十分に取得できていなければ、記録としての価値は高まりません。必要なのは点数そのものではなく、目的とする文化財表面が連続して再現されていることです。
左右から取得した結果は、後処理で偽点を判断する材料にもなります。ある方向だけに存在する突起状の点や中間点が、別方向では再現されない場合、金網境界の影響を疑うことができます。一方、観測方向を変えても同じ位置に安定した形状が現れる場合は、文化財本来の形状である可能性を考えます。
文化財計測では、見慣れない凹凸をすぐにノイズと決めつけないことが重要です。破損、風化、補修跡などが不規則な形状を作っている可能性があります。左右の異なる方向から再現性を確認することは、偽点除去の安全性を高めるためにも有効です。
照射角調整3 計測高さを変えて上下方向の照射角を確保する
左右方向へTLSを移動しても偽点や欠測が残る場合は、計測高さを変えて上下方向の照射角を調整します。金網には縦線だけでなく横線も存在するため、水平方向だけを変えても横線の奥にある部分は隠れ続ける可能性があります。
例えば、展示物の銘文や細い装飾が金網の横線とほぼ同じ高さに位置している場合、TLSを左右へ動かしても、その横線との重なりは大きく変化しないことがあります。この場合は計測位置を高くする、または低くすることで、別の網目から対象へ向かう視線を作ります。
高さ変更は、展示物の上面や下面を記録するうえでも効果があります。立体的な文化財では、正面だけでなく、台座上面、張り出し部の下面、彫刻の下側、部材上端なども重要な記録対象になる場合があります。金網越しではこれらの面がさらに隠れやすいため、上下方向からの補完が有効です。
ただし、極端な高所や低所からの斜め計測には注意が必要です。展示物表面をかすめるような浅い入射角になると、必要な点が得にくくなることがあります。また、彫りの深い部分では、上から見れば上面は取れても下面が隠れるなど、新たな遮蔽が生じます。
そのため、標準となる高さを一つ決めた後、重要部位に対して不足がある場合だけ上下方向の追加位置を設定する方法が効率的です。高さを変えたスキャンを取得したら、各位置を別々に表示し、どの高さがどの部位の補完に寄与しているかを確認します。
文化財施設では、機材を高く設置したり床近くへ下げたりすることで、来館者動線や展示設備との干渉が生じる場合もあります。照射角の改善だけを優先せず、三脚などの設置安定性、文化財への接触防止、周囲の安全確保を含めて計測位置を決める必要があります。
高さを変えた点群では、欠測面積だけでなく、金網と展示物の間へ分布する点にも注目します。横断方向の断面を確認すると、ある高さでは展示物表面が厚く見えているのに、別の高さでは薄く明確な面として取得されていることがあります。その差は、有利な照射方向を選ぶための判断材料になります。
照射角調整4 金網と展示物の重要部位が重ならない方向を探す
金網越しのTLS計測では、展示物全体を均等に取得しようとするだけでなく、記録上重要な部位と金網線の投影関係を確認することが大切です。
文化財の全体形状が取得できていても、銘文、特徴的な彫刻、破損箇所、接合部、保存処置部分などが金網の交点と重なっていれば、調査目的によっては十分な成果になりません。特に将来の経年比較を目的とする場合、変化を確認したい箇所が安定して取得できていることが重要です。
計測前には、TLSの候補位置から対象を目視し、重要部位の前を金網のどの線材が通っているか確認します。そこから少し横へ移動した場合、高さを変えた場合に線材の投影位置がどう変化するかを見れば、計測前の段階でも有効な候補位置を絞り込めます。
この考え方では、一つのスキャンで全体を完成させようとしません。ある位置は正面中央の形状取得に適し、別の位置は右側の重要部位に適し、低い位置は台座周辺に適しているというように、各計測位置へ役割を持たせます。
役割を分けておくと、後処理でも判断しやすくなります。例えば、正面のスキャンで銘文周辺に金網由来と考えられる点が存在しても、その銘文を補完する目的で取得した斜め方向のスキャンを参照できます。単一方向だけを見て点を削除するより、実形状を確認しながら編集できます。
複数方向の点群を利用する場合には、位置合わせの品質も確認する必要があります。異なる計測位置から得た点群の位置合わせにずれがあると、文化財表面が二重化したり、厚く見えたりします。この状態を金網による偽点と誤認すると、対策を間違える可能性があります。
そのため、各スキャン単体で金網付近の状態を確認した後、統合結果でも形状の整合を確認します。金網由来と考えられる点と、位置合わせによって生じたずれは原因が異なるため、切り分けて評価することが重要です。
照射角調整5 一方向にこだわらず複数方向から補完する
金網越しの文化財TLS計測では、一つの位置だけで完全な点群を得ようとすると作業が不安定になりやすくなります。同じ方向から計測密度だけを上げても、金網による物理的な遮蔽が解消されるわけではないからです。
レーザーの視線が金網線に遮られている部分では、同じ方向から取得点数を増やしても、奥の文化財表面へ直接到達する視線は増えない場合があります。場合によっては、金網線の周辺にある不安定な点を高密度に取得する結果にもなります。
そこで、正面、左右斜め、上下といった複数方向から必要な部分を補完する考え方を基本にします。正面方向では全体形状を把握し、斜め方向では金網線の裏側になっている部分を補完し、高さを変えた方向では横線による遮蔽を避けます。
複数方向を使う利点は、欠測を減らすことだけではありません。偽点と実形状の判別にも役立ちます。ある視点だけに現れる不自然な突出点が、他の複数視点では再現されない場合、計測条件による影響を疑う材料になります。
逆に、観測方向を大きく変えても同じ形状が繰り返し現れる場合には、その形状が実際に存在する可能性を重視できます。文化財にある細い突起や欠損端部は自動処理ではノイズと判断されやすい場合があるため、方向を変えて再現性を確認する方法は有効です。
ただし、スキャン数は多ければ多いほどよいわけではありません。不要な計測位置が増えると、位置合わせ、データ管理、確認、編集に必要な作業も増えます。文化財の重要部位と金網による遮蔽箇所を先に確認し、それらを補完できる方向へ追加計測を配置することが効率化につながります。
計測時には、各スキャンの目的も記録しておきます。正面確認用、右側遮蔽補完用、上面確認用など、取得目的が分かれば、後から異常な点を発見したときに観測条件へ戻って確認できます。
文化財計測では、編集結果を後から説明できることも重要です。「見た目が不自然なので消した」のではなく、「特定の観測方向だけで発生し、別方向から実際の表面を確認できたため除外した」と説明できる状態を作ることで、成果の信頼性を高めやすくなります。
照射角調整6 金網のエッジをかすめ続ける角度を避ける
金網越し計測で特に注意したいのが、レーザーが線材の輪郭付近をかすめる条件です。金網線の中央部分へ当たる場合と、その縁ぎりぎりを通る場合では、照射範囲の中に含まれる対象が異なることがあります。
線材の縁では、照射領域の一部が手前の金網へ当たり、別の一部が奥へ抜ける条件になりやすくなります。奥には展示物だけでなく壁や台座などが存在することもあるため、深さの異なる複数の面が近接して取得される可能性があります。
点群を正面から眺めただけでは、このような状態を発見できないことがあります。そこで、金網面とほぼ直交する方向に断面を作り、手前から奥へ点がどのように分布しているか確認します。
金網線に対応する点は手前側、展示物に対応する点は奥側へまとまることが期待されます。その間へ不規則な帯状の点が存在したり、金網線の位置から奥へ尾を引くように点が並んだりしている場合には、境界部の取得状態を詳しく確認します。
このような状態が特定の計測位置で目立つ場合、測定設定だけを変更するより、TLS自体を少し移動させるほうが改善することがあります。わずかな位置変更でも、レーザーが金網線の縁を通っていた視線から、網目中央寄りを通る視線へ変わる可能性があるためです。
ただし、金網と展示物の間に存在する点を一律に偽点と判断してはいけません。文化財側に細い突起、金具、装飾、支持材などが存在する場合には、実際に中間位置へ形状がある可能性があります。現地での目視、写真記録、他方向からの点群などを参照しながら判断します。
金網線の断面形状も影響します。丸い線材では観測方向によってレーザーが当たる面の傾きが連続的に変化し、角形の線材では面とエッジの位置関係が異なります。さらに表面のさびや塗膜も均一とは限りません。そのため、特定の固定角度を万能な条件として適用するのではなく、実際の点群で不安定な点が少ない方向を探すことが現実的です。
照射角調整7 展示物表面の反射特性も含めて入射角を調整する
金網越しの計測では、手前の金網だけに注意が向きやすいですが、奥にある文化財表面の状態も同時に確認する必要があります。
文化財には木材、石材、金属、陶磁器、漆塗り、顔料を含む表面など、さまざまな材料が使われています。表面の粗さ、光沢、色調、劣化状態などによって、レーザーが戻る状態は一様ではありません。また、同じ文化財でも平面、曲面、彫刻、欠損部などが混在するため、一つの計測位置から見た入射角は部位ごとに異なります。
金網を避けるためにTLSを大きく横へ移動した結果、金網由来の不安定な点は減ったものの、文化財表面への入射角が浅くなり、必要な部分の点密度が下がることがあります。これでは金網対策としては成功しても、文化財記録全体としては十分とはいえません。
角度を調整するときは、金網付近の偽点だけを見るのではなく、奥の展示物表面が連続して取得できているかも同時に確認します。特に輪郭、細い装飾、深い彫り、曲面、光沢のある部分などは、観測方向を変えた影響が現れやすい場所です。
実務では短いテスト取得を行い、金網と展示物の中間に現れる不自然な点、展示物表面の点密度、輪郭の連続性、重要細部の再現状態を比較します。そのうえで、一つの方向だけで完璧な条件を探すのではなく、複数方向の長所を組み合わせます。
表面状態による欠測と、文化財本来の欠損を混同しないことも重要です。点群上で空白になっている場所が、実際に文化財の欠損なのか、観測条件によって取得できなかっただけなのかは、点群だけでは判断できない場合があります。
そこで、現場写真や目視記録も併用します。文化財計測の目的は、滑らかで見栄えのよい三次元モデルを作ることだけではありません。現状をできるだけ忠実に記録し、将来の調査や比較へ利用できる情報を残すことが重要です。
金網を避ける角度と、文化財表面を良好に取得できる角度の両方を確認しながら計測位置を決めることが、金網越しTLS計測の品質を安定させるポイントです。
角度調整後は点群断面と複数視点で偽点を確認する
照射角を変更した後は、現場で取得した点群を確認します。すべての計測を終えてから別の場所で初めてデータを確認すると、問題が見つかったときに同じ展示条件で再計測できない可能性があります。
最初に確認したいのは、金網と展示物の間の奥行き方向です。正面表示では金網点と展示物点が重なり、不自然な点が見えにくいことがあります。そこで、金網面を横切るように断面を取り、手前から奥への点の分布を確認します。
金網線に対応する点と展示物表面に対応する点がそれぞれ明確な位置へまとまっているかを見ます。両者の間に帯状の点が続いていないか、金網の縁から奥へ点が伸びていないか、展示物表面が必要以上に厚くなっていないかを確認します。
次に、複数位置から取得したスキャンを個別に表示します。統合後の点群だけを確認すると、どの位置で不安定な点が発生したのか分からなくなる場合があります。正面、左斜め、右斜め、高い位置、低い位置などを個別に確認することで、偽点の発生と照射角の関係を追跡できます。
文化財の輪郭部分は特に注意が必要です。輪郭、穴、欠損端部、細い彫刻、張り出し部などでは、対象の手前と背景との距離差が大きくなります。そこへ金網が加わると、奥行きの異なる複数の境界が存在するため、不安定な点が発生しても見分けにくくなります。
自動的なノイズ除去だけで処理すると、本来残すべき文化財の細部まで消える可能性があります。断面、複数方向の点群、現地写真を組み合わせながら、実物形状との整合を確認して除外範囲を決めます。
また、異なる観測方向の点群同士がずれて見える場合には、すぐに偽点と判断せず、位置合わせの状態も確認します。基準となる面や特徴点が適切に一致していないと、本来一つの表面が複数層に見えることがあります。
現場では、問題を発見した時点で計測位置を変えて追加取得できる体制が理想です。移動量を固定する必要はありません。対象と金網の距離関係を見ながら視線を変え、短いテスト取得と断面確認を繰り返して有効な方向を探します。
照射角調整は最初に一度だけ行う設定作業ではなく、取得結果を見ながら改善する工程です。計測、確認、位置変更、再取得という短い循環を現場で回すことで、後処理に頼りすぎない点群を作りやすくなります。
金網そのものも計測条件を示す記録として残す
金網越しに文化財を計測していると、金網の点は不要な障害物データに見えます。しかし、取得直後から金網部分をすべて削除してしまうことは避けたほうが安全です。
金網の位置は、計測時にどのような遮蔽物が文化財の前に存在したのかを示す重要な情報です。偽点の原因を後から検証するときも、金網線の位置、方向、展示物との距離関係が残っていれば、問題が発生した視線を推定しやすくなります。
元の点群は編集せずに保存し、作業用の複製データで金網と文化財を分類する運用が適しています。必要に応じて金網を非表示にして展示物を確認しつつ、判断に迷ったときは元の状態へ戻れるようにします。
文化財の三次元記録は、取得直後だけでなく将来再利用される可能性があります。数年後に再計測を行い、変化を比較する場合もあります。その際、編集済みの文化財点群だけが残っていて、どの部分をどの理由で削除したのか分からない状態では、過去データの解釈が難しくなります。
金網自体が展示環境の記録になる場合もあります。保護設備が更新された場合、過去の計測時点にどの位置へ金網が存在したのかを残しておけば、再計測データとの条件差を把握しやすくなります。
金網点を削除する場合にも、単純な距離条件だけで一括除去するのは慎重に行う必要があります。展示物と金網の距離が近い場所では、文化財側の突出部と金網が近接していることがあります。広い範囲を機械的に削除すると、実形状まで失う可能性があります。
元データを保存し、編集内容を追跡できるようにしておくことで、文化財計測としての説明可能性を確保しやすくなります。不要点の少なさだけではなく、どのような条件で計測し、どのような根拠で点を除外したのかを後から確認できることも、成果品質の一部と考える必要があります。
現場で照射角を効率よく調整するための運用ポイント
金網越しのTLS文化財計測では、角度を無計画に変え続けるとスキャン数だけが増え、後処理が複雑になります。現場では、計測前に確認箇所を絞り込み、必要な方向だけを追加することが重要です。
まず、対象となる文化財を目視し、計測目的を明確にします。全体形状の記録が目的なのか、彫刻や銘文の詳細記録が必要なのか、将来の変位比較に使うのかによって優先する部位が変わります。
次に、基準となる計測位置から金網と重要部位の重なりを確認します。金網線が重要部位を横切っている場所を把握したうえで、左右または上下へ移動したときに視線が改善する方向を探します。
最初のスキャン取得後には、点群全体を眺めるだけでなく、問題が起こりやすい部分を断面表示します。金網と展示物の中間点が多い場所を特定できれば、その場所を改善できる方向だけ追加計測すればよくなります。
追加位置では、何を補完するための計測なのかを記録します。単に計測位置の番号を付けるだけでなく、右側彫刻部補完、上面確認、金網横線回避などの目的を現場記録へ残しておくと、後工程で利用しやすくなります。
また、TLSの設置位置、高さ、金網までのおおよその距離、対象との位置関係も記録しておくと、異常な点が発見された際の原因追跡に役立ちます。精密な計測記録が必要な場合には、現場の管理基準に合わせて座標や基準点との関係も整理します。
スキャン密度を上げる前に観測方向を見直すことも重要です。金網によって視線が遮られている状態では、高密度化だけで解決できない問題があります。まず幾何的な条件を改善し、そのうえで必要な点密度を設定するほうが効率的です。
さらに、文化財を傷つけないことが最優先です。より有利な照射角を求めるために、金網や展示設備へ機材を接触させたり、無理な位置へ三脚を設置したりしてはいけません。文化財の保存環境と施設側の運用条件を守れる範囲で最適な視点を探します。
現場で再計測が可能なうちに点群を確認する運用を整えておけば、事務所へ戻った後に重大な欠測や偽点が判明するリスクを減らせます。特に金網越しの対象は、通常の開放された文化財よりも観測方向による差が大きくなりやすいため、現地確認の重要性が高くなります。
まとめ
文化財TLS計測で金網越しの展示物を取得するときは、金網を単なる前景の障害物として考えるのではなく、レーザーの通過経路を細かく変化させる立体的な遮蔽物として扱う必要があります。
特に注意したいのは、細い金網線の輪郭付近です。レーザーの照射領域に手前の金網と奥の展示物が同時に関係する条件では、対象や計測方式によって距離取得が不安定になる場合があります。その結果、金網と展示物の中間へ点が現れたり、輪郭が厚く見えたりする可能性があります。
対策の第一歩は、金網へ真正面から向けた一方向の計測だけに依存しないことです。左右へ位置を変え、網目を通る視線を意識しながら金網線との重なりを変えます。水平方向だけでは解消できない遮蔽には高さ変更を加え、別の網目を通る上下方向の視線を確保します。
文化財の重要部位と金網の投影位置も確認します。全体が取得できていても、銘文や欠損部など調査上重要な場所が金網の交点に隠れていれば、別方向から補完する必要があります。
一つのスキャンですべてを完成させようとせず、正面、左右、上下など複数方向の役割を分けることで、欠測を減らしながら偽点も判断しやすくなります。異なる方向から同じ形状が再現されるか確認することは、文化財本来の細部を誤って削除しないためにも有効です。
また、金網のエッジをかすめ続ける観測方向では、金網と展示物の中間に不安定な点が生じていないかを断面で確認します。問題がある場合は、設定だけに頼らずTLSの位置や高さを少し変え、視線そのものを変更します。
金網を避けることだけを優先して極端な斜角にすると、奥の文化財表面が取得しにくくなる場合があります。そのため、金網由来の不安定な点が減っているかだけでなく、展示物表面の点密度、輪郭の連続性、重要な凹凸の再現性も同時に評価する必要があります。
計測後は正面表示だけで判断せず、金網と展示物を横切る断面を作り、奥行き方向の点分布を確認します。さらに各計測位置を個別に表示し、特定方向だけに存在する点なのか、複数方向で再現される形状なのかを比較します。点群同士が二重化している場合には、金網だけでなく位置合わせの状態も確認します。
元データは可能な限り保持し、金網点も計測条件を示す記録として残しておくことが大切です。編集用データ上で分類や除外を行えば、後から判断を検証できます。文化財では、削除した点が実際には細い装飾や欠損端部だったという事態を避けなければなりません。
金網越しのTLS文化財計測で重要なのは、後処理で大量の点を消すことではなく、現場で観測方向を変えながら実形状を確認できるデータを取得することです。左右、上下、斜め方向を組み合わせ、金網と展示物の重なりを変えながら再現性を確認することで、偽点と実形状を区別しやすい点群を作れます。
さらに、TLSで取得した文化財点群を現地の位置情報や周辺状況と関連付けて管理したい場合は、計測位置や確認箇所を座標とともに記録できる仕組みを組み合わせると、再計測や現地確認の効率を高めやすくなります。文化財の現場で位置情報を取得しながら確認点や計測位置を整理する運用を検討する際には、LRTK Phoneを活用した測位・現地記録も選択肢の一つとして確認してみてください。