TLSで大径神木周辺の根上がりを記録する目的
寺社や史跡、公園、旧街道沿いなどには、地域の歴史や信仰と深く結びついた大径木が残されています。長期間にわたって保存されてきた神木や御神木、保存樹などでは、幹そのものだけでなく、地表へ現れた太い根や根元周辺の地形も重要な記録対象になることがあります。
大径神木の周辺では、成長に伴って根が地表を押し上げたり、表土が流出して根が露出したりすることがあります。参道や石敷き、縁石、石垣、建築物などが近接している場所では、根上がりと周辺構造物の位置関係を継続的に把握することも重要です。
こうした対象を三次元で記録する方法の一つがTLSです。TLSは地上に設置したレーザースキャナーから周囲へレーザーを照射し、対象物までの距離と方向を取得して多数の三次元点を生成します。写真だけでは把握しにくい根の高さ、傾斜、張り出し、幹との位置関係を点群として保存できることが大きな特徴です。
一方、大径木の根元はTLSにとって簡単な対象ではありません。根が複雑に交差し、幹が太く、低い草や落ち葉、石、柵、灯籠などが存在するため、一方向から計測しただけでは多くの死角が発生します。特に根上がりの高さを記録したい場合、上面だけが計測できても意味は十分ではありません。根の側面や根と地表の境界、根同士の間に形成された谷部まで取得して初めて、立体的な変化を比較しやすくなります。
そのため文化財TLS計測では、機器の性能だけではなく、どこへスキャナーを配置するかが成果を大きく左右します。同じ神木を計測しても、設置位置が偏れば点群に欠測が増え、数年後の比較に使いにくい記録になる可能性があります。
大切なのは、神木へ近づけば近づくほど良いという考え方ではありません。根系への踏圧や機材接触を避けながら、複数方向から適切な入射角を確保する必要があります。安全な外周から全体を取得し、遮蔽が生じる場所だけを別方向から補完する考え方が基本になります。
ここでは、大径神木周辺の根上がりを三次元記録することを目的として、TLSを配置するときに検討したい7つの配置を解説します。
計測前に根上がりと周辺環境を確認する
TLSを設置する前に、まず現地を一周して対象範囲を確認します。いきなり機器を据えて計測を開始すると、後から重要な根の裏側が取得できていないことに気付き、再度設置し直すことになりやすいためです。
最初に確認したいのは、幹の外周形状と主要な根の伸びる方向です。大径木の根元は円形とは限りません。板根状に大きく張り出している部分、地面へ緩やかに沈み込む部分、根が交差している部分などが存在します。周囲360度を観察し、記録したい特徴がどの方向にあるかを把握してから配置を決めます。
次に、根と周辺構造物との関係を確認します。文化財周辺では、石段、石敷き、縁石、玉垣、社殿基礎、排水施設などが近くに存在することがあります。根上がりを長期記録する場合、根だけを点群化するよりも、比較的安定している周辺構造物を同時に計測しておく方が後年の比較に利用しやすい場合があります。
ただし、石や構造物が近くにあるからといって、その上へ自由に機器を設置できるわけではありません。文化財として保護されている対象では、管理者が指定した立入範囲や機材設置条件を優先します。樹木周辺についても、根の露出部分を踏まないことはもちろん、表面上は根が見えなくても地下に根系が広がっている可能性を考慮する必要があります。
三脚の脚先をどこへ置けるか、計測者がどこを歩けるか、機器搬入経路をどうするかまで含めて事前に決めておくと、不要な踏圧を減らせます。
また、現地確認では植生も見ます。低木、笹、草、落ち葉などが根の輪郭を遮っている場合があります。ただし、計測のためだけに植生や堆積物を勝手に移動してはいけません。除去や移動が必要な場合は、管理者や保存担当者と対応を確認したうえで行います。
TLS計測で重要なのは、根上がりをきれいな三次元モデルにすることだけではありません。計測時の状態そのものを保存記録として残すという視点が必要です。落ち葉や苔などを含め、何を現状として記録し、何を一時的な遮蔽物として扱うのかを事前に決めておくと、後の点群整理でも判断しやすくなります。
配置1 基準となる外周正面から全体形状を押さえる
最初の配置は、大径神木から一定の距離を確保した外周位置です。ここでは根上がりの細部を狙うよりも、幹、根元、周辺地表、近接構造物を一つの視野に収めることを優先します。
最初から根へ近づいて計測すると、一つ一つの根は高密度に取得できても、神木全体の位置関係が分かりにくくなる場合があります。そのため、まず外周から基準となる広い点群を取得します。
配置位置は必ずしも真南や正面など特定の方角である必要はありません。現場で見通しが良く、安全に設置でき、幹の主要部分と地表を広く見渡せる方向を選びます。
この配置で重要なのは、根上がりだけに照準を合わせないことです。幹の立ち上がり、根元周辺の地形、石敷きや縁石なども一緒に取得します。周囲の固定物が点群に含まれていれば、後日行う再計測データとの位置合わせに活用できる可能性があります。
神木の根上がりは、数センチ程度の局所的な形状だけを見て評価するものではありません。地表そのものが沈下したことで根が露出したように見える場合もあれば、根の肥大によって周囲の舗装や土が押し上げられる場合もあります。したがって、比較対象となる周辺地盤まで含めて記録することが大切です。
外周から取得することで、近距離では死角になりやすい根の上面も把握しやすくなります。一方で、根の側面や幹の裏側は欠測しやすいため、この配置だけで計測を終了してはいけません。
配置1は、7つの配置をつなぐ基礎となるスキャンです。後続の計測位置を考えるときも、この位置から見えていない箇所を確認しながら配置を追加していくと効率的です。
配置2 幹の反対側から遮蔽部分を補完する
大径神木では幹そのものが巨大な遮蔽物になります。配置1からレーザーを照射すると、幹の向こう側にある根はほとんど取得できません。そこで、2番目の配置は最初の位置に対して反対側へ回り込みます。
理想的には、配置1と配置2の点群が幹の左右や根元周辺で十分に重複する位置を選びます。完全な正反対に置くことへこだわる必要はありません。文化財保護、安全な動線、周囲の構造物などを考慮し、取得範囲が補完関係になる場所を選ぶことが重要です。
反対側から計測すると、最初のスキャンでは幹に隠れていた根の形状が現れます。また、根元のくびれや幹から根へ移行する部分も別方向から観察できます。
ここで注意したいのが、二つのスキャンの間に十分な共通部分を確保することです。配置1では神木の東側だけ、配置2では西側だけというように完全に別々の面だけを取得すると、後で点群を統合するときに位置合わせが難しくなることがあります。
幹表面、地面、周辺構造物など、双方から確認できる領域をできるだけ確保します。現場条件に応じて基準点や標識などを使用する場合も、複数位置から観測できるように配置を計画します。
また、大径木の表面には凹凸が多いため、幹の一部分だけを位置合わせの根拠にすると不安定になる場合があります。神木だけに依存せず、周囲の安定した地物も含めて取得しておくことが望まれます。
配置1と配置2によって大径神木をおおむね両側から挟むことができれば、全体の骨格となる三次元記録が形成されます。ここから先は、根上がり特有の細かな死角を補うための配置へ進みます。
配置3 根張りが大きい方向へ斜めから配置する
大径神木では、複数の太い根が放射状に伸びています。そのなかでも根上がりが大きい場所は、長期変化を追ううえで重要な観測対象になります。
ただし、大きく盛り上がった根を正面から計測するだけでは、根の頂部が手前側の側面を隠す場合があります。そこで配置3では、主要な根に対して斜め方向からレーザーが当たる位置を選びます。
根が伸びる方向とTLSの視線方向を完全に一致させるのではなく、少し横から見ることで、根の上面と側面を同時に取得しやすくなります。人が尾根を見るときに、真上や真正面よりも斜めから見た方が立体形状を理解しやすいのと同じ考え方です。
この配置で記録したいのは、根の最大高さだけではありません。地表からどの位置で根が立ち上がり、どの程度の幅を持ちながら幹へ接続しているかという連続形状です。
根上がりを経年比較するとき、最高点だけを比較しても変化の原因を判断しにくい場合があります。例えば根の位置がほぼ変化していなくても、周囲の表土が数年間で流出すれば、露出高さが増えたように見えます。逆に土砂が堆積すれば、根の一部が埋まり、高さが小さく見えることがあります。
斜め方向から根と周囲地盤を連続的に取得しておけば、根そのものの形状変化と地表面変化を分けて検討しやすくなります。
大径根が複数ある場合、すべての根へ個別に一台ずつ配置する必要があるとは限りません。一つのスキャン位置から複数の根の側面を取得できる地点を探し、必要に応じて追加計測する方が、文化財周辺への立入りも抑えられます。
配置4 根と根の谷部を捉える接線方向に配置する
根上がり計測で特に欠測しやすいのが、太い根と根の間に形成される谷部です。大径木を上方や正面から見ると、盛り上がった根が壁のようになり、その奥側へレーザーが届かないことがあります。
このため配置4では、根の列に対して横方向、いわば接線方向から谷部をのぞき込める位置を選びます。
ここで狙うのは、幹の中心ではありません。根同士の間にレーザーが通る経路を見つけ、その延長上へ機器を設置します。根元周辺を歩きながら目線を低くし、谷部の地表が見える方向を探すと配置を判断しやすくなります。
根と根の間は、水や落ち葉が集まりやすい場合があります。雨水の流れ、土砂の堆積、表土流出などによって局所的な地形変化が生じることもあるため、長期記録では重要な場所です。
点群上で根の頂部だけが密に取得され、谷部が大きな空白になっていると、地表モデルを作成するときに実際とは異なる面が生成される原因になることがあります。点のない領域を周囲の点から自動的に補間すれば、そこに存在しない平滑な地表が作られてしまう可能性があります。
したがって、根上がりを正しく記録するには、見栄えの良い根の上面だけでなく、根と根の間の低い場所を積極的に取得することが大切です。
谷部へレーザーを通すために機器を根元へ過度に近づける必要はありません。安全な外周位置から接線方向を探し、それでも不足する部分だけ追加配置を検討します。文化財TLS計測では、データ密度を高めるために保護対象へ負担をかけるという順序にならないよう注意が必要です。
配置5 低い視点から根上がり側面を記録する
一般的なTLS計測では、機器を扱いやすい高さに設置することが多くなります。しかし、根上がりの記録では高い位置からの計測だけでは側面が欠けやすくなります。
根が地面から大きく隆起していると、通常の設置高さから照射したレーザーは根の上面へ当たり、その手前側や奥側の低い部分まで届かないことがあります。そこで配置5では、現場条件と機器の設置条件が許す範囲で視点の高さを下げ、根の側面を取得します。
低い視点を設定すると、根と地面との境界線や、根の下部に生じた小さな空隙などを捉えやすくなります。表土の流出によって根の下が空洞状になっている場所では、上方からの計測だけでは状態を十分に把握できないことがあります。
ただし、低くすればするほど良いわけではありません。地表に近すぎると、草、小石、落ち葉などによる遮蔽が増える場合があります。また、機器を無理な姿勢で設置すると転倒リスクも高まります。
重要なのは高さの数値を固定することではなく、通常高さの点群で欠けている側面を別の入射角から補完することです。根の側面が十分取得できているのであれば、無理に低い位置を追加する必要はありません。
逆に、将来的に根の露出や地表面の低下を比較したい場合には、側面の連続点群が重要になります。根の断面を作成したときに、上面だけではなく地表との接続部まで輪郭が続いているかを現地で確認できると理想的です。
文化財周辺では三脚を地面へ強く押し込むような設置を避けなければならない場合もあります。機器の安定確保については現場条件と管理方針に従い、保護対象への影響が生じない方法を選びます。
配置6 高さを変えて根元と幹の接続部を補完する
配置5で低い視点を追加したら、次は異なる高さから根元を確認します。高さの違う点群を重ねることで、同じ根を異なる入射角から取得でき、根から幹へ移行する複雑な曲面の欠測を減らせます。
大径神木の根元には、幹の凹凸、樹皮の厚い起伏、根同士の重なりなどがあります。同じ水平面上でスキャナーを周囲へ動かすだけでは、常に上側から隠れる部分や下側から隠れる部分が残ることがあります。
そこで、周辺に安全かつ安定して利用できる高低差がある場合には、異なる高さから計測する方法を検討します。ただし、計測のために台や足場を文化財周辺へ無計画に設置するという意味ではありません。既存の安全な地盤や管理者が認めた位置を使用し、無理のない範囲で視点差をつくります。
高さを変える目的は、高所から樹冠全体を取ることではなく、根上がりと幹の接続部へ異なる角度のレーザーを当てることです。
特に幹の根元が外側へ張り出している場合、上方からのレーザーは張り出しの下面へ届きません。低い配置では反対に上面が隠れることがあります。両方の点群を組み合わせることで、より連続した形状を残せます。
ただし、樹皮は複雑な表面を持つため、点群の密度が高いからといって樹木の生物学的な変化をそのまま精密に判定できるとは限りません。季節、表面状態、水分、植生、取得条件などによって点群の見え方が変わる可能性があります。
経年比較では、個々の点の差を過度に解釈するのではなく、同じ断面や一定範囲の面形状を比較する方法が扱いやすくなります。そのためにも、この配置で幹と根の接続形状をできるだけ連続して取得しておくことが重要です。
配置7 再計測の基準を残せる外周位置に配置する
最後の配置は、その日の欠測を埋めるためだけではなく、数年後の再計測を考えた配置です。
文化財のTLS計測では、一度精密な点群を作って終了するケースだけでなく、一定期間ごとに再計測し、変化を確認する運用が考えられます。その場合、初回と次回の点群を同じ座標系または安定した基準で比較できることが重要になります。
配置7では、大径神木だけでなく、周辺に存在する長期的に位置が変化しにくい対象を広く取得します。例えば文化財管理上問題のない範囲に存在する固定構造物や、計測用として設定した基準点などが比較に利用できます。
ここで注意したいのは、生きている樹木自体を唯一の位置合わせ基準にしないことです。大径木は計測対象そのものであり、長期的には成長、老化、損傷などに伴う形状変化が起こる可能性があります。将来の変化を検出したい対象を基準にして位置合わせすると、本来確認したかった変位の一部が位置合わせ処理によって吸収される可能性があります。
そのため、根上がりの経年変化を重視する場合には、樹木とは別に安定した基準を確保する考え方が重要です。
再計測を予定しているなら、TLSの位置だけを覚えておくのではなく、どの範囲を取得したか、どの方向から計測したか、どの基準を使用したかを記録します。現地の目印は年月とともに失われる可能性があるため、座標や写真、配置図、作業記録など複数の情報を組み合わせて残します。
配置7を設けることで、今回の点群を単なる三次元写真ではなく、将来比較できる基礎資料として整理しやすくなります。
7つの配置をつなぐためのTLS計測条件
7方向から計測しても、それぞれの点群が正しく統合できなければ一つの記録として扱いにくくなります。そのため、配置計画と同時に点群同士の重複を意識することが重要です。
各計測位置では、対象となる根だけを狭く取得するのではなく、隣接する計測位置との共通領域を確保します。幹、地盤、固定構造物などが複数のスキャンに入っていれば、点群をつなぐための情報が増えます。
基準点や標識を用いる場合も、一つの計測位置からしか確認できない配置は避けます。複数地点から識別できる位置を選ぶことで、統合時の確認が容易になります。
点密度については、単純に最高密度へ設定すればよいわけではありません。必要以上に密度を上げると計測時間やデータ量が増えます。根上がりのどの程度の形状変化を記録したいのか、対象までの距離がどの程度なのかを考え、目的に適した条件を選びます。
同様に、1回のスキャンですべてを取得しようとするよりも、必要な方向を分けて取得する方が実務的な場合があります。大径神木では幹や根による遮蔽が避けられないため、配置数を減らすことだけを目的にすると欠測が増えやすくなります。
計測後は、その場で点群の取得範囲を確認できる環境であれば、根の側面や谷部に大きな欠測がないか確認します。現地を離れてから不足に気付くと、再入場や再計測が必要になります。文化財では計測可能な時間帯や立入り条件が限定されることもあるため、現場確認は特に重要です。
また、繰り返し計測する場合は毎回できるだけ近い条件で取得します。計測位置、機器高さ、対象範囲、点密度などを記録しておけば、将来の再現性を高められます。
点群から根上がりの変化を読み取る方法
取得した点群は、表示するだけでも根の広がりや凹凸を確認できますが、根上がりの記録として活用するなら比較しやすい形へ整理します。
基本になるのは断面です。例えば幹中心付近から主要な根の延伸方向へ断面を切り出すと、地表から根がどのように立ち上がっているかを確認できます。
同じ位置で数年後にも断面を作れば、根の輪郭や地表面の変化を比較できます。ただし、断面位置が毎回ずれてしまうと比較結果も変わります。そのため、断面の基準となる座標や方向を記録しておくことが重要です。
根が放射状に広がっている場合には、複数方向の断面を設定すると状態を整理しやすくなります。根の頂部だけを見るのではなく、根の左右にある地表面まで含めて断面化することで、地面側の変化も確認できます。
面として比較する方法もあります。初回点群と再計測点群を共通の基準で位置合わせし、一定範囲の表面差を確認すれば、局所的に地表が高くなった場所や低くなった場所を把握しやすくなります。
ただし、点群差がそのまますべて根の成長量を意味するわけではありません。落ち葉、植生、土砂の堆積や流出、計測角度の違い、遮蔽範囲なども結果に影響します。
文化財調査では、差分表示を自動的な判定結果として扱うのではなく、現地写真や過去の調査記録と照合しながら解釈することが重要です。
例えば根の周囲で数センチの形状差が確認されたとしても、前回は落ち葉が堆積しており、今回は除去された状態だった可能性があります。逆に、見た目には変化が小さくても地盤面が広い範囲で低下している場合があります。
点群は変化の場所を探す有用な資料になりますが、変化の原因を単独で断定するものではありません。樹木管理、文化財保存、地盤、構造物など、それぞれの専門的な観察と組み合わせて利用します。
定期計測で比較できる記録を残す
根上がりの記録価値を高めるには、点群データだけでなく計測条件も保存します。
同じ場所を数年後に計測するとき、担当者が変わっていることも珍しくありません。そのとき初回担当者の記憶だけに頼っていると、どこからスキャンしたのか、どの根を重点的に計測したのか分からなくなります。
そのため、各配置の位置、計測方向、機器高さ、対象範囲、基準点、計測日、現場状況などを記録します。
樹木では季節条件も無視できません。周囲に下草が増える時期と少ない時期では地表の取得状況が変わります。落葉樹であっても、根元の落ち葉量や周辺植生の状態によって点群に含まれる対象が変わります。
できるだけ比較しやすくするためには、年間の近い時期に計測する方法があります。ただし、文化財公開日程や天候、樹木管理作業との関係もあるため、完全に同じ条件を再現できるとは限りません。
重要なのは条件差をなくすことより、どのような条件で計測したかを残すことです。
また、根周辺の写真も併せて保存すると点群解釈を助けます。点群上に現れた突起が根なのか石なのか、局所的な欠測が植生によるものなのかといった判断を後から行いやすくなります。
三次元点群は情報量が多い一方、データだけを見ても現場状況のすべてが分かるわけではありません。TLS、写真、現場記録、座標、文化財管理記録を組み合わせることで、長期間利用できる調査資料になります。
保存形式についても、特定の作業環境だけでしか確認できない状態を避け、必要に応じて汎用的な点群データや座標情報を残しておくことが重要です。将来使用する機器や処理環境が変わることを前提に、元データと整理済みデータを区別して管理すると再利用しやすくなります。
文化財や歴史的環境に関わる神木を傷めない現場運用
大径神木をTLSで計測するとき、点群品質より先に守るべきなのが対象そのものです。
神木の根元は、一見すると十分な空き地に見えても、地下では根系が広範囲に広がっている可能性があります。三脚や機材ケースを露出根の上へ置かないことはもちろん、計測者が何度も同じ場所を歩くことによる踏圧にも注意します。
7つの配置を設定するからといって、毎回最短距離で神木の周囲を横切る必要はありません。指定された動線や既存の園路を利用し、外側から機器を移動させます。
ケーブル類を使用する場合は、根や文化財構造物へ引っ掛けないよう整理します。三脚についても通行者と接触する可能性がある場所では安全確保が必要です。
公開中の寺社や史跡では、参拝者や来訪者の動線を完全に止められない場合があります。人が頻繁に点群へ入り込むと不要な点が増えるだけでなく、計測中の機器周辺で事故が起こる危険もあります。管理者と計測時間を調整し、安全な作業区画を確保することが大切です。
樹木へ標識などを直接固定する必要がある場合も、計測者の独自判断では行わず、管理者や必要に応じて樹木管理の専門家と方法を確認します。位置合わせに必要な基準は、文化財や樹木へ損傷を与えない方法を優先して設定します。
根上がり周辺を見やすくするために、苔、落ち葉、土などを独自判断で取り除くことも適切ではありません。それ自体が保存対象や記録時の状態を変える可能性があるためです。
TLSは対象へ測定器を接触させずに大量の形状情報を取得できる点が文化財記録に適しています。しかし、TLS機器そのものが非接触方式でも、設置や移動のために人が対象へ近づけば影響を与える可能性があります。
そのため文化財TLS計測では、「測定器が対象へ直接触れないから安全」と考えるのではなく、計測作業全体が対象へ与える影響を考えることが重要です。
7つの配置も固定された型として無理に適用するものではありません。現場条件によっては一部をまとめられる場合もあれば、遮蔽が多いため追加配置が必要になる場合もあります。保存上立ち入れない区域があれば、その条件を最優先し、安全な範囲から取得できる情報を組み合わせます。
TLSと現場計測を組み合わせて記録を継続する
大径神木周辺の根上がりをTLSで記録するときは、単にスキャナーを一周させるのではなく、どの形状をどの角度から取得するかを考えて配置することが重要です。
まず外周から全体形状を押さえ、反対側から幹による遮蔽を補完します。次に大きく張り出した根へ斜めから視線を通し、根と根の谷部を接線方向から取得します。さらに視点の高さを変えて根の側面と幹への接続部を補完し、最後に再計測へ利用できる基準を含む外周点群を残します。
この7つの考え方を組み合わせることで、根の上面だけではなく、側面、谷部、周辺地表、幹とのつながりまで立体的に残しやすくなります。
特に文化財の記録では、その時点で見栄えの良い三次元データを作ることだけが目的ではありません。数年後、十数年後に過去の状態を確認できることに大きな意味があります。
そのためには、点群取得日、座標基準、配置位置、計測方向、現場状態などを一緒に残し、同じ場所を再計測しやすい状態にしておくことが重要です。
一方、広範囲を高密度に取得できるTLSだけですべての現場記録を完結させる必要もありません。文化財周辺では、特定位置の座標確認、基準となる場所の記録、現場での位置確認など、点群取得とは別の作業が必要になることがあります。
こうした場面では、TLSによる面的な三次元記録と、現場で扱いやすい測位手段を役割分担させる方法があります。広い範囲や複雑な根形状はTLSで記録し、現地で残したい基準位置や観測場所は座標情報として管理すれば、次回調査時にも対象位置を確認しやすくなります。
LRTK Phoneのような現場で座標を扱える仕組みは、衛星測位条件が良好な外周部などでTLS計測位置や観測場所を記録し、後日の再訪時に位置を探す補助として活用できます。ただし、大径木の樹冠下や建築物、石造物などの近傍では、衛星信号の遮蔽やマルチパスによってGNSSの測位品質が低下することがあります。重要な基準点や長期比較の基準を設定する場合は、必要な精度に応じて別の測量手段による確認や冗長な観測を組み合わせ、単一のGNSS観測だけを唯一の基準にしない運用が安全です。
大径神木は生きた樹木であり、成長だけでなく老化、損傷、土壌や周辺環境の変化の影響も受けます。また、神木そのものが法令上の文化財として指定されている場合と、寺社や史跡などの歴史的環境を構成する重要な樹木として扱われる場合は区別して考える必要があります。TLSで現在の姿を面的に残し、位置情報を伴う現場記録を積み重ねることで、変化を感覚だけに頼らず三次元情報として振り返れる記録体系につなげられます。