吹き抜け空間で上下方向のずれが起きやすい理由
SLAM計測は、センサーで周囲の形状や画像特徴を観測しながら、自らの移動量と位置を推定し、連続した三次元空間を構築していく計測方法です。建築物の内部を歩きながら点群を取得できるため、固定式の計測だけでは手間がかかる廊下、機械室、階段室、共用部などを効率よく記録できる場合があります。一方で、計測経路や周囲の形状によっては誤差が徐々に蓄積し、実際の建物形状とは異なる位置関係で点群が生成されることがあります。
とくに注意したいのが、複数階にまたがる吹き抜け空間です。吹き抜けは上下方向に大きな空間が開いているため、一般的な室内とは観測条件が異なります。同じ階だけを移動する場合は床、壁、柱、扉、設備などが比較的近い距離に連続して存在しますが、吹き抜け側へセンサーを向けると、近距離の構造物が急に少なくなることがあります。遠方の壁や天井は観測できても、センサーの移動量を安定して推定するための近距離形状が不足すると、位置推定が不安定になる可能性があります。
さらに、吹き抜け周辺では各階の手すり、梁、柱、開口部などが似た形状で繰り返されることがあります。たとえば1階から4階まで同じ間隔で柱と手すりが続いている場合、異なる階でも局所的な形状がよく似ています。SLAM処理の方式や周囲の条件によっては、このような反復形状が位置合わせを難しくする要因になります。
上下階を移動するときも注意が必要です。水平移動では左右方向に周囲の物体との相対位置が変化しやすいのに対し、狭い階段や直線的な移動では観測できる形状の変化が限定されることがあります。階移動中に壁面だけを見続けたり、床面だけを中心に計測したりすると、上下方向の変化を十分に拘束できない場合があります。
また、計測担当者が「目的地点まで最短距離で歩く」ことだけを優先すると、SLAMにとって必要な再観測が不足しやすくなります。SLAM計測では、単に対象物を一度見ればよいわけではありません。すでに通った場所や共通する構造を異なる方向から再び観測し、過去の位置と現在の位置を対応させやすい経路をつくることが重要です。
そのため、吹き抜け空間で上下方向のずれを抑えるには、センサー性能だけに頼るのではなく、計測前に動線を設計する必要があります。どの階から始めるのか、どこで一周するのか、どの階段を使うのか、どの位置を再び通るのかを事前に決めておくことで、位置推定の安定性を高めやすくなります。
ここからは、吹き抜けを含む複数階空間をSLAM計測するときに検討したい6つの動線設計を順番に解説します。
動線設計1 同一階で基準ループを作ってから上下移動する
吹き抜け空間を計測するときに避けたいのが、計測開始直後から階段へ向かい、そのまま上階へ移動する動線です。開始直後は周囲の形状と自己位置の関係を構築している段階であり、十分な範囲を観測しないまま上下移動へ入ると、初期区間の位置関係を確認できる情報が少なくなる場合があります。
そこで、計測開始地点を決めたら、まず同じ階である程度まとまった範囲を周回します。廊下、柱、壁、出入口、吹き抜け周囲など、形状の異なる場所を組み合わせて通り、最後に開始地点またはその近くへ戻るようなルートを設定します。
重要なのは、単純な直線往復ではなく、できるだけ異なる向きから同じ構造物を観測することです。たとえば吹き抜けの片側からスタートした場合、そのまま通路を直進して戻るだけではなく、周囲を回り込んで反対方向から開始地点付近を見るようにします。これによって、柱の位置関係や壁面の角度などを複数方向から観測できます。
同一階で基準となるループを形成してから上階へ移動すると、その後の計測で位置ずれが発生した場合でも、比較対象となる安定した範囲を確保しやすくなります。計測後に点群を確認するときも、開始階の柱や床、壁面が一貫しているかを基準として確認できます。
開始地点の選定も大切です。何もない広いホール中央よりも、柱、壁、出入口、床形状など複数種類の特徴が見える場所のほうが、周辺との位置関係を把握しやすくなります。逆に、全面が均一な壁で囲まれている場所や、ガラス面が多い場所、吹き抜け側だけが大きく開いている場所などは、方式によっては開始位置として難しいことがあります。
計測開始階を一周するときには、吹き抜け側だけにセンサーを向け続けないこともポイントです。吹き抜け中央は大きな空間となっているため、反対側の構造まで距離がある場合があります。外周側の柱や壁、店舗区画、扉なども観測しながら歩くことで、近距離と中距離の形状を組み合わせて取得できます。
吹き抜けの点群を取得することだけが目的になると、担当者は手すり際へ寄り、中央方向だけを見ながら歩きがちです。しかし、SLAM計測では自己位置を安定して求めるための周辺情報も重要です。対象物だけを狙うのではなく、自分の位置を説明できる周囲の形状も同時に計測するという考え方が必要です。
また、開始時に作成したループは、計測の最後にも利用できます。全階を回ったあと同じ場所へ戻る計画にしておけば、開始時と終了時の点群がどの程度一致しているかを確認できます。この意味でも、最初に安定した基準ループを作ることは、その後の上下移動を支える重要な動線設計になります。
動線設計2 階段やスロープを使って観測を連続させる
複数階を計測するときには、階と階の間をどのように移動するかが上下方向の安定性に大きく関係します。吹き抜け空間では上階と下階の形状を個別に取得するだけではなく、その間の移動経路も含めて連続的に観測することが重要です。
利用できる場合は、周囲の構造を連続して観測できる階段やスロープを計測経路として組み込む方法が考えられます。階段では、段床、踊り場、壁、手すり、梁、開口部などが高さの変化とともに連続して現れます。こうした形状を観測しながら移動することで、下階から上階へ至る空間的なつながりを取得しやすくなります。
ここで注意したいのは、階段を単なる移動手段として速く通過しないことです。狭い階段では周囲との距離が近いため、身体の揺れや急旋回によるセンサー姿勢の変化が大きくなりやすい場所です。安全を最優先にしながら、一定のペースで移動し、踊り場では急激に向きを変えないようにします。
階段を上るときにセンサーを床だけへ向け続けるのも避けたほうがよい場合があります。高さ方向の移動を安定して捉えるには、階段そのものだけでなく、壁面、手すり、踊り場、上階側の梁や開口部など、複数方向の構造が視野に入る動きが有効です。
吹き抜けに面した階段であれば、階段側の近距離形状と、吹き抜け反対側の柱や壁などを同時に観測できることがあります。このような環境では、一方向だけを見るより、進行方向と斜め前方、周囲の固定構造を自然に捉える姿勢で移動するほうが、空間全体の関係を記録しやすくなります。
一方で、上下階を短時間で移動できる設備を利用すると、その移動中に十分な周囲形状を観測できない場合があります。SLAM計測では、計測位置が連続的につながっていることが重要になるため、計測方式や機器の仕様に応じて、どの移動方法が適しているかを事前に確認する必要があります。
どうしても観測を継続できない移動方法を使用する場合には、別区間として計測したほうが適切なケースもあります。その場合は、上下階それぞれで基準となる場所を十分に取得し、後処理や基準点を利用した位置合わせが必要になる可能性があります。すべてのSLAM機器が同じ処理方法を採用しているわけではないため、使用する機器の仕様に合わせて判断することが重要です。
実務では、「移動時間が短いか」ではなく、「下階と上階の空間関係を連続して観測できるか」という視点で階移動ルートを決めると、吹き抜け空間の上下方向を管理しやすくなります。
動線設計3 吹き抜け縁を一周し上下階で共通部分を観測する
吹き抜け空間で上下階の位置関係を安定させるためには、各階を完全に別々の空間として計測しないことが重要です。上階からも下階からも見える共通構造を意識して動線へ組み込み、異なる高さから同じ形状を繰り返し観測します。
代表的な共通構造としては、吹き抜けを貫く柱、外周壁、大型の梁、階段、吹き抜け中央に設けられた固定構造などがあります。複数階から見える柱がある場合、その柱を各階で別々の物体として捉えるのではなく、一つの連続した三次元構造として観測できる経路を作ります。
たとえば2階の吹き抜け縁を一周するときに、手すり直下だけを見るのではなく、1階から上部まで続く柱や反対側の壁を複数地点から観測します。次に3階へ移動したら、同じ柱や壁を再び異なる角度から確認します。これによって上下階に共通する特徴が増え、階ごとの位置関係を確認しやすくなります。
吹き抜け縁を一周する方法には、もう一つ重要な利点があります。同じ階の中で始点付近へ戻るため、短い閉ループを作りやすいことです。吹き抜けの片側だけを直線的に計測して次の階へ進むよりも、各階で一周してから高さを変えるほうが、階ごとの点群形状を確認しやすくなります。
ただし、手すりや柱が全階でほぼ同じ形状の場合には注意が必要です。見た目や形状が繰り返されているだけでは、どの階を観測しているのか区別しにくくなる可能性があります。その場合は、階ごとに異なる出入口、天井高さ、梁位置、壁面の凹凸、設備配置など、反復していない特徴も動線に取り込みます。
たとえば吹き抜け縁を一周する途中で、外周側の廊下へ少し入り、特徴的な壁の角や扉周辺を観測してから戻る方法があります。これにより、吹き抜け周囲の似た形状だけでなく、それぞれの階に固有の形状も取得できます。
また、上階から下階を見るときには安全管理が最優先です。手すりから身を乗り出したり、センサーを不安定な位置へ出したりしてはいけません。通常の通行位置から安全に観測できる範囲で、斜め下方向や反対側を含む形状を取得します。
吹き抜け空間のSLAM計測では、「各階を一周した」という事実だけでは十分ではありません。各階の点群を相互に結び付けられる共通構造をどれだけ取得できたかが重要です。計測計画図を作る場合には、歩行ルートだけでなく、上下階から共通して観測したい柱や壁も事前に決めておくと、現場で迷いにくくなります。
動線設計4 対角方向の視線を増やして高さ変化を捉える
吹き抜け空間では、水平面と垂直面だけを繰り返し観測するよりも、斜め方向の形状変化を含めて取得することが重要です。とくに上下方向の位置関係を確認したい場合は、高さの違う構造物を同時に視野へ入れられる場所を動線に組み込むと有効です。
たとえば吹き抜けの2階から反対側の3階付近まで見通せる場合、反対側の梁、柱、壁の角などを斜め方向から観測できます。このような視線では、水平方向と高さ方向の両方に位置関係が変化するため、平坦な壁面だけを正面から観測する場合よりも立体的な特徴を取得しやすくなります。
ここで重要なのは、センサーを大きく振り回すことではありません。急激な旋回や上下動は計測を不安定にする原因になる場合があります。歩行しながら自然な範囲で進行方向を変え、異なる場所から同じ構造を捉えることを意識します。
吹き抜けの角部は、対角方向の観測を増やしやすい場所です。中央付近では反対側までの距離が大きくなりますが、角からは隣接する二方向の壁面や柱列を同時に確認できます。また、上下階の梁や床端部が異なる方向に重なって見えるため、空間形状の違いを取得しやすい場合があります。
各階の四隅や特徴的な角部を通るルートを設定し、そこで少し進行方向を変えながら周囲を観測すると、直線通路だけを歩く場合よりも多方向から形状を取得できます。とくに長方形の吹き抜けでは、長辺方向だけを往復するのではなく、短辺側や角部も経路へ含めることが重要です。
また、吹き抜け空間では天井面が高く、上部構造との距離が大きくなることがあります。天井だけを高さ基準として考えるのではなく、柱の途中にある梁、床端部、階段の踊り場など、複数の高さに存在する固定構造を利用します。
対角方向の観測は、点群の欠測を減らすうえでも役立ちます。手すりや梁の裏側などは、一方向からだけでは見えない部分があります。同じ場所を複数方向から観測すれば、遮蔽物の裏側が別の位置から見える場合があります。ただし、すべての死角が解消できるわけではないため、必要な対象物については別方向からの追加走査も検討します。
吹き抜けを囲む通路が単純な四角形であっても、計測者の視線まで四角形に限定する必要はありません。斜め方向、高さの異なる方向、反対側への視線を組み合わせることで、SLAMが利用できる三次元的な情報を増やすことができます。
動線設計5 長い一方向移動を避け短い閉ループを複数つくる
SLAM計測では、移動しながら少しずつ自己位置を更新します。そのため、同じ方向へ長時間進み続け、過去に観測した場所へ戻らないルートでは、位置推定誤差が蓄積しても途中で修正する機会が少なくなることがあります。
吹き抜け空間を含む大規模施設では、「1階をスタートして最上階まで順番に上がり、反対側から終了する」という一本の長いルートを設定したくなります。移動距離だけを見ると効率的ですが、計測品質の観点では必ずしも適切とは限りません。
そこで、施設全体を一つの長大な経路として考えるのではなく、複数の短い閉ループへ分割します。1階を一周して開始地点付近へ戻り、階段で2階へ移動し、2階でも一周するというように、小さなループを連続させていきます。
各ループでは、開始時に見た柱や壁を終了時にも再び観測するようにします。同じ形状へ戻ることで、途中で蓄積した位置ずれを検出または補正しやすくなる場合があります。どの程度の閉ループが必要かは使用するSLAM方式や環境によって異なりますが、長距離を一方向へ進み続けないという考え方は重要です。
また、各階のループ同士を階段やスロープでつなげることで、水平ループと垂直移動を交互に配置できます。この構成にすると、「1階の水平形状」「1階から2階への高さ変化」「2階の水平形状」というように、異なる種類の観測を段階的につなげることができます。
吹き抜けが非常に大きい場合には、一つの階をさらに複数の区画へ分ける方法もあります。吹き抜け北側を周回して基準地点へ戻り、次に南側を周回するといった形です。全体を一気に取得するより移動経路は増えますが、問題が発生した区間を特定しやすくなるという利点があります。
短い閉ループは、再計測にも有利です。計測終了後に一部の点群だけが不安定だった場合、どの区間を再計測すればよいか判断しやすくなります。一本の長い経路として計測していると、不具合がどこから始まったのか判別しにくくなり、広範囲の再計測が必要になることがあります。
ただし、短く分割しすぎればよいわけでもありません。ループ間の共通部分がほとんどないと、それぞれの点群を連続した空間として扱いにくくなります。区間を分割しつつ、隣接するループ同士で共通する柱、壁、通路、階段などを十分に取得しておくことが重要です。
実務では、現場図面へ移動ルートを書き込み、「戻る場所」を先に決める方法が有効です。目的地だけを線で結ぶのではなく、どこで閉じるかを計画することで、SLAM計測に適した動線へ変えることができます。
動線設計6 終点を始点付近へ戻して閉合状態を確認する
6つ目の動線設計は、計測全体の終点を開始地点または開始地点付近へ設定することです。これは単なる作業上の利便性ではなく、計測終了時に全体の整合性を確認するための重要な考え方です。
複数階を回るSLAM計測では、途中の点群だけを見ても上下方向のずれに気付かないことがあります。各階を個別に見ると自然に見えていても、計測開始地点へ戻ったときに、同じ柱が二重に見えたり、床面に段差が生じたりすることがあります。このような現象は、経路全体の位置推定にずれが蓄積している可能性を示します。
そのため、最終階を計測したあと、そのまま終了するのではなく、可能であれば観測を継続しながら開始階まで戻ります。そして、計測開始時に取得した柱、壁の角、扉周辺などをもう一度観測します。
開始地点と終了地点を完全に同じ一点へ合わせる必要はありません。重要なのは、開始時に十分取得した構造物を終了時にも再観測できる範囲へ戻ることです。複数方向から観測できる柱や壁面がある場所なら、閉合状態を確認しやすくなります。
終了時には、最後の数歩だけを急いで歩かないことも重要です。長時間の計測を終えた直後は、担当者が終了操作を急ぎやすくなります。しかし、閉合に利用する区間は計測全体の確認に関係するため、開始時と同じように安定した歩行で通過します。
また、開始地点へ戻る途中にも、可能であれば往路とは少し異なる向きから共通構造を観測します。完全に同じ軌跡を逆方向へ戻るだけより、周辺構造を別方向から再確認できるルートのほうが、重複する情報を増やせる場合があります。
計測直後に点群を確認できるシステムであれば、終了前後に開始地点周辺の重なりを確認しておくと安心です。明らかな二重化や高さ差が見られる場合には、その場で追加計測や再計測を検討できます。現場を撤収してから問題に気付くと、再度立ち入り手続きを行わなければならないこともあります。
閉合確認では、床面だけを見るのではなく、柱の上下方向、壁の角、梁、階段接続部など複数の位置を確認します。床面が一致していても、上部ではずれが生じている可能性があります。吹き抜け空間では高さが大きいため、平面だけでなく断面的な整合性を見ることが重要です。
始点へ戻るルートを最初から計画しておけば、現場で「どこから帰るか」を迷うこともありません。計測開始前に入口から出口までの一方向動線を決めるのではなく、開始地点へ戻るところまで含めて一つの計測経路として設計することが、吹き抜け空間では重要です。
計測前に決めておきたい基準物と歩行ルール
6つの動線設計を実行するためには、現場へ入ってからその場でルートを考えるのではなく、計測前に基準となる構造物と歩行ルールを決めておく必要があります。
まず確認したいのが、複数階から観測できる固定構造です。吹き抜けを上下に通る柱、大きな壁面の角、階段、梁、床端部など、工事中や計測中に動かないものを選びます。台車、仮設資材、可動式什器などは位置が変わる可能性があるため、基準として頼りすぎないほうが安全です。
次に、階ごとに固有の特徴を確認します。吹き抜け空間では柱や手すりが繰り返されることが多いため、同じ形状だけを追っていると現在位置を判断しにくくなることがあります。壁の角度が変わる場所、階段の接続部、廊下の分岐、固定設備など、階や区画を区別できる特徴を経路に含めます。
歩行速度については、計測中に大きく変えないことが基本です。直線では速く歩き、角では突然止まり、階段だけ極端にゆっくり進むと、センサーの動き方が一定しません。安全な範囲で安定したペースを保ち、方向転換も滑らかに行います。
急な姿勢変更にも注意が必要です。対象物を見つけるたびにセンサーを上下左右へ大きく振ると、移動量の推定が難しくなる場合があります。取りたい部分がある場合でも、その場で大きく振り回すのではなく、自分の立ち位置や歩行方向を変えながら自然に観測します。
人や台車が頻繁に移動する施設では、計測時間帯も重要です。SLAMは固定された周辺形状を利用して位置を推定するため、視野の多くを移動物体が占める状況は避けたほうがよい場合があります。吹き抜け周辺は共用通路になっていることも多いため、施設管理者と調整し、できるだけ安定した環境で計測します。
また、ガラス面、鏡面、光沢の強い金属面などは、利用するセンサー方式によって計測結果へ影響することがあります。吹き抜け周辺に透明な手すりや大型ガラス面がある場合は、それだけに依存せず、柱や壁、床端部など別の固定形状も一緒に取得します。
現場担当者が複数いる場合には、歩行ルートを共有しておくことも大切です。担当者ごとに計測方法が変わると、同じ施設でも結果の比較が難しくなります。「開始階で一周する」「各階で共通柱を見る」「階段では計測を切らない」「各階の一周後に基準地点へ戻る」といった基本ルールをそろえておくと、再現性のある計測を行いやすくなります。
計測後に上下方向のずれを見抜く確認方法
計測ルートを工夫しても、SLAM計測で誤差を完全になくすことはできません。重要なのは、点群が生成された時点で終了とせず、上下方向の整合性を確認することです。
吹き抜け空間では、平面表示だけでは問題を見逃しやすいため、断面方向から点群を確認します。吹き抜けを貫く柱を縦方向に切ったとき、上階と下階で柱の中心が連続しているかを確認します。途中で柱が曲がって見えたり、階を境に横へずれたりしている場合には、位置合わせに問題がある可能性があります。
各階の床面も重要な確認対象です。同じ階の床が途中で上下に波打っていないか、開始地点と終了地点付近で二重になっていないかを見ます。床面は広い範囲に存在するため、上下方向の変化を確認しやすい一方、床だけが合っているからといって全体が正しいとは限りません。柱や壁など垂直方向の構造も併せて確認します。
階高が既知の場合には、計測結果から得られる上下階の位置関係と比較する方法もあります。ただし、設計値と実際の施工状態が必ず一致するとは限らないため、設計値だけを唯一の正解として扱うのではなく、必要に応じて既知点や別の測量結果と照合します。
吹き抜け反対側の同じ柱や壁を複数階から計測している場合には、その重なりも確認します。異なる高さから取得した点群が一つの面や柱として自然に連続していれば、上下階の位置関係を確認する材料になります。
二重面が生じている場合には、その位置だけを消去して完成させる前に原因を考えることが大切です。開始地点と終了地点だけで二重化しているのか、特定階へ移動した直後からずれているのか、長い直線区間の途中から徐々に開いているのかによって、見直すべき動線が変わります。
たとえば階段を通過した直後から上階全体がずれている場合には、階移動中の観測条件を見直す必要があります。ある階の途中から徐々にずれる場合には、その階で長い一方向移動が続いていなかったか、共通形状を再観測するループが不足していなかったかを確認します。
こうした確認を繰り返すことで、単なる点群修正ではなく、次回の計測ルートそのものを改善できます。SLAM計測は現場ごとの環境差が大きいため、一度決めたルートを固定するのではなく、計測結果を見ながら改善する運用が重要です。
吹き抜け空間のSLAM計測を安定させる実務ポイント
吹き抜け空間の計測で重要なのは、できるだけ短い時間で施設全体を歩くことではありません。必要な部分を観測しながら、現在位置を安定して推定できる情報を継続的に取得することです。
そのためには、歩行距離だけで効率を評価しないほうがよい場合があります。基準地点へ戻るために少し遠回りしたとしても、その移動によって閉ループを形成できるのであれば、結果として再計測を減らせる可能性があります。
また、吹き抜け全体を一回の計測で取得することにこだわらない判断も必要です。建物規模が大きい場合や、途中で人の通行が多くなる場合、環境条件が大きく変わる場合などは、区画を分けたほうが管理しやすいケースがあります。
区画を分ける場合には、隣接する計測範囲に十分な重複部分を持たせます。共通する柱、壁、床、階段などを双方の区間で取得し、後から位置関係を確認できる状態にします。区画境界を特徴の少ない広い床面だけにすると、位置合わせが難しくなる可能性があります。
現場では、点群の見た目がきれいであることと、位置が正しいことを分けて考える必要があります。局所的には滑らかで欠測の少ない点群でも、上下階の関係がずれていれば、寸法確認や図面作成には注意が必要です。
とくに吹き抜けでは高さ方向の寸法が大きいため、小さな角度ずれが離れた位置で大きな差として現れることがあります。上層階だけを見るのではなく、吹き抜け全体を縦断する断面で整合性を確認する習慣が重要です。
SLAM計測を既知座標へ関連付ける必要がある場合には、SLAM内部の相対的な整合性と、現場座標への位置合わせを分けて考えます。SLAM点群の形状そのものが変形している状態では、外部の基準点へ合わせても内部のずれまで自動的に解消されるわけではありません。
まず計測動線によって点群内部の整合性を高め、そのうえで必要な座標基準へ位置合わせするという順番が重要です。現場管理や出来形確認など、絶対位置が求められる用途では、使用目的に応じた基準点や測量方法との照合も必要になります。
また、同じ吹き抜けを定期的に計測する場合には、毎回できるだけ同じ開始地点、同じ階段、同じ閉合地点を利用すると比較しやすくなります。計測条件を完全に同一にすることは難しくても、基本動線を統一することで、前回との違いが計測ルートによるものなのか、現場形状の変化によるものなのかを判断しやすくなります。
まとめ
吹き抜け空間のSLAM計測では、広い空間、上下階の移動、繰り返される柱や手すり、遠距離の構造物などが重なり、通常の室内よりも上下方向の位置関係を管理しにくくなることがあります。そのため、センサーを持って対象範囲を一度歩くだけではなく、位置推定を支えるための動線設計が重要です。
最初に同一階で基準となるループを作り、周囲の形状と現在位置の関係を十分に取得してから上下移動へ入ります。階移動では、可能な範囲で周囲の構造を連続して観測できる階段やスロープを利用し、下階から上階へ至る形状のつながりを記録します。
各階では吹き抜け縁を周回し、上下階から共通して見える柱、壁、梁などを繰り返し観測します。同時に、各階固有の特徴も取得し、似た形状が続く環境でも位置関係を確認できる情報を増やします。
さらに、水平と垂直だけでなく対角方向の視線を取り入れ、複数の高さに存在する構造物を立体的に捉えます。長い一方向移動は避け、短い閉ループを複数組み合わせることで、途中で蓄積する位置ずれを確認しやすいルートにします。
計測全体の最後には開始地点付近へ戻り、開始時に取得した構造を再び観測します。点群作成後は平面だけで判断せず、吹き抜けを縦断する断面、柱の連続性、床面の高さ、開始地点と終了地点の重なりなどを確認します。
SLAM計測では、機器の性能だけで結果が決まるわけではありません。同じ機器を使用していても、どの場所から始め、どの構造を見ながら歩き、どこで戻るかによって取得できる情報は変わります。吹き抜けのような上下方向に大きな空間では、とくに「移動経路そのものを計測条件として設計する」という考え方が重要です。
また、SLAMで取得した点群を現場の座標と関連付けたい場合には、点群内部の整合性を確認したうえで、別途位置基準との関係を検討する必要があります。屋外側で高精度な位置情報を取得し、現場の位置基準を確認する作業まで含めて効率化したい場合には、LRTK Phoneを活用する方法も検討できます。SLAM計測と高精度測位の役割を分けながら組み合わせることで、現場で取得した三次元情報をより実務へつなげやすくなります。