建設中の吹付け法面をSLAM計測する場合、一般的な屋内計測や舗装面の計測とは異なり、粉じんへの対策が点群品質に影響することがあります。吹付け作業中や吹付け直後の法面周辺では、空気中に細かな粒子が浮遊するほか、機器の計測窓やカメラ表面へ粉じんが付着することがあります。その結果、条件によっては本来の対象面とは異なる点が点群に混ざったり、法面表面の輪郭が不明瞭になったり、SLAMによる自己位置推定が不安定になったりする可能性があります。
SLAM 計測では、単に「粉じんを避ければよい」と考えるだけでは十分ではありません。重要なのは、粉じんが発生する時間帯を把握し、計測ルート、機器表面の管理、移動方法、計測後の品質確認までを一連の作業として設計することです。特に建設中の吹付け法面では、施工工程と計測工程が近接するため、計測担当者だけで完結させず、施工担当者や安全管理担当者との調整も欠かせません。
また、粉じんは計測品質だけでなく労働衛生上のリスクにもなり得ます。視界が良好であることや、肉眼で粉じんが見えなくなったことだけをもって安全と判断せず、現場で定められた立入条件、粉じん発散防止措置、呼吸用保護具などのルールを優先する必要があります。本記事で扱う粉じん対策は主としてSLAM計測品質を安定させるための考え方であり、現場の安全衛生対策を置き換えるものではありません。
この記事では、「SLAM 計測」で現場の3次元記録を行いたい実務担当者に向けて、建設中の吹付け法面で粉じんによる計測不良を減らすための5つの要点を解説します。法面形状の記録、施工途中の出来形確認、施工前後比較、変状記録などにSLAM計測を利用する際の基本的な考え方として活用できます。
吹付け法面のSLAM計測で粉じん対策が重要な理由
SLAMは、計測機器が周囲の形状や画像などの情報を連続的に取得しながら、自らの位置と周辺環境を推定していく技術です。据置型の計測では固定した位置ごとにデータを取得して複数地点のデータを統合する運用が一般的ですが、携帯型や移動体搭載型のSLAM計測では、機器を移動させながら連続的に周囲を記録できる方式があります。そのため、延長の長い法面や施工途中の斜面を連続的に記録したい場面でも活用しやすい方法です。
一方、SLAMは移動中に取得する連続した情報を利用して位置関係を推定するため、周辺環境から十分な特徴を安定して取得できることが重要です。ところが吹付け施工を行っている法面周辺では、空気中を移動する粉じんや施工機械、作業員、ホースなど、時間とともに位置が変化するものが多数存在します。
レーザーなどを利用するSLAM計測では、空気中の粒子による散乱や反射の条件によって、一時的な点や誤った距離の点が生じたり、対象面から得られる信号が弱くなったりする場合があります。また、粉じんが計測窓へ付着すると、透過や受光の状態が変わり、取得性能が低下する可能性があります。画像情報を利用する方式では、空気中の粉じんによって視界のコントラストが低下したり、カメラ表面への汚れによって特徴を捉えにくくなったりすることがあります。
もちろん、少量の粉じんが存在しただけで必ずSLAM計測が失敗するわけではありません。影響の程度は、使用するセンサー、計測距離、粒子の量や性状、照明条件、風向、法面の形状、SLAMアルゴリズムなどによって異なります。しかし、目視でも対象面の視認性が低下している状態や、機器表面への付着が進んでいる状態では、通常の計測環境と同じ感覚で作業を進めない方がよいでしょう。
法面を出来形や施工記録として利用する場合には、単に点群が作成できたかどうかではなく、必要な範囲の表面形状が目的に応じた品質で取得できているかを確認する必要があります。法肩、法尻、段差、吹付け境界、構造物との取り合いなど、後から確認したい部分に欠測やノイズが集中すると、計測結果を十分に活用できない可能性があります。
そのため、粉じん対策は機器を保護するためだけではなく、「安定した自己位置推定」と「必要な表面形状の取得」の両方を確保するための計測計画として考えることが重要です。同時に、作業者の粉じんばく露に関する安全衛生管理は、計測品質とは別の基準で確認する必要があります。
粉じんがSLAM計測へ与える影響
吹付け法面における粉じんの影響は、大きく分けて空気中を浮遊している粉じんと、機器へ付着した粉じんの二つに分けて考えると整理しやすくなります。
空気中の粉じんは、その瞬間ごとに位置が変わる粒子です。本来計測したい法面は静止していますが、粉じんは風や施工時の空気流によって移動します。レーザー式のセンサーでは、こうした粒子による散乱や反射が条件次第で点群上の散発的な不要点として現れたり、対象面の反射を弱めたりすることがあります。
粉じん濃度が高いほど必ず同じ形でノイズが増えるとは限りませんが、対象物までの視認性が低下するような状態では注意が必要です。法面の表面を取得したいにもかかわらず、その手前に多数の不要点が形成されれば、後処理で法面だけを抽出する作業が増えるだけでなく、本来必要な表面が十分に取得できない場合もあります。
さらに注意したいのが、計測窓やカメラ表面への粉じんの付着です。空中の粉じんは時間とともに移動しますが、機器表面に付着した粉じんは計測を続けている間、継続的に影響を与える可能性があります。計測開始時には問題がなくても、施工現場を移動しているうちに徐々に汚れが増え、途中から取得状態が悪化することがあります。
SLAM計測では、計測開始から終了までの連続したデータを用いて軌跡や地図を推定する方式があります。そのため、途中だけ極端に取得状態が悪化すると、その区間の形状取得だけでなく、方式によっては軌跡推定にも影響する可能性があります。
粉じん対策では、この二つを分けて考えることが大切です。空中粉じんへの対策では計測する時間帯や位置、風向、施工工程との分離が重要になります。一方、付着粉じんへの対策では、計測前後や途中で機器の状態を確認する運用が重要になります。
ただし、空気中の粉じんが肉眼で見えるかどうかと、作業者が安全に立ち入れるかどうかは同じ判断ではありません。計測品質の確認と、粉じんばく露に関する安全衛生上の判断は切り分け、後者は現場の管理基準に従います。
要点1 吹付け作業と計測時間を分離する
最も基本的で効果が期待できる対策は、粉じんの発生量が多い作業とSLAM計測を可能な範囲で時間的に分離することです。
吹付け作業が進行している直近で計測を行えば、粉じんだけでなく、作業員、施工機械、ホースなどの移動物も増えます。SLAM計測では周囲の静止した形状を安定して取得できる方が有利であるため、施工活動が激しい時間帯を避けられるのであれば、その方が計測条件を整えやすくなります。
例えば、一つの施工区画の吹付けが終わった後、施工管理者や安全管理担当者が立入可能と判断し、現場で定められた粉じん対策や安全条件を満たしたことを確認してから計測する方法が考えられます。ただし、「吹付け終了後、何分待てば必ず計測できる」という一律の時間を決めることは適切ではありません。粉じんが滞留する時間は、屋外か閉鎖空間か、風の強さ、地形、施工方法などによって変化するためです。
計測品質の観点では、対象の法面表面を十分に視認できるか、施工による粉じんが継続して計測経路へ流れ込んでいないか、機器表面に短時間で汚れが蓄積していないかを確認します。ただし、目視で粉じんが見えなくなったことは、呼吸性粉じんへのばく露が安全な水準になったことを意味しません。安全衛生上の立入可否は、現場のリスクアセスメント、粉じん対策計画、必要に応じた測定、保護具の使用基準などに従う必要があります。
また、吹付け施工とSLAM計測の工程を事前に調整しておけば、計測担当者が現場へ到着してから待機する時間を減らせる場合があります。例えば、施工区画を分割し、一区画の作業が終了した後に計測を入れ、その間に別区画の作業を進めるといった工程調整が可能な場合もあります。
ここで注意したいのは、SLAM計測のために施工方法や安全手順を独自に変更しないことです。散水や湿潤化などによって粉じんを抑える方法が使われる現場もありますが、吹付け材の状態や施工品質、安全条件に影響する可能性があるため、計測担当者の判断だけで実施するべきではありません。現場で定められた粉じん抑制方法と施工手順を優先し、その範囲で計測条件を整える必要があります。
SLAM計測は広い範囲を連続的に取得できることが利点ですが、粉じんが多い時間帯に無理に計測して後から大量のノイズを処理するよりも、計測開始のタイミングを調整した方が、結果的に再計測や後処理を減らせる場合があります。
特に出来形確認や施工履歴として利用する場合には、計測時間の短さだけではなく、「必要な品質のデータをできるだけ一度で取得すること」を重視することが重要です。
要点2 粉じんの流れを考えて計測ルートを決める
同じ法面を計測する場合でも、どの方向から移動するかによって粉じんの影響が変わることがあります。そこで二つ目の要点となるのが、風向や粉じんの発生位置を確認し、計測ルートを設計することです。
屋外の法面では、自然風だけでなく施工機械や吹付け作業に伴う空気の流れによって、粉じんが一定方向へ移動することがあります。粉じんが継続して流れてくる側を通ると、機器表面への付着が増える可能性があります。また、計測対象と機器の間に濃い粉じん帯が存在すると、対象表面の取得状態が不安定になることもあります。
計測前には、法面全体をいきなり歩き始めるのではなく、どこで吹付け作業が行われているか、粉じんがどの方向へ流れているか、どの場所で粉じんが滞留しやすいかを確認します。法尻付近に粉じんが集まりやすい場合もあれば、地形や風によって法面沿いに流れる場合もあります。
SLAM計測では、対象物を一方向だけから取得するより、必要に応じて複数方向から観測した方が死角を減らしやすくなります。ただし、粉じん環境では単純に往復回数を増やせばよいわけではありません。粉じんの濃い位置を何度も通過すると、機器への付着や計測者のばく露が増える可能性があるためです。
そこで、安全に通行でき、粉じんの影響が比較的小さい経路から法面全体の連続性を確保し、その後に必要な部分を補足するという考え方が有効です。法肩、法尻、構造物との接続部分、吹付け境界など、重要箇所の取得を優先するルートを検討します。ただし、粉じんを避けることだけを理由に、現場で設定された立入範囲や安全動線から外れてはいけません。
また、SLAMシステムによっては、開始地点と終了地点を近づけたり、途中で既に計測した特徴のある場所を再び通ったりすることで、ループ閉合などの処理が働き、累積した軌跡ずれを抑えやすくなる場合があります。ただし、すべての機器や処理方式で同じ効果が得られるわけではないため、使用するシステムの仕様を確認する必要があります。こうした経路を意識する場合にも、粉じんが最も濃い場所を再通過地点にするのではなく、安定した形状を取得できる場所を選ぶ方が適しています。
吹付け法面は、平坦な壁面と異なり、凹凸や小段、排水構造物、アンカーや金網などが存在する場合があります。これらはSLAMで位置関係を推定する際の特徴として利用できる可能性がありますが、粉じんや遮蔽によって十分に取得できなければ、その利点を生かしにくくなります。
そのため、ルート計画では最短距離だけを優先するのではなく、「安定した特徴を連続的に捉えられる経路」と「安全に通行できる経路」の両方を考えることが重要です。
また、法面現場では転倒、落石、施工機械との接触など、計測精度より優先しなければならない安全上のリスクがあります。粉じんを避けるためだけに立入禁止区域へ入ったり、不安定な斜面へ接近したりすることは避け、安全に通行できる範囲内で計測ルートを決めます。
要点3 計測窓やカメラへの付着を管理する
粉じん環境で見落とされやすいのが、計測中に機器表面が徐々に汚れていく問題です。
計測開始時に機器を確認して問題がなかったとしても、吹付け法面の周辺を移動しているうちに、細かな粉じんが計測窓などに付着することがあります。計測者は法面や足元を確認しながら歩いているため、機器表面の変化には気付きにくいものです。
そのため、計測開始前、長い区間を計測した途中、計測終了後というように、一定の節目で機器状態を確認する運用が重要です。
ただし、計測中に不用意に機器表面へ触れることにも注意が必要です。粉じんが付いた状態で強くこすると、計測窓や保護面を傷める可能性があります。清掃方法については使用機器の取扱説明書や保守手順に従い、適切な器具や方法を使用する必要があります。現場で清掃を行う場合も、粉じんを再飛散させないよう、現場の安全衛生ルールを優先します。
現場で特に避けたいのは、汚れたことに気付かないまま最後まで計測し続けることです。SLAM計測では広い範囲を連続的に取得できるため、一見すると順調に作業が進んでいるように感じます。しかし、計測後に点群を確認して初めて、途中から法面表面の密度が低下していたことが分かれば、その区間を再び計測しなければならない場合があります。
これを防ぐためには、計測を一つの長大な区間として考えるのではなく、確認しやすい単位に分けて考える方法があります。例えば施工区画や法面のブロックなどを基準に区切り、一区画ごとに機器状態と取得結果を確認します。
計測区間を適切に分割しておけば、問題が発生しても再計測する範囲を限定しやすくなります。法面全体を一つの連続データとして長時間計測した後に異常が分かるよりも、現場で修正しやすくなります。ただし、区間を分ける場合は、後工程での統合方法や基準点、共通部分の確保なども事前に確認しておくことが大切です。
また、粉じんが付着するのはセンサー部分だけとは限りません。操作画面が見えにくくなる、接続部分へ汚れが蓄積する、保護ケースが粉じんで扱いにくくなるといったことも考えられます。機器の保護方法や現場での取り扱いについても、計測精度だけでなく安全性を含めて確認する必要があります。
防じん性能を備えた機器であっても、「粉じん環境なら清掃や確認を行わなくてよい」という意味にはなりません。機器の防じん性能や使用条件は製品ごとに異なるため、仕様範囲を確認し、その条件内で使用するとともに、表面の状態を定期的に確認することが重要です。
要点4 移動速度と重複計測を調整する
粉じんが存在する環境では、できるだけ早く計測を終えたいと考え、移動速度を上げたくなることがあります。しかし、SLAM計測では速く移動すれば必ず効率が上がるわけではありません。
移動速度が大きくなると、同じ場所をセンサーが観測する時間や連続フレーム間の重なりが減る場合があります。さらに法面現場では、足元の状態によって機器の姿勢が急に変化しやすく、段差を越えたり方向転換したりする際に動きが大きくなることがあります。影響の程度はセンサー方式や処理アルゴリズムによって異なりますが、急激な動きが追跡条件を厳しくする場合があります。
粉じんによって周辺形状から取得できる情報が減っている状態に、急激な移動や回転が重なると、自己位置推定の条件がさらに厳しくなる可能性があります。そのため、粉じん環境ほど一定の速度と滑らかな姿勢変化を意識することが大切です。
特に方向転換するときは、その場で急激に回転するのではなく、安全な範囲で周囲の形状を連続して捉えられるように移動します。法面と反対方向を長時間向き続けたり、機器を大きく振り回したりすることは避け、使用する機器の推奨姿勢や操作方法に従います。
同時に重要なのが、重要箇所を重複して観測できるようにすることです。一度だけ通過した部分に粉じんや遮蔽の影響が発生すると、その時点のデータだけでは補えない場合があります。重要箇所を異なる方向から複数回取得しておけば、一方の取得状態が悪い場合でも、別の観測で不足を補える可能性があります。
例えば法面の正面を一定距離から移動しながら取得した後、別の高さや角度から再び取得すると、凹凸の陰になる部分を補いやすくなる場合があります。法肩や法尻のように形状が変わる部分では、正面からだけでは見えない面が生じるため、観測方向を変えることが有効です。
ただし、重複計測も回数を増やせばよいわけではありません。同じ粉じん帯を何度も通過すれば、機器への付着や計測者のばく露が増える可能性があります。必要な部分に絞り、安全条件を満たす範囲で重複させることが大切です。
SLAM計測では「速く一周すること」より「安定した状態で連続した情報を取得すること」を優先します。粉じんが多い現場では特に、移動速度、方向転換、機器姿勢、重複して観測する範囲をまとめて考える必要があります。
施工記録として重要な部分が明確なのであれば、その部分を計測ルートの途中で一度しか通らない構成にせず、往路と復路など異なる観測方向を確保する方法も有効です。
要点5 現場で点群品質を確認して再計測を判断する
粉じん環境でSLAM計測を行う場合、最後の要点となるのが現場での品質確認です。
計測を終了して事務所へ戻ってから点群を確認し、粉じんによる欠測が見つかると、再び現場へ行かなければなりません。吹付け法面では施工が進行するため、翌日に戻ったときには対象形状そのものが変わっている可能性もあります。
そのため、使用する機器や処理環境で可能な範囲において、計測直後にデータを確認し、その場で再計測の要否を判断できる運用を整えておくことが重要です。
確認したいのは、単に3次元モデルが表示できるかどうかではありません。法面全体が取得できているか、点が不自然に浮いていないか、特定の区間だけ密度が低下していないか、施工境界や構造物周辺に大きな欠測がないかを確認します。
粉じんによるノイズは、対象表面の手前に薄い雲のように分布する場合や、ランダムな点として現れる場合があります。ただし、点群の乱れがすべて粉じんによるものとは限りません。移動物、反射条件、遮蔽、SLAM軌跡のずれなど、別の原因による可能性もあります。
そこで、「ノイズがあるから後処理で消せばよい」と判断する前に、本来の法面表面が目的に必要な密度や連続性で取得されているかを確認します。
不要点を削除できたとしても、その奥にある法面表面が取得されていなければ、削除後には空白が残ります。後処理で不要点を除去することと、失われた表面形状を復元することは同じではありません。
この違いは吹付け法面のSLAM計測では重要です。粉じんによる点を除去できる場合があっても、粉じんの影響で取得できなかった面を正確に生成できるとは限りません。必要な面が取れていないのであれば、現場条件が許すうちに再取得する方が適切な場合があります。
特に、法面の面積算出、施工厚に関連する比較、設計形状との比較など、形状データを定量的に利用する場合には、不足部分を周囲から推定して埋める処理に頼りすぎないことが重要です。加えて、使用するSLAM機器や処理方法が、その用途で求められる精度や点密度を満たしているかを事前に確認し、必要に応じて既知点や他の測量手段との照合を行います。
計測直後の確認では、全体を見るだけでなく、重要箇所を拡大して確認します。法肩、法尻、排水構造物、法枠、吹付け境界、既設構造物との取り合いなど、後から確認したい場所が取得できているかを優先します。
その場で問題を発見できれば、機器表面を確認し、粉じんが少なく安全条件を満たすタイミングを選んで必要区間だけ再計測できます。この確認工程によって、後日の再訪や広範囲の再計測を減らせる可能性があります。
吹付け法面で粉じん以外にも確認したい条件
吹付け法面のSLAM計測では粉じん対策が重要ですが、粉じんだけに注目すると別の原因による品質低下を見逃すことがあります。
まず確認したいのが施工中の移動物です。作業員や施工機械、ホース、資材などが頻繁に動いている環境では、これらが点群へ含まれるだけでなく、法面表面を遮ることがあります。特に長いホースや仮設設備が法面の前面を横切っている場合、その背後が欠測する可能性があります。
施工途中の状態を記録することが目的なら、こうした仮設物も含めて記録する意味があります。一方、法面形状そのものを取得することが目的なら、遮蔽物が少ない時間帯を選ぶ方が適しています。計測前に目的を明確にしておく必要があります。
次に重要なのが法面までの距離です。SLAM計測では、対象に近づけば必ず細部が正確になるとは限りません。センサーごとに最短距離、推奨距離、視野、点密度などの特性があり、近過ぎることで視野内に入る周辺形状が少なくなったり、一部が測定範囲外になったりする場合があります。
逆に遠過ぎれば、細かな凹凸や境界を十分に表現できなくなる可能性があります。使用する機器の仕様を確認し、目的とする形状の細かさに合う距離を確保します。
また、法面は平面ではありません。凹部や段差、法枠、排水溝などがあると、一方向からは見えない面が生じます。粉じんが少ない状態であっても、観測方向が偏っていれば欠測は発生します。そのため、粉じん対策と死角対策を同時に計画する必要があります。
さらに、SLAMで取得した形状を座標付きの施工記録として利用するのであれば、自己位置推定だけでなく、現場座標へどのように合わせるかも考える必要があります。SLAMによる局所的な3次元形状と、現場で利用する座標系や高さ基準は別の問題です。
設計データとの比較や施工区画間の比較を行うのであれば、使用する座標系、高さ基準、基準点、変換方法を統一しておくことが重要です。毎回異なる基準で計測すると、粉じんの影響とは別に、位置合わせの違いが比較結果へ影響する可能性があります。
粉じん環境で起こりやすいSLAM計測の失敗
吹付け法面でありがちな失敗の一つが、「計測できているように見えたので、そのまま最後まで進めてしまう」ことです。
SLAM計測はリアルタイムで形状が表示される場合もあり、画面上に点が出ていれば正常に取得できているように感じます。しかし、表示されている点の中に粉じん由来の不要点が多く含まれていたり、重要な法面部分だけ密度が不足していたりする場合があります。
そのため、表示の有無だけではなく、目的箇所の形状が連続しているか、必要な部分に欠測がないかを見る必要があります。
もう一つは、粉じんの中を短時間で通過すれば影響を受けないと考えることです。ばく露時間を短くすることは安全衛生上の評価要素の一つになり得ますが、それだけで安全が確保されるわけではありません。また、SLAM計測では急激な移動そのものが追跡条件を厳しくする可能性があります。
粉じんの濃い区間を急いで通過するより、その区間を計測対象から外せるか、施工工程を調整できるか、安全条件を満たした後に計測できるかを先に検討する方が適切です。法面周辺を機器を持った状態で急いで移動することも避ける必要があります。
さらに、機器を清掃すれば途中から正常に戻るため、それまでのデータも問題ないと考えてしまうことがあります。計測窓の汚れを途中で除去できても、汚れた状態で取得した区間の品質が自動的に改善するわけではありません。
清掃前後で取得状態に差がある場合には、影響を受けた区間を確認し、必要なら再計測します。
法面の一方向だけを移動して計測を終了する方法も注意が必要です。粉じんがなくても凹凸の裏側に欠測が生じる可能性があります。そこへ粉じんによる一時的な取得不良が加わると、必要な面が大きく不足することがあります。
重要箇所については、安全条件を満たす範囲で別方向から確認できるルートを確保しておく方が、欠測を減らしやすくなります。
計測後の処理だけに頼らないことが重要
点群処理では、周囲から離れて存在する点を除去したり、一定条件に基づいてノイズを低減したりすることができます。そのため、粉じんが多少混ざっても後から削除できると考えることがあります。
しかし、吹付け法面の計測では、後処理だけを前提に現場計画を組むことは避けた方がよいでしょう。
粉じんに由来する点が法面から明確に離れて存在しているのであれば、比較的判断しやすい場合があります。一方、法面表面の近くに不要点が重なっていると、本来の表面と区別しにくくなることがあります。
強いフィルタ処理を行えば、粉じん由来の点と一緒に法面表面の細かな凹凸まで削除してしまう可能性があります。吹付け面はもともと平滑ではないため、凹凸を単純にノイズとして扱うことはできません。
特に、吹付け表面の粗さや局所的な変状を確認することが目的なら、過度な平滑化は避ける必要があります。フィルタの条件を変更する場合は、処理前後の断面や重要箇所を比較し、必要な形状まで失われていないかを確認します。
SLAM計測で重要なのは、現場取得と後処理を分離して考えないことです。現場でできるだけ良好なデータを取得し、そのデータを目的に応じて後処理で整えるという順序が基本です。
粉じんの多い状態で計測し、後からすべて修正する方法よりも、計測時間を調整し、ルートを工夫し、機器を確認しながら取得した方が、最終データの品質を確保しやすくなります。
吹付け法面のSLAM計測を効率化する考え方
吹付け法面のSLAM計測を効率化するためには、単純に計測時間を短縮するのではなく、現場でのやり直しと後処理を減らすことが重要です。
そのためには、計測前に目的を明確にします。法面全体を施工記録として残したいのか、施工前後の形状を比較したいのか、特定部分の出来形を確認したいのかによって、必要な点群密度や観測方向、外部座標との整合方法が変わります。
法面全体の状況把握が目的であれば、広い範囲の連続性を重視します。一方、特定構造物との取り合いや細かな変状確認が目的なら、その部分を複数方向から取得することが重要になります。数量や出来形の判定に利用する場合は、使用する計測方法が要求精度を満たすかを別途確認する必要があります。
次に、施工工程の中へ計測を組み込みます。施工が完全に終了してからまとめて測るだけでなく、後から見えなくなる部分や形状が変化する部分を工程途中で記録する方法も考えられます。
ただし、施工途中では粉じんや作業員、機械が多いため、計測可能なタイミングを施工側と共有しておく必要があります。計測の都合だけで施工や安全手順を変更せず、現場全体の工程と安全管理の中で実施時期を決めます。
そして、現場で取得したデータを設計図面や既存の測量データと組み合わせる場合には、位置情報の管理が重要になります。SLAMによる3次元形状だけでなく、どの位置を計測したデータなのかを明確にしておけば、施工前後や複数日のデータを比較しやすくなります。
ここではGNSSなどによる位置情報との組み合わせも一つの方法です。ただし、法面周辺では地形や構造物によって衛星信号の受信条件が変化するため、測位状態を確認しながら利用する必要があります。SLAMとGNSSは得意とする役割が異なるため、両者を組み合わせる場合も、それぞれの品質を個別に確認することが重要です。
例えばLRTK Phoneのような現場向けの位置計測手段を利用すれば、計測対象となる位置や確認点を現場座標と関連付けながら管理する方法も検討できます。SLAMで広い範囲の3次元形状を取得し、位置情報を持つ確認点と組み合わせることで、施工区画や確認対象を整理しやすくなります。
ただし、どの方法を用いる場合でも、計測目的に必要な精度を事前に確認し、SLAMの局所的な形状精度と、外部座標への位置合わせ精度を区別して評価することが重要です。GNSSを利用する場合も、固定解の有無や衛星配置、遮蔽などの測位条件を確認し、必要に応じて既知点との照合を行います。
まとめ
建設中の吹付け法面をSLAM計測する際には、粉じんを単なる作業環境上の問題として扱うのではなく、点群品質と自己位置推定に関わる計測条件として考える必要があります。同時に、粉じんは労働衛生上のリスクでもあるため、計測品質の判断と作業者の安全判断を混同しないことが重要です。
第一の要点は、吹付け作業とSLAM計測の時間を可能な範囲で分け、粉じんが多い状態で無理に計測しないことです。第二の要点は、風向や粉じんの流れを確認し、安全な範囲で安定した形状を連続的に取得できるルートを選ぶことです。
第三の要点は、計測窓やカメラなどへの粉じん付着を途中でも確認し、計測開始時だけの点検で終わらせないことです。第四の要点は、粉じん環境だからといって急いで移動せず、一定した速度と姿勢を保ちながら、重要箇所には必要な重複観測を持たせることです。
第五の要点は、計測終了後すぐに点群を確認し、粉じんによる不要点だけでなく、本来必要な法面表面が取得できているかを判断することです。
特に重要なのは、粉じんノイズを後処理で削除できることと、法面形状が目的に必要な品質で取得できていることを混同しないことです。不要点を除去できても、その背後にある面が計測されていなければ、元の形状を正確に復元できるとは限りません。
吹付け法面でSLAM 計測を安定させるには、計測機器だけを見るのではなく、施工時間、粉じんの流れ、移動ルート、機器状態、現場確認、座標管理までを一体として計画することが大切です。そのうえで、粉じんへのばく露については、目視だけで安全を判断せず、現場で定められた発散防止措置、立入基準、保護具などに従います。
SLAMで取得した3次元形状を現場でより活用するためには、「どの形を取得したか」に加えて「現場のどの位置にあるデータなのか」を整理することも重要になります。施工区画や確認点を位置情報と結び付けて管理したい場合は、LRTK Phoneを活用した現場での位置計測や記録方法も選択肢となります。SLAMによる面的な3次元記録と、LRTK Phoneによる位置情報を目的に応じて使い分けることで、吹付け法面の施工記録を後工程でも参照しやすい形へ整理できます。