屋外でSLAM計測を行うとき、建物外周、造成地、法面、林道、公園、河川沿い、太陽光発電所の周辺などでは、樹木や草木の動きが点群品質に影響することがあります。特に風で枝葉が揺れている環境では、静的な環境を前提とする自己位置推定や点群生成に動的な成分が混ざり、点群に浮遊点、二重像のような重なり、にじみ、厚み、局所的な歪みが生じる場合があります。この記事では、SLAM 計測の実務担当者に向けて、屋外の樹木が揺れる環境でノイズを減らし、後工程で扱いやすい点群成果を得るための6つの対策を解説します。
樹木の揺れがSLAM計測ノイズになる理由を理解する
SLAM計測は、移動しながら周囲の情報を取得し、自己位置推定と地図生成を同時に行う技術です。屋内の壁、柱、床、天井のように静止していて形状が安定した対象が多い環境では、連続する観測間で対応関係を得やすく、比較的安定した点群を構築しやすくなります。一方、屋外では対象物が必ずしも静止しているとは限りません。樹木、草、旗、仮囲いシート、作業員、車両、水面など、時間とともに位置や形が変わるものが視野に入ると、計測データには動的な成分が混ざります。
樹木は特に注意が必要な対象です。幹は比較的安定していますが、枝葉は風の影響を受けやすく、短時間でも位置が変わります。Visual SLAMでは枝葉の見え方や陰影が時間とともに変わることがあり、LiDARを利用する方式では揺れる枝葉から得られる距離点の位置が観測ごとに変化することがあります。そのため、方式を問わず、動く植生が観測の大部分を占める状況では、静止した構造物だけを計測するときより不安定な条件になり得ます。風がある状態で何度も同じ樹木を通過すると、ある瞬間には右側にあった枝が、次の観測では別の位置に移っていることがあります。その結果、同じ樹木であっても、点群上では枝葉が太く膨らんだように見えたり、空中に細かい点が散ったように見えたりする場合があります。
SLAM計測で問題になるのは、単に樹木部分が乱れて見えることだけではありません。使用するSLAM方式や処理アルゴリズムによって影響の程度は異なりますが、動いている枝葉の特徴や点が自己位置推定に使われると、姿勢や移動量の推定を不安定にする可能性があります。たとえば、視野の大半を樹木が占める林道や緑地では、観測間で対応しているように見えた特徴が実際には動いている場合があります。そのような条件が続くと、計測軌跡にずれが蓄積し、後半の点群が十分に重ならない、周回した場所で段差が見える、平面が波打つといった症状につながることがあります。
また、屋外ではGNSS、既知点、図面、写真記録など、SLAM単体以外の情報と組み合わせて成果を整理することがあります。樹木の揺れによるノイズを放置すると、後から断面を確認したときに不要な浮遊点が障害になったり、地形面と植生点の分離に時間がかかったりします。出来形確認、土量計算、施設配置確認、維持管理記録などに利用する場合は、成果に必要な対象と植生を区別し、樹木の揺れを計測段階から意識しておくことが重要です。
ここで大切なのは、樹木を完全に排除することではありません。現場によっては樹木そのものが管理対象である場合もあり、周辺環境として記録しておく必要がある場合もあります。しかし、揺れる枝葉だけに自己位置推定を依存するような計測条件はできるだけ避けるのが安全です。樹木は「形状記録の対象」と「自己位置推定で頼りすぎない対象」を分けて考える必要があります。幹、縁石、建物、擁壁、マンホール、フェンス支柱、コンクリート構造物など、変形しにくく識別しやすい対象も視野に含め、枝葉はノイズが生じやすい領域として扱う考え方が、屋外SLAM計測では重要になります。
対策1として風の弱い時間帯と計測順序を選ぶ
屋外の樹木揺れによるノイズを減らす最初の対策は、計測する時間帯と順序を選ぶことです。点群処理で不要点を除去できる場合もありますが、揺れの大きい状態で取得したデータを後から完全に修正できるとは限りません。特に、動的な対象が自己位置推定に影響して軌跡自体がずれた場合、枝葉の点だけを削除しても元の位置推定誤差は解消できないことがあります。現場で取得する段階から揺れを減らせれば、後処理の負担や成果のばらつきを抑えやすくなります。
実務では、同じ現場でも時間帯によって風の状況が変わります。一般に時間帯による風の傾向が見られる地域もありますが、「朝なら必ず弱い」といった一律の判断はできません。海沿い、河川沿い、谷地形、造成地の法肩、建物間の通路などでは局地的に風が強くなることもあります。そのため、気象情報だけで判断するのではなく、現場到着後に樹木の上部、低木、草、仮設物の動きを観察し、どの範囲で揺れが目立つかを把握してから計測計画へ反映することが有効です。
風が弱い状況を選べる場合は、重要度の高い範囲から先に計測します。たとえば、構造物の外形、境界付近、基準となる地点周辺、地形面、設備配置の確認に使う範囲は、枝葉の動きが比較的小さいときに優先して取得します。逆に、樹木の概略形状や背景としての植生記録で足りる範囲は、成果の目的に応じて後回しにすることも考えられます。このように、全体を一律に扱わず、計測成果で重視する範囲を先に取得することが重要です。
計測順序を決める際には、風向そのものだけでなく、各ルートからどのような対象が視野に入るかを確認します。風上から計測すればよい、風下から計測すればよいという単純な原則はありません。重要なのは、建物、擁壁、舗装の段差、フェンス、縁石などの静止物を観測しやすい区間から始め、動く枝葉だけが視野の大部分を占める状況をできるだけ短くすることです。スタート直後から揺れる樹木だけを観測するより、識別しやすい静止物を十分に取得してから植生の多い範囲へ進むほうが、自己位置推定の手掛かりを確保しやすくなります。
また、風が断続的に強くなる現場では、無理に連続して計測し続けない判断も必要です。突風で樹木が大きく揺れている間に重要範囲を通過すると、その区間で植生由来の点のばらつきが増える可能性があります。現場の安全や作業時間との兼ね合いはありますが、短時間で風況が変わる場合は、機器の操作手順に従って計測を区切る、重要区間を後で取得し直すといった方法も検討できます。機器やアプリによっては途中停止やデータ分割の扱いが異なるため、むやみに停止するのではなく、使用するシステムの推奨手順に合わせることが大切です。
ただし、風の弱い状況を選べばすべて解決するわけではありません。屋外では日射、影、通行、作業工程、立入制限、GNSS環境など、他の条件も重なります。特にVisual SLAMを含む方式では明暗差や照明条件も影響要因になり得ます。したがって、計測前には「枝葉の動きが小さいこと」「静止物を観測しやすいこと」「通行や作業干渉が少ないこと」「必要範囲を安全に移動できること」などをまとめて確認し、その現場で安定した観測を行いやすい条件を選ぶことが大切です。
対策2として樹木を主特徴にしないルートを設計する
樹木が揺れる環境でSLAM計測ノイズを減らすには、計測ルートの設計が重要です。SLAM計測では、移動ルートと観測できる対象によって、自己位置推定の条件が変わります。揺れる枝葉が多い方向だけを長時間観測して進むと、静止した対象から得られる情報の割合が小さくなる場合があります。反対に、静止した構造物や地物も継続して観測できるルートを選べば、動的な植生だけに依存する状況を避けやすくなります。
計測ルートを考えるときは、まず現場内の静止物を確認します。建物の壁面、擁壁、縁石、側溝、階段、フェンス支柱、標識柱、マンホール、照明柱、ガードレール、コンクリート基礎などは、枝葉よりも位置や形状が安定しています。ただし、広く均一な壁や平坦面だけでは、使用するSLAM方式によって十分な特徴が得にくい場合もあります。そのため、角、段差、柱、開口、異なる方向を向く面など、幾何形状を識別しやすい対象が継続して視野に入るルートを検討します。たとえば、公園や緑地の外周を計測する場合でも、いきなり樹木の内側へ入るのではなく、園路、縁石、構造物沿いを基準に取得してから、必要な植生範囲を追加する方法が考えられます。
樹木を主特徴にしないためには、視野の配分も重要です。計測者が樹木だけを正面に見ながら移動すると、枝葉の動きが観測の大部分を占める場合があります。特に葉が密集している生垣や低木の近くでは、センサーに近い位置に動的な対象が広く入るため、奥の静止物が隠れることもあります。樹木を記録したい場合でも、可能であれば周囲の静止した構造物や地面との境界も同時に取得できる位置を選びます。
使用するSLAMにループ閉じ込みや再訪地点を利用した補正機能がある場合は、同じ静止物を再観測できる周回ルートや交差ルートが有効になることがあります。ただし、すべてのSLAMシステムが同じ方法で閉合処理を行うわけではなく、単に開始地点へ戻れば自動的に精度が保証されるわけでもありません。使用する機器やソフトウェアの仕様を確認したうえで、再訪地点では揺れる樹木だけでなく、構造物の角、段差、支柱など、再識別しやすい静止対象を取得することが望まれます。
また、樹木の近くを通る距離にも注意が必要です。枝葉に近づきすぎると、わずかな揺れでもセンサーに対する位置変化が大きくなり、近距離の枝葉が視野を広く占めることがあります。樹木の形状を詳細に記録する目的でなければ、枝葉から適度に距離を取り、幹や地面、周囲の構造物も同時に観測できる位置を選びます。どうしても樹木の近くを通過する必要がある場合は、その前後で識別しやすい静止物を十分に取得しておくと、動的な対象だけが連続する区間を短くできます。
ルート設計では、現場の見通しと環境の単調さも重要です。樹木が密集している場所では奥行き方向の形状が隠れ、似たような枝葉のパターンが続くため、場所を識別するための情報が乏しくなることがあります。特に林道や植栽帯のように似た環境が長く続く場所では、静止した特徴物をこまめに経由することが有効です。舗装の端部、支柱、看板、構造物の角、岩、開けた空間など、変化を識別しやすい場所をルートに組み込むことで、単調な植生だけが長時間続く条件を避けやすくなります。
対策3として静止物を使って自己位置推定を安定させる
樹木が揺れる環境で点群ノイズの影響を抑えるためには、静止物を積極的に観測し、自己位置推定に使える情報を確保することが重要です。SLAMでは、カメラ画像、LiDAR点群、慣性センサーなど、方式ごとに異なる情報を用いて位置と姿勢を推定します。そのため、単純に「静止物が多ければ必ず高精度になる」とは言えませんが、動く対象だけが大半を占める状況より、位置や形状が変わらない対象を十分に観測できる環境のほうが一般に扱いやすくなります。
実務では、計測前に「継続して観測できる静止物」を現場で確認しておくと効果的です。たとえば、建物外周であれば壁面だけでなく、出隅、開口部、基礎立上り、段差などが手掛かりになります。道路や敷地外周であれば、縁石、側溝、マンホール、標識柱、フェンス支柱、擁壁の端部などがあります。造成地や法面では、法肩、法尻、排水溝、固定された構造物などが利用できます。これらを計測ルートの中で継続的に視野へ入れることで、枝葉だけが観測を占める状況を減らせます。
静止物を使う際に重要なのは、対象を一瞬だけ見るのではなく、可能な範囲で異なる位置や角度から形状を取得することです。ただし、機器を意図的に激しく振る必要はありません。構造物の角や支柱のように立体的な特徴がある場所では、通常の移動の中で複数の面が観測できるようにルートを取ります。こうすることで、後から見たときにも位置関係を判断しやすくなり、再訪地点の照合や点群確認にも利用しやすくなります。
地面の扱いも重要です。屋外では、舗装面、土面、砂利面、草地などが混在します。舗装面やコンクリート面は静止していますが、広く平坦で模様や凹凸の少ない面は、SLAM方式によっては自己位置推定の手掛かりが少なくなることがあります。草地は風で揺れたり、踏み込みで形が変わったりするため、静止した舗装と同じようには扱えません。そのため、地面だけに頼るのではなく、縁石、構造物の立上り、支柱、段差など、立体的または視覚的に識別しやすい静止物を組み合わせることが望まれます。
樹木そのものを記録する場合でも、幹と枝葉を分けて考えると整理しやすくなります。太い幹の根元付近は枝葉より動きが小さいことが多く、周囲の静止特徴の一つとして利用できる場合があります。ただし、細い幹や若木は風で揺れることがあり、すべての幹を固定物とみなすことはできません。幹を手掛かりにする場合も、枝葉だけでなく周囲の構造物や地形の特徴を同時に取得することが重要です。
現場によっては人工的な静止物が少ない場合もあります。広い緑地、山林、造成前の敷地、農地周辺では、樹木や地面が視野の大半を占めます。このような場合、使用するSLAMシステムが人工ターゲットや補助特徴の利用に対応しているなら、安定して固定できる目印を設置する方法も検討できます。ただし、ターゲットを置けばすべてのSLAMで自動的に精度が向上するわけではありません。システムが認識できるターゲットの種類や配置条件を確認し、風で動かないよう確実に固定する必要があります。
対策4として計測速度と視線方向を安定させる
樹木が揺れる屋外環境では、計測者の動き方も重要です。SLAM計測では、急な方向転換、過度に速い移動、激しい上下動、センサーを大きく振る動作などによって、観測間の対応付けや慣性情報との整合が難しくなる場合があります。そこに樹木の揺れが重なると、動く対象と計測者自身の動きが同時に観測されるため、条件がさらに複雑になります。そのため、使用する機器の推奨速度や操作方法を守り、滑らかで安定した移動を心掛けることが基本的な対策になります。
歩行速度は、単純に遅ければ遅いほどよいわけではありません。速すぎる移動では観測間の変化が大きくなりやすい一方、揺れている枝葉の前で長時間停止すると、異なる位置の枝葉が繰り返し記録され、植生部分の点群が厚く見えることがあります。重要なのは、対象や計測範囲、センサーの仕様に合った速度で滑らかに移動することです。樹木の近くや静止特徴の少ない場所では、機器が推奨する範囲内で特に丁寧に動くようにします。
視線方向やセンサーの向きも、進行方向だけに固定すればよいとは限りません。進行方向の先に樹木しかない場合は、可能であれば横方向の静止物や構造物との境界も観測できる位置を選びます。一方で、静止物を見ようとして機器を頻繁かつ急激に左右へ振ると、別の不安定要因になる可能性があります。向きを変える場合も、使用する機器の操作方法に従い、滑らかな姿勢変化を心掛けます。
上下方向の動きにも注意します。屋外では段差、法面、未舗装地、根上がり、ぬかるみなどがあり、歩行中に機器が上下しやすくなります。樹木が揺れている環境で計測者側の動きも大きいと、安定した観測を得にくくなる場合があります。特に足元が不安定な場所では、計測品質だけでなく安全面にも影響します。歩行ルートを選ぶ段階で、できるだけ安全かつ安定して移動できる場所を選び、段差や障害物を越えるときは急な姿勢変化を避けます。危険な区間は無理に一つの連続データとして取得せず、使用するシステムが分割計測や後処理での統合に対応している場合は、安全を優先した計測方法を検討します。
樹木の下を通るときは、センサーと枝葉の距離に注意します。低い枝の下をくぐるような動きは、機器の姿勢が変わりやすく、近距離の葉が視野を大きく覆います。近い葉は小さな揺れでもセンサーに対する位置変化が大きく、奥の静止物を遮ることもあります。樹木の下を通らなければならない場合は、事前に安全な通過位置を確認し、枝葉に近づきすぎないようにしながら、通過前後で静止物を取得します。枝が身体や機器に触れるようなルートは、安全と機器保護の面から避けるべきです。
計測中は、同じ場所で長く立ち止まり、揺れる枝葉だけを観測し続ける状況も避けたほうがよい場合があります。静止した構造物を確認するための停止が有効なシステムもありますが、揺れる枝葉を視野に入れたまま停止すると、同じセンサー位置から異なる枝葉位置が記録されることがあります。樹木を詳細に記録したい場合でも、取得目的を明確にし、必要以上に同じ動的対象を観測し続けないことが重要です。
計測者の動きを安定させることは、後処理で原因を分析しやすくする意味でも有効です。急な動きや頻繁な方向転換が多いデータでは、植生の動きによる乱れなのか、センサーの移動による問題なのかを切り分けにくくなります。使用機器の推奨操作に沿って一定した計測を行うことは、点群品質だけでなく、成果説明や再計測判断のしやすさにもつながります。
対策5として重複計測と不要領域の整理で揺れの影響を抑える
樹木が揺れる環境では、重複計測の扱い方が重要です。一般に、同じ範囲を複数方向から取得すると形状の欠損を補いやすくなります。しかし、動いている枝葉を何度も取得すると、そのたびに異なる位置の点が記録され、植生部分ではかえって厚みや浮遊点が増えることがあります。したがって、屋外の植生環境では、重複計測を増やせば必ず成果が改善すると考えるのではなく、静止物の確認に必要な重複と、動く対象を過剰に取得する重複を分けて考えることが大切です。
重複計測を行う場合は、主目的を明確にします。構造物や地形面の確認が目的であれば、重複させたいのは壁面、縁石、法肩、側溝、基準となる場所などの静止領域です。樹木の枝葉部分を何度もなぞる必要があるかどうかは、成果の用途によって判断します。たとえば、敷地外周の構造物を記録する場合、往路と復路で構造物を異なる方向から確認しつつ、揺れる樹冠を必要以上に長く観測しないルートを選ぶことが考えられます。重複の目的を「安定した対象の確認」に置くことで、動的な点を増やしすぎることを避けやすくなります。
不要領域の整理も重要です。屋外SLAM計測では、成果に必要ない遠方の樹冠、通行車両、作業員、揺れる草木などが点群に混ざることがあります。これらは現況記録として意味を持つ場合もありますが、出来形確認、設計照合、断面作成、地形モデル化では除外したほうが扱いやすいことがあります。計測時には成果に必要な範囲を意識し、後処理では使用するソフトウェアのフィルタリング、分類、範囲選択などの機能を利用して、用途に不要な点を整理します。
ただし、後処理で削除する前提だからといって、現場で取得条件を軽視してよいわけではありません。揺れる樹木が自己位置推定に影響し、軌跡や点群全体の位置関係に誤差が生じた場合、後から枝葉だけを削除しても構造物の位置関係まで自動的に修正されるわけではありません。不要点の整理は、できるだけ安定したデータを取得したうえで、成果物の用途に合わせて見やすくする工程と考えるのが適切です。計測段階の対策と後処理の整理を組み合わせることが重要です。
重複計測では、同じ範囲を取得するタイミングにも注意します。風況が大きく変わった後に同じ樹木を再度取得すると、最初の計測時とは枝葉の位置が異なり、植生部分の重なりが悪くなることがあります。静止物の重複確認を目的とする場合は、植生の変化に惑わされず、構造物や地面などの静止領域を基準に確認します。広い現場では、一つの長大なルートだけに依存するより、使用するSLAMシステムの仕様に応じて範囲を適切に分け、各区間の品質を確認しながら計測する方法も検討できます。
点群を整理する際には、削除しすぎにも注意が必要です。樹木や植生をすべてノイズとして消してしまうと、現場の状況説明に必要な情報まで失われることがあります。たとえば、樹木と構造物の離隔、枝の張り出し、管理範囲の障害物、法面の植生状況などを確認したい場合、植生情報は重要な意味を持ちます。成果物の用途に応じて、残すべき植生と除去すべき浮遊点を区別することが大切です。設計照合用の点群、現況記録用の点群、説明資料用の点群では、適切な整理の度合いが異なります。
また、不要領域の整理を行う場合は、現場メモや写真記録を残しておくと判断しやすくなります。後処理担当者が現場にいなかった場合、空中に散った点が枝葉なのか、仮設材なのか、作業員なのかを判断しにくいことがあります。計測時に風が強かった範囲、揺れが目立った樹木、通行が多かった時間帯、除去対象にしたい領域を記録しておけば、後工程での判断材料になります。SLAM計測は取得して終わりではなく、目的に適した成果へ整理するところまで含めて運用を考えることが重要です。
対策6として基準点と確認点で成果を検証する
樹木が揺れる環境でSLAM計測を行った場合、見た目だけで成果の良否を判断するのは避けるべきです。点群が一見きれいに見えても、計測範囲によっては軌跡のずれや局所的な変形が含まれている可能性があります。特に揺れる枝葉が多い環境では、植生部分のノイズに目が向きやすく、静止した構造物の位置関係の確認が後回しになることがあります。そのため、必要な精度に応じて既知点や独立した確認点を利用し、成果を検証することが重要です。
基準点は、対応する計測システムや後処理ソフトウェアを用いて点群を既知の座標系へ合わせる場合に利用できます。確認点は、位置合わせそのものには使用せず、処理後の成果がどの程度現地と一致しているかを独立して確認するために利用します。ただし、基準点や確認点の利用方法はSLAM機器やソフトウェアによって異なります。すべてのSLAMシステムが同じ方法で基準点補正できるわけではないため、使用する機器の仕様と必要精度に適した検証方法を選ぶ必要があります。
確認点は、揺れる樹木ではなく、静止した対象に設定します。舗装上の識別可能な点、構造物の角、マンホールなどの明確な形状、基礎の端部、縁石の交点、支柱の根元など、現地で再確認しやすく、点群上でも判読しやすい場所が適しています。草地や落ち葉の上、枝葉の影に隠れる場所、風で動く仮設物の近くは避けます。確認点自体が曖昧だと、SLAM成果の誤差なのか、点の読み取りや測定方法の差なのかを判断しにくくなります。
検証では、数値だけでなく、静止構造物の形状の整合も確認します。既知点との残差が小さい場合でも、壁面が二重になっている、縁石が途中で不自然に折れている、舗装面に段差や波打ちが見える、同じ支柱が複数に分かれて見えるといった症状があれば、計測軌跡や点群統合の状態を確認する必要があります。樹木の揺れによるノイズは枝葉部分だけに現れるとは限らず、動的な特徴が自己位置推定に影響した場合には周辺の静止物にもずれが現れる可能性があります。そのため、点群全体を俯瞰し、静止物の連続性を確認することが大切です。
使用するシステムがループ閉じ込みや周回ルートに対応している場合は、開始付近を再度通過した際に同じ静止物がどの程度整合しているかを確認することも有効です。ただし、開始地点へ戻ったことだけで精度を保証することはできません。不自然な二重化や段差が見られる場合は、樹木の揺れが強かった区間、静止物が少なかった区間、急な姿勢変化があった区間などを振り返ります。必要であれば、その区間を条件の良い状態で再計測する判断も有効です。
検証結果は、成果物の使い方にも影響します。たとえば、現況把握や概略説明が目的であれば、多少の植生ノイズが残っていても実務上許容できる場合があります。一方、構造物の位置確認、出来形比較、設計データとの照合、土量算出などに利用する場合は、要求される精度に応じて静止物や地形面の整合を確認する必要があります。SLAM計測の成果は、用途によって必要な品質が異なります。樹木の揺れがある現場では、計測前に用途と要求精度を明確にし、検証方法もそれに合わせて設定することが重要です。
基準点や確認点を使った検証は、作業者間の品質差を減らすうえでも有効です。経験のある担当者は点群を見て不自然な箇所に気づける場合がありますが、見た目だけの判断では再現性がありません。使用するシステムと成果用途に応じて確認点を設定し、数値と形状の両面で確認する手順を標準化すれば、担当者が変わった場合でも品質を管理しやすくなります。屋外SLAM計測では現場条件が毎回異なるため、感覚だけに頼らず、検証できる仕組みを持つことが大切です。
LRTK Phoneを使った屋外SLAM計測の活用へつなげる
屋外の樹木が揺れる環境でSLAM計測ノイズの影響を抑えるには、風況を確認すること、ルートを設計すること、静止物を観測すること、計測者の動きを安定させること、重複計測と不要領域を整理すること、基準点や確認点などで成果を検証することが重要です。これらは特別な現場だけで必要になる対策ではありません。建設現場の外周、造成地、維持管理対象の施設周辺、河川や道路の近接部、太陽光発電所の敷地、緑地に隣接する設備点検など、樹木や草木が視野に入る屋外計測で応用できる考え方です。
SLAM計測では、機器の性能だけでなく、現場条件と取得方法が成果品質に影響します。樹木の揺れは自然条件であり、完全に制御することはできません。しかし、揺れる枝葉だけを自己位置推定の手掛かりにしない、静止物を意識して観測する、枝葉の動きが大きい時間を避ける、重要範囲を優先して取得する、独立した確認点などで成果を検証するといった基本を積み重ねることで、動的な植生による影響を抑えやすくなります。後処理だけに頼るのではなく、計測前、計測中、計測後の各段階で対策することが、屋外SLAM計測の品質管理につながります。
また、屋外では点群だけでなく、位置情報、写真、メモ、図面、基準点情報などを合わせて管理することが実務上重要です。植生ノイズの影響を整理した点群は、現況説明、設計照合、出来形確認、維持管理記録などに活用しやすくなります。特に、現場で取得したデータを確認し、必要に応じて条件の良い状態で追加計測できる運用にしておくと、帰社後に不足や大きなずれが見つかるリスクを減らしやすくなります。
屋外SLAM計測を安定させるうえでは、現場担当者がその場で判断しやすい環境づくりも大切です。どの範囲で樹木が揺れているか、どの静止物を確認対象にするか、どの地点で成果を検証するかを共有できれば、計測後の点群確認や報告作成にもつなげやすくなります。LRTK Phoneでは、高精度な位置情報の取得、位置情報付き写真の記録、点群取得、LRTKクラウドでのデータ閲覧や共有といった機能を組み合わせて現場情報を管理できます。ただし、LRTK Phoneを使用するだけで、揺れる樹木に起因するSLAMノイズが自動的に除去されるという意味ではありません。植生による動的ノイズへの対策は、計測条件、ルート、取得方法、検証を適切に組み合わせて行う必要があります。屋外のSLAM計測で実務に使いやすい点群成果を目指す場合は、こうした取得条件の管理とあわせて、位置情報や写真、点群を一体的に扱えるLRTK Phoneの活用を検討するとよいでしょう。