LRTKレフィクシア株式会社

鉱山坑道のSLAM計測で分岐点の取り違えを防ぐ6つの識別目印

鉱山坑道のSLAM計測で分岐点識別が重要になる理由

鉱山坑道でSLAM計測を行う場合、地上の道路や建物内部とは異なる難しさがあります。その中でも特に注意したいのが、似た形状の分岐点を取り違える問題です。坑道は施工方法や支保形式が一定であることが多く、同じ断面寸法、同じ照明配置、同じ支保工、同じような路盤が長距離にわたって続くことがあります。そのため、人が目視しただけでも現在位置を判断しにくくなり、SLAMによる自己位置推定にとっても厳しい環境になる場合があります。

SLAM計測では、レーザースキャナやカメラ、慣性センサなどで取得した周辺情報を用いて、自らの移動量を推定しながら周囲の形状を地図化します。外部から常に絶対座標が与えられる方式とは異なり、過去に観測した周辺形状と現在の観測結果との対応関係が重要です。そのため、似た形状の坑道が複数存在すると、別の場所を以前通過した場所と誤って対応付けたり、正しい分岐点を認識できなかったりする可能性があります。

特に危険なのは、十字型や丁字型の分岐が一定間隔で連続する坑道です。採掘計画に沿って規則的に坑道が配置されている場合、分岐形状そのものだけを識別材料にすると区別しにくくなります。さらに、照明が限定的な環境では画像から得られる特徴も少なくなり、粉じん、水滴、濡れた壁面などが観測条件を変化させます。

したがって、鉱山坑道のSLAM計測では、単に計測機器を持って歩くだけではなく、「どの分岐点を通ったのか」を後から明確に説明できる識別方法をあらかじめ用意することが重要です。分岐点を識別できれば、計測者の道迷い防止だけでなく、取得した点群の確認、複数回計測の比較、位置補正、設備管理などにも利用できます。

重要なのは、一つの目印だけに依存しないことです。坑道番号、支保工、設備、排水構造、岩盤形状、計測専用マーカーなど、異なる性質の特徴を複数組み合わせることで、似た坑道でも分岐点を区別しやすくなります。

分岐点の取り違えがSLAM計測に与える影響

分岐点の取り違えというと、計測者が進行方向を間違える問題だけを想像しがちですが、SLAM計測では点群全体の整合性にも影響する可能性があります。

例えば、坑道Aの分岐と坑道Bの分岐が非常によく似ている場合、自己位置推定処理が両者を似た場所として認識することがあります。実際の処理方法は使用する計測方式によって異なりますが、周辺形状の類似度が高い環境では、場所を識別するための特徴量が不足しやすいという基本的な問題があります。

長い直線坑道も注意が必要です。断面形状がほぼ一定で、壁面や天井に特徴が少ない状態で直線移動を続けると、移動方向の変化を判断する材料が少なくなります。そこへ似た分岐が連続すると、どの分岐点に到達したのかを人間側でも確認しにくくなります。

取り違えをその場で発見できれば再計測できますが、作業終了後に気付くと、どの範囲まで正しく計測されていたのかを確認する必要があります。坑道が長くなるほど、再計測に必要な移動時間も増えます。

さらに、設備位置の管理を目的としてSLAM計測を行う場合には、分岐点の誤認が設備位置の誤解につながるおそれがあります。例えば、同じような排水設備や配管設備が複数の坑道に存在する場合、点群だけを見ていると「どの坑道の設備なのか」が分かりにくくなることがあります。

そのため、計測精度だけでなく、取得したデータを正しい場所に対応付けられることまで含めてSLAM計測の品質を考える必要があります。

分岐点では、「この場所は他の分岐と何が違うのか」を計測前に整理しておくことが有効です。自然に存在する特徴だけでは不足する場合には、人為的な識別目印を追加する方法も検討します。

識別目印1 固定標識と坑道番号を基準にする

最初に確認したい識別目印が、坑道内に設置されている固定標識です。鉱山によって管理方法は異なりますが、坑道番号、区画名称、距離標、作業区域表示、設備管理番号などが設置されている場合があります。

こうした固定情報は、人間が分岐点を識別するうえで非常に分かりやすい材料です。SLAM計測を開始する前に、既存の坑道図と現地標識を照合し、「どの標識がどの分岐に対応しているか」を確認しておきます。

重要なのは、標識が存在しているだけで安心しないことです。古い標識が残っていたり、名称変更前の表示が残っていたりする可能性もあります。坑道の延伸や閉鎖、採掘区域の変更に伴い、管理名称と現地表示が一致していない場合も考えられます。

したがって、計測開始前に使用する坑道図の版と現地管理情報が対応していることを確認します。現場で利用する識別名称も統一しておくと、記録の混乱を防ぎやすくなります。

例えば、同じ分岐を作業員によって「第3分岐」「東側分岐」「排水ポンプ前」など別々の名称で呼んでいると、計測後の整理で混乱しやすくなります。正式な名称に加えて、計測用の短い識別番号を決めておくと扱いやすくなります。

標識そのものが点群には明瞭に写らないこともあります。レーザー計測では文字情報そのものより標識板の形状として記録されることが多いため、計測中に標識を確認した時刻や分岐番号を別途記録しておく方法が有効です。

画像情報を同時取得できる場合には、標識の文字を確認できる可能性があります。ただし、坑道内では照明条件や汚れ、粉じんの影響によって読み取りにくくなるため、文字情報だけに依存しないことが重要です。

固定標識は非常に有効な第一の識別目印ですが、次に説明する形状や設備情報と組み合わせて利用することで信頼性を高められます。

識別目印2 支保工や坑道断面の形状差を読む

二つ目の識別目印は、坑道の構造そのものです。坑道の断面形状、天井高さ、幅、支保工の種類、支保間隔、壁面処理などには、場所ごとの差が現れることがあります。

SLAM計測では三次元形状を取得するため、このような構造的特徴は重要な識別材料になります。例えば、ある分岐では天井が高く、別の分岐では低いという違いがあれば、点群上でも区別しやすくなります。

支保工の配置も有効です。直線区間では一定間隔で並んでいる支保が、分岐付近だけ補強されていたり、形状が変わっていたりする場合があります。交差部では坑道幅が広くなるため、支保方法が周囲と異なることもあります。

ただし、支保工を識別目印として使用する場合には、改修による変化を考慮する必要があります。計測前に交換された支保材や追加補強があると、過去の点群とは形状が変わります。逆に、改修履歴が分かっていれば、「この分岐だけ補強形状が違う」という強力な識別情報になります。

坑道断面を見るときは、一点だけを見るのではなく、分岐に進入する手前から通過後までの連続した形状として確認することが大切です。

例えば、分岐直前に幅が広がり、交差部で天井が高くなり、その後再び狭くなるという形状変化があれば、それ自体が場所を示す特徴になります。単純な十字形という情報よりも、前後を含む三次元形状の組み合わせの方が識別力は高くなります。

SLAM計測のルート設計でも、この特徴を活用できます。分岐点に到達したらすぐに通過せず、周辺形状が十分取得できるように計測することで、分岐の特徴をデータ内に残しやすくなります。

ただし、計測機器を必要以上に急回転させると自己位置推定が不安定になる場合があるため、使用する機器の運用条件に合わせて安定した動作で周囲を取得します。

識別目印3 配管やケーブルなどの設備配置を確認する

三つ目の識別目印は、坑道内設備です。鉱山坑道には、換気、排水、電力、通信などに関連する各種設備が配置されることがあります。これらの設備は坑道の用途や位置によって配置が異なるため、分岐点を区別する材料になります。

例えば、ある坑道では壁面の一方に配管が集中し、別の坑道では天井付近に設備が配置されているという違いがあります。分岐部で配管の向きが変わったり、複数方向に分岐したりする場所もあります。

このような設備は点群にも形状として現れやすいため、SLAM計測との相性が良い識別目印です。特に直線的な坑道壁面と比較すると、配管の曲がり、バルブ周辺の突出、設備支持部材などは局所的な特徴になります。

ただし、設備は更新や撤去が行われることがあります。そのため、「配管があるから必ずこの分岐」と決め付けるのではなく、設備配置は複数の識別情報の一つとして扱います。

また、安全上の理由から接近できない設備や触れてはいけない設備もあります。識別作業のために設備へ近づいたり、計測用マーカーを直接取り付けたりするのではなく、現場の安全管理ルールを優先します。

設備配置を記録するときは、「配管あり」という程度ではなく、位置関係を意識すると識別しやすくなります。

例えば、進行方向に対して右壁に配管があり、分岐の直前で天井側へ移行し、左側分岐には入っていない、といった連続的な配置関係です。このような特徴は似た分岐同士を区別するときに役立ちます。

さらに、複数回のSLAM計測を比較する場合、設備そのものが変化点になることがあります。新設された配管や撤去された設備を把握しておけば、点群差分を確認するときにも判断しやすくなります。

識別目印4 排水溝や路盤形状の違いを利用する

四つ目は、足元にある排水溝や路盤形状です。坑道計測では壁や天井に注目しやすいものの、床面付近にも場所を識別する情報があります。

坑道内では湧水や作業排水を処理するため、側溝、集水部、勾配変化、排水管などが設けられている場合があります。分岐点では排水方向が変わるため、排水構造そのものが特徴になることがあります。

例えば、直線区間では片側だけに存在していた側溝が分岐部で反対側へ移ったり、複数方向から集まったりする場合があります。また、集水設備や段差が配置されている分岐では、他の交差部と比較して特徴的な床面形状になります。

路盤の勾配も重要です。鉱山坑道では完全な水平とは限らず、排水や搬送の条件によって縦断勾配が設けられている場合があります。分岐ごとに上り方向と下り方向が異なれば、人が方向を判断するための補助情報として利用できます。

一方、床面は水や泥、堆積物によって形状が見えにくくなることがあります。また、日常的な整備によって路盤状態が変化しやすいため、小さな凹凸だけを恒久的な識別目印として扱うのは適切ではありません。

利用したいのは、排水溝の向き、恒久的な段差、路盤の大きな勾配変化など、比較的変わりにくい特徴です。

SLAM計測時には、計測機器の視野によって床面の取得状況が変わります。分岐識別に排水構造を利用する場合は、床面付近が十分に取得されているかを確認します。

特に狭い坑道で機器を高い位置に保持している場合、機器直下に死角が生じることがあります。どの範囲が取得されるのかを事前に確認し、必要に応じて通過ルートを調整します。

識別目印5 岩盤や壁面に残る固有形状を確認する

五つ目の識別目印は、自然の岩盤や掘削後の壁面に現れる固有形状です。

坑道の施工断面が規則的でも、岩盤そのものは完全に同じ形状にはなりません。局所的な突出、凹部、割れ目、岩質の境界、大きな掘削跡などが残っていれば、それらが場所を識別する特徴になることがあります。

特に三次元点群では、人間が写真で見ただけでは気付きにくい壁面の微妙な凹凸も記録できます。分岐付近に比較的大きな壁面形状の違いがあれば、後処理時の確認材料になります。

ただし、岩盤の見た目については注意が必要です。照明方向が変わると陰影が変化し、画像では同じ場所でも違って見えることがあります。濡れた壁面と乾いた壁面でも外観が変わります。

そのため、色や明るさだけではなく、三次元的な形状を優先して見ることが重要です。

例えば、「壁が黒い」という特徴だけでは条件変化に弱いですが、「分岐入口の左側上部に大きな凹部がある」「天井から壁にかけて連続した突出形状がある」といった立体的な特徴であれば、識別材料として利用しやすくなります。

一方、発破や掘削が継続している区域では壁面形状が変化します。スケーリングや補修によって岩片が除去されることもあるため、永続的な基準として利用できるとは限りません。

したがって、岩盤形状は現場の状況に応じた補助的な識別目印として使い、固定標識や坑道構造などと組み合わせます。

SLAM計測にとっては、こうした不規則な形状が存在すること自体が有利に働く場合があります。平滑で均一な長い壁面よりも、三次元的な特徴が多い空間の方が、位置変化を推定するための材料を得やすくなるからです。

分岐点周辺で特徴的な岩盤形状が見つかった場合には、計測前にそれを記録しておくと現場確認にも後処理にも利用できます。

識別目印6 計測専用の識別マーカーを設置する

既存の坑道だけでは十分な識別情報を得られない場合に有効なのが、計測専用の識別マーカーを設置する方法です。これが六つ目の識別目印です。

特に規則的に施工された坑道では、複数の分岐がほぼ同じ形状になることがあります。支保工の配置も設備の配置も似ており、岩盤が被覆されている場合には自然形状も利用しにくくなります。このような場所では、人為的に分岐ごとの差を作ることが有効です。

識別マーカーは、分岐ごとに異なる形状や配置にすると区別しやすくなります。単一の目印を一個だけ置くよりも、配置そのものに違いを持たせる考え方が重要です。

例えば、ある分岐では進行方向左側に複数のマーカーを配置し、別の分岐では右側に配置するなど、三次元的な位置関係を変える方法があります。マーカーの高さを変える方法もあります。

ここで重要なのは、計測機器が認識しやすいことと、人間が現地で確認しやすいことを両立させることです。

視覚的な識別だけが目的なら文字や色でも区別できますが、三次元形状を取得するSLAMでは、形状として認識できる配置が役立つ場合があります。使用する計測方式によって適したマーカーは異なるため、実際の機器で事前確認することが重要です。

また、識別マーカーを安全設備と紛らわしい形状や表示にすることは避けます。坑内では標識が安全管理上の重要な意味を持つことがあるため、計測用目印であることが明確に分かる運用が必要です。

設置位置についても、通行や作業の妨げにならず、車両や機械と干渉せず、避難経路を妨げない場所を選びます。勝手に設備や支保材へ取り付けるのではなく、現場の管理方法に従います。

マーカーを一時設置する場合には、計測終了後の回収管理も必要です。何個設置し、どこへ置き、何個回収したかを確認できるようにします。

複数回計測で同じ分岐を比較する場合には、可能であれば同じ位置に識別点を再現できる運用にすると便利です。点群を時系列で比較するときにも、共通位置を判断する材料になります。

6つの識別目印を組み合わせて誤認を防ぐ方法

分岐点の識別で最も重要なのは、ここまで説明した六つの目印のどれか一つに依存しないことです。

例えば、坑道番号だけを信用していると、標識が汚れて読めなくなったときに判断できません。配管だけを頼りにすると、設備更新後に識別できなくなります。岩盤形状だけを覚えていると、補修後に形が変わる可能性があります。

そこで、分岐ごとに少なくとも複数の特徴を関連付けて記録します。

一例として、「分岐番号、右壁の配管、左側排水溝、天井補強」というように、異なる種類の特徴を一組として扱います。こうすると、そのうち一つが見えなくても残りの情報で確認できます。

重要なのは、似た分岐同士を比較して違いを見つけることです。

分岐Aだけを見て「配管がある」と記録しても、分岐Bにも同じ配管があれば識別できません。「分岐Aでは右側、分岐Bでは左側」という差を見つけることで初めて有効な識別情報になります。

そのため、計測前の下見では各分岐を個別に見るだけでなく、隣接する分岐との違いを整理します。

識別情報には、変わりにくい特徴と変わりやすい特徴があります。坑道断面や恒久構造物は比較的変わりにくい一方、資材、仮設設備、車両、ホースなどは移動します。

移動可能な物体を識別目印として扱うと、計測時には位置が変わっている可能性があります。「工具箱がある分岐」「車両が止まっている交差部」といった判断は避け、固定的な特徴を優先することが基本です。

どうしても固定的な違いがない場合には、計測専用マーカーを使って意図的に違いを作ります。

このような事前準備をすると、人間による経路確認とSLAM計測データの確認を同じ識別情報で行えるようになります。

分岐点を含む坑道をSLAM計測する実践手順

実際のSLAM計測では、まず計測対象の坑道範囲と移動ルートを決めます。行き当たりばったりに移動すると、どこを取得したのか分からなくなりやすいため、分岐点を含むルートをあらかじめ整理しておくことが重要です。

開始位置は可能な範囲で分かりやすい場所を選びます。坑口、既知点周辺、明確な構造物など、後からデータ上で確認しやすい場所が適しています。

計測開始直後は機器の状態を確認し、正常にデータ取得できていることを確かめてから移動します。

坑道内では一定の速度で移動し、急激な向きの変更を避けます。SLAMは連続した観測情報から移動を推定するため、観測環境が急激に変わると処理が難しくなる場合があります。

分岐に近づいたら、事前に決めておいた識別目印を確認します。

固定標識の番号、支保形状、設備配置、排水方向、岩盤形状、計測用マーカーなどを照合し、想定した分岐であることを確認してから進行方向を決めます。

このとき、分岐中央だけを最短距離で通過するのではなく、周辺の三次元形状が取得できるルートを意識します。ただし、安全な歩行経路から外れる必要はありません。現場の通行ルールを優先したうえで、可能な範囲で分岐の特徴が十分記録されるようにします。

分岐を曲がった直後も重要です。

曲がった瞬間だけで判断するのではなく、進入後しばらく周辺形状を取得し、入った坑道が想定した方向であることを再確認します。

可能であれば、一定区間ごとに通過した分岐番号を記録します。記録時刻と計測データの時刻を対応させられれば、後処理で特定区間を探しやすくなります。

長距離を一度に計測する場合は、途中の確認地点を決めておくことも有効です。「この地点まで来たら経路を再確認する」という区切りを設けることで、誤った坑道へ長距離進むリスクを低減できます。

経路を戻る計測を行う場合には、往路と復路で同じ分岐を認識できているかを確認します。見る方向が反対になると、設備や壁面形状の印象が大きく変わるためです。

分岐識別は常に進行方向を含めて記録すると分かりやすくなります。

分岐点でSLAMの自己位置推定を安定させるポイント

識別目印は人が現在位置を判断するためだけではありません。分岐周辺で十分な形状情報を取得することは、SLAMの自己位置推定を安定させるうえでも重要です。

坑道では、同じ断面が長く続く区間ほど特徴が少なくなります。平行な壁、一定高さの天井、均一な路盤だけが続くと、前後方向への移動量を区別するための情報が限定される場合があります。

これに対して、分岐は壁面が途切れ、空間が広がり、複数方向の面が観測できるため、特徴の多い場所になり得ます。

ただし、分岐を高速で通過すると十分な観測が得られない場合があります。安全上許容される範囲で移動速度を安定させ、周囲が計測範囲に入るようにします。

計測機器の向きを急に左右へ振ることも避けた方がよい場合があります。慣性情報を組み合わせる方式では、急激な回転が増えるほど運動推定の条件も変わります。

また、坑道内を移動する車両や作業員などの動体にも注意が必要です。

SLAMは基本的に周辺環境が静止していることを前提として処理する方式が多いため、計測範囲の大部分を移動物体が占める状況は望ましくありません。大型車両が分岐を横切っている場合などは、安全管理を優先しながら計測条件を判断します。

粉じんも計測に影響する可能性があります。空中の粒子による反射が多くなると、実際の壁面ではない点が取得される場合があります。発破直後や車両通過直後など、視界が大きく悪化している状況では無理に計測しない判断も必要です。

水滴や濡れた壁面についても、計測方式によってデータ品質への影響が異なります。特に水たまりなどの反射状態が複雑な場所では、点群が不均一になることがあります。

分岐点を確実に取得する目的では、「識別できる特徴が存在すること」と「その特徴を機器が十分観測できること」の両方が必要です。

計測後の点群で分岐点の取り違えを確認する方法

SLAM計測は現場で終了したら完了ではありません。取得した点群を確認し、計測経路と坑道形状が整合しているかを確認する工程が重要です。

まず、全体形状を俯瞰して坑道ネットワークを確認します。

直線区間や分岐位置が既存の坑道図と大きく異なっていないか、予期しない重なりや折れ曲がりが発生していないかを見ます。

特に確認したいのが、似た分岐が近接している場所です。

計測時に記録した分岐番号と点群上の位置を対応させ、固定標識、支保形状、設備配置などが一致しているかを確認します。

経路を一周して開始地点付近へ戻るルートを計測した場合には、戻った地点の点群が大きくずれていないかも確認材料になります。

ただし、点群が重なって見えることだけで精度を断定してはいけません。表示縮尺によっては、小さなずれが見えないこともあります。必要な精度に応じた確認方法を選ぶことが重要です。

分岐の誤認が疑われる場合には、その前後だけを見るのではなく、少し広い区間を確認します。

例えば、分岐直前の設備配置、交差部の形状、分岐後の坑道幅まで連続して確認します。単独の形状では似ていても、前後関係まで一致する場所は限られるからです。

画像情報を同時に取得している場合には、それも補助資料として活用できます。標識や壁面表示が確認できれば、点群形状だけでは判断しにくい分岐を識別できます。

複数回計測したデータを比較する場合は、分岐名称の付け方を統一しておくことも重要です。

同じ場所が計測日によって異なる名称になっていると、時系列比較が難しくなります。現場で使用する分岐IDとデータ管理上の名称をそろえておくと整理しやすくなります。

長大坑道と複雑な坑道網で識別精度を高める運用

坑道網が大規模になるほど、人間の記憶だけで分岐を管理する方法には限界があります。

小規模な坑道であれば、「大きな配管のある場所」「天井が高いところ」といった特徴でも覚えられます。しかし、数十、数百の分岐が存在する坑道網では、体系的な管理が必要です。

そこで、坑道を複数の区間に分け、分岐ごとに一意の識別番号を設定します。

識別番号には、区域、坑道、分岐などの階層関係が分かる規則を設けると整理しやすくなります。

ただし、番号体系を複雑にしすぎると現場で扱いにくくなります。重要なのは、誰が見ても同じ場所を指せることです。

計測記録には、識別番号に加えて特徴を短く記録します。

例えば、支保形状、配管方向、排水方向などを一緒に記録しておけば、番号表示が確認できない場合でも補助的に場所を判断できます。

さらに、計測区間を適切な長さで分割する方法もあります。

非常に長い坑道を一つの計測データとして扱うと、途中で問題が発生した場合に影響範囲の特定が難しくなることがあります。作業目的や計測方式に応じて適切な単位に分割し、区間同士を共通地点で確認できるようにします。

同じ坑道を定期的に計測する場合には、識別目印の維持管理も必要です。

前回使用した標識が残っているか、設備が変更されていないか、計測専用マーカーが撤去されていないかを確認します。

「以前と同じだろう」と考えて計測を開始すると、変更箇所を別の場所と誤認する可能性があります。毎回計測前に基準情報を更新する運用が重要です。

坑道が延伸している鉱山では、計測時点を明確にすることも大切です。過去の坑道図と現在の坑道形状が一致しない可能性があるため、どの時点の情報を基準としているかを管理します。

坑道SLAM計測を位置情報と結び付けて活用する

SLAM計測によって坑道内部の三次元形状を取得できても、それだけでは地上の座標系や既存の測量成果と直接対応しない場合があります。

そこで、計測目的によっては既知の座標を持つ基準点や既設測量成果とSLAM点群を結び付ける作業が必要になります。

坑口付近など衛星測位を利用できる場所では、屋外の座標情報と坑内計測を連携させる方法が考えられます。坑内では通常、衛星からの信号を直接利用できないため、坑外で取得した位置情報や既知点を起点として内部へ座標をつないでいく考え方になります。

ただし、SLAMによる自己位置推定と測量基準点による座標決定は役割が異なります。SLAMだけで常に測量成果と同等の絶対位置精度が得られると考えるのではなく、用途に応じて既知点との照合や検証を行うことが重要です。

点群の目的が設備状況の記録なのか、断面確認なのか、変状比較なのか、位置管理なのかによって必要な精度も異なります。

坑道内で分岐を正しく識別しておくことは、この座標連携でも重要になります。

どの分岐にどの管理点があるのかが明確であれば、点群と現場管理情報を関連付けやすくなります。逆に分岐を取り違えていると、正しい形状が取得できていても位置情報の対応関係を誤る可能性があります。

将来的に点群を設備台帳や維持管理記録と組み合わせる場合にも、分岐IDを共通キーとして管理すると扱いやすくなります。

例えば、ある分岐周辺で配管更新が行われた場合、その分岐IDに関連する過去点群を参照し、更新前後を比較できます。

つまり、識別目印は単なる道案内ではありません。SLAM計測で取得した三次元情報を現場管理へつなげるための基礎情報になります。

位置情報を扱う現場では、屋外から坑道入口までの位置取得、基準点確認、写真記録、点群記録など複数の作業が発生します。これらをできるだけ一つの流れで管理できれば、データ整理の負担を減らしやすくなります。

高精度な位置情報を扱える小型機器を利用すれば、坑口周辺や衛星測位が可能な場所で位置情報を取得し、坑道内SLAMデータを整理する際の基準情報として活用する方法も考えられます。

ただし、坑内では衛星測位が利用できない場所が一般的であるため、屋外で取得した位置と坑内SLAMをどのように接続するかは、現場ごとの測量計画に基づいて決める必要があります。

まとめ

鉱山坑道のSLAM計測では、分岐点の取り違えを防ぐことが計測品質を維持する重要なポイントです。

坑道は同一断面が長く続き、似た支保工や設備が繰り返し配置されることがあるため、人間にとってもSLAMにとっても場所を識別しにくい環境になります。特に規則的に配置された坑道網では、分岐形状だけを頼りに現在位置を判断する方法には限界があります。

そこで有効なのが、固定標識と坑道番号、支保工や坑道断面、配管などの設備配置、排水溝や路盤形状、岩盤や壁面の固有形状、計測専用マーカーという6つの識別目印です。

これらは一種類だけ使用するのではなく、複数を組み合わせることが重要です。

標識が読めなくても支保形状で確認でき、設備が変更されても排水構造や計測用マーカーで判断できるようにしておけば、分岐認識の確実性を高められます。

また、分岐を識別する目的は、計測者が正しい方向へ進むことだけではありません。

取得した点群の位置確認、再計測時の比較、設備管理、変状確認、座標情報との関連付けなど、SLAM計測データを長期的に活用するうえでも重要です。

実際の計測では、開始前に坑道図と現地を照合し、分岐ごとの特徴を確認します。計測中は急激な動きを避けながら周辺形状を十分取得し、通過した分岐を記録します。計測後には点群を俯瞰し、分岐形状や設備配置、記録した識別情報が一致しているかを確認します。

長大坑道では分岐番号の体系化と計測区間の管理を行い、定期計測では前回から変更された設備や壁面状態も確認することが重要です。

SLAM計測の価値を高めるには、三次元形状を取得するだけでなく、「そのデータが坑道のどこを示しているのか」を確実に管理する視点が欠かせません。

さらに、坑口周辺や屋外の既知位置と坑内点群を関連付けることで、取得した三次元データをより幅広い維持管理や位置管理へ展開できます。屋外での高精度な位置取得や現場記録まで含めてデータ管理を効率化したい場合には、SLAM計測と併せてLRTK Phoneを活用する方法も検討できます。

現場を3Dで残して、あとから測る。
実際の画面と動画で使い方を確認できます。

LRTK Phoneの使い方・実例を見る
資料請求導入相談
現場をスマホで3DスキャンLRTK Phone実例を見る

技術記事一覧へ戻る →