鋼矢板の打設では、最初の数枚では小さく見えた位置ずれが、打設枚数の増加とともに累積し、終点付近で大きなピッチずれとして表面化することがあります。特に、土留め、仮締切、護岸、立坑、地下構造物などで鋼矢板を連続して施工する場合、1枚ごとの位置だけでなく、基準線に対する通り、継手のかみ合わせ、鉛直性、打設方向、累積距離を一体として管理することが重要です。
従来は、丁張、逃げ杭、巻尺、トータルステーションなどを使って打設位置を確認する方法が一般的ですが、現場条件によっては基準点から打設箇所までの視通確保や測量担当者との連携が必要になります。そこで活用を検討したいのが、既知座標を現場で確認しながら目的位置へ誘導する「座標ナビ」です。施工計画で設定した鋼矢板の打設点や基準線を座標として準備しておけば、現場で現在位置と計画位置の関係を確認しやすくなります。
ただし、座標ナビを使えば自動的にピッチずれがなくなるわけではありません。鋼矢板のピッチは、製品形状、継手、打設姿勢、施工機械、地盤抵抗など複数の要因に影響されます。また、測位座標が正しくても、アンテナ位置と鋼矢板の管理位置の関係を誤っていれば施工位置は合いません。重要なのは、座標ナビを単独の測定手段として扱うのではなく、打設基準を現場で再現し、ずれを早期発見するための確認手段として組み込むことです。
この記事では、座標ナビで鋼矢板打設位置のピッチずれを防ぐために確認したい7つの方法を、施工前の座標設定から打設途中の累積誤差確認、施工記録まで実務の流れに沿って解説します。
鋼矢板のピッチずれはなぜ累積するのか
鋼矢板施工で注意したいのは、1枚の施工誤差だけを見ると小さくても、そのずれが次の鋼矢板の基準になり、連続施工によって累積する可能性があることです。例えば、計画上の基準線に対して少しずつ斜めに進んだ場合、1枚目付近ではほとんど気にならなくても、数十枚先では終点座標との差が大きくなることがあります。
鋼矢板は独立した杭を一定間隔で打つ施工とは異なり、隣接する鋼矢板の継手をかみ合わせながら連続壁を形成します。このため、次の鋼矢板の姿勢は、それまでに施工した鋼矢板の位置や傾きの影響を受けます。継手部で抵抗が生じたり、地中障害物によって鋼矢板が片側へ寄ったりすると、計画した方向から徐々に外れる場合があります。
ここで重要なのが、「1枚ごとの位置誤差」と「累積した通りの誤差」を分けて考えることです。1枚の中心位置が計画点からわずかに外れていても、次の鋼矢板で補正できる場合があります。一方で、各鋼矢板のずれがすべて同じ方向へ積み重なると、終点でまとまった差になります。始点と終点だけを確認するのではなく、施工途中で何度も基準線と比較することが欠かせません。
また、ピッチずれという言葉から鋼矢板間の間隔だけを確認しがちですが、実際には鋼矢板の有効幅や継手位置との関係も重要です。施工計画で採用している鋼矢板の仕様に応じて、どの位置を基準点として座標化するのかを事前に統一しておかなければなりません。中心、継手、外面など、現場担当者ごとに異なる基準を使うと、座標値そのものが正しくても確認結果が一致しなくなります。
さらに、鋼矢板が鉛直に打設されていない場合、地上部では計画位置に近く見えても、深部では位置が変化している可能性があります。座標ナビで確認できる地表付近の位置だけで施工状態全体を判断するのではなく、鉛直性や施工機械の姿勢、地盤条件、打設抵抗などと合わせて評価する必要があります。
座標ナビの役割は、こうした複数のずれ要因のうち、特に平面的な計画位置と現在位置の差を現場で素早く確認できるようにすることです。施工途中で位置関係を繰り返し確認することで、終点まで施工してから大きなずれに気付くリスクを抑えやすくなります。
確認1 基準線と始点・終点の座標を施工前に統一する
最初の確認は、鋼矢板をどの線に沿って施工するのかを座標として明確にすることです。鋼矢板のピッチ管理を始める前に、施工基準線、始点、終点、折れ点などの座標を整理します。
直線区間であれば、始点と終点を設定し、その2点を結ぶ基準線を明確にできます。曲線部や折れ点を含む場合は、施工形状に応じて必要な管理点を追加します。ここで重要なのは、図面上で線が描かれているだけの状態にせず、現場で再現できる座標として扱える状態にすることです。
施工図や設計データから座標を作成するときは、使用している座標系、高さの扱い、図面の原点、縮尺などを確認します。異なる座標系のデータを混在させると、現場ではまとまった位置ずれとして現れることがあります。座標ナビに登録する前に、既知点や現場基準点との整合を確認しておくことが重要です。
特に注意したいのが始点です。鋼矢板を連続施工する場合、最初の1枚の位置と方向が、その後の施工の基準になります。始点が基準線からずれていれば、正しいピッチで施工しても壁全体が平行移動した状態になる可能性があります。逆に始点位置が合っていても、鋼矢板の向きが基準線に対して斜めであれば、打設枚数が増えるにつれて基準線から離れていきます。
そのため、始点では点の位置だけでなく、次の管理点との方向関係も確認します。座標ナビで始点を確認した後、数枚先に設定した計画点も現場で確認し、施工方向がどこへ向かうのかを把握しておくと、初期段階の方向ずれを発見しやすくなります。
終点座標も施工開始前に確認します。始点から所定の有効幅を積み重ねたとき、最終鋼矢板がどこに到達する計画なのかを整理しておけば、施工途中で残り距離と残り枚数を比較できます。残り10枚なのに終点までの距離が計画と明らかに合わない場合は、どこかで累積ずれが発生している可能性を疑えます。
折れ点がある施工では、さらに早い段階から注意が必要です。直線区間のピッチずれを折れ点直前で一度に吸収しようとすると、継手や姿勢に無理が生じる場合があります。折れ点までの距離を施工途中で確認し、必要に応じて施工方法や調整方法を現場条件に合わせて検討することが重要です。
座標ナビを有効に使うには、まず「どこを正解とするのか」が統一されていなければなりません。始点、終点、基準線、折れ点を施工前に座標で整理することが、7つの確認方法の出発点です。
確認2 鋼矢板1枚ごとの管理点とピッチを明確にする
次に確認したいのが、鋼矢板のどこを座標管理するかです。鋼矢板には幅があり、両端に継手があります。そのため、「打設位置」という言葉だけでは、中心位置なのか、継手位置なのか、壁面の特定位置なのかが曖昧になることがあります。
施工前に管理点を統一し、計画座標を作成します。例えば鋼矢板中心を管理する場合は、各鋼矢板の中心座標を施工方向に沿って配置します。継手を基準に管理する場合は、その継手位置に対応した座標を作成します。どの方法を採用する場合でも、図面作成者、測量担当者、施工担当者で同じ定義を共有することが重要です。
鋼矢板の配置間隔は、使用する鋼矢板の仕様に基づいて設定します。ここで、外形寸法と施工時の有効幅を混同しないよう注意が必要です。継手をかみ合わせた状態で連続壁を形成するため、座標配置に使用するピッチは、実際の施工状態に対応した値を確認して設定します。
計画点を1枚ごとに準備しておくと、座標ナビで「次にどこへ打つのか」を確認できます。ただし、すべての鋼矢板を1点ずつ確認する運用が最適とは限りません。施工速度、現場規模、要求精度などを踏まえ、毎枚確認する区間と数枚ごとに確認する区間を分ける方法も考えられます。
重要なのは、計画点を単なる連番にしないことです。杭番号や施工順序と座標を対応させておくと、打設位置の取り違えを防ぎやすくなります。例えば「SP-001」「SP-002」のように現場で使用する管理番号と座標ナビ上の点名を対応させれば、施工記録との照合もしやすくなります。
また、鋼矢板の施工方向を途中で変更する場合や、角部、閉合部、構造物取合い部などでは、一定ピッチの単純な繰り返しだけでは配置できないことがあります。このような場所は一般区間とは分けて管理し、個別に位置確認することが安全です。
座標ナビを使う際には、画面上の目的座標へ近づけばよいと考えるのではなく、その座標が鋼矢板のどの部分を表しているかを常に意識します。管理点の意味が曖昧なまま施工すると、数値上は一致していても実際の壁位置が計画と異なる可能性があります。
施工前に1枚ごとの管理点とピッチを明確にしておけば、打設途中で「何枚目からずれ始めたのか」を追跡しやすくなります。累積誤差を早期に把握するためにも、点名、鋼矢板番号、計画座標、施工順序を対応させておくことが効果的です。
確認3 座標ナビの測位状態と基準点を打設前に確認する
計画座標が正しく準備されていても、現場で使用する測位結果にずれがあれば施工位置の判断を誤ります。そのため、鋼矢板打設を始める前に、座標ナビで使用する測位状態を確認します。
高精度GNSSを利用する座標ナビでは、補正情報を受信し、所定の測位状態になっているかを確認することが基本です。測位状態は周辺環境によって変化することがあり、同じ現場内でも時間や場所によって安定性が異なる場合があります。
特に鋼矢板施工では、大型施工機械、クレーン、鋼材、仮設構台、既設構造物などが周辺に存在することがあります。上空視界が狭い場所や反射物が多い場所では、衛星信号の受信条件が悪化する可能性があります。画面に座標が表示されているだけで施工位置を確定せず、測位状態と安定性を確認してから使用する必要があります。
有効なのが、既知点での確認です。現場内に座標が分かっている基準点や確認点がある場合、施工開始前にその位置へ移動し、座標ナビの表示値が現場基準と整合しているか確認します。これにより、座標系の設定間違い、補正情報の選択間違い、入力ミスなどに気付きやすくなります。
確認点は、できれば施工区間の近くで利用できる位置が望ましいですが、安全に確認できる場所を選ぶ必要があります。打設機械の旋回範囲や吊荷の下へ測位担当者が入ることがないよう、施工動線とは分離して確認します。
施工途中でも測位状態が変化することがあります。朝の確認で問題がなかったからといって、その日の施工すべてを無条件に同じ状態として扱わないことが大切です。施工機械の位置が変わったり、鋼矢板壁が高くなったりすることで受信環境が変化する可能性があります。
特に位置確認の数値が急に大きく変化したときは、すぐに鋼矢板位置がずれたと判断するのではなく、測位状態も確認します。反対に、「測位が不安定だから」と施工上のずれを見過ごさないことも重要です。測位結果、巻尺による累積距離、基準線、目視による通りなど、複数の情報から判断します。
座標ナビは現場で位置を確認する有効な手段ですが、表示された座標は測位条件の影響を受けます。打設前の既知点確認と、施工途中の測位状態確認を習慣化することで、測位側の問題を鋼矢板の施工誤差と取り違えるリスクを抑えられます。
確認4 アンテナ位置と鋼矢板管理点のオフセットを確認する
座標ナビで鋼矢板施工を管理するときに、実務上とても重要なのがオフセットです。測位機器が示している座標と、実際に管理したい鋼矢板の位置は必ずしも同じではありません。
例えば、測位アンテナを鋼矢板の真上へ設置できれば関係は分かりやすくなります。しかし、施工中の鋼矢板上部には施工機械や把持部があり、安全上も直接アンテナを置けない場合があります。そのため、鋼矢板から一定距離離れた位置で測位し、そこから管理点までの距離をオフセットとして扱う方法が必要になることがあります。
ここで注意したいのは、距離だけでなく方向です。基準線から直角方向へ500mm離れた位置で測るのか、施工方向へ500mm前方で測るのかでは意味が異なります。オフセット距離が同じでも方向を間違えれば、計画位置との比較は成立しません。
現場でオフセット確認を簡単にするには、鋼矢板の管理点から測位位置までの関係を固定化します。例えば、ガイドフレームの特定箇所、定規、位置出し治具などを利用し、毎回同じ位置関係で測る方法が考えられます。ただし、使用する治具自体が施工中に動いていないことも確認する必要があります。
施工機械に近接して測る場合は、安全管理が優先されます。測位のために作業員が吊荷や施工機械の危険範囲へ立ち入る運用は避けなければなりません。位置確認は施工機械を安全な状態にしたうえで行い、現場の作業手順や合図系統に従います。
高さ方向のオフセットにも注意が必要です。座標ナビを平面位置確認に使用する場合でも、アンテナの高さやポールの傾きによって平面座標へ影響する場合があります。ポールを使用する場合は、できるだけ鉛直を保ち、測位する点を毎回同じ条件で再現します。
また、鋼矢板上端の位置を確認する場合、打設によって鋼矢板高さが変化します。最初に決めた測定方法が、打設後も同じように使えるとは限りません。施工前、建込み時、途中打設時、所定深度到達後で、どの段階にどの位置を測定するのかを決めておくと混乱を防げます。
座標ナビ上で数センチメートルの差を細かく議論する前に、測位点と鋼矢板管理点の関係が正しく設定されているかを確認することが重要です。オフセットの設定ミスは、全鋼矢板に同じ方向のずれを発生させる原因になり得ます。打設開始前に実物を使って測位位置を確認し、施工チーム内で統一しておくことが有効です。
確認5 数枚ごとに累積ピッチと基準線からの横ずれを確認する
鋼矢板のピッチずれを防ぐうえで、特に重要なのが施工途中の累積確認です。1枚目が正しく施工できたからといって、その後も同じ状態が続くとは限りません。一定枚数ごとに、施工済み鋼矢板の現在位置を計画座標と比較します。
確認する内容は大きく二つあります。一つは施工方向の累積距離、もう一つは基準線に対する横方向のずれです。
施工方向の累積距離は、計画した枚数と有効幅から想定される到達位置と、実際の到達位置を比較します。例えば10枚施工した時点で、本来到達する計画管理点に対して施工端が前後どちらへずれているかを確認します。これにより、1枚ごとの小さなピッチ差が累積していないかを把握できます。
一方、横方向のずれは、鋼矢板壁が基準線から左右どちらへ離れているかを見るものです。施工方向の累積距離が合っていても、壁全体が斜めに進んでいれば終点位置は合いません。そのため、前後方向と左右方向を分けて確認することが重要です。
座標ナビを使用すると、現在確認している鋼矢板の管理点と計画点との差を現場で把握しやすくなります。杭番号と計画点を対応させておけば、「20枚目の計画点に対して現在どれだけずれているか」といった確認ができます。
確認間隔は現場条件によって決めます。地盤が比較的均一で直線区間が長い場合と、障害物が多い場所、曲線部、構造物近接部などでは適切な確認頻度が異なります。特に施工開始直後、折れ点の手前、閉合部の手前、既設構造物との取合い部では、確認頻度を高めることが考えられます。
重要なのは、ずれを発見したときに一度に修正しようとしないことです。鋼矢板は継手で連続しているため、急激に方向を変えようとすると継手への負担が増えたり、施工性が悪化したりする可能性があります。許容できる施工調整方法は鋼矢板の仕様、施工条件、施工計画などによって異なるため、現場管理者や施工計画に基づいて判断します。
累積確認では、終点までの残距離も有効な情報になります。現在位置から終点計画座標までの距離と、残りの鋼矢板枚数から想定される施工長を比較します。この二つが大きく一致しなくなってきた場合、ピッチ、継手、施工方向などを再確認するきっかけになります。
また、座標だけでなく巻尺や基準線による確認を併用することで、測位結果の異常にも気付きやすくなります。異なる方法の結果が大きく異なる場合は、そのまま施工を進めず、どこに原因があるのか確認します。
ピッチずれ対策で最も避けたいのは、終点直前で初めて累積誤差に気付くことです。座標ナビによる確認を数枚ごとの施工サイクルに組み込み、小さいずれの段階で変化を把握することが重要です。
確認6 鉛直性と継手の状態を座標と合わせて確認する
座標ナビで平面位置が計画点に近くても、それだけで鋼矢板施工が適切とは判断できません。ピッチずれは平面座標だけでなく、鋼矢板の鉛直性や継手状態とも密接に関係しています。
鋼矢板が施工方向へ傾けば、上端と下端で位置関係が変わります。また、施工方向と直角方向へ傾けば、壁面全体が計画線から外れる原因になります。地表付近の管理点だけを合わせようとすると、深部の位置が想定と異なる可能性があるため、施工中は鉛直性を継続して確認する必要があります。
鉛直性の管理方法は施工計画や機械構成に応じて選択します。施工機械側の姿勢確認機能、下げ振り、水平器、測量など、現場で採用している方法と座標ナビを組み合わせます。座標ナビは平面位置確認に利用し、鉛直性は別の管理項目として確認する考え方が分かりやすいでしょう。
継手の状態にも注意が必要です。鋼矢板は隣接する鋼矢板と継手をかみ合わせながら建て込み、打設します。継手部分に土砂や異物が入り込んでいたり、変形があったりすると、建込み時の姿勢や打設抵抗に影響することがあります。
打設中に片側だけ抵抗が大きくなれば、鋼矢板が傾いたり、隣接する鋼矢板を引っ張ったりする可能性があります。このような場合、座標上では次の打設位置だけがずれたように見えることがありますが、実際には数枚前から姿勢変化が始まっている場合があります。
したがって、座標ナビで位置ずれを発見したら、単純に次の鋼矢板位置を移動するだけではなく、施工済み鋼矢板の通り、鉛直性、継手状態、施工機械の姿勢、地盤抵抗などを確認します。位置ずれは結果であり、原因が別に存在する可能性があるからです。
地中障害物が想定される場所でも同様です。既設基礎、石、コンクリート片、転石などに鋼矢板が接触すると、計画方向から逃げることがあります。座標ナビによって施工途中の位置変化を捉えられれば、異常を早い段階で確認する材料になりますが、障害物の存在そのものを座標ナビだけで判断することはできません。
ガイドフレームを使用している場合は、その位置と通りも確認します。ガイドフレームが正しい位置から動けば、その後の鋼矢板を正しく建て込んでも壁全体がずれる可能性があります。特に施工機械や鋼矢板が接触した後は、ガイド位置を再確認することが有効です。
座標ナビは位置を数値化できる点が強みですが、鋼矢板施工では姿勢と継手の連続性が位置に影響します。平面座標、鉛直性、継手、施工抵抗を別々に考えず、相互に関連する管理項目として確認することがピッチずれ防止につながります。
確認7 打設位置・時刻・杭番号を記録して次の位置確認につなげる
7つ目の確認方法は、施工結果をその場で記録することです。座標ナビによる位置確認を一時的な目視確認だけで終わらせると、後から「どの鋼矢板からずれが始まったのか」を追跡することが難しくなります。
最低限、鋼矢板番号と確認位置を対応させて記録することが重要です。さらに、測位時刻、施工日、打設方向、写真などを関連付けておくと、施工状況を振り返りやすくなります。
例えば、施工途中で20枚目付近から終点方向の累積距離が合わなくなった場合、10枚目、15枚目、20枚目の記録が残っていれば、ずれが発生した区間を絞り込めます。施工時刻と合わせれば、その時間帯の施工条件や作業記録とも照合できます。
写真記録も有効です。座標値だけでは分からない周辺状況、ガイドフレームの位置、鋼矢板の向き、施工機械との関係などを確認できます。ただし、写真だけでは正確な位置関係を再現しにくいため、杭番号や座標情報と関連付けて管理することが重要です。
記録するときは、計画値と実測値を混同しないようにします。計画座標、確認時の座標、計画との差などを区別できる状態にしておくと、施工後の確認が容易になります。
施工途中に補正を行った場合は、その時点も記録します。どの杭番号で位置ずれを確認し、どのような施工判断を行ったのかが分かれば、その後の位置変化との関係を分析できます。記録がなければ、最終的な位置が合っていても途中でどのような変化があったか分かりません。
また、日をまたいで施工する場合は、施工再開前に前日の最終位置を確認することが重要です。前日の終点となった鋼矢板を基準に次の施工を開始すると、基準自体がずれていた場合にその誤差を引き継いでしまいます。施工再開時には計画座標や基準線との関係を再確認し、前日の施工結果をそのまま正解としないことがポイントです。
位置記録をクラウド上で一元管理できれば、現場担当者だけでなく、施工管理者や離れた場所の関係者とも情報を共有しやすくなります。鋼矢板番号、位置、時刻、写真などが同じ記録にまとまっていれば、口頭だけで状況を伝えるより施工経過を把握しやすくなります。
座標ナビの価値は、目的位置へ案内する機能だけではありません。施工済み位置を座標として残し、次の施工判断へ利用できる点にもあります。毎回の確認結果を記録し、小さな変化を時系列で追えるようにすることで、ピッチずれの早期発見と原因整理に役立ちます。
座標ナビを鋼矢板施工に取り入れるときの注意点
座標ナビは、鋼矢板施工における位置確認を効率化する手段の一つですが、従来の施工管理をすべて置き換えるものではありません。鋼矢板施工では平面位置だけでなく、施工深度、天端高さ、鉛直性、継手状態、施工抵抗、周辺構造物との離隔など、複数の項目を管理する必要があります。
まず、現場で必要とされる施工精度や管理方法は、工事内容、設計条件、発注者の基準、施工計画などによって異なります。座標ナビの表示値だけを根拠に合否を判断せず、適用される施工管理基準や現場の管理計画に沿って確認します。
また、GNSSを利用する座標ナビでは、上空視界や周辺構造物の影響を受ける場合があります。地下、屋内、構造物直近、高架下など、GNSSによる測位が難しい環境では、別の測量方法で現場基準を展開することを検討します。現場条件に応じて複数の方法を使い分けることが必要です。
座標ナビを使う場所にも注意します。鋼矢板施工では吊り上げた鋼矢板、大型施工機械、クレーン、油圧機器などが稼働します。測位担当者が画面確認に集中して周囲への注意が低下しないよう、施工機械の動作範囲と位置確認作業を明確に分離します。
特に建込み中の鋼矢板の近くで座標を確認する場合は、施工を安全な状態にしてから測定します。数値を取ることを優先して危険範囲へ入る運用は避ける必要があります。現場の安全ルール、合図、立入禁止範囲を前提として座標ナビを使用します。
座標データの管理方法も重要です。似た名称の計画点が多数あると、別区間の点を選択してしまう可能性があります。工区名、鋼矢板番号、施工方向などが識別できる点名を付け、現場で迷わないデータ構成にします。
施工途中で計画変更が発生した場合は、古い座標データが残ったままにならないようにします。変更前と変更後の点が混在すると、現場担当者が誤った点へ誘導される可能性があります。最新版がどれかを明確にし、変更日時や変更理由も記録しておくと管理しやすくなります。
さらに、座標ナビの操作担当者だけが位置関係を理解している状態は避けたいところです。施工責任者、機械オペレーター、測位担当者などの間で、どの点を確認しているのか、どちら側が基準線なのか、どの方向へ施工するのかを共有します。
座標ナビによって位置が数値として見えるようになると、数値だけに意識が向きやすくなります。しかし、現場では通りを目視すること、巻尺で累積長を確認すること、ガイドの状態を見ること、鋼矢板の姿勢を見ることなども重要です。複数の確認結果が互いに整合しているかを見ることで、入力ミスや測位異常に気付きやすくなります。
座標ナビは「正解を自動的に出す仕組み」というより、現場で計画位置と施工位置の差を確認するための道具として考えると活用しやすくなります。
まとめ
鋼矢板打設位置のピッチずれは、1枚の大きな施工ミスだけで発生するとは限りません。始点のわずかな方向ずれ、1枚ごとの小さなピッチ差、継手抵抗、鋼矢板の傾き、地盤条件、ガイド位置の変化などが積み重なり、施工区間の後半で大きな位置差として現れることがあります。
そのため、座標ナビを使った管理では、最初に基準線と始点・終点を明確にし、鋼矢板ごとの管理点を統一することが重要です。そのうえで、現場の測位状態と既知点を確認し、アンテナ位置から鋼矢板管理点までのオフセットを正しく扱います。
施工開始後は、1枚ずつの位置だけを見るのではなく、数枚ごとに累積ピッチと基準線からの横ずれを確認します。さらに、平面位置だけでなく鉛直性、継手、ガイド、施工抵抗などを合わせて確認することで、位置ずれの原因を見つけやすくなります。
そして、確認した座標をその場限りにせず、鋼矢板番号、測位時刻、位置、写真などと関連付けて残すことが大切です。施工途中の変化を時系列で記録しておけば、どの区間からずれが始まったのかを追跡しやすくなり、次の打設位置を判断するための情報としても利用できます。
鋼矢板施工では、施工完了後に終点のずれを発見するより、施工途中で小さな変化を捉えて対応するほうが管理しやすくなります。座標ナビを施工サイクルの中へ組み込み、計画点、現在位置、累積距離、施工記録を継続的に比較することが、ピッチずれを防ぐための基本的な考え方です。
現場でこうした位置確認と記録をより一体的に行いたい場合は、LRTK Phoneを活用し、鋼矢板番号ごとの位置確認、時刻、現場写真などを座標情報と関連付けて残す運用も検討できます。施工前の位置出しから施工途中の座標ナビ、施工後の記録までをつなげることで、鋼矢板打設の位置管理を現場で継続しやすくなります。