地役権図面がない状況を最初に整理する
地籍調査の対象となる土地を調べたところ、登記記録には地役権があるのに、その位置や形状を示す地役権図面を確認できないことがあります。通行、引水、排水、電線や配管の設置などを目的とする地役権が登記されていても、承役地のどの部分が利用対象なのかを、手元の資料だけでは読み取れない状態です。
この場合、図面が見つからないという一点だけから、地役権は存在しない、効力を失っている、現在の利用場所がそのまま権利範囲であるなどと結論づけるのは適切ではありません。まず確認すべきなのは、所有者の手元に写しがないだけなのか、登記所に備え付けられた図面をまだ請求していないのか、現在地番では特定できなかったのか、それとも承役地全部を範囲とするため独立した地役権図面を要しない登記なのかという点です。
民法上の地役権は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利です。便益を受ける土地を要役地、便益のために利用される土地を承役地と呼びます。例えば、隣地の一部を通路として使う通行地役権が設定されている場合、通行の便益を受ける土地が要役地、通路部分を含む土地が承役地です。ただし、道路に接していない土地の通行問題には、契約や登記による通行地役権とは別に、民法上の囲繞地通行権が問題となる場合もあるため、両者を同一の制度として扱わないよう注意が必要です。
不動産登記令では、地役権設定の範囲が承役地の一部である場合、その範囲を明らかにする地役権図面が予定されています。したがって、登記記録上、承役地の一部を範囲とすることが明らかなのに図面を確認できない場合は、単に「古いから作られていない」と推測するのではなく、受付年月日、受付番号、旧地番、分筆や合筆の履歴を整理して、図面の有無と請求方法を登記所で確認することが基本です。承役地全部が範囲である場合は、部分範囲を示す地役権図面が作成されていないことがあります。([e-Gov Law Search][1])
土地が分筆、合筆、換地、地番変更を経ていると、設定当時の地番と現在の地番が一致しないことがあります。図面が現存していても、現在地番だけを手掛かりにすると対象事件を特定できないことがあります。また、過去に地役権の範囲変更や一部抹消が行われている場合は、古い図面と現在の登記内容が一致しない可能性もあります。
最初の段階では、「ない」という言葉を具体化します。手元にない、図面証明書を請求していない、請求したが該当なしとされた、閉鎖された図面の確認が必要、申請時の添付書面にしか手掛かりがないなど、状況を分けて記録します。確認経過を残しておけば、別の担当者や専門家が引き継ぐ際にも、同じ照会を繰り返さずに済みます。
地役権の範囲と土地の筆界は、同じ場所に現れることがあっても性質が異なります。地役権図面が確認できない問題を、直ちに筆界不明の問題へ置き換えず、筆界、登記上の地役権範囲、現在利用されている範囲を分けて調べることが重要です。
地籍調査と地役権の関係を理解する
地籍調査は、主に市町村が主体となり、一筆ごとの土地について所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量するものです。成果は地籍図と地籍簿にまとめられ、登記所へ送付された後、登記記録や地図の整備に利用されます。([地籍情報システム][2])
一方、地役権は、所有権とは別の私法上の土地利用権です。地籍調査で筆界が確認されても、それだけで地役権の具体的な位置、幅、利用方法、維持管理条件まで確定するわけではありません。現地立会いで通路や水路の位置を確認したとしても、その現況が当然に登記上の地役権範囲になるわけではありません。
筆界は、一筆の土地と隣接する土地を区画する公法上の境界です。これに対し、地役権の範囲は、承役地の全部または一部のうち、要役地の便益のために利用できる範囲です。承役地の中央を通路が横断している場合、その通路の両端は承役地内部の利用範囲を示す線であり、通常は隣接土地との筆界ではありません。
現地には、舗装の端、砂利敷きの端、側溝、擁壁、塀、畦畔、門扉、電柱、マンホール、管路標識などが存在します。しかし、工作物の位置と筆界が一致するとは限らず、工作物の位置と登記上の地役権範囲が一致するとも限りません。施工や補修の都合で工作物が権利範囲を越えて設けられていることもあれば、逆に登記上の範囲の一部しか利用されていないこともあります。
通行地役権では、長年の車両通行によって轍や舗装範囲が広がっていることがあります。排水や配管の地役権では、改修工事によって設備位置が移っている可能性があります。現在の利用実態は重要な資料ですが、それだけで登記上の範囲を確定する根拠にはなりません。
実務では、「地籍調査で確認する筆界」「登記記録と地役権図面から把握する地役権範囲」「現地で実際に利用されている範囲」の三つを区別します。三者が一致することもありますが、当然に一致すると考えず、それぞれの根拠と確認状況を記録します。
地役権図面が見つからないからといって、地籍調査上の筆界確認が必ず不可能になるわけではありません。既存の境界標、地積測量図、過去の測量成果、地形地物、隣接地との関係など、筆界に関する別の資料を検討できる場合があります。
ただし、所有者が通路端や側溝端を筆界だと理解している場合は注意が必要です。立会いでは、どの線について筆界の確認を求めているのか、どの範囲は地役権または現況利用の参考表示なのかを明確に説明します。地籍調査の担当者が、当事者間の地役権紛争や契約解釈を最終的に決定するわけではないことも認識しておく必要があります。
確認1 登記事項と土地の履歴を照合する
地役権図面がない時の第一の確認点は、現在の登記記録と土地の履歴です。図面だけを探し続ける前に、どのような地役権が、いつ、どの要役地のために、どの承役地へ設定されたのかを整理します。
まず、承役地の登記事項証明書で、地役権設定登記の有無、登記の目的、地役権設定の目的と範囲、要役地、受付年月日、受付番号、変更登記や抹消登記の有無を確認します。不動産登記法上、承役地についてする地役権の登記には、要役地、地役権設定の目的と範囲などが登記事項として扱われます。([e-Gov Law Search][3])
地役権の目的が通行なのか、引水や排水なのか、電線、ガス管、上下水道管などの設備設置なのかによって、確認すべき現地物や関係資料が変わります。「通行」と記録されていても、徒歩のみなのか、車両通行を含むのか、工事車両や維持管理車両まで予定しているのかは、登記記録だけで分からないことがあります。その場合は設定契約書などを確認します。
範囲の記載は特に重要です。承役地全部が対象なのか、東側、南側、幅員何メートルなど承役地の一部が対象なのか、図面を参照する記載になっているのかを読み取ります。一部範囲の登記であるのに図面が確認できない場合は、設定登記の事件を特定する情報をそろえて再照会します。
要役地の地番も照合します。現在の地番だけを見て該当土地がないと判断してはいけません。設定後に要役地や承役地が分筆、合筆、換地、地番変更を受けている場合があるためです。要役地側の登記事項も取得し、現在の所有者、分筆や合筆の経過、地役権に関する記録との対応を確認します。
例えば、設定時には承役地が一筆だったものの、その後に宅地部分と通路部分が分筆された場合、地役権の範囲が現在のどの筆に対応するのかを調べる必要があります。分筆後の登記処理や地役権の存続範囲は、現在の登記記録、分筆時の地積測量図、必要に応じて閉鎖登記記録を合わせて確認します。
合筆された土地も注意が必要です。複数の旧地番が一つの地番にまとめられていると、地役権が設定されていた旧地番の位置を現在の土地上で特定しなければなりません。現在の公図だけで位置関係が明確でない場合は、合筆前の地図、地積測量図、旧土地台帳附属地図などの利用を検討します。
換地が行われた土地では、従前地と換地の対応関係を確認します。土地区画整理や土地改良事業では、地役権の扱いが事業内容や登記処理と関係するため、従前地の図面だけを現在地へ機械的に当てはめないようにします。換地処分関係の確定図や対応資料と、換地後の登記記録を照合します。
古い契約書に地役権の記載があっても、後に範囲変更や抹消が行われている場合があります。反対に、現地では使われていない通路でも、登記上の地役権が残っていることがあります。現況利用の有無と登記の存否を分けて確認します。
土地の地目や利用状況の変化も参考になります。設定当時は農地や山林だった土地が宅地、駐車場、事業用地などに変わると、通行方法や設備利用の実態が変化することがあります。ただし、地目や現況が変わっただけで地役権の目的や範囲が当然に変更されるわけではありません。
整理表や時系列図を作る場合は、現在の承役地、旧承役地、現在の要役地、旧要役地、地役権の目的、範囲、受付情報、分筆、合筆、換地、変更、抹消の経過を一続きで記録します。これにより、どの時点の図面を探すべきか、現在のどの筆へ対応させるべきかが分かりやすくなります。
地役権図面を取得できた場合も、図面上の地番や形状を現在地へそのまま当てはめないようにします。設定当時の土地形状、方位、縮尺、分筆線、既存道路や水路との関係を確認し、現在の登記地図や測量成果と対応させます。
確認2 登記所や自治体に残る図面を探す
第二の確認点は、登記所や自治体などが保管する図面と調査資料です。所有者の手元に地役権図面がなくても、登記所で図面証明書や閲覧の対象として確認できる可能性があります。
登記所へ照会する際は、対象となる承役地と要役地の現在地番だけでなく、旧地番、地役権設定登記の受付年月日、受付番号を整理します。登記事項に図面を参照する趣旨の記載がある場合は、その情報を示して、該当する地役権図面の有無と請求方法を確認します。
地役権図面は、地積測量図や建物図面などと同様に、土地所在図等として証明書交付や閲覧の対象となる場合があります。ただし、図面が電磁化されているか、閉鎖図面であるか、対象事件を特定できるかによって手続が異なることがあります。地番だけで該当しない場合は、受付情報や旧地番を使って確認します。([法務局][4])
設定登記の申請書や添付書面に手掛かりが残っている可能性もありますが、これらは地役権図面の証明書請求とは別の扱いです。登記簿の附属書類の閲覧には、原則として閲覧しようとする部分と正当な理由を示す手続が必要であり、申請人本人である場合などには扱いが異なります。また、保存期間を経過した資料は確認できないことがあります。誰でも自由に過去の契約書類一式を取得できると考えず、管轄登記所へ必要書類と閲覧可否を確認します。([法務局][5])
登記所で確認する資料は地役権図面だけではありません。地図、公図、地積測量図、土地所在図、分筆時の測量図、閉鎖された地図や図面なども、旧地番と現在地番の対応や土地形状の変遷を確認する手掛かりになります。
ただし、公図や地積測量図は、それぞれの作成目的に従って利用します。公図上に通路のような細長い形状が描かれていても、それだけで地役権範囲を示すとは限りません。地積測量図に道路、側溝、建物などが描かれていても、それらが参考表示である場合があります。
公図上の細長い部分に独立した地番がある場合は、私道、水路、農道、公共用地など別の土地である可能性があります。その場合は、承役地の一部に地役権があるのではなく、通路部分自体が別筆として所有されていることもあります。形状だけで判断せず、その地番の登記事項を確認します。
対象地域で過去に地籍調査が実施されている場合は、市町村等が保管する地籍図、地籍簿、筆界点の測量成果などを確認できることがあります。公開範囲、交付方法、保存資料は自治体によって異なるため、担当部署へ問い合わせます。これらは筆界や過去の土地形状を把握する資料にはなりますが、地役権の私法上の範囲を直接確定する資料とは限りません。
通行地役権が関係する場合は、道路台帳、認定路線図、道路区域図、位置指定道路に関する資料、私道関係の届出資料などが参考になることがあります。現地で道路に見える部分が、公道、私道、承役地内部の通路のいずれであるかを整理するために利用します。
農地や山林では、土地改良事業の図面、用排水路の管理図、農道の整備図、森林施業や林道に関する図面が手掛かりになることがあります。ただし、管理図上の設備位置や管理範囲が、そのまま地役権の登記範囲を示すとは限りません。
配管、排水管、電線などの設置を目的とする地役権では、設備管理者が保管する竣工図、管理図、埋設物図面が参考になることがあります。設備の実際の位置と、地役権として利用できる範囲は別の概念であるため、設備図だけで権利範囲を確定しないようにします。
土地区画整理や土地改良事業が行われた土地では、換地前後の図面、換地図、確定図、従前地と換地の対応資料を確認します。従前地上の地役権が換地後にどのように登記されているかは、事業資料と現在の登記記録の両方を見て判断します。
取得した図面は、資料名、作成年月日、縮尺、方位、対象地番、座標値の有無、作成者、受付情報を確認します。紙図面の複写物や画像には、紙の伸縮、スキャン時の傾き、複写倍率の誤差が含まれることがあります。
座標値のない図面を現在図へ重ねる場合は、境界標、筆界点、道路、水路など、設定当時から位置が変わりにくい共通点を選びます。建物、塀、舗装端、植栽などは移設や改修の可能性があるため、位置合わせの基準として過信しないようにします。
照会結果には、照会日、照会先、対象地番、旧地番、受付情報、確認した資料、取得できた資料、取得できなかった資料、窓口で案内された次の手続を記録します。「なかった」という結論だけでなく、どの条件で調べた結果なのかを残すことが重要です。
確認3 契約書や関係者の保管資料を確認する
第三の確認点は、承役地や要役地の所有者、過去の所有者、設備管理者などが保管する契約書や図面です。登記所で地役権図面を確認できなくても、設定当事者の資料に対象範囲を示す手掛かりが残っていることがあります。
地役権設定契約書には、地役権の目的、利用範囲、通路の幅、通行できる車両、設備の種類、維持管理の負担、修繕方法、工事時の立入り条件などが記載されることがあります。別紙図面がなくても、本文中の方位、距離、幅員、起点、終点、道路や水路との位置関係から、設定当時の範囲を検討できる場合があります。
例えば、「承役地の南側に沿う幅員三メートルの部分」「既存水路の東側」「公道との接続点から要役地まで」などの記載があれば、設定当時の公図、地積測量図、造成図と照合します。ただし、古い工作物が移設されている場合は、現在の位置だけを基準にしないようにします。
売買契約書、重要事項説明書、土地取得時の引継資料も確認します。承役地または要役地が売買されている場合、通路位置、設備位置、維持管理条件、紛争の有無などを示す図面や説明書が引き継がれていることがあります。
相続で土地を取得した所有者は、地役権設定の経緯を把握していないことがあります。その場合は、被相続人が保管していた登記関係書類、権利証、登記識別情報に付随する資料、測量図、契約書、工事関係書類、写真、書簡などを確認します。
古い資料では現在地番ではなく旧地番が使われていることが多いため、所在地、字名、隣接所有者、道路名、水路名、工事件名も手掛かりにします。封筒や図面表紙だけで判断せず、別紙、添付図、裏面の記載まで確認します。
承役地所有者だけでなく、要役地所有者にも資料の有無を確認します。便益を受ける側が、通行や設備利用を継続するために契約書や図面の写しを保管している場合があります。分譲地の進入路、山林の作業道、農地の用排水路などでは、管理組合、共有者、自治会、土地改良区などが共通資料を持っていることもあります。
資料名が「地役権設定契約書」とは限りません。通行承諾書、土地使用契約書、覚書、協定書、工事承諾書、埋設承諾書、道路利用合意書などの名称で作られていることがあります。
ただし、通行承諾書や使用許可書が見つかっても、それが登記された地役権と同じ権利であるとは限りません。特定の個人への一時的な許可、賃貸借、使用貸借、工事期間だけの承諾など、別の法律関係である可能性があります。文書の当事者、対象土地、期間、承継条項、対価、登記との関係を確認します。
裁判、調停、和解などで利用範囲や通行条件が定められている場合は、判決書、調停調書、和解調書と添付図面を確認します。地役権設定後の紛争によって、利用位置や条件が具体化または変更されていることがあります。
過去の測量成果も重要です。境界確認図、現況測量図、確定測量図、分筆図、造成計画図、道路工事図などに、通路や設備範囲が記載されている場合があります。使用する際は、作成年月日、作成目的、測量者、立会者、署名や押印、座標値の有無を確認します。
単なる現況測量図に通路が描かれているだけでは、地役権の合意範囲を示したとは限りません。これに対し、承役地所有者と要役地所有者が対象範囲を確認し、契約書と一体で署名または押印した図面であれば、設定当時の合意を示す重要な資料となる可能性があります。それでも、後の変更契約や変更登記がないかを確認します。
道路舗装、側溝整備、給排水設備、電線設備などの工事書類も調査対象です。地役権設定と同時期に工事が行われていれば、設計図、施工図、竣工図、工事写真から当初想定された位置を検討できることがあります。
過去の航空写真や現地写真は、通路、水路、設備の利用経過を把握する補助資料になります。ただし、写真に写った範囲がそのまま登記上の地役権範囲になるわけではありません。撮影時期、撮影位置、地形の変化を確認し、契約書や登記資料と組み合わせて評価します。
関係者への聞き取りでは、誰が、いつから、何の目的で、どの範囲を利用していたのか、過去に通路や設備を移したことがあるのか、維持管理を誰が負担していたのかを確認します。「昔から使っている」「前所有者から使ってよいと聞いた」という説明は手掛かりになりますが、それだけで登記上の地役権範囲を確定することはできません。
聞き取り内容は、説明者、聞き取り日、本人の直接経験か伝聞か、示された資料、現地で指示された位置を記録します。承役地側と要役地側で説明が異なる場合は、一方の説明だけを採用せず、それぞれの根拠を残します。
複数の資料で位置が異なる場合は、新しい資料だけを正しいものとして扱わず、作成時期と目的を比較します。設定時の契約図面、後年の測量図、現在の利用範囲が異なる場合は、変更合意、代替通路の設定、変更登記などが行われたかを確認します。
確認4 現地の利用範囲と筆界を分けて記録する
第四の確認点は、現地で利用されている範囲と筆界を区別して確認し、記録することです。資料だけでは位置を特定できない場合でも、工作物、設備、利用痕跡、境界標から手掛かりを得られることがあります。
通行地役権であれば、舗装、砂利敷き、轍、縁石、側溝、門扉、車止め、公道への出入口を確認します。排水や引水を目的とする地役権では、水路、側溝、排水桝、取水口、管路、維持管理用の通路などを確認します。
電線や配管の設置を目的とする地役権では、電柱、支線、点検口、マンホール、埋設標識、制御設備が手掛かりになります。地下設備は地表から正確な位置を把握できないことがあるため、管理図、竣工図、探査結果などと照合します。
同時に、土地の境界標も確認します。コンクリート杭、石杭、金属標、鋲、境界プレート、刻印などがあれば、位置、形状、表示、保存状態を記録します。境界標が通路の近くにあっても、通路端全体が筆界であるとは限りません。
舗装端、側溝、法肩、擁壁、塀、畦畔は、現況利用を把握する手掛かりにはなりますが、それ自体が当然に筆界標や地役権境界になるわけではありません。現地記録では、確認済みの筆界点、筆界候補、現在の利用範囲、地役権の推定範囲を区別します。
通路幅を測る時は、どこからどこまでを測ったのかを明確にします。舗装部分の幅、側溝を含む構造物の幅、車両が実際に通る幅、契約上の幅、登記図面上の幅は異なる可能性があります。
通路が曲がっている場合は、入口と出口だけでなく、曲がり点、幅が変わる地点、退避場所、接続道路との取り合いも記録します。将来、範囲を図面化する必要が生じた場合、中心線だけでなく両側の形状を再現できる情報が役立ちます。
山林や法面では、崩落、補修、伐採、作業道の付け替えによって、現在の道が設定当時と異なることがあります。旧路面、切土跡、石積み、擁壁、排水施設を確認し、過去の航空写真や図面と比較します。
農地では、耕作、圃場整備、水路改修によって畦畔や通路の位置が変わることがあります。畦畔の中心や端が当然に筆界になるわけではなく、水路の管理範囲と地役権範囲も必ずしも一致しません。
現地確認には、可能な範囲で承役地所有者と要役地所有者の双方が参加することが望まれます。同じ場所を見ながら、現在の利用位置、過去の位置、登記の認識、筆界の認識を確認すると、意見の相違を把握しやすくなります。
ただし、その場で説明が一致しても、直ちに登記上の地役権範囲が確定したとは扱わないようにします。既存登記と異なる位置へ変更する場合は、合意内容を図面と書面にし、必要な登記手続や法的確認を検討します。
地籍調査の立会いで筆界と地役権の話題が同時に出る場合は、説明している線の性質を明示します。「この線は筆界として確認を求める線」「この線は現在の舗装端」「この範囲は地役権の候補で未確認」というように分けます。
位置を記録する際は、境界標、通路の曲がり点、側溝端、設備位置、写真撮影地点などを測定します。ただし、現場確認用の簡易測定と、登記申請や境界確認に使用する測量成果は同じではありません。利用目的に応じた精度、基準点、測量方法を選びます。
地下設備が関係する場合は、所有者や管理者の承諾なく掘削して位置を確認しないようにします。工事を予定している場合は、地役権範囲だけでなく、実際の設備位置、安全離隔、掘削条件、立入り条件を別に確認します。
現地で確認できた事項と確認できなかった事項を分けて記録します。「舗装範囲は確認できたが登記上の地役権範囲は不明」「境界標は確認できたが、その標識と地役権図面の対応は未確認」というように、情報の確実性を明示します。
地役権図面が見つからない時に避けたい判断
地役権図面が見つからない状況では、限られた情報から早急に結論を出さないことが重要です。誤った判断は、地籍調査だけでなく、土地売買、建築、造成、設備工事、維持管理にも影響する可能性があります。
最も避けたいのは、図面がないことを理由に地役権自体が存在しないと決めつけることです。登記記録に地役権が残っている場合は、図面を直ちに確認できなくても、その登記の内容と履歴を前提に調査します。
反対に、現地に通路や設備があることだけを理由に、その範囲すべてへ地役権が設定されていると判断することも適切ではありません。所有者の承諾、賃貸借、使用貸借、一時的な工事利用、法定通行権など、地役権以外の法律関係で使われている可能性があります。
公図上の細長い形状を、そのまま地役権範囲と考えることも避けます。その部分が独立した私道、水路、農道、公共用地であることがあります。地番、所有者、登記記録を確認し、土地そのものと承役地内の利用範囲を区別します。
現在の舗装端、側溝端、轍を、当然に地役権の境と判断することも危険です。舗装や側溝は補修、拡幅、付け替えによって変化します。施工上の都合で地役権範囲の外まで工作物が設けられている場合もあります。
通路端と筆界を同じものとして扱うことも避けます。承役地内部の通路であれば、通路端は一筆の土地内部にある利用上の線であり、隣接土地との筆界ではありません。
関係者一人の説明だけで範囲を確定することにも注意が必要です。相続や売買で過去の合意が正確に引き継がれていない場合があります。承役地側と要役地側で説明が異なることもあるため、双方の資料と説明を確認します。
長期間利用していることだけで、当然に登記上の地役権範囲と一致すると判断することもできません。取得時効などの法的主張が問題となる場合でも、利用期間だけで結論が決まるわけではなく、利用態様、権原、当事者の認識などを含む法的検討が必要です。
古い図面を現在の地図へ単純に拡大縮小して重ね、見た目が合うことだけで位置を決めるのも危険です。図面には測量精度の違い、紙の伸縮、複写やスキャンのゆがみ、地図投影や座標系の違いが含まれる可能性があります。
また、地籍調査の担当者が地役権の法的範囲や契約紛争まで最終決定すると考えないことも大切です。地籍調査は一筆ごとの所有者、地番、地目、境界、面積を調査する事業であり、私法上の権利関係をめぐるすべての争いを手続内で解決する制度ではありません。
地籍調査の立会い前に準備する内容
地役権図面がない土地について地籍調査の立会いを行う場合は、当日になって初めて権利関係を確認するのではなく、事前に情報を整理します。
最初に、承役地と要役地の現在地番、旧地番、所有者、分筆、合筆、換地、地番変更の履歴をまとめます。要役地が複数ある場合は、それぞれの土地と地役権登記の対応を確認します。
次に、登記記録にある地役権の目的、範囲、受付年月日、受付番号、図面参照の有無、変更や抹消の有無を整理します。地役権図面を探した場合は、請求先、請求日、使用した地番、照会結果も記録します。
取得した公図、地図、地積測量図、地籍図、契約書、現況測量図、工事図面などは、作成年月日と作成目的が分かる状態で整理します。異なる時期の図面を一枚に重ねる場合は、各線の出所と確実性を区別します。
現地写真は、通路や境界標を近くから撮るだけでなく、周囲との位置関係が分かる写真も残します。撮影日、撮影地点、撮影方向を記録し、平面図や案内図と対応させます。
関係者から聞き取った内容は、説明者、聞き取り日、利用開始時期、利用目的、過去の位置変更、工事履歴、維持管理の方法に分けて記録します。本人が直接経験した内容か、前所有者から聞いた内容かも区別します。
確認できていない事項も明示します。「地役権図面は未取得」「申請添付書面の閲覧可否を照会中」「旧地番と現在地番の対応が未確定」「契約書原本は捜索中」など、調査途中の項目を残します。
立会い当日は、地役権の範囲が未確認であることを関係者へ説明し、筆界の確認と地役権範囲の確認を分けて進めます。地役権資料が不足していても、別の根拠で筆界を確認できる場合は、その根拠を示して地籍調査に協力します。
筆界についても地役権についても意見が一致しない場合は、無理にその場で結論を作らず、各関係者の主張、指示した位置、提示資料、未解決事項を記録します。曖昧な合意を残すより、何が未確認かを明確にする方が、その後の調査や相談につながります。
確認結果を図面と記録にまとめる方法
地役権図面がない土地の調査では、最終的な結論だけでなく、確認の過程を記録することが重要です。何も調べていない状態と、登記所、自治体、所有者へ照会した結果として図面を確認できなかった状態では意味が異なります。
調査記録には、対象地番、承役地、要役地、地役権の目的と範囲、登記受付情報、土地の履歴、確認した資料、確認できなかった資料、関係者の説明、現地の利用状況をまとめます。
図面ごとに、資料名、作成年月日、作成者、作成目的、縮尺、方位、対象地番、座標値、署名や押印、登記受付情報の有無を記録すると、資料の性質を比較しやすくなります。
現地記録では、確認済みの筆界点、筆界候補、境界標、現在の通行範囲、工作物、設備位置、地役権の推定範囲を区別します。一枚の図面に記載する場合も、線種、注記、作成日などによって何を示す線かを明確にします。
地役権範囲を推定した場合は、確定線として表示せず、推定であることと根拠を記載します。契約書の幅員、旧公図の形状、設定当時の道路位置、現地の側溝、関係者の説明など、どの資料から推定したのかを残します。
複数の資料で位置が異なる場合は、一つに統合して相違を消すのではなく、それぞれの線を残します。設定当時の図面、後年の測量図、現在の利用範囲を分け、変更契約や変更登記の有無を確認します。
現地写真と位置情報を関連付けて管理すると、後日、別の担当者が再確認する際に役立ちます。草木の繁茂、舗装工事、建物工事などで現況が変わった後でも、過去の状態を比較できます。
地籍調査の立会い記録には、何について確認したのかを明記します。筆界について確認したのか、現在の通行位置を確認したのか、地役権の登記範囲について意見を聞いたのかを分けます。
図面を更新する場合は、作成日、更新日、版番号、修正内容を記録します。修正前の図面が関係者の手元に残る場合は、旧版であることが分かるようにし、異なる版を見ながら協議することを防ぎます。
登記事項証明書、契約書、相続関係資料、関係者の連絡先などには個人情報が含まれます。地籍調査や相談に必要な範囲と、当事者間だけで管理すべき情報を分け、閲覧権限と共有先を限定します。
専門家への相談を検討すべき場面
資料を集めても地役権の範囲を特定できない場合、登記記録と現況が大きく異なる場合、承役地側と要役地側で認識が異なる場合は、専門家への相談を検討します。
旧地番の追跡、分筆や合筆後の図面確認、筆界点の復元、地役権範囲を示す測量図の作成など、土地の表示や測量に関する事項は、土地家屋調査士への相談が考えられます。
地役権の設定、変更、抹消など、権利に関する登記手続は、司法書士への相談が考えられます。どの登記が必要かは、既存の登記記録と当事者間の合意内容によって異なります。
地役権の成立、契約書の解釈、通行妨害、取得時効、損害賠償、紛争解決など、法的評価や相手方との交渉が必要な問題は、弁護士への相談を検討します。
建築や造成を予定している土地では、計画範囲が地役権の利用を妨げないかを事前に確認します。通路を狭める工事、門扉の設置、盛土、擁壁、建物、駐車設備、配管の移設などは、地役権の目的や利用方法に影響する可能性があります。
土地を売買する場合も、地役権図面がない状態を放置せず、確認できた内容と未確認事項を整理します。範囲が不明なまま土地利用計画を立てると、取得後に想定していた建築、通行、設備工事ができない可能性があります。
専門家へ相談する際は、集めた資料を渡すだけでなく、確認したい事項を明確にします。筆界を確認したいのか、登記上の地役権範囲を復元したいのか、現在の利用位置へ変更したいのか、妨害の有無を法的に評価したいのかによって、必要な調査と相談先が異なります。
まとめ
地籍調査の対象地に地役権の登記があるものの、地役権図面を確認できない場合は、図面がないという事実だけで権利の有無や範囲を判断してはいけません。
第一に、登記事項と土地の履歴を確認します。承役地と要役地の現在地番、旧地番、地役権の目的、範囲、受付情報、分筆、合筆、換地、変更、抹消の経過を整理します。
第二に、登記所や自治体などに残る図面を確認します。地役権図面だけでなく、地図、公図、地積測量図、閉鎖図面、地籍調査成果、道路や水路に関する資料も、土地の変遷を把握する手掛かりになります。ただし、登記申請の添付書面は一般の図面証明書とは手続が異なり、閲覧要件や保存期間を確認する必要があります。
第三に、当事者や関係者が保管する契約書、覚書、測量図、工事図面、過去の写真を確認します。承役地所有者だけでなく、要役地所有者、管理組織、設備管理者が資料を持っている可能性があります。
第四に、現地の利用範囲と筆界を分けて確認します。現在の通路端、設備位置、工作物、境界標を記録し、登記上の地役権範囲、現在の利用範囲、土地の筆界を混同しないことが重要です。
地役権図面がない時は、一つの資料や現地の見た目だけで結論を出さず、登記、土地の履歴、関係資料、現地状況を相互に照合します。確認できた事項と未確認事項を明確にし、必要に応じて土地家屋調査士、司法書士、弁護士などへ相談することで、地籍調査後の紛争や土地利用上の支障を抑えやすくなります。
現地記録は、写真、撮影方向、測定点、資料名、確認日を対応させ、後から根拠を追える形で保管します。特定の製品や機器を使うこと自体を結論にせず、目的に合った精度、記録方法、情報管理を選ぶことが大切です。