地籍調査の現地確認では、土地の境界付近に古い石垣が残っていることがあります。長年にわたり隣接地との区切りとして使われてきたように見える石垣でも、その位置を直ちに筆界と判断することはできません。旧石垣は筆界を検討する重要な手がかりになり得ますが、石垣が存在するという事実だけで筆界の位置や、石垣のどの部分を筆界とみるかが決まるわけではないためです。
石垣には、土地の区画を示すために設けられたものだけでなく、高低差を支える土留め、宅地造成に伴う構造物、道路や水路を保護する施設、庭園や農地内の区画などがあります。築造後に積み直し、部分補修、崩落、延長が行われ、現在の形状が当初と異なっていることもあります。
地籍調査は、主に市町村などが実施主体となり、一筆ごとの所有者、地番、地目を調査するとともに、境界と地積に関する測量を行い、地籍図と地籍簿を作成するものです。成果は認証などの手続きを経て登記所へ送付され、登記簿の記載や地図の更新に用いられます。したがって、旧石垣だけに着目するのではなく、登記資料、過去の測量成果、地形や地物、設置の経緯、関係者の説明などを総合して確認する必要があります。
この記事では、地籍調査で旧石垣に接する筆界を確認するときの五つの判断ポイントと、資料準備、現地立会い、意見が一致しない場合の整理、調査後の記録について解説します。
旧石垣が残る境界で最初に押さえる考え方
旧石垣が残る土地で最初に押さえたいのは、地籍調査で確認する筆界と、現実に利用している範囲や所有権の及ぶ範囲が、常に同じとは限らないことです。
筆界は、一筆の土地が登記された際にその土地を区画するものとされた公法上の境界です。隣接する所有者同士が便宜的に合意しただけで、もともとの筆界を自由に移動させることはできません。一方、塀を設けている位置、庭として使っている範囲、耕作している範囲などは、利用状況や所有権界を考える材料にはなりますが、それだけで筆界を示すとは限りません。
隣接地との間に石垣があり、双方が長年その石垣を境として認識していたとしても、石垣の天端、中央、前面、背面、下端のどこが筆界なのかは別に検討する必要があります。築造時に筆界線上へ設けられた可能性もあれば、一方の土地の内側へ控えて築かれた可能性もあります。
高低差を支える石垣では、関係者の説明が「石垣の上まで」「石垣の下まで」といった表現になりやすい点にも注意が必要です。「上」が天端の外縁を指すのか、背面側の地盤との境を指すのか、「下」が前面下端を指すのかによって、示される位置は変わります。言葉だけでなく、具体的な点や線を現地と図面上で確認することが重要です。
地籍調査では、登記簿、登記所の地図や図面、登記簿の附属書類、筆界特定手続記録その他の資料、地形や地物の状況、慣習など、筆界に関する情報を総合的に考慮します。旧石垣はそのうちの地物の一つであり、設置の経緯も含めて、ほかの情報との整合を確かめながら評価することが基本です。
判断ポイント1 旧石垣そのものを筆界と決めつけない
一つ目の判断ポイントは、旧石垣があるという理由だけで、その形状や中心線を筆界として採用しないことです。
長期間残っている石垣は、境界位置を検討するうえで価値のある情報になり得ます。石垣の端部に境界標が残っている、過去の図面に石垣と境界点の関係が記録されている、周辺の既知の筆界点から自然につながるといった事情が重なれば、有力な根拠になることがあります。
ただし、古い石垣であることと、筆界を示す石垣であることは同じではありません。造成のために所有地内へ築いた土留め、庭や農地の内部を分けた石積み、後年に積み直された部分などを筆界とみなすと、もともとの筆界と異なる位置を採用するおそれがあります。
現地で「昔からこの石垣が境だった」と説明された場合も、その言葉だけで判断を終えず、認識の根拠を確認します。本人が過去の立会いに参加したのか、先代から聞いたのか、売買時に説明を受けたのか、現在の利用状況からそう考えているのかによって、情報の性質と評価は異なります。
石垣は幅と高さを持つ立体的な構造物です。天端の両縁、前面、背面、前面下端、基礎の位置は一致しないことがあります。石垣が境界の目印として用いられていたことが確認できても、具体的にどの部分が筆界を示すのかは、資料や設置経緯を踏まえて検討しなければなりません。
現地記録では、石垣を一本の線だけで表すのではなく、天端の縁、前面下端、端部、折れ点、補修区間などを区別しておくと比較しやすくなります。石垣が傾斜または変形している場合には、どの高さで位置を確認したかも残します。
また、双方が石垣の中央で合意したとしても、その合意だけを理由に地籍調査上の筆界とすることは適切ではありません。筆界確認は新しい折半線を作る手続きではなく、もともとの筆界の位置を調査するものです。関係者の意向は重要ですが、登記資料や現地状況との整合を確かめる必要があります。
判断ポイント2 登記資料と過去の測量成果を照合する
二つ目の判断ポイントは、現地の印象に先行されないよう、登記資料と過去の測量成果を照合することです。
地籍調査では、登記所に備え付けられた地図や地図に準ずる図面などを基に調査図素図を作成し、現地調査へつなげます。ただし、古い公図などには、現地の形状や境界とのずれがある場合があります。公図に石垣が描かれていないから境界と無関係とは限らず、公図上の線が現地の石垣付近を通るからといって、その石垣を筆界と断定できるわけでもありません。
確認したい資料には、登記事項証明書、登記所に備え付けられた地図または地図に準ずる図面、地積測量図、土地所在図、過去の分筆や地積更正に関する資料などがあります。座標値、辺長、方位、境界標の種類、隣接地番が記載されている場合は、現地で対応する点が残っているかを確認します。
地積測量図があっても、作成年代、作成目的、記載内容、測量方法は一様ではありません。座標値がない図面や、一部の寸法だけが示された図面もあります。図面の形をそのまま現地へ当てはめるのではなく、基準となる点が現存しているか、周辺筆との位置関係に矛盾がないか、図面が示す精度の範囲を超えて解釈していないかを確かめます。
過去の境界確認書、境界確定図、用地測量図、道路や水路の管理資料、造成図、売買や相続時の添付図面も参考になります。旧石垣に接する土地が道路、河川、水路、公園などの公有地と隣接している場合は、官民境界の確認記録や用地取得時の図面が残っている可能性があります。
過去の図面に「石垣上」「石垣下」「石垣天端」「石垣法尻」などの表記があっても、その語だけで位置を確定しないことが大切です。作成者がどの縁や点を指していたのかを、引照点、寸法、写真、凡例、周辺形状と合わせて読み取ります。
資料を整理するときは、作成年月日、作成者、作成目的、使用した基準点、立会者、対象地番、境界標の記載を確認します。新しい資料を無条件に優先するのではなく、何を根拠に作成された資料かを見ます。後年の図面が、古い図面を転記しただけである場合もあるためです。
旧石垣の現況と図面が一致しない場合には、石垣が動いた可能性だけでなく、図面の縮尺や精度、作図上のずれ、積み直し、崩落、斜面の変形なども検討します。一つの資料へ結論を合わせるのではなく、資料間の一致点と不一致点を分けて整理することが重要です。
判断ポイント3 石垣の構造と築造目的を読み取る
三つ目の判断ポイントは、旧石垣の構造と築造目的を現地で確認することです。
隣接地との区画を示す低い石積みと、高低差を支える土留めでは、筆界との関係が異なる可能性があります。区画を示す目的で設けられた石積みは境界の目印となり得ますが、土留めは安定性や施工上の都合から所有地内へ控えて築かれている場合もあります。反対に、石垣の一部が筆界付近に位置していても、構造物全体の所有関係まで同じとは限りません。
現地では、石垣の高さ、延長、傾斜、天端の幅、前面の通り、背面地盤、排水状況、両端の位置を確認します。端部に境界標、古い杭、刻印のある石、塀の基礎、畦畔などが残っていれば、折れ点や方向を検討する材料になります。ただし、刻印や鋲が境界標ではなく、測量基準点や工事用標識である可能性もあるため、過去資料との対応を確認します。
石垣全体が同じ時期に造られたかも見ます。石材、積み方、目地、表面の風化、補修材が途中で変わる場合は、延長、積み直し、部分補修の可能性があります。新しい区間が図面上の筆界付近にあるとしても、当初の石垣との関係を確認せずに採用するのは避けます。
崩落、傾斜、孕み出しがある石垣では、現在の前面が築造時の位置から変わっていることがあります。中央部の膨らみに沿って筆界候補線を設定すると、もともと直線であった筆界を不自然に曲げるおそれがあります。比較的安定している端部、周辺の既知点、過去の写真や図面などを併せて検討します。
石垣の上に塀、柵、建物の基礎がある場合は、それぞれの設置時期を分けて考えます。石垣と上部構造が同時に造られたとは限らず、塀だけが後から敷地内へ控えて設けられた可能性もあります。撤去された古い塀や杭の痕跡が別の位置に残っていることもあります。
石垣の前面に側溝や道路がある場合は、舗装端、側溝端、石垣下端のいずれかを管理境界と決めつけず、道路台帳図、用地図、境界確認資料などと照合します。現地の構造物端と公有地の境界が一致しないこともあるためです。
調査のために石を動かしたり、根元を無断で掘削したりすることは避けます。石垣を不安定にするだけでなく、現況という判断材料を変えてしまう可能性があります。必要な除草や確認作業は、所有者または管理者と調整し、安全を確保したうえで行います。
判断ポイント4 設置・補修・管理の沿革を確認する
四つ目の判断ポイントは、旧石垣がいつ、誰によって、何のために設置され、その後どのように補修や管理が行われたかを確認することです。
管理の実態は筆界を考える参考情報になりますが、管理してきた事実だけで石垣の所有関係や筆界位置が決まるわけではありません。一方の所有者が長年補修していた場合でも、自分の施設として管理していたとは限らず、崩落防止や近隣関係上の理由で作業していた可能性があります。
高い土地の所有者が土留めとして修繕していた場合もあれば、低い土地の所有者が安全確保のために補修していた場合もあります。共同で費用や作業を負担していたケースも考えられます。「修理費を負担した側が石垣の所有者である」「石垣の所有者側に筆界がある」といった単純な推定は避けます。
聞き取りでは、築造時期、積み直しや崩落の有無、延長された区間、以前に存在した杭や塀、売買、相続、分筆、造成、道路拡幅、建物工事の経緯などを確認します。工事に伴って石垣が撤去または移設されていないかは、現況と過去資料のずれを説明する重要な要素です。
古い写真、工事記録、施工図、修繕記録、契約書の添付図面などが残っていれば、口頭説明を補う資料になります。写真は、撮影方向、建物、樹木、道路などから現在位置を特定し、石垣の端部、長さ、高さ、前面の通りが現在と同じかを確認します。
聞き取り内容は、誰が、いつ、何を直接見たのかを区別して記録します。本人が工事や境界立会いに参加した説明と、先代や近隣から聞いた説明では、情報の性質が異なります。複数の関係者が同じ説明をしていても、共通の一人から伝わった話である場合があるため、情報源も確認します。
地域の慣習も参考になりますが、一般化は禁物です。ある地域で高い土地側が石垣を所有地内に築く例が多いとしても、対象地が同じ扱いだったとは限りません。時代、地形、土地利用、施工目的を踏まえ、その土地に当てはまる根拠があるかを個別に検討します。
沿革は単独で筆界を確定する資料ではなくても、ほかの資料の意味を読み解く助けになります。積み直し記録があれば現況と古図のずれを説明できる可能性があり、長期間同じ位置にあることを複数の写真で確認できれば、現存位置の継続性を示す材料になります。
判断ポイント5 周辺の地形と連続する境界を総合する
五つ目の判断ポイントは、旧石垣だけを切り離さず、周辺の筆界点、地形、地物、土地形状との連続性を確認することです。
筆界線は前後の境界点や隣接する筆界とつながります。石垣の一部分だけを見て候補線を決めると、周辺の境界標や道路境界との間に不自然な折れ、狭い残地、重なりなどが生じることがあります。旧石垣の位置が妥当かどうかは、対象筆だけでなく周辺筆を含む配置の中で検証します。
まず、石垣の両端付近に境界標や引照点がないか確認します。コンクリート杭、金属標、石杭、鋲などが見つかった場合は、その標識がいつ、何の目的で設置されたものかを資料で確かめます。境界らしい場所にあるというだけでは、工事用標識や測量基準点と区別できないことがあります。
次に、石垣から続く塀、畦畔、側溝、道路、法面、尾根、谷、樹木列などを確認します。石垣の端部から既知の境界点へ自然につながることは重要な材料ですが、現在の利用界が筆界と一致しているとは限らないため、登記資料との照合が必要です。
土地の面積と形状も検証します。ある候補線を採用すると登記面積との差が大きくなる、隣接地の形状が不自然になるといった場合は、候補線の根拠を再点検します。ただし、古い登記面積や公図が現況と正確に一致しない場合もあるため、面積差だけで候補を採用または排除することはできません。辺長、形状、周辺筆との接続を合わせて評価します。
石垣が途中で途切れている場合は、出入口の設置、建物工事、崩落、道路拡幅などの経緯を調べます。残存部分の延長線を機械的に伸ばすのではなく、撤去前の写真、基礎跡、地盤の段差、周辺境界標から当初の位置を検討します。
複数の候補線がある場合は、石垣天端、前面下端、背面側などの候補を図面に示し、それぞれが登記資料、測量図、現況、沿革、関係者の説明とどの程度整合するかを比較します。候補を可視化すると、関係者が同じ「石垣」という言葉で異なる位置を指していることにも気付きやすくなります。
最終的には、一つの情報を機械的に優先するのではなく、資料の由来と信頼性、現地での復元可能性、地形や地物との整合、設置経緯、所有者等の確認を総合して判断します。
旧石垣の立会い前に準備しておく資料
旧石垣がある現場では、立会い当日に初めて論点を把握するのではなく、事前に資料と現況を整理しておくことが重要です。
最初に、対象筆と隣接筆の地番、所有者、地目、登記面積を整理します。石垣が複数の筆にまたがる場合は、途中の筆界点も含めて確認範囲を設定します。共有地、道路、水路などが隣接する場合は、確認が必要となる所有者、管理者、関係行政機関を把握します。
次に、登記所の地図または地図に準ずる図面、地積測量図、過去の境界確認図、道路や水路の管理資料などを比較し、現地で確認すべき点を抽出します。図面同士で形状が異なる場合は、どの辺や角に違いがあるのかを事前に整理しておくと、立会い時に説明しやすくなります。
旧石垣については、事前踏査で全景、両端、天端、前面下端、背面側、補修箇所、崩落箇所を撮影します。写真には撮影方向と位置が分かる情報を付け、図面上の場所と対応させます。石垣が長い場合は区間を分け、同じ場所を後から特定できる記録にします。
草木で見えない部分を確認する必要がある場合は、所有者や管理者と作業範囲を調整します。樹木の伐採、石の移動、根元の掘削は、通常の除草と同じ扱いにはできません。石垣の安定性、文化財や景観上の規制、管理権限などが関係する可能性もあるため、必要に応じて担当部署や専門家へ確認します。
関係者へ示す資料は、専門図面だけでなく、現地写真と候補点を対応させた説明図を用意すると理解されやすくなります。「石垣が境界」という抽象的な言葉だけで進めず、石垣のどの部分を確認しているかを共有できる状態にします。
現地立会いで確認すべき順序
現地立会いでは、最初から石垣のどこを筆界にするかという結論の話に入らず、確認の順序を整えることが大切です。
まず、対象地番、隣接地、立会い範囲を関係者へ説明します。石垣の全延長が対象か、一部区間だけかを明確にし、複数の筆が接する場所では、どの筆とどの筆の間を確認しているかを示します。
次に、既存資料が示す筆界形状と資料の性質を説明します。公図、地積測量図、過去の確認図などがある場合は、作成年代、作成目的、現地復元に使える情報の有無を整理します。資料ごとに候補位置が異なるときは、その違いと追加確認が必要な点を共有します。
その後、石垣の両端や周辺の既知点を確認します。中央部から始めるよりも、位置を特定しやすい端点や折れ点から確認した方が、石垣全体との関係を整理しやすくなります。境界標がある場合は、種類、状態、周辺状況、図面との対応を記録します。
関係者への聞き取りでは、「石垣が境界ですか」だけで終えず、「どの縁または点を指しますか」「その位置を誰から聞きましたか」「積み直しや移設はありましたか」「以前は杭や塀がありましたか」と具体化します。
関係者が示した位置は、言葉だけでなく、写真、図面、略図へ記録します。「石垣上」「石垣下」は人によって意味が異なるため、現地の具体的な点を残さないと、後から認識が食い違う可能性があります。
調査側が候補点を示す場合は、地積測量図から復元した点なのか、石垣端部と既知点の関係から検討した点なのか、過去の確認図に基づくのかを説明します。仮の表示であることも明確にし、現地へ付けた印が従来からの境界標と誤認されないようにします。
確認が得られた場合は、筆界点の位置だけでなく、石垣との関係も記録します。石垣天端の外縁なのか、前面下端から離れた位置なのかを、測量成果、写真、略図で残します。将来、石垣が改修または撤去されたときにも位置を再現できる記録が必要です。
地籍調査の結果から地籍図と地籍簿が作成され、その成果には閲覧の機会が設けられます。現地立会いで曖昧な表現を残さず、閲覧時に確認できる形で記録しておくことが重要です。
判断が一致しない場合の整理方法
旧石垣の位置について関係者の認識が一致しない場合、立会いの場で無理に結論を出そうとすると、争点が曖昧なまま対立だけが深まることがあります。
一方が天端を主張し、もう一方が前面下端を主張している場合は、双方の主張位置を正確に記録し、それぞれの根拠を整理します。争点が「石垣が筆界を示すか」「石垣のどの部分か」「石垣が移設されたか」のどれにあるかによって、追加で必要な資料は異なります。
その場で中間線を示し、双方へ譲歩を求める方法は慎重に扱います。筆界は当事者の合意だけで変更できる線ではないため、便宜的な折半線を地籍調査上の筆界として扱うのではなく、もともとの筆界を示す資料と現況を検討します。
追加調査では、周辺の地積測量図、分筆記録、道路や水路の管理資料、造成時の図面、古い写真などを探します。対象の石垣だけでなく、同時期に造られたと考えられる周辺の石垣を確認すると、築造方法や敷地との関係を検討する材料になることがあります。
地籍調査の中で筆界の判断が難しい場合は、実施主体の担当部署を通じて登記所との連携や、土地家屋調査士など境界と登記に関する専門家への相談を検討します。所有者等が利用できる制度として、法務局の筆界特定制度もあります。筆界特定制度は新しい境界を作るものではなく、実地調査や測量などを踏まえ、もともとの筆界の現地位置を明らかにする制度です。所有権の範囲そのものを確定する制度ではない点には注意が必要です。
必要な手続きを尽くしても筆界を確認できない場合には、筆界未定として処理されることがあります。筆界未定になると、関係する土地の分筆などに支障が生じる可能性があるため、何が未確認なのか、どの資料が不足しているのか、今後どのような手続きが考えられるのかを関係者へ説明します。
なお、現地調査等の通知に応答しない所有者等がいる場合には、一定の要件のもとで土地境界のみなし確認制度を適用できることがあります。現地調査等の通知を複数回行い、さらに図面等調査の通知と筆界案が到達したことを確認したうえで、筆界案の到達から二十日間に意見の申出がない場合に、実施主体の判断で確認があったものとみなして調査を進める仕組みです。積極的に立会いや図面等調査を拒む場合や、通知の到達を確認できない場合は同じ扱いになりません。単に一度立会いを欠席しただけで直ちに確認済みになるものではないため、個別の手続状況を確認する必要があります。
調査後の記録と成果閲覧で注意すること
旧石垣に関する筆界確認では、調査時点の状況と判断過程を後から説明できる記録を残すことが重要です。
記録には、筆界点の位置、測定結果、境界標の種類、石垣との位置関係、立会者、確認年月日、使用資料、関係者の説明、候補線を比較した経緯などを含めます。石垣が傾斜している場合は、どの高さまたは縁を基準に記録したかも明確にします。
写真は筆界点の近接写真だけでなく、周辺との関係が分かる全景も残します。道路、建物、樹木、石垣端部など、位置を特定しやすい対象を含め、撮影方向と図面上の位置を対応させます。
補修部分、積み直し部分、崩落部分がある場合は、その範囲を図面と写真に示します。古い区間を判断材料としたのであれば、新しい区間と区別できるようにします。変形がある場合は、測量時の形状と、採用した筆界との関係が分かる記録にします。
筆界点に標識を設ける場合は、石垣を損傷させない方法を検討します。石垣へ直接穴を開ける方法が常に適切とは限りません。所有者または管理者と調整し、構造上の安全性にも配慮したうえで、座標値や引照点と組み合わせて位置を保存します。
地籍調査では、地籍図と地籍簿の案について閲覧の機会が設けられます。閲覧時には、自分の土地だけでなく、旧石垣に接する隣接筆との接続、地番、形状、地積、現地説明との対応を確認します。誤りがあると考える場合は、通知された閲覧期間と方法に従って申し出ます。
旧石垣は、災害、経年変化、造成、建替えなどで撤去または変形する可能性があります。現況の構造物だけに依存した記録では、石垣がなくなったときに筆界位置を再現できません。測量成果、座標値、基準点や引照点、写真、略図を組み合わせ、構造物が変化しても説明できる状態にしておくことが大切です。
まとめ
地籍調査で境界付近に旧石垣が残る場合、石垣をそのまま筆界と判断するのではなく、複数の情報を組み合わせて検討する必要があります。
第一のポイントは、旧石垣は重要な地物であっても、それだけで筆界が決まるわけではないことです。第二のポイントは、登記所の地図や図面、地積測量図、過去の境界確認資料などを照合し、現地で復元または検証できる情報を確認することです。
第三のポイントは、石垣の天端、前面、背面、下端、端部を区別し、築造目的、補修、変形の状況を読み取ることです。第四のポイントは、誰が築造し、誰が管理し、どのような積み直しや工事が行われたかという沿革を整理することです。第五のポイントは、周辺の境界標、道路、水路、畦畔、地形、隣接筆との連続性まで含めて総合的に判断することです。
関係者の認識が一致しないときは、便宜的な中間線で処理せず、双方の主張位置と根拠を分けて記録し、追加資料を収集します。筆界と利用範囲や所有権界を混同せず、地籍調査で確認しようとしている線の性質を丁寧に共有することが、円滑な調査につながります。
旧石垣は土地利用の歴史を示す一方で、崩落、補修、積み直しによって現在の形状が築造時と異なる可能性があります。現場の印象だけに頼らず、資料、測量、写真、聞き取りを結び付け、判断過程を後から確認できる形で残すことが重要です。