試作品を1個だけ製作する際、設計図面で指定された材料がすぐに入手できないことがあります。特に、少量の材料調達が難しい場合や、特殊な材質・寸法の素材が必要な場合には、代替材料を使って試作を進めることが現実的な選択肢となります。しかし、単に加工しやすい材料や入手しやすい材料を選ぶだけでは、試作品の評価結果が実際の製品性能を反映しなくなる可能性があります。
試作品1個の製作では、量産時とは異なる材料や加工方法を採用することもあります。その際に重要なのは、何を検証するための試作品なのかを明確にし、代替材料によって変化する性能や評価上の制約を事前に把握することです。外観確認を目的とする試作と、強度や耐久性を検証する試作では、材料選定の判断基準が大きく異なります。
本記事では、試作品1個の製作を依頼する設計担当者、開発担当者、調達担当者に向けて、代替材料を選ぶための5つの判断基準を解説します。材料特性、加工適性、調達条件、評価目的、量産への移行を踏まえ、試作のやり直しや評価ミスを防ぐための実務的な考え方を紹介します。
試作品1個の製作で代替材料の選定が重要になる理由
試作品1個の製作では、量産とは異なる調達条件や加工条件に対応する必要があります。量産用に指定された材料が大きなロットでしか流通していない場合や、特殊な素材形状で供給されている場合には、必要な数量だけを確保することが難しくなります。このような状況では、類似した材料を使用することで試作を進められる可能性があります。
ただし、代替材料は元の材料と完全に同じ性能を持つとは限りません。材料の名称や外観が似ていても、強度、硬さ、熱膨張、耐摩耗性、耐薬品性などに違いがあることがあります。さらに、材料自体の特性が近くても、製造方法や熱処理状態によって加工後の性能が変化する場合があります。
例えば、金属部品の形状確認だけを目的とする試作品であれば、指定材料と異なる金属を使用しても、寸法や組み付け状態を確認できる場合があります。一方、同じ部品を荷重試験や疲労試験に使用する場合、材料の降伏強さや疲労特性が異なると、試験結果を設計材料の性能として扱うことはできません。
樹脂部品でも同様です。外観や取り付け位置を確認するだけであれば、加工性のよい樹脂を使える場合があります。しかし、実際の製品が高温環境で使用される場合や、繰り返し変形する構造である場合には、耐熱性や弾性特性が評価結果に影響します。
また、試作品1個の製作では、材料の調達から加工、検査までを少ない工程で進めようとする傾向があります。こうした場合に材料変更の影響を十分に検討しないと、完成後に追加試作が必要になることがあります。
重要なのは、代替材料の使用そのものを避けることではありません。必要な評価が成立する範囲を明確にし、その範囲内で材料を変更することです。
試作の目的によっては、代替材料の使用が工程短縮につながります。また、初期段階では代替材料による形状確認を実施し、その結果を踏まえて指定材料による性能評価を行う方法もあります。
このように試作段階を分けることで、すべての検証を最初の1個で完了させようとする負担を減らせます。ただし、実施していない性能試験まで合格したものとして扱わないことが前提です。
試作品の材料選定は、単なる材料置換ではなく、製品開発で必要な情報をどのように取得するかという判断でもあります。
判断基準1:試作品の用途と評価目的に適合しているか
代替材料を選ぶ際の最初の判断基準は、試作品の用途と評価目的に適合しているかという点です。試作品1個の製作では、限られた数量の中で何を確認したいのかを明確にすることが、材料選定の出発点になります。
試作には、外観確認、形状確認、組み付け確認、動作確認、強度評価、耐久性評価など、さまざまな目的があります。これらの目的を区別せずに材料を選ぶと、完成した試作品が本来必要だった評価に使えない可能性があります。
例えば、設計した部品が装置内部のスペースに収まるかを確認する場合、重要になるのは外形寸法や取り付け位置です。この段階では、元の材料と強度が完全に一致していなくても、必要な形状精度を確保できれば評価に使用できる場合があります。
一方、部品に一定の荷重を加えて変形量を測定する場合は、材料の弾性係数が重要になります。材料が変われば同じ形状でも変形量が異なるため、代替材料の測定結果を指定材料の結果として直接使用することは適切ではありません。
試作品の評価目的を明確にするためには、依頼時に何を測定し、どのような結果が得られれば次の開発段階に進めるのかを整理する必要があります。
単に実物を作って確認するという依頼では、製作会社側もどの性能を優先すべきか判断しにくくなります。例えば、外観の仕上がりが重要なのか、可動部の動作が重要なのか、一定の荷重に耐えることが重要なのかによって、材料と加工方法の選択が変わります。
また、評価対象となる部位を限定することも有効です。
部品全体の強度を確認する必要がない場合でも、ねじ部や嵌合部など、局所的に材料特性が影響する箇所があります。樹脂製のねじ部を繰り返し締結する場合には、材料の強度だけでなく、摩耗やクリープなどの影響も考慮する必要があります。
そのため、外観確認用の試作品であっても、組み付けを繰り返す予定がある場合は、接触部や締結部の耐久性を確認しておくことが望まれます。
試作品1個の製作では、複数の目的を同時に達成しようとすることもあります。しかし、代替材料を使用した状態ですべての評価が成立するとは限りません。
例えば、形状確認と組み付け確認は実施できても、長期耐久性の評価には使用できない場合があります。このようなときは、試作品の使用範囲を明確に区分します。
代替材料を使用した試作品は形状確認用と位置付け、強度や寿命に関する評価は指定材料で製作した別の試作品で実施するという判断です。
評価目的を基準に材料を選ぶことで、必要以上に材料条件を厳しくすることを避けながら、評価の信頼性を確保しやすくなります。
最も重要なのは、代替材料によって確認できる項目と確認できない項目を、製作前に関係者間で共有しておくことです。
判断基準2:必要な機械的特性と耐環境性を満たしているか
代替材料を選定する2つ目の判断基準は、試作品に必要な機械的特性と耐環境性を満たしているかという点です。
材料の選定では、名称や分類が似ていることだけを根拠にせず、必要な性能を個別に比較することが重要です。
金属材料では、引張強さ、降伏強さ、硬さ、伸び、弾性係数などが代表的な確認項目になります。どの項目が重要かは部品の用途によって異なります。
例えば、荷重を受ける構造部品では、材料が塑性変形を始める条件や破断に至る条件が重要になることがあります。一方、位置決め部品や精密な支持部品では、変形量に関係する剛性が重要になる場合があります。
強度が高い材料を選べば、必ず適切な代替材料になるわけではありません。必要な靱性が不足していたり、加工後に変形が発生しやすかったりすると、試作の目的を満たせない可能性があります。
樹脂材料の場合には、機械的強度に加えて、吸湿、熱膨張、クリープ、耐薬品性などを確認する必要があります。
樹脂は材料の種類によって水分を吸収する程度が異なり、吸湿によって寸法や機械的特性が変化するものがあります。そのため、湿度の影響を受けやすい部品や精密な嵌合部品では、使用環境を想定した材料選定が必要です。
また、長時間荷重がかかる樹脂部品では、短時間の強度試験だけでは評価が不足する場合があります。時間の経過とともに変形が増えるクリープ特性を考慮しなければ、実使用状態を適切に評価できないことがあります。
温度条件についても注意が必要です。
試作品が常温で使用される場合と、高温設備の近くで使用される場合では、必要な耐熱性が異なります。材料の使用可能温度は、荷重条件や使用時間、要求性能によっても変わるため、単一の耐熱温度だけで判断しないことが重要です。
例えば、金属材料では温度変化による熱膨張が組み付け精度に影響することがあります。樹脂材料では温度上昇によって剛性が低下し、常温では問題のなかった部分が変形する場合があります。
屋外で使用する試作品では、雨水、湿度、紫外線、温度変化なども検討対象になります。
金属材料では腐食の発生、樹脂材料では紫外線や熱による劣化が懸念される場合があります。表面処理を含めて指定材料の性能を確保する設計であれば、代替材料でも同じ表面処理が適用できるか確認する必要があります。
さらに、材料の仕様を比較する際には、試験片の条件と実際の製品形状が異なることにも注意が必要です。
材料の公表値は、特定の試験条件で得られた代表値や規格上の値であることがあります。実際の部品では、板厚、加工方向、熱処理、表面状態などが性能に影響するため、公表値だけで完成部品の性能を保証することはできません。
代替材料の候補が複数ある場合には、評価目的に影響する性能を優先して比較します。
すべての物性値を一致させようとするのではなく、試作品で必要な性能を満たすか、違いが評価結果にどの程度影響するかを確認することが実務上の判断につながります。
安全性に関わる部品や重大な故障につながる部品では、材料の類似性だけを根拠に代替を認めず、必要な検証と承認を経て使用することが重要です。
判断基準3:加工方法と寸法精度の要求に対応できるか
3つ目の判断基準は、代替材料が予定している加工方法に適しており、必要な寸法精度や表面品質を確保できるかという点です。
試作品1個の製作では、量産時とは異なる加工方法を採用することがあります。例えば、量産では金型を使用する部品でも、試作段階では切削加工によって形状を作る場合があります。
このような場合、材料の選定では完成品の性能だけでなく、試作用の加工方法との相性を確認する必要があります。
金属材料では、硬さ、延性、熱伝導性などによって切削加工の難しさが変わります。材料によっては切削時に構成刃先が発生しやすかったり、切削熱の影響を受けやすかったりするため、加工条件の調整が必要になります。
また、薄肉形状や細長い形状では、加工中の切削抵抗によって変形やびびりが発生する場合があります。
元の材料より加工しやすいと考えられる材料でも、完成後の寸法安定性まで優れているとは限りません。加工中の保持方法や材料内部の残留応力によって、固定を解除した後に形状が変化することもあります。
樹脂部品の切削加工でも同様です。
樹脂は金属と比較して熱や加工力による変形の影響を受けやすい場合があり、材料の種類によって加工条件が異なります。切削熱による寸法変化、工具による押し込み、加工後の温度変化などを考慮する必要があります。
特に、嵌合部品や薄肉の樹脂部品では、加工直後の寸法と一定時間経過後の寸法が異なる場合があります。そのため、寸法測定を行う環境や測定までの時間を適切に管理することが重要です。
加工方法を変更する場合には、表面状態の違いにも注意します。
例えば、切削加工で製作した試作品は、金型で成形した部品と表面の状態や内部組織が異なる場合があります。見た目の形状が一致していても、摩擦特性や表面強度などの評価では違いが生じる可能性があります。
積層方式による造形を利用する場合には、積層方向による機械的特性の違いや、表面粗さ、内部の空隙などが評価結果に影響することがあります。したがって、積層造形品を量産品の代替として使用する際は、どの評価項目に利用できるかを整理する必要があります。
寸法精度については、図面に記載された公差を満たせるかだけでなく、使用する測定方法まで確認することが重要です。
試作品が1個しかない場合、検査で不適合が見つかっても比較できる別の製品が存在しません。加工をやり直す必要が生じれば、試験や組み付けの予定にも影響する可能性があります。
そのため、製作前に重要寸法を明確にし、加工途中で確認すべき箇所と完成後に測定する箇所を区別しておくことが有効です。
また、表面処理や熱処理を行う場合には、処理前後の寸法変化を考慮する必要があります。
表面処理によって膜厚が形成される場合、嵌合寸法や穴径などに影響することがあります。熱処理では、材質や形状、処理条件によって変形が生じる可能性があります。
代替材料を選ぶ際には、加工前の素材特性だけでなく、すべての製造工程を経た後に必要な状態を実現できるか確認することが重要です。
加工会社へ相談する際には、指定材料と代替候補材料の両方を伝え、想定する加工方法、必要な公差、仕上げ条件について事前に確認します。
材料変更と加工方法変更を同時に行う場合は、それぞれの変更が評価結果に与える影響を区別できるようにしておくことが望まれます。
判断基準4:材料の入手性と品質確認の条件が整っているか
4つ目の判断基準は、代替材料を必要な形状や数量で入手でき、品質を確認するための情報が確保できるかという点です。
試作品1個の製作では、必要な材料量が少ないことが調達上の課題になる場合があります。
例えば、小さな切削部品を1個製作する場合でも、材料の購入単位が大きかったり、希望する板厚や丸棒径が流通していなかったりすると、材料調達が工程全体に影響します。
そのため、図面で指定された材料が入手できない場合には、加工に利用できる素材形状を踏まえて代替候補を検討します。
ただし、入手しやすいという理由だけで材料を決定すると、必要な評価が成立しない可能性があります。材料の入手性は重要な条件ですが、評価目的や品質要求を満たすことが前提です。
材料の調達では、材質だけでなく、素材の寸法や製造状態にも注意が必要です。
同じ種類の金属材料でも、板材、棒材、押出材などでは、製造工程や組織の状態が異なることがあります。また、熱処理状態や加工履歴によって機械的特性が変わる場合があります。
そのため、材料名が一致しているだけで同等と判断することは適切ではありません。
試作品の強度や精度を評価する場合には、材料の製造状態まで確認する必要があります。
特に、材料の方向性が性能に影響する場合には、素材から部品を切り出す方向も重要です。圧延方向や押出方向によって特性が異なる材料では、加工方向の違いが評価結果に影響する可能性があります。
材料の品質確認では、材料証明書や仕様情報の有無も判断材料になります。
材質、化学成分、機械的特性、熱処理状態などについて、必要な情報を確認できるかが重要です。ただし、材料証明書に記載された情報だけで完成部品のすべての性能が保証されるわけではありません。
試験目的に応じて、材料情報に加えて完成部品の寸法測定や性能試験を実施する必要があります。
一方、外観確認だけを目的とする試作品では、すべての材料特性を詳細に検証する必要性が低い場合もあります。この場合も、代替材料を使用した事実と、性能評価には使用していないことを明確にしておくことが重要です。
調達条件として見落としやすいのが、材料の識別と履歴管理です。
試作品が1個だけの場合でも、使用した材料が不明になると、後から評価結果を検証することが難しくなります。
例えば、設計変更後に再試作を行った際、前回と同じ材質を使用したつもりでも、材料の仕様や状態が異なっていれば、評価結果に差が生じる可能性があります。
そのため、材料の種類、規格、素材形状、入手時の状態、必要に応じた製造ロットなどを記録しておくことが望まれます。
また、加工会社が保有している材料を利用する場合には、材料の識別状況や保管状態を確認することも重要です。
保管期間や保管環境によって品質に影響が生じる材料では、外観が良好であっても、使用前に必要な確認を行うことが望まれます。
試作品1個の製作では、材料の調達を迅速に進めることと、必要な品質情報を残すことを両立させる必要があります。
材料の入手性だけでなく、後工程や評価段階で必要な情報を確保できるかまで考慮することで、試作結果の信頼性を高められます。
判断基準5:量産材料との違いを把握し評価結果を活用できるか
5つ目の判断基準は、代替材料と量産予定材料の違いを明確にし、試作品から得られた評価結果を次の開発段階に活用できるかという点です。
試作品1個の製作は、製品開発の最終目的ではなく、設計上の課題を確認して次の判断につなげるための工程であることが一般的です。
そのため、代替材料を使用して試作を進める場合には、今回の評価結果をどの範囲まで量産設計に反映できるのかを整理しておく必要があります。
例えば、寸法や取り付け位置の確認を目的とした試作では、代替材料を使用しても形状上の問題を把握できる場合があります。しかし、強度や熱変形、摩耗に関する評価結果を、そのまま量産材料の性能として扱うことはできません。
特に、量産材料と代替材料の弾性係数が異なる場合、同じ荷重条件でも変形量に違いが生じます。
また、熱膨張係数が異なる場合には、温度変化によって部品同士のすき間や締め付け状態が変わることがあります。
このような特性の違いを把握していないと、試作品で問題がなかった設計が、量産材料で製作したときに想定とは異なる挙動を示す可能性があります。
一方、試作品で発生した問題が、材料の変更によるものなのか、設計上の問題なのかを判断できなくなる場合もあります。
例えば、試作品の組み付け時に部品が変形した場合、その原因が部品形状にあるのか、代替材料の剛性不足にあるのかによって、必要な対策は異なります。
原因を区別せずに設計変更すると、本来変更する必要のなかった寸法や形状まで変更してしまう可能性があります。
そのため、代替材料を使用する場合には、設計材料との差異を記録し、評価結果との関係を確認できる状態にしておくことが重要です。
また、量産時の加工方法との違いも考慮する必要があります。
量産では成形加工を予定している部品を切削加工で試作した場合、材料の内部状態、表面品質、残留応力などが異なることがあります。
切削加工で確認できた寸法や組み付け性が、量産工程でも同じ条件で実現できるとは限りません。
このため、試作品1個の製作で得られた情報を、形状に関する確認結果と、材料や製造工程に依存する確認結果に分けて整理することが有効です。
形状確認で得られた課題は設計改善に活用し、量産材料の性能に関わる項目については、別途検証する必要があるか判断します。
また、試作段階で代替材料を使用した理由も記録しておくことが望まれます。
調達上の理由なのか、加工方法への適合性なのか、初期評価の効率化を目的としたものなのかによって、後続の検証計画が変わります。
特に、材料変更が正式な設計変更ではなく、試作段階に限定した一時的な措置である場合には、その区別を明確にする必要があります。
量産へ移行する際には、指定材料に戻すのか、代替材料を正式採用するのかについて、設計、品質、製造の関係者が判断することが重要です。
代替材料を正式に採用する場合には、要求性能、関連する仕様、必要な検証項目を整理し、所定の承認を行う必要があります。
試作品1個の製作で重要なのは、今回の試作が成功したかどうかだけではありません。
得られた結果が何を証明し、何をまだ証明していないのかを明確にすることです。これにより、次の試作や量産準備で必要な検証を判断しやすくなります。
試作品1個の製作で代替材料を決定する実務手順
代替材料を選ぶ際には、候補材料を比較するだけでなく、設計担当者と製作会社の間で判断条件を共有することが重要です。
まず、試作品の使用目的と評価項目を整理します。
外観、寸法、組み付け、強度、耐久性など、今回の試作で確認する内容を明確にします。同時に、今回の試作では評価しない項目についても区別しておくことで、材料選定の自由度を適切に設定できます。
次に、設計図面で指定された材料について、必要な特性を確認します。
材料名だけでなく、必要な強度、剛性、耐熱性、耐薬品性、表面品質などを整理します。この段階では、すべての特性を同じ重要度で扱うのではなく、評価結果に直接影響する項目を優先することが重要です。
例えば、組み付け状態を確認する試作品であれば、材料の熱膨張や剛性が寸法評価に影響するかを検討します。外観確認が中心であれば、色調や表面仕上げ、加工後の形状安定性などが優先項目になる場合があります。
続いて、材料の調達条件と加工条件を確認します。
指定材料の入手が難しい場合には、代替候補の材質だけでなく、必要な素材寸法や加工方法を確認します。
このとき、設計担当者だけで代替材料を決定せず、加工会社に加工上の課題を確認することが有効です。
加工会社は、材料による切削性の違いや、保持方法、工具条件、仕上げ精度などについて実務的な情報を持っている場合があります。そのため、材料選定の初期段階から相談することで、製作可能性を判断しやすくなります。
候補材料が決まったら、指定材料との違いを整理します。
必要な特性が一致している項目、一致していない項目、確認できていない項目を区別し、それぞれが評価目的にどのような影響を与えるか検討します。
不明な特性がある場合には、試作品の使用条件を制限するか、追加確認を実施するかを判断します。
ここで重要なのは、資料上の数値が近いことだけで代替材料を承認しないことです。
例えば、引張強さが近い材料であっても、弾性係数や耐熱性、耐食性が異なる場合があります。今回の評価に必要な特性が一致していなければ、代替材料として適切とは限りません。
その後、材料変更に関する承認を行います。
製作会社から代替材料の提案を受ける場合には、発注側が使用目的と評価上の制約を確認したうえで、採用可否を判断することが重要です。
特に、図面で材料が指定されている場合、製作会社の判断だけで材料を変更すると、仕様との不一致が発生します。事前に変更内容を共有し、承認の記録を残すことが望まれます。
承認後は、製作指示書や関連図面に、今回使用する材料と適用範囲を明記します。
正式な設計材料そのものを変更する場合と、試作品1個に限定して代替材料を許可する場合では、文書の扱いが異なります。
試作限定の材料変更である場合には、その条件を明確にしておくことで、後続の試作や量産準備で誤って同じ材料を使用することを防ぎやすくなります。
完成後は、使用材料と加工条件、必要な測定結果を記録します。
寸法や外観などの評価結果だけでなく、代替材料を使用したことによる制約も残しておきます。
この一連の流れを整えることで、試作品1個の製作でも、材料選定から評価結果の活用までを一貫して管理できます。
代替材料を使った試作品で発生しやすい問題と対策
代替材料を使用した試作品では、加工自体は問題なく完了しても、評価段階で想定外の問題が発生することがあります。
代表的なのが、寸法精度と材料特性を混同するケースです。
試作品の外形寸法が図面どおりに仕上がっていても、指定材料と異なる弾性特性を持つ場合には、組み付け後の変形量が変わることがあります。
特に、締結力が作用する部品や、部品同士が押し合う構造では、材料の剛性が組み付け状態に影響する場合があります。
この問題を防ぐためには、寸法測定で確認できる内容と、荷重が作用した状態で確認する内容を区別することが重要です。
次に注意したいのが、加工後の材料状態の変化です。
材料によっては、切削加工による残留応力の解放や熱の影響によって、加工後に反りや寸法変化が発生する場合があります。
薄肉形状や精密な嵌合部品では、こうした変化が評価結果に影響する可能性があります。
そのため、重要寸法については、加工直後だけでなく、必要に応じて所定の温度環境で状態を安定させた後に確認することが望まれます。
ただし、すべての材料や形状に同じ管理方法が適用できるわけではありません。材料特性と要求精度を踏まえて、適切な測定条件を設定する必要があります。
また、表面仕上げの違いも見落とされやすい項目です。
同じ形状であっても、材料や加工方法によって表面粗さや摩擦特性が異なることがあります。
摺動部品やシール部品などでは、表面状態が動作に影響する場合があります。したがって、こうした部品の試作では、寸法だけでなく、必要な表面性状を明確にすることが重要です。
さらに、代替材料の使用によって、試験結果の解釈が難しくなる場合があります。
例えば、試作品の耐久試験で破損が発生した場合、その原因が設計形状にあるのか、代替材料の疲労特性にあるのかを区別する必要があります。
指定材料との違いを考慮しないまま試験結果を評価すると、設計上の問題を誤って判断する可能性があります。
このため、試験報告では、使用材料、加工方法、試験条件、確認された現象を関連付けて記録することが重要です。
試作品が1個しかない場合には、破壊試験や耐久試験の実施順序にも注意が必要です。
一度の試験で部品が破損したり、状態が変化したりすると、その後に予定していた別の評価を実施できなくなる場合があります。
そのため、非破壊で実施できる寸法確認や外観確認を先に行い、その後に機能試験や必要な負荷試験を実施するなど、試験順序をあらかじめ検討することが望まれます。
また、試験に使用した試作品と、組み付け確認に使用した試作品が同じ個体であることも考慮する必要があります。
繰り返し組み付けを行った後では、ねじ部や接触面の状態が変わっている場合があります。評価結果を適切に解釈するためには、試験前の状態と使用履歴を把握しておくことが重要です。
材料変更の記録不足も、後から問題になりやすい点です。
試作品の完成時には材料変更の理由を把握していても、開発が進むにつれて情報が引き継がれなくなることがあります。
その結果、代替材料を使用した試作品の評価結果が、指定材料で実施した評価結果として扱われてしまう可能性があります。
これを防ぐためには、試作品の識別情報と材料情報を関連付け、評価記録に使用材料を明記することが重要です。
特に、複数の担当者や外部の製作会社が関わる場合には、材料変更の理由、承認者、使用範囲、評価上の制限を共有できる状態にしておく必要があります。
試作品1個の製作では、数量が少ないからこそ、1回の加工や1回の試験から得られる情報を確実に残すことが求められます。
試作品に発生した問題を単なる加工不良や材料不良として処理するのではなく、設計条件、材料特性、加工条件、使用条件の関係から確認することで、次の設計改善につなげやすくなります。
まとめ:試作品1個の製作では評価目的を基準に代替材料を選ぶ
試作品1個の製作で代替材料を選ぶ際には、入手しやすさや加工しやすさだけで判断せず、評価目的との適合性を確認することが重要です。
本記事で解説した5つの判断基準は、試作品の用途と評価目的、機械的特性と耐環境性、加工方法と寸法精度、材料の入手性と品質情報、量産材料との差異です。
これらの観点を整理することで、代替材料を使用しても必要な評価が成立するかを判断しやすくなります。
特に、試作品1個の製作では、完成した部品から得られる情報が限られます。そのため、試作前に確認項目を明確にし、材料変更によって評価できなくなる項目を把握しておくことが重要です。
また、代替材料を使用した理由や、指定材料との違い、製作時の条件、評価結果を記録することで、次の試作や量産準備にも情報を活用できます。
試作段階で材料と加工条件の履歴を適切に管理することは、開発の手戻り防止だけでなく、関係者間での判断の一貫性を確保するうえでも役立ちます。
製造現場だけでなく、設備の設置現場や建設現場で試作品を使用する場合には、材料情報や図面情報に加えて、設置場所、現場写真、作業内容などを関連付けて記録することも重要になります。
こうした現場情報の管理には、LRTK Phoneを活用できます。LRTK Phoneは、現場写真や位置情報、施工記録などを管理するための自社プロダクトです。例えば、設備や構造物に取り付けた試作品の設置状況を写真と位置情報で記録し、現場で確認した状態を関係者と共有する用途で活用できます。
材料証明書や性能試験の代わりになるものではありませんが、試作品を現場で使用する際の状況記録を整理する手段として、製作後の確認業務を支援します。
試作品1個の製作を成功させるためには、適切な代替材料を選ぶことに加え、その材料で何を検証できたのかを明確にすることが大切です。材料選定から加工、検査、現場での使用状況までを一貫して記録し、得られた情報を次の開発判断につなげていきましょう。
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