製品開発では、機構設計、電気設計、ソフトウェア開発、試作加工、評価試験、部品調達、量産準備など、さまざまな工程で外部の協力会社を活用することがあります。自社だけでは保有しにくい専門技術や設備を補えるため、適切な協力会社との連携は、開発期間の短縮や品質向上に寄与する可能性がある重要な手段です。
一方で、製品開発の協力会社を選ぶ際には、技術力、品質、納期、対応範囲だけでなく、「開発途中でも継続して対応してもらえるか」という視点も欠かせません。製品開発は数週間で終了する単純な取引とは異なり、案件によっては設計、試作、評価、改良、量産移行まで長期間にわたります。その途中で協力会社が業務を継続できなくなれば、開発計画全体に影響が及ぶ可能性があります。
ここでいう撤退は、倒産や廃業だけを意味するものではありません。担当部門の縮小、事業方針の変更、人員不足、主要技術者の退職、設備の停止、受注案件の集中、採算性の見直しなどによって、自社案件への対応を続けることが難しくなる場合もあります。会社そのものは存続していても、必要な技術領域から撤退したり、十分な人員を配置できなくなったりすれば、発注側から見れば開発継続上の問題になります。
特に注意したいのは、協力会社が担当してきた期間が長いほど、その会社の内部に設計意図や試験条件、過去の失敗、調整ノウハウなどが蓄積されることです。図面や仕様書が残っていても、判断の背景が分からなければ、新しい協力会社への移行に時間がかかります。
そのため、「製品開発 協力会社」で外部パートナーを探している実務担当者は、撤退しそうな会社を予測することだけに力を使うのではなく、候補企業の継続性を確認すると同時に、万一途中で協力関係が終了しても開発を引き継げる状態を作っておくことが重要です。本記事では、そのために確認したい5項目と、開発途中の中断に備える実務上の考え方を解説します。
協力会社の撤退リスクを開発初期から確認する理由
製品開発の協力会社を選ぶ際、多くの担当者が最初に注目するのは技術力や実績です。自社が必要としている加工、設計、評価、製造などに対応できるかを確認するのは当然ですが、それだけで長期的な取引の安全性まで判断できるわけではありません。
製品開発では、案件が進むにつれて協力会社の変更が難しくなる傾向があります。開発初期であれば仕様や役割分担を見直したうえで別の会社へ相談できる場合がありますが、詳細設計や試作、評価まで進んでから切り替える場合には、それまでの判断経緯を新しい担当者へ説明しなければなりません。
例えば、完成した設計図面だけを新しい協力会社へ渡しても、「なぜこの寸法にしたのか」「なぜこの部品を採用したのか」「過去の試作では何が問題になったのか」「どの条件で評価したのか」といった背景情報が分からなければ、同じ判断を再現できないことがあります。安全性や性能に関わる設計では、過去の評価内容を確認できないために、追加の検証が必要になる可能性もあります。
また、協力会社の撤退は必ずしも突然起こるとは限りません。担当人数が徐々に減る、回答までの期間が長くなる、専門技術者が別業務へ移る、外部委託が増えるなど、体制の変化として表れるケースも考えられます。ただし、こうした現象だけから経営状態の悪化や撤退を断定することは適切ではありません。案件の繁忙や一時的な人員配置による場合もあるためです。
重要なのは、一つの兆候だけで判断するのではなく、協力会社が自社案件を継続できる体制を持っているかを複数の観点から確認することです。そして、確認した結果にかかわらず、重要な設計情報や成果物を発注側でも管理し、引き継ぎ可能な状態を維持します。
「撤退しない協力会社を探す」という考え方だけでは、リスクを完全には避けられません。企業の経営環境、人員、設備、取引状況は変化するためです。それよりも、「協力会社に変化が起きても開発全体を止めにくい仕組みを作る」という考え方の方が、長期的なリスク対策として実務的です。
1.対象事業と経営の継続性を確認する
撤退リスクを確認する第一の項目は、協力会社の事業継続性です。ただし、企業規模の大小だけで判断するのは適切ではありません。大規模な企業であっても事業再編によって特定分野から撤退する可能性がありますし、小規模な企業でも特定技術を長年継続し、安定した体制を構築している場合があります。
確認したいのは、自社が依頼する業務が協力会社にとってどのような位置付けなのかです。長期間継続している主要事業なのか、新規分野として始めたばかりなのか、一部の顧客向けに限定して提供している業務なのかによって、将来的な継続性の見方は変わります。
商談時には、対象技術の実績だけでなく、その分野を今後も継続する予定なのかを確認しておくことが有効です。過去の実績が豊富でも、現在は担当部門を縮小している可能性があります。反対に、新しい設備や人材を増やしており、今後の重点分野として育成している場合もあります。
担当部署の人数や役割分担も確認対象です。例えば、特定技術に対応できる人が一人しかいなければ、その人が対応できなくなった際の影響は大きくなります。複数の技術者が同じ業務を理解しているか、担当者不在時に代行できる体制があるかなどを確認すると、会社全体では見えにくい実際の継続性を把握しやすくなります。
専用設備や特殊設備を利用する案件では、設備面の継続性も重要です。設計や試作に不可欠な設備が一台しかなく、故障した際の代替手段がなければ、設備停止がそのまま開発停止につながる可能性があります。定期的な保守が行われているか、故障時に別設備や外部設備を利用できるかなど、重要度に応じて確認するとよいでしょう。
一方で、発注側が協力会社の経営状態を完全に把握することは困難です。公開情報や商談時の説明だけから将来を断定することもできません。そのため、企業の将来を予測することより、「事業環境が変化した場合に早期に相談してもらえる関係を作れるか」という点も重視する必要があります。
案件開始時に、担当体制や事業方針に大きな変更が発生した場合には早めに情報共有してほしいことを伝えておけば、問題が表面化する前に対応策を検討できる可能性があります。発注側も一方的に監視するのではなく、開発計画や今後の発注見込みを可能な範囲で共有することで、協力会社が必要な人員を計画しやすくなります。
撤退リスクの評価では「将来も絶対に大丈夫か」を確認することはできません。重要なのは、現在の体制、対象事業の位置付け、必要設備、人員、情報共有姿勢などを総合的に見て、自社の開発期間に対して継続可能性が十分にあるかを判断することです。
2.特定担当者への依存度を確認する
第二の確認項目は、協力会社の業務が特定担当者へ過度に依存していないかという点です。
製品開発では専門性の高い技術者が中心となることが多く、経験豊富な担当者が付くことは発注側にとって大きなメリットです。しかし、設計思想、試験条件、顧客との合意事項、過去の不具合などを一人だけが把握している状態になると、その担当者が不在になった際に開発が止まりやすくなります。
人員変更は、必ずしも会社側の問題によって発生するものではありません。異動、退職、休職、他案件への配置変更など、通常の組織運営でも起こります。数か月から数年に及ぶ製品開発で、開始から完了まで同じ担当者が必ず対応することを前提にするのは危険です。
候補会社を評価するときは、主担当者だけでなく、その周囲の体制も確認します。副担当者がいるか、上位責任者が設計状況を理解しているか、定期的な社内レビューが行われているか、案件情報を複数人で共有しているかなどを見ることで、担当者変更への耐性を判断しやすくなります。
重要な技術判断が個人の記憶だけに残っていないことも重要です。例えば、試作品で発生した問題に対して、どの原因を疑い、どの対策を行い、結果がどうだったのかが記録されていれば、担当変更後も検討経緯を追うことができます。
逆に、会話だけで設計変更が進み、正式な記録が残っていない状態では、担当者が変わるたびに同じ議論をやり直すことになりかねません。開発後半になるほど過去の判断量が増えるため、影響も大きくなります。
発注側としても、協力会社に情報管理を任せきりにしないことが重要です。設計レビューの記録、課題一覧、変更理由、評価結果、合意事項など、自社でも必要な情報を保管します。少なくとも、自社の担当者が「現在どこまで開発が進み、何が課題で、次に何をするのか」を説明できる状態は維持したいところです。
また、自社側でも特定担当者への依存に注意する必要があります。協力会社との窓口を一人に集中させ、その担当者だけが経緯を理解している状態では、発注側の人員変更によって同じ問題が発生します。重要案件では、社内でも複数人が最低限の進捗と判断内容を共有しておくと、プロジェクト全体の継続性を高めやすくなります。
協力会社の優秀な担当者を信頼して任せることと、情報をその人だけに依存させることは別です。技術者個人の能力を生かしながら、案件情報を組織として共有できる状態が、長期開発には適しています。
3.設計データと開発情報の管理体制を確認する
第三の確認項目は、設計データと開発情報をどのように管理しているかです。協力会社が途中で対応できなくなった場合、代替先への移行可否を大きく左右するのが、それまでの成果物と開発履歴です。
製品開発で必要になる情報は、完成図面や最終仕様書だけではありません。構想段階の検討内容、設計データ、部品構成、試験条件、評価結果、不具合履歴、変更履歴、試作品の仕様、加工条件、調整記録など、さまざまな情報が開発中に蓄積されます。
特に引き継ぎで重要になるのは、完成した成果物だけでなく判断過程です。最終的な設計だけを見ると単純に見える構造でも、その形に至るまで複数の案を試し、問題を解消していることがあります。不採用案や過去の不具合が記録されていなければ、新しい担当者が同じ問題を繰り返す可能性があります。
そのため、協力会社を選ぶ段階で、どの成果物を、どの時点で、どの形式で受け取るのかを確認しておく必要があります。開発完了時に一括納品する方法だけでは、途中で契約が終了した場合に最新情報を入手しにくくなる可能性があります。
基本設計完了、詳細設計完了、試作完了、評価完了など、案件に合わせた節目を設定し、その時点までの成果物を整理して共有する方法が有効です。工程の途中でも発注側が最新情報を保有していれば、協力会社変更時の情報回収に依存しすぎずに済みます。
データ形式にも注意が必要です。協力会社の環境でしか確認できない形式だけでは、引き継ぎ先が異なる環境を使用している場合に活用しにくくなることがあります。編集可能な元データが必要なのか、閲覧しやすい形式も必要なのか、案件の性質に応じて事前に整理します。
ただし、協力会社が保有する独自技術や既存資産まで無条件で受け取れるとは限りません。発注側の案件用に作成した成果物と、協力会社が以前から保有している技術や仕組みでは、利用できる範囲が異なる場合があります。成果物の権利や利用条件は契約内容によって変わるため、必要な範囲を事前に明確にしておく必要があります。
最新版の管理も重要です。製品開発では、試作や評価の結果を受けて設計変更が繰り返されます。複数世代のデータが混在した状態で引き継ぐと、どの設計が正式なものなのか判断できなくなる可能性があります。
版番号、更新日、変更内容、承認状況などを記録し、現在使用している正式データを判別できるようにしておきます。設計変更の理由まで残しておけば、後任者が変更の背景を理解しやすくなります。
課題管理についても同様です。「問題がある」という情報だけでは不十分で、発生条件、確認した内容、原因候補、対策内容、対策後の結果、未解決事項を確認できるようにすると引き継ぎやすくなります。未完了の課題が明確であれば、別の協力会社へ移行した際にも優先順位を付けて作業を再開できます。
設計データや開発履歴を整えることは、撤退対策だけのために行うものではありません。日常の開発でも、認識違いの防止やレビュー効率の向上、設計変更時の確認に役立ちます。結果として、平常時の開発品質と非常時の引き継ぎやすさを同時に高めることができます。
4.再委託先と調達先への依存状況を確認する
第四の確認項目は、協力会社の外部依存です。直接契約している協力会社に十分な継続性があっても、その先にある再委託先や部品調達先が対応できなくなることで、開発が止まる場合があります。
製品開発では、一社がすべての業務を社内で完結しているとは限りません。設計の一部、試作加工、特殊処理、評価試験、部品製造などを外部へ委託していることがあります。再委託を利用すること自体が問題なのではなく、重要工程の依存関係を発注側が把握できていない状態がリスクになります。
例えば、特殊加工を特定の再委託先だけに依存しており、代替できる会社がすぐに見つからない場合、その会社が対応できなくなると試作品を作れなくなる可能性があります。試作が止まれば、評価や改良、その後の量産準備にも影響します。
部品調達についても同様です。試作時点では入手できた部品でも、将来にわたって同じ条件で供給されるとは限りません。製品の寿命が長い場合や開発期間が長い場合には、主要部品の供給継続性や代替可能性についても確認しておくことが重要です。
特に注意したいのは、代替部品へ変更すれば簡単に解決すると考えてしまうことです。寸法や基本性能が似ている部品でも、電気的特性、耐久性、材料、制御条件などが異なれば、設計変更や追加評価が必要になる場合があります。重要部品については、単に代替候補が存在するかだけでなく、代替時にどの程度の再設計や再評価が発生しそうかまで考えておくと、影響を把握しやすくなります。
協力会社を評価するときは、自社案件の品質や納期に影響する主要工程について、内製なのか外部委託なのかを確認します。そのうえで、重要な再委託先が一社に集中していないか、代替手段があるか、再委託先に問題が起きた場合に協力会社がどのように対応するのかを確認するとよいでしょう。
また、協力会社が重要な再委託先を変更する場合のルールも確認対象です。加工会社や製造場所、工程条件が変われば、製品品質に影響が出る場合があります。すべての取引先変更について発注側の承認を求める必要はありませんが、品質や性能に影響する重要な変更については事前に情報共有する条件を設けることが考えられます。
依存関係を把握する目的は、協力会社の取引先を細かく監視することではありません。どこが止まると自社案件が止まるのかを理解し、重要な箇所について代替策を考えておくことが目的です。
サプライチェーン全体を完全に二重化することは、案件によっては現実的ではありません。むしろ、停止した場合の影響が特に大きい部品や工程を特定し、優先順位を付けて対策する方が実務的です。代替先候補を把握する、必要な技術情報を保管する、部品変更時の評価項目を整理するなど、案件に応じた準備を行います。
5.契約終了時の引き継ぎ条件を確認する
第五の確認項目は、協力会社との契約や業務が途中で終了する場合に、何をどのように引き継ぐかです。
通常の製品開発委託では、業務範囲、成果物、納期、秘密保持、検収条件などを定めます。しかし、予定どおり開発が完了することを前提にしていると、「途中で継続できなくなった場合の手順」が十分に定められていないことがあります。
協力会社の都合、自社の方針変更、双方の合意など、開発途中で契約終了が必要になる理由はさまざまです。どちらの責任で終了する場合でも、開発を継続するためには、それまでの情報を整理して受け渡す必要があります。
最初に確認したいのは、途中段階までに作成された成果物の扱いです。完成していない設計データ、作成途中の資料、評価途中の結果、未完成の試作品などについて、契約終了時にどの範囲まで受け取れるのかを整理しておきます。
次に、技術的な説明をどこまで受けられるかを確認します。データだけが存在しても、設計意図や未解決課題を理解できなければ、引き継ぎ先が開発を再開するまでに時間がかかります。終了時に一定の引き継ぎ期間を設け、現在の設計状況、変更履歴、評価結果、未解決事項などを説明してもらう方法が考えられます。
ただし、突発的な事情では十分な引き継ぎ期間を確保できない場合もあります。そのため、終了時だけにすべての情報を受け取るのではなく、日常的に重要データを共有しておくことが重要です。契約上の引き継ぎ条項と、通常運用における情報共有の両方を整えておくことで、突然の中断への耐性を高められます。
契約終了の通知条件についても確認しておくとよいでしょう。通常の事業判断によって対応終了となる場合に、可能な範囲で事前通知する条件を設定しておけば、発注側は代替協力会社の選定を早く始められます。ただし、具体的な条件は取引内容や契約関係によって異なるため、一律に決めるのではなく案件ごとに整理する必要があります。
知的財産や利用権についても重要です。協力会社が以前から保有している技術と、自社案件のために新たに作成した成果物を明確に区別していない場合、協力会社を変更した後にどの情報を利用できるのか分からなくなる可能性があります。
引き継ぎ先へ設計情報を渡す必要がある場合、その情報を第三者へ開示できるのかも確認が必要です。秘密保持契約を結べばすべて利用可能になるとは限らないため、契約条件と権利関係は実際の案件に合わせて整理します。重要な案件では必要に応じて専門家へ確認することも検討します。
金型、治具、試験装置、試作品など、協力会社の施設内に置かれる物品についても忘れてはいけません。誰が所有しているのか、どこに保管されているのか、契約終了時に返却するのか、次の協力会社へ移管できるのかを明確にしておきます。
特に専用治具や専用設備がなければ試作や評価を再現できない案件では、物品の移管条件が開発再開までの期間を左右する可能性があります。設計データだけでなく、現物資産まで含めて引き継ぎ対象を整理することが重要です。
契約終了条件を細かく定める目的は、協力会社との関係を厳しくすることではありません。万一のときに双方が何を行うかを事前に明確にすることで、不要な混乱を減らすことが目的です。終了時の手順が整理されていれば、通常の開発中も成果物や責任範囲を明確にしやすくなります。
撤退リスクを比較するときに注意したい考え方
ここまでの5項目を確認しても、協力会社が将来撤退するかどうかを正確に予測できるわけではありません。そのため、評価結果を単純な点数だけで決めるのではなく、「撤退した場合の影響」と組み合わせて考えることが重要です。
例えば、比較的容易に別の会社へ切り替えられる業務であれば、多少の継続性リスクがあっても開発全体への影響は限定的な場合があります。一方、特殊な技術や独自設備を使用し、その協力会社でなければ再現が難しい業務の場合は、わずかな中断でも開発全体への影響が大きくなる可能性があります。
つまり、見るべきなのは撤退する可能性だけではありません。「その会社が対応できなくなったとき、どれだけ困るか」という影響度も重要です。
技術の代替性、必要データの入手状況、代替会社の候補、切り替えに必要な評価期間などを確認すると、自社案件にとっての実質的なリスクが見えやすくなります。
また、協力会社を分散すれば必ず安全になるわけでもありません。設計、試作、評価を多数の会社へ細分化すると、一社停止時の影響を限定できる可能性がある一方、調整先が増え、仕様変更の伝達や責任分界が複雑になる場合があります。
反対に、一社へまとめれば情報共有や進行管理を行いやすくなる場合がありますが、その会社への依存度は高くなります。どちらが正しいということではなく、対象技術の重要性、代替可能性、自社の管理能力などを考慮して役割分担を設計する必要があります。
協力会社を選定するときは、技術評価と継続性評価を別々に考えることも有効です。技術的には非常に優れていても代替が難しい会社であれば、採用を避けるのではなく、成果物共有や担当者複数化などの対策を強化する方法があります。
撤退リスクをゼロにすることではなく、リスクの大きさに合わせて備えを変えるという考え方が重要です。
協力会社が変更になっても開発を止めにくくする方法
協力会社の撤退リスク対策で重要なのは、問題発生後に急いで代替会社を探すことだけではなく、平常時から引き継ぎ可能な開発体制を作ることです。
まず、自社側でもプロジェクトの重要情報を把握します。外部へ開発業務を委託していても、製品仕様、主要な設計方針、現在の課題、評価条件、主要部品などは、自社担当者が説明できる状態を維持することが望まれます。
協力会社へ業務を任せるほど、実務上の判断も協力会社側に蓄積しやすくなります。進捗会議で「順調です」という確認だけを行っていると、発注側に具体的な技術情報が残らない可能性があります。設計レビューでは結果だけでなく、重要な判断理由も確認し、必要なものは記録しておきます。
次に、成果物を開発途中でも定期的に共有します。完成時にまとめて受け取るのではなく、工程の節目で設計データや評価記録を整理します。これにより、協力会社の担当者が急に変わった場合でも、自社側に最新状態に近い情報が残ります。
現在の課題を一覧化し、完了・対応中・未着手などの状態を確認できるようにすることも重要です。新しい協力会社が参加したときに、完成した部分と未完了部分を区別できれば、必要な作業を判断しやすくなります。
過去の失敗や不具合も重要な引き継ぎ情報です。開発では、成功した設計結果だけでなく、「何を試したがうまくいかなかったか」が価値を持つ場合があります。同じ失敗を繰り返さないためにも、問題の内容、確認条件、原因の考察、実施した対策、結果を可能な範囲で記録します。
設計上の重要な前提条件も明確にしておきます。例えば、使用環境、寸法上の制約、製造上の制約、評価条件などが暗黙の了解として扱われていると、担当者変更時に抜け落ちる可能性があります。仕様書だけでは読み取れない制約ほど、文書化して共有する価値があります。
代替協力会社については、実際に二社へ同じ業務を発注する必要はありません。重要技術について「どのような会社なら引き継げるか」を把握しておくだけでも、緊急時の初動を早められます。
特殊加工、評価試験、専門設計など代替先が限られそうな業務については、開発開始時に候補を調べておく方法もあります。問題が起きてからゼロから探す場合と比べ、技術要件を整理しやすくなります。
また、協力会社変更時に必要となる期間を事前に想定しておくことも重要です。新しい会社を見つければ翌日から同じ開発を再開できるわけではありません。秘密保持、仕様説明、データ確認、設備準備、試作品の再現、評価条件の確認などが必要になる場合があります。
そのため、開発日程そのものにも一定の余裕を持たせることが望まれます。特定工程の遅延が直ちに製品全体の予定を動かす状態では、小さな人員変更や設備停止でも影響が拡大しやすくなります。
協力会社とのコミュニケーションでは、撤退の兆候を探すことだけを目的にしないことも大切です。定期的に案件の今後を共有し、必要な人員や設備、スケジュールを双方で確認する方が、結果として早期のリスク把握につながる可能性があります。
例えば、今後数か月で試作が集中することを発注側から事前に共有すれば、協力会社も人員や設備を準備しやすくなります。逆に、協力会社側で体制変更の予定がある場合も、早めに相談してもらえる関係づくりに役立ちます。
撤退リスクへの備えを「協力会社を信用しないための仕組み」と考える必要はありません。むしろ、担当者が変わっても業務を続けられる状態を双方で作ることは、協力会社側の引き継ぎ負担を抑えることにもつながります。
情報が整理されていれば、協力会社内で担当者を交代するときにも引き継ぎやすくなります。仕様が明確で、判断履歴が残り、課題が整理されている案件は、発注側だけでなく受注側にとっても管理しやすくなります。
開発途中の中断リスクを抑えるためには、「優良な会社を選べば終わり」ではなく、選定後の運用まで含めて考える必要があります。協力会社選定、契約、設計レビュー、成果物管理、課題管理、変更管理、引き継ぎ方法を一連の仕組みとして整えることで、特定企業や特定担当者への過度な依存を減らしやすくなります。
まとめ
製品開発の協力会社を選ぶ際には、技術力、品質、納期、対応力などに加えて、開発を継続できる体制があるかを確認することが重要です。
第一に、自社が依頼する技術領域が協力会社の中で継続的に運営されているかを確認します。企業規模だけで判断せず、対象事業の位置付け、人員、設備、将来の方針などを見ることがポイントです。
第二に、特定担当者だけに情報や判断が集中していないかを確認します。担当者変更は通常の企業活動でも発生するため、複数人で情報を共有し、判断履歴を残せる体制が望まれます。
第三に、設計データや開発履歴を定期的に共有できる仕組みを確認します。完成成果物だけでなく、変更理由、評価結果、不具合履歴、未解決課題などを残すことで、別の会社や担当者へ移行しやすくなります。
第四に、再委託先や調達先への依存状況を把握します。重要工程や主要部品が特定の取引先に集中している場合には、供給停止時の影響や代替方法まで検討しておくことが重要です。
第五に、契約途中で業務を終了する場合の引き継ぎ条件を整理します。設計データ、試作品、治具、評価情報、知的財産、技術説明など、何をどのように受け渡すのかを事前に明確にしておけば、緊急時の混乱を減らせます。
ただし、どれほど慎重に協力会社を選んでも、将来の事業環境や人員変化を完全に予測することはできません。そのため、製品開発における撤退リスク対策では、「撤退しない会社を見つける」こと以上に、「どの会社と仕事をしても、必要な情報を残し、引き継げる状態を維持する」ことが重要になります。
長期の製品開発では、設計室内の資料だけでなく、試作、設置、施工、現地確認など、案件によっては現場で発生する情報も重要な判断材料になります。現場で撮影した写真が担当者個人の端末だけに残っている、どこで撮影した写真なのか分からない、現地で確認した状況が口頭でしか伝わっていないといった状態では、担当者や協力会社の変更時に情報を十分引き継げない可能性があります。
現場で確認した事実についても、設計データと同じように「後から別の担当者が確認できる記録」として残すことが重要です。写真、位置、日時、確認内容などを案件に応じて関連付けて管理できれば、協力会社が変更になった場合にも、現場で何が確認されたのかを説明しやすくなります。
こうした現場情報を継続的な開発記録として整理する際には、LRTK Phoneの利用を検討できます。LRTK Phoneを利用した位置情報付きの現場記録などを、設計資料や評価結果とあわせて引き継げる形で運用すれば、特定の担当者や協力会社だけに情報が偏ることを抑えるための一つの手段になります。実際に管理する情報の種類や共有方法は、利用する機能や案件の運用条件を確認したうえで設計することが重要です。
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