LRTKレフィクシア株式会社

電線共同溝の硫化水素滞留に備える6つの換気・測定対策

電線共同溝で硫化水素対策が必要になる場面

電線共同溝は、電力線や通信線などを道路の地下に収容し、無電柱化や道路空間の有効利用を支える施設です。管路を中心に構成される区間のほか、接続部、分岐部、特殊部、点検口、排水ピットなど、人が立ち入って点検や施工を行う空間を含む場合があります。

こうした地下空間は、地上に比べて自然な空気交換が限られます。内部へ水や泥が入り、有機物を含む汚泥が長期間残った場合や、周辺の排水設備、下水道施設、地下水などからガスが流入した場合には、硫化水素が存在する可能性を考慮する必要があります。すべての電線共同溝で硫化水素が発生するわけではありませんが、施設の用途や外観だけで安全を判断することはできません。

特に注意したいのは、通常は乾燥している特殊部でも、豪雨や浸水の後、長期間閉鎖した後、排水設備の故障後、周辺工事の実施後などに内部環境が変わる点です。施工時の仮排水が流入したり、目地や貫通部の止水性能が低下して汚水が入り込んだりすれば、過去の点検記録だけでは現在の状態を判断できないことがあります。

硫化水素対策は、臭いの有無を確認する作業ではありません。点検口の外で異臭を感じない場合でも、内部の低所、管路との接続部、隔壁の裏側、排水ピット、資材の陰などに濃度差が生じる可能性があります。硫化水素は空気より重い性質を持ちますが、温度差、換気、発生位置、空気のかくはん、構造物の配置などで分布は変化します。低い位置だけを測ればよいとは限らず、人の感覚ではなく、適切な測定器と測定計画によって確認することが基本です。

法令上の酸素欠乏危険作業に該当するかどうかは、電線共同溝という名称だけで決まるものではありません。労働安全衛生法施行令で定める酸素欠乏危険場所に該当するか、さらに硫化水素中毒のおそれを含む第二種酸素欠乏危険作業に該当するかを、施設の構造、流入物、使用履歴、周辺設備、作業内容などから個別に判断する必要があります。該当する作業では、酸素濃度18%以上を保ち、第二種酸素欠乏危険作業では、これに加えて硫化水素濃度10ppm以下を保つよう換気することが求められます。([厚生労働省][1])

法令上の区分に該当しないと判断される場合でも、浸水、汚泥、排水設備との接続、異臭、腐食、周辺からのガス流入など具体的な危険要因があれば、リスクアセスメントに基づいて測定、換気、監視、退避などの対策を講じることが重要です。反対に、電気設備だから汚水系施設とは無関係だと決め付けることも避けなければなりません。

硫化水素対策では、測定、換気、監視、退避、救助を別々に考えるのではなく、どこからガスが入り、どこに滞留し、どのように排出し、どの状態で立入りを認め、どの時点で作業を中止するかを一つの作業計画として組み立てます。ここからは、電線共同溝の点検、清掃、補修、ケーブル敷設、設備更新などを想定し、実務で確認したい6つの対策を解説します。

対策1 発生源と流入経路を事前調査で整理する

最初の対策は、現場へ入ってからガスの有無を考えるのではなく、作業計画の段階で硫化水素の発生源と流入経路を洗い出すことです。測定器を用意していても、危険が予想される位置を把握していなければ測定点が偏り、局所的な滞留を見落とすおそれがあります。

事前調査では、電線共同溝の平面図、縦断図、構造図、管路接続図、排水系統図、過去の点検記録、浸水履歴、補修履歴などを確認します。特殊部の底部に排水ピットがあるか、排水管がどこへ接続されているか、自然排水かポンプ排水か、逆流を抑える設備があるか、周辺に下水道、共同溝、地下通路、河川、温泉地帯などがあるかを整理します。

図面上では独立している設備でも、実際の現場では、ひび割れ、目地、貫通部、仮設配管、排水口などを通じて空気や水が移動する場合があります。特に、電線共同溝と隣接施設との境界部、管路の引込み部、蓋や換気口の周辺、排水ポンプの配管接続部は重点的な確認対象です。

過去に冠水した場所では、水が引いた後も泥や有機物が残っていないかを確認します。点検口から見える範囲が乾いていても、排水ピットの底、ケーブルラックの下、管路口の奥などに堆積物が残っている可能性があります。長期間閉鎖されていた空間では、内部の空気が外気と十分に入れ替わっていないことも想定します。

周辺工事の情報も重要です。下水道工事、地盤改良、薬液注入、排水切替、地下水位を変化させる工事などが行われると、地下水や地下空気の流れが変わる場合があります。前回の点検では異常がなかった場所でも、周辺条件が変われば再評価が必要です。

事前調査の結果は、図面上に危険予想箇所として示します。対象となるのは、最深部、排水ピット、閉塞した管路の接続部、汚泥堆積部、隣接施設との境界部、通風しにくい行き止まり部などです。これにより、測定位置、採気方法、換気ダクトの配置、退避経路を入坑前に検討できます。

作業当日は、蓋や点検口の周囲に異常がないかを地上から確認します。水の流れる音、排水ポンプの運転状態、腐食や変色、泥の付着、周辺からの異臭などは、内部状態を推定する手掛かりになります。ただし、こうした兆候がないことを安全の根拠にはしません。事前調査は測定を省略するためではなく、測定と換気を確実に行うための準備です。

さらに、作業内容そのものがガス環境を変える可能性も検討します。堆積物の除去、排水ピットの清掃、止水材の撤去、閉鎖部の開放、水中ポンプの運転、泥のかくはんなどを行うと、それまで水中や汚泥中に存在していたガスが空間へ放出される場合があります。そのため、入坑前の測定結果が良好でも、工程の変化に伴って危険性が変わる前提で計画を立てます。

対策2 入坑前に複数地点・複数高さで濃度を測定する

二つ目の対策は、人が内部へ入る前に、酸素濃度と硫化水素濃度を測定することです。測定のために先に作業者が入坑すると、危険な空気へ直接ばく露するおそれがあります。測定者の安全を確保し、可能な限り外部から採気管や遠隔採気機能を用いて確認します。

測定は一か所だけで終わらせません。点検口直下の値が正常でも、特殊部の奥、底部、排水ピット、隔壁の裏側、管路接続部などで異なる結果になることがあります。空気の流れが少ない地下空間では、構造物や設備によって濃度分布が複雑になるためです。

上部、中間部、底部という高さの違いに加え、入口付近、中央部、最奥部、行き止まり部、排水設備周辺など、水平方向の違いも意識します。作業者が実際に呼吸する高さ、移動する範囲、しゃがんで作業する位置も測定対象として考えます。ガスの比重だけで測定位置を固定せず、空間を立体的に確認することが重要です。

採気管を使用する場合は、管内の空気が測定器へ到達するまでの時間を考慮します。長い採気管では、先端の空気がセンサーへ届くまでに時間がかかります。表示が安定する前に次の測定点へ移ると、実際とは異なる位置の空気を測っていることになりかねません。採気管の長さ、吸引能力、取扱説明書に示された応答時間を確認し、測定点ごとに必要な時間を確保します。

測定器は、酸素と硫化水素を確認できるものが実務上有効です。現場条件によっては、可燃性ガス、一酸化炭素、二酸化炭素など、ほかの成分も測定対象になります。使用する測定器の種類は、事前調査で想定した危険源と作業内容に合わせて選定します。硫化水素だけを測って酸素濃度を確認しない、あるいは酸素濃度だけを測って想定される有害ガスを確認しないという運用は避けます。

法令上の酸素欠乏危険作業に該当する作業場では、その日の作業開始前に濃度測定が必要です。第二種酸素欠乏危険作業では、酸素濃度と硫化水素濃度を測定します。測定した場合は、測定日時、方法、箇所、条件、結果、実施者氏名、防止措置の概要を記録し、法令に基づく記録は3年間保存します。([厚生労働省][1])

測定値が管理基準を満たしていない場合はもちろん、値が安定しない場合、測定位置による差が大きい場合、測定器の応答に異常がある場合には、原因を確認せずに入坑しません。換気を行い、ガスの流入源や発生源を確認し、再測定によって安全を確認します。

濃度を記録する際は、法令上の記録事項に加え、測定器の識別番号、蓋の開放状態、換気の有無、天候、外気温、浸水状況なども残すと、後日の検証に役立ちます。同じ硫化水素0ppmという記録でも、換気前か、換気後か、どの位置で測ったかによって意味が異なります。

一度の測定結果が、その日の全工程の安全を保証するわけではありません。法令上の酸素欠乏危険作業では、全作業者が作業場所を離れた後に再び作業を始める前や、作業者の身体、換気装置などに異常があったときにも、作業主任者が必要な濃度測定を行います。これに加え、汚泥のかくはん、隔壁や管路の開放、排水系統の切替など、内部環境を変える工程の前後に再測定する手順を定めておくと安全管理を強化できます。

対策3 給気と排気の流れを分けて滞留部まで強制換気する

三つ目の対策は、点検口を開けただけの自然換気に頼らず、送風機とダクトを用いて強制的に空気を入れ替えることです。蓋を開放すると外気が入るように見えても、地下空間の奥まで新鮮な空気が届くとは限りません。出入口が一つしかない特殊部や、曲がり、段差、隔壁、ラックなどがある空間では、入口付近だけ空気が入れ替わり、奥に滞留部が残る可能性があります。

換気計画では、どこから安全な外気を取り込み、どこへ送り、汚染された空気をどこから排出するかを明確にします。送風機の吸込み口は、車両、発電設備、工事用機械などの排気を取り込まない位置へ設置します。道路上の現場では、風向、車線規制、周辺工事、交通量の変化も考慮します。

ダクトの先端は、単に点検口付近へ置くのではなく、換気したい滞留部まで延ばします。最深部や行き止まり部へ新鮮な空気を届け、汚染された空気が出口側へ移動する流れをつくります。給気と排気の位置が近すぎると、送り込んだ空気がすぐ外へ戻る短絡流が生じ、内部の空気が十分に交換されないことがあります。

複数の開口部を利用できる構造では、一方から給気し、別の開口部から排気する流れを検討できます。ただし、排気された空気が作業員、歩行者、交通誘導員、周辺住民のいる場所へ向かわないようにします。排気を送風機の吸込み側へ戻す配置も避けます。

一つの点検口から換気する場合は、ダクト先端を最奥部へ延ばして給気するなど、内部で空気が循環せず、入口側へ押し出される流れをつくります。必要に応じて給気と排気のダクトを分けますが、開口寸法や作業動線を圧迫して退避を妨げないようにします。

換気量は、単純な容積だけでなく、想定されるガスの発生量、流入の継続性、作業内容、ダクトの長さや曲がり、実使用時の送風能力を踏まえて決めます。機器に示された無負荷時の送風量が大きくても、長いダクト、急な曲がり、断面のつぶれなどによって現場で得られる風量は低下します。ダクトの外れ、折れ、漏れ、閉塞がないことも確認が必要です。

換気を始めた後は、一定時間が経過したという理由だけで入坑を判断しません。換気中または換気後に濃度を再測定し、作業範囲の各測定点で酸素濃度と硫化水素濃度が管理基準を満たしていることを確認します。入口付近の値だけが改善し、奥の値が変わっていない場合は、ダクト位置、給排気の向き、送風能力を見直します。

法令上の酸素欠乏危険作業では、酸素濃度18%以上を保つよう換気し、第二種酸素欠乏危険作業では、酸素濃度18%以上かつ硫化水素濃度10ppm以下を保つよう換気することが求められます。また、この換気に純酸素を使用することは禁止されています。換気ができない場合または著しく困難な場合には、法令に定める空気呼吸器等の使用など、別の措置が必要です。([厚生労働省][1])

可燃性ガスが存在する可能性がある現場では、換気設備、照明、電源、工具などが着火源にならないよう、想定される危険に応じて防爆や火災防止の措置も検討します。硫化水素対策だけに視野を限定せず、事前調査で把握したガスの種類に応じた設備選定が必要です。

対策4 作業中も濃度変化を監視し継続換気する

四つ目の対策は、入坑前の測定結果だけで安全を判断せず、作業中の濃度変化を監視することです。地下空間の状態は、作業開始後に変わる可能性があります。汚泥を動かしたとき、排水ポンプを運転したとき、管路を開放したとき、換気ダクトがずれたとき、雨水や地下水が流入したときなどに、硫化水素濃度が上昇する場合があります。

法令は、酸素欠乏危険作業における作業開始前、全員退場後の再開前、作業者の身体や換気装置などに異常があったときの測定を作業主任者の職務として定めています。また、常時作業状況を監視し、異常を早期に把握するための措置も求めています。現場の危険性が高い場合、ガスの流入や発生が継続する可能性がある場合、汚泥を扱う場合などには、これらの法定測定に加えて携帯式または固定式の測定器による連続監視を組み合わせることが有効です。連続監視はすべての現場に一律の法定義務と表現するのではなく、リスクに応じて採用する追加対策として位置付けます。([厚生労働省][1])

作業者が携帯式測定器を装着する場合は、呼吸域に近く、周囲の空気が入りやすい位置に取り付けます。腰の後ろ、工具袋の内部、防護服の内側など、周囲の空気が届きにくい位置へ入れると、警報が遅れるおそれがあります。固定式の測定器を配置する場合も、ガスが流入しやすい位置、作業者が滞在する位置、排水ピット周辺など、監視目的に合った場所を選びます。

送風機や作業機械の音が大きい現場では、測定器の警報音が聞こえない可能性があります。音、光、振動など複数の警報方式を確認し、地上監視員も異常を把握できる連絡方法を定めます。警報表示が見えない位置で作業する場合は、通信機能や定期連絡を組み合わせるなど、現場条件に合った方法を選びます。

警報設定値は、法令上の管理基準、施設管理者の基準、発注者の基準、社内基準、測定器の性能を踏まえ、退避に必要な時間を考慮して定めます。警報値と法令上の限界値は必ずしも同一にする必要はなく、限界を超える前に行動できるよう安全側に設定する考え方が重要です。設定根拠と警報時の行動を作業計画へ明記します。

警報が作動した場合は、測定器の故障と決め付けず、作業を停止して退避します。安全な場所へ戻った後に、換気設備、ガスの流入源、直前の作業内容、測定器の状態を確認します。警報表示を解除しただけで再入坑せず、原因を除去し、換気し、再測定して安全を確認します。

換気設備は、作業中も必要な濃度を維持できるよう運転します。作業開始前に測定値が改善したからといって送風機を停止すると、ガスの再流入や再発生によって濃度が変化する可能性があります。換気の継続が作業計画上必要な現場では、停止を異常事象として扱い、直ちに退避する手順を定めます。

電源の不具合にも備えます。送風機と測定器の電源残量、電源ケーブルの保護、接続部の防水、予備電源の必要性を作業前に確認します。換気設備の停止を内部から把握しにくい場合は、地上監視員が運転表示、風量、ダクトの状態などを継続して確認します。

風が出ているように見えても、ダクトが途中で外れていたり、資材に押しつぶされていたりすれば、必要な場所へ空気が届きません。作業中に資材を移動する際は、ダクト、採気管、電源ケーブルを損傷しないよう動線を分けます。

休憩時の運用も明確にします。全員が退坑した後に換気を停止した場合や、作業場所を無人にした場合は、再入坑前に換気状態と濃度を再確認します。法令上の酸素欠乏危険作業では、全員が作業場所を離れた後に作業を再開する前の測定が作業主任者の職務に含まれます。短時間の休憩であっても、降雨、排水ポンプの起動、近隣設備の運転などによって内部状態が変わる可能性を考慮します。

対策5 測定器と換気設備の点検・記録を標準化する

五つ目の対策は、測定器と換気設備を現場へ持参しただけで使用可能と判断せず、作業前点検と記録を標準化することです。安全対策は機器の性能だけでなく、正しく作動する状態が維持されて初めて機能します。

ガス測定器では、外観、電源残量、センサーの使用期限、校正履歴、警報設定、吸引ポンプ、フィルター、採気管、接続部などを確認します。電源が入ることと、対象ガスを正しく検知できることは同じではありません。製造者が定める手順に従って、使用前の作動確認や警報確認を行い、異常がある測定器は使用しません。

校正と使用前確認は目的が異なります。校正は、基準となるガスなどを用いて表示値の精度を確認、調整する管理であり、使用前確認は、その日の現場でセンサー、警報、吸引系統などが作動するかを確かめるものです。機器の仕様と社内手順に沿って実施し、校正期限内であることだけを理由に日常点検を省略しないようにします。

採気管は、目詰まり、折れ、亀裂、結露、水滴の吸込みに注意します。特殊部の底部を測定する際、採気管の先端が水や汚泥へ入ると、正しく測定できないだけでなく、測定器を損傷する可能性があります。水がある場所では、水面直上の空気を測定できるよう先端位置を管理し、必要に応じて水の吸込みを抑える部品を使用します。

フィルターや採気管を交換した場合は、接続不良や漏れがないかを確認します。ポンプ式測定器では、採気管の途中から外気を吸い込むと、内部の濃度より低い値が表示される可能性があります。長い採気管を継ぎ足す場合ほど、接続部の気密と吸引時間の確認が重要です。

送風機では、電源、スイッチ、保護装置、羽根、ガード、ダクト接続部、運転音、振動、実際の風の流れを確認します。ダクトは、穴、裂け、つぶれ、急な折れ曲がりがないかを点検します。設置後は先端まで風が届いていることを確認し、途中の接続部から大きく漏れていないかを見ます。

空気呼吸器等、要求性能墜落制止用器具等、救助用具を使用する計画がある場合も、法令と製造者の指示に従って作業前点検を行います。点検で異常が見つかった機器は、補修または交換が完了するまで使用しません。

点検結果は、使用機器の識別番号、点検日時、点検者、異常の有無、校正期限、交換部品、警報確認結果などとともに残します。記録を蓄積すれば、事故時の確認だけでなく、機器の劣化傾向、故障の再発、交換時期の把握にも役立ちます。

濃度測定記録は、数値だけでなく、測定点を図面や位置情報と対応させることが重要です。特殊部内0ppmという記録では、どの位置を測ったのか判断できません。点検口直下の上部、排水ピット水面上、東側管路口付近、最奥部の作業床高さなど、第三者が再現できる形で残します。

換気条件も記録します。使用した送風機、ダクト本数、ダクト先端位置、給気方向、排気方向、換気開始時刻、測定時刻を残すことで、次回の点検時に有効だった配置を再利用できます。濃度が改善しにくかった配置も記録しておけば、同じ失敗を繰り返しにくくなります。

記録様式は現場ごとに変え過ぎず、社内で標準化します。最低限必要な項目が決まっていれば、担当者が変わっても測定漏れを防ぎやすくなります。ただし、標準様式を埋めること自体が目的になってはいけません。現場固有の危険箇所がある場合は、記録項目を追加し、図や写真を使って具体的に残します。

対策6 退避・監視・救助体制を作業前に完成させる

六つ目の対策は、異常が起きてから救助方法を考えるのではなく、作業開始前に退避、監視、連絡、救助の体制を完成させることです。硫化水素中毒や酸素欠乏の災害では、倒れた作業者を助けようとして、呼吸用保護具を着用していない人が内部へ入り、被災者が増える二次災害が繰り返し発生しています。

まず、内部作業者と地上監視員の役割を分けます。法令上の酸素欠乏危険作業では、常時作業状況を監視し、異常があったときに作業主任者その他の関係者へ直ちに通報する者を置くなど、異常を早期に把握するための措置が必要です。監視員が別の作業を兼務して監視場所を離れる運用では、異常の発見が遅れるおそれがあります。

内部と地上の連絡方法は、作業前に実際の環境で確認します。地下空間では、構造や設備によって無線通信が届きにくい場合があります。音声が聞き取りにくい場合に備え、定時連絡、警報、合図、連絡不能時の退避ルールを定めます。一定時間応答がなければ監視員が無防備で内部へ見に行くという方法は危険です。応答がないこと自体を異常とみなし、立入禁止と救助手順へ移行します。

退避経路には、資材、ケーブル、ダクト、採気管などを置かず、作業者が速やかに出口へ移動できる空間を確保します。はしごや昇降設備の固定状態、開口部周辺の転落防止措置も確認します。硫化水素や酸素欠乏の影響で意識や身体機能に異常が生じた場合、自力で狭い昇降口を上がれない可能性も考慮します。

法令上の酸素欠乏危険作業では、空気呼吸器等、はしご、繊維ロープなど、非常時の避難や救出に必要な用具を備える必要があります。酸素欠乏等の場所で被災者を救出する作業に労働者を従事させる場合は、救助者に空気呼吸器等を使用させなければなりません。用具は現場に置くだけでなく、点検済みで、使用者が装着方法と操作方法を理解し、直ちに使用できる状態にします。([厚生労働省][1])

換気ができない場合、または作業の性質上換気が著しく困難な場合は、法令の適用条件に応じて、空気呼吸器、酸素呼吸器、送気マスクなどの空気呼吸器等を使用する措置が必要です。ただし、呼吸用保護具を着ければ通常どおり作業できるという意味ではありません。保護具の種類、使用可能時間、送気源、作業者数、連絡方法、救出方法を含めた計画が必要です。

異常時には、測定器の警報、換気設備の停止、作業者の体調不良、連絡不能、急な浸水、異臭、排水設備の異常などを退避条件とします。法令上の酸素欠乏危険作業では、酸素欠乏等のおそれが生じたとき、直ちに作業を中止して退避させ、危険がないことを確認するまで関係者以外を立ち入らせない措置が必要です。

救助者が無防備で内部へ入ることは避けなければなりません。厚生労働省が公表する災害事例でも、作業開始前の酸素・硫化水素濃度測定、必要な換気、作業主任者の選任、特別教育、救出時の空気呼吸器の使用が行われていなかったことが原因として挙げられています。([あんぜんサイト][2])

現場では、緊急連絡先、通報時に伝える施設名、道路名、点検口番号、進入経路、救急隊が到着する位置を事前に確認します。道路上の電線共同溝では、交通規制や工事車両によって救急車両の接近が妨げられる場合があります。緊急時に規制材や車両を移動させる担当も決めておきます。

作業前には、法令上の酸素欠乏危険作業に該当するかを確認し、該当する場合は必要な作業主任者を選任します。第二種酸素欠乏危険作業では、酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者から作業主任者を選任します。また、その業務に労働者を就かせるときは、酸素欠乏症等の原因や症状、空気呼吸器等の使用方法、退避、救急そ生などに関する特別教育が必要です。([厚生労働省][1])

現場記録を位置情報とひも付けて再利用する

硫化水素対策では、測定を実施した事実だけでなく、どの場所で、どの条件で、どの値が確認されたかを将来の点検へ引き継ぐことが重要です。電線共同溝は長い路線に多数の特殊部や点検口が配置されるため、名称や番号だけでは現場を取り違える可能性があります。

測定点、換気設備の設置位置、排水ピット、汚泥堆積部、異常箇所を位置情報付き写真で記録すれば、報告書と現地の対応関係を把握しやすくなります。次回の担当者は、過去に硫化水素が検出された位置や、換気に時間がかかった場所を事前に確認できます。

記録写真では、測定器の表示だけを撮影するのではなく、測定場所が分かる全景、採気管の先端位置、測定器の表示、換気ダクトの配置を組み合わせて残します。数値と位置関係が分かれば、後から測定の妥当性を検証しやすくなります。

同じ特殊部でも、排水ピット付近と作業床付近で異なる値が出る場合があります。この情報を位置情報とともに蓄積すれば、次回の測定点を適切に設定できます。換気前、換気中、換気後の写真と測定値を時系列で整理すれば、換気方法の有効性も比較できます。

LRTK Phoneを活用すると、電線共同溝の位置と現場写真をひも付けて記録し、点検結果の整理や関係者間の共有に役立てられます。位置情報付きの写真に、点検口番号、測定時刻、測定位置、換気条件、異常内容などを関連付けることで、紙の記録だけでは伝わりにくい現場状況を残しやすくなります。

ただし、過去の記録があるからといって、今回の測定を省略してはいけません。位置情報付き記録は危険箇所の予測や作業計画に活用するものであり、現在の安全を保証するものではありません。作業のたびに必要な測定を行い、その結果を新しい記録として追加します。

また、位置情報付き写真を利用する際は、施設管理者の情報管理ルールに従います。電線共同溝の位置、内部構造、設備配置、点検口番号などは、管理上重要な情報となる場合があります。閲覧権限、共有範囲、保存期間、端末紛失時の対応を定め、安全管理記録そのものが別の情報管理リスクを生まないようにします。

電線共同溝の硫化水素対策で起こりやすい失敗

硫化水素対策で起こりやすい失敗の一つは、過去に異常がなかったことを理由に測定を省略することです。地下水位、降雨、周辺設備、排水状態、目地や貫通部の状態などは時間とともに変化します。定期点検であっても、毎回同じ状態とは限りません。

次に注意したいのが、点検口を開放してしばらく待てば安全になるという判断です。自然換気では、奥や底部まで十分に空気が入れ替わらないことがあります。蓋を開けた状態で地上の風を感じても、内部の滞留部が解消されているとは限りません。

測定点が入口付近だけという運用も危険です。作業者が実際に移動する範囲、排水ピット、管路口、最深部などを測定しなければ、局所的な濃度上昇を見落とす可能性があります。測定は空間全体の状態を把握するために行うものであり、測定しやすい場所だけを選ぶものではありません。

換気後の測定値だけを記録し、換気前の状態を残さないことも改善したい点です。安全に外部採気できる場合に換気前の値を記録しておけば、施設の潜在的な危険性と換気の効果を評価しやすくなります。ただし、換気前測定のために測定者が危険な空間へ入ることは避け、外部から採気できない場合は人の安全を優先します。

測定器の警報が鳴った際に、誤作動と判断して警報を止め、作業を継続することも避けなければなりません。センサーの異常が疑われる場合でも、安全な場所へ退避し、別の測定器による確認や機器点検を行うなど、安全側に判断します。

送風機が動いていることだけを確認し、ダクト先端の位置や実際の風の流れを確認しないケースもあります。ダクトが外れて入口付近へしか送風できていなければ、奥の空気は改善しません。換気設備は運転状態だけでなく、目的位置へ空気が届いているかまで確認します。

法令上の基準値を満たしたという一回の結果だけで、作業中の変化を考慮しないことも問題です。汚泥のかくはん、管路の開放、排水の切替、換気設備の停止などがあれば、濃度は変わる可能性があります。再測定の条件と、必要に応じた連続監視の方法を作業計画に定めます。

内部作業者だけが測定器を持ち、地上監視員が測定値や警報を把握できない運用にも注意が必要です。作業者が急に応答できなくなった場合、地上側が異常を判断できません。警報時の連絡方法、退避判断、救助開始条件を事前に共有します。

さらに、倒れた人を見た同僚が反射的に内部へ入ることは、最も重大な失敗の一つです。救助者が同じ有害環境へ無防備で入れば、複数人が被災するおそれがあります。救助用の空気呼吸器等、引上げ用具、訓練済みの人員がない状態では内部へ入らず、立入禁止、通報、地上から可能な救助を優先します。

最後に、電線共同溝であることだけを理由に、第二種酸素欠乏危険作業だと一律に断定することも、反対に法令の対象外だと一律に決め付けることも適切ではありません。対象場所の法令上の区分と、実際の現場に存在する危険要因を分けて確認し、適用法令とリスクアセスメントの両面から対策を決める必要があります。

まとめ

電線共同溝の硫化水素対策では、目に見える異常や臭いだけで安全を判断してはいけません。浸水、汚泥、排水設備、隣接施設、管路接続部などを事前に調査し、ガスが発生または流入する可能性を整理することが出発点です。

法令上の酸素欠乏危険作業に該当するかは、電線共同溝という施設名だけでは決まりません。施設の構造、流入物、使用履歴、周辺設備、作業内容を確認し、該当する場合は、濃度測定、換気、作業主任者、特別教育、監視、退避、救助用具などの法定措置を確実に実施します。

入坑前には、測定者の安全を確保したうえで、酸素濃度と硫化水素濃度を複数地点、複数高さで確認します。測定値が管理基準を満たさない場合や、位置によって値が不安定な場合は、原因が分からないまま作業を始めません。

換気では、点検口を開放するだけでなく、送風機とダクトを用いて滞留部へ安全な外気を届けます。給気と排気の短絡を防ぎ、排気が作業員や周辺の人へ向かわないように配置します。換気後は再測定を行い、入口だけでなく作業範囲全体の状態を確認します。

作業中も必要な換気と監視を継続し、警報、換気停止、連絡不能、体調不良などが発生した場合は直ちに退避します。連続監視は、すべての現場に一律の法定義務とするのではなく、ガスの発生や流入が続く可能性、作業による変化、施設形状などを踏まえた追加対策として採用します。

測定器、採気管、送風機、ダクト、空気呼吸器等、救助用具は、使用前に点検し、使用履歴や測定条件を記録します。さらに、地上監視員、退避経路、緊急連絡、救助設備を事前に整え、無防備な救助による二次災害を防ぎます。

安全管理を継続的に改善するには、濃度の数値だけでなく、測定位置、換気配置、異常箇所、作業条件を現地の位置情報とともに残すことが有効です。LRTK Phoneなどを用いて位置情報付き写真を整理する場合も、過去記録を今回の測定の代わりにせず、施設管理者の情報管理ルールに従いながら次回点検と関係者への引継ぎに活用することが重要です。

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