電線共同溝は、電力線や通信線などを道路地下へ収容し、無電柱化、道路空間の有効活用、景観や防災性の向上に寄与する都市基盤です。一方、道路地下には水道管、下水道施設、ガス管、鉄道関連設備、接地極、鋼製構造物などが近接していることがあり、意図しない電流経路が形成されると、金属部に迷走電流腐食が生じる可能性があります。
迷走電流腐食は、意図された回路以外を流れる電流によって生じる腐食です。とくに直流の迷走電流では、電流が金属体から土壌や水などの電解質側へ流出する部分がアノードとなり、局部的な腐食が進みやすくなります。交流の影響については発生機構や評価方法が直流と同じではないため、周辺に交流送電設備などがある場合は別途の専門評価が必要です。
電線共同溝で注意したいのは、接地を増やせば必ず安全になるわけではないことです。接地線や金属製支持材を計画なしに接続すると、地中の電位分布や金属体の連続性が変わり、新たな電流経路を形成する場合があります。反対に、腐食対策だけを理由に絶縁を優先しすぎると、故障時の保護や感電防止に必要な接地機能を損なうおそれがあります。
したがって、迷走電流腐食対策では、接地と絶縁を別々に決めるのではなく、保安上必要な接地機能、通常時と故障時の電流経路、金属体の連続性、周辺埋設物との電気的関係を一つの系統として整理することが重要です。本記事では、電線共同溝の設計、施工、完成確認、維持管理で確認したい五つの接地・絶縁対策を解説します。
迷走電流腐食が電線共同溝で問題になる理由
電線共同溝は、単独の設備ではありません。道路管理者が整備する管路や特殊部に、複数の電線管理者がそれぞれのケーブル、接続材、支持材、接地線などを設置します。その周囲には、別の道路占用者が管理する金属管路や構造物が存在する場合があります。
各設備が異なる接地方式、絶縁方式、材料構成で設計されていると、設備同士が接近する箇所で電気的な関係が複雑になります。通常時には問題が確認されなくても、接地線の追加、金属製部品の接触、漏水、絶縁材の損傷、周辺設備の運用変更などをきっかけに、迷走電流の経路が変化することがあります。
とくに確認が必要なのは、直流鉄道などの直流設備や、外部電源方式の電気防食設備が近くにある区間です。直流の漏れ電流は、金属体へ流入した後、別の位置から大地へ流出することがあり、流出部に腐食が集中する可能性があります。電気防食設備は対象構造物を防食するためのものですが、地中の電位分布が変化して近接する別の金属構造物へ電流が分流すると、干渉の検討が必要になります。
電線共同溝内で影響を受ける可能性がある部分には、金属製ケーブル支持材、固定金具、ボルト、蓋枠、鋼製部材、接地導体、ケーブルの金属遮へい層、金属製管路、鉄筋などがあります。ただし、すべての金属部品を同じ方法で接地または絶縁すればよいわけではありません。
感電防止のために保護接地や等電位化が必要な露出導電部と、迷走電流の連続経路を抑えるために絶縁を検討する金属部では、求められる役割が異なります。ケーブルの金属遮へい層や金属シースについても、片端接地、両端接地、クロスボンドなどの方式が設備条件によって採用されます。道路管理者側や施工者側の判断だけで接続を変更すると、故障電流の処理、誘導電圧、ケーブル保護に影響する可能性があるため、電線管理者の設計条件に従う必要があります。
腐食の進行箇所が外観から分かりにくいことも問題です。迷走電流腐食は、被覆欠損部、ボルト周辺、異種材料との接触部、常時湿潤部など、限られた箇所に集中する場合があります。外観上は軽微でも断面欠損が進んでいる可能性があるため、必要に応じて清掃後の詳細確認、厚さ測定、導通調査などを行います。
反対に、表面にさびが見えても、原因が迷走電流とは限りません。通常の湿食、塩分の影響、異種金属接触腐食、施工時の表面処理不足なども考えられます。原因を区別せずに塗装だけを補修すると、腐食要因を残したまま別の欠損部へ電流が集中する可能性があります。
迷走電流腐食対策の出発点は、さびた部分を直すことではなく、発生源の候補、電流の流入点、金属体内の導通経路、流出点の候補を把握することです。
対策1 迷走電流の発生源と流入・流出経路を先に特定する
最初の対策は、電線共同溝周辺に存在する電流源の候補と導電経路を調べることです。接地線や絶縁継手の配置を検討する前に、現況設備を電気的な系統図として整理します。
調査対象には、電線共同溝へ収容する電力設備だけでなく、周辺の直流鉄道、直流電源設備、蓄電設備、外部電源方式の電気防食設備、道路照明、信号設備、建築物の接地、通信設備の接地、金属製上下水道施設などを必要に応じて含めます。実際の調査範囲は、設備間の距離、金属体の連続性、地盤条件、過去の異常履歴を踏まえて定め、各設備の管理者と協議します。
設計初期には、発注者、道路管理者、参画事業者、周辺占用事業者から既設図、接地系統図、防食設備の情報、過去の点検記録を収集します。ただし、既設図だけで現況を確定せず、必要に応じて現地確認、試掘、探査、管理者立会いを組み合わせます。
平面図には埋設位置だけでなく、金属体の材質、接続状態、接地位置、絶縁部、管理区分、湿潤環境を記載します。特殊部や分岐部では、壁面を貫通する金属部品、ケーブルラック、吊り金具、接地端子、止水材、鉄筋、蓋枠などの接触関係を確認します。
現地では、図面に示されていない導通がないかも調査します。仮設接地線が残っている、金属製ラックが構造体へ接触している、固定ボルトが絶縁スペーサーを貫通している、排水管や梯子を介して隣接構造物と導通しているといった状態は、書類だけでは判断できません。
導通の有無は、停電や切離しの可否、誘導電圧、故障電流経路などの安全条件を確認したうえで、抵抗測定、導通確認、設備間電位差測定などによって調べます。測定器が導通を示したからといって、直ちに不適合とは判断できません。保護接地や等電位化のために意図的に接続されている可能性があるためです。
反対に、乾燥時に導通が確認されないことだけで安全ともいえません。特殊部に水がたまると、汚れや塩分を含む水を介して漏れ電流が流れやすくなる場合があります。調査時の天候、降雨履歴、地下水位、排水設備の稼働状態、結露、漏水、堆積物も記録します。
迷走電流の発生源を推定するには、時間変動の把握が有効です。一時点の電位だけで判断せず、必要な時間幅で連続記録し、周辺設備の運転状況と照合します。電位や電流の変動が列車運行、充放電、負荷変動、防食装置の運転などと対応する場合は、原因候補を絞り込みやすくなります。
ただし、時間的な相関だけで原因を断定してはいけません。複数の設備が同じ時間帯に稼働することもあるため、必要に応じて管理者立会いの追加測定、設備の切替前後の比較、複数測点の同時記録を行います。
調査結果は、平面図、縦断図、横断図、電気的系統図を対応させると整理しやすくなります。平面図では位置関係、縦断図では埋設深さや地下水との関係、横断図では設備間の離隔、電気的系統図では接地、絶縁、金属体の連続性を示します。
配線計画や完成図には、管路、ケーブル、特殊部、管理境界に加え、接地接続点、絶縁区間、測定端子、試験対象区間を記載します。施工後に測定条件を再現できるよう、端子番号、設備番号、写真、座標を対応させることも重要です。
対策2 接地系統を機能別に整理し不要な電流経路を作らない
二つ目の対策は、接地系統を役割ごとに整理することです。接地は、感電防止、故障電流の処理、雷保護、機器の基準電位確保、信号品質の維持など、複数の目的で設けられます。目的や設計条件が異なる接地を確認せずに接続すると、通常時の電流や地電位差による電流が別系統へ回り込む可能性があります。
迷走電流腐食対策で避けたいのは、「接地抵抗を下げるため」という理由だけで接地極を追加し、周辺設備との電気的関係を確認しないことです。接地極の増設は、地中の電位分布や電流経路を変える可能性があります。増設の要否は、保安上必要な接地性能だけでなく、周辺埋設物、防食設備、長距離接地導体との関係を含めて判断します。
接地計画では、保護接地、設備固有の機能接地、雷保護に関係する接地、測定用の基準点、他設備との等電位化接続などを区別します。そのうえで、どの接地を共用するか、どこに電気的境界を設けるか、通常時と故障時にどの経路へ電流を流すかを明確にします。
保護接地は、設備故障時に危険な接触電圧が生じることを防ぐために重要です。迷走電流を遮断したいからといって、必要な保護接地を安易に切り離してはいけません。絶縁対策を採用する場合でも、故障電流の経路、保護装置の動作、雷保護、保守作業時の安全を確認します。
一方、離れた接地系統を長い金属導体で接続すると、地点間の地電位差によって電流が流れる可能性があります。電線共同溝は道路方向へ長く延びるため、接地導体、ケーブルの金属遮へい層、金属製支持材が長距離の導電経路となり得る点に注意が必要です。
特殊部ごとに接地極を設ける場合も、各接地極を連続して接続するのか、設備条件に応じて区分するのかを検討します。判断には、故障電流、雷電流、地絡保護、ケーブル遮へい層の接地方式、土壌抵抗率、周辺設備の接地配置などが関係します。現場判断で接続方式を変更せず、設備設計者と電線管理者の確認を得ます。
異なる管理者の設備を接地線で接続するときは、責任分界を明確にします。接続点の位置、導体の仕様、端子の管理者、通常時の接続状態、点検方法、異常時の連絡先を施工前に定めます。
接地端子箱や測定端子を設ける場合は、通常運用時の接続状態が識別できる構造と表示にします。表示が不明確だと、点検時に別系統を誤接続したり、測定後の仮設線を残したりする原因になります。
接地線の接続部では、電気的性能だけでなく腐食環境も確認します。異種金属端子の組合せ、結露水の滞留、端子部への土砂付着、締付け不足、表面処理の損傷があると、接触抵抗の増加や局部腐食につながる可能性があります。
接地抵抗値は重要な管理項目ですが、一つの数値だけで迷走電流腐食の危険性を評価することはできません。接地抵抗測定は、補助電極の配置、土壌の含水状態、季節変動、周辺からの誘導や迷走地電流などの影響を受けます。測定器の取扱説明書、適用規格、設計条件に従い、測定方法と条件を記録します。
接地抵抗が設計条件を満たしていても、構造物対地電位や接地導体電流が大きく変動していれば追加調査が必要です。反対に、接地抵抗が以前と異なっていても、含水状態や測定配置の違いが原因の場合があります。接地抵抗、対地電位、導体電流、設備間電位差、絶縁抵抗を組み合わせて評価します。
対策3 異種設備との不要な導通を絶縁し電気的境界を明確にする
三つ目の対策は、迷走電流の連続経路となる不要な導通を、絶縁によって適切に区分することです。絶縁は、金属構造物を無条件に大地から切り離すことではありません。設備の機能と安全を維持しながら、電流を流すべき経路と流すべきでない経路を明確にする考え方です。
電線共同溝では、管路と特殊部の接続部、異なる管理者の設備境界、金属製支持材と構造体の接触部、金属管と非金属管の切替部、地上機器と地下設備の接続部などが絶縁検討の対象となります。
絶縁継手、絶縁フランジ、絶縁スペーサー、絶縁ワッシャー、非導電性支持材などを使用する場合は、部品単体の性能だけでなく、組立後の状態を確認します。絶縁ワッシャーを設けても、ボルト軸やカラーが両側の金属へ接触していれば短絡します。絶縁継手の外側を金属製固定バンドや接地線でまたぐと、継手の機能が失われます。
金属製排水管、手すり、梯子、ケーブルラック、仮設補強材などが絶縁境界をまたいで接触する場合もあります。完成時に問題がなくても、設備増設や補修工事によって絶縁区間が後から短絡されることがあるため、改修時の確認項目に含めます。
絶縁部は図面へ明示し、現地にも識別表示を設けます。絶縁の目的、管理者、通常状態、試験方法が伝わらないと、後年の改修で金属片や接地線が追加され、意図せず導通が復活する可能性があります。
絶縁区間の位置は、保守性も考えて決めます。水没しやすい場所、清掃が困難な狭い部分、振動や荷重が集中する部分に配置すると、性能確認や交換が難しくなります。可能な範囲で、点検、測定、再締付け、交換ができる位置に配置します。
異種金属が接触する部分では、迷走電流腐食だけでなく、異種金属接触腐食にも注意が必要です。異なる金属が電気的に接触し、水分などの電解質が存在すると、材料の組合せや面積比によって一方の腐食が促進される場合があります。
この現象は迷走電流腐食とは原因が異なりますが、同じ箇所で重なる可能性があります。材料の組合せを見直す、絶縁材を介在させる、水分を排除する、防食被覆を連続させるといった方法を、設備条件に応じて組み合わせます。
ただし、異種金属の接触をすべて絶縁すればよいわけではありません。保護接地の連続性、故障電流や雷電流の経路が必要な箇所もあります。絶縁を採用するときは、通常時、故障時、雷発生時、保守作業時の状態を確認します。
ケーブルの金属遮へい層や金属シースは、電線管理者が定める接地方式に従います。施工現場で余った接地線を近くの支持材へ接続する、遮へい層を道路管理者側の接地端子へ任意に接続するといった対応は避けます。
周辺設備に電気防食が施されている場合、絶縁やボンディングの変更によって電流分布が変わることがあります。絶縁を追加すれば常に干渉が減るとは限らないため、防食設備の陽極、排流点、対象構造物、近接金属体の位置関係を把握し、防食の専門技術者と各設備管理者による測定と評価を行います。
対策4 防食被覆と止水を一体で考え絶縁性能を維持する
四つ目の対策は、防食被覆と止水を一体で考えることです。迷走電流腐食は、金属と土壌や水との間で電流が移動できる箇所に生じます。金属表面を連続した被覆で覆い、電解質との接触を抑えることは、電流の流入や流出を抑制するうえで有効です。
ただし、被覆に小さな欠損があると、電流がその部分へ集中する可能性があります。広い範囲が絶縁されている一方で、一部だけ金属面が露出している場合、露出部の電流密度が高くなり、局部腐食が進むことがあります。
そのため、被覆施工では、材料の種類だけでなく連続性と下地処理が重要です。端部、ボルト周辺、溶接部、曲げ部、貫通部、現場切断面、運搬時の傷、吊り治具の接触部などを重点的に確認します。
工場で被覆された部材でも、現場加工によって素地が露出することがあります。切断や穴あけを行った場合は、設計図書や材料仕様書に定められた前処理と補修方法を実施します。水分、油分、粉じん、さびが残った状態で補修すると、密着不足や早期劣化につながる可能性があります。
特殊部内部では、漏水や結露によって絶縁状態が変化します。乾燥時には高い絶縁抵抗を示していても、水や堆積物がたまると端子間や金属部材間へ漏れ電流が流れやすくなる場合があります。止水と排水は、防食対策の一部として扱います。
管路貫通部では、止水材の施工範囲、管外面との密着、壁面の不陸、背面からの水みちを確認します。ケーブル引込み後に隙間が生じる構造では、施工手順と再止水方法をあらかじめ定めます。
特殊部の底部に排水設備を設ける場合は、排水管が別の金属構造物との導電経路になっていないかも確認します。金属製配管やポンプの接地線を介して、絶縁区間が短絡される可能性があります。非導電性配管を採用する場合でも、ポンプや制御盤の保護接地は適用基準に従って確保します。
コンクリート中の鉄筋は一般に高アルカリ環境によって保護されますが、ひび割れ、漏水、塩分を含む水の浸入、電流の影響などが重なると腐食条件が変化する可能性があります。露出鉄筋やさび汁が確認された場合は、劣化範囲、かぶり、導通状態、水の侵入経路を調べて補修方針を決めます。
蓋枠やボルト類は、雨水、凍結防止剤を含む水、道路清掃水などにさらされやすい部分です。表面処理の傷、異種金属の組合せ、水の滞留に加え、蓋枠から特殊部内部へ形成される導通経路にも注意します。
施工後は、被覆の外観確認だけでなく、設計で求められる場合には被覆欠陥検査や絶縁抵抗測定を行います。試験方法と試験電圧は、材料、膜厚、構造、適用規格、設計図書に合わせて選びます。適合しない試験電圧を一律に加えると被覆や絶縁部材を損傷するおそれがあります。
被覆補修箇所は、写真だけでなく設備番号や位置を記録しておきます。施工時に補修した箇所は、将来の点検で優先的に確認する候補になるためです。
防食被覆は、施工後も点検が必要です。浮き、膨れ、割れ、剥離、変色、さび汁、漏水跡、析出物などを確認し、異常が見つかった場合は、被覆だけでなく迷走電流、湿潤、異種金属接触、機械的損傷などの原因を調査します。
対策5 電位・電流を継続測定し異常を早期に発見する
五つ目の対策は、完成時の測定値を初期値として保存し、供用後もリスクに応じて電位や電流の変化を追跡することです。ここでいう継続測定には、常設監視だけでなく、定期測定、一定期間のデータロガー測定、周辺工事後の臨時測定を含みます。
迷走電流腐食は、完成直後から外観異常が現れるとは限りません。周辺設備の運転開始、接地設備の増設、地下水条件の変化、漏水、他工事による金属体の追加などによって、供用後に電気的条件が変わる場合があります。
完成検査では、接地抵抗だけでなく、設計上必要な範囲で構造物対地電位、設備間電位差、接地線に流れる電流、絶縁区間の抵抗、金属体の導通状態などを確認します。すべてを一律に測定するのではなく、設計時に設定したリスク箇所と管理目的に応じて測定項目を決めます。
構造物対地電位を測定する場合は、基準電極の種類、設置位置、土壌や水との接触状態、測定回路を統一します。測定点だけを記録しても、基準電極の位置や状態が変われば比較が難しくなります。測定位置は図面、設備番号、写真、座標で再現できるようにします。
瞬時値だけでは、迷走電流の変動を把握できないことがあります。必要な測定時間と記録間隔を設定して連続記録すると、周期的な変動や突発的な変化を確認しやすくなります。
周辺に直流鉄道がある場合は、列車運行や負荷によってレール電位や漏れ電流が変動し、近接金属体の電位にも変動が現れる可能性があります。ただし、波形が列車運行と似ているだけで腐食の有無や量を判断することはできません。電流の流入・流出方向、継続時間、被覆欠陥、土壌条件などを総合的に評価します。
測定端子は、将来も同じ条件で測定できる位置に配置します。ケーブル増設後に触れなくなる場所や、水没しやすい場所では継続管理が困難です。端子箱には、測定対象、接続先、通常時の接続状態、測定時の注意事項を表示します。
測定端子自体も点検対象です。腐食、結露、緩み、変色、絶縁材の割れがあると、正しい測定ができない可能性があります。
点検周期は、周辺環境、設備重要度、過去の測定傾向に応じて定めます。直流鉄道や電気防食設備に近い区間、常時湿潤する特殊部、過去に異常があった区間、絶縁継手が集中する区間などは重点管理の候補です。
大雨、浸水、道路掘削、設備増設、接地改修、周辺防食設備の変更後は、定期周期を待たずに臨時点検を検討します。他工事で金属管や接地線が新設された場合、電線共同溝の電気的条件が変わっている可能性があります。
監視値に変化が見つかったときは、一つの基準値だけで合否を判断せず、過去の傾向と測定条件を比較します。季節、降雨、特殊部内の水位、基準電極の状態、周辺設備の運転状況が異なる場合は、条件をそろえた再測定を行います。
迷走電流腐食の疑いが強い場合は、電位勾配測定、電流方向の確認、土壌抵抗率調査、クーポンやプローブを用いた評価などを、防食の専門技術者と検討します。腐食箇所を開削して確認する場合も、開削や切離しによって電気的条件が変わる前に、可能な範囲で電位状態を記録します。
排流設備や外部電源方式の電気防食を対策として採用する場合は、対象設備だけでなく周辺埋設物への干渉を確認します。電流出力、陽極配置、排流点、絶縁状態を変更すると電位分布が変わるため、調整前後に複数設備を測定し、各管理者と影響範囲を確認します。
設計・施工・維持管理をつなぐ実務フロー
迷走電流腐食対策を確実にするには、設計者が作成した接地・絶縁計画を施工者と維持管理者へ引き継ぐ仕組みが必要です。図面上では適切でも、施工段階で意図が伝わらなければ、絶縁境界の短絡や接地線の誤接続が起こります。
設計段階では、周辺設備と管理者を整理します。電線共同溝の範囲だけでなく、影響が想定される既設埋設物、接地設備、直流設備、防食設備を調査対象に含めます。
次に、導電経路を図示します。ケーブルの金属遮へい層、接地導体、支持材、特殊部構造、鉄筋、金属管路、地上機器の接地を一枚の系統図へまとめます。通常状態だけでなく、故障時や雷発生時に想定される電流経路も確認します。
そのうえで、接地する部分、等電位化する部分、絶縁する部分、測定する部分を区別します。図面では記号だけで示さず、接続の目的、通常状態、管理者、試験方法を記載します。
施工計画では、絶縁部材を取り付ける順序、防食被覆を補修する時期、導通試験や絶縁確認を行う段階を決めます。すべての部材を組み立てた後では、短絡箇所を特定しにくくなるためです。
支持材設置後、接地線接続後、ケーブル布設後、止水完了後など、工程ごとに測定結果を残します。途中段階では正常だった絶縁が、後工程の金属部品追加によって失われた場合も発見しやすくなります。
施工中に設計変更が生じた場合は、機械的な納まりだけで判断しません。金属製部材の追加、固定方法の変更、排水管の変更、接地線経路の変更は、迷走電流の経路へ影響する可能性があります。変更前に電気設計者と設備管理者へ確認し、完成図へ反映します。
完成時には、接地・絶縁系統図を実際の施工状態に合わせて更新します。完成図には、実際にどの部材がどこへ接続され、どこで絶縁されているかを示します。
完成検査では、図面照合、外観確認、導通確認、絶縁確認、接地抵抗測定、電位測定を設計条件に応じて組み合わせます。測定結果には、日時、天候、路面状態、特殊部内の水位、使用機器、測定位置、基準電極、周辺設備の運転状況を記載します。
供用開始後は、初期値からの変化を確認します。完成直後は問題がなくても、埋戻し土の含水状態が変化した後や、周辺設備の運用開始後に測定値が変わることがあります。必要に応じて、条件が安定した段階で再測定します。
適用する接地方法、地中電線路の施設方法、電気的保護については、施工時点で有効な法令、電気設備の技術基準とその解釈、道路管理者の仕様、電線管理者の設計基準を確認します。法令や解釈は改正されるため、過去の版を前提にせず、案件ごとに適用版と適用範囲を明確にします。
迷走電流対策は、土木、電気、防食、維持管理の複数分野に関係します。土木担当者は漏水や構造、電気担当者は接地や故障電流、防食担当者は電位や干渉、維持管理担当者は点検性を確認します。
それぞれが別の図面だけを管理するのではなく、共通の設備番号、測点番号、座標、写真管理ルールを使用すると、異常箇所の共有が容易になります。
現場で起こりやすい失敗と是正の考え方
迷走電流腐食対策で起こりやすい失敗の一つが、接地抵抗値だけを確認して対策完了とすることです。接地抵抗が設計条件を満たしていても、通常時に接地線へ迷走電流が流れている可能性があります。対地電位、接地導体電流、設備間電位差も必要に応じて確認します。
二つ目は、絶縁継手を設置したものの、別の金属部材で短絡している状態です。固定金具、排水管、支持材、梯子、仮設材、接地線など、主部材以外の導通経路を確認します。
三つ目は、防食被覆の外観だけを確認し、端部やボルト周辺の欠陥を見落とすことです。被覆の継ぎ目、現場加工部、支持部、地際部は重点的に点検します。
四つ目は、腐食が見つかった箇所だけを厚く塗装することです。原因となる電流経路を確認せずに流出箇所だけを被覆すると、別の欠損部へ電流が集中する可能性があります。補修前に電位測定、導通調査、湿潤状況の確認を行います。
五つ目は、他設備の管理者へ連絡せずに接地や防食設備を変更することです。迷走電流や防食電流は管理境界を越えて影響する場合があります。自設備だけの測定結果で判断せず、関係管理者と共同確認します。
六つ目は、測定位置が再現できないことです。特殊部の名称だけでは、端子や基準電極の位置を特定できない場合があります。座標、設備番号、端子番号、写真、図面を組み合わせて記録します。
七つ目は、乾燥した完成時だけ絶縁状態を確認することです。漏水や結露が想定される特殊部では、供用後の湿潤状況を含めた再確認を検討します。ただし、意図的に水を散布する試験は設備を損傷する可能性があるため、設計された試験方法に従います。
八つ目は、設計変更を完成図へ反映しないことです。施工中に追加された接地線や金属部材が記録されていないと、将来の異常調査で電流経路を再現できません。
九つ目は、絶縁すること自体を目的にしてしまうことです。保護接地を失えば、腐食とは別の重大な安全問題を招きます。絶縁の採否は、通常時、故障時、雷発生時、保守作業時を考慮して決めます。
十個目は、測定値の変化を直ちに腐食発生と判断することです。測定値は、含水状態、温度、基準電極、周辺負荷、測定位置などによって変化します。同一条件に近づけて再測定し、複数の指標から評価します。
是正対策を決めるときは、原因調査、対策実施、再測定の三段階を明確にします。原因を確認せずに接地極を増設したり、絶縁継手を追加したりすると、電流分布がさらに複雑になる可能性があります。
是正後には、対策箇所だけでなく、その前後や隣接設備も測定します。電流の流出位置や電位変動が別の場所へ移っていないかを確認するためです。
LRTK Phoneを活用して調査記録を位置情報と結び付ける
迷走電流腐食の調査では、測定値と同じくらい、どこで、どの条件で測定したかを残すことが重要です。電線共同溝には外観が似た特殊部や接地端子が連続するため、設備番号だけでは位置を取り違える場合があります。
LRTK Phoneを活用すると、対応するアプリや運用環境の範囲で、現場写真と位置情報、撮影方向などを関連付けて記録できます。接地端子、絶縁継手、被覆補修部、漏水箇所、腐食箇所を位置とともに整理すれば、後日の再測定位置を特定しやすくなります。
腐食調査では、同じ場所を継続的に観察することが大切です。撮影方向や距離が毎回異なると、さびの広がり、被覆の膨れ、漏水跡の変化を比較しにくくなります。位置情報付き写真に設備番号、測定端子番号、撮影方向、撮影高さを登録しておけば、点検記録の再現性を高められます。
施工中の記録にも利用できます。絶縁スペーサーの取付状態、防食被覆を補修した位置、埋戻し前の接地線経路など、完成後に見えなくなる部分を位置とともに保存しておくと、将来の原因調査に役立ちます。
測定結果を位置ごとに整理すれば、対地電位や接地導体電流の変化が集中する区間を把握しやすくなります。数値だけを一覧にするのではなく、平面上の位置、特殊部内の高さ、周辺設備との距離、測定条件を合わせて確認します。
ただし、LRTK Phoneが腐食原因を自動判定するわけではありません。また、GNSS測位の精度は上空視界、マルチパス、補正情報の受信状態、機器の設定などに左右されます。地下の特殊部内では衛星信号を受信しにくいため、地上の開口部で基準位置を取得する、既知点から位置を引き継ぐ、設備番号と写真で補完するなど、現場条件に合った記録手順を定めます。
測量成果として座標精度の保証が必要な場合は、要求仕様、測位状態、座標系、補正方法、検証手順を確認します。位置情報は、複数回の点検結果を同じ場所へ正しく結び付けるための基盤として活用します。
まとめ
電線共同溝の迷走電流腐食は、金属部品の材質だけで決まる問題ではありません。接地線、ケーブル遮へい層、支持材、特殊部構造、周辺埋設物、地下水、防食設備などが組み合わさって電流経路が形成されます。
第一の対策は、迷走電流の発生源候補と流入・流出経路を調査することです。周辺設備を含む現況図と電気的系統図を作成し、必要に応じて時間変動も確認します。
第二の対策は、接地系統を機能別に整理することです。保護接地、機能接地、雷保護、等電位化などの目的を区別し、接地抵抗値だけで迷走電流腐食の危険性を判断しないことが重要です。
第三の対策は、不要な導通を絶縁し、電気的な管理境界を明確にすることです。絶縁部材を設けても、固定金具、排水管、支持材、接地線などで短絡されていないかを確認します。
第四の対策は、防食被覆と止水を一体で考えることです。被覆の小さな欠損へ電流が集中しないよう、端部、加工部、ボルト周辺まで連続性を確保し、漏水や結露を管理します。
第五の対策は、完成時の測定値を保存し、供用後もリスクに応じて電位、電流、接地抵抗、絶縁状態の変化を追跡することです。異常が見つかった場合は、接地極や絶縁継手を直ちに追加するのではなく、原因となる電流経路を調査してから是正します。
迷走電流腐食対策では、設計、施工、測定、維持管理の情報を同じ設備番号と位置へ結び付けることが欠かせません。接地端子、絶縁部、被覆補修部を正確に記録し、次回点検で同じ場所を再確認できる管理体制を整えることが、電線共同溝の長寿命化につながります。
現場写真、測定位置、設備番号を位置情報とともに残し、施工時から維持管理まで一貫した記録を作成する手段の一つとして、LRTK Phoneを活用できます。