電線共同溝の特殊部やマンホール状の作業空間は、地上から内部の空気状態を把握しにくく、開口部が限られるため、酸素濃度の低下や有害ガスの流入・発生を見逃すおそれがあります。見た目が乾いていて異臭がない場合でも、安全な空気環境が確保されているとは限りません。とくに長期間閉鎖されていた箇所、滞水や汚泥がある箇所、周辺の地下施設からガスが流入する可能性がある箇所、発電機などの排気が開口部付近へ回り込む箇所では、入溝前の測定と換気を作業手順の中心に置く必要があります。
有害ガス対策で重要なのは、測定器を一度差し込んで数値を確認することではありません。危険源を事前に整理し、外部から複数の高さを測定し、内部全体に新鮮な空気が行き渡るように換気し、再測定で安全を確認し、作業中も状態変化を監視する一連の流れが必要です。さらに、異常時に全員が迷わず退避できる体制と、適切な呼吸用保護具や救出用具を用いる救出計画まで整えて、実効性のある管理にします。
本記事では、電線共同溝の点検、補修、ケーブル敷設、清掃、排水、調査などに関わる実務担当者を想定し、有害ガス滞留を防ぐための換気・測定手順を5段階で解説します。個別の現場では、契約図書、道路管理者や施設管理者の要領、作業計画、適用法令、占用者との協議結果を優先し、施設構造と作業内容に合わせて手順を具体化してください。
電線共同溝で有害ガス対策が必要な理由
電線共同溝は、道路地下に電力線や通信線などを収容する施設で、管路部と、接続部や分岐部などの特殊部から構成されます。人が立ち入る特殊部は、地上のような自然換気を期待しにくく、蓋を閉じた状態が長く続くこともあります。そのため、内部の空気が地上と同じ組成であると決めつけず、入溝のたびに状態を確認する姿勢が欠かせません。国土交通省中国地方整備局の電線共同溝点検要領(案)でも、台帳による対象確認、点検方法、点検体制、現地踏査、占用者協議、安全対策、緊急連絡体制などを含む点検計画の作成が示されています。有害ガス対策も単独の確認で終わらせず、点検計画や作業計画全体に組み込む必要があります。
酸素濃度が下がる原因は一つではありません。滞水や堆積物の中で微生物が活動して酸素を消費する場合、金属の酸化や有機物の分解が進む場合、別の気体が流入して空気を置き換える場合などが考えられます。周囲に下水道、地下ピット、燃料を扱う設備、地下工事箇所などがあれば、接続部や地盤中の空隙を通じて硫化水素、可燃性ガス、二酸化炭素などが流入する可能性も検討します。また、開口後に地上で使用した内燃機関の排気が送風機の吸気口へ入り、一酸化炭素を内部へ送り込む事故要因にも注意が必要です。
酸素欠乏は、臭いだけで判断できません。一酸化炭素も感覚で存在を確かめにくく、硫化水素についても高濃度ばく露などにより嗅覚が当てにならなくなるおそれがあるため、においの有無を入溝可否の基準にしてはいけません。作業者が頭痛、吐き気、息苦しさ、めまい、判断力低下などを感じてから対応するのでは遅く、測定値、換気状態、作業条件による予防管理が基本です。
酸素欠乏症等防止規則では、空気中の酸素濃度が18パーセント未満の状態を酸素欠乏と定義しています。また、労働安全衛生法施行令別表第6には、ケーブル、ガス管その他地下に敷設される物を収容するための暗きょ、マンホール又はピットの内部が酸素欠乏危険場所として掲げられています。電線共同溝の人が立ち入る特殊部がこの構造と用途に該当する場合、その内部での作業は、測定時の濃度が正常であっても酸素欠乏危険作業として必要な措置を講じる対象になります。
硫化水素も法定の管理対象となる第二種酸素欠乏危険作業に該当するかどうかは、海水が滞留した場所、し尿、腐泥、汚水などを入れたことのある場所、厚生労働大臣が定める場所など、法令上の場所の区分に基づいて確認します。現場に滞水や汚泥があるという事実だけで種別を即断せず、施設の用途、滞留物の性状、接続先、過去の使用状況を確認することが必要です。一方、法令上の第二種に該当しない場合でも、リスクアセスメントで硫化水素その他の有害ガスが想定されるなら、測定対象へ追加しなければ安全確認として十分とはいえません。
酸素欠乏危険作業に該当する場合は、作業開始前の測定、必要な測定器具の準備、換気、作業主任者の選任、特別教育、監視、退避、避難・救出用具など、酸素欠乏症等防止規則に沿った措置が必要です。該当性は臭いの有無や一度の測定値ではなく、法令が定める場所と作業の条件から確認し、作業計画に明記します。
手順1 入溝前に危険源と管理条件を洗い出す
最初の手順は、現場へ測定器を持ち込むことではなく、危険源を洗い出して測定対象と換気方法を決めることです。台帳、完成図、過去の点検記録、補修履歴、浸水履歴、排水設備の運転記録、周辺埋設物の資料を確認し、対象となる特殊部の容積、深さ、段差、隔壁、管路接続位置、排水ピット、開口部の数を把握します。内部が一室に見えても、ケーブルラックや隔壁の裏側、低いピット、行き止まり部には空気が停滞しやすいため、測定点と送風ダクトの到達位置を事前に決めておきます。
次に、想定するガスを整理します。基本となる酸素濃度に加え、滞水や汚泥、下水系統との近接がある場合は硫化水素、内燃機関の排気が流入する可能性がある場合は一酸化炭素、燃料や可燃性物質の漏えいが疑われる場合は可燃性ガスを測定対象に含めます。工事で溶剤、樹脂、塗料、洗浄剤などを使用する場合は、安全データシートと作業方法を確認し、必要な測定項目や換気条件を追加します。測定対象を機械的に固定すると、現場固有の危険を取りこぼすため、作業内容や周辺条件が変わるたびに見直します。
作業体制も入溝前に確定します。酸素欠乏危険作業に該当する場合は、該当する技能講習を修了した者から酸素欠乏危険作業主任者を選任し、作業方法の決定、作業者への指揮、所定の測定、器具や設備の点検などを行わせます。加えて、測定担当者、開口部付近で状況を監視する担当者、交通誘導や第三者立入防止の担当者を明確にし、誰が入溝開始を判断するかを定めます。
入溝者と地上監視者の連絡手段、警報時の合図、退避経路、人員確認方法、救急要請の手順、施設管理者への連絡先も作業前打合せで共有します。複数の占用者や協力会社が同時に関わる場合は、各社が別々の判断基準で動かないよう、測定項目、管理値、警報設定、換気停止時の扱い、作業中止条件を統一します。入場時と退場時に人員を確認し、内部に誰が残っているかを地上で把握できる運用にします。
周辺環境の確認も欠かせません。交通量が多い道路では、車両排気が送風機の吸気へ入り込まない位置を選ぶ必要があります。近隣で舗装切断、溶接、発電機使用、薬品使用、地下掘削などが行われていれば、その作業が電線共同溝内の空気へ影響しないかを協議します。降雨後や河川水位が高い時期は、浸水や地下水流入によって内部条件が変化するため、通常時の記録をそのまま流用せず、当日の状態を基準に計画します。
最後に、測定器、送風機、ダクト、電源、照明、はしご、通信機器、避難・救出用具を点検します。酸素欠乏症等により転落するおそれがある条件では、要求性能墜落制止用器具等と安全に取り付けるための設備も確認します。測定器は対象ガスに対応しているか、校正や点検の期限が適切か、センサーや電池に異常がないか、吸引ポンプと採気チューブが正常かを確認します。送風機は必要な風量を確保できるかだけでなく、ダクトの長さや曲がりによる損失、電源遮断時の扱い、雨水対策まで確認します。準備段階で不備が見つかった場合は、現場で不適切な代用品を使わず、必要な機器と体制がそろうまで入溝を延期します。
手順2 蓋を開けた後は外部から多点測定する
蓋を開ける前には、交通規制、周囲の立入防止、蓋の落下や跳ね上がり防止、開口部からの墜落防止を先に実施します。蓋の隙間に顔を近づけて臭いを確認したり、開けた直後に内部をのぞき込んだりしてはいけません。蓋の開放で内部のガスが地上へ出る可能性があるため、作業員と通行者を風下側へ立たせない配置にし、必要な範囲を区画します。可燃性ガスの可能性がある場合は、火気や着火源となり得る機器を近づけず、使用する電気機器や換気機器の適合性を確認します。
最初の測定は、原則として地上から採気チューブや延長プローブを使い、身体を開口部へ乗り入れずに行います。測定のために危険空間へ先に入る行為は、本来確認すべき危険へ無防備に接近することになります。やむを得ず内部で測定する必要がある場合は、換気できない場合などに求められる空気呼吸器等の使用、監視、救出体制を含め、法令と作業計画に適合した措置を整えなければなりません。
測定位置は一か所に限定しません。開口部直下、中間の高さ、床面付近、排水ピット、隔壁の裏、管路の取付部、行き止まり部など、空気が停滞しやすい箇所を選びます。ガスの密度だけで測定順序を決めるのではなく、温度差、浸水、送風の影響、流入経路によって分布が変わることを前提に、上部・中部・下部を多点で確認します。採気チューブが長い場合は、内部の空気がセンサーへ到達するまでの時間を考慮し、表示が安定する前に次の地点へ移らないようにします。
測定器の電源を入れれば直ちに正しい値が得られるとは限りません。使用前点検を行い、清浄な空気中での表示、警報、吸引機能を確認します。採気チューブ内の残留空気や水滴は応答を遅らせるため、測定地点ごとに必要な吸引時間を確保し、結露や水の吸い込みを防ぐ部品を取扱説明に従って使用します。センサーの対象外となるガスは検知できないため、測定器の表示が正常でも、計画で想定していない危険物質まで不存在と判断してはいけません。
初期測定で警報が出た場合、数値が不安定な場合、測定範囲を超えた場合は、入溝を中止します。原因を確認せずに警報を解除したり、測定器を開口部から遠ざけて正常値に戻ったことを安全確認としたりしてはいけません。開口部周辺も必要に応じて退避させ、施設管理者や関係者へ連絡し、ガスの流入源、滞水、周辺工事、排気の回り込みなどを調査します。可燃性ガスが疑われるときは、換気機器や電気機器自体が着火源にならないよう、危険場所に適合する機器と方法を選定します。
手順3 空気の流れを設計して強制換気する
電線共同溝内の換気は、蓋を開けて待つだけでは不十分な場合があります。開口部が一つしかない、内部が深い、隔壁やケーブルラックで流れが遮られる、排水ピットがあるといった条件では、開口部付近だけ空気が入れ替わり、奥や低部に古い空気が残ることがあります。そこで送風機とダクトを用い、どこから清浄な空気を取り込み、どこへ送り、どこから排出するかを設計します。
送気方式では、吸気口を車両排気、発電機排気、粉じん、薬品蒸気などから離れた清浄な場所に置きます。送風ダクトの先端は、換気したい最深部や停滞部まで届かせ、開口部のすぐ下だけに風を当てないようにします。排気方式では、吸引ダクトの先端を排出対象の空気が滞留すると想定される箇所へ近づけ、排気口の周辺を立入禁止にします。送気と排気を併用する場合は、吸気口と排気口を離し、排出した空気を再び吸い込む短絡を防ぎます。
換気時間は、何分回せばよいと一律に決めるのではなく、内部容積、送風機の実風量、ダクト損失、内部形状、想定ガス、初期濃度を踏まえて設定します。機器の表示風量は、長いダクトや曲がり、断面のつぶれによって低下します。計算上必要な空気量を送ったとしても、死角部に空気が届かなければ安全とはいえないため、最終判断は複数地点の再測定で行います。濃度の改善が止まる、場所によって数値差が残る、換気停止で急に悪化するといった場合は、発生や流入が継続している可能性を検討します。
換気に純酸素を使ってはいけません。酸素濃度を上げれば安全になるという考えは危険で、酸素富化により燃焼が激しくなり、火災危険を高めるおそれがあります。酸素欠乏危険作業では、原則として酸素濃度を18パーセント以上に保つよう換気し、第二種酸素欠乏危険作業では、これに加えて硫化水素濃度を10ppm以下に保つ必要があります。ただし、これらは法令上の境界であり、測定器の誤差や退避時間も考慮し、現場の警報値や作業中止基準は境界値に達する前に行動できるよう設定します。
換気装置の配置では、騒音や振動、ダクトのつまずき、電源ケーブルの損傷、雨水による漏電にも配慮します。開口部周辺にダクトやケーブルが集中すると、緊急退避の妨げになります。はしごや昇降設備、救出経路を塞がず、作業者が速やかに退出できる配置とします。道路上では送風機が車両に接触されないよう防護し、燃料式の動力源を使用する場合は、排気が吸気へ混入しない位置、距離、風向を確保します。
強制換気を始めた後も、内部へすぐ入ってはいけません。必要な換気を行い、上部・中部・下部と死角部を再測定し、すべての対象項目が作業計画で定めた入溝基準を満たしていることを確認します。測定値の一つだけが基準内でも、別の地点で異常があれば入溝できません。換気設備が故障した場合は原則として直ちに退避する運用とし、予備機や予備電源を用意する場合も、切替えの間に作業を継続してよいと決めつけないことが重要です。
手順4 換気後に再測定し作業中も状態を監視する
換気後の再測定は、入溝開始を判断するための重要な確認です。初期測定と同じ位置、同じ高さ、同じ採気時間で測ることで、換気前後の変化を比較しやすくなります。測定日時、測定方法、測定位置、測定条件、各ガスの数値、測定者、測定結果に基づいて講じた措置を記録します。法令上の酸素欠乏危険作業に係る作業場では、その日の作業開始前に所定の濃度を測定し、規則で定める事項を記録して3年間保存する必要があります。
酸素欠乏危険作業主任者には、その日の作業開始前だけでなく、作業に従事する全員が作業場所を離れた後に再び作業を開始する前や、作業者の身体、換気装置などに異常があったときにも、所定の濃度を測定させる必要があります。蓋を開けたまま換気を続けていたから大丈夫と推測せず、再開条件を測定値で確認します。警報が作動した場合、停電した場合、ダクトが外れた場合、近接作業や内部工程が変化した場合も、異常や条件変更として再測定の要否を判断します。
法令上の測定時点を守ることに加え、濃度が急変するおそれがある現場では、携帯型測定器などによる作業中の連続監視を採用することが有効です。作業者が測定器を携帯する場合は、呼吸域に近く、衣服や工具で吸気部を覆わない位置に装着し、メーカーが指定する使用方法を守ります。連続監視は作業開始前などの法定測定を省略するためのものではなく、作業中の変化を早期に検知する補助です。
作業中は強制換気を継続し、送風機の運転音だけに頼らず、風量、ダクトの外れ、電源状態を監視します。内部で資材を移動したり、養生シートを張ったり、ケーブルや機材を追加したりすると、空気の流れが変わることがあります。排水作業で汚泥がかき混ぜられたとき、滞水面が下がって空洞が開いたとき、管路の栓を外したとき、近接作業が始まったときにも、ガス環境が変化する可能性があります。そのため、作業開始時の正常値だけに頼らず、工程変化を再測定や測定点見直しのきっかけとして扱います。
警報値は、法令上の境界値に達してから退避する設定ではなく、作業者が余裕を持って退出できるよう作業計画で定めます。測定器の誤差、センサー応答時間、作業位置から開口部までの距離、昇降に要する時間を考慮し、注意段階と退避段階を整理します。警報が頻繁に鳴ることを理由に設定を緩めたり、音が作業の邪魔になるという理由で警報機能を無効にしたりしてはいけません。警報が出たら、まず退避し、換気や測定器を含めて原因を確認します。
監視担当者は、入溝者の人数、作業位置、通信状態、換気状態、測定器の警報を確認できる位置で、作業状況を常時監視します。監視担当者が交通誘導や資材運搬を兼務して現場を離れると、異常の発見と通報が遅れます。酸素欠乏症等防止規則は、常時作業の状況を監視し、異常時に直ちに関係者へ通報する者を置くなど、異常を早期に把握するための措置を求めています。監視は形式的な配置ではなく、入溝者を単独にせず、異常時に即応するための実働機能として設計します。
手順5 異常時の退避・救出・記録を標準化する
最後の手順は、異常が起きたときの対応を事前に標準化することです。警報の作動、酸素濃度の低下、有害ガスの上昇、送風停止、停電、通信断、作業者の体調不良、原因不明の臭気、周辺設備からの漏えい情報などを作業中止条件として定めます。異常時は原因調査より先に全員を退避させ、人員を点呼し、開口部周辺を立入禁止にします。安全が確認できるまで、工具や測定器を回収するために戻ってはいけません。
とくに危険なのは、倒れた作業者を見た同僚が保護具なしで内部へ入り、救助者も被災する二次災害です。防じんマスクや一般的な防毒マスクは酸素を供給しないため、酸素欠乏等の場所での救出用にはなりません。酸素欠乏症等にかかった作業者を危険場所で救出する作業では、救出者に空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気マスクに該当する空気呼吸器等を使用させる必要があります。救出は、呼吸用保護具と救出用具を正しく使用できる訓練済みの者が、地上監視と連携して行う計画とします。
救出計画では、入溝口の寸法、はしごの位置、作業者の装備重量、曲がりや段差、ケーブルラックとの干渉を踏まえ、地上から救出できる方法を確認します。救出用のロープや器具があっても、取り付け点がない、開口部で引っ掛かる、地上に必要人数がいない状態では機能しません。作業前に器具と取付設備を点検し、誰が救急要請し、誰が施設管理者へ連絡し、誰が道路上の進入経路を確保するかまで決めます。救出訓練は書面確認だけで終わらせず、実際の開口部又は同等条件で動作を確認することが重要です。
退避後は、換気を続ければ自動的に作業再開できるわけではありません。ガスの発生源や流入経路を調べ、必要な遮断、排水、清掃、周辺作業の停止などを行い、複数地点の再測定で安全を確認します。警報原因が不明なまま数値だけ正常へ戻った場合も、再発のおそれがあるため、原因が整理できるまで安易に再開しない判断が必要です。測定器の故障が疑われる場合は、点検済みの別の測定器でも確認し、センサー異常をガス不存在の根拠にしないようにします。
作業後の記録には、通常時の測定値だけでなく、警報、換気停止、ダクト外れ、体調変化、周辺作業の影響、再測定、作業中止と再開の判断も残します。異常がなかった日も、測定位置と換気条件を記録しておけば、次回の濃度変化を比較できます。反対に、異常なしという記載だけでは、どこをどの方法で測定したか分からず、再現性のある安全管理になりません。記録は危険の傾向を早期に見つけ、次回の計画を改善するための基礎資料です。
測定器と換気設備の管理で見落としを減らす
適切な手順を定めても、測定器や換気設備が正常に機能しなければ安全確認は成立しません。測定器は、メーカーの指定や事業場の管理基準に基づく校正、使用前の作動確認、センサー寿命、フィルターや採気チューブの状態、電池残量を管理します。数値が表示されていることと、その数値が信頼できることは別です。清浄な空気中で表示が大きくずれる、所定の方法による作動確認で警報が機能しない、吸引ポンプの流量が不足するなどの異常があれば使用を中止します。
複合型の測定器を使用する場合も、すべてのガスに万能ではありません。センサーの交差感度、温湿度、結露、薬品蒸気などが測定へ影響する可能性があるため、取扱説明に基づいて使用環境を確認します。採気チューブの材質や長さによっては、対象物質の応答が遅れたり、測定値へ影響したりすることがあります。電線共同溝内で使用する材料や洗浄剤が変わった場合は、既存の測定器で対象物質を適切に測定できるかをあらためて確認します。
換気設備は、送風機本体だけでなく、ダクト接続部、曲がり、破れ、つぶれ、固定状態を点検します。風が出ている音がしても、ダクトが外れていれば必要な場所には届きません。吹き流しや風速確認などは空気の流れを確認する補助になりますが、入溝可否は対象ガスの測定結果を含めて判断します。予備機を用意する場合も、電源方式や接続部が合わなければ代替できないため、実際に切替え可能な構成にしておきます。
電源設備では、停電、漏電、過負荷、延長ケーブルの損傷を想定します。換気と照明が同じ電源系統に接続されていると、故障時に内部が暗くなり、同時に換気も止まる可能性があります。現場条件に応じて電源系統や予備電源を検討し、換気停止を直ちに把握できる方法を設けます。換気設備が停止した場合の原則は退避であり、暗所で原因を探しながら作業を続ける運用にしてはいけません。
測定器と換気設備の管理責任者を明確にし、点検日、異常内容、修理、部品交換、校正の履歴を残します。国土交通省の共同溝付帯設備点検・整備標準要領(案)では、共同溝付帯設備について計画的な点検・整備を行い、点検、故障、運転などの事項を記録して、以後の点検や更新へ活用する考え方が示されています。現場ごとの測定記録と機器の保守記録を関連付けることで、数値変化が環境によるものか、機器の状態によるものかを検討しやすくなります。
点検記録を次回の安全計画へつなげる
電線共同溝の有害ガス管理は、一回の入溝作業だけで完結させず、施設ごとの履歴として蓄積することが重要です。特殊部ごとに識別番号を統一し、位置、深さ、容積、開口部、排水ピット、滞水の有無、過去の濃度、換気方法、必要換気時間、警報履歴をひも付けます。同じ路線でも、地形、地下水、周辺施設、構造によって空気環境は異なるため、路線全体を一つの傾向で扱わず、箇所単位で管理します。
測定位置は、文章だけでなく平面上の位置と高さが分かるように記録します。内部を測定という記載だけでは、次回担当者が同じ条件を再現できません。開口部直下、床面中央、排水ピット、管路取付部、隔壁裏などの測定点を定義し、採気チューブの挿入深さも残します。換気についても、送風機の種類だけでなく、吸気位置、ダクト先端位置、排気方向、運転時間、作業中の連続運転状況を記録します。
写真や位置情報は、記録の取り違え防止に役立ちます。ただし、撮影のために測定前の開口部へ近づいたり、換気ダクトを外したりしてはいけません。安全確保後に、開口部の区画、送風機、吸気口、ダクト配置、測定点などを記録し、作業日報と対応させます。国土交通省中国地方整備局の電線共同溝点検要領(案)でも、文字・数値情報とともに図面や写真情報を点検結果データとして管理する考え方が示されています。
記録を分析すると、特定の季節や降雨後に酸素濃度が下がる、排水ピット付近で硫化水素が検出される、特定方向の風で排気が吸気へ回り込む、一定時間の換気では奥部の改善が遅いといった傾向が見えることがあります。その結果を次回の測定点追加、ダクト延長、作業時期変更、排水や清掃の実施、周辺設備との協議へ反映します。測定値に異常がなかった記録も、条件をそろえて蓄積すれば比較の基準となり、変化を見つけやすくなります。
位置記録を効率化する方法として、LRTK Phoneを使い、地上の開口部や規制範囲、送風機の設置位置、清浄空気を取り込む吸気位置などを座標付きで整理する運用も考えられます。衛星測位を利用するため、地下内部や建物・構造物で上空が遮られる場所では測位できない、又は精度が安定しない場合があります。測位状態を確認し、衛星測位条件を確保できる地上部の記録に用いることが前提です。
LRTK Phoneは位置や現場記録を補助するものであり、ガス濃度測定、換気性能の確認、入溝開始の判断、法令上必要な安全措置を代替するものではありません。ガス測定器の数値と作業主任者を含む現場管理者の判断を中心に据え、その記録を正しい地上位置や施設識別番号へひも付ける用途で活用します。
まとめ
電線共同溝内の有害ガス滞留を防ぐには、入溝直前の一回測定だけでは足りません。手順1で危険源、施設形状、測定対象、作業体制を整理し、手順2で身体を入れずに上部・中部・下部や死角を多点測定します。手順3では清浄な空気を用い、吸気と排気の短絡を避けて内部全体を強制換気します。手順4で換気後の再測定と作業中の状態監視を行い、全員退出後の再開時や設備異常時には所定の測定をやり直します。手順5では、警報時の即時退避、二次災害を防ぐ救出体制、再開判断、記録までを標準化します。
安全管理で避けたいのは、過去に問題がなかったことを理由に今回も安全だと判断することです。電線共同溝の空気環境は、降雨、滞水、腐食、周辺工事、排気、管路の開閉、内部作業によって変化します。測定値が基準内であっても、換気が停止すれば状況は変わり得ます。法令上の場所区分と作業条件を確認したうえで、現場ごと、作業日ごと、工程ごとに測定と換気を行い、異常時は迷わず退避する運用を徹底してください。
測定位置、換気条件、写真、特殊部の識別情報を同じ記録へまとめると、次回作業の計画精度が高まり、危険傾向を共有しやすくなります。電線共同溝の維持管理を効率化しながら安全記録の再現性を高めるには、ガス測定器と換気設備を中心とした安全手順を守ったうえで、衛星測位条件を確保できる地上部の位置情報をLRTK Phoneで整理する方法が有効です。