電線共同溝では、電力線や通信線などのケーブルが管路、壁、床、隔壁を貫通する箇所に、防火封止が必要となる場合があります。防火封止材は、単に開口を見えなくするための材料ではありません。設計図書、法令、認定・評定、施設基準などで求められる構成に従い、火炎や熱などが貫通部を通じて隣接する区画へ広がることを抑えるために用いられます。煙の通過を抑える性能は、採用する構成や要求条件によって扱いが異なるため、材料名だけで一律に判断することはできません。 しかし、電線共同溝の貫通部は形状が複雑になりやすく、施工後に目視しにくい場所も少なくありません。ケーブル同士の狭い間隔、管路の奥側、壁面との接触部分、既設材料との取り合いなどに小さな隙間が残ると、表面上は仕上がっているように見えても、内部に未充填部分が存在する可能性があります。 隙間を防ぐためには、封止材を多く充填するだけでは不十分です。設計条件の確認、開口部の調査、下地処理、指定された構成に沿った施工、完成確認という一連の手順を、順序立てて実施する必要があります。本記事では、電線共同溝の施工や維持管理に携わる実務担当者に向けて、防火封止材に隙間を残さないための5つの施工手順を解説します。
電線共同溝の防火封止で隙間が問題になる理由
電線共同溝には、管路、特殊部、分岐部、引込部、換気設備周辺など、ケーブルや配管が構造物を貫通する箇所があります。すべての貫通部に同一の防火処置が必要とは限りませんが、設計図書や特記仕様書で防火区画、延焼防止などが求められている箇所では、指定された構成に従って防火封止を行う必要があります。建築基準法上の防火区画に該当する貫通部では、告示仕様や国土交通大臣認定などの適用条件が関係する場合がありますが、電線共同溝のすべての貫通部へ一律に同じ法的取扱いが適用されるわけではありません。対象施設、構造物の用途、区画の位置、発注仕様を個別に確認します。国土交通省は、区画貫通を構造方法等の認定対象として整理しています。([国土交通省][1]) 防火封止の性能は、材料単体だけで決まるものではありません。開口部の寸法、床または壁の種類と厚さ、貫通物の種類、ケーブルの本数や配置、充填厚さ、支持材、下地材、固定方法、施工面の数などを含む構成全体によって成立します。そのため、材料の名称や外観だけを見て、別の貫通部でも同じように施工すればよいと判断するのは適切ではありません。認定工法や指定工法を採用する場合は、適用範囲と施工仕様から外れないことが重要です。国土交通省は、認定仕様と異なる防火区画貫通部の施工が建築基準法違反となった事例を公表しています。([国土交通省][2]) 貫通部に隙間が残る原因には、施工者の充填不足だけでなく、準備段階の確認不足も含まれます。たとえば、開口寸法を確認しないまま材料を準備すると、必要量が不足することがあります。既設ケーブルの裏側を確認しないまま表面だけを仕上げると、奥に空洞が残る可能性があります。また、粉じんや水分が残った下地へ施工すると、材料が十分に密着せず、硬化後に境界部分が離れることも考えられます。 電線共同溝は、地下に設置されることが多く、湿気、結露、漏水、温度変化などの影響も受けます。施工時に問題がなくても、周辺環境やケーブルの動きによって、後から亀裂や剥離が発生する可能性があります。したがって、完成時の外観だけではなく、施工条件と材料の適合性を確認し、維持管理しやすい記録を残すことが重要です。 防火封止の目的は、隙間を見えなくすることではありません。設計や適用工法で定められた範囲に、指定された材料と補助材を、必要な厚さ、配置、密着状態で設置することです。この基本を現場関係者で共有してから施工に入ることが、品質確保の第一歩となります。
手順1 設計図書と施工条件を確認する
最初の手順は、施工対象となる貫通部の要求条件を設計図書から確認することです。施工前に確認すべき資料には、設計図、構造図、設備図、配線図、施工要領書、特記仕様書、材料に関する技術資料、発注者や施設管理者が定める基準などがあります。認定工法や評定工法が指定されている場合は、認定番号や適用範囲、認定書別添、施工要領など、現場で必要となる最新資料を確認します。 確認の中心となるのは、どの貫通部に防火封止が必要で、どのような構成が指定されているかという点です。壁貫通部と床貫通部では、材料の保持方法や施工姿勢が異なることがあります。ケーブルが束になっている場合と、単独で通っている場合でも、適用できる構成や充填すべき範囲は変わります。管路内の封止と、構造壁の貫通部周囲の封止が混同されていないかも確認が必要です。 開口寸法については、幅、高さ、奥行き、壁厚や床厚を確認します。図面上の寸法だけでなく、現地の実測値と一致しているかを確認することが大切です。既設構造物では、施工誤差、補修履歴、過去のケーブル増設などによって、図面と現況が異なる場合があります。開口が想定より大きい場合、封止材だけで埋めるのではなく、適用工法の上限寸法、支持材、下地材、開口補修を含む構成の見直しが必要になることもあります。 次に、貫通しているケーブルや配管の種類、本数、外径、配置を整理します。ケーブルの被覆材質や表面状態によっては、使用する材料との適合性を確認する必要があります。将来の増設予定がある場合は、増設対応型の構成が指定されているか、再施工の手順が定められているかも確認します。 材料については、防火性能だけでなく、対象となる壁や床、貫通物、開口寸法、施工可能な温度、下地の状態、硬化時間、必要な充填厚さ、支持材の種類、保管条件などを確認します。現場の判断で異なる種類の材料を混ぜたり、指定されていない補助材を追加したりすると、想定した構成や認定条件から外れる可能性があります。材料や構成を変更する必要が生じた場合は、施工者だけで決定せず、設計者、発注者、施設管理者、工法提供者などの関係者と確認したうえで進めます。 施工条件の確認では、周囲の水分にも注意が必要です。電線共同溝の内部に結露や漏水がある場合、下地が湿潤したままでは施工できない材料もあります。施工前に水の流入原因を把握し、必要に応じて止水、排水、乾燥を行います。施工直後に雨水や地下水が接触する可能性がある場合は、材料の仕様に適合する養生方法も決めておかなければなりません。 また、作業空間、照明、換気、足場、感電防止、ケーブル損傷防止などの安全条件も整理します。狭い特殊部の中で無理な姿勢のまま施工すると、奥側の確認や指定位置への材料配置が不十分になりやすくなります。材料や工具を扱える作業空間を確保し、施工者が確認対象となる範囲を見渡せるようにすることが、隙間の防止につながります。 施工前の打ち合わせでは、対象箇所ごとに施工範囲、適用工法、材料、施工厚さ、支持方法、施工面、検査方法、写真撮影の位置を共有します。完成後に確認できなくなる箇所は、どの工程で中間検査を行うかも決めます。施工条件を最初に明確にすることで、現場での思い込みや担当者ごとの仕上がり差を減らせます。
手順2 貫通部の形状と既設状態を調査する
設計条件を確認したら、実際の貫通部を詳しく調査します。防火封止材の隙間は、正面から見える場所よりも、ケーブルの裏側、開口の角部、管路の奥、壁面との接触部などに残りやすいため、複数の方向から確認することが重要です。 最初に、開口部の実測を行います。幅、高さ、奥行きだけでなく、壁厚や床厚、開口面が平らであるか、局部的な欠けや段差がないか、内部で断面が変化していないかを確認します。正面では小さく見えても、内部で広がっている開口では、見込みより多くの材料や別の下地処理が必要になる場合があります。反対に、内部に突出物があると、指定された支持材や封止材を所定の位置へ設置できないことがあります。 ケーブルの配置については、ケーブル同士の間隔、壁面との離れ、上下の重なりを確認します。ケーブルが密集している部分では、材料を表面から押し付けただけでは内部まで到達しません。束の中央、下側、背面に空間が残っていないかを、照明や点検用の器具を使って確認します。ただし、適用工法によってはケーブル相互の必要間隔、束径、占積率などに条件があるため、現況が適用範囲内かも照合します。 既設の防火封止材が残っている場合は、そのまま上塗りできるとは限りません。既設材に亀裂、剥離、浮き、変形、著しい汚れがある場合、健全部と不健全部を区別し、施工要領に基づいて撤去範囲を決める必要があります。材料の種類や工法が不明な場合、新旧材料の適合性を確認できない場合、認定条件を特定できない場合は、安易に重ねて施工しないことが大切です。 過去にケーブルが撤去された箇所では、撤去後の穴が別の材料で仮埋めされていることがあります。見た目が似ていても、防火封止として必要な性能や適用条件を満たさない材料が使用されている可能性があります。既設材の種類、施工範囲、劣化状態を確認し、必要に応じて設計図書や適用工法に沿った構成へ改修します。 開口周辺のコンクリートやモルタルに欠損がある場合は、封止材の施工前に補修の要否を検討します。大きな欠けや脆弱部へ封止材を直接施工すると、下地ごと剥離する可能性があります。下地の補修方法は、構造物の条件、適用工法、使用材料に適合する方法を選びます。 水分の調査では、表面が濡れているかだけでなく、漏水跡、白華、錆汁、泥の付着、結露の発生状況なども確認します。施工時だけ一時的に拭き取っても、継続的に水が流入していれば、硬化前の材料が変形したり、境界部分の密着性が低下したりするおそれがあります。漏水がある場合は、原因への対応と防火封止の施工を分けて考える必要があります。 調査結果は、対象箇所ごとに整理します。同じ特殊部の中でも、開口寸法やケーブル配置が異なれば、適用できる工法、必要な材料量、作業方法も変わります。すべての箇所を一律の数量や同じ作業時間で扱うのではなく、現況に応じて施工計画を調整します。 写真を撮影する場合は、近接写真だけでなく、位置を特定できる全景写真も残します。近接写真のみでは、後からどの貫通部を記録したものか分からなくなることがあります。特殊部番号、壁面の方向、開口番号など、現場で使用している管理情報と写真を対応させることが重要です。 調査段階で問題を発見した場合は、封止作業を急いで進めず、設計条件との整合を確認します。特に、図面にない開口、想定外のケーブル、適用上限を超える開口、著しく大きな空隙、漏水、下地の損傷がある場合は、施工方法を再検討する必要があります。施工前の調査を丁寧に行うことで、充填途中の手戻りを防ぎ、見えない部分の隙間を減らせます。
手順3 清掃と下地処理で充填可能な状態をつくる
防火封止材を隙間なく施工するためには、材料を設置または充填する前の清掃と下地処理が欠かせません。開口部に粉じん、砂、泥、油分、錆、剥離片などが残っていると、封止材が下地へ十分に密着しない可能性があります。ただし、必要な清掃程度や下地処理は工法ごとに異なるため、施工要領に従います。 最初に、施工の妨げになる異物を除去します。開口内部は正面から見える範囲だけでなく、角部や奥側まで清掃します。ケーブルの下側には粉じんがたまりやすいため、見落とさないように確認します。清掃時にケーブルへ過度な力を加えたり、被覆を傷つけたりしないよう注意が必要です。 既設材を撤去する場合は、再使用が認められる健全部まで不用意に傷つけないようにします。一方で、浮いている部分や密着していない部分を残すと、新しい材料を施工しても、その下に空洞が残ります。撤去範囲は適用する補修要領や関係者との協議で決め、必要な下地が確認できる状態まで処理します。 清掃後は、下地の乾燥状態を確認します。水分への対応は材料ごとに異なるため、表面が多少湿っていても施工できると自己判断するのではなく、使用する材料と工法の施工条件に従います。水滴が継続して流れてくる場合は、封止作業より先に止水や排水の方法を検討します。 開口が大きい場合や、柔らかい封止材を使用する場合には、材料を所定の位置に保持するための支持材や下地材が必要になることがあります。ただし、支持材の材質、密度、厚さ、挿入深さ、圧縮状態などが工法の構成条件に含まれる場合があるため、現場で任意の材料へ置き換えてはいけません。支持材が奥へ押し込まれすぎると必要な充填厚さを確保できず、手前すぎると指定位置から外れる可能性があります。 支持材を設置する際は、施工要領で求められる位置、密度、詰め方になっているかを確認します。角部やケーブルとの取り合いに隙間があると、封止材を充填したときに材料が奥へ流れたり、支持材の裏側に空洞が形成されたりすることがあります。支持材を小片で継ぎ足せるかどうかも工法ごとに異なるため、自己判断で継ぎ目を増やさないようにします。 ケーブルが束になっている場合は、適用工法で求められる間隔や配置を確認し、施工可能な範囲で整えます。ただし、ケーブルを無理に曲げたり、許容される曲げ半径を下回るような移動を行ったりしてはいけません。既設ケーブルの支持状態を確認し、安全に動かせない場合や適用条件を満たせない場合は、その状態に対応できる別の施工方法を関係者と検討します。 ケーブル表面に付着物がある場合は、被覆を傷めない方法で除去します。油分や汚れが残っていると、材料とケーブルの境界に微細な隙間が生じる原因になります。ただし、清掃用の薬剤によってケーブル被覆や封止材へ悪影響を与える可能性もあるため、使用可能な清掃方法を確認してから作業します。 施工範囲の周囲には、必要に応じて養生を行います。養生の目的は、見た目を整えることだけではありません。封止材が不要な箇所へ付着することを防ぎ、所定の範囲と厚さを確認しやすくする効果があります。ただし、養生材の撤去時期や施工面の扱いは材料の施工条件に合わせます。 施工前には、開口全周、ケーブル間、奥側の支持状態をもう一度確認します。ここで空間の形状を把握できていないと、どの方向からどの材料を設置するべきか判断できません。施工者が見えない場所を想像だけで埋めるのではなく、照明を当てて奥行きと境界を確認し、施工要領の断面構成と照合してから次工程へ進みます。 下地処理が完了した時点で写真を残しておくと、完成後には見えなくなる支持材の位置や清掃状態を説明できます。中間工程の記録は、防火封止材の表面写真だけでは判断できない施工品質を補う重要な資料となります。
手順4 認定・仕様に従って奥側の空洞を確認しながら施工する
準備が整ったら、防火封止材や指定された構成材を所定の位置へ施工します。内部に空洞を残さないため、奥側やケーブル背面を確認しながら施工することは重要ですが、すべての工法で「奥側から手前へ連続充填する」ことが正しいとは限りません。ボード、ブロック、支持材、充填材、シール材などの施工順序や施工面は工法ごとに異なるため、認定書別添、施工要領書、設計図書などで指定された順序を優先します。 施工を始める前に、材料の状態を確認します。使用期限、保管温度、容器や包装の損傷、分離、硬化、異物混入などがないかを確認し、使用条件に適合しない材料は使用しません。混合が必要な材料では、定められた方法と比率を守ります。目分量による配合や、作業性を変えるための安易な希釈は避けます。 充填材を用いる工法で開口の奥行きが深い場合は、一度に表面まで埋めようとせず、施工要領で定められた厚さ、支持位置、施工回数に従って施工します。材料を押し込むときは、下地やケーブルの曲面へ接触させ、空気を閉じ込めないようにします。ただし、過度に突き固めるとケーブル被覆、支持材、既設構造を傷めることがあるため、指定された工具と方法を使用します。 角部は空洞が残りやすい場所です。四角い開口では、平面部分よりも角の奥へ材料が届きにくくなります。充填材を使う構成では、施工要領に反しない範囲で角部や周囲の境界を先に確認し、その後に中央部を施工すると、隙間を把握しやすくなります。 ケーブル周囲では、適用工法で求められる範囲に材料を連続させます。ケーブルの上側だけでなく、下側と背面まで施工できているかを確認します。複数のケーブルが接している部分では、外側から材料を塗り重ねるだけでは、中央の空間が埋まらないことがあります。使用する構成でケーブル間への充填が求められている場合は、隙間の大きさに適した工具を使用し、指定位置まで材料を送り込みます。ケーブル相互の離隔が必要な工法では、充填だけで解決せず、配置条件を整える必要があります。 管路とケーブルの間を封止する場合は、管路の内周全体を意識します。手前側から見える上半分だけを仕上げると、下側に空間が残ることがあります。作業姿勢や照明を調整し、確認可能な範囲で全周を確認しながら施工します。管路内の封止と壁・床の区画貫通処理は、目的や構成が異なる場合があるため、両者を同じ処置として扱わないようにします。 材料の充填厚さや設置厚さは、目測だけに頼らず、施工前に定めた方法で管理します。支持材の設置位置を基準にする方法、所定の位置へ目印を設ける方法、確認用の測定具を使用する方法などがあります。施工後の表面が厚く見えても、奥側の支持材が移動していれば、必要な厚さが確保されていない可能性があります。 一層ごとに施工する材料では、層間に空気や異物を残さないようにします。前の層が硬化した後の重ね施工が認められるか、湿潤状態で連続施工する必要があるかは材料ごとに異なります。硬化前に過度な厚さを重ねると、材料が垂れたり、支持材が動いたりすることもあります。施工間隔、厚さ、仕上げ時期は施工要領に従います。 壁や床の両側から施工する構成では、片側の表面だけで完成と判断しません。反対側の施工範囲、充填厚さ、支持材の位置も確認します。一方、片側施工として認定または指定された工法に、現場判断で不要な材料を反対側へ追加することも避けます。施工要領に基づき、必要な面へ必要な処置を行います。 床面や下向きの開口では、材料が自重で移動することを考慮します。支持材が十分に固定されていないと、硬化するまでに充填厚さが変化する可能性があります。施工中だけでなく、硬化までの養生期間にも状態を確認します。 表面仕上げでは、平滑さだけを優先しないことが大切です。外観を整えるために材料を強く引き延ばすと、端部が薄くなる場合があります。下地との境界、ケーブルとの境界、角部に必要な材料が残っていることを確認しながら、指定された仕上げ寸法に整えます。 充填中に材料が想定以上に奥へ入り続ける場合は、内部に大きな空間があるか、支持材に隙間がある可能性があります。そのまま材料を追加し続けるのではなく、作業を止めて内部を確認します。見えない空間へ材料が流出している状態では、必要な位置に所定の厚さが確保されているか判断できません。 施工が完了したら、材料が所定の状態になるまで保護します。ケーブルを動かしたり、別の作業者が接触したりすると、境界部分が離れることがあります。養生期間中は、施工箇所が未完成であることを表示し、他工程との干渉を避けます。
手順5 完成状態を検査して記録を残す
防火封止材の施工が終わっても、作業は完了ではありません。硬化状態、施工範囲、表面の連続性、境界部の状態、施工厚さ、構成材の配置などを確認し、必要な記録を残して初めて完成管理ができます。 外観検査では、表面の穴、亀裂、剥離、浮き、著しい凹み、材料の流出、端部の薄れがないかを確認します。表面に小さな穴が見える場合、その奥に空洞が続いている可能性があります。穴の表面だけを薄く埋めるのではなく、原因と範囲を確認し、適用する補修要領に沿って処置します。 下地との境界は、確認できる全周を連続して見ます。特に、開口の角部、ケーブルの下側、管路の下半分、壁の奥側は見落としやすい場所です。照明の向きを変えたり、見る角度を変えたりすると、影によって隙間や浮きを発見しやすくなります。 ケーブルとの境界では、材料がケーブル外周へ必要な状態で施工されているかを確認します。ケーブルが複数ある場合は、束の外周だけでなく、施工要領で必要とされる内部の充填状態も確認します。完成後に目視できない部分がある場合は、支持材設置時や充填途中に撮影した中間記録と照合します。 施工厚さについては、設定した管理方法に基づいて確認します。完成後に測定できる箇所は、施工部を傷つけない方法で実測し、内部に隠れる箇所は支持材設置時や層ごとの施工時に記録した値を利用します。検査のために完成した封止部へ無断で針や工具を差し込むと、性能を損なうおそれがあるため、破壊を伴う確認が必要な場合は、確認後の補修方法を含めて事前に定めます。 硬化後には、端部の収縮や亀裂がないかを再確認します。施工直後は隙間がなくても、硬化過程で材料が変形する場合があります。材料の性質と現場条件に応じて、施工要領で指定された時点または関係者が定めた時点で完成検査を行います。 補修が必要な場合は、単に上から材料を塗り足すのではなく、不具合の原因を確認します。下地の汚れ、支持材の移動、充填不足、材料の硬化不良など、原因によって補修方法が異なります。不健全部を残したまま表面だけを整えると、後から同じ場所に亀裂や剥離が発生する可能性があります。認定工法や指定工法では、工法提供者が示す補修方法から外れないようにします。 写真記録は、施工前、下地処理後、支持材設置後、施工途中、完成後というように、工程が分かる形で残すと有効です。すべての現場で同じ撮影枚数が必要とは限りませんが、完成後に隠れる構成を説明できる記録を意識します。 写真には、対象箇所を識別する情報を含めます。特殊部番号、開口番号、壁面方向、撮影日、施工担当、使用材料、適用工法、施工範囲などを記録と対応させます。写真だけを大量に保存しても、どの箇所か分からなければ維持管理に活用できません。 施工記録には、材料の種類、ロットや使用期限を管理する必要がある場合の識別情報、使用数量、施工日、施工時の環境、下地状態、充填厚さ、検査結果、補修履歴などを記載します。使用数量は、材料の消費量と対象開口の規模が大きく食い違っていないかを確認する手掛かりにもなります。ただし、使用数量だけで充填状態を判断することはできないため、写真や実測記録と組み合わせます。 完成検査では、施工者による自主確認だけでなく、契約や検査体制に応じて別の担当者による確認を行うと見落としを減らせます。施工者は作業した箇所を完成したものとして見やすいため、初めて見る人の視点で確認すると、端部の隙間や記録不足に気づくことがあります。 引き渡し前には、図面上の施工対象箇所と完成記録を照合します。一つ一つの仕上がりが良好でも、対象箇所そのものが抜けていては防火封止の目的を達成できません。対象一覧、平面図、現地表示、写真記録を突き合わせ、施工漏れがないことを確認します。
防火封止材に隙間が生じやすい代表的な原因
防火封止材の隙間を減らすには、施工手順だけでなく、典型的な失敗原因を知っておくことが有効です。代表的なのは、内部状態を確認する前に表面を仕上げてしまうことです。充填材を用いる工法で見栄えを優先すると、内部の空洞を確認する前に開口が覆われ、その後の修正が難しくなります。 次に多いのが、ケーブル背面や下側の見落としです。作業者から見える正面側は十分に施工されていても、壁面との間や束の中央に隙間が残る場合があります。照明不足や狭い作業空間も見落としを増やす要因です。 支持材の設置不良も、内部空洞につながります。支持材と開口の間に隙間があると、充填した材料が奥へ逃げることがあります。支持材が施工中に動けば、所定の厚さを確保できなくなる可能性があります。支持材を設置した段階で、中間確認を行うことが重要です。 下地の粉じんや水分を十分に処理しないまま施工すると、境界部の密着不良が生じやすくなります。施工直後には付着しているように見えても、硬化後に端部が離れることがあります。特に地下構造物では、結露や漏水の影響を受けやすいため、表面を拭いただけで施工条件を満たしたと判断しないよう注意が必要です。 材料の施工条件を守らないことも原因になります。低温や高温、過度な湿潤、硬化時間不足、不適切な混合などは、材料の状態へ影響します。現場工程を優先して、硬化前に次の作業を進めると、接触や振動によって封止部が変形する場合があります。 既設材料の上へ無条件に重ねて施工する方法も避ける必要があります。既設材が下地から浮いていれば、新しい材料が密着していても、その下から一体で剥がれる可能性があります。新旧材料の適合性や補修条件が不明な場合は、関係者と処置方法を確認します。 また、認定・仕様に含まれない材料への置換、支持材の省略、施工厚さの変更、適用範囲を超える開口やケーブル量への使用も問題になります。外観上の隙間がなくても、指定構成から外れていれば、求められる性能を確認できません。 さらに、施工対象の認識違いによる漏れにも注意が必要です。電力設備側と通信設備側で担当範囲が分かれている場合、境界にある貫通部が双方の対象外として扱われることがあります。工事区分だけで判断せず、現地の開口単位で担当と完了状態を確認することが大切です。
ケーブルの増設や撤去を見据えた維持管理
電線共同溝では、供用開始後にケーブルが増設、更新、撤去されることがあります。防火封止が要求される既設部を開放して新しいケーブルを通した場合は、作業後に設計図書や適用工法に沿って必要な性能を回復させます。 増設工事では、既設材の一部を切り取ることがあります。このとき、必要以上に広い範囲を壊すと、補修範囲が拡大し、既設部分との取り合いも複雑になります。一方、狭い穴へ無理にケーブルを通すと、既設材が内部で剥離しても表面から確認できないことがあります。開口方法、追加できるケーブルの種類や本数、補修方法が定められている場合は、その条件に従います。 再封止する際は、既設材の切断面、下地との密着、ケーブル周囲の損傷を確認します。新しい材料を穴の表面へ詰めるだけでは、内部の空間を埋められない可能性があります。初回施工と同様に、適用工法で指定された構成を再現できる状態をつくります。 ケーブルを撤去した後は、防火封止が要求される箇所に貫通した空間を残さないようにします。撤去したケーブルの外径に相当する空間が内部まで続いているため、手前だけを閉じても空洞が残ることがあります。撤去箇所の奥行きと既設封止材の状態を確認し、指定された補修構成に戻します。 維持管理では、施設の保全計画、点検基準、工事履歴に応じて防火封止部を確認対象へ含めます。すべての電線共同溝で一律の法定点検周期が定められていると考えるのではなく、施設管理者が適用する基準を確認します。確認項目には、亀裂、剥離、浮き、欠損、漏水、ケーブルの移動、増設後の再封止状態などがあります。周囲で工事が行われた箇所や、ケーブルの更新履歴がある箇所は重点的に確認します。 点検時に小さな亀裂を発見した場合でも、表面だけの問題と決めつけないことが大切です。内部空洞、下地の動き、漏水、材料の劣化などが原因になっている可能性があります。原因を確認せずに上塗りを繰り返すと、補修履歴だけが増え、内部の状態が分からなくなります。 施工記録と点検記録を同じ対象番号で管理すると、過去の状態を追跡しやすくなります。いつ施工し、どの工事で開放し、どのように再封止したかを確認できれば、点検時の判断材料が増えます。 将来の増設を予定している箇所では、設計段階から更新方法を検討しておくことも重要です。ただし、増設しやすさを優先して必要な防火性能を低下させてはいけません。増設対応の構成を採用する場合も、対象となる貫通物、開口寸法、追加可能な本数、施工方法などの条件を確認します。
デジタル記録を活用して施工品質を共有する
防火封止の品質管理では、写真を撮影するだけでなく、写真と施工位置を正確に対応させることが重要です。電線共同溝の内部には似た形状の貫通部が複数あるため、撮影後に位置が分からなくなると、記録の価値が低下します。 現場では、特殊部番号や開口番号を写し込む方法がありますが、撮影方向や壁面の違いまで記録しなければ、同じ特殊部内のどの場所か判別できないことがあります。平面図上の位置、撮影方向、対象物の名称を組み合わせて管理すると、施工記録を追跡しやすくなります。 施工前と完成後の写真は、できるだけ同じ方向から撮影します。撮影位置が大きく異なると、どの範囲を補修したのか比較しにくくなります。中間工程では、支持材の位置、ケーブル間への充填、奥側の処理など、完成後に隠れる部分を重点的に撮影します。 位置情報を付けた現場記録を活用すれば、写真、点検結果、補修履歴を施工箇所と関連付けやすくなります。ただし、地下の電線共同溝内では、衛星測位を安定して利用できない場合があります。そのため、地上で取得した位置、特殊部の管理番号、構造物内の相対位置、撮影方向などを組み合わせ、現場条件に適した管理方法を選ぶ必要があります。 記録の共有では、写真ファイルだけを送付するのではなく、対象箇所、施工日、適用工法、施工内容、判定結果を同じ単位で整理します。関係者が別々の名称で同じ開口を管理すると、補修指示や完了確認に食い違いが生じます。工事開始前に管理番号の付け方を統一しておくことが有効です。 完成検査で不具合が見つかった場合は、補修前と補修後の記録を分けて残します。最終状態だけを保存すると、どのような不具合をどの範囲で直したのか確認できません。補修理由と処置内容を残すことで、同様の不具合を別の箇所で防ぐための資料にもなります。 デジタル記録は、施工者を監視するためだけのものではありません。現場で確認した事実を関係者が同じ状態で共有し、判断の根拠を残すための手段です。記録項目を増やしすぎると作業負担が大きくなるため、防火封止の品質を説明するために必要な情報を絞り、継続できる運用にすることが大切です。
まとめ
電線共同溝の防火封止材に隙間を残さないためには、充填作業だけを丁寧に行えばよいわけではありません。最初に設計図書と施工条件を確認し、現地の開口寸法、壁や床の条件、ケーブル配置、既設材、下地、水分の状態を調査する必要があります。 施工前には、粉じんや異物を除去し、必要な支持材を指定された位置へ設置します。施工時は表面の見栄えだけを先行させず、開口の奥側、角部、ケーブルの下側や背面に空洞が残っていないかを確認します。ただし、材料の種類、施工順序、施工面、充填厚さ、支持材は工法ごとに異なるため、認定書別添、施工要領書、設計図書などに定める構成を優先します。完成後は、外観だけでなく、施工厚さ、境界部の状態、中間工程の記録まで確認します。 また、防火封止部は施工時点で終わる設備ではありません。防火封止が要求される箇所でケーブルの増設、更新、撤去が行われた場合には、開放した範囲を指定された方法で再封止し、必要な性能を回復させます。施工履歴と点検履歴を同じ管理番号で残しておけば、将来の維持管理や補修判断にも活用できます。 防火封止の品質は、完成写真一枚だけでは十分に説明できません。施工前の状態、支持材の位置、内部への施工過程、完成状態を一連の記録として残し、施工箇所と結び付けて管理することが重要です。電線共同溝の位置確認、現場写真、施工記録を整理する手段の一つとして、LRTK Phoneの活用を検討する場合も、地下部では衛星測位の利用可否を事前に確認し、特殊部番号や構造物内の相対位置と組み合わせて運用してください。