LRTKレフィクシア株式会社

苔や植生に覆われた石垣をTLS計測する7つの記録手順

歴史的な石垣を三次元で記録する方法として、TLSによる点群計測が活用されています。離れた位置から石垣の形状を面的に取得できるため、立面図や断面図の作成、石材の変位確認、孕み出しの把握、経年比較の基礎資料づくりなどに役立ちます。 一方、文化財の石垣には苔、地衣類、草本、つる植物、低木などが付着・繁茂していることがあります。TLSで取得されるのは、原則としてレーザーが当たって戻ってきた可視表面です。苔や葉の下にある石材面が自動的に記録されるわけではありません。植生表面の点を石材表面として扱うと、石の輪郭、目地、凹凸、勾配、変位量などを誤って評価するおそれがあります。 ただし、計測のために苔や植生を安易に除去することも適切ではありません。文化財としての価値、石材への影響、生態的な価値、管理方針などを踏まえ、現状を保ったまま記録するのか、管理者の判断に基づいて限定的な処置を行うのかを事前に決める必要があります。 この記事では、「TLS 文化財 計測」で情報を探している実務担当者に向けて、苔や植生に覆われた石垣を安全かつ再利用しやすい形で記録するための7つの手順を解説します。単に点群を取得するだけでなく、植生の状態、計測条件、欠測範囲、座標の根拠を残し、将来の比較に耐えられる記録を整えることが重要です。

苔や植生のある石垣をTLS計測する際の基本的な考え方

TLSは、地上に設置したレーザースキャナから対象物へレーザーを照射し、距離と方向をもとに三次元座標を取得する計測方法です。石垣を広い範囲にわたって面的に記録できるため、個々の石材だけでなく、壁面全体の傾斜や曲面形状、石列の連続性なども確認しやすくなります。 しかし、レーザーが捉えるのは石材そのものとは限りません。石の表面に厚い苔が付着していれば苔の表面が点群になり、葉や茎が手前にあれば植生の表面が先に記録されます。枝葉の隙間から石材面の一部を取得できる場合もありますが、常に石面まで計測できるとは限りません。 そのため、苔や植生に覆われた石垣のTLS計測では、「石垣の真の形状を完全に取得した」と考えるのではなく、「計測時点にレーザーから見えていた表面を記録した」と捉えることが基本です。石材面、苔の表面、葉、枝、目地内の土、落ち葉などが混在した点群であることを前提に、後工程で分類や確認を行います。 また、文化財計測では、対象物を動かさず、傷つけず、必要以上に触れないことが重要です。石材を確認する目的で苔を剥がしたり、根を引き抜いたりすると、石材表面や目地を損傷する可能性があります。植生への対応は計測担当者だけで決めず、所有者、管理者、文化財担当者、保存修理の専門家などと協議したうえで実施する必要があります。 計測精度についても慎重な扱いが求められます。機器の仕様上の測距性能だけで成果の精度が決まるわけではありません。対象までの距離、レーザーの入射角、表面の湿潤状態、植生の動き、点密度、器械設置の安定性、複数点群の位置合わせなどが結果に影響します。文化財石垣の記録では、点群そのものに加えて、どのような条件で取得したかを残すことが欠かせません。

記録手順1 計測目的と記録対象を明確にする

最初の手順は、TLS計測によって何を確認したいのかを明確にすることです。目的が曖昧なまま現地へ入ると、必要な点密度、計測範囲、基準点の配置、写真の撮影方法などを適切に決められません。 たとえば、石垣全体の形状を保存記録として残す場合と、局所的な孕み出しを経年監視する場合では、求められる計測計画が異なります。全体記録では、天端、隅角部、基部、周辺地形を含む連続した点群が重要です。一方、変位監視では、同じ基準に基づいて再計測できる座標管理や、比較対象となる石材面を安定して抽出できる点密度が重要になります。 石材ごとの輪郭を図化するのであれば、目地や石端部を判読できる必要があります。ただし、目地が苔や草に覆われていると、点群だけでは境界を確定できない場合があります。その場合は、見えている輪郭と推定した輪郭を区別して扱える成果構成を考えます。点群上で判別できない部分を、周囲の形状から断定的に補うことは避けるべきです。 計測範囲は、対象となる石垣面だけでなく、形状評価に必要な周辺も含めて設定します。石垣の変形を確認するには、基部の地盤、天端付近、隅角部、接続する石垣、排水施設、樹木の位置などが参考になることがあります。狭い範囲だけを切り取ると、局所的な突出なのか、壁面全体の曲がりなのかを判断しにくくなります。 同時に、文化財としての取扱条件を確認します。立入り可能範囲、機材を置ける場所、接触してよい箇所、標識を設置できる場所、植生に触れてよい範囲、作業可能な時間帯などを整理します。石垣上部や急斜面での作業が必要になる場合は、計測精度より先に安全な作業方法を検討しなければなりません。 目的、対象範囲、必要成果、保存形式、再計測の可能性を計測計画書にまとめておくと、現地作業と後処理の判断が一貫します。特に「植生を含む現況表面を記録するのか」「判別可能な石材面を抽出するのか」「両方を別成果として残すのか」を事前に決めておくことが重要です。

記録手順2 植生の種類と被覆範囲を事前調査する

次に、TLSを設置する前に石垣表面の状態を目視で確認します。ここでの目的は植物を詳細に同定することではなく、レーザーの遮蔽や点群の判読に影響する被覆を把握することです。 苔のように石材面へ密着する被覆は、点群上では石の表面と連続して見えることがあります。薄い苔であっても、石材の微細な凹凸や風化状態を確認したい場合には影響を無視できません。厚みが不均一であれば、石材面の偏差なのか苔の厚さの違いなのかを点群だけで判断するのは困難です。 草本やつる植物は、茎や葉が石垣の手前に分布するため、石材面から離れた点として取得されやすくなります。ただし、葉が石面に密着している箇所や細い根が目地に入り込んでいる箇所では、点群形状だけによる区分が難しくなります。風で揺れる葉や茎は、計測中に位置が変わり、点が散らばったり、輪郭が不明瞭になったりする原因にもなります。 低木や樹木が近接している場合は、枝葉が広い範囲を遮蔽するだけでなく、スキャナを設置できる場所を制限します。幹や太い枝の位置を先に把握し、どの方向から石垣面が見えるかを確認します。根元付近では石垣の変形と根の成長が関連して見える場合もありますが、点群だけで因果関係を断定することはできません。 事前調査では、石垣面を複数の区画に分け、被覆の程度を記録すると整理しやすくなります。完全に石材が見えている範囲、苔が密着している範囲、草本が部分的に覆う範囲、枝葉で石面がほとんど見えない範囲など、計測可能性に応じた区分を設定します。区画の境界は現地写真と簡略図の両方に記録し、後で点群と照合できるようにします。 植生の除去や剪定が必要と考えられる場合でも、その場で実施してはいけません。処置の可否は、文化財の管理方針や保存上の判断に従います。許可を得て限定的な処置を行う場合は、処置前の状態を写真と点群で記録し、対象箇所、日時、方法、実施者、処置後の状態を残します。処置前後の点群を比較する際には、植生がなくなったことによる表面位置の変化を、石材の変位と混同しないよう注意が必要です。

記録手順3 座標基準と基準点を設定する

文化財石垣の点群を将来の比較や他の図面との統合に利用するには、座標の根拠を明確にする必要があります。各スキャンを見た目だけで位置合わせした点群では、全体形状を表示できても、再計測時の変位比較に十分な安定性を確保できない場合があります。 まず、現場で使用する座標系と高さの基準を決めます。既存の測量成果に接続する場合は、座標系、単位、標高または高さの定義、基準点の来歴を確認します。独自のローカル座標を採用する場合も、原点、軸方向、高さの基準、使用した点の位置を記録し、別の担当者が同じ座標を再現できる状態にします。 基準点や標定用のターゲットは、石垣本体を傷つけない位置に設置します。文化財表面への接着、釘打ち、削孔などは避け、周辺の安定した場所に自立式の標識を置くなど、管理条件に適合した方法を選びます。石垣周辺の地面が軟弱な場合や、通行・管理作業によって標識が動く可能性がある場合は、設置の安定性にも注意が必要です。 複数のスキャンを結合するための標識は、一つの設置位置から偏った方向に集めず、対象範囲を囲むように配置します。高さにも変化を持たせることで、点群の回転や傾きを拘束しやすくなります。ただし、必要な個数や配置は使用する機器、結合方法、現場条件によって異なるため、機器の取扱条件と計測計画に基づいて決めます。 石垣表面の特徴形状を利用して位置合わせする方法もありますが、苔や植生の状態は時間とともに変化します。葉や枝を共通形状として使用すると、風や成長、剪定による変化が位置合わせに影響するおそれがあります。経年比較を目的とする場合は、植生ではなく、安定して残る周辺構造や管理された基準点を優先します。 基準点の座標だけでなく、設置状況を写真で記録することも大切です。標識の向き、周辺との位置関係、計測時の障害物、標識が一時設置か継続利用可能かを残します。後処理では、各標識の残差だけを確認するのではなく、石垣全体に位置ずれが偏っていないか、重複部に段差が生じていないかも確認します。

記録手順4 遮蔽を減らすスキャナ配置を計画する

TLS計測における欠測の主な原因の一つが遮蔽です。レーザーと石材面の間に葉、枝、草、石垣自身の凹凸などがあると、その背後を直接取得できません。一方向から点密度を高めるだけでは、遮蔽の裏側を補えないため、異なる方向からの計測を組み合わせる必要があります。 スキャナ位置は、石垣に対して正面方向だけに並べるのではなく、左右の斜め方向も含めて計画します。石材が不規則に積まれた石垣では、突出した石の側面や深い目地が隣接する石に隠れます。反対側から観測することで取得できる面が増えるため、重複を持たせた配置が有効です。 石垣の隅角部は、壁面の方向が変わるため、片側の面だけを基準に設置するともう一方が欠測しやすくなります。隅角部を挟む両面から計測し、角石の正面、側面、上下の接触関係を確認できる配置を検討します。天端や基部についても、地上から見上げる方向だけでは取得できない部分が生じるため、安全に設置できる範囲で視線の高さを変えます。 石垣へ近づけば必ず良好な点群になるとは限りません。近すぎると視野が狭くなり、突出部の背後が大きく欠けることがあります。反対に、遠すぎると石材境界を判断するための点密度を確保しにくくなります。対象範囲、必要な細かさ、入射角、機器の計測条件を踏まえ、全体を捉える位置と細部を補う位置を組み合わせます。 植生が密集する箇所では、現地でスキャナ位置から石面が見えるかを目視確認します。人の目で見えない石面は、同じ方向からレーザーを照射しても十分に取得できない可能性が高いためです。ただし、細い隙間から一部のレーザーが届く場合もあるため、プレビュー表示を利用して取得状況を確認します。 配置計画には、通行者や車両、転落、落石、傾斜地での転倒といった安全上の条件も反映させます。石垣へ無理に近づいたり、機器を不安定な足場へ置いたりしてはいけません。文化財計測では対象を傷つけないことに加え、作業者と周辺利用者の安全を確保することが前提です。

記録手順5 現況を変えずに点群と写真を取得する

現地計測では、まず処置や接触を行う前の状態を記録します。落ち葉、草、枝などが石面を覆っていても、管理上の判断がない段階では現況の一部として扱います。計測しやすさだけを理由に移動させると、元の状態を再現できなくなるためです。 各スキャンでは、設置位置、器械高、計測範囲、解像度に関する設定、開始時刻、天候、路面や石材の湿潤状態、風の状況などを記録します。特に植生がある現場では、風の強さが点群品質に影響します。葉や細い茎が計測中に動くと、同じ対象から取得した点が空間内に広がり、石材面との分離が難しくなることがあります。 雨天時や降雨直後は、石材や植生の表面状態が乾燥時と異なります。水滴や濡れた表面は、反射の状態や写真の見え方に影響する可能性があります。異なる時期の点群を比較する場合は、計測時の水分状態が違うことを記録し、表面の変化をすべて形状変化とみなさないようにします。 点群と同時に現地写真を撮影する場合は、全景、区画ごとの正面、斜め方向、隅角部、天端、基部、植生が密集する箇所を押さえます。点群へ色情報が付与される場合でも、点群の着色画像だけに頼らず、判読用の写真を別に保存しておくと有効です。写真は、石材と植生の境界を後処理で確認する手掛かりになります。 写真撮影時には、どの写真が点群のどの範囲に対応するのかを管理します。ファイル名、撮影位置、撮影方向、対象区画を記録し、石垣の簡略図や現場記録と結び付けます。写真の色だけで苔や石材を自動的に区分できるとは限りませんが、形状と色の両方を確認することで誤分類を減らせます。 現地では、スキャンごとに点群のプレビューを確認します。石垣面が取得できているように見えても、拡大すると植生の手前側だけに点が存在し、石材面が欠けている場合があります。点の有無だけでなく、点がどの表面に対応しているかを意識して確認します。 複数位置からの取得が終わったら、重複範囲、基準点、石垣端部、重要箇所の取得状況を現場で確認します。帰所後に欠測へ気付いても、植生や天候の状態が変化すれば同じ条件で再計測できないことがあります。現場確認は、再訪を避けるためだけでなく、同一時点の記録を完成させるために重要です。

記録手順6 石材と植生を区分して点群を整理する

取得した点群には、石材、苔、草、葉、枝、地盤、周辺構造物、作業者、通行物などが含まれる可能性があります。後処理では、原点群を保存したうえで、用途に応じた分類データを作成します。 最初に、各スキャンの位置合わせを行い、重複部の整合を確認します。植生が動いている箇所では、異なるスキャンの点が一致しないことがあります。その不一致を点群全体の位置ずれと誤認して調整すると、安定した石材面までずれるおそれがあります。位置合わせの評価には、動かない石材面、基準点、周辺の安定した構造などを使用します。 石材と植生の分類では、色、反射に関する属性、表面の粗さ、局所的な点の分布、石材面からの距離などを手掛かりにできます。ただし、苔が石材に密着している場合、形状だけで両者を完全に分離することは困難です。湿潤状態、入射角、材質などによって属性値が変わるため、特定の値だけで一律に分類する方法も慎重に扱う必要があります。 葉や細い枝は、石材面より手前に浮いた点として識別できる場合があります。石垣の概略面を作り、そこから一定以上離れた点を候補として抽出する方法も考えられますが、突出した石材まで植生として除去しないよう注意します。不規則な石積みでは、石材本来の凹凸が大きいため、単純な距離判定だけでは誤分類が生じます。 自動分類を利用する場合も、代表的な区画を目視で確認します。石材が見えている区画、苔が密着する区画、草本が浮いている区画、枝葉が重なる区画をそれぞれ選び、分類結果の傾向を確認します。誤分類が多い範囲では、区画ごとに条件を変えるか、手作業による確認を組み合わせます。 苔を除いた石材面を推定する必要がある場合は、推定処理を施した点群を原点群と明確に区別します。周辺点から補間した面は実測面ではありません。保存記録や変位評価に利用する際には、実測点、分類後の石材候補点、補間面を別のデータとして管理します。 石材輪郭の作成でも同様です。点群と写真の両方で確認できる輪郭は比較的信頼性が高い一方、苔や植生で見えない境界は未確定です。見えていない目地を周囲の形から推定して閉じた輪郭を作る場合は、推定区間が分かる表現にします。完成した図だけを見る人が、実測範囲と推定範囲を識別できることが重要です。

記録手順7 欠測と不確かさを明示して成果を保存する

最後の手順は、取得できなかった範囲と判断に不確かさがある範囲を明示することです。点群の見た目を整えるために穴を埋めるだけでは、文化財の保存記録として必要な情報が失われてしまいます。 欠測には、植生による遮蔽、石材自身の陰、スキャナを設置できなかった範囲、立入り制限、反射状態、計測範囲外など、さまざまな原因があります。欠測箇所を一括して空白とするだけでなく、分かる範囲で原因を記録します。原因が分かれば、将来の再計測で配置を改善できる可能性があります。 苔に覆われた面は、点が存在していても石材面を取得できていない場合があります。そのため、点群の有無だけで完全性を評価してはいけません。「点群あり・石材面不明」「植生により完全欠測」「石材面を直接取得」といった考え方で区分すると、成果の利用者がデータの限界を理解しやすくなります。 成果には、統合した原点群、分類前の各スキャン、石材候補点群、植生候補点群、写真、基準点情報、現場記録、位置合わせの結果、欠測図などを含めます。後処理済みの軽量データだけを残すと、将来別の分類方法を試したい場合や、処理の妥当性を再確認したい場合に対応できません。 ファイル形式や座標情報も記録します。座標系、単位、高さの扱い、原点、軸方向、データ作成日、計測日、処理内容、使用した設定などを成果説明に含めます。特定の処理環境でしか読めない形式だけで保存せず、用途に応じて一般的に交換可能な形式も用意すると、長期的な利用につながります。 経年比較を予定している場合は、今回の点群を基準データとする条件を明記します。植生を含む表面を比較するのか、分類した石材候補点だけを比較するのかによって結果が変わります。前回は植生があり、次回は除去されている場合、その差を石材の変位として扱うことはできません。 成果図には、計測範囲、欠測範囲、推定範囲、植生被覆範囲を区別して示します。変位量や偏差を色分けする場合も、植生の影響が残る範囲を同じ尺度で評価しないようにします。数値を示すだけでなく、その数値がどの点から、どの基準面に対して求められたかを説明できる状態にしておくことが大切です。

経年比較に使える文化財石垣の記録にするポイント

文化財石垣の経年変化を確認するには、単に同じ場所を再びTLS計測するだけでは不十分です。座標基準、計測範囲、スキャナ配置、点密度、表面状態、植生条件などをできる限りそろえる必要があります。 再計測時に同じ位置へ機器を置けるよう、設置位置を座標と写真で記録します。ただし、同じ位置を再現できない場合に備え、安定した基準点から点群全体を同じ座標へ整合できるようにしておきます。器械位置の再現だけに依存すると、現場環境の変化によって比較が難しくなります。 比較対象となる範囲も固定します。石垣全体の偏差だけを見ると、位置合わせのわずかな傾きが広い範囲の差として現れることがあります。安定していると考えられる参照範囲と、変状を監視する対象範囲を分け、比較条件を記録します。ただし、参照範囲が本当に不動であるかは点群だけでは確定できないため、必要に応じて他の測量方法や現地観察と組み合わせます。 植生の季節変化にも注意が必要です。草本や落葉性の植物は、季節によって被覆範囲や高さが大きく変わります。前回と異なる季節に計測すると、植生表面の差が偏差として強く現れることがあります。可能であれば近い時期、近い気象条件で計測し、条件が異なる場合はその違いを比較記録へ明記します。 石材の変位を数値化する際は、単一点の差だけで判断しません。点群には測距のばらつきや分類誤差が含まれます。局所的な範囲の平均面、断面線、石材ごとの代表位置など、目的に適した評価単位を設定します。また、苔が厚い部分では石材面を直接比較できないことを明示します。 現地写真も同じ方向、同じ範囲で撮影すると、点群差の原因を確認しやすくなります。偏差が見つかった箇所について、石材が動いたのか、植生が成長したのか、表面が濡れていたのか、落ち葉が重なったのかを写真と照合します。TLS点群と写真、目視記録を相互に参照することで、誤った変状判定を減らせます。

TLS計測で見落としやすい注意点

苔や植生を含む石垣では、点群が密に見えることと、石材面を正確に取得できていることは同じではありません。葉の表面に十分な点があれば、画面上では連続した立面に見えます。しかし、その奥の石材面が欠測している可能性があります。 反射に関する属性も、植生判定の絶対的な基準にはできません。値は表面の材質だけでなく、距離、入射角、湿潤状態、機器の計測条件などにも影響されます。同じ苔でも日陰と日なた、乾燥時と湿潤時で異なる傾向を示す可能性があります。属性値は複数の判断材料の一つとして扱います。 点群の平滑化やノイズ除去を強く行うと、石材の細かな輪郭、表面の剥離、目地の凹みなども消える場合があります。植生の散乱点を除去する処理と、保存すべき石材形状を単純化する処理を混同しないことが大切です。処理前のデータを保存し、処理条件を記録します。 石垣の孕み出しや傾斜を評価するときは、基準面の作り方によって数値が変わります。石垣全体に一つの平面を当てる方法、上下端を結ぶ面を使う方法、過去の点群を基準とする方法では、偏差の意味が異なります。数値だけを提示せず、基準面の設定根拠を説明します。 また、TLSの点群だけで石垣の健全性や崩壊可能性を断定することはできません。点群は表面形状を把握する有力な資料ですが、石垣内部の空隙、裏込めの状態、排水状況、地盤条件、石材の内部劣化などを直接示すものではありません。異常が疑われる場合は、文化財や石垣の保存に関する専門的な調査と組み合わせて判断します。 計測担当者が現地で異常を発見した場合の連絡方法も決めておきます。石材の落下、急な変位、天端の亀裂、湧水、根による押し出しなどが見つかったときは、無理に近づいて追加計測を行わず、管理者へ状況を伝えます。記録の充実よりも人と文化財の安全を優先します。

まとめ

苔や植生に覆われた石垣のTLS計測では、レーザーが取得した点をそのまま石材表面とみなさないことが重要です。TLSが記録するのは、計測時にレーザーから見えていた表面であり、苔、葉、枝、石材、目地内の堆積物などが混在する可能性があります。 実務では、計測目的を決め、植生の被覆状況を調査し、再現可能な座標基準を設定します。そのうえで、遮蔽を減らす複数方向のスキャナ配置を計画し、現況を変える前に点群と写真を取得します。後処理では原点群を保存しながら石材と植生を慎重に区分し、欠測、推定、不確かさを成果へ明示します。 植生の除去や剪定は計測担当者の判断だけで実施せず、文化財の管理方針に従う必要があります。処置が認められた場合も、処置前後を別々に記録し、表面状態の変化と石材の変位を混同しないようにします。 こうした記録を残しておけば、将来の再計測で同じ範囲を比較しやすくなり、石垣の形状変化を検討するための基礎資料として活用できます。重要なのは、見栄えのよい点群を作ることではなく、どこまでが実測され、どこに植生の影響や欠測があるのかを第三者が理解できる成果にすることです。 広範囲をTLSで面的に記録しながら、狭い場所や補足が必要な部分を機動的に確認したい場合は、現場条件に応じてLRTK Phoneを組み合わせる方法も検討できます。座標基準、対象物までの距離、必要精度、植生による遮蔽を確認し、それぞれの計測手段の役割を明確にすることで、文化財石垣の記録をより扱いやすい形で整えられます。

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