城跡や砦跡などに残る土塁は、地表面に露出しているため、降雨、表面流、凍結融解、乾燥、植生、人や動物の通行などの影響を受けます。特に土塁頂部は、雨水が集まりやすいくぼみや踏み跡が形成されると、局所的な浸食が進む可能性があります。しかし、目視観察だけでは、表面の凹凸が以前から存在していたものなのか、調査期間中に生じた変化なのかを判断しにくいことがあります。 TLSは、地上に設置したレーザースキャナから対象物までの距離を多数計測し、土塁表面を三次元点群として記録する方法です。異なる時期に取得した点群を同じ座標上で比較すれば、土塁頂部の低下、盛り上がり、崩落、堆積などを面的に確認できます。断面測量だけでは把握しにくい局所的な浸食も、範囲と深さを組み合わせて評価できる点が特徴です。 ただし、二時期の点群を重ねて単純に差を取るだけでは、信頼できる浸食量にはなりません。器械の設置位置、座標合わせ、植生、点密度、雨による地表状態の違いなどが差分に混ざるためです。文化財の保全判断に使うには、変化と計測誤差を区別できる処理手順を整える必要があります。 本記事では、「TLS 文化財 計測」に関する情報を探している実務担当者に向けて、文化財TLS点群から土塁頂部の浸食量を算出するための7つの差分処理を解説します。
土塁頂部の浸食量をTLS点群で把握する目的
土塁は、土を盛り上げて形成された歴史的な構造物です。築造後の改修、崩壊、堆積、植生の成長などが重なっているため、現在の形状が築造当初の形状と一致するとは限りません。したがって、文化財TLS計測で求めるべきものは築造時からの総浸食量ではなく、原則として比較対象とする二時期の間に観測された形状変化です。 例えば、初回計測を基準時点、翌年の計測を比較時点とした場合、両時点の地表面の高さや位置の差を求めます。比較時点の表面が基準時点より低くなった部分は、浸食、崩落、踏圧による沈下などの可能性があります。反対に高くなった部分は、流出土砂の堆積、落葉の残留、植生の成長、動物による土の掘り返しなどが考えられます。 ここで注意したいのは、TLS点群から直接分かるのは表面形状の変化であり、その原因まで自動的に特定できるわけではないことです。点群上の低下量には、土粒子の流出だけでなく、地盤の圧密、樹木の根返り、倒木、調査用通路の踏み固めなども含まれる可能性があります。そのため、算出結果は「浸食量」と断定する前に、現地観察や写真記録と照合する必要があります。 また、浸食量には複数の表し方があります。ある地点の鉛直方向の低下を示す浸食深さ、土塁表面にほぼ直交する方向の後退量、一定範囲から失われたと推定される体積などです。土塁頂部が比較的水平であれば鉛直差分が理解しやすい一方、頂部から法面へ連続する急傾斜部では、表面に直交する方向の差分が適する場合があります。 どの量を採用するかは、保全管理の目的によって変わります。雨裂の深まりを監視する場合は局所的な最大深さが重要です。土塁頂部全体から失われた土量を把握する場合は、面積ごとの差分を積算した体積が必要です。補修候補範囲を抽出する場合は、深さだけでなく、連続する変化範囲や周辺との位置関係も確認します。
差分処理1 比較条件と浸食量の定義をそろえる
最初の差分処理は、点群を加工することではなく、比較条件と浸食量の定義をそろえることです。ここが曖昧なまま解析を始めると、数値を算出できても、その意味を説明できなくなります。 まず、比較する時期を決めます。定期的な経年変化を把握するのであれば、毎年なるべく同じ季節に計測する方法が考えられます。季節が異なると、草丈、落葉、積雪、地表水分などの違いが差分に現れやすいためです。大雨や台風後の影響を確認する場合は、災害前の基準点群と災害後の点群を比較します。この場合も、降雨直後のぬかるみや水たまりが点群取得に影響する可能性を考慮します。 次に、比較対象とする土塁頂部の範囲を定義します。頂部中央だけを対象にするのか、肩部や上部法面まで含めるのかによって、算出される体積は変わります。範囲を毎回手作業で変更すると、地形変化ではなく抽出範囲の違いが結果に混ざります。初回計測時に管理用の境界を設定し、後続計測でも同じ境界を使用することが基本です。 浸食方向の定義も必要です。水平に近い頂部では、同じ平面位置における高さの低下を鉛直差分として扱えます。一方、土塁肩部のように表面が傾斜している場所では、鉛直方向だけの比較によって変化量を過大または過小に評価することがあります。その場合は、基準時点の表面法線方向や、土塁軸線に直交する断面内の距離を利用します。 体積の符号も統一します。基準時点から比較時点にかけて表面が低下した部分を負、高くなった部分を正とする方法が一般的ですが、組織内の表記ルールに合わせることが重要です。報告書では、負の体積を浸食側、正の体積を堆積側として別々に集計すると、差し引きだけでは見えない変化を把握できます。 例えば、ある範囲で0.8立方メートル相当の低下と0.6立方メートル相当の上昇が生じていた場合、正負を相殺した純変化量は0.2立方メートルになります。しかし、実際には土砂移動が広い範囲で起きている可能性があります。浸食量だけを知りたい場合に純変化量を使うと、変化を小さく見せることがあるため、浸食側体積、堆積側体積、純変化量を区別して管理します。 計測仕様には、対象範囲、比較時期、差分方向、格子寸法、最低検出差、欠測の扱い、浸食側と堆積側の符号を記載します。この定義を最初に固定することで、担当者が変わっても同じ基準で比較しやすくなります。
差分処理2 二時期の点群を共通座標へ統合する
二時期の点群差分で最も重要なのが、共通座標への統合です。点群同士に位置ずれがあると、変化していない土塁でも広範囲に差が発生します。特に斜面では、わずかな水平方向のずれが大きな高さ差として表れることがあります。 各時期のTLS計測では、文化財本体の変化を受けにくい安定した場所に基準点や検証点を配置します。土塁表面そのものは浸食や植生の影響を受けるため、位置合わせの基準として全面的に依存するのは避けた方が安全です。周辺の安定地盤、恒久的な構造物、保全上問題のない位置に設置された測量標識などを利用し、同じ座標系へ変換します。 複数のスキャン位置から取得した点群は、まず各計測時期の中で統合します。この段階では、ターゲットや共通形状を利用して各スキャンの位置と姿勢を調整します。その後、基準点座標を使って初回計測と後続計測を共通座標へ配置します。 形状を利用した点群同士の微調整は有効ですが、変化した土塁頂部を位置合わせに含めすぎると、実際の浸食変化を打ち消す方向へ点群が移動することがあります。微調整に使用する範囲は、安定していると判断できる周辺地形や構造物に限定します。位置合わせに使用した範囲と、変化解析の対象範囲を分けて記録しておくことが重要です。 統合後は、位置合わせに使用していない検証点で残差を確認します。基準点だけでよく一致していても、対象範囲の反対側で回転ずれが生じている場合があるためです。水平方向、鉛直方向、三次元距離の残差を確認し、特定方向への偏りがないかを調べます。 点群全体を目視で重ねる確認も欠かせません。安定している石材の角、構造物の稜線、地表面の変化しにくい部分などを断面表示し、二時期の線が不自然に二重化していないかを確認します。位置合わせ誤差が想定する浸食深さと同程度であれば、その差分から微小な浸食を論じることは困難です。 例えば、数ミリメートル程度の変化を調べたい場合でも、計測距離、入射角、対象表面、器械の性能、基準点配置、統合処理などを含む総合的な不確かさがそれを上回ることがあります。求めたい変化量から逆算して計測計画を立て、差分解析で識別可能な変化の大きさを現場ごとに設定します。
差分処理3 植生や移動物を除去して地表面を抽出する
土塁頂部では、草、落葉、枯れ枝、露出した根、仮設物などが点群に含まれます。これらを地表として比較すると、草刈りや落葉の状態が浸食量として算出されるおそれがあります。そのため、差分処理の前に、地表面を表す点を抽出します。 植生除去では、周辺点との高さ関係、局所的な面の連続性、反射特性などを手掛かりに分類します。ただし、低い草や地面に密着した落葉は、点群だけで完全に識別できない場合があります。自動分類の結果をそのまま使用せず、断面表示や陰影表示で確認し、必要に応じて手作業で補正します。 土塁頂部に低木や樹木がある場合は、幹や枝だけでなく、根元周辺の処理にも注意が必要です。根の成長や露出は保全上重要な変化である一方、純粋な土砂浸食量を求める解析では別の要因になります。根を含む範囲を解析対象外とするのか、地表変化として含めるのかをあらかじめ決めます。 歩行者や作業員が写り込んだ点、計測用具、保護柵なども除去します。移動物は飛び点や帯状のノイズとして現れることがありますが、静止していた物体は通常の形状として記録されるため、現地写真や作業記録との照合が役立ちます。 レーザーの入射角が浅い場所では、点が疎になったり、表面から外れた測距値が発生したりすることがあります。孤立点を除去する処理は有効ですが、深く細い雨裂の内部点までノイズとして消してしまわないようにします。周辺から離れた点を一律に削除するのではなく、地形の連続性と想定する浸食形状を確認しながら条件を決めます。 欠測部の補間にも注意が必要です。草や遮蔽物の裏側にデータがない場合、周辺点から滑らかな面を作成すると、実際には存在する雨裂やくぼみを埋めてしまう可能性があります。狭い欠測で、周辺形状から妥当な補間ができる場合に限って使用し、広い欠測部は比較不能範囲として明示する方が安全です。 地表抽出後は、初回点群と比較点群を同じ表示条件で確認します。一方だけ過度に平滑化されていると、細かな凹凸が消え、差分結果に偏りが生じます。除去条件、補間条件、対象外とした範囲を処理記録として残すことで、後から結果を再検証できます。
差分処理4 点密度を調整して比較可能な表面を作る
TLS点群の密度は、器械からの距離、入射角、スキャン設定、遮蔽、設置位置によって変化します。二時期の点群密度が大きく異なる状態で最近傍距離を比較すると、実際の地表変化ではなく、点の配置の違いが差分として現れることがあります。 比較の前には、対象範囲の点間隔を確認します。平均点間隔だけでなく、土塁頂部、肩部、雨裂内部など、地形条件ごとの密度分布を見ることが重要です。平均密度が十分でも、浸食を検出したい場所だけ点が疎であれば、局所変化を適切に表現できません。 点密度をそろえる方法として、一定間隔の格子へ変換する方法があります。各格子内の代表高さを平均値、中央値、最低値などから選び、二時期で同じ格子位置を比較します。土塁頂部が水平に近い場合は扱いやすく、体積計算にもつなげやすい方法です。 格子寸法を小さくすると微細な形状を残せますが、空白格子が増え、局所的なノイズの影響も大きくなります。格子寸法を大きくすると安定した比較ができますが、幅の狭い雨裂や局所的な浸食が平均化されます。想定する浸食形状の幅、取得点間隔、位置合わせ精度を考慮して設定します。 表面モデルを作成して比較する方法もあります。点群から三角形の面や局所近似面を作り、二時期の表面間距離を求めます。複雑な土塁形状を扱いやすい一方、点のない範囲に不自然な面が作られることがあります。長い三角形や急な折れが発生していないかを確認し、欠測をまたぐ面は差分対象から外します。 平滑化処理を行う場合は、その目的と強さを明確にします。計測ノイズを抑えるための弱い平滑化は有効ですが、初回と比較時期で異なる条件を使うと、表面形状そのものが変わります。また、強い平滑化は雨裂の深さを浅くし、浸食体積を小さく算出する可能性があります。 実務では、原点群を保存したうえで、解析用点群を別に作成します。原点群、地表抽出後の点群、密度調整後の点群、表面モデルを区別して保存し、どのデータから結果を作成したか追跡できるようにします。文化財の継続調査では、数年後に別の条件で再解析する可能性があるため、加工前のデータを残すことが特に重要です。
差分処理5 土塁頂部の比較範囲と基準面を設定する
点群の位置合わせと地表抽出が完了したら、浸食量を算出する比較範囲を設定します。範囲の選び方は体積に直接影響するため、解析結果を見てから都合よく変更するのではなく、客観的な基準で定めます。 土塁頂部と法面の境界が明瞭な場合は、傾斜角の変化や肩部の折れ線を手掛かりにできます。ただし、浸食によって肩部が後退すると、各時期の地形から別々に境界を抽出した場合、比較面積が変わってしまいます。経年比較では、共通座標上に固定した管理境界を用意し、同一範囲を比較する方法が分かりやすくなります。 土塁が長く連続している場合は、全体を一つの範囲として扱うだけでなく、土塁軸方向に区画を分けます。排水が集中する場所、見学者が通行する場所、樹木がある場所など、環境条件ごとに集計すれば、浸食が集中する原因を検討しやすくなります。 基準面は、差分方向と体積計算の基礎になります。比較的平坦な頂部では、水平面または基準時点の格子面を使用できます。湾曲した土塁や傾斜した尾根上の土塁では、単一の水平面では形状を適切に表せません。その場合は、土塁軸線に沿った縦断基準と、それに直交する横断面を設定します。 土塁軸線は、各時期の点群から別々に求めるのではなく、基準時点に設定した軸線を後続計測でも使用します。軸線自体を毎回再計算すると、浸食による形状変化に合わせて比較断面が移動し、差分が小さく見える可能性があります。 急傾斜部を含む場合は、基準時点の表面に対する法線方向の距離を用いる方法があります。ただし、凹凸の大きな場所では法線方向が急に変わり、比較時点の対応点が一意に決まらないことがあります。局所的な雨裂では鉛直差分、肩部後退では断面内距離というように、目的別に評価方法を分けることも検討します。 比較範囲内に欠測部がある場合、その面積を体積計算の分母や積算対象に含めないようにします。初回には点があり、比較時期には点がない範囲をゼロ差分として扱うと、浸食量が過小評価されます。反対に、周辺の差分を広い欠測部へ一律に補間すると、実測していない変化まで計上することになります。 報告時には、全管理範囲の面積だけでなく、実際に二時期比較できた有効面積も示します。これにより、算出体積が土塁頂部全体を代表するのか、限られた範囲の結果なのかを判断しやすくなります。
差分処理6 符号付き差分から浸食深さと体積を算出する
比較可能な表面が整ったら、各位置の符号付き差分を求めます。鉛直差分を用いる場合、同じ平面座標における比較時点の高さから基準時点の高さを差し引きます。この定義では、比較時点の地表が低い場所は負、高い場所は正になります。 差分結果は、まず浸食深さの分布として確認します。最大低下量だけでなく、平均低下量、一定値を超える面積、連続する低下範囲などを確認します。最大値は孤立したノイズや小さな欠測の影響を受けやすいため、最大値だけで浸食の進行を判断しないことが重要です。 格子モデルを用いる場合、各格子の差分値に格子面積を掛けて体積を求め、それを対象範囲内で積算します。負の差分だけを積算すれば浸食側体積、正の差分だけを積算すれば堆積側体積になります。正負を合計すると、対象範囲の純体積変化が得られます。 ただし、すべての負の差分を浸食として積算すると、計測誤差や表面の微小な揺らぎまで体積に含まれます。そのため、後述する最低検出差を設定し、その範囲内の差分を変化なしとして扱います。例えば、差分の絶対値が判定限界以下であればゼロとして集計し、限界を超えた連続範囲だけを有意な変化候補とします。 土塁頂部では、浸食した土がすぐ近くに堆積することがあります。この場合、浸食側体積と堆積側体積が似た値になっても、土塁が安定しているとは限りません。雨裂が深くなり、その下流側に土砂が移動した可能性があるためです。差し引き後の純変化量だけでなく、浸食域と堆積域の位置関係を確認します。 土塁の肩部が外側へ崩落した場合、土塁頂部の固定範囲内では低下が記録されても、崩落土が比較範囲外に移動していることがあります。浸食量と堆積量の収支を確認したい場合は、頂部だけでなく、上部法面や法尻付近まで含めた広い集計範囲を別に設定します。 解析単位も統一します。浸食深さはミリメートルまたはセンチメートル、面積は平方メートル、体積は立方メートルなど、用途に応じた単位を使用します。小さな体積を扱う場合でも、過剰な桁数は実際の精度を意味しません。計測と解析の不確かさに見合う桁数へ丸めます。 結果には、基準日、比較日、比較面積、差分方向、格子寸法、最低検出差、浸食側体積、堆積側体積、純変化量を関連付けます。数値だけを単独で保存すると、後から条件を再現できなくなるためです。
差分処理7 誤差範囲を設定して有意な変化を判定する
TLS点群の差分には、対象物の変化だけでなく、計測と処理に伴う不確かさが含まれます。器械の測距特性、レーザーの入射角、点密度、表面の粗さ、基準点測量、点群統合、地表抽出、表面モデル化などが影響します。浸食量を評価するには、これらを踏まえて最低検出差を設定します。 最低検出差は、すべての現場で同じ値になるものではありません。対象までの距離が短く、入射角が良好で、安定した基準点を利用できる場所と、遠距離かつ植生が多い場所では条件が異なります。使用機器の仕様値だけで決めず、実際の計測条件と処理結果から評価します。 安定領域を利用する方法では、変化していないと考えられる周辺地表や構造物について二時期差分を求め、そのばらつきを確認します。差分の平均がゼロから偏っている場合は、座標統合に系統的なずれが残っている可能性があります。差分の分布が広い場合は、表面粗さ、点密度、植生除去などの影響を検討します。 検証点の残差も重要です。基準点での整合だけでなく、点群統合に使用していない検証点の差を確認することで、対象範囲全体の位置精度を評価できます。安定領域の差分と検証点残差の両方を使えば、位置合わせと表面比較の影響を分けて考えやすくなります。 最低検出差を設定した後は、差分を「有意な低下候補」「変化なしとみなす範囲」「有意な上昇候補」に区分します。ただし、有意な低下候補がすべて土砂浸食を意味するわけではありません。植生除去の差、踏圧、動物の掘削なども含まれるため、原因判定は現地確認と組み合わせます。 体積についても不確かさを考慮します。格子ごとの小さな誤差が対象範囲全体に積算されるため、算出体積を絶対的な真値として扱うことはできません。比較面積、格子寸法、差分のばらつき、空間的な相関などを踏まえ、数値に適切な幅を持たせて解釈します。 継続計測では、同じ処理条件を維持することが重要です。年度ごとに最低検出差や格子寸法が変わると、浸食の進行速度を単純に比較できなくなります。機器や計測方法を変更した場合は、旧方式と新方式を同じ時期に併用するなど、結果の連続性を確認する期間を設けると安全です。
差分結果を断面と現地写真で検証する
差分分布図や体積値が得られても、それだけで解析を完了させるべきではありません。特に文化財では、処理上の誤差と実際の変状を区別するため、断面、原点群、現地写真を照合します。 まず、低下量が大きい場所に断面を設定します。土塁軸線に直交する横断面と、浸食溝に沿った縦断面を組み合わせると、雨裂の深さ、幅、延長を確認できます。二時期の断面線が局所的に離れているのか、対象範囲全体で一定方向にずれているのかを見ることで、実変化と位置合わせ誤差を判別しやすくなります。 差分の境界がスキャン位置や点密度の境界と一致している場合は、計測条件の影響が疑われます。また、樹木や草の周辺だけで変化が集中している場合は、地表抽出の状態を再確認します。規則的な縞状の差分や、広範囲に均一な差が現れた場合も、座標統合や表面モデルの問題を検討します。 現地写真は、点群だけでは判断しにくい地表状態を補います。草刈りの有無、落葉、水たまり、踏み跡、倒木、動物の穴、仮設物などを記録します。撮影位置と方向を管理し、点群上の変化箇所と対応付けられるようにします。 有意な低下範囲が確認された場合は、現地で表面流の経路、裸地化、土粒子の流出、下流側の堆積などを観察します。土塁頂部のくぼみから肩部へ雨水が流れ、法面に雨裂が続いている場合は、一連の浸食現象として整理できます。一方、低下箇所に明瞭な踏み跡がある場合は、人の通行による沈下や土砂移動を含む可能性があります。 文化財の状態に関する最終判断は、点群差分だけで行わず、保存管理の担当者や必要な専門分野の知見と組み合わせます。TLSは変化箇所を効率よく絞り込む手段として有効ですが、材料状態や浸食原因を単独で確定するものではありません。
継続計測で浸食の進行傾向を管理する
二時期比較では、その期間に生じた差を把握できます。しかし、一度の比較だけでは、一時的な変化なのか、継続的な浸食なのかを判断しにくい場合があります。複数時期のTLS点群を蓄積すると、土塁頂部の変化速度や発生時期を検討できます。 継続計測では、基準点、スキャン位置、対象範囲、点密度、季節、地表処理などをできるだけ統一します。同じ位置から照射できない場合でも、対象面への入射条件や遮蔽範囲が大きく変わらないように計画します。毎回の現場条件を記録しておけば、差分の変化が地形によるものか計測条件によるものかを判断しやすくなります。 管理区画ごとに、浸食側体積、最大低下量、有意な低下面積などを時系列で整理します。ある年度だけ値が急増した場合は、その間の大雨、見学者動線の変更、植生管理、倒木などとの関係を確認します。 年間変化量を算出する場合は、単純に体積を経過年数で割るだけでなく、計測間隔中の出来事を確認します。浸食は一定速度で進むとは限らず、短時間の豪雨によって大きく進行することがあります。また、流出土砂が一時的にくぼみを埋め、次の降雨で再び移動する場合もあります。 補修や立入管理を実施した場所では、対策前後の点群を比較します。ただし、盛土や表面整形を行った直後の形状変化と、その後の浸食を区別するため、施工完了時点を新しい基準時点として記録します。対策の効果を評価する場合も、同じ差分処理と判定基準を適用することが重要です。 データ管理では、各点群に計測日時、座標系、使用基準点、器械設置位置、気象条件、地表状態、処理履歴を関連付けます。ファイル名だけに情報を持たせるのではなく、計測台帳として整理すると、長期的な文化財管理に活用しやすくなります。
文化財TLS計測を効率化する現場運用
文化財TLS計測では、高密度な記録だけでなく、現場での確認と取りこぼし防止が重要です。帰所後に欠測や基準点不足が判明すると、同じ地表状態で再計測できない場合があります。 計測前には、土塁頂部の形状、植生、立入可能範囲、見学者動線、機材設置場所を確認します。文化財への接触や地表の攪乱を避け、管理者との協議内容に従って作業します。基準点や標識を設置する場合も、文化財を傷つけない方法を選びます。 スキャン位置は、頂部だけでなく肩部や雨裂内部へレーザーが届くように配置します。一方向からの計測では、草や地形の起伏によって死角が生じます。複数方向から取得し、現場で点群の被覆状態を確認することで、差分解析に必要な範囲の欠測を減らせます。 TLSによる面的な高密度計測に加え、注目箇所の補助記録を組み合わせる方法もあります。小規模な変化箇所、基準点、現地写真の撮影位置などをその場で座標化できれば、点群解析と現地記録を対応付けやすくなります。 LRTK Phoneを活用すると、対応する利用環境や測位条件の下で、現地の位置記録、変状箇所の確認、写真と座標の関連付けなどを進めやすくなります。TLS点群で土塁全体を記録し、LRTK Phoneで浸食候補箇所や再確認位置を現場管理することで、広範囲の三次元計測と機動的な現地確認を組み合わせられます。 ただし、TLSと補助的な位置計測では、取得方法や想定精度が異なります。同じ座標系と高さの基準を使用しているかを確認し、補助記録の座標をそのまま微細な差分量の算出に使用しないことが重要です。それぞれの計測手段の役割を分け、TLSは面的な形状比較、LRTK Phoneは現場位置の記録や再確認の支援として運用すると、文化財計測の流れを整理しやすくなります。
まとめ
文化財TLS点群から土塁頂部の浸食量を算出するには、二時期の点群を重ねるだけでは不十分です。比較条件と浸食量の定義をそろえ、共通座標への統合、植生除去、点密度調整、比較範囲の固定、符号付き差分の積算、誤差を踏まえた判定までを一貫して行う必要があります。 点群差分で捉えられるのは、原則として二時期の表面形状変化です。低下部分には土砂浸食だけでなく、踏圧、沈下、根返り、地表状態の違いなどが含まれる可能性があります。そのため、浸食側体積や最大深さを単独で断定的に扱わず、断面、現地写真、降雨状況、植生、利用状況と照合することが大切です。 また、浸食側と堆積側を相殺した純変化量だけを見ると、土塁上で起きている土砂移動を見落とすことがあります。浸食体積、堆積体積、変化面積、位置関係を分けて整理すれば、雨裂の発達や肩部の後退などを把握しやすくなります。 継続計測では、座標基準、計測季節、比較範囲、格子寸法、最低検出差を可能な限り統一します。同じ条件で点群を蓄積することにより、単発の凹凸ではなく、浸食の進行傾向や対策後の変化を検討できます。 TLSによる面的な文化財計測と、LRTK Phoneによる現地位置の記録や再確認を適切に組み合わせれば、解析室で抽出した変化候補を現場へ戻し、状態確認や次回計測へつなげやすくなります。土塁の形状を損なわずに継続的な記録を整えたい場合は、LRTK Phoneを活用した現場運用も検討してみてください。