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文化財TLS点群から石碑銘文の摩耗深さを求める6つの凹凸比較

石碑の銘文は、建立年代や人物名、地名、出来事、信仰、施工者などを伝える重要な情報です。しかし、屋外に置かれた石碑では、風雨、凍結融解、塩類の析出、生物の付着、人の接触などが複合し、刻線や彫り込みが次第に不明瞭になることがあります。目視や写真だけでは、照明条件によって見え方が変わり、摩耗の進行を定量的に比較しにくい点が課題です。 TLSによる文化財計測では、石碑の表面形状を三次元点群として記録できます。点群から基準面を設定し、銘文部分の凹凸や断面を比較すれば、現時点で残っている彫り込みの深さ、縁の丸まり、表面の欠損範囲などを数値化できる可能性があります。一方、現在の点群だけから建立当初の彫り込み深さを断定することはできません。過去の記録や未摩耗部がない場合に求められるのは、基本的に現存する凹凸深さや比較対象との差です。 この記事では、「TLS 文化財 計測」に関する実務情報を探している担当者に向けて、石碑銘文の摩耗状態を評価する6つの凹凸比較と、計測計画、点群処理、誤差管理、記録方法を詳しく解説します。

石碑銘文の摩耗調査にTLS点群を使う目的

文化財として扱われる石碑の調査では、対象物への接触をできるだけ避けながら、形状を再現可能な方法で記録することが重要です。深さゲージなどを銘文へ直接当てれば局所的な値を得られる場合がありますが、石材表面の脆弱化や付着物の存在を考えると、接触の可否は保存担当者の判断を受けなければなりません。TLSは離れた位置から表面形状を取得できるため、非接触記録の選択肢になります。 TLS点群の利点は、一つの測点だけでなく、石碑の広い範囲を三次元座標として残せることです。銘文の位置、石碑全体の傾き、表面の反り、欠け、剥離が疑われる範囲などを共通の座標空間で確認できます。同じ解析条件を保存すれば、将来の再計測時にも比較しやすくなります。 ただし、TLSであればどのような銘文でも測れるわけではありません。刻線が極めて浅い場合、点間隔、測距のばらつき、照射角、石材の反射特性などの影響が、調べたい凹凸と同程度になることがあります。取得した点群に文字の輪郭が見えていても、その深さを信頼できるとは限りません。形状が色の違いとして見えているだけで、三次元座標には十分に表れていない可能性もあります。 そのため、調査の目的は最初に限定しておく必要があります。銘文の可読性を高めたいのか、現在の残存深さを測りたいのか、過去からの変化を検出したいのか、欠損位置を記録したいのかによって、必要な点密度と解析方法が変わります。TLS文化財計測では、機器を設置すること自体ではなく、目的に対して有効なデータが得られるかを計画段階で判断することが大切です。

摩耗深さを求める前に整理したい測定量

「摩耗深さ」という言葉には複数の意味が含まれます。まず区別したいのが、現在残っている刻線の深さと、建立当初から失われた深さです。現在の表面から刻線底部までの距離は、適切な基準面を設定できれば点群から求められます。一方、当初の表面位置や彫り込み形状が分からなければ、失われた量を現在の点群だけで確定することはできません。 実務では、算出する量を「基準面に対する現存凹部の深さ」「残存部と摩耗部の深さの差」「前回計測からの表面変位」などと明確に定義します。この表現であれば、点群から直接観測した値と、復元を含む推定値を区別できます。報告書でも、摩耗量と現存深さを混同しないことが重要です。 基準面の設定にも注意が必要です。石碑の正面は完全な平面とは限らず、加工時のうねり、長期的な変形、表層の剥離、粗い石目などを含んでいます。銘文を含む広い範囲へ一枚の平面を当てはめると、石碑本来の曲面や傾斜が文字の深さとして計算されることがあります。逆に、狭すぎる範囲を使うと、局所的な凹凸に基準面が引っ張られます。 深さの方向も統一します。三次元空間の鉛直方向ではなく、原則として銘文周辺の基準面に対する法線方向の距離を用います。石碑が傾いている場合、鉛直座標の差をそのまま彫り込み深さとすると、実際の凹凸とは異なる値になります。曲面状の石碑では、局所面ごとに法線方向が変わるため、領域を分割して評価する方法が適しています。 また、最大深さだけで摩耗状態を判断するのは避けます。点群中の単独の異常点が最大値になることがあるためです。代表値には、一定範囲内の分布、断面ごとの値、中央値、分位値などを組み合わせます。深さに加えて、凹部の幅、縁の勾配、断面積、深さ分布を記録すると、刻線底部の埋まりと縁の摩耗を分けて検討しやすくなります。

1.銘文周辺の基準面と刻線底部を比較する

最も基本的な凹凸比較は、文字の外側に残る石材表面を基準面とし、刻線内部の点群までの距離を求める方法です。文字を囲む健全部から局所的な基準面または近似曲面を作り、その面に対する法線方向の距離を計算します。負方向を凹部として定義すれば、刻線の深さ分布を色分けや数値で整理できます。 基準面に使用する範囲には、文字の彫り込み、欠け、亀裂、苔類などの付着物、補修部を含めないようにします。自動処理だけで完全に分離することは難しいため、現地写真や状態記録と照合しながら選択します。石材表面に粗さがある場合は、単一点ではなく一定面積の代表的な表面を使うことが重要です。 銘文の周囲が比較的平坦なら平面近似が使えますが、石碑表面に膨らみや反りがある場合は、局所曲面の近似を検討します。近似モデルを複雑にしすぎると、評価したい刻線まで基準形状として吸収されることがあります。反対に単純すぎるモデルでは、石碑全体のうねりが深さへ混入します。文字を除外した状態で近似し、残差分布が特定方向へ偏っていないか確認する必要があります。 この比較で得られる最大深さは、現在の刻線底部と推定基準面との差です。建立当初の深さそのものではありません。周囲の表面も摩耗していれば、基準面自体が当初位置から後退しています。そのため、値は「現存凹凸深さ」として扱い、当初形状との差を示す表現は避けるのが安全です。 実務では、文字全体の最大値だけでなく、縦画、横画、交点、端部などの範囲を分けて測ります。石碑の上部と下部では雨水の流れや付着物の状態が異なることがあり、同じ文字内でも摩耗の程度が均一とは限りません。領域ごとの深さ分布を残しておけば、次回調査で同じ位置を再評価しやすくなります。

2.同じ文字内の残存部と摩耗部を比較する

一つの文字の中に、輪郭が明瞭な部分と浅く不明瞭な部分が共存している場合は、残存状態の異なる区間を比較します。同じ文字内であれば、刻まれた時期、石材、文字の大きさ、加工技法が共通している可能性が高く、離れた別文字よりも比較条件をそろえやすいという利点があります。 比較では、明瞭な区間と摩耗が疑われる区間に対応する断面を設定します。例えば、同じ太さで続く一本の画について、中央部と端部、上側と下側などを比較します。基準面からの最大深さだけでなく、断面の幅、底部の形、縁の角度も確認します。摩耗が進むと、深さが小さくなるだけでなく、刻線の縁が丸くなり、境界が広がって見える場合があります。 ただし、文字は手作業で刻まれていることが多く、当初から深さが均一だったとは限りません。残存部の形状を、そのまま摩耗部の当初形状とみなすことはできません。比較結果は、同じ文字内における現在の凹凸差として整理し、失われた深さを推定する場合は仮定と不確かさを明記します。 石材の粒子脱落にも注意が必要です。刻線底部の局所的な穴や欠けは、銘文全体の摩耗ではなく、鉱物粒子の脱落や小規模な剥離による可能性があります。最大深さだけを使うと、この穴を本来の彫り込みとして評価してしまいます。断面を複数設け、周辺の連続性を確認することで、局所欠損と刻線形状を分けやすくなります。 同じ文字内の比較は、目視での読字結果と点群形状を結び付ける際にも役立ちます。写真では陰影によって明瞭に見える区間が、点群ではほとんど凹んでいないことがあります。反対に、色や付着物で見えにくい区間に凹凸が残っている場合もあります。写真と点群はどちらか一方を正解とせず、異なる情報を持つ記録として併用します。

3.同条件で刻まれた隣接文字を比較する

銘文内に形や画の方向が似た文字が複数ある場合は、隣接文字間の凹凸を比較できます。縦画同士、横画同士、同じ部首、同程度の線幅を持つ部分を対応させると、位置による摩耗差を確認しやすくなります。石碑上部と下部、中央部と端部などの環境差を検討する場合にも有効です。 比較対象は、形が似ているだけでなく、基準面の状態、石目、表面の傾斜、雨水の流路、付着物の有無を確認して選びます。隣り合う文字でも、表面の加工状態や局所的な石質が異なることがあります。また、追刻や補刻が行われていれば、建立時期や加工条件が共通ではありません。由来が不明な銘文では、形状だけから同時期の加工と断定しないことが必要です。 点群処理では、比較する文字をそれぞれ局所座標へ変換し、基準面の法線方向をそろえます。文字の位置を単純に重ねるのではなく、比較したい画の中心線、縁、交点などを対応させます。文字の大きさが異なる場合に拡大縮小すると、深さまで変わってしまうため、寸法を変換した比較と実寸での比較を分けて扱います。 隣接文字の比較では、深さの差だけでなく、深さが一定値を超える領域の面積や、刻線断面の連続性も確認します。摩耗が進んだ文字は、深い点が一部に残っていても、線としてつながらなくなることがあります。可読性を評価する場合には、最大深さよりも、凹部がどの程度連続しているかが重要になる場合があります。 この方法でも、深い文字を当初形状の基準と決めつけることはできません。刻字時の力加減や工具の入り方により、もともと深さが違っていた可能性があるためです。比較結果は、銘文内の相対的な残存状態を示す資料として位置付け、歴史的な解釈は文献調査や保存修復の知見と合わせて行います。

4.複数の断面プロファイルで凹凸を比較する

刻線を横切る断面プロファイルを作成すると、三次元点群を二次元の形状として詳しく確認できます。断面では、刻線の深さ、開口幅、底部の幅、左右の縁の傾き、周辺表面のうねりを同時に読み取れます。面全体の距離分布だけでは把握しにくい局所形状を検討する方法です。 一つの断面だけで代表させず、同じ画に沿って一定間隔で複数の断面を設定します。刻線の方向が曲がっている場合は、中心線に対してできるだけ直交する向きで断面を作ります。斜めに切ると実際より幅が広く見えるため、断面方向の統一が必要です。断面の位置、向き、抽出幅は保存し、再解析時に再現できるようにします。 点群から断面を作る際には、数学的な厚みのない線上だけでなく、一定幅の帯状範囲から点を抽出する方法があります。抽出幅が狭すぎると点が不足し、広すぎると位置の異なる形状が重なります。必要な幅は点密度や石材表面の粗さによって変わるため、複数の条件を試し、断面形状が安定する範囲を確認します。 断面比較では、刻線底部の最深点だけでなく、周辺面から凹部までの形状変化を見ます。縁が急で底が明瞭な断面、縁が丸く浅い断面、底部に付着物がある断面では、同じ最大深さでも保存状態が異なります。断面積を求めれば、線幅と深さを合わせた凹部の大きさを比較できますが、基準線の設定によって値が変わるため、算出条件を固定します。 刻線方向に沿った縦断面も有効です。横断面が文字の幅と深さを示すのに対し、縦断面では底部の連続性や局所的な埋まりを確認できます。横断面と縦断面を組み合わせることで、摩耗、欠損、付着物による充填を区別しやすくなります。ただし、点群だけで原因を確定することはせず、現地観察や材料調査の結果と合わせて判断します。

5.時期の異なる点群で表面変化を比較する

過去のTLS点群が残っている場合は、異なる時期のデータを位置合わせし、銘文表面の変化を比較できます。この方法は現在の形状差ではなく、計測期間内に生じた変位を直接検討できる点が特徴です。ただし、検出できる変化は、各時期の計測誤差と位置合わせ誤差を十分に上回る必要があります。 経年比較では、石碑全体を無条件に一致させると、実際に変化した部分まで位置合わせの基準に含まれることがあります。銘文から離れた安定部や、長期保存できる基準点を利用し、比較対象の凹凸から独立した位置合わせを行うことが大切です。石碑自体の傾きや沈下も調べる場合は、石碑表面だけでなく周辺の安定した基準との関係を記録します。 各時期で観測位置、点密度、照射角、計測範囲、座標系、気象条件をできるだけそろえます。異なる条件で取得した点群は、表面の再現性が変わるため、差分に計測条件の影響が混入します。特に湿潤状態、強い日射、表面の付着物、植生の接触などは、反射状態や点群の欠落に影響する可能性があります。 位置合わせ後は、点同士を直接一対一で比較するのではなく、局所面や近傍分布を考慮した距離評価を用います。点群は各回で同じ位置に点が発生するわけではないため、最近傍点間の距離だけでは点配置の違いを変化と誤認することがあります。比較範囲の表面粗さや点密度に応じた評価方法を選び、変化量と不確かさを同時に示します。 差分が局所的に大きい場合は、まず欠損や摩耗と結論付けず、位置合わせ残差、異常点、反射の乱れ、付着物の増減を確認します。石材片の脱落が疑われる形状変化と、底部に堆積物がたまって浅く見える変化では、保存上の意味が異なります。写真、現場記録、環境情報と照合して解釈します。 前回データがない場合でも、今回の計測条件を詳細に保存しておけば、将来の比較基準を作れます。文化財TLS計測では、一度の成果図を作るだけでなく、再計測に使える基準データを残すという視点が重要です。

6.異なる観測方向の点群を比較する

石碑の銘文は細い凹部で構成されるため、一方向からの照射だけでは刻線の側面や底部が十分に取得できないことがあります。正面、左右の斜め方向、高さを変えた位置など、複数方向から計測し、それぞれの点群を比較すると、遮蔽や入射角による欠測を見つけやすくなります。 正面観測では文字全体を均等に捉えやすい一方、深い刻線の側面形状が不足する場合があります。斜め方向からは一方の側面を取得しやすくなりますが、反対側が隠れる可能性があります。左右の方向を組み合わせることで相互に補完できます。ただし、斜め方向ほど表面上の点間隔が広がりやすく、測距のばらつきも変化することがあるため、正面データと同じ品質であるとは限りません。 各方向の点群を統合する前に、方向別のデータを確認します。ある凹部が一方向だけで深く見える場合、実際の形状ではなく、異常点や位置合わせのずれによる可能性があります。複数方向で共通して再現される形状は信頼性が高まりますが、一致したことだけで精度が保証されるわけではありません。基準物や安定面で残差を確認し、方向別の品質を評価します。 統合処理では、点数が多い観測方向だけが結果を支配しないように注意します。低品質な点を大量に混ぜると、見た目は密な点群でも表面が厚くなり、浅い凹凸が不明瞭になります。距離、照射角、反射状態、位置合わせ残差などを参考に不要点を除外し、必要に応じて方向別のデータを残したまま解析します。 観測方向の比較は、TLSの適用限界を判断するためにも使えます。どの方向から計測しても刻線底部が得られない場合は、形状が機器の取得能力に対して細かすぎる、凹部が遮蔽されている、反射条件が適していないなどの可能性があります。その場合は、無理に数値を算出せず、別の非接触計測や高解像度写真による記録を補助的に検討します。

石碑TLS計測の事前計画と現地作業

現地計測の前には、文化財の管理者や保存担当者と調査目的、立入範囲、機器設置位置、作業時間、接触禁止範囲を確認します。指定文化財や管理区域では、計測に必要な手続きや条件が定められている場合があります。機器が非接触であっても、三脚の設置、周辺の養生、付着物への対応などを作業者だけで判断しないことが重要です。 対象銘文については、文字の大きさ、刻線幅、想定深さ、石材の粗さ、表面の傾き、付着物、欠損、日照条件を事前に観察します。調べたい凹凸に対して、想定される点間隔と測距のばらつきが十分に小さいかを確認します。仕様上の代表値だけで判断せず、実際の距離と照射角に近い条件で試験計測を行うと、適用可能性を判断しやすくなります。 点間隔は対象面上で評価します。機器側の角度間隔が一定でも、対象までの距離が遠くなるほど点間隔は広がり、斜めに当たるほど一方向へ引き延ばされます。石碑全体の記録に適した設定と、銘文の浅い凹凸を調べる設定が同じとは限りません。全体計測と銘文近接計測を分ける方法もあります。 機器は安定した場所へ設置し、振動、通行、地盤の沈み込み、直射日光による機器温度の変化などに配慮します。石碑の近くに三脚を置く場合は、転倒時にも文化財へ接触しない位置とし、動線を管理します。計測中に人や道具が対象面を横切ると異常点が生じるため、周囲の作業者と計測時間を共有します。 複数方向の点群を統合するため、対象周辺に共通して観測できる標的や安定形状を確保します。標的を文化財へ直接貼り付けることは避け、設置方法は管理者の承認を受けます。標的だけに依存せず、周辺の安定部や基準点も記録しておくと、欠測や移動が起きた場合の確認に役立ちます。 現地では点群と同時に、銘文の正面写真、斜め写真、石碑全景、機器配置、周辺環境を記録します。表面の乾湿、日照、気温、風、直前の降雨、付着物の状態なども残します。将来の再計測では、点群ファイルだけでなく、当時の条件が位置合わせや差分解釈の手掛かりになります。 試験計測後は、その場で銘文部分を拡大し、点密度、欠測、表面の厚み、異常点を確認します。文字の輪郭が表示されるかだけでなく、断面を作成できるだけの点が刻線内部に入っているかを見ることが大切です。必要であれば観測位置や距離を調整し、再計測します。

点群から凹凸深さを算出する解析手順

解析では、まず元データを変更せず保管し、処理用の複製を作成します。計測日時、観測位置、設定、座標系、ファイル構成を記録し、どのデータから成果を作ったか追跡できるようにします。異常点除去や間引きを行う場合も、処理条件と順序を残します。 次に、各観測位置の点群を共通座標へ統合します。標的や基準点を用いた位置合わせでは、全体の残差だけでなく、銘文付近の局所的なずれを確認します。全体の数値が小さくても、特定方向から取得した点群だけが銘文表面から浮いていることがあります。断面表示で表面の厚みを確認すると、局所的な不一致を把握しやすくなります。 統合後は、銘文を含む解析範囲を切り出します。石碑全体の点群をそのまま細部解析へ使うと処理が重くなり、不要な点の影響も増えます。ただし、座標関係を失わないように、切り出し前の全体点群と変換情報を保存します。文字ごと、画ごと、比較領域ごとに識別情報を付けると、結果を整理しやすくなります。 ノイズ除去では、孤立点、移動物、明らかな反射異常を対象とします。浅い刻線の点をノイズと誤認して削除しないように、強すぎる平滑化や一括処理は避けます。処理前後の断面を比較し、銘文形状が変わっていないことを確認します。見栄えの良い滑らかな面を作ることより、観測された凹凸を保持することを優先します。 続いて、銘文外側の基準領域を選択します。欠損、亀裂、付着物、補修部、文字の縁を除外し、局所平面または曲面を求めます。近似後は、基準領域の残差を確認します。残差に傾斜や波状の偏りがある場合は、領域や近似方法が表面形状に合っていない可能性があります。 基準面が定まったら、銘文内の各点について法線方向距離を計算します。単一の最大値だけでなく、代表的な深さ、分布、測定範囲を記録します。文字の画ごとに領域を分け、深さの連続性を確認します。局所的な深点が孤立している場合は、欠損や異常点の可能性を検討します。 断面解析では、比較する位置を画像や座標と対応させます。断面線の始点、終点、方向、抽出幅を保存し、同じ条件で再生成できるようにします。複数断面の深さ、幅、縁の形状を比べ、ばらつきも含めて評価します。代表断面だけを選ぶ場合は、選定理由を記録します。 時期差を比較する場合は、各時期の点群を同じ基準へ位置合わせし、変化していないと考えられる範囲で再現性を評価します。安定部にも銘文と同程度の差が出ているなら、銘文の差を摩耗と判断することはできません。変化量の分布と位置合わせ残差を併記し、検出可能な変化の範囲を示します。 最後に、計算結果を現地写真と照合します。深い凹部が刻線なのか石材の穴なのか、浅い範囲が摩耗なのか付着物による埋まりなのかは、点群だけでは判断が難しい場合があります。三次元形状、写真、目視記録、過去資料を組み合わせ、観測事実と解釈を分けて報告します。

誤差と摩耗を取り違えない品質管理

銘文の摩耗深さを扱う際に最も重要なのは、求めたい変化と計測の不確かさを比較することです。点群には、測距のばらつき、角度測定の影響、表面反射、照射角、位置合わせ、基準面近似、点の抽出方法など、複数の誤差要因が含まれます。表示桁を増やしても、実際の信頼性が高まるわけではありません。 品質確認には、対象近くの安定した平坦部や形状が明瞭な部分を使います。同じ条件で複数回計測し、基準面や断面形状がどの程度再現されるかを確認する方法も有効です。再計測間の差が調べたい摩耗深さと同程度なら、数値を確定値として扱わず、検出困難または参考値として整理します。 点密度と精度も区別します。点が細かく並んでいても、一点ごとの座標が同じ程度に正確とは限りません。また、複数方向の点群を統合して点数を増やしても、位置合わせが不十分なら表面が厚くなります。点数の多さではなく、同じ面がどの程度安定して再現されているかを確認します。 石材の反射特性は一様ではありません。濡れた部分、暗い鉱物、結晶面、苔類、塩類、補修材料などが混在すると、点の欠落やばらつきが局所的に変わる可能性があります。反射に関する属性値は状態把握の手掛かりになりますが、機器設定や距離にも左右されるため、材料判定の根拠として単独で使うことは避けます。 基準面の選び方による差も評価します。選択範囲や近似方法を少し変えたときに深さが大きく変動するなら、その値は基準面への依存が大きいと判断できます。複数条件で計算し、結果の幅を確認すると、解析者の選択による影響を把握しやすくなります。 報告時には、計測値だけでなく、対象範囲、基準面、距離方向、使用点群、処理条件、除外範囲、不確かさを記載します。「摩耗深さが何ミリメートルである」と単独で示すのではなく、「設定した局所基準面に対する現存凹部の深さ」など、値の意味が分かる表現にします。建立当初の形状を推定した場合は、推定に用いた仮定と資料を明確に分けます。

調査結果を保存し次回計測へつなげる方法

TLS文化財計測の成果は、完成した図や画像だけでなく、再解析できる形で保存することが重要です。元の観測データ、統合後の点群、解析用点群、基準点情報、位置合わせ結果、断面位置、基準面の範囲、計算結果を分けて管理します。処理済みデータだけを残すと、将来別の方法で検証することが難しくなります。 ファイル名には、対象名、計測日、観測位置、処理段階などを一貫した規則で含めます。座標系、単位、軸方向、原点、使用した基準、データ形式も記録します。点群を別形式へ変換した場合は、属性や座標精度が失われていないか確認し、変換前のデータも保管します。 断面や測定領域には識別番号を付け、現地写真上の位置と対応させます。「文字の左上」などの曖昧な説明だけでは、次回に同じ場所を選べない可能性があります。石碑上の座標、文字名、画の位置、断面方向を組み合わせ、第三者が再現できる記録にします。 経年比較を予定する場合は、次回も使用できる安定した基準を確保します。ただし、文化財本体への恒久的な標識設置は、管理者や保存担当者の判断なしに行えません。周辺の基準点、石碑の安定形状、計測位置の記録などを組み合わせ、対象へ影響を与えない方法を選びます。 調査結果は、形状変化の有無だけでなく、次回確認すべき範囲へつなげます。深さの変化が疑われる箇所、付着物によって評価できなかった箇所、点が不足した箇所、位置合わせに使った範囲を明示すると、次回の計画を改善できます。現時点で結論を出せない範囲を記録することも、文化財の継続的な状態把握には重要です。

まとめ

文化財TLS点群から石碑銘文の摩耗状態を調べるには、単に文字表面の最大深さを測るだけでは不十分です。銘文周辺の基準面との比較、同じ文字内の比較、隣接文字との比較、複数断面の比較、時期差の比較、観測方向別の比較という6つの方法を組み合わせることで、現存する凹凸を多面的に評価できます。 一方、現在の点群から直接求められるのは、原則として現在の基準面に対する凹凸深さです。建立当初から失われた量を求めるには、過去の計測記録、未摩耗部、加工条件に関する資料などが必要です。観測値と復元上の推定を分け、計測の不確かさを示すことが、公開可能で再検証しやすい成果につながります。 石碑全体をTLSで記録しながら、現地で銘文位置、観測点、周辺状況を分かりやすく管理したい場合は、LRTK Phoneを活用した補助的な位置記録や現場情報の整理も検討できます。TLS点群、写真、位置情報、状態記録を目的に応じて組み合わせ、次回の再計測へ引き継げる文化財計測を進めることが大切です。

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