大型仏像を対象としたTLSによる文化財計測では、正面や胸部の点群は取得できていても、頭頂部、螺髪の間、肉髻の背面、肩の上面、耳の後ろ、光背との接続部などが欠測しやすくなります。地上に設置したTLSから見上げるだけでは、顔や胸、腕などの張り出した部分がレーザーの進路を遮り、その奥にある上部形状へ照射できないためです。 TLSは、レーザーを照射した位置までの距離と方向を計測し、対象物の表面形状を点群として記録する方法です。しかし、レーザーは障害物を透過して背後を計測できるものではありません。正面から見えない部分は、原則として別の方向や高さから観測する必要があります。そのため、大型仏像の上部欠測を減らすには、解像度を高く設定することだけではなく、対象物の立体形状を予測したうえで観測位置を組み合わせることが重要です。 また、文化財計測では、点群の完全性だけを優先して観測場所を決めることはできません。床や基壇の耐荷重、立入可能範囲、拝観動線、周辺設備、彩色面や金箔面への接触防止、足場上での安全などを考慮しなければなりません。本記事では、「TLS 文化財 計測」で情報を探している実務担当者に向けて、大型仏像の上部欠測を抑えるための6つの観測配置と、計画から品質確認までの考え方を解説します。
大型仏像のTLS計測で上部欠測が発生する理由
大型仏像の上部欠測は、主にTLSと対象面の間に見通しが確保できないことで発生します。TLSから照射されるレーザーが顔の前面に当たっても、その延長上にある頭頂部や後頭部までは届きません。胸部、腕、装身具、衣文、台座、天蓋、光背などの突出部も遮蔽物になります。人の目で正面から上部が見えているように感じても、TLSの設置高さから同じ範囲が見えているとは限りません。 特に注意したいのが、頭頂部に近づくほど入射角が浅くなることです。床上に置いたTLSから高い位置を見上げると、レーザーは対象面に対して斜めに当たります。斜め方向からの観測では点の間隔が対象面上で広がりやすく、局所的な凹凸の奥までレーザーが届きにくくなります。正面画像では形状が確認できても、点群を断面表示すると頭部上面が薄く、輪郭が途切れている場合があります。 螺髪や宝冠、髪飾りなど、細かい凹凸が連続する部分では小さな自己遮蔽も発生します。ある方向から観測したレーザーが凸部の手前側だけに当たり、谷部や反対側には届かない状態です。点群全体を遠くから見たときには密に見えても、拡大すると片側だけに点が偏っていることがあります。形状の保存記録や経年比較に利用する場合、この偏りを把握せずに表面モデルを作ると、補間によって実測していない形状が生成されるおそれがあります。 金箔、漆、暗色面、光沢のある彩色面などでは、表面状態や使用するTLSの測距方式、波長、観測距離、入射角によって点の取得状況が変化することがあります。反射の強弱だけで欠測原因を決めつけず、遮蔽、距離、角度、計測設定、周辺光、表面状態を分けて確認する必要があります。設定を変更しても改善しない範囲は、観測方向そのものを変える判断が必要です。 大型仏像の上部欠測を防ぐ基本は、一つの観測局から全体を取得しようとしないことです。正面、斜め、側面、後方、高位置という異なる視線を重ね、各局の弱点を別の局で補います。ただし、局数を増やせば自動的に品質が上がるわけではありません。位置合わせに必要な共通範囲が不足すると、点群同士の接続が不安定になります。欠測を補う視線と、位置合わせに使う重複範囲の両方を確保する配置が求められます。
観測配置を決める前に整理する計測条件
観測配置を検討する前に、計測の目的を明確にします。仏像全体の外形記録が目的なのか、頭部の細部記録が必要なのか、過去点群との変化比較を行うのか、修理設計用の断面を作成するのかによって、必要な点密度と欠測を許容できる範囲が異なります。全体記録では一定の連続性が優先されますが、螺髪や宝冠の細部を評価する場合には、より近い距離と複数方向からの観測が必要になることがあります。 次に、仏像本体と周辺空間の概略形状を把握します。全高、最大幅、基壇の高さ、壁面までの距離、光背や天蓋の位置、柱や柵の配置、通路幅、上階や回廊の有無を確認します。既存図面があっても、現況と一致しているとは限りません。現地踏査では、TLSを置けそうな場所だけでなく、そこから頭部や肩上面が実際に見えるかを確認します。 上部欠測の予測には、TLSの設置候補位置から対象を見ることが有効です。設置予定高さに近い位置から目視し、額、肉髻、頭頂、耳後方、肩上面、光背との間が確認できるかを見ます。見えない部分はレーザーも届かない可能性が高いため、別の候補位置を追加します。ただし、人の目とTLSの光学中心には位置の差があるため、最終的には機器の設置高さと視準方向を考慮して判断します。 立入制限も早い段階で整理します。基壇上、内陣、背面通路、上階、足場、点検用通路などは、管理者の許可がなければ使用できない場合があります。文化財や周辺部材に三脚を接触させないことはもちろん、床の養生方法、三脚脚部の設置位置、転倒防止、機器や付属品の落下防止についても確認します。高位置からの観測を予定する場合は、使用可能な構造物と作業方法を管理者、安全管理担当者、必要に応じて保存修復の専門家と事前に協議します。 表面に彩色、金箔、漆、顔料層などがある場合には、計測方法と使用機器の仕様を確認し、文化財管理者の承認を得ます。非接触計測であっても、対象物の状態や計測条件を確認せずに安全性を断定することは適切ではありません。レーザーの安全区分だけでなく、照射条件、同一箇所への反復計測、補助照明の使用、周辺温湿度、機器からの発熱、作業者の接近範囲などを含めて計画します。 観測配置図には、仏像を中心とした平面上の位置だけでなく、各局の設置高さ、対象までの概算距離、主な観測対象、遮蔽物、共通して取得する範囲も記載します。これにより、上部を観測できる局はあるものの位置合わせに使える面がない、といった計画上の不足を事前に発見しやすくなります。
観測配置1 正面の低位置と中位置を組み合わせる
最初の配置は、仏像の主軸に近い正面から全体を取得する基準局です。正面局は、顔、胸、腕、衣文、台座などを一つの座標関係で記録しやすく、後から追加する各局を接続する中心的な役割を持ちます。ただし、床面付近の一局だけでは、顎の下、鼻の下、宝冠の下面、頭頂、肩上面などに遮蔽が生じやすくなります。 そこで、可能な範囲で正面の低位置と中位置を組み合わせます。低位置局は、台座から頭部までの全体形状を広く取得するために使います。中位置局は、許可された段差、回廊、固定された作業床などを利用し、頭部に対する見上げ角度を小さくする役割を持ちます。単にTLSを対象へ近づけるのではなく、高さと距離のバランスを調整し、頭部上面に対する視線を確保します。 正面の二局は、上下方向に完全に同じ線上へ並べればよいわけではありません。仏像の姿勢や装身具によっては、少し左右にずらした方が鼻や宝冠、髪飾りによる遮蔽を回避できます。一方で、ずらし過ぎると正面形状の共通範囲が減り、左右で点密度が偏ることがあります。正面局では、仏像の中心軸、台座の安定した面、背景の固定部などを両局から取得できるようにします。 中位置局を設けられない現場では、低位置局の距離を変える方法もあります。対象からやや離れた位置では頭部への仰角を抑えられる場合がありますが、距離が長くなると対象面上の点間隔が広がる可能性があります。逆に近過ぎると視野内に全体が収まらず、顔や胸の張り出しによって上部が隠れます。必要な点間隔と見通しを踏まえ、試験観測で頭部の点群を確認しながら距離を決めます。 正面局の役割は、上部の細部を一局で完成させることではありません。全体の基準となる点群を取得し、左右斜め局や高位置局と十分に重ねることが目的です。正面局だけで頭頂部が取得できない場合でも、欠測箇所と遮蔽物を特定できれば、次の局を合理的に配置できます。
観測配置2 左右斜め前方から上部を交差観測する
正面局の次に配置したいのが、左右斜め前方の観測局です。正面から隠れる鼻の側面、頬、耳の前側、宝冠の左右、螺髪の谷部、肩上面などを、異なる方向から補完できます。左右の視線を交差させることで、一方の局では隠れる部分を反対側の局で取得しやすくなります。 斜め前方局は、仏像を中心とした左右対称の位置を基本候補とします。ただし、建物の柱、供物台、柵、光背、周辺仏、設備などがある場合は、機械的な左右対称にこだわる必要はありません。重要なのは、頭部上方まで連続した見通しを確保し、正面局と十分な共通面を持たせることです。 左斜め前方局からは、顔の左側だけでなく、鼻梁や額、頭部中央、反対側へつながる形状も可能な範囲で取得します。右斜め前方局も同様です。片側の輪郭だけを狙うと、点群の位置合わせに使える重複が少なくなります。顔面、胸部、台座など比較的広く安定した面を各局で重ね、その共通部分を利用して局間の整合を確認します。 大型仏像では、頭部とTLSの距離が床面上の水平距離より長くなることにも注意が必要です。平面図で仏像に近い局でも、頭頂部までの斜距離は大きくなります。使用するTLSの仕様、設定した角度間隔、求める対象面上の点間隔を踏まえ、頭部で必要な密度を確保できるか確認します。局を近づける場合は、顎や胸による遮蔽が増えないかも同時に確認します。 左右斜め局では、頭部の凹凸に対する入射方向が変わるため、正面局より点を取得しやすくなる部分があります。一方で、反対側の輪郭付近では入射角が浅くなり、点が疎になることがあります。この偏りを一方の局だけで評価せず、左右の点群を重ねて確認することが大切です。 観測後は、頭部を水平断面や縦断面で切り出し、左右斜め局から得た点が互いに補完しているかを確認します。外観表示だけでは、同じ表面に点が集中しているのか、反対側まで取得できているのか判断しにくいためです。左右の境界に細長い空白が残る場合は、側面局または高位置局を追加する必要があります。
観測配置3 両側面から肩上面と耳周辺を補完する
左右斜め前方局でも、耳の後ろ、頸部の側面、肩の上面、腕と体幹の間、衣文の奥などは欠測することがあります。これらを補うのが両側面の観測局です。大型仏像の幅が大きい場合、正面方向の観測だけでは奥行き方向の形状が不足しやすいため、側面局は全体の立体形状を確保するうえでも重要です。 側面局を決める際は、仏像の真横だけに限定せず、側面からやや前方または後方へ移動しながら見通しを確認します。真横では耳、腕、衣、光背などが重なり、かえって頭部が隠れる場合があります。少し角度を変えるだけで、耳の後ろから後頭部へ続く面や、肩上面と頸部の境界が見えることがあります。 肩上面は、床面からの観測で特に欠測しやすい部位です。肩が水平に近いほどレーザーの入射角が浅くなり、頭部や装身具の影にも入りやすくなります。側面局では、肩の外側から頸部方向へ視線が通る位置を選びます。左右両側から取得できれば、片側に残った空白を反対側の点群で補える可能性が高まります。 耳周辺についても、正面、斜め前方、側面で役割が異なります。正面局は耳の前縁、斜め局は耳の凹凸、側面局は耳後方と頭部の接続を捉えやすい傾向があります。ただし、仏像の造形は個体ごとに異なるため、一般的な形状を前提に局を固定せず、現地で輪郭と遮蔽を確認します。 側面局の点群は、正面局との重複が不足しやすい点に注意が必要です。耳や肩だけを狭い範囲で高密度計測しても、全体点群へ安定して接続できなければ利用が難しくなります。顔の側面、胸部、腕、台座、背景の固定面などを含め、隣接局と連続する範囲を取得します。位置合わせ用の標識を使用する場合も、側面局と正面局の双方から無理なく観測できる配置が必要です。 左右の通路幅が異なる現場では、同じ距離や角度で両側を観測できない場合があります。その場合は、局ごとの条件を記録し、点密度や入射角の違いを品質確認時に考慮します。左右の点数が等しいことより、必要な形状が実測点で連続していることを優先します。
観測配置4 斜め後方と背面から頭部裏側を捉える
仏像の周囲を移動できる場合は、斜め後方と背面の観測局を設けます。正面からは後頭部、背面、衣の後ろ側、光背との接続部を取得できません。上部の形状を完全に近づけるには、前方だけでなく後方からの視線が必要です。 背面空間は狭いことが多く、仏像と壁、光背、支持構造、設備の間へTLSを設置できない場合があります。機器が置けるとしても、三脚の脚部が文化財や周辺部材へ接触する危険がないか、作業者が安全に出入りできるか、機器を安定して操作できるかを確認します。狭いという理由だけで小さな不安定な支持台を用いることは避け、管理者が認めた安全な方法を採用します。 斜め後方局は、背面局よりも前方点群との重複を確保しやすい配置です。左右の斜め後方から、後頭部、耳後方、肩背面、光背周辺を取得し、側面局へ接続します。側面局、斜め後方局、背面局が順番に重なるように配置すると、仏像を取り囲む点群の連結が安定しやすくなります。 光背がある仏像では、仏像本体と光背の間にレーザーが届くかを確認します。前方から見えている隙間でも、後方の支持部材や装飾によって内部が遮蔽されることがあります。また、狭い隙間の点群は、仏像本体、光背、背景のどの面に属するのか判別しにくい場合があります。観測方向を増やすとともに、点群処理時に断面を確認し、異なる面を誤って連結しないようにします。 背面全体が壁で閉じられているなど、後方から観測できない構造では、取得不能範囲を無理に補間しません。計測記録には、観測できなかった範囲とその理由を明記します。前方や側面からわずかに見える点だけを使って背面形状を推定すると、実測値と推定形状の境界が分からなくなるためです。 背面局を設けられる場合でも、頭頂部の水平に近い面は十分に取得できないことがあります。後方から見上げるだけでは入射角の問題が残るため、次に示す高位置局との組み合わせが有効です。
観測配置5 許可された高位置から見下ろして観測する
頭頂部、肉髻上面、宝冠上面、肩上面、光背上部などの欠測を減らすうえで、最も直接的な方法は高位置から見下ろす観測です。床面から見上げる局とは反対方向の視線を加えることで、上向きまたは水平に近い面へレーザーを到達させやすくなります。 高位置局として利用できる場所には、既設の回廊、上階、点検通路、管理者が使用を認めた固定足場などがあります。利用できる場所は現場ごとに異なり、構造物の耐荷重や作業条件も一律ではありません。観測のためだけに無断で足場や昇降設備を設けず、文化財管理者と安全管理担当者の許可を得て計画します。 高位置局では、TLS本体だけでなく、三脚、電源、付属品、標識などの落下防止が必要です。作業床の振動やたわみが計測中に生じると、点群へずれが入る可能性があります。人の移動、近隣作業、設備の稼働などによる振動を避け、機器が安定したことを確認してから観測します。観測中は必要のない移動を抑え、終了後に局内の形状が二重になっていないか確認します。 高位置からは頭頂部が見えやすくなる一方、顔の下部や顎の下、胸部の下側などが新たに隠れます。そのため、高位置局を床面局の代替として扱うのではなく、相互補完する局として使用します。高位置局から頭頂部だけを狭く取得するのではなく、額、顔面、肩、光背など、床面局と共通する範囲まで観測します。 対象物に近い高位置では、計測範囲が広角になり、頭頂部と下部で対象までの距離が大きく異なる場合があります。点密度、最短計測距離、視野、入射角を確認し、必要に応じて複数の高位置局へ分けます。一局で頭頂部全体が見えるように感じても、宝冠や螺髪の凹凸が互いを遮るため、左右に高位置局を設けた方がよいことがあります。 高位置を確保できない現場では、無理な昇降や不安定な延長支持を行いません。床面上で距離と方向を変えた局を追加し、取得可能な範囲を最大化したうえで、残る欠測を記録します。文化財計測では、点群を埋めることより、作業者と対象物の安全を守り、実測できた範囲を明確にすることが優先されます。
観測配置6 現場確認後に上部欠測の補完局を追加する
事前計画を詳細に作成しても、実際の点群を確認するまで見つけにくい欠測があります。螺髪の谷部、宝冠装飾の裏側、指と持物の間、耳後方、光背との狭い隙間などは、現地の目視だけでは取得状況を判断しにくい部分です。そのため、最初から補完観測の時間を工程に組み込んでおきます。 補完局は、単に既存局の近くへ追加するのではなく、欠測を生じさせた遮蔽物と必要な視線を確認して決めます。例えば、額の上部が宝冠によって隠れている場合、TLSを前後に移動するだけでは改善しないことがあります。左右へ移動する、高さを変える、対象との距離を調整するなど、レーザーが欠測部へ直接届く方向を探します。 現場確認では、統合前の各局点群と、暫定的に位置合わせした点群の両方を見ます。統合点群だけを見ると、どの局がどの範囲を取得したのか分かりにくくなります。局ごとに表示を切り替えれば、欠測が全局共通なのか、一部の局には点があるものの位置合わせや処理によって見えなくなっているのかを区別できます。 補完局でも、位置合わせに必要な共通範囲を確保します。欠測部だけを拡大計測すると、周囲との位置関係を決める情報が不足します。頭頂部を補完する場合は、額、側頭部、肩、光背など既存点群と重なる面まで含めます。狭い範囲しか取得できないときは、複数局を段階的につなぐ方法も検討します。 補完観測は、点数の少ない部分をすべて埋める作業ではありません。計測目的に対して必要な形状が取得できているかを判断し、優先順位を付けます。経年変化を追う基準部、修理対象部、構造的に重要な接続部、保存状態を記録したい彩色部などは重点的に確認します。一方、物理的に観測できない狭い内部や背面は、欠測として記録する方が適切な場合があります。 現場撤収前には、補完局を含む全点群を再確認します。機器を撤去した後に欠測が判明すると、再入場、養生、立会い、安全設備などを改めて調整しなければならない可能性があります。現場で確認できる処理環境を準備し、少なくとも頭頂部、左右側面、背面、肩上面、光背周辺の連続性を確認してから撤収します。
複数局の点群を安定して位置合わせする方法
大型仏像の上部欠測を減らすために観測局を増やすと、位置合わせの品質が重要になります。各局の点群がわずかにずれた状態で統合されると、螺髪、輪郭、指先、装身具などに二重面が生じます。この二重面を形状の凹凸や変形と誤認しないよう、局間の整合を確認しなければなりません。 位置合わせには、標識などの基準物を利用する方法と、重複する点群形状を利用する方法があります。どちらを採用する場合でも、特定の狭い範囲だけへ基準を集中させないことが大切です。基準物を使用するなら、高さ、左右、奥行きに偏りが出ないよう配置し、各局から十分な大きさで観測できるか確認します。 文化財本体への標識の貼付や接触は避け、管理者が認めた独立した支持物や周辺の安定箇所を利用します。標識や支持物が拝観動線や避難経路を妨げないこと、転倒や落下の危険がないことも確認します。設置位置と識別番号は写真や配置図に記録し、どの局から観測したかを追跡できるようにします。 形状による位置合わせでは、仏像の表面だけに依存すると、左右対称に近い形状や繰り返し模様が誤って対応する可能性があります。螺髪のような似た凹凸が並ぶ部分では、別の位置を同じ形状と判断することがあります。台座、周辺構造、背景の固定面、標識など、識別しやすい範囲を併用します。 位置合わせの評価を単一の平均誤差だけで終えないことも重要です。平均値が小さくても、頭部付近だけがずれている場合があります。局間の残差分布、基準物ごとの差、頭部と台座の断面、隣接面の連続性を確認します。上部局と床面局では観測方向が大きく異なるため、頭頂部、額、耳、肩など複数箇所で整合を見ます。 過去点群との経年比較を目的とする場合は、仏像の表面だけを基準に全体を合わせると、実際の変化まで位置合わせによって吸収する可能性があります。変化しにくいと判断できる基準部や外部基準を設定し、比較の目的に応じた座標管理を行います。座標系、基準点、使用した標高またはローカル高さ、機器高、処理手順を記録し、次回計測で同じ条件を再現できるようにします。
上部欠測を見逃さない品質確認
点群の品質確認は、全体を立体表示して眺めるだけでは不十分です。点群が着色されていると、画像の色が空白を視覚的に補って見せることがあります。まず色を外した単色表示や点の大きさを小さくした表示で、実測点が存在する範囲を確認します。 頭頂部については、上方から見た表示が有効です。床面からの視点では連続して見える点群でも、真上から見ると中央部が空洞になっていることがあります。肉髻、螺髪、宝冠などの凹凸は、複数方向から回転させて確認します。視点を変えたときに同じ箇所が常に透けて見える場合は、欠測の可能性があります。 断面確認では、頭部を水平方向と鉛直方向の両方で切り出します。水平断面では、前面、左右、後面の点が閉じた輪郭に近い状態で連続しているかを確認できます。鉛直断面では、額から頭頂、後頭部へ続く形状や、肩上面の点の有無を確認できます。ただし、本来開いている形状まで閉じていることを品質条件にしないよう、仏像の造形と観測可能範囲を踏まえて判断します。 点密度は、点数だけでなく分布の均一性を見ます。正面に点が集中し、頭頂部では数本の走査線しか得られていない場合、表面モデルを作成できても細部の根拠は弱くなります。対象面上の点間隔を確認し、計測目的に対して不足する部分を補完します。異なる距離から取得した局が混在する場合は、局ごとの密度差も記録します。 二重面や帯状のずれは、位置合わせ不良、観測中の振動、対象物や周辺物の移動などによって生じることがあります。人、幕、供物、扉などの移動物が混入した点は、文化財本体と区別します。自動処理だけで除去すると本体の細部まで失う可能性があるため、原データを保存し、処理内容を記録しながら作業します。 欠測部を表面生成処理で補間した場合は、実測点と補間面を区別できる状態にします。納品データや報告書では、点群として取得できた範囲、補間した範囲、取得できなかった範囲を明示します。見た目の滑らかさよりも、どこまでが計測事実なのかを追跡できることが文化財記録では重要です。
文化財計測で優先したい安全管理と記録
TLSは対象物へ接触せずに三次元形状を取得できる方法ですが、計測作業全体が自動的に無リスクになるわけではありません。機器の搬入、三脚の設置、ケーブルの取り回し、高所作業、標識の設置、作業者の移動などには、それぞれ文化財への接触や転倒、落下の危険があります。 現地では、計測可能範囲と立入禁止範囲を明確にします。三脚脚部は安定した床へ設置し、必要な養生を管理者と協議します。壁画、彩色部、彫刻、建具、祭具などへ機器や身体を近づけ過ぎないよう、作業動線を確保します。狭い場所では、一人が機器を運び、もう一人が周囲との離隔を確認するなど、現場条件に応じた体制を取ります。 拝観者や施設利用者がいる環境では、作業時間と区画方法を調整します。三脚や標識が通路へ張り出す場合は、接触や転倒を防ぐ措置が必要です。ただし、養生材や区画材を文化財へ固定してはいけません。施設管理者が認めた独立した方法を使用します。 計測記録には、観測局番号、設置位置、設置高さ、計測日時、使用設定、対象までの概算距離、作業時の環境、立入制限、取得できなかった範囲を残します。各局から見た写真も記録すると、後処理で欠測原因を判断しやすくなります。写真撮影や照明の使用についても、施設の規則と管理者の指示に従います。 再計測を想定する場合は、観測位置を再現できる情報が必要です。局位置を床へ恒久的に表示できない現場では、柱、壁、基壇などへの相対距離や写真を利用して記録します。ただし、基準とする箇所が将来移動または修理される可能性もあるため、複数の基準を残します。使用した座標系やローカル原点の定義も明記します。 原点群は、処理済みデータとは分けて保存します。ノイズ除去、間引き、位置合わせ、座標変換、表面生成などの各工程で、何を変更したか追跡できるようにします。文化財の長期記録では、将来の処理技術で再解析できるよう、取得時の情報を失わないことが重要です。
まとめ
大型仏像をTLSで計測する際の上部欠測は、計測設定だけで解決できる問題ではありません。頭部、肩上面、耳後方、光背周辺などへレーザーが届く視線を確保し、正面、左右斜め前方、両側面、斜め後方、背面、高位置からの点群を目的に応じて組み合わせる必要があります。 観測配置は、正面の低位置と中位置を組み合わせる配置、左右斜め前方から交差させる配置、両側面から補う配置、斜め後方と背面から捉える配置、許可された高位置から見下ろす配置、現場確認後に設ける補完配置の6つを基本として検討できます。現場の構造や立入条件によってすべてを実施できるとは限らないため、取得できない範囲は欠測として明確に記録します。 局数を増やすときは、各局から見える範囲だけでなく、点群の位置合わせに使う重複範囲も確保します。統合後は、上方視点、断面、局別表示、点密度、残差分布を確認し、補間面と実測点を区別します。現場撤収前に上部の欠測を確認し、必要な補完観測を終えることが、再計測の負担を抑えるうえでも有効です。 さらに、文化財計測では点群の完全性より安全を優先します。高所や狭所へ無理に機器を設置せず、管理者の許可、安定した作業床、落下防止、接触防止、作業記録を確実に整えます。TLSによる本計測を軸としながら、許可された範囲での補助的な三次元記録や現場情報の管理を効率化したい場合は、LRTK Phoneの活用もご検討ください。