文化財建造物を対象としたTLS計測では、形状を高密度な点群として記録するだけでなく、参拝者や見学者の安全と利便性を保つことが重要です。特に寺社の境内や堂内では、出入口、参道、拝礼位置、授与所前、階段周辺などに人の流れが集中します。計測精度だけを優先して三脚や標的を配置すると、通路を狭めたり、立ち止まった参拝者が機材に接触したりするおそれがあります。 一方で、混雑を避けるために機材を建物から離しすぎると、柱の背面、軒下、床下に近い部分などで欠測が生じやすくなります。文化財TLS計測では、計測対象を見通せる位置、隣接するスキャンとの重複、安全な通行幅、機材の安定性を同時に考えなければなりません。 本記事では、「TLS 文化財 計測」で情報を探している実務担当者に向けて、参拝者の動線を妨げにくく、点群の重複も確保しやすい5つの機材配置を解説します。日常的に参拝や見学を受け入れている文化財で、公開を続けながら計測する場面を想定しています。
文化財TLS計測で参拝者動線への配慮が必要な理由
TLSは、地上に設置したレーザースキャナーから周囲へレーザーを照射し、対象物までの距離や方向を計測して三次元点群を取得する方法です。文化財建造物の柱、梁、壁、彫刻、建具、床面などを面的に記録できるため、現況図の作成、変形の把握、修理前後の比較、保存記録の整備などに活用できます。 ただし、TLSは機器から見える面を計測する仕組みです。柱や扉の背後、軒下、入り組んだ装飾の奥などは、一つの位置からでは捉えられません。そのため、通常は複数の位置へ機器を据え替え、それぞれの点群を共通部分や標的などを利用して統合します。計測点を増やせば死角を減らしやすくなりますが、三脚、標的、ケース、予備機材などが占める空間も増えます。 寺社や史跡では、一般的な工事現場とは異なり、計測区域を長時間にわたって全面封鎖できるとは限りません。参拝者は入口から一直線に進むだけではなく、掲示を読む、建物を見上げる、写真を撮る、拝礼する、御朱印や授与品を受けるといった行動を取ります。人が立ち止まる場所や進行方向が変わる場所では、見かけ以上に広い余裕が必要です。 三脚の脚は床面や地面に沿って広がるため、機器本体よりも大きな占有範囲を持ちます。視線が建物や案内表示へ向いている参拝者は、足元の三脚や標的台に気づくのが遅れることがあります。子ども、高齢者、大きな荷物を持つ人、車いすを利用する人などが通ることも考慮しなければなりません。 また、動線を避けようとして機材を壁際へ寄せれば、必ず安全になるわけではありません。建具の開閉範囲、消火設備の前、管理用扉、排水経路、立入禁止区域などに重なる可能性があります。軒下や狭い回廊では、機材を避けた人同士が接触することもあります。文化財TLS計測の配置計画では、点群の取得条件だけでなく、人が自然に歩き、立ち止まり、方向転換できる空間を残す視点が欠かせません。 安全への配慮は計測品質にもつながります。人が頻繁に機器の前を横切ると、点群に一時的な遮蔽や不要な点が生じます。接触を避けるために三脚を動かせば、同じ計測位置からの再取得が難しくなることもあります。最初から動線を外した位置へ機材を配置し、短時間で確実に計測できる環境を整えることが、再計測や後処理の負担を抑える基本です。
配置前に参拝者の流れと計測条件を調べる
機材配置を決める前に、管理者と計測範囲、公開時間、立入可能範囲、機材を仮置きできる場所を確認します。文化財では、外見上は空いている場所でも、祭事の準備、清掃、建具の開閉、管理車両の通行などに使用される場合があります。現場だけで判断せず、管理運用を把握している担当者から情報を得ることが重要です。 現地下見では、参拝者が実際にどこを歩き、どこで立ち止まるかを観察します。入口から拝礼位置までの主動線に加え、案内板、賽銭箱、授与所、休憩場所、撮影されやすい位置、出口へ向かう戻り動線も確認します。床の模様や柵の位置だけを見て通路を決めると、実際の利用状況とずれることがあります。 特に注意したいのが、流れが交差する場所です。入口と出口を兼ねる扉の前、回廊の曲がり角、階段の上端と下端、拝礼後に振り返る場所などでは、人の進行方向が一定ではありません。混雑していない時間に下見すると余裕があるように見えても、複数人が同時に通れば三脚が障害になる可能性があります。 参拝者の動線を確認した後は、計測対象に対する見通しを調べます。TLSから対象面までの距離だけでなく、柱、柵、植栽、灯籠、奉納物、仮設物などによる遮蔽を確認します。計測位置を床や図面に仮設定し、その位置から必要な部位が見えるか、隣の計測位置と十分な共通範囲を持てるかを検討します。 この段階では、点群密度や計測距離に一律の数値を当てはめるのではなく、使用する機器の仕様、対象部位の大きさ、必要な成果精度、表面状態に合わせて条件を設定します。細かな彫刻を記録する場合と、建物全体の概形を記録する場合では、必要な計測距離や角度が異なります。光沢のある面、暗色面、ガラス面などでは、照射角度や表面特性によって欠測やばらつきが生じることもあります。 床面の状態も重要です。石畳、砂利、板張り、畳、傾斜面などでは、三脚の安定性が異なります。文化財の床や地面を傷つけないよう、脚先の形状や養生方法を管理者と確認します。ただし、柔らかすぎる養生材は機材を不安定にすることがあります。保護と安定の両面を確かめ、計測中に沈み込みやずれが起きない方法を選びます。 標的を使用する場合は、文化財本体へ安易に貼り付けないことが原則です。独立した標的台、既設の非文化財部分、管理者が指定した場所などを利用し、接着剤、テープ、磁石などが対象へ与える影響を避けます。標的台も通行障害になるため、三脚とは別に占有範囲を記録しなければなりません。 下見の結果は、計測位置だけを示すのではなく、主動線、滞留範囲、緊急時に空ける場所、機材の搬入経路、仮置き場所と重ねて整理します。現場条件は当日に変わる可能性があるため、第一候補だけでなく、同等の重複を確保できる代替位置も用意しておくと柔軟に対応できます。
機材配置1 出入口の正面を避けて斜め方向から計測する
文化財建造物の出入口は、正面形状や建具を計測しやすい場所である一方、参拝者が集中する主要動線でもあります。正面中央へTLSを設置すると、対象面をほぼ正対して取得できますが、入退場を妨げやすく、参拝者が点群を遮る時間も長くなります。 そこで、出入口の中心線上を避け、左右いずれかの斜め方向へ計測位置をずらします。扉や柱の正面だけでなく側面も捉えられる位置を選ぶことで、一つの方向からは隠れる部分を補いやすくなります。反対側にも計測位置を設ければ、左右から取得した点群によって建具の見込み部分や柱際の欠測を減らせます。 斜め配置では、入射角が極端にならないよう注意します。対象面に対して浅すぎる角度から照射すると、点の間隔が広がったり、表面状態によって取得が不安定になったりする場合があります。必要な部位が適切な密度で取得できるか、現場で部分的に確認しながら位置を調整します。 三脚は、扉の開閉範囲からも外します。現在閉じている建具が計測中に開く可能性や、管理者が出入りする可能性を考慮します。引き戸の場合は戸袋周辺、開き戸の場合は扉が描く範囲、格子戸の場合は固定金具や敷居周辺を確認します。開閉のたびに機材を移動すると、計測位置の再現や点群の管理が複雑になります。 斜め方向へ配置するときは、参拝者が機材を避けた先に別の障害物がないかも確認します。灯籠、手すり、段差、排水溝などが近くにあると、TLS単体では通路外に置けていても、回避行動によって危険が生じます。機材の周囲だけではなく、その前後を含めた歩行経路で判断することが大切です。 左右二方向から計測する場合、両方の機材を同時に設置する必要はありません。一方の計測を終えて撤去してから反対側へ据え替えれば、通路の占有を抑えられます。据え替え後も点群を安定して統合できるよう、建物の固定的な形状や独立標的など、複数の共通要素を確保します。 出入口付近では、参拝者が立ち止まって案内を読むことがあります。単に扉の幅だけを通行範囲と考えず、扉の手前に生じる待機空間も空けておきます。混雑時に列ができる施設では、その列が伸びる方向を管理者に確認し、三脚や標的台を置かない範囲として扱います。 この配置方法は、正面性の高い文化財を記録する際に有効ですが、斜め方向の点群だけで正面の細部を十分に取得できるとは限りません。正面からの計測が必要な場合は、参拝者が少ない時間帯に限定して短時間で実施し、それ以外の時間は斜め位置からの計測を進めると、公開への影響を抑えやすくなります。
機材配置2 滞留場所を囲まず外周側へ計測点を置く
拝礼位置、案内板の前、授与所の周辺、写真撮影に適した場所などは、参拝者が一定時間立ち止まる滞留場所です。このような場所の内側や両側へ機材を配置すると、人が動ける方向を狭め、混雑時には囲い込むような状態をつくってしまいます。 滞留場所を計測するときは、人が集まる中心部を空け、外周側へ計測位置を設定します。中心から放射状に人が出入りできる余地を残し、三脚や標的台が連続した壁のようにならないようにします。複数の機材を使用する場合でも、一度に全てを並べず、区画ごとに順次移動させる方法が適しています。 外周配置では、機材と対象の間を参拝者が横切る可能性があります。TLSの計測中に人が通過すると、その瞬間に遮られた部分が欠測したり、人の形状が不要点として記録されたりします。しかし、通行を完全に止めることが難しい現場では、横切りをゼロにすることよりも、必要な対象面を異なる方向から重複して取得することが現実的です。 例えば、拝礼位置の左右後方から計測し、時間をずらして正面寄りの外周から補うと、ある計測で人に遮られた部分を別の計測から補完しやすくなります。各計測位置で対象全体が見えることにこだわらず、複数位置を合わせて必要範囲を満たす考え方が重要です。 滞留場所の近くでは、参拝者の向きにも注意します。建物を見上げている人や撮影中の人は、後方や足元への注意が弱くなります。視線の向きから外れた位置へ三脚を置けたとしても、後退した際に接触する可能性があります。人が一歩から数歩動く範囲を想定し、その外側に機材を配置します。 案内表示や賽銭箱などの周辺では、機材が管理物の利用を妨げないようにします。計測対象が近くにあっても、参拝者が手を伸ばす範囲や、管理者が内部を確認するための空間は空けておきます。授与所や受付の近くでは、参拝者と職員の受け渡し動線を横切る位置にケーブルやケースを置かないようにします。 標的を複数配置するときは、滞留場所の周囲を標的台で囲む構成を避けます。点群統合に必要な標的数や見通しは、使用する機器と処理方法によって異なるため、事前に条件を確認します。そのうえで、建物の固定形状を利用した統合や、通路外に置ける独立標的を組み合わせ、必要以上に標的台を増やさない計画とします。 外周へ機材を置くと対象までの距離が長くなる場合があります。距離が延びれば、目的とする点間隔や細部の再現性を満たせるか確認が必要です。建物全体は外周位置から取得し、細部だけを参拝者の少ない時間に近距離で補測するなど、広域計測と局所計測を分けると安全性と品質を両立しやすくなります。
機材配置3 柱際や建具脇の余白を利用する
回廊や堂内のように通路幅が限られる場所では、中央を空け、柱際や建具脇にある余白を利用してTLSを配置します。柱の並びによって自然に生じる凹部や、通常の歩行では使われにくい空間を選べば、主動線への張り出しを抑えられます。 ただし、柱のすぐ近くへ機器を寄せすぎると、柱自体が広い範囲を遮り、反対側の壁や建具が欠測することがあります。柱際配置では、三脚が通路へ出ないことだけでなく、必要な対象面を見通せる距離を確保します。柱の前後に位置を分け、一方から見えない範囲をもう一方から取得する計画が有効です。 柱列に沿って据え替える場合は、すべての位置を柱の同じ側にそろえると、反対側に連続した死角が残る可能性があります。通路の利用状況を確認しながら、左右の柱際を交互に利用する、回廊の折れ点から斜めに取得するなど、計測方向に変化を持たせます。 三脚の脚は、柱際へ置いても通路側へ一本だけ張り出すことがあります。機器本体の位置ではなく、脚先を含む外形で通行幅を確認します。暗い堂内や床面と脚の色が近い環境では、参拝者が三脚を認識しにくいため、管理者の承認を得たうえで視認しやすい保護材や自立式の注意表示を使用します。表示そのものが通路を狭めない大きさと位置にすることも必要です。 文化財の柱、長押、建具などを三脚や機材ケースの支えとして利用してはいけません。接触による傷や振動を避け、機材は独立して安定させます。柱際に十分な空間がない場合は、無理に押し込まず、別の計測位置や補測方法へ切り替えます。 建具脇を使う場合は、開閉、取り外し、清掃などの管理作業を妨げないようにします。普段は閉鎖されている建具でも、換気や人員移動のために動かす場合があります。機材配置図を管理者と共有し、計測時間中に使用する可能性がある建具を事前に確認します。 回廊では、参拝者が柱際に寄って外の景色を見たり、展示物を観察したりすることがあります。そのため、柱際を一律に未使用空間と判断することはできません。実際の滞留位置を観察し、機材を置いたときに別の人が安全に追い越せるか、対向者がすれ違えるかを確認します。 柱際配置は機材を目立たなくする効果がありますが、目立たないことが接触防止に直結するわけではありません。むしろ、参拝者が機材に気づかない可能性を考え、担当者が近くで監視できる範囲に計測点を集約します。遠く離れた複数箇所へ無人の機材や標的台を置く配置は避けたほうが管理しやすくなります。 点群統合の面では、柱際の各計測位置から共通して見える固定部分を確保します。柱の一部だけでは、形状が似ていて位置関係を判別しにくい場合があります。柱頭、梁、壁面、建具など、立体的で識別しやすい範囲を複数の計測に含めます。統合結果は残差だけで判断せず、柱の輪郭、床と壁の境界、建具の線などに二重化やずれがないか目視でも確認します。
機材配置4 高低差のある場所では踊り場と段差周辺を空ける
階段、縁側、基壇、傾斜した参道など、高低差のある場所では、平坦な通路以上に機材配置へ注意が必要です。参拝者は足元を確認しながら移動するため、三脚や標的台が進路に入ると回避が難しくなります。段差の直前や直後では歩幅や速度が変わるため、わずかな障害でも転倒につながる可能性があります。 階段周辺では、上端、下端、踊り場を通行と方向転換のための空間として確保します。TLSは階段の正面中央ではなく、側方の安定した平場へ配置します。手すりを利用する人の動線を妨げないよう、手すり側へ安易に寄せることも避けます。左右どちらへ置くかは、昇降の実態や入口の位置を踏まえて決めます。 階段の側方から計測すると、踏面や蹴上げの一部が互いに遮蔽されます。上方と下方の両方から計測することで補えますが、機材を階段の途中へ置く必要はありません。上部の平場と下部の平場から異なる俯角、仰角で取得し、必要に応じて安全な側面位置から追加計測します。 基壇や縁側を計測する場合も、端部ぎりぎりへ三脚を置かないようにします。三脚の脚が安定して見えても、床板のたわみ、石材の不陸、砂利の沈み込みなどによって姿勢が変化することがあります。端部から十分な余裕を取り、すべての脚が安定した面に接していることを確認します。 高低差のある場所では、三脚の一部を不自然に長く伸ばして水平を確保すると、接地範囲が広がり、接触時の転倒リスクも高まります。脚の伸長量が大きく異なる配置は可能な限り避け、安定した平場へ据えることを優先します。機器の水平補正機能がある場合でも、三脚そのものの安定性を代替するものではありません。 計測機器や標的が落下すれば、参拝者だけでなく文化財を損傷するおそれがあります。高所や縁端部では、必要に応じて管理者と落下防止方法を協議します。ただし、固定のために文化財本体へ金具やひもを取り付けることは避け、独立した安全対策を検討します。 傾斜した参道では、TLSを通路外へ置ける場合でも、転倒した機材が通路側へ倒れ込まないか確認します。排水溝、土の軟らかい場所、濡れた石面、落ち葉が重なった場所などは、見た目より不安定なことがあります。当日の天候や地面の状態を確認し、安全性に疑問があれば配置を変更します。 点群品質については、高低差による見通しの違いを積極的に利用します。低い位置からは軒裏や梁下が見えやすく、高い位置からは階段の踏面や基壇上面を捉えやすくなります。参拝者が使う階段上へ機材を置くのではなく、周囲の安全な平場から高さの異なる計測を組み合わせることで、動線を確保しながら遮蔽を減らせます。
機材配置5 固定機材を減らして可搬型の補測を組み合わせる
公開中の文化財では、TLSだけであらゆる細部を一度に取得しようとすると、据え替え回数や標的数が増え、参拝者動線への影響が大きくなります。そこで、建物全体の基準となる点群はTLSで取得し、狭い場所や局所的な欠測は可搬型の計測手段で補う方法を検討します。 可搬型の補測では、計測者が機材を保持しながら短時間で移動できるため、三脚を長時間設置する必要がありません。柱の背面、建具の脇、据え置き機材を置きにくい狭い回廊などを補うことで、通路上の固定機材を減らせます。ただし、可搬型で取得した点群の精度や密度は、機器、計測方法、移動速度、周囲の形状などに左右されます。 TLS点群と補測点群を統合するには、両方で取得できる共通範囲が必要です。補測対象だけを局所的に取得すると、位置合わせの手掛かりが不足する可能性があります。柱、壁、床、梁などの固定部分を含め、三次元的に特徴のある範囲を重複させます。形状が単調な壁面や同じ柱が連続する場所では、どの位置を取得したのか分かるよう記録を残します。 可搬型の補測中も、計測者自身が参拝者の動線を塞がないようにします。後退しながらの計測や、画面だけを見ながらの移動は避け、周囲を確認する担当者と連携します。ケーブルを使用する場合は通路を横断させず、衣服や機材から垂れ下がらないよう整理します。 補測の実施時間を短くするには、TLS計測後に現場で点群を確認し、欠測範囲を絞り込むことが有効です。必要性を確認しないまま広範囲を再計測すると、参拝者への影響とデータ量が増えます。柱裏、軒裏、建具の見込み、床と壁の境界など、成果に必要な範囲を優先して補います。 屋外で位置情報を利用する場合は、衛星測位の受信環境にも注意します。寺社の境内では、屋根、樹木、山、塀などによって衛星信号が遮られたり、反射の影響を受けたりすることがあります。測位結果が得られたことだけで正確な座標と判断せず、既知点や現地基準との整合、測位状態、再現性を確認します。堂内や軒下では衛星測位に依存せず、TLS点群や現地基準を利用した統合方法を計画します。 LRTK Phoneのような可搬性の高い計測手段を組み合わせる場合も、TLSを全面的に置き換えると決めつけるのではなく、用途を分けることが重要です。文化財全体の基準形状、細部の必要密度、座標の根拠、現場の公開条件を整理し、TLSが適する範囲と可搬型計測が適する範囲を判断します。 固定機材を減らせば、必ず安全になるわけではありません。計測者が頻繁に動くことで参拝者と交錯する可能性もあります。移動経路、補測時間、監視方法を決め、混雑時には一時中断できる運用とします。安全を確保できない状況では、取得を急がず、時間帯を変えて実施する判断が必要です。
計測中の安全を支える時間帯設定と誘導方法
機材配置を工夫しても、参拝者が集中する時間帯には十分な通行空間を確保できないことがあります。計測前に管理者から曜日、時間帯、祭事、団体参拝、清掃、搬入などの予定を確認し、人の流れが比較的少ない時間へ作業を配分します。 ただし、早朝や閉門後であれば自由に作業できるとは限りません。文化財の管理体制、防犯、騒音、照明、近隣環境などの条件があります。作業可能な時間と区域は管理者の指示に従い、計測者側だけで判断しないようにします。 公開時間中に実施する場合は、機材を長時間据えたままにせず、一つの区画を計測して撤去してから次へ移る方法が適しています。搬入したケースや予備品は通路に置かず、管理者が認めた場所へ集約します。計測に使用していない三脚や標的台も、組み立てたまま放置しないようにします。 誘導担当者は、機材の近くで参拝者の動きを確認し、接触のおそれがある場合に分かりやすく案内します。大声や過度な呼び止めは参拝環境を損なう可能性があるため、施設の雰囲気に配慮した方法を管理者と決めます。参拝者へ機器の技術的な説明を長く行うより、通行できる側と注意すべき足元を簡潔に伝えるほうが安全につながります。 注意表示は、参拝者から見える位置に自立させます。文化財の壁、柱、建具などへ掲示物を貼り付けることは避けます。表示が風で倒れたり、通路へ滑り出したりしないことも確認します。表示を増やしすぎると、それ自体が新たな障害になるため、必要な場所へ絞ります。 計測担当者同士では、据え替えの開始、計測開始、計測終了、通行再開を共有します。誰かが計測中の機器へ触れたり、標的を移動したりすると、点群統合に影響する可能性があります。役割と合図を決め、参拝者への対応で担当者が離れた場合にも機材を監視できる体制を整えます。 緊急時の通路、消火設備、管理用扉などは常に使用できる状態を保ちます。通常の参拝者動線が確保できていても、緊急時に機材を回収しなければ通れない配置は避けます。避難や管理上必要な空間については、施設ごとの指示を優先します。
動線を避けながら点群品質を確認する方法
参拝者動線を優先して計測位置を変更すると、当初の計画より対象までの距離が延びたり、照射角度が変わったりします。そのため、現場で取得結果を確認し、必要な品質を満たしているか判断する工程が重要です。 確認するのは、点の多さだけではありません。必要な部位に連続して点が存在するか、柱や建具の縁が明瞭か、床と壁の境界が取得できているか、反射や遮蔽による不自然な点がないかを見ます。人が通過した部分では、背後の文化財が欠けていないかを確認します。 隣接するスキャン同士の重複も確認します。点群統合に必要な共通範囲が確保されていても、その大部分を移動中の人や一時的な物品が占めていると、安定した位置合わせが難しくなることがあります。柱、壁、梁、床など、動かない形状を複数方向から取得できていることが重要です。 統合後は、誤差を示す一つの数値だけで品質を判断しないようにします。建物の端部、柱の輪郭、建具の線、床面などを拡大し、二重化や段差がないか確認します。標的を用いた場合は、標的の整合だけでなく、標的から離れた位置の形状も確認します。 文化財の変形や傾きを調べる目的では、点群を都合よく平面化したり、既存図面へ無理に合わせたりしないことが大切です。座標系、基準点、機器位置、統合方法、使用した点群、除去した不要点などを記録し、後から処理手順を確認できる状態にします。 参拝者などの不要点を除去する際は、その周囲にある文化財本体の点まで削除しないようにします。自動処理だけに任せず、必要範囲を目視で確認します。人に遮られて文化財表面の点が存在しない部分は、不要点を消しても復元されません。別方向のスキャンや補測点群があるか確認し、なければ現場で追加取得します。 現場確認では、再計測の優先順位を決めておくと効率的です。成果作成に不可欠な基準部分、変状を確認する部位、図面化する輪郭などを先に確認し、装飾の奥や見えにくい細部は目的に応じて判断します。すべての死角をなくすことではなく、計測目的に必要な範囲を説明可能な品質で取得することが目標です。
文化財TLS計測を安全に進めるためのまとめ
文化財TLS計測で参拝者の動線を妨げないためには、三脚を単に通路の端へ寄せるだけでは不十分です。出入口では正面中央を避けて斜め方向から計測し、滞留場所では中心を空けて外周側へ機材を置きます。狭い回廊では柱際や建具脇の余白を慎重に利用し、高低差のある場所では階段、踊り場、段差周辺を空けます。さらに、固定機材を増やしすぎず、必要に応じて可搬型の補測を組み合わせることで、通行への影響を抑えやすくなります。 どの配置にも共通するのは、機器本体ではなく三脚の脚先、標的台、ケース、計測者の立ち位置まで含めて占有範囲を考えることです。参拝者が機材を避けた先に段差や別の障害物がないか、建具や管理用扉を使用できるか、緊急時の通路を確保できるかも確認しなければなりません。 計測精度と安全性は、相反する条件ではありません。参拝者の横切りが少ない位置を選び、複数方向から重複して取得すれば、遮蔽や不要点を減らしやすくなります。現場で点群を確認してから不足部分だけを補測することで、再計測の範囲と機材の設置時間も抑えられます。 最終的な配置は、文化財の構造、公開方法、参拝者数、必要な成果精度、使用機器の仕様によって変わります。現地下見と管理者との協議を行い、当日の状況に応じて中断や位置変更ができる計画にしておくことが重要です。 TLSで建物全体の基準となる点群を取得し、狭い場所や局所的な欠測を機動的に補う運用を検討する場合は、LRTK Phoneを含む可搬型計測の活用方法も確認してみてください。計測目的と座標の根拠を明確にしたうえで適切に使い分けることが、文化財の記録品質を保ちながら参拝環境への影響を小さくする一歩になります。