文化財の形状を記録し、傾き、膨らみ、沈下、部材の位置関係などを確認する方法として、TLSによる三次元計測が活用されています。TLSは地上に設置したレーザースキャナから対象物へレーザーを照射し、距離と方向を計測することで、表面形状を多数の点からなる点群として取得する手法です。非接触で広い範囲を記録しやすいため、建造物、石垣、石造物、遺構、彫刻、土塀など、直接触れることを避けたい文化財の形状記録に適しています。 ただし、TLSで点群を取得しただけでは、保存修理や状態調査に使いやすい断面図にはなりません。点群には不要物、遮蔽による欠測、複数スキャンの位置合わせ誤差などが含まれることがあります。どの位置を、どの方向から、どの厚さで切り出したのかが曖昧な断面図は、形状を正しく表しているように見えても、比較や判断に使えない可能性があります。 特に文化財では、単に輪郭線を作るだけでなく、断面位置の根拠、座標系、高さの基準、点群の処理履歴、欠測範囲などを残すことが重要です。後年に再計測した点群と比較する場合は、同じ位置に断面を再現できなければ、実際の変化と切断位置の違いを区別しにくくなります。 この記事では、「TLS 文化財 計測」で情報を探している実務担当者に向けて、TLS点群から文化財の断面図を作る基本的な流れを7つの手順に分けて解説します。断面位置の決め方から点群の整理、座標確認、スライス抽出、線図化、品質確認、データ保存まで、実務で見落としやすいポイントも含めて紹介します。
TLS点群から文化財の断面図を作る意義
文化財の調査では、平面図や立面図だけでは読み取りにくい形状があります。柱や壁の傾斜、石垣の孕み出し、土塀の膨らみ、梁のたわみ、床面の沈下、石造アーチの変形などは、対象を一定の位置で切った断面として表すことで理解しやすくなります。断面図には、奥行き方向に重なった情報を整理し、調査対象の輪郭や部材同士の位置関係を明確にできる利点があります。 従来の断面計測では、対象へ近づいて寸法を測ったり、限られた測点を結んで形状を推定したりする必要がありました。TLS点群を利用すれば、計測時に取得した広範囲の三次元情報から、後処理で複数の断面を取り出せます。調査時点では想定していなかった位置についても、点密度や遮蔽の状況が許せば、追加の断面を作成できることがあります。 一方で、TLS点群から作った断面図は、対象物の真の形状を無条件に再現するものではありません。レーザーが届かなかった部分には点が存在せず、入射角が浅い面や反射特性が複雑な面では、点のばらつきや欠落が生じることがあります。樹木、仮設物、養生材、見学者などが対象を遮っていれば、それらの背後も記録できません。 また、断面として抽出する範囲に厚みを持たせると、手前と奥の異なる輪郭が同じ断面上に重なる場合があります。反対に、抽出範囲を狭くしすぎると、点が不足して輪郭を追えなくなることがあります。したがって、断面図の品質はTLS本体の仕様だけでなく、スキャン配置、点群の位置合わせ、断面位置、スライス厚、線図化の方法によっても変わります。 文化財の断面図を保存修理や変状監視に用いる場合は、見やすさだけでなく再現性が欠かせません。同じ点群を別の担当者が処理したときに、同じ断面位置を設定できる情報が必要です。断面線の始点と終点、方向、基準座標、高さの基準、抽出幅、作成日、使用した点群の版などを残すことで、断面図を単なる図面ではなく、追跡可能な記録として扱えるようになります。
断面図作成前に整理しておく計測条件
断面図作成は点群処理の段階だけで完結する作業ではありません。現地計測の計画時点から、どの位置の断面が必要になるかを想定しておくことが重要です。断面を取りたい部分が一方向からしか見えない配置では、柱の裏側、石材の隙間、軒下、床下などに欠測が生じやすくなります。必要な輪郭を複数方向から捉えられるように、スキャン位置と高さを検討します。 文化財の周囲には、立入り制限、脆弱な床、触れてはいけない仕上げ面、公開動線などの制約があることも少なくありません。機材を置ける場所だけを基準に配置を決めるのではなく、文化財の管理者や保存担当者と作業範囲を確認し、安全と保護を優先する必要があります。標的や基準点を設置する場合も、文化財へ直接固定せず、設置方法について事前に承認を得ることが基本です。 点密度は、断面図で表したい形状の細かさを考えて設定します。建物全体の傾きを把握する断面と、小さな彫刻や細部形状を表す断面では、必要となる点間隔が異なります。ただし、設定上の点間隔だけで十分かどうかは判断できません。対象までの距離、レーザーの入射角、表面の反射特性、振動、位置合わせ誤差なども、実際に得られる点群の品質へ影響します。 色情報を利用する場合は、レーザーによる形状計測と写真による色付けを分けて考えます。周囲が暗くてもレーザー点を取得できる場合はありますが、色情報は照明条件や露出の影響を受けます。また、計測中に照明条件や移動物の状態が変わると、スキャン間で色の差が生じることがあります。断面形状の作成が主目的であれば、見栄えのよい色よりも、必要な面に十分な点が得られているかを優先して確認します。 現地では、スキャン位置、標的位置、基準点、計測日時、天候、機材高、対象の状態、開閉可能な建具の状態などを記録します。仮設足場や養生材がある場合は、それらを含む状態で計測したことも残します。この記録がないと、後処理で見つかった欠測や不自然な輪郭が、対象形状によるものか、計測時の遮蔽物によるものかを判断しにくくなります。
手順1 断面図の利用目的と対象範囲を決める
最初の手順は、断面図を何のために作るのかを明確にすることです。目的が曖昧なまま点群を切り出すと、見やすい位置だけが選ばれ、調査で確認すべき変状を捉えられない可能性があります。保存修理の設計資料、現況記録、構造検討、変状の経過観察、部材寸法の確認など、利用目的によって必要な断面の位置と表現範囲は変わります。 例えば、壁の膨らみを調べる場合は、変状が大きい位置だけでなく、比較対象となる比較的安定した位置にも断面を設定します。石垣の孕み出しを確認する場合は、石垣面に対しておおむね直交する方向で断面を取り、天端、法面、基部、前面地盤まで含めると、全体の関係を把握しやすくなります。柱の傾きを確認する場合は、柱だけを切り出すのではなく、床、梁、基壇などの基準になり得る部分も断面範囲に含めます。 断面位置は、対象物の見た目だけで決めず、平面上の座標や測点などによって定義します。建物であれば通り芯、柱芯、部屋境界などを基準にできる場合があります。石垣や遺構では、基準点からの距離や、既存図面に示された測線を利用する方法があります。既存図面を利用する場合は、その図面とTLS点群の座標系や縮尺が一致しているかを確認し、位置が不明確な線をそのまま断面基準にしないことが大切です。 断面の方向にも明確な根拠を持たせます。南北方向や東西方向とするのか、建物軸に直交させるのか、壁面の代表的な方向に直交させるのかによって、断面に現れる形状が変わります。曲面や不整形な石垣では、どの範囲の面を基準として方向を決めたかも記録します。 さらに、断面図へ含める範囲を決めます。対象部分だけを狭く切り出すと細部は見やすくなりますが、周辺との位置関係が分かりにくくなります。全体断面と詳細断面を分け、全体断面で位置関係を示したうえで、変状部の詳細を拡大する方法が有効です。目的、断面位置、方向、表示範囲を先に整理しておけば、その後の点群処理で必要以上に迷うことを防げます。
手順2 座標系と高さの基準を確認する
次に、点群がどの座標系と高さの基準で管理されているかを確認します。断面図を単年度の形状記録として使うだけであれば、現場独自のローカル座標でも作成できます。ただし、翌年度以降の点群と比較したり、既存の測量成果や設計図面と重ねたりする場合は、座標の定義が明確でなければなりません。 現場座標を設定する場合は、原点、各軸の方向、単位、高さの基準を記録します。単に「ローカル座標」とだけ記載しても、後から同じ座標を再現することは困難です。原点とした基準点の位置、X軸またはY軸を向けた方向、標高または仮の高さの基準値まで残します。文化財の敷地内で長期的に保持できる基準点を利用できる場合は、管理者と協議し、その点が移動や撤去の影響を受けにくいかも確認します。 公共測量などで定められた座標成果と関連付ける場合は、使用する座標参照系、標高の扱い、測量方法、基準点の成果を確認します。平面位置が合っていても、高さが別の基準で管理されていれば断面比較は成立しません。楕円体高、標高、任意高など、異なる種類の高さを混在させないようにします。必要な精度や手続きは業務の目的と適用される仕様によって異なるため、対象業務の測量計画や発注条件に従う必要があります。 点群を図面へ渡す際には、桁数や単位にも注意します。メートル単位の点群とミリメートル単位の図面をそのまま重ねると、尺度が大きく異なります。また、大きな座標値を持つ点群を別の処理環境へ読み込むと、表示や計算の都合で扱いにくくなることがあります。作業用に座標を平行移動する場合は、元の座標へ戻すための変換量を記録し、成果用データと混同しないように管理します。 断面図には、水平・鉛直方向の基準を読み取れる情報を持たせます。任意の回転を加えた表示だけを残すと、傾斜が実際のものか表示操作によるものか分からなくなります。断面上の水平基準、高さの値、断面を見る方向を示すことで、図面を受け取った人が形状を正しく解釈しやすくなります。
手順3 点群を整理して不要点と欠測を確認する
座標を確認したら、断面抽出に使う点群を整理します。TLS計測の点群には、文化財本体だけでなく、地面、植生、足場、養生材、通行人、車両、計測者などが含まれることがあります。複数の時刻に計測した点群を統合すると、移動した物体が重複して残る場合もあります。これらを確認せずに断面を作ると、不要物の輪郭を文化財の形状として線図化するおそれがあります。 最初に元の点群を変更せず保存し、処理用の複製データを作ります。元データへ直接削除や間引きを加えると、必要な点まで失ったときに元へ戻れません。原データ、位置合わせ後の統合点群、不要点処理後の点群、断面抽出用データを分け、処理段階が分かる名称を付けて管理します。 不要点の処理では、自動判定だけに依存しないことが重要です。孤立点や明らかな移動物は条件を設定して除去できることがありますが、細い彫刻、部材の角、石材の突出部などもノイズと似た分布を示す場合があります。文化財の微細形状を一律に平滑化すると、本来残すべき凹凸まで失われる可能性があります。自動処理後は対象を複数方向から表示し、元の点群や現地写真と照合します。 点群密度が極端に異なる部分も確認します。スキャナに近い面では点が密になり、遠い面や入射角の浅い面では点が疎になる傾向があります。複数スキャンが重なる部分だけ密度が高くなることもあります。密度を均一化するために間引く場合は、断面で必要な形状を保持できる設定かを小範囲で検証してから全体へ適用します。 欠測は、不足している点を自動的に補う対象ではなく、まず位置と原因を確認すべき情報です。レーザーが届かなかった裏側や奥まった部分を、周囲の点から推定して埋めると、実測形状と推定形状の境界が分からなくなります。図面として輪郭を連続させる必要がある場合でも、推定線や不明区間を実測線と区別できる表現にします。 この段階では点群の色だけでなく、反射の強弱、スキャン位置別の表示、点の密度などを切り替えて確認すると、不要点や欠測の原因を把握しやすくなります。色が自然に見える点群でも、異なる面が誤って重なっていることがあるため、見た目の連続性だけで品質を判断しないことが大切です。
手順4 複数の点群を位置合わせして精度を検証する
文化財全体の断面を作る場合、複数地点から取得した点群を一つの座標空間へ統合することが一般的です。この位置合わせにずれがあると、断面上で壁や柱が二重に見えたり、石材の輪郭が不自然に厚くなったりします。わずかなずれでも、微小な変形を調べる断面では無視できないことがあります。 位置合わせには、標的や基準点を利用する方法、重複部分の形状を利用する方法などがあります。どの方法を使う場合でも、処理結果として示される一つの誤差値だけで合否を決めるのは適切ではありません。誤差の算出対象、点の分布、標的の配置、対象物の形状によって、その値が表す意味が変わるためです。 標的を利用する場合は、標的が狭い範囲や一直線上へ偏らないように配置します。三次元的に広がりを持たせ、各スキャンから十分に観測できる位置を選びます。ただし、文化財に標的を直接貼り付けることは避け、許可された独立物や仮設支持物を利用します。標的の中心を正しく抽出できているか、別の標的を同一のものとして認識していないかも確認します。 形状による位置合わせでは、平らな壁面や同じ形が繰り返される柱列などで誤結合が起こる可能性があります。回廊の連続柱や石積みの似た部分では、見た目が自然でも一間分ずれていることがあります。基準点、固有形状、スキャン位置関係などを併用し、全体の整合性を確認します。 統合後は、重複部分を拡大して点の重なりを確認します。断面図を作る予定の位置だけでなく、上下、左右、奥行きの異なる箇所を見ます。壁面のような面では点と面の距離、柱や角部では輪郭の重なり、標的を設置した場合は残差を確認します。特定のスキャンだけが一方向へずれていないかも調べます。 位置合わせ精度は、計測対象と断面図の用途に照らして評価します。建物全体の概略断面を作る場合と、数ミリメートル程度の変化を検討する場合では、許容できる不確かさが異なります。要求精度より位置合わせの不確かさが大きい場合は、断面図の表示桁を増やしても判断精度は上がりません。再処理で改善できない場合は、その限界を成果に明記します。
手順5 断面位置とスライス厚を設定する
点群の整理と位置合わせが完了したら、断面位置を設定します。断面は厚さのない理論上の平面として定義できますが、実際の点群から形状を取り出すには、断面平面の前後に一定の幅を持たせて点を抽出することがあります。この幅がスライス厚です。 スライス厚を広くすると抽出される点が増え、疎な点群でも輪郭を追いやすくなります。しかし、前後にある異なる部材や凹凸が重なり、断面上の線が太く見えることがあります。石垣のように表面の凹凸が大きい対象では、複数の石材面が同じ位置へ投影され、どの点を輪郭として採用すべきか分かりにくくなります。 反対に、スライス厚を狭くすると、設定した断面に近い形状だけを抽出しやすくなりますが、点密度が不足して輪郭が途切れる場合があります。薄い部材や凹部では、必要な点が一つも抽出されないこともあります。そのため、固定した一つの厚さをすべての対象へ適用するのではなく、点密度、対象形状、断面図の縮尺、利用目的を考慮して設定します。 適切な厚さを決めるには、同じ断面位置で複数の厚さを試し、輪郭の広がり方を比較する方法が有効です。厚さを変えたときに輪郭位置が大きく変わる場合は、対象表面が断面方向に対して斜めであるか、凹凸が大きい可能性があります。このような部分では、単純な投影線だけで形状を表さず、点の分布幅や抽出条件も記録します。 断面平面の向きは平面図上で管理し、始点、終点、方向、見る側を定義します。例えば、同じ南北方向の断面でも、東を見る図と西を見る図では左右の解釈が変わります。断面図の左右端に方位や対応する位置情報を示し、閲覧者が方向を取り違えないようにします。 曲線状の文化財では、一枚の直線断面だけで全体を表せないことがあります。曲面に沿った展開と直断面は別の表現です。石造アーチ、円形塔、曲線石垣などでは、中心を通る放射状断面や一定角度ごとの断面を設定するなど、形状に適した切り方を選びます。各断面の基準が異なる場合は、断面番号だけでなく、平面上の配置図によって位置関係を示せるようにします。
手順6 抽出した点群から断面形状を線図化する
断面付近の点を抽出したら、点の集合から輪郭を読み取り、線図として整理します。抽出点をそのまま表示する点群断面は、実測点の分布を確認するうえで有効です。一方、図面として寸法や変状位置を示す場合は、点の分布を参考に断面線を作成する必要があります。 線図化では、点群の外縁を機械的につなげればよいとは限りません。不要な孤立点が一つあるだけで輪郭が外側へ引かれることがあります。また、表面の粗い石材では、最も外側の点を結んだ線と、平均的な表面を表す線とで意味が異なります。断面図の目的に応じて、表面の微細な凹凸を残すのか、部材全体の代表形状を表すのかを決めます。 文化財の現況記録では、過度な平滑化を避ける必要があります。線を滑らかにしすぎると、劣化、欠損、孕み出し、目地の開きなど、記録すべき特徴が消える可能性があります。逆に、点のばらつきをすべて細かな折れとして線へ反映すると、計測ノイズを実形状として表現してしまいます。元の点群を背景に表示しながら、線と点のずれを確認し、採用した線図化の考え方を統一します。 壁面や床面の傾きを評価する場合は、代表的な面や基準線を設定して距離を確認できます。ただし、最適化によって求めた基準面は、必ずしも設計上の鉛直面や過去の状態を表すものではありません。変形した面全体へ基準面を当てはめると、変形の影響を受けて基準自体が傾くことがあります。鉛直、水平、既存の通り芯、安定部など、どの基準で偏差を示したかを明確にします。 点が欠けた部分では、線を無理に連続させません。周囲の形状から補間する場合は、実測点に基づく区間と推定区間を区別します。写真や既存図面を参考にした場合も、TLS点群だけから得た形状ではないことを示します。断面線が閉じて見えることより、情報の由来が追跡できることのほうが重要です。 作図後は、断面線を三次元点群へ戻して位置を確認します。二次元画面上では自然に見える線でも、元の三次元空間では異なる奥行きの点をつないでいる場合があります。特に複雑な彫刻、組物、重なりの多い部材では、前面と背面を取り違えないように、斜め表示やスキャン位置別表示も使って確認します。
手順7 注記と品質情報を加えて成果を保存する
最後の手順は、断面図へ必要な注記と品質情報を加え、再利用できる形で保存することです。輪郭線だけの断面図では、いつ、どの点群から、どの条件で作ったのかが分かりません。後年の担当者が同じ断面を再作成できるように、図面と処理情報を関連付けて管理します。 断面図には、断面名称、断面位置、見る方向、縮尺、座標値、高さの基準、作成日、計測日などを記載します。スライス厚を設定した場合は、その値も残します。点群を間引いた場合や平滑化した場合は、処理の有無と考え方を記録します。欠測、推定線、遮蔽物の影響がある範囲については、図面上で判別できるようにします。 寸法を記入する場合は、点群の精度や線図化方法に見合った表示桁とします。計測、位置合わせ、断面抽出、線図化に不確かさがあるのに、必要以上に細かい桁まで表示すると、実際以上に高い精度があるように受け取られる可能性があります。使用目的に応じて有効な桁を決め、同じ図面内で単位を統一します。 成果は、閲覧用の断面図だけでなく、編集可能な線データ、断面抽出前の統合点群、断面位置を示す三次元データ、処理記録も保存します。閲覧用図面だけでは、将来スライス厚を変更したり、別の基準で線を引き直したりできません。原データから成果までの関係を保つことで、調査目的の変化にも対応しやすくなります。 ファイル名には、対象名、計測日、断面番号、データ段階、版などを含めます。同じ名称のファイルを上書きし続けると、どの断面図が最終成果か分からなくなるだけでなく、過去の処理へ戻れなくなります。修正日と修正内容を記録し、旧版を保持する運用を定めます。 納品や共有の前には、別の担当者による確認も有効です。断面位置が平面図と一致しているか、見る方向が正しいか、座標と高さの表記に誤りがないか、欠測を実測線として描いていないかを確認します。作成者には自然に見える図面でも、第三者が見ると基準や注記が不足していることがあります。
断面図の誤差を大きくする主な原因
TLS点群から作成した断面図には、複数の段階で誤差や不確かさが加わります。機器単体の測距性能だけを見ても、最終的な断面図の品質を判断することはできません。対象までの距離、レーザーの入射角、表面の状態、スキャン配置、位置合わせ、座標変換、点群処理、スライス厚、線図化などを総合的に確認する必要があります。 入射角が浅い面では、レーザーが表面をかすめるように当たり、点が疎になったり、奥行き方向のばらつきが目立ったりすることがあります。光沢のある面、暗色面、濡れた面、細かな凹凸を持つ面などでも、取得状況が変わる可能性があります。反射特性の影響は対象や計測条件によって異なるため、材質名だけから測定可否を断定せず、現地で点の分布を確認します。 スキャナ周辺の振動や据付状態も影響要因です。交通振動のある場所、柔らかい床、仮設足場などに機材を置く場合は、安定した設置位置を検討します。計測中に三脚へ触れたり、床が大きく揺れたりした場合は、そのスキャンを他のデータと比較し、異常がないか確認します。 位置合わせの偏りも大きな原因になります。全体の平均的な残差が小さくても、断面を作る範囲だけがずれていることがあります。位置合わせに使った範囲から遠い部分や、細長く連続する空間では、誤差が徐々に蓄積している可能性があります。断面位置の周辺で直接重なりを確認することが重要です。 断面方向のわずかな違いも、形状差として現れます。斜めに傾いた壁や不整形な石積みを切る場合、断面位置が少し横へ移動しただけで輪郭が変わります。時系列比較で見られる差が文化財の変化なのか、断面位置の違いなのかを区別するには、断面平面を座標で再現する必要があります。 線図化では、作業者による判断差が生じます。同じ点群でも、最外縁を採用するか、代表面を採用するか、凹部をどこまで追うかによって断面線が変わります。複数時期を比較する場合は、処理担当者が変わっても同じ基準で線図化できるように、作図ルールを文章で残します。 断面図の品質を高めるには、誤差を完全になくすことよりも、どの段階にどの程度の不確かさがあるかを把握し、用途に対して十分かを判断することが重要です。断面図だけで変状を断定せず、現地観察、写真、既存図面、必要に応じた他の計測結果と組み合わせて評価します。
時系列比較に使える断面図の管理方法
TLS点群から作る断面図は、同じ文化財を継続的に計測することで、変化を追跡する資料として活用できます。ただし、計測時期ごとの断面を並べるだけでは、正しい比較になるとは限りません。座標、高さ、断面位置、抽出条件、線図化条件をそろえる必要があります。 初回計測では、将来の再計測を想定して基準を設定します。断面線の座標、方向、延長、見る側、スライス厚を保存し、次回は同じ定義を読み込んで点群を抽出します。平面図上に断面位置を描くだけでなく、断面平面そのものを再利用できるデータとして保持すると、再現性を高められます。 各時期の点群は、安定していると判断した共通基準へ位置合わせします。変状している可能性がある部位を位置合わせの基準にすると、本来検出したい変化が相殺されることがあります。どの部分を不動と仮定したかを明記し、その仮定が妥当かを現地状況や他の測量結果から確認します。 比較用の断面線は、できるだけ同じ処理条件で作ります。一方の点群だけ強く平滑化したり、異なる厚さで抽出したりすると、処理差が形状差として表れます。点密度が年度ごとに異なる場合は、無理に同じ見た目へ整えるのではなく、各データの点密度や欠測状況を併記します。 差が見つかった場合は、断面図上の距離だけで直ちに変状と判断しません。位置合わせ誤差、点のばらつき、抽出位置、遮蔽物、含水状態などを確認します。差が計測の不確かさより十分に大きく、複数の断面や周辺点群でも同じ傾向が見られるかを検討します。重要な変化が疑われる場合は、文化財の保存担当者や構造・材料分野の専門家と共有し、追加調査の要否を判断します。 断面図の比較履歴には、差がなかった時期も含めて保存します。異常が見つかったデータだけを残すと、変化がいつ始まったのかを追えません。計測時の状態、工事、災害、公開状況、仮設物の有無なども記録しておくと、後から差の原因を検討しやすくなります。
まとめ
TLS点群から文化財の断面図を作るには、断面線を設定して輪郭を出力するだけでなく、利用目的、座標系、点群品質、位置合わせ、スライス厚、線図化、保存方法まで一連の工程を管理する必要があります。 最初に断面図の目的と対象範囲を定め、再現可能な座標と高さの基準を確認します。次に、元データを保持したまま不要点や欠測を整理し、複数スキャンの位置合わせ精度を断面予定位置の周辺で検証します。そのうえで断面位置とスライス厚を設定し、点群の分布を確認しながら必要な形状を線図化します。最後に、断面方向、抽出条件、欠測、推定部分、処理履歴などを記録し、点群と図面を関連付けて保存します。 文化財は、材質、形状、周辺環境、立入り条件が対象ごとに異なります。そのため、すべての現場へ同じ点密度やスライス厚を機械的に適用するのではなく、断面図の目的と必要精度に応じて条件を決めることが大切です。また、断面図だけで劣化や構造上の問題を断定せず、現地観察や他の調査記録と組み合わせて評価する必要があります。 継続的な状態記録を目指す場合は、初回から断面位置、座標、方向、処理条件を再利用できる形で残しておくことが重要です。適切に管理されたTLS点群と断面図は、現況把握だけでなく、保存修理の計画、施工前後の確認、災害後の調査、長期的な変状監視にも役立ちます。 大規模なTLS計測を補完しながら、現場で位置情報や周辺状況を機動的に記録したい場合は、用途と必要精度を確認したうえで、LRTK Phoneの活用も検討してみてください。