文化財の保存修理や劣化調査では、地上型レーザースキャナーを用いるTLS計測によって、建物や石造物の形状を三次元点群として記録できます。しかし、修理用の足場が組まれた現場では、支柱、水平材、筋交い、作業床、養生材などがレーザーを遮り、文化財表面に点が届かない領域が生じやすくなります。 足場が写り込むこと自体は避けにくいものの、文化財表面の欠測まで避けられないとは限りません。スキャナーの設置位置、高さ、向き、移動経路を計画し、複数方向から観測すれば、足場部材の背後を補完できる可能性があります。一方で、設置点数を増やすだけでは、同じ方向から似た死角を繰り返し計測したり、点群の位置合わせが不安定になったりすることがあります。 本記事では、「TLS 文化財 計測」で情報を探している実務担当者に向けて、足場が多い現場で死角を減らす5つの配置術を解説します。文化財への接触を避け、安全管理や保存修理工程との調整を行いながら、必要な範囲を効率よく記録するための考え方を整理します。
足場がTLS文化財計測の死角を生む理由
TLSは、スキャナーから照射したレーザーが対象物に当たり、戻ってきた信号を利用して対象物までの距離や方向を計測します。そのため、スキャナーと文化財表面の間に足場部材があると、レーザーは足場に先に当たり、その背後にある面まで届きません。写真であれば隙間越しに見えているように感じる場所でも、レーザーの照射方向や足場部材の太さによっては、点群がほとんど取得できないことがあります。 特に死角が生じやすいのは、支柱と文化財表面が近接している場所、作業床の上下、筋交いが交差する位置、シートやネットで覆われた区画です。庇の下面、軒裏、柱の背面、彫刻の奥まった部分、石材の継ぎ目など、もともと遮蔽の影響を受けやすい形状では、足場が加わることで欠測範囲がさらに広がります。 レーザーは直進するため、一つの設置位置から見えない場所を、その位置のまま設定変更だけで取得することはできません。点密度を高くしても、遮蔽物の背後にレーザーが回り込むわけではないため、根本的な対策は観測方向を変えることです。足場が多い文化財のTLS計測では、スキャン設定だけでなく、設置位置の組み合わせが成果の完全性を左右します。 一方、観測点を増やせば必ず良い成果になるわけでもありません。設置点が多くなるほど現場作業とデータ処理の負担が増え、足場上での機材移動による安全上のリスクも高まります。多数の点群を取得しても、位置合わせに使える共通部分が少なければ、一体化した点群の整合性を確保しにくくなります。 重要なのは、文化財のどの面を、どの程度の細かさで、何のために記録するのかを先に決めることです。そのうえで、欠測が成果に与える影響を評価し、必要な方向だけを追加する配置計画を立てます。
配置前に計測目的と必要範囲を明確にする
配置を検討する前に、TLS計測の目的を関係者間で共有します。建物全体の形状記録、修理前後の比較、部材の変形確認、図面作成、施工管理、保存記録など、目的によって必要な範囲と点密度は異なります。外形を把握することが目的であれば、足場部材の裏側に生じる小さな欠測が成果へ及ぼす影響は限定的な場合があります。彫刻や仕上げ面の状態記録が目的なら、小さな欠測でも再計測が必要になる可能性があります。 まず、平面図、立面図、足場計画図、施工工程表などを確認し、計測対象と足場の位置関係を整理します。ただし、計画図と実際の足場が一致しているとは限りません。現地では、補強材、昇降設備、資材、養生材、仮設照明などが追加されている場合があります。計測当日の状態を目視で確認し、図面だけに依存せず配置を修正できる余地を残しておくことが大切です。 必要範囲は、「計測する面」と「計測しなくても成果に大きく影響しない面」に分けて考えます。さらに、必ず取得したい箇所、可能であれば取得したい箇所、他の記録方法で補える箇所というように優先度を設定すると、現場で配置変更が必要になったときに判断しやすくなります。 足場の組み替えや解体が予定されている場合は、工程ごとに見える範囲が変わります。一度にすべてを取得しようとせず、足場の設置前、使用中、部分解体後、全体解体後などに記録を分ける方法も有効です。ただし、時期の異なる点群を比較または統合する場合は、文化財や仮設物の状態が変化している可能性を考慮しなければなりません。共通基準点や不動と判断できる範囲を確保し、計測日時と現場状態を記録しておきます。 設置候補点を決める際は、スキャナーから対象面までの距離だけでなく、足場部材との位置関係、入射角、作業員の通行、床の安定性、機材の運搬経路を確認します。文化財計測では、取得量を増やすことよりも、対象を傷つけず安全に記録することが優先されます。管理者、保存修理担当者、足場管理者などと調整し、立ち入り可能範囲や作業時間を明確にしてから配置計画を確定します。
配置術1 足場の正面ではなく斜め方向から狙う
足場が組まれた壁面を正面から計測すると、支柱や筋交いの投影範囲が文化財表面に重なりやすくなります。支柱のすぐ後ろにある面は縦長に欠測し、水平材や作業床の後ろには帯状の欠測が生じます。そこで、同じ面を正面だけでなく、左右の斜め方向から観測する配置を検討します。 右斜めから計測したときに支柱の背後となる部分でも、左斜めからは見える場合があります。反対方向の点群を重ねることで、一方の遮蔽範囲をもう一方が補完できます。単に設置位置を少し横へずらすだけでは視線方向がほとんど変わらないため、対象面に対する角度が十分に変わる位置を選ぶことが重要です。 ただし、斜め方向からの計測では、対象面への入射角が浅くなるほど点の間隔が広がり、表面の取得状態が不均一になることがあります。形状、材質、表面状態、使用機器、距離、環境条件によって取得結果は変わるため、極端な斜め方向だけに頼るのは避けます。正面に近い観測を基準とし、その点群で隠れる部分を左右の斜め観測で補う構成が基本です。 観測点は、足場部材を基準に決めるのではなく、文化財表面への見通しを基準に決めます。例えば、二本の支柱の間から壁面を狙える場合でも、その中央にスキャナーを置くと、奥の筋交いが対象面を遮ることがあります。設置予定位置で目線をスキャナーの高さに合わせ、文化財の必要範囲がどの部材によって遮られるかを事前に確認します。 彫刻や柱形など凹凸の大きな対象では、足場による死角だけでなく、対象物自身が作る自己遮蔽にも注意します。正面から見える彫刻の中央部でも、側面や奥行き部分は欠測することがあります。この場合、足場の左右から交差するように観測し、凹部へ異なる方向からレーザーが入る配置を選びます。 斜め配置を増やす際には、隣接する点群同士に十分な共通範囲を残します。欠測部分だけを狙った狭い追加計測では、位置合わせに使える形状が不足する可能性があります。追加観測でも周辺の柱、壁、床、足場部材などを含め、既存点群と対応を確認できる範囲を取得しておくことが大切です。
配置術2 高さの異なる観測点を組み合わせる
足場には水平材や作業床があるため、同じ高さの観測点だけを並べると、同じ帯状の欠測が複数の点群に残ることがあります。水平方向の移動だけでは作業床の上面や下面に届かない場合があるため、上下方向にも観測位置を変えます。 地上からの観測では、作業床より上にある壁面や軒裏が隠れやすくなります。一方、足場上からの観測では、足元に近い位置や作業床の直下が見えにくくなります。地上、足場の中段、必要に応じた上段など、高さの異なる点群を組み合わせれば、水平材や床による遮蔽を上下から補完できる可能性があります。 高さを変える際は、三脚を最大まで伸ばすことだけを対策にしないよう注意します。高くした三脚は重心が上がり、狭い足場や振動のある床では安定性が低下します。足場上では通行や作業による微振動が生じる可能性もあるため、設置床の状態、三脚脚部の接地、周囲の作業状況を確認し、必要以上に高い設置を避けます。 低い位置から上向きに観測する方法もありますが、レーザーが作業床の裏面に遮られたり、対象面へ浅い角度で当たったりすることがあります。高所から下向きに観測する場合も同様で、床や手すり、資材が視線を妨げる可能性があります。上下の配置は、単に高さを変えるのではなく、遮蔽物の上下端を越えて対象面が見えるかどうかで判断します。 観測高さを変えると、文化財表面の見え方だけでなく、点群の位置合わせに利用できる共通範囲も変化します。下段と上段の間に作業床があると、両方の点群に写る固定形状が少なくなる場合があります。そこで、中間の観測点を設けたり、上下の区画から共通して見える基準物を配置したりして、点群を連続的につなげます。 基準物を用いる場合は、文化財へ直接貼付したり、表面に接触させたりしてはいけません。設置方法と位置は管理者の承認を受け、足場や独立した支持物など、許可された場所を使用します。足場自体が作業中に移動、変形、組み替えされる可能性がある場合は、足場上の基準物だけを長期間の不動点として扱わないようにします。 高さの異なる観測は、欠測を減らす一方で、機材運搬や落下防止の管理を複雑にします。足場上への持ち込みが許可されているか、床の許容条件を満たすか、昇降経路を安全に通れるかを事前に確認します。高所からの計測が難しい場合は、足場の工程に合わせて見える時期に計測するなど、配置以外の方法も含めて検討します。
配置術3 足場区画の境界と開口部を利用する
足場は支柱や水平材によって一定の区画に分かれています。区画の中央だけに観測点を置くと、両側の支柱や筋交いに挟まれ、視野が限られることがあります。そこで、区画の境界付近、昇降部、搬入口、作業床の開口部など、比較的見通しを確保しやすい位置を活用します。 区画の境界では、隣接する二つの区画を異なる方向から見られる場合があります。一つの設置点で広い範囲を取得しやすくなる一方、通行動線と重なりやすいため、作業員の移動を妨げない位置を選ぶ必要があります。計測中だけ一時的に通行を調整する場合も、現場責任者との合意を得てから実施します。 開口部を使うと、通常は作業床に遮られる上下の区画をつなげて観測できることがあります。ただし、開口部の周囲には転落防止設備や昇降設備があり、スキャナーを安全に固定できない場合があります。見通しが良いことだけを理由に設置せず、足場の使用ルールと安全設備を優先します。 足場の外側にシートやネットがある場合は、シート越しの計測を前提にしないことが重要です。材質や網目によっては文化財表面の点が部分的に取得されることがありますが、ノイズ、欠測、反射状態の変化が生じる可能性があります。シートを一時的に開閉できるかどうかは現場管理上の判断となるため、計測担当者が独断で動かしてはいけません。 開口部から狙う場合は、その隙間の大きさだけでなく、対象面までの視線が途中で遮られないかを確認します。手前の開口を通過しても、奥側の筋交い、仮設照明、配線、資材などに遮られることがあります。スキャナーの位置から対象面までを一つの視線として確認し、途中にあるすべての仮設物を把握します。 足場の区画を利用した配置では、計測済みの区画と未計測の区画が分からなくなりやすいため、区画番号や階層番号と観測点名を対応させます。現場メモには、設置位置、スキャナーの高さ、主な観測方向、遮蔽物、取得できなかった範囲を記録します。点群データの名称にも同じ規則を用いれば、処理段階で各観測点の位置関係を追いやすくなります。 また、足場の開口部は工程中に閉鎖されたり、資材でふさがれたりすることがあります。重要な観測方向を開口部に依存する場合は、計測当日の状態を事前に確認します。見通しが失われた場合に備え、代替の設置候補も用意しておくと、現場での判断が早くなります。
配置術4 文化財の周囲を閉じるように観測点を配置する
文化財の片側から順番に観測点を延ばしていく配置では、足場の遮蔽が同じ方向へ重なり、反対側の形状を補えないことがあります。また、点群の位置合わせを隣接点だけに頼ると、長い建物や回廊状の対象では、終端へ進むほど全体の整合性を確認しにくくなる場合があります。 可能であれば、文化財の周囲を一方向に進むだけでなく、始点と終点が再びつながるような観測経路を計画します。建物を囲めない場合でも、外周、内部、足場上などの経路を複数箇所で接続し、点群のつながりを確認できる構成にします。 周囲を閉じる配置には、死角の補完と位置合わせの確認という二つの役割があります。文化財の正面で隠れた面を側面や背面から取得できるほか、別の経路から戻ってきた点群が共通部分で整合するかを確認できます。ただし、閉じた経路を作っただけで精度が保証されるわけではありません。基準点、共通形状、位置合わせの残差、既知の寸法などを用いて、成果が目的に適しているかを確認する必要があります。 建物の四隅は、二つの立面を同時に観測できるため、点群をつなぐうえで有用な場合があります。しかし、足場のコーナー部には支柱や筋交いが集中し、見通しが悪くなることもあります。角の一点に頼らず、角を挟んだ両側に観測点を設け、立面間に十分な共通範囲を持たせます。 長い立面では、一定間隔で機械的に設置するよりも、足場部材の重なり方が変わる場所を選ぶことが効果的です。同じ間隔で並べても、支柱の列とスキャナーの位置関係がほぼ同じであれば、同一箇所の欠測が残ります。設置点ごとに左右または前後へ位置を変え、遮蔽の投影位置をずらします。 建物の周囲に十分な空間がない場合は、完全な環状配置にこだわる必要はありません。中庭、開口部、建物内部、足場の外周などを使い、複数の経路が少なくとも数箇所で接続する配置を目指します。重要なのは、どこか一つの観測点や細い接続部分が失われただけで、点群全体が分断されないようにすることです。
配置術5 足場内と足場外の点群を橋渡しする
足場内からの近距離計測は、細部を取得しやすい一方で、一回の計測範囲が足場部材によって細かく分断されます。足場外からの計測は、文化財全体と足場の位置関係を広く把握しやすいものの、遠距離になるほど必要な細部を十分に記録できない場合があります。この二つを役割分担させ、外側の広域点群と内側の詳細点群を橋渡しする配置が有効です。 まず足場外から、建物全体、周辺地形、足場外形などを含む広い範囲を取得します。次に足場内で、外側から欠測した文化財表面や詳細部を複数方向から計測します。このとき、内側の点群が文化財の一部分だけにならないよう、外側の点群にも含まれる安定した形状や基準物を併せて取得します。 足場のシートによって内外が完全に分かれている場合、同じ形状を両側から取得できないことがあります。その状態で別々の点群を無理に形状合わせすると、似た部材を誤って対応させるおそれがあります。足場の入口、開口部、地上部、建物内部など、内外から共通して観測できる場所を探し、橋渡し用の観測点を設けます。 足場部材を位置合わせに利用することはできますが、計測中に部材が動いていないことが前提です。作業員の通行、資材の搬入、シートの風揺れ、足場の組み替えなどがあると、同じ足場でも時刻によって位置や形状が変わる可能性があります。文化財本体や地盤上の安定した基準を利用できる場合は、それらを優先します。 内外の点群を取得する日時が異なる場合は、足場や資材の状態だけでなく、扉、建具、養生、修理中の部材などの変化にも注意します。動いた対象を固定形状として位置合わせに使うと、局所的なずれを点群全体へ広げてしまう可能性があります。計測日時、工程、変更箇所を記録し、変化していない範囲を選んで統合します。 橋渡し用の観測点は、内外両方の点群と十分に重なる位置に置きます。単に一つの基準物が共通して見えるだけでは、回転や傾きの判断が不安定になることがあります。立体的に分布した複数の基準物や、特徴の異なる面を含め、位置と姿勢を確認しやすい共通範囲を確保します。 この配置により、足場外の点群は全体形状を管理する骨格として、足場内の点群は細部を補うデータとして利用できます。すべての観測点を同じ条件で取得しようとするのではなく、全体記録と詳細記録の目的を分けることで、必要な品質と作業量のバランスを取りやすくなります。
現場で欠測を見つける確認方法
死角対策では、配置計画だけでなく、現場で取得結果を確認する工程が重要です。事務所へ戻ってから欠測に気づいても、足場の状態が変わっていたり、再入場できなかったりすることがあります。可能な範囲で計測直後に点群を確認し、必要な追加観測をその場で判断します。 確認するときは、点群全体を一方向から見るだけでは不十分です。正面、側面、上方、下方など複数方向から表示し、点が抜けている場所を探します。足場部材が密集した状態では、足場の点が文化財表面を覆い、奥の欠測が見えにくくなります。表示範囲を絞り、断面表示や視点変更を使って、文化財表面に点が存在するかを確認します。 点群に色が付いている場合でも、画像の見た目だけで取得の有無を判断しないようにします。写真では文化財表面が見えていても、対応する三次元点が存在しないことがあります。反対に、点は取得できていても、表示密度や足場の重なりによって見えにくい場合があります。必要な面に三次元座標を持つ点が分布しているかを確認します。 欠測確認用の簡易図を用意し、立面や区画ごとに取得状況を記録すると、追加配置を判断しやすくなります。点群が十分な範囲、密度が低い範囲、完全に欠測している範囲、別工程で取得する範囲を区別します。現場写真と観測点名を対応させておけば、処理担当者が後から欠測の原因を把握しやすくなります。 追加観測では、欠測部分へ単純に近づくのではなく、なぜ点が届かなかったのかを確認します。支柱が原因なら左右へ移動し、作業床が原因なら上下方向を変え、対象自身の凹凸が原因なら反対側から狙います。原因と異なる方向へ移動しても、同じ死角が残る可能性があります。 また、取得できた点の量だけでなく、複数点群の重複状態も確認します。欠測を埋める追加点群が取得できても、既存点群との共通部分が少なければ統合に苦労します。追加計測時には、欠測部の周辺を広めに含め、位置合わせと検証に使える重複範囲を確保します。
足場を含む点群を処理する際の注意点
足場が多い現場の点群には、文化財本体よりも手前に多数の仮設部材が記録されます。処理段階では、足場を除去して文化財表面を見やすくする作業が必要になる場合があります。ただし、自動処理だけで文化財と足場を完全に分離できるとは限りません。足場が文化財へ接近している場所では、誤って文化財側の点を削除する可能性があります。 足場を除去する前に、元データを保持し、編集後のデータと区別します。処理履歴には、削除対象、選択方法、処理範囲、担当者、日時などを記録しておきます。保存記録として利用する場合は、見やすく加工した点群だけでなく、取得時の状態を残したデータも管理することが望まれます。 複数の観測点を統合するときは、全体の位置合わせ結果だけでなく、文化財表面の局所的な重なりを確認します。足場部材が多い点群では、規則的な支柱や水平材が似た形状として繰り返されるため、誤った位置で一致しても処理上は一定の整合を示す可能性があります。文化財の固有形状、安定した基準物、異なる方向に配置された複数の特徴を使って確認します。 反射強度や色の違いだけで、材質、汚れ、劣化状態を断定しないことも大切です。レーザーの入射角、距離、表面状態、湿潤、照明、撮影条件などによって見え方が変わります。点群は形状記録として有用ですが、変色や劣化の評価には目視調査、写真記録、専門家による診断などを併用します。 点群の密度は、すべての面で均一になるとは限りません。斜め方向から取得した面、観測距離が長い面、足場の隙間越しに取得した面では、点の分布が粗くなることがあります。成果を断面図や立面図へ利用する際は、欠測だけでなく点密度の偏りも確認し、目的に必要な形状を表現できるか判断します。 位置合わせ後には、基準点との差、共通面のずれ、断面上の二重化、既知寸法との整合などを確認します。数値が小さいことだけで成果全体を判断せず、重要箇所に局所的なずれがないかを見ます。許容できる誤差は計測目的、対象規模、成果仕様、使用機器、現場条件によって異なるため、事前に関係者間で確認基準を設定します。
文化財計測で優先すべき安全と保存上の配慮
文化財のTLS計測では、点群の完全性よりも、人の安全と文化財の保護が優先されます。死角を減らすためであっても、立入禁止区画へ入る、手すりを外す、足場部材を動かす、許可なく養生を開くといった行為は避けなければなりません。必要な変更がある場合は、現場責任者や文化財管理者の判断を受けます。 三脚の脚先や機材が文化財へ接触しないよう、設置時と移動時の両方で距離を確保します。狭い足場では、三脚を広げると通路をふさぐことがあります。作業員が無理に避けて通ることで、機材への接触や転倒が起きる可能性もあるため、計測範囲を一時的に区画するなどの管理が必要です。 足場上では落下物対策を徹底します。機材本体だけでなく、付属品、工具、基準物、記録用品なども落下する可能性があります。固定方法は現場の安全ルールに従い、固定具が文化財や足場機能へ影響しないことを確認します。機材を手に持ったまま不安定な姿勢で昇降することも避けます。 足場の床は、地上のように完全に静止しているとは限りません。作業員の歩行、資材運搬、風、周辺作業などによる揺れが計測へ影響する場合があります。計測中の通行を調整し、振動が収まったことを確認してから取得します。スキャン中に大きな揺れや接触があった場合は、取得結果を確認し、必要に応じて再計測します。 レーザーを使用する機器については、取扱説明や現場の安全管理方針を確認し、人の目線に向けた不適切な設置を避けます。見学者や他職種の作業員が出入りする場所では、計測中であることを周知します。文化財施設の公開を継続しながら計測する場合は、来訪者の動線と機材配置を明確に分離します。 計測時の照明、仮設電源、配線も安全管理の対象です。通路を横断する配線はつまずきの原因となり、文化財へ接触するおそれもあります。必要な電源方式と稼働時間を事前に確認し、途中で頻繁な機材移動や電池交換が生じない運用を計画します。
TLSとLRTK Phoneを役割分担して記録を補う
足場が多い文化財では、TLSだけですべての情報を一度に取得しようとすると、設置点数と処理量が増えやすくなります。そこで、広範囲を高密度に記録するTLSと、現場で機動的に情報を残す手段を役割分担させる考え方が有効です。 TLSは、文化財全体の三次元形状、部材の位置関係、修理前後の比較に使う基礎データの取得に適しています。一方、現場写真、欠測位置の記録、観測点の位置確認、足場区画ごとの進捗管理などは、携帯しやすい機器で補助すると作業を整理しやすくなります。 LRTK Phoneを活用する場合は、現場条件に応じて位置情報付きの記録や周辺状況の把握を補助できます。ただし、足場内、建物内部、屋根の下、壁際などでは、衛星からの信号が遮られたり反射したりし、測位状態が安定しないことがあります。高精度と表示されている状態だけで座標の正しさを判断せず、既知点との照合、測位状態、観測時間、周辺遮蔽物などを確認する必要があります。 衛星測位が利用しにくい場所では、LRTK Phoneの記録をTLS点群の基準として無条件に使用するのではなく、区画名、写真、時刻、作業内容、欠測位置などを結び付ける現場記録として活用する方法があります。足場外の見通しが比較的良い場所で位置を確認し、足場内ではその記録と観測点名を対応させれば、点群処理時の追跡性を高められます。 TLSの観測点名、現場写真、欠測確認図、LRTK Phoneで取得した記録に共通の番号を付けておくと、どの位置から、どの文化財面を、どの工程で計測したかを確認しやすくなります。三次元点群と現場記録を単に保存するだけでなく、相互に参照できる形で整理することが重要です。 また、TLSを設置しにくい狭所を別の計測手段で補う場合も、異なる方法で取得したデータが同じ精度や性質を持つとは限りません。計測方法、座標の根拠、取得日時、想定用途を区別し、成果へ統合する前に整合性を確認します。LRTK Phoneを含む補助的な記録手段は、TLSを置き換えるものとして一律に扱うのではなく、現場条件に応じて不足情報を補う役割として組み合わせます。
まとめ
足場が多い文化財のTLS計測では、支柱、水平材、筋交い、作業床、養生材などがレーザーを遮り、文化財表面に死角が生じます。点密度を高くするだけでは遮蔽物の背後を取得できないため、異なる方向と高さから観測する配置計画が必要です。 第一の配置術は、対象面を正面からだけでなく左右の斜め方向から狙い、支柱や筋交いの背後を相互に補うことです。第二は、地上、中段、上段など高さの異なる観測点を組み合わせ、水平材や作業床による帯状の欠測を上下から補うことです。 第三は、足場区画の境界や開口部を利用し、複数区画へ見通しを確保することです。第四は、文化財の周囲を閉じるように観測経路を構成し、反対方向からの補完と点群全体の整合確認を行うことです。第五は、足場外の広域点群と足場内の詳細点群を、共通範囲や基準物を通じて確実に橋渡しすることです。 実務では、設置点数の多さよりも、それぞれの観測点がどの死角を補うのかを明確にすることが重要です。計測目的と必要範囲を事前に定め、現場で取得結果を確認し、欠測原因に応じて追加位置を選びます。点群処理時には、足場の誤除去、類似形状による誤った位置合わせ、点密度の偏りにも注意が必要です。 そして、死角を減らすための配置であっても、安全設備の変更や文化財への接触を伴ってはいけません。現場責任者や文化財管理者と調整し、立入範囲、足場の安定性、通行、振動、落下防止を確認したうえで計測します。 TLSによる全体形状の取得に加え、LRTK Phoneで観測点、欠測位置、写真、工程などの現場記録を関連付ければ、複雑な足場内でも計測状況を整理しやすくなります。まずは対象面と足場の位置関係を確認し、5つの配置術を使って必要な観測方向を設計したうえで、LRTK Phoneを含む記録手段を適切に組み合わせてみてください。