法面緑化は施工後の維持管理まで含めて計画する
法面緑化は、種子や植生基材を施工して植物が発芽すれば完了する工事ではありません。施工後に植物が定着し、降雨や乾燥、風、表面流、凍結融解などの影響を受けながら植生群落を形成し、法面表層の保護に寄与する状態を目指す必要があります。そのため、施工直後の見栄えだけで成否を判断せず、中長期的な維持管理計画をあらかじめ組み立てておくことが重要です。
施工後しばらくは発芽や生育が順調に見えても、季節が変わると一部が枯れたり、植生基材が薄くなった場所から裸地が広がったりすることがあります。降雨後の表面流によって基材が流亡したり、湧水の影響で過湿になったり、日射の強い場所だけ乾燥が進んだりするケースもあります。こうした変化を放置すると、植物の衰退だけでなく、表土の流出、小規模な侵食、排水施設への土砂流入などにつながり、再荒廃を招く可能性があります。
枯れ戻りとは、施工後に一度成立したように見えた植生が、その後の環境変化や生育条件の不足によって衰退する状態を表す言葉として用いられます。原因は単純な水不足だけではありません。植物の選定、播種時期、基材厚さ、肥料条件、法面方位、土質、湧水、排水、動物による食害、周辺植生との競争など、複数の要因が重なって発生することがあります。
維持管理計画では、単に草刈りや追肥の時期を決めるのではなく、どのような状態を目標とし、どこを、いつ、誰が確認し、異常を発見したときにどの段階で対応するかを整理します。さらに、点検記録を継続して比較できる仕組みを整え、施工時の情報と管理時の情報を結び付けることが求められます。
法面緑化の維持管理を適切に進めるためには、植生の状態だけを観察するのでは不十分です。法肩から流れ込む水、法面内の湧水、排水溝の詰まり、植生基材の亀裂、浮き、流亡、法尻への土砂堆積なども含め、法面全体を一つの構造として確認する必要があります。ここからは、枯れ戻りと再荒廃を防ぐために押さえておきたい6つの要点を解説します。
要点1 緑化目標と管理水準を施工前に明確にする
維持管理計画を作成する際は、最初に法面緑化の目標を明確にします。目標が曖昧なままでは、点検時に何をもって良好と判断するのかが定まらず、担当者によって評価が変わってしまいます。全面が均一な草本で覆われることを目指すのか、周辺植生への移行を促すのか、侵食を抑えながら自然な植生回復を待つのかによって、必要な管理内容は異なります。
例えば、早期に表面被覆を形成することを重視する法面では、発芽後の被覆状況や裸地の分布を細かく確認する必要があります。一方、周辺からの植物侵入や植生遷移を期待する場合には、施工時に導入した植物だけでなく、侵入植物の種類や増え方も評価対象になります。すべての侵入植物を雑草として除去すると、地域の自然条件に適応した植生形成を妨げることもあるため、緑化目標に沿って判断しなければなりません。
維持管理の水準は、法面の重要度や周辺環境によっても変わります。道路や施設に近接し、小規模な土砂流出でも通行や利用に影響する場所では、異常の早期発見が特に重要です。山間部や広範囲の法面では、すべての場所を同じ頻度で確認するのではなく、湧水箇所、急勾配部、法肩、法尻、排水施設周辺など、変状が発生しやすい場所を重点管理区域として設定する方法が考えられます。
管理水準を決めるときは、見た目の緑の多さだけを基準にしないことも大切です。植生が繁茂していても、その下で基材が浮いていたり、表面に亀裂が生じていたりする場合があります。逆に、季節的に地上部が枯れて見えても、植物の生活型や生育周期によっては異常ではないことがあります。植物の状態、基材の状態、排水状況、侵食の有無を組み合わせて評価する必要があります。
施工前に緑化目標と管理水準を決めておけば、維持管理に必要な作業を設計や施工計画に反映できます。点検用の接近経路、撮影位置、法面を区分する管理番号、排水施設の位置情報なども事前に整理しやすくなります。施工後に管理方法を考え始めると、確認したい場所に近づけない、過去の施工条件が分からない、写真の撮影位置が一致しないといった問題が起こりやすくなります。
また、緑化目標は長期間固定するものとは限りません。周辺植生の変化や利用条件の変更、気象条件の変化などに応じて、管理方針の見直しが必要になることもあります。ただし、目標を変更する場合は、変更理由と判断時点を記録し、過去の評価との違いが分かるようにしておくことが重要です。
法面緑化の維持管理計画は、点検回数を並べただけの予定表ではありません。目標とする状態、許容できる変化、対応が必要な異常を明文化することで、初めて現場で使える判断基準になります。
要点2 初期・定着期・安定期に分けて点検する
法面緑化の状態は、施工後の経過時間によって大きく変わります。そのため、維持管理期間を初期、定着期、安定期などに区分し、それぞれの段階に合わせて確認内容を変えることが重要です。施工直後と数年後を同じ視点で点検しても、必要な異常を適切に捉えられません。
播種を伴う工法では、施工直後から発芽が確認されるまでの初期に、植生基材や種子が安定して法面に保持されているかを重点的に確認します。強い降雨があった場合には、筋状の流亡、局所的な洗掘、法尻への基材堆積、排水溝への流入などが発生していないかを確認します。法面全体を遠景から見たときに異常が目立たなくても、凹部や湧水周辺では部分的に基材が失われていることがあります。
初期段階では、乾燥にも注意が必要です。南向きや西向きなど日射を受けやすい法面、風が抜けやすい法肩付近、凸部や露岩周辺では、周囲より早く水分が失われることがあります。ただし、乾燥して見えるからといって一律に散水すればよいわけではありません。散水量が多すぎると表面流や基材流亡を招くことがあるため、施工方法、植物の種類、現地の水分状態を確認したうえで判断します。
発芽後から植生が広がる定着期は、被覆の均一性、植物の生育状態、根の定着、裸地の拡大などを確認します。発芽数が多くても、根が十分に発達せず、乾燥期や強雨後に急激に衰退することがあります。また、密度が高すぎることで植物同士の競争が強まり、特定の時期に一斉に弱る場合もあります。地上部の量だけでなく、植物が継続的に生育できる環境が形成されているかを見ることが大切です。
定着期には、周囲と比べて生育が遅れている部分を地図や写真に記録します。遅れが一時的なものか、土質、基材厚さ、水分条件、施工むらなどに起因するものかを継続して観察します。一度の点検だけで補修の要否を決めると、季節的な生育差を異常と誤認したり、反対に進行性の裸地化を見逃したりすることがあります。
植生が一定程度安定した後の安定期では、点検の中心を日常的な生育確認から、植生構成の変化、侵食、排水機能、木本類の生育、周辺施設への影響などへ移します。植生が成立しているように見えても、排水溝が土砂や落葉で詰まれば、豪雨時に水が法面へあふれ、再荒廃の原因になります。多年生植物の地下部が発達する一方で、表面の基材が長期的に薄くなっている場合もあります。
安定期には、周辺から侵入した植物の扱いも重要になります。地域に適応した植物が増えることは、植生の持続性を高める可能性があります。一方で、成長の速い植物が優占して他の植生を圧迫したり、排水施設の点検や機能を妨げたりすることもあります。緑化目標と周辺環境への影響を踏まえて管理します。
点検時期は、暦だけで機械的に決めるのではなく、植物の生育期、梅雨や台風期、乾燥期、融雪期など、現場の気候特性を考慮します。大雨、長期乾燥、強風、積雪、凍結融解など、法面に大きな負荷がかかった後には、定期点検とは別に臨時確認を行うことが有効です。
維持管理計画には、各段階で確認する項目と判断基準を記載し、成長段階に応じて点検内容を切り替えられるようにします。これにより、不要な作業を増やさず、必要な時期に必要な確認を行える計画になります。
要点3 植生だけでなく法面と排水施設を一体で確認する
法面緑化の維持管理では、植物の葉色や被覆状況だけに注目しがちですが、再荒廃を防ぐには地山、植生基盤、排水施設を一体として確認する必要があります。植物の衰退は、法面内部や排水系統で起きている変化が表面化した結果であることも少なくありません。
まず確認したいのが、法肩からの水の流入です。法肩周辺の排水が不十分な場合、上部から流れ込んだ水が法面を筋状に流れ、植生基材を侵食することがあります。小さな流路でも、降雨のたびに同じ場所へ水が集中すると、流路が深くなり、周辺の植生が倒れたり、根が露出したりします。法肩排水路の破損、土砂堆積、越流跡、接続部の隙間などを確認します。
法面内の湧水や浸出水も重要な確認項目です。常時湿っている場所や降雨後に水がにじみ出る場所では、植物の根圏が過湿となり、生育不良を起こすことがあります。植生基材が含水して重くなり、地山との境界で浮きやずれが生じる可能性もあります。湿潤部だけ植物の種類や色が異なる場合は、単なる生育差と決めつけず、水の影響を調べる必要があります。
排水施設については、水が流れているかどうかだけでなく、計画した経路で安全に排出されているかを確認します。排水溝に土砂、落葉、刈草などが堆積すると、通水断面が小さくなり、降雨時に越流しやすくなります。排水溝と法面の境界部が洗掘されている場合や、下流側の接続部で水流が法尻を削っている場合もあります。
法尻では、土砂や植生基材の堆積状況を確認します。新しい堆積が見られる場合、上部のどこかで流亡が発生している可能性があります。法尻の堆積物だけを撤去して終わらせず、流出元を特定することが必要です。粒の細かい基材、地山の土砂、落石片など、堆積物の性状を観察すると、発生箇所を推定する手掛かりになります。
植生基材の亀裂、浮き、剥離、局所的な沈下も点検します。亀裂は乾燥収縮によって生じることもありますが、地山の変形や水の浸入経路を示している場合もあります。亀裂の幅や長さだけで判断せず、過去の記録と比較して拡大しているか、周辺に段差や湧水がないかを確認します。
植物が密生している場所では、地表面が見えにくくなります。遠くから緑に覆われているように見えても、植物の下で表土が流出し、根が浮いた状態になっていることがあります。必要に応じて植生をかき分け、地表面の侵食、根の露出、空洞、基材厚さの変化などを確認します。ただし、点検によって植物や基材を傷めないように注意します。
また、動物の踏み荒らしや掘り返し、雨滴や表面流による侵食、落石による損傷、人の立入りによる踏圧なども、植生の途切れから再荒廃につながる要因です。裸地が見つかった場合は、植物が育たなかった理由だけでなく、外部からの物理的な影響も確認します。
法面と排水施設を一体で管理するためには、管理対象を区画に分け、各区画に排水施設や湧水箇所を対応付けておくと便利です。異常が確認された位置を記録し、上部の集水状況、法面内の変状、法尻の堆積を関連付けることで、原因を推定しやすくなります。
植生の異常を植物だけの問題として処理すると、根本原因が残り、補修後に同じ場所が再び荒廃するおそれがあります。水の流れと法面の変化を含めて観察することが、長期的な安定につながります。
要点4 枯れ戻りの原因を見極めて補修方法を選ぶ
枯れ戻りや裸地化を発見したときは、すぐに再播種や再吹付けを行うのではなく、原因を整理してから補修方法を選ぶ必要があります。原因が残ったまま表面だけを補修しても、同じ場所で再び生育不良や基材流亡が起こる可能性があるためです。
乾燥が原因と考えられる場合でも、法面全体が乾燥しているのか、一部だけ乾燥しているのかを確認します。凸部、露岩周辺、法肩付近、基材の薄い場所など、局所的な条件によって水分不足が発生している場合があります。植物の選定が現地条件に適していない可能性や、施工時期によって発芽後の生育期間が十分に確保できなかった可能性もあります。
過湿による生育不良では、湧水や排水不良を改善しないまま追肥や再播種を行っても、十分な効果が得られないことがあります。湿潤部の範囲、降雨との関係、排水先の状態を確認し、水を安全に処理する方法を検討します。ただし、排水経路を新たに設ける場合は、別の場所へ水を集中させないよう、法面全体の排水計画との整合を確認する必要があります。
基材流亡が原因の場合は、流出した部分だけでなく、上部から水が流れ込む経路を確認します。表面水が集中している場合は、集水や分散の方法を見直します。基材と地山の密着不足、施工厚さの不均一、凹凸部への充填不足、端部処理の不備などが関係していることもあります。
植物同士の競争や特定種の優占によって枯れ戻りが起きている場合は、種子量や植物構成だけでなく、刈取り時期や刈取り高さなどの管理方法を見直します。すべてを一律に短く刈ると、生育点を傷めたり、地表面を急に日射へさらしたりして、乾燥を助長する可能性があります。反対に、放置によって大型植物が倒伏し、下層の植物が光不足になる場合もあります。
肥料不足が疑われる場合も、葉色だけで判断して追肥を行わないことが大切です。水分不足、根傷み、過湿、土壌条件などでも葉色は変化します。過剰な施肥は、一時的な地上部の伸長や特定植物の過度な繁茂を招く場合があります。追肥の要否は、緑化目標、植物の状態、施工時の配合、現地条件を踏まえて判断します。
食害や踏み荒らしが原因の場合は、再播種だけではなく、侵入経路や発生時期を確認します。動物による被害では、足跡、ふん、掘り返し跡、植物の食べられ方などを観察します。人の立入りによる踏圧であれば、管理用通路の見直しや立入り範囲の明確化が必要になることがあります。
補修範囲を決める際は、裸地部分だけを小さく処理する方法が適切とは限りません。周囲の基材が浮いている場合や、同じ原因が広い範囲に及んでいる場合は、健全部との境界を確認し、必要な範囲まで補修します。一方で、季節的な休眠や一時的な生育停滞であれば、経過観察が適切な場合もあります。
補修後は、補修箇所を直ちに通常の点検対象へ戻すのではなく、一定期間は重点的に確認します。施工日、補修方法、使用材料、天候、補修範囲を記録し、発芽、生育、降雨後の状態を追跡します。補修前後の写真を同じ位置と方向から撮影すると、改善状況を比較しやすくなります。
枯れ戻りへの対応で重要なのは、症状と原因を分けて考えることです。植物がないという症状だけを見て植物を追加するのではなく、なぜ定着しなかったのかを確認します。原因に対応した補修を行うことで、繰り返し補修を減らし、再荒廃の防止につなげられます。
要点5 記録を比較できる形で残して変化を把握する
法面緑化の維持管理では、点検を実施することと同じくらい、結果を比較可能な形で残すことが重要です。法面の変化は徐々に進行することが多く、担当者の記憶や単発の写真だけでは、異常が拡大しているのか、季節変動の範囲なのかを判断しにくいためです。
記録では、点検日、天候、直前の降雨状況、確認者、法面区画、撮影位置、異常の種類、範囲、対応内容などを整理します。植物の状態だけでなく、排水施設、湧水、亀裂、基材流亡、土砂堆積などを同じ区画単位で記録すると、複数の変化を関連付けて確認できます。
写真は、可能な範囲で毎回同じ場所から同じ方向を撮影します。撮影位置が大きく変わると、植生の密度や裸地の大きさを比較しにくくなります。法面全体を把握する遠景、区画ごとの中景、異常箇所の近景を組み合わせると、位置関係と詳細の両方を残せます。
異常箇所の写真では、大きさが分かる目印を入れる方法もあります。ただし、目印を置くために法面へ無理に立ち入ると、基材や植生を傷めたり、作業者の安全を損なったりするおそれがあります。安全に接近できない場所は、遠隔からの撮影や位置情報を利用し、無理な接近を避けます。
位置情報と写真を結び付けることで、同じ異常を継続して追跡しやすくなります。法面中央付近や排水溝の近くといった曖昧な表現だけでは、別の担当者が同じ場所を特定できない場合があります。法面を区画番号で管理し、その中で異常の位置を記録すると、補修指示や再点検にも活用できます。
数値化できる項目については、同じ方法で継続して測定します。ただし、被覆状況や裸地面積を数値で示す場合も、測定方法が変われば単純比較できません。目視評価、写真判定、実測など、採用した方法を記録し、点検ごとに評価方法をできるだけ統一します。
記録では、異常がなかったことも残しておく必要があります。異常箇所だけを記録すると、いつから変化が始まったのかを判断できません。過去に異常がなかった場所で新たな変状が生じた場合、直前の気象や周辺工事との関係を確認する手掛かりになります。
施工時の情報と維持管理記録をつなげることも大切です。施工日、施工方法、植生基材の条件、種子配合、施工厚さ、湧水処理、排水施設、施工中の補修箇所などが分かれば、維持管理段階で異常原因を推定しやすくなります。維持管理担当者が施工時の情報を閲覧できない体制では、原因究明に時間がかかります。
経年比較では、単に写真を並べるだけでなく、変化の傾向を整理します。裸地が毎年同じ時期に広がるのか、大雨後だけ拡大するのか、補修後に安定しているのかを確認します。複数年にわたる記録があれば、点検頻度を見直す判断材料にもなります。
記録は、作成すること自体が目的ではありません。異常の早期発見、原因分析、補修範囲の決定、関係者への情報共有、次回点検の重点箇所設定に活用して初めて価値があります。点検票や写真が別々に保管され、必要なときに探せない状態を避け、法面区画ごとに履歴を確認できる仕組みを整えます。
担当者が交代しても同じ水準で管理できるよう、記録方法を標準化することも重要です。撮影位置、ファイル名、異常の分類、対応状況の記載方法などを統一すれば、過去記録との比較が容易になります。法面緑化の状態を継続的に把握するには、現場の変化を時系列で見えるようにすることが欠かせません。
要点6 異常時の対応基準と管理体制を決めておく
維持管理計画では、異常を発見した後の対応手順まで決めておく必要があります。点検で問題を見つけても、報告先や判断者が明確でなければ、対応が遅れて変状が拡大する可能性があります。特に、降雨前後や災害後は複数の異常が同時に確認されることがあるため、優先順位を判断できる体制が重要です。
異常は、経過観察できるもの、早期に補修すべきもの、専門的な確認が必要なもの、立入りを制限すべきものなどに区分します。小規模な植生の薄い部分と、湧水を伴う基材の剥離や地山の変形を同じ扱いにしてはいけません。植生管理の範囲を超える変状が見られた場合は、法面安定や排水の観点から専門的な確認が必要です。
緊急性の判断では、異常の大きさだけでなく、位置と周辺への影響を考慮します。法肩の亀裂、排水施設の越流、道路や建物に近い法尻の土砂流出などは、小規模でも早めの対応が必要になる場合があります。一方、周辺への影響が小さく、植生の回復を観察できる場所では、すぐに施工せず経過を確認する選択肢もあります。
管理体制では、日常点検を行う担当者、異常を評価する担当者、補修方法を決定する担当者、作業を実施する担当者を整理します。一人の経験だけに依存すると、担当者が変わったときに判断基準が失われます。異常の分類や報告様式を共有し、誰が確認しても必要な情報が伝わる仕組みにします。
報告時には、異常箇所の位置、発見日時、写真、変状の種類、規模、周辺状況、直前の気象、応急対応の有無などをまとめます。緊急性が高い場合は、詳細な報告書の完成を待たず、まず安全確保と速報を行う手順を決めておくことが大切です。
豪雨や台風などが予想される場合は、事前確認の対象を定めておきます。排水溝の詰まり、法肩からの流入、過去の補修箇所、湧水箇所、法尻の堆積などを確認し、安全に実施できる範囲で事前に処置します。気象後には、事前確認時の記録と比較し、新たな変状や拡大の有無を確認します。
草刈りや排水溝清掃などの日常作業も、管理体制の中に位置付けます。作業者が異常を発見しても、維持管理担当者へ共有されなければ、早期発見の機会を失います。日常作業の実施者にも、亀裂、湧水、洗掘、基材剥離など、報告すべき変状を伝えておくと効果的です。
補修後の確認責任も明確にします。補修を実施した時点で対応完了とせず、一定期間後の再点検までを一連の作業として管理します。補修部分の発芽や活着だけでなく、原因となった排水や侵食が改善されているかを確認します。再び同じ異常が発生した場合は、補修方法だけでなく原因分析そのものを見直します。
維持管理計画は、現場条件や管理実績に応じて更新します。異常が繰り返し発生する区画は点検頻度を高め、長期間安定している区画は重点項目を整理するなど、記録に基づいて管理資源を配分します。ただし、点検頻度を下げる場合も、豪雨後などの臨時確認まで一律に省略しないようにします。
異常時の対応基準と管理体制を明文化しておくことで、発見から判断、応急処置、補修、再確認までの流れが明確になります。法面緑化の再荒廃を防ぐには、異常を見つける技術だけでなく、見つけた情報を確実に対応へつなげる仕組みが必要です。
法面緑化の維持管理で見落としやすい注意点
法面緑化の維持管理では、植物が緑色に見えるかどうかだけで状態を判断しないことが重要です。外観が良好でも、根元の基材が失われていたり、排水施設に土砂が堆積していたりすることがあります。反対に、季節によって地上部が枯れたように見えても、植物の生育周期として正常な場合があります。
草刈りも、実施すれば必ず良い結果になるとは限りません。刈取り時期や高さによっては、植物の再生力を弱めたり、地表面を乾燥させたりすることがあります。刈草を排水溝へ流入させると、詰まりの原因にもなります。法面の緑化目標と植物の生育状態を踏まえ、作業後の刈草処理まで計画します。
施工後の一時的な生育不良に対し、短期間で補修を繰り返すことにも注意が必要です。発芽や生育は気温、降雨、日射などの影響を受けるため、施工区画によって時期に差が出ます。進行性の流亡や侵食がない場合は、一定期間の経過観察が適切なこともあります。
一方で、侵食や剥離を伴う裸地を単なる発芽遅れとして放置することは避けます。裸地の周囲に流路、段差、基材の浮き、土砂堆積などがある場合は、法面の変状として評価する必要があります。植物の生育と物理的な安定を分けて確認することが大切です。
周辺から侵入する植物についても、一律に残す、一律に除去するという管理は適切ではありません。地域の植生回復に寄与する場合もあれば、排水施設を覆ったり、視認性を低下させたり、周辺利用へ影響したりする場合もあります。植物の種類だけでなく、発生位置と緑化目標を踏まえて対応します。
維持管理作業による二次的な損傷にも注意します。作業者の踏圧、機材の引きずり、刈払作業による基材表面の損傷、排水清掃時の土砂放置などが新たな裸地や水みちをつくることがあります。作業前に立入り経路や土砂の搬出方法を決め、法面へ与える影響を抑えます。
安全管理も欠かせません。急勾配の法面や高所、湧水で滑りやすい場所、落石のおそれがある場所では、点検のために無理に接近してはいけません。遠景撮影や位置情報の記録などを活用し、安全を確保できる方法で状態を把握します。異常を詳細に確認する必要がある場合は、現場条件に適した安全設備と作業体制を整えます。
また、法面緑化の維持管理を植生担当者だけに任せないことも重要です。排水施設、構造物、道路管理、周辺土地利用などと関係するため、必要に応じて関係者間で情報を共有します。植生の異常が、上部の排水変更や周辺工事による水の流れの変化から生じることもあります。
維持管理計画は、作成後に保管するだけでは機能しません。点検結果、補修履歴、気象後の変化を反映し、現場の実態に合わせて更新します。実施されなかった点検や対応が遅れた事例も記録し、体制や手順を見直す材料にすることが大切です。
まとめ
法面緑化の枯れ戻りと再荒廃を防ぐためには、施工後の変化を継続して把握し、異常の原因に応じた対応を行う必要があります。植物が発芽し、法面が緑色になった時点を完成と考えるのではなく、植生が定着し、排水機能や法面表層の状態が安定するまでを一連の管理対象として捉えることが重要です。
維持管理計画では、最初に緑化目標と管理水準を明確にします。そのうえで、初期、定着期、安定期に分けて点検内容を設定し、植物、植生基材、地山、排水施設を一体として確認します。枯れ戻りや裸地化が見つかった場合は、乾燥、過湿、流亡、施工条件、植物同士の競争、食害などの原因を整理し、原因に対応した補修を選びます。
点検記録は、同じ区画、位置、方向、評価方法で比較できるように残します。位置情報付きの写真や経年記録を整理しておけば、小さな変化を早期に把握し、補修の優先順位を判断しやすくなります。また、異常時の報告先、判断者、対応方法、再確認の時期を定めることで、発見した問題を確実に対策へつなげられます。
法面ごとに勾配、方位、土質、水分条件、周辺環境が異なるため、すべての現場へ同じ管理方法を当てはめることはできません。施工時の情報と維持管理記録を結び付け、現場固有の変化を把握しながら計画を更新することが、持続的な法面緑化につながります。
維持管理を担当者の経験や記憶だけに頼らず、写真、位置、点検結果、補修履歴を一元的に蓄積する仕組みを整えることも大切です。現場での記録や位置確認を効率化し、法面ごとの変化を継続的に追跡したい場合は、位置情報付き写真や計測記録を管理できるデジタルツールを活用することも、維持管理計画を着実に実行するための選択肢になります。