法面工事を検討していると、植生マットという工法を目にすることがあります。斜面を植物で覆う緑化工の一つですが、単に見た目を緑にするためだけのものではありません。降雨による表土の流出を抑え、植物が定着するまで法面の表面を保護する役割も期待されています。
一方で、植生マットを施工すれば、どのような斜面でも安定するわけではありません。地盤そのものが不安定な場合、湧水が多い場合、落石や崩壊の危険がある場合には、排水対策や法枠、アンカー、吹付などを含めた別の法面工事が必要になることがあります。
植生マットを適切に選ぶためには、工法の特徴だけでなく、法面の土質、勾配、日当たり、降雨、周辺環境、完成後の維持管理まで確認することが重要です。本記事では、植生マットの基本的な仕組み、法面緑化で選ばれる3つの理由、向いている斜面、施工時の注意点、維持管理の考え方を実務担当者向けに解説します。
法面工事で使われる植生マットとは
植生マットとは、繊維やネットなどでつくられたマット状の資材を法面に敷設し、植物の発芽や生育を促す法面緑化工の一種です。製品や設計条件によって構成は異なり、種子、肥料、土壌改良材などをあらかじめ含むものもあれば、マットを敷設した後に種子や生育基盤を組み合わせるものもあります。
一般的には、整形した法面の表面に植生マットを密着させ、固定具などを使って動かないように取り付けます。施工後は、マットが降雨や風から地表を守りながら、種子の発芽と根の伸長を支えます。植物が成長すると、葉や茎が地表を覆い、根が表層土に広がることで、法面表面の侵食を抑える効果が期待できます。
ただし、植生マットは主として法面表面の保護と緑化を目的とする工法です。深い位置で発生する地すべりや、大きな土塊が動く崩壊、岩盤からの落石などを植生だけで防ぐものではありません。斜面の安定性に問題がある場合は、先に安定対策や排水対策を検討し、その仕上げや表面保護として植生マットを組み合わせる考え方が必要です。
植生マットと似た名称には、植生シートや植生ネットなどがあります。実際の名称や分類は、資材の厚さ、構造、種子や肥料の有無、施工目的などによって異なります。名称だけで性能を判断せず、設計図書や仕様書で構成と適用条件を確認することが大切です。
法面工事の実務では、単に「緑化できる資材」と考えるのではなく、植物が定着するまで地表をどのように守るのか、施工場所の気候に適した植物が選ばれているか、必要な期間に十分な機能を発揮できるかという視点で確認します。
植生マットが法面で果たす役割
法面は、平坦な地面よりも雨水が流れやすく、表土が移動しやすい場所です。施工直後の裸地状態では、雨滴が直接土に当たり、細かな土粒子がはねたり、斜面下方へ流れたりすることがあります。流出が進むと、表面に小さな溝ができ、その溝へ水が集中することで侵食が拡大する場合があります。
植生マットは法面を面的に覆うため、雨滴が地表へ直接衝突する力を和らげる役割が期待できます。また、地表を流れる水の勢いを弱め、土粒子が移動しにくい状態をつくります。発芽前の段階でも一定の表面保護を期待できることが、種子を直接散布する方法との違いの一つです。
植物の発芽後は、地上部と根系が法面保護に関わります。葉や茎は雨滴を受け止め、根は表層土の中に広がります。ただし、植物の根による効果は主として表層部分に限られます。法面内部のすべりや基盤の不安定さを解決するものではないため、表面侵食と斜面崩壊を分けて考える必要があります。
植生マットには、種子や肥料が流されにくい環境をつくる役割もあります。裸地に種子をまいただけでは、強い雨や風によって偏りが生じることがあります。マット内やマット下に種子が保持される構造であれば、発芽に必要な材料を法面上にとどめやすくなります。
さらに、一定の湿度を保ちやすくし、地表の急激な乾燥を和らげる効果も期待されます。ただし、乾燥が厳しい場所や施工時期によっては、植生マットだけで十分な水分を確保できないことがあります。発芽や定着には気温、降雨、日照、土質などが関係するため、施工後の状況に応じて散水などの管理を検討します。
このように植生マットは、施工直後の法面保護から植物の定着までをつなぐ資材です。マット自体が永久に斜面を支えるのではなく、初期の侵食を抑えながら植物による被覆へ移行させる点に特徴があります。
選ばれる理由1|表土の流出を抑えながら緑化できる
植生マットが法面緑化で選ばれる第一の理由は、植物が十分に成長していない施工初期から、法面表面を保護しやすいことです。
法面を整形した直後は、土が露出しており、降雨の影響を受けやすい状態です。種子を施工しても、すぐに植物で覆われるわけではありません。発芽し、根を伸ばし、地表を覆うまでには一定の期間が必要です。この期間に強い雨が降ると、種子や肥料、生育に必要な細かな土が流される可能性があります。
植生マットを法面に密着させることで、裸地のままにする場合と比べ、雨滴が直接土へ当たる範囲を減らせます。また、斜面表面を流れる水の速度を弱め、土粒子の移動を抑える働きが期待できます。特に、降雨による細かな侵食が懸念される盛土法面や切土法面では、初期保護と緑化を同時に進められる点が評価されます。
ただし、流れてくる水の量が多い場所では、マットだけで対応できないことがあります。法肩から雨水が集中して流れ込む場合や、法面途中から湧水が出ている場合には、水の通り道を整える必要があります。法肩排水、縦排水、法尻排水などを適切に配置し、植生部分へ過度な水が流れ込まない計画が重要です。
排水計画が不十分なまま植生マットを施工すると、マットの下を水が流れ、土が洗い出されることがあります。外見上はマットが残っていても、その下に空洞が生じれば、浮きや破れ、局所的な崩れにつながるおそれがあります。そのため、植生マットによる侵食対策と、排水施設による水の処理は一体で検討しなければなりません。
また、植物が定着した後も、植生だけであらゆる侵食を防げるわけではありません。集中豪雨や排水施設の詰まり、動物による掘り返し、踏み荒らしなどによって、部分的に裸地化する場合があります。施工後は、植生の密度だけでなく、水が集中している箇所や土が露出している箇所を確認する必要があります。
植生マットは、表土流出の防止と緑化を別々に行うのではなく、植物が育つまでの弱い期間をマットで補える工法です。この初期保護機能が、法面緑化で採用される大きな理由となっています。
選ばれる理由2|斜面を面的に覆いやすい
第二の理由は、法面全体を連続的に覆いやすく、施工範囲を目視で確認しやすいことです。
法面緑化では、一部だけに種子や生育基盤が偏ると、発芽後の被覆にむらが生じることがあります。植生マットは一定の幅を持つ資材を法面へ展開するため、施工した範囲と未施工の範囲を確認しやすくなります。適切に重ね合わせ、固定することで、法面を面的に保護できます。
マット状の資材は、法面の上部から下部へ順に敷設する方法が一般的ですが、具体的な施工方向や重ね方は、資材の仕様と設計条件に従う必要があります。水が重ね部分へ入り込みにくい向きに施工し、法面の凹凸へ沿わせて密着させることが重要です。
施工時に特に注意したいのが、マットの浮きです。地表とマットの間に空間があると、種子や根が土へ接しにくくなります。風が入り込んでマットが持ち上がったり、雨水が下へ流れ込んだりする原因にもなります。法面整形が不十分で大きな凹凸や転石が残っている場合は、先に表面を整えてから敷設します。
固定具の本数や間隔も、現場条件に合わせる必要があります。風の影響を受けやすい法肩付近、曲面、凹部、重ね部分などでは、一般部より丁寧な固定が必要になる場合があります。固定具を打ち込めない硬い地盤や岩盤が露出している場合は、別の固定方法や工法そのものの見直しが必要です。
面的に施工できることは、品質管理の面でも利点があります。施工中にマットの重なり、固定状況、破損、浮きなどを確認しやすく、写真記録を残す際も施工範囲を把握しやすいためです。法面の全景だけでなく、重ね部分、法肩、法尻、排水施設との取り合いなどを記録しておくと、完成後の点検にも役立ちます。
一方で、施工しやすいように見えるからといって、安全管理を省略できるわけではありません。法面上での作業には墜落、転落、落石、資材の滑落などの危険があります。斜面の高さや勾配、作業姿勢、資材の運搬方法に応じて、作業設備や安全対策を計画することが欠かせません。
植生マットは、法面を面的に覆えることで、施工範囲と仕上がりを管理しやすい工法です。ただし、その性能を発揮させるには、法面への密着と確実な固定が前提になります。
選ばれる理由3|周辺景観になじみやすい
第三の理由は、植物による被覆が進むことで、構造物だけで仕上げる場合よりも周辺の自然景観になじみやすいことです。
道路沿い、住宅地周辺、公園、造成地、農地周辺などでは、法面の安全性に加えて、完成後の見え方が重視されることがあります。植生マットによって緑化された法面は、植物が定着すれば、土や人工的な表面が露出した状態よりも柔らかな印象になります。
ただし、景観になじむかどうかは、単に緑色になればよいというものではありません。周辺に生育する植物との違い、季節による色の変化、草丈、繁殖の広がり方なども関係します。周辺環境に合わない植物を選ぶと、維持管理の負担が増えたり、隣接地へ広がったりする可能性があります。
植物の選定では、施工地域の気候、標高、積雪、日照、乾燥、潮風、土壌の性質などを考慮します。日当たりのよい法面と、建物や森林の影になる法面では、生育条件が異なります。南向きの斜面では乾燥しやすく、強い日射によって地表温度が上がることがあります。一方、日陰が多い斜面では、日照不足や過湿によって発芽や生育が進みにくい場合があります。
周辺の生態環境への配慮が必要な場所では、使用する植物の種類や由来について、発注者や関係機関と協議することも重要です。地域によっては、周辺植生との調和や生物多様性への影響を考慮した緑化計画が求められます。植生マットの仕様だけで判断せず、その土地でどのような植生を形成したいのかを計画段階で明確にします。
また、緑化後の見た目は、施工直後には完成しません。植物が発芽して法面を覆うまでには時間がかかり、気象条件によって生育速度も変わります。施工直後の写真だけで品質を判断するのではなく、一定期間後の発芽状況や被覆状況を確認する必要があります。
景観面を重視する場合でも、法面の安全性が優先されます。崩壊のおそれがある斜面で、見た目を理由に必要な構造対策を減らすことは適切ではありません。安定対策、排水対策、表面保護を整理したうえで、条件に合う範囲に植生を取り入れることが基本です。
植生マットは、法面保護の機能を持ちながら、時間の経過とともに周辺景観へなじませやすい工法です。安全性と景観性の両方を検討したい現場で、有力な選択肢となります。
植生マットが向いている法面の条件
植生マットは、植物が生育でき、マットを地表へ固定できる法面で採用を検討しやすい工法です。特に、表面侵食を抑えながら緑化したい土砂系の法面で使われます。
ただし、同じ土砂法面でも条件は一様ではありません。土質が細かすぎると雨水で流れやすく、粘性が強すぎると植物の根が伸びにくい場合があります。礫が多い法面では、マットを均等に密着させることが難しくなることがあります。施工前に地表の状態を確認し、必要に応じて整形や表土の調整を行います。
勾配も重要な判断材料です。勾配が急になるほど、マットや表土が下方へ移動しようとする力が大きくなり、作業の安全確保も難しくなります。植生マットを適用できる勾配は、資材の構造、固定方法、土質、降雨条件などによって異なるため、角度だけで一律に判断できません。
法面の長さも確認します。長い法面では、上部から流れてきた雨水が下部へ集まり、水量と流速が大きくなる場合があります。途中に小段や排水施設を設ける必要があるか、法面全体の排水計画から検討します。
植物の生育に必要な条件があることも忘れてはいけません。日照がほとんど得られない場所、強い乾燥が続く場所、常に水が流れている場所、植物が根を張れる土層がほとんどない場所では、植生マットを敷設しても期待した緑化にならない可能性があります。
施工時期も仕上がりに影響します。気温が発芽に適さない時期や、乾燥しやすい時期に施工すると、発芽までの期間が長くなることがあります。反対に、大雨が多い時期に施工すると、定着前にマットや表土が影響を受けるおそれがあります。工期だけで施工時期を決めず、地域の気候と植物の生育特性を踏まえて計画します。
周辺から種子が飛来しやすい場所や、既存植生の回復が期待できる場所では、その条件を生かした緑化方法を検討できる場合もあります。求める完成形、緑化までの期間、維持管理方針によって、適切な資材構成は変わります。
植生マットが向いているかどうかは、緑化できそうかという印象だけでは判断できません。地盤の安定性、表面侵食、排水、固定条件、植物の生育環境を総合的に確認することが必要です。
植生マットだけでは対応しにくい斜面
植生マットは法面表面の保護に有効な選択肢ですが、斜面内部の不安定さを改善する工法ではありません。そのため、崩壊や地すべりの兆候がある斜面では、植生マットだけで対応しようとしないことが重要です。
例えば、法肩や法面途中に連続したひび割れがある場合、法面が膨らんでいる場合、法尻から土が押し出されている場合には、斜面内部で変形が進んでいる可能性があります。このような状態では、表面をマットで覆っても、内部の土塊の動きを止めることはできません。
湧水が多い法面も注意が必要です。水が地盤内に入り、土の強度が低下している場合には、まず水の流れと原因を調べる必要があります。湧水箇所をマットで覆うだけでは、水の出口を塞いだり、別の場所へ水を回したりする可能性があります。
岩盤が広く露出している斜面や、浮石がある斜面では、植物の根が定着できる土層が不足しています。固定具を十分に打ち込めない場合もあり、マットの敷設自体が難しくなります。落石のおそれがある場合には、岩盤の状態を確認し、必要な落石対策を検討しなければなりません。
法面へ大量の雨水が集中する場所も、植生マットだけでは対応しにくい条件です。上部の道路、屋根、造成地などから集まった水が一点に流れ込むと、マットの下が洗掘される可能性があります。水を安全な排水先へ導く施設を整えたうえで、周辺部分の緑化方法を検討します。
また、人や車両が頻繁に通る場所、除雪した雪を繰り返し置く場所、資材を仮置きする場所などでは、踏圧や荷重によって植生が損なわれることがあります。完成後の土地利用を確認し、植生を維持できる場所かどうかを判断する必要があります。
樹木の根が法面を持ち上げている場所や、倒木のおそれがある場所では、既存樹木の扱いも検討事項になります。伐採すると根が腐朽して地盤に空隙が生じることがあり、残す場合には倒木や根返りの危険を考える必要があります。植生マットの施工だけで完結させず、樹木管理を含む計画が求められます。
植生マットの適用が難しい斜面では、構造的な安定対策、排水対策、侵食対策を組み合わせます。必要な対策を整理した結果、構造物の間や表面の一部に植生マットを併用することもあります。
植生マットの種類と選定時の確認項目
植生マットにはさまざまな構成があり、すべてが同じ性能を持つわけではありません。選定時には、マットの素材だけでなく、種子、肥料、生育基盤、補強用のネット、分解性、固定方法などを確認します。
種子を含むタイプでは、使用される植物が施工地域に適しているかを確認します。発芽の早さだけでなく、定着後の草丈、根の広がり、乾燥や寒さへの適応、周辺への広がり方なども重要です。短期間で緑に見せることと、長期間安定した植生を形成することは必ずしも同じではありません。
肥料を含む場合は、初期生育を助ける一方で、法面の土壌条件や周辺環境に適した内容であるかを確認します。必要以上の養分が使われると、特定の植物だけが急激に成長したり、周辺の水環境へ影響したりする可能性があります。設計条件に合った構成を選ぶことが大切です。
マットの耐久性も選定項目になります。植物が定着するまでの期間、地表を保護できることが必要です。一方、最終的に分解する素材を使用する場合は、分解するまでの期間と植生の成立時期が合っているかを確認します。早く機能を失えば表土が露出し、長く残りすぎれば周辺環境や維持管理に影響することがあります。
補強用のネットを含むタイプは、通常の薄いシート状資材よりも斜面へ保持しやすい場合があります。ただし、ネットがあるから急勾配や不安定な地盤にも適用できるとは限りません。ネットの強度と斜面全体の安定性は別の問題です。
固定具については、土質に合った長さや形状を選びます。柔らかい盛土と硬い切土では、必要な固定方法が異なる場合があります。固定具が抜けやすい地盤では、打設本数を増やすだけでなく、固定方法や適用工法を見直す必要があります。
火気を扱う可能性がある場所、農地や水路に近い場所、野生動物が多い場所などでは、周辺利用との相性も確認します。完成後に草刈りを行う場合は、固定具やネットが管理作業へ与える影響も考慮しなければなりません。
選定の際は、名称や施工単価だけで比較するのではなく、適用できる勾配、土質、施工時期、必要な固定方法、発芽条件、維持管理、施工後の確認基準を整理します。設計者、施工者、維持管理者の間で完成イメージを共有することが、施工後の認識違いを防ぎます。
植生マットを施工する基本的な流れ
植生マットの施工は、法面の状態確認から始まります。施工範囲、勾配、法長、土質、湧水、排水施設、既存植生、転石などを確認し、設計条件と現地が一致しているかを見ます。
現地条件が設計時から変わっている場合には、そのまま施工を進めないことが重要です。降雨で法面が侵食されていたり、新たな湧水が発生していたりする場合には、必要に応じて設計者や発注者と対応を協議します。
次に、法面の整形と清掃を行います。大きな凹凸、浮いた土塊、倒木、枝、転石などが残っていると、マットが密着しません。法面を過度に乱さないよう注意しながら、施工に適した表面へ整えます。
排水施設が計画されている場合は、植生マットとの施工順序や取り合いを確認します。排水溝へマットや土が入り込まないようにし、水が植生部分の裏側へ回り込まない納まりとすることが必要です。
マットは、設計や施工要領で定められた方向に展開します。一般的には法面上部で端部を確実に固定し、斜面へ沿わせながら敷設します。無理に引っ張ると、凹部で浮きが生じたり、施工後に縮んで固定部へ負担がかかったりすることがあります。
隣り合うマットの重ね部分は、隙間ができないように施工します。重ね幅や向きが不適切だと、風や雨水が入り込みやすくなります。法肩、法尻、構造物との境界、排水施設の周囲は特に不具合が起きやすいため、丁寧な処理が必要です。
固定具は、所定の位置へ確実に設置します。打設後は、マットが地表へ密着しているか、固定具が浮いていないか、破れがないかを確認します。施工中に生じた損傷は、そのままにせず補修します。
施工完了後は、全体の敷設状況だけでなく、重ね部分、端部、固定状況、排水施設との接続を確認します。完成時の写真に加え、施工前、整形後、敷設途中、固定状況などを記録しておくと、後の点検や施工履歴の確認に役立ちます。
施工不良を防ぐための注意点
植生マットの施工品質を左右する大きな要素は、法面への密着です。マットを広げて固定具を打つだけでは、十分な仕上がりにならないことがあります。
法面に凹凸があると、マットが地表から浮きます。浮いた部分では種子が土と接触しにくく、根も地盤へ入りにくくなります。風を受ける面積が増え、固定具の周辺から破れる可能性もあります。施工前の法面整形を省略しないことが重要です。
法肩部分の固定が不十分な場合、上部からマットがめくれることがあります。法肩は風や地表水の影響を受けやすいため、端部の処理と排水の流れを確認します。上部から流れてきた水がマットの裏へ入る納まりになっていないかも点検します。
重ね部分の向きにも注意が必要です。水の流れに逆らうような重ね方では、段差部分へ水が入り込みやすくなる場合があります。施工要領に従い、雨水が表面を流れやすい向きで重ねます。
施工時の天候も品質に影響します。強風時には資材があおられ、作業員や周辺へ危険を及ぼす可能性があります。大雨の直前や法面が著しくぬかるんでいる状態では、整形面が乱れたり、固定具が効きにくくなったりすることがあります。工程を優先して無理に施工せず、安全と品質を確認します。
資材の保管方法にも配慮が必要です。種子や肥料を含む場合、長期間の高温、多湿、直射日光、雨ぬれなどによって品質へ影響が出る可能性があります。納入時期と施工工程を調整し、指定された方法で保管します。
施工後すぐに強い雨が予想される場合は、排水経路や端部の固定を再確認します。法面上部から土砂や水が流入するおそれがあるときは、必要な仮排水や養生を検討します。
植生マットの施工不良は、完成直後には見つけにくいことがあります。時間がたってから浮き、めくれ、洗掘、発芽むらとして現れるため、施工段階で細部まで確認することが重要です。
施工後の点検と維持管理
植生マットは、施工完了で管理が終わる工法ではありません。植物が発芽し、法面全体へ定着するまでの初期段階では、定期的な確認が必要です。
最初に確認したいのは、マットの浮き、めくれ、破れ、ずれです。特に、強風や大雨の後は、法肩、重ね部分、排水施設周辺、法尻などを確認します。異常を放置すると、その箇所から水や風が入り、損傷範囲が広がることがあります。
発芽後は、植物の生育状況を確認します。全体が均一でなくても、直ちに施工不良とは限りません。日照、土質、水分、温度によって発芽時期に差が出ることがあります。ただし、まとまった範囲で発芽していない場合や、土が露出している場合には、原因を調べる必要があります。
発芽不良の原因としては、乾燥、過湿、種子の流出、マットの浮き、土壌条件、施工時期などが考えられます。原因を確認せずに種子を追加しても、同じ問題が繰り返される可能性があります。必要に応じて、散水、補修、追加施工、排水改善などを検討します。
排水施設の点検も欠かせません。側溝や縦排水に落ち葉、土砂、刈草などがたまると、水があふれて法面へ流れ出すことがあります。植生が良好でも、排水機能が低下すれば侵食が発生する可能性があります。
植物が成長した後は、草丈や周辺利用に応じて草刈りを行う場合があります。草刈り作業では、マット内のネットや固定具に機械が接触しないよう注意が必要です。固定具が浮き上がっている場合は、作業前に処置します。
樹木や大型の植物が自然に侵入した場合には、すべてを残すことが適切とは限りません。成長した根が排水施設や構造物へ影響したり、将来の倒木リスクになったりする可能性があります。法面の管理方針に沿って、残す植物と除去する植物を判断します。
点検時は、同じ位置から写真を撮影すると、植生の変化や侵食の進行を比較しやすくなります。大雨後、台風後、地震後などにも臨時点検を行い、ひび割れ、湧水、沈下、土砂流出などがないかを確認します。
法面工事の計画段階で確認したいこと
植生マットを含む法面工事を計画するときは、緑化資材の選定より先に、斜面の安全性と水の流れを確認します。
まず、法面がどのように形成されたかを整理します。切土か盛土か、施工された時期、過去の補修履歴、崩落や土砂流出の履歴が分かれば、工法選定の参考になります。古い法面では、図面と現況が異なる場合もあるため、現地確認が必要です。
次に、法肩より上の土地利用を確認します。道路、駐車場、建物、農地などがある場合、そこから雨水が流入していないかを見ます。法面だけを見ても、水の発生源を把握できないことがあります。
法尻側では、土砂が流出した場合の影響を確認します。道路、水路、住宅、農地、設備などが近い場合には、小規模な侵食でも第三者や施設へ影響する可能性があります。必要に応じて、施工中の土砂流出防止や立入管理も計画します。
施工方法を検討するときは、作業員や資材が安全に法面へ近づけるかを確認します。法面上部から作業するのか、下部から足場や作業設備を設けるのか、資材をどのように運搬するのかによって、仮設計画が変わります。
周辺住民や施設利用者への影響も考慮します。施工中には、作業車両の出入り、機械音、土ぼこり、通行規制などが発生することがあります。工事期間、作業時間、立入範囲、緊急時の連絡先を事前に整理しておくと、現場運営を進めやすくなります。
完成後の維持管理者も明確にします。誰が点検するのか、草刈りや排水溝の清掃をどの程度行うのか、異常を発見したときに誰へ連絡するのかを決めておくことが重要です。施工時に維持管理の方法が共有されていないと、排水施設の詰まりや植生の異常が長期間放置されることがあります。
見積内容を確認するときは、植生マットの敷設面積だけでなく、法面整形、排水処理、固定具、端部処理、仮設、安全対策、残土処理、施工後の確認が含まれているかを見ます。工事項目の範囲が異なる見積を総額だけで比較すると、契約後に追加作業が発生する可能性があります。
法面の現況を正確に把握するためには、施工前の写真や位置情報、法面の形状、湧水箇所、損傷範囲などを記録しておくことが有効です。現地での記録を効率化したい場合は、Phoneを使って法面の全景や細部を記録し、関係者間で現況を共有できる仕組みを整えておくと、工法検討や施工後の比較に役立ちます。
まとめ|植生マットは斜面条件に合わせて選ぶ
植生マットは、マット状の資材を法面へ敷設し、植物の発芽と定着を助けながら表面侵食を抑える法面緑化工です。
法面工事で選ばれる主な理由は、植物が成長する前から表土の流出を抑えやすいこと、法面を面的に覆って施工範囲を管理しやすいこと、植物の定着後に周辺景観へなじみやすいことの3点です。
ただし、植生マットは斜面内部の崩壊や地すべりを防ぐ構造的な補強工ではありません。ひび割れ、膨らみ、湧水、落石、沈下などが確認される場合には、斜面の安定性を調査し、必要な補強や排水対策を先に検討する必要があります。
施工品質を確保するためには、法面を適切に整形し、マットを地表へ密着させ、端部や重ね部分を確実に固定することが重要です。施工後も、発芽状況だけでなく、マットの浮き、表土の流出、排水施設の詰まり、法面の変形などを継続して確認します。
植生マットの適否は、勾配や面積だけでは決められません。土質、湧水、降雨、日照、施工時期、周辺環境、完成後の維持管理を総合的に検討し、現場条件に合った工法を選ぶことが大切です。
計画前の現況整理では、法面全体と異常箇所を記録し、施工前後で比較できる状態をつくっておく必要があります。写真だけでは形状や位置関係を把握しにくい場合には、Phoneを活用した現場記録も取り入れながら、法面工事の検討に必要な情報を分かりやすく残しておきましょう。