法面工事の施工計画書や見積書を確認していると、「ラス張り」「金網張り」「ラス網設置」といった項目が出てくることがあります。ラス張りとは、吹付モルタルや吹付コンクリートを施工する前に、一般には網状の補強材を法面へ取り付ける工程です。吹付後は材料の内部に隠れるため、配置や固定の状態を確認できるのは主に施工中です。
ラス張りでは、網を法面の凹凸になじませ、吹付時に動かないよう固定し、重ね部や端部を設計図書と施工計画書に従って納めます。公的な施工資料でも、地山の凹凸になじませて固定し、大きな浮きが生じる箇所では補助固定を行う施工例が示されています。一方、吹付層の一体性を確保するため、ラス金網を吹付厚の中間付近に位置させる考え方も示されており、実際の位置やスペーサーの使用は個別の設計条件によって確認する必要があります。([土木研究所][1])
したがって、網が地山から離れないことだけを見ればよいわけでも、機械的に一定の隙間を空ければよいわけでもありません。地山形状への追従、固定状態、吹付厚内の位置、表面側のかぶり、吹付材の充填状態を、設計図書に照らして総合的に確認することが重要です。
また、ラス張りを行えば、あらゆる法面が必ず安定するわけではありません。法面全体の安定性は、地質、勾配、地下水、湧き水、風化の程度、法面の高さ、周辺構造物などを踏まえて検討します。ラス張りは、設計された吹付工の性能を発揮させるための構成要素の一つです。
この記事では、法面工事で行われるラス張りの基本と、吹付前に知っておきたい3つの役割を解説します。さらに、施工手順、吹付前検査、起こりやすい不具合、完成後の維持管理まで、発注者や現場管理担当者が確認したいポイントを整理します。
法面工事のラス張りとは
法面工事におけるラス張りとは、吹付モルタルや吹付コンクリートなどを施工する前に、網状の補強材を法面へ設置する工程です。一般には金属製のラス金網が用いられますが、採用材料の種類、線径、網目、表面処理などは、設計条件や施工環境によって異なります。
建築工事でも「ラス」という名称が使われますが、法面工事では、地山の状態、吹付材の種類、設計厚、施工範囲、腐食環境などに適した仕様を選ばなければなりません。名称が同じでも、用途や必要性能が同じとは限りません。
ラス網は法面へ置くだけではなく、主アンカーピンや補助アンカーピンなど、設計された固定材で保持します。法面には凹凸があるため、網が広い範囲で橋渡し状に浮いたり、著しくたるんだりしないよう、地山形状になじませることが基本です。隣り合う網は、設計図書で定められた重ねを確保し、吹付時に開かないよう必要な処理を行います。
一方、ラス網を吹付層のどの位置に納めるかは、吹付厚や施工方法によって確認が必要です。吹付厚の中間付近に配置する考え方があるほか、施工計画でスペーサーを用いて位置を確保する例もあります。地山へなじませることと、吹付層内の設計位置を守ることを混同せず、個別の図面や施工計画書を優先します。([土木研究所][1])
吹付後のラス網は通常、外から見えなくなります。そのため、使用材料、配置、固定状態、重ね、損傷、排水設備との取り合い、吹付厚内の位置などは、吹付前に確認して記録します。完成後に表面だけを見ても、内部のラス網が設計どおりに配置されているかを容易に判断できないためです。
ラス張りは準備工程として扱われがちですが、吹付層の一体性や耐久性に関係する重要な施工段階です。発注者側の担当者も、吹付日だけでなく、その前に行われる法面清掃、排水処理、ラス張り、吹付前検査までの流れを把握しておく必要があります。
ラス張りと吹付工の関係
吹付工は、モルタルやコンクリートを法面へ吹き付け、表面を被覆する工法です。表面の風化や浸食を抑え、表層部の剥離や小規模な落石を抑制する目的などで採用されます。ただし、期待される機能は現場によって異なるため、表面保護を中心とするのか、別の補強工と組み合わせて法面の安定を確保するのかを設計図書で確認しなければなりません。
地山表面には、岩の割れ目、くぼみ、段差、浮石、植生の跡などがあります。吹付材を施工しても、下地の状態が悪ければ、地山との密着不足、局所的な厚さ不足、空洞などが生じる可能性があります。ラス網は吹付層の内部で材料を連続させ、構造上一体性を持たせるために用いられますが、地山清掃や下地処理の代わりにはなりません。([土木研究所][1])
硬化した吹付層は、乾燥収縮、温度変化、凍結融解、地山の微小な動き、背面水などの影響を受けます。ラス網を適切に配置すると、局所的なひび割れの開きや、吹付材のまとまった剥離を抑える効果が期待できます。
ただし、ラス網を入れれば、どのような変位にも耐えられるわけではありません。地すべり、深い崩壊、大きなはらみ出し、大量の湧き水など、法面全体の安定に関わる問題がある場合は、別の調査や対策が必要です。ラス張りは地質調査や安定検討に代わるものではありません。
法面工事を検討するときは、「ラス張りがあるから安全」と考えるのではなく、「どの目的の吹付工に、どの仕様のラス網を組み合わせるのか」を確認します。工法名だけでなく、設計意図と適用範囲を施工業者や設計担当者から説明してもらうことが重要です。
役割1 吹付材の定着を助ける
ラス張りの一つ目の役割は、吹付材を連続的に保持し、設計された吹付層を形成しやすくすることです。吹付直後の材料はまだ硬化しておらず、法面勾配、吹付厚、材料の状態、吹付方法によっては、だれや剥落が生じることがあります。
ラス網が適切に配置されていると、吹付材が網目の中や周囲へ入り込み、網を包み込むように硬化します。これにより、吹付層の連続性と一体性を確保しやすくなります。ただし、ラス網があるだけで地山との付着が保証されるわけではありません。
法面の凹部を網が大きくまたいでいると、網の背面へ吹付材が届きにくくなり、空洞が残る可能性があります。反対に、地山の凸部や端部でラス網が設計位置から外れていると、表面側のかぶり不足や網の露出につながることがあります。
ここで重要なのは、「地山へ密着させること」と「吹付厚内の設計位置を確保すること」を両立させることです。地山の凹凸になじませて大きな浮きを抑えながら、スペーサーなどが指定されている場合は、その仕様に従ってラス網の位置を調整します。
固定具の種類、配置、本数、重ね長さ、結束方法は、全国一律の数値を当てはめるのではなく、設計図書、特記仕様書、施工計画書に従います。現場条件により追加固定が必要になった場合は、施工管理者や監督担当者と協議して対応します。
吹付材の定着を確保するには、法面清掃も欠かせません。泥、落葉、根、浮石、脆弱な表層などが残っていると、その上から施工しても地山との密着が不十分になる可能性があります。ラス網が適切でも、下地処理が不十分であれば、吹付層全体の品質は安定しません。
施工担当者は、法面整形、清掃、湧き水処理、ラス張りを一連の作業として管理します。発注者側も、完成した吹付面だけでなく、吹付前の下地状況とラス張りの状態が記録されているかを確認することが大切です。
役割2 ひび割れや剥離の拡大を抑える
ラス張りの二つ目の役割は、吹付層に生じるひび割れの開きや剥離の拡大を抑えることです。モルタルやコンクリートは、乾燥収縮や温度変化などによってひび割れが生じることがあります。
吹付層では、日射、寒暖差、凍結融解、地山の微小な動き、局所的な厚さの違い、背面水などが変状の要因になります。ひび割れを完全になくすことは難しいため、設計と施工では、発生を抑えるとともに、発生した場合の開きや剥離を小さくするよう配慮します。
ラス網が吹付層の中へ連続して配置されていると、局所的な引張作用を周囲へ分散しやすくなります。一か所に生じたひび割れが大きく開いたり、吹付材の一部がまとまって脱落したりすることを抑える効果が期待できます。
ただし、ラス網は万能な補強材ではありません。吹付厚不足、材料や配合の不適合、急速な乾燥、地山との密着不足、排水不良などがある場合、ラス網だけで不具合を防ぐことはできません。材料、施工方法、養生、排水、ラス網の配置を総合的に管理する必要があります。
ラス網が途中で切れていたり、重ねや結束が設計どおりでなかったりすると、吹付層の連続性が損なわれる可能性があります。切断部が大きくめくれていないか、施工中に損傷した箇所が補修されているか、吹付時に網が開かない状態になっているかを確認します。
水抜き孔、排水材、構造物との取り合い、施工区画の境界などは、吹付層が不連続になりやすい部分です。標準部だけでなく、端部や開口部でラス網をどのように納めるかも事前に検討します。
完成後にひび割れを確認した場合は、幅だけで判断せず、長さ、方向、発生位置、段差、漏水、白色の析出物、浮き、周囲の変色などを合わせて観察します。原因をラス網の有無だけに求めず、背面水や地山の変状を含めて調査したうえで補修方法を選ぶことが重要です。
役割3 吹付層の品質を安定させる
ラス張りの三つ目の役割は、法面全体で吹付層の一体性を確保し、局所的な品質のばらつきを抑えることです。法面は平らな壁面とは異なり、硬い岩盤、軟らかい部分、割れ目の多い部分、土砂が残りやすい部分などが混在します。
このような不均一な下地へ吹付材を施工すると、付着状態や厚さにばらつきが生じやすくなります。ラス網を連続的に配置することで、吹付層の内部に共通した補強要素を設け、局所的な弱点の影響を周囲へ分散させることが期待できます。
また、ラス張り完了時には、未施工箇所、固定不足、端部処理の不備、排水設備との干渉などを目視で確認できます。吹付前に施工範囲と納まりを確認できることは、施工管理上の利点です。
一方、ラス網は吹付厚を測るための基準ではありません。網を覆っただけで設計厚を満たしたと判断することはできず、吹付厚は施工計画に定めた方法で管理します。公的な出来形管理資料でも、吹付厚の測定箇所や規格値が定められている例があり、表面の見た目だけで判断しない管理が必要です。
吹付層の品質を安定させるには、設計厚、材料、吹付距離や角度、施工順序、跳ね返り材の処理、養生などを総合的に管理します。ラス張りはその中の一工程であり、他の管理項目と切り離して評価することはできません。
ラス網が完成面に露出したり、表面側のかぶりが不足したりすると、水分や空気の影響を受けやすくなり、腐食や周辺部の剥離につながる可能性があります。施工中に網が見えている部分があれば、表面を薄く塗り隠すのではなく、設計厚とラス網の位置を確認したうえで処置します。
吹付後に見えなくなる部分は、施工前写真、材料確認、施工範囲、固定状態、重ね部、排水部、検査結果などを記録します。これらは、完成後に変状が生じた際の原因調査や補修計画に役立ちます。
ラス張りの要否を判断するための設計条件
すべての法面工事で、同じラス張りが必要になるわけではありません。ラス網の要否や仕様は、地質、勾配、高さ、風化状態、吹付工の目的、吹付材の種類、設計厚、地下水、周辺環境などを考慮して決めます。
岩盤法面であっても、割れ目が多く表層が不安定な場合と、比較的健全で凹凸が少ない場合では、必要な対策が異なります。土砂法面でも、浸食防止を目的とするのか、表層剥離の抑制を目的とするのかによって、採用される工法が変わります。
湧き水や地下水の影響は特に重要です。吹付層の背面に水がたまると、浮きや剥離を生じる可能性があります。ラス網を増やすだけでは根本的な対策にならないため、水抜き孔、排水材、法肩排水、法尻排水などを含めて検討します。吹付工背面への雨水浸入と排水対策の重要性は、土木研究所の研究でも指摘されています。([土木研究所][1])
法面に大きな亀裂、はらみ出し、沈下、継続的な落石が見られる場合は、表面の吹付工だけでは対応できないことがあります。地山補強、法枠、アンカー、擁壁、排土などを含む別の対策が必要になる可能性があります。
既設の吹付面を補修する場合も、新設工事と同じ考え方をそのまま適用できるとは限りません。既設層の浮き、内部空洞、腐食した金網、漏水、地山の劣化などを調査し、撤去範囲や新しいラス網の接続方法を決めます。
実務担当者は、見積書にラス張りの数量が記載されているかだけでなく、その仕様が設計図面や施工計画と整合しているかを確認します。設計図書に記載がない場合や、清掃後に想定外の地山状態が確認された場合は、施工前に設計担当者や監督担当者と協議します。
ラス張りの一般的な施工手順
ラス張りは、法面の状態を確認しながら段階的に行います。最初に施工範囲の安全を確保し、必要な仮設設備を設置します。急斜面や高所では、墜落、資材落下、第三者災害への対策を施工計画に従って実施します。
次に、法面表面の清掃と必要な整形を行います。浮石、脆弱な土砂、植物の根、泥、既設材の剥離部分などを除去し、吹付材が地山と密着できる下地を整えます。清掃によって新たな亀裂や湧き水が確認された場合は、予定した工法で施工を続けてよいか再確認します。
湧き水がある場合は、吹付前に処理方法を決めます。流水箇所へそのまま吹き付けると、材料の流出や硬化不良、背面水圧の原因になる可能性があります。水の経路を確認し、設計された排水材や水抜き設備を設置します。
下地処理後、ラス網を施工範囲に合わせて配置します。網は地山の凹凸になじませ、広い範囲に大きな浮きやたるみが生じないよう整えます。切断部や端部がめくれたままにならないよう処理し、隣接する網との連続性を確保します。
配置したラス網は、設計された主アンカーピン、補助アンカーピンなどで固定します。吹付時に移動しないよう堅固に固定し、地山の凹凸によって浮く箇所では、設計者や監督担当者と確認しながら追加固定を行います。スペーサーが指定される場合は、吹付厚内の所定位置を確保するよう配置します。施工計画書の例でも、地山になじませること、吹付で動かないよう固定すること、必要に応じて浮きを補助固定で抑えることが示されています。([福岡県公式サイト][2])
網同士の重ね部分は、設計図書に定められた重ねを確保し、吹付時に開いたりずれたりしないよう処理します。法肩、法尻、構造物との取り合い、水抜き孔の周囲なども、網と排水機能が両立する納まりになっているか確認します。
ラス張りが完了したら、吹付前検査を行います。施工範囲、材料、固定状態、重ね、たるみ、浮き、損傷、スペーサー、排水設備との干渉などを確認し、写真と検査記録を残します。問題があれば、吹付作業を始める前に是正します。
検査から吹付まで時間が空く場合は、強風、降雨、落石、作業員の移動などで網が変形していないか、吹付直前に再確認します。
施工品質を左右する管理ポイント
ラス張りの品質管理では、材料が設計どおりであることを最初に確認します。網目、線径、材質、表面処理などが異なると、吹付材の入り方や耐久性が変わる可能性があります。搬入時には、材料表示、数量、外観、著しい変形、腐食、破損の有無を確認します。
保管時は、泥や油などが付着しないようにし、変形や損傷を防ぎます。著しく変形した材料や腐食した材料を、確認せずそのまま使用しないようにします。
施工範囲では、ラス網の連続性を確認します。小さな未施工箇所であっても、吹付後には見えなくなります。切れ端を無計画に当てたり、重ね部を固定せずに吹付材で押さえ込んだりすると、設計された性能を確保できないおそれがあります。
固定状態も重要です。固定が不足すると、吹付時の圧力で網が振動し、位置がずれる可能性があります。ただし、固定具を単純に増やせばよいわけではなく、地山の状態と設計条件に応じた位置、本数、長さで施工します。
法面の凹部では、網が橋渡し状に浮くことがあります。背面へ吹付材が十分に入らなければ空洞が残る可能性があるため、地山形状になじませ、必要に応じて追加固定を行います。
法面の凸部や端部では、ラス網が完成面に近づき、かぶり不足になることがあります。スペーサーが指定される工事では、その配置と固定状態を確認し、吹付厚内の設計位置から外れていないかを見ます。
「地山へ密着しているから不良」「地山から離れているから良好」といった一律の判断はできません。大きな浮きやたるみを避けて地形になじませることを基本としつつ、吹付厚内の位置は設計図書と施工計画書に従って確認します。
法面清掃後に想定より風化が進んでいたり、大きな亀裂が見つかったりした場合は、ラス網の設置を続ける前に協議します。現場判断だけで固定方法や施工範囲を大きく変更すると、設計意図と異なる仕上がりになるおそれがあります。
吹付前検査で確認したい事項
吹付前検査では、最初に施工範囲が図面と一致しているかを確認します。法肩、法尻、構造物との境界、施工区画のつなぎ目は、範囲の取り違えが起こりやすい部分です。測点や既設構造物を利用して位置関係を確認します。
次に、法面の清掃状態を確認します。ラス網の背後に浮石、落葉、泥、植物の根、剥離片などが残っていないかを見ます。吹付後に異物が脱落すると、背面空洞の原因になる可能性があります。
ラス網については、使用材料、配置、固定、重ね、結束、端部処理、スペーサーの有無を確認します。網が大きく波打っていないか、固定具から外れていないか、切断部がめくれていないか、作業中に踏まれて変形していないかも確認対象です。
排水設備との関係も重要です。水抜き孔や排水材がラス網でふさがれていないか、吹付材によって閉塞しやすい状態になっていないかを確認します。排水設備の位置は、吹付後も特定できるよう記録します。
既設構造物との取り合いでは、吹付材が薄くなりやすい部分や、ひび割れが生じやすい境界部を重点的に確認します。網の端部が固定されていない場合や、大きな隙間がある場合は、吹付前に納まりを見直します。
検査記録には、全景だけでなく、固定部、重ね部、端部、排水部、凹凸の大きい部分、スペーサーの配置などの近接写真を含めます。公的な写真管理基準の例では、工事名、工種、測点、設計寸法、実測寸法、略図などの必要事項を記録して撮影する考え方が示されています。
吹付前検査を形式的に終わらせず、指摘事項が是正されたことまで確認します。口頭だけで済ませず、是正前後の写真や記録を残すことで、施工履歴を追跡しやすくなります。
ラス張りで起こりやすい不具合
ラス張りで起こりやすい不具合の一つが、網のたるみです。固定が不足している場合や、法面の凹凸になじませず広い範囲を一度に張った場合に発生しやすくなります。たるんだ網は、吹付時に揺れたり、材料の圧力で位置が変わったりする可能性があります。
網の大きな浮きも注意が必要です。法面の凹部をまたぐように張ると、地山との間に空間ができることがあります。吹付材が背面まで十分に充填されなければ、空洞や浮きの原因になる可能性があります。
反対に、凸部や端部で網が完成面側へ寄りすぎると、表面側のかぶり不足や露出につながる可能性があります。問題は地山へなじんでいること自体ではなく、設計された吹付厚と網の位置関係が確保されていないことです。
網同士の重ね不足や結束不足も代表的な不具合です。吹付時に網が開くと、その部分だけ補強が不連続になります。外観上は吹付材で覆われていても、内部では網が離れている可能性があります。
固定具の抜けや緩みも見逃せません。地山が脆弱な場合、固定具を設置しても十分な保持力が得られないことがあります。固定状態は、施工計画に定めた方法で確認し、不安定な箇所は監督担当者と協議して処置します。
網の損傷や腐食も問題になります。運搬中に大きく折れ曲がった網、切断されて連続性を失った網、著しく腐食した網を使用すると、期待する性能を得にくくなります。損傷が見つかった場合は、吹付材で隠さず、交換または承認された方法で補修します。
排水設備の閉塞も、ラス張りと吹付工に関連する重要な不具合です。網の配置や吹付作業によって水の出口がふさがれると、吹付層の背面に水がたまりやすくなります。水抜き孔の位置、向き、保護方法を吹付前後で確認します。
吹付施工時に注意したいこと
ラス張りが適切でも、吹付方法が不適切であれば十分な品質は得られません。吹付作業では、ラス網の周囲や背面へ材料を充填し、設計された厚さの吹付層を形成することが重要です。
吹付ノズルは、施工条件に応じた距離を保ち、できるだけ吹付面に直角となるよう操作します。極端に斜めから吹き付けると、網や凹凸の背面に材料が届きにくくなることがあります。施工資料でも、ノズルを吹付面に直角に保ち、適切な距離と圧力で施工することが示されています。([一般社団法人長野県林業コンサルタント協会 |][3])
一度に過大な厚さを施工すると、だれや剥落が生じる可能性があります。反対に、施工間隔や表面処理を管理せずに層を重ねると、層間の一体性が低下するおそれがあります。材料と工法に適した施工順序で所定厚まで仕上げます。
吹付時に跳ね返った材料を、そのまま吹付層へ取り込まないことも重要です。反発材の上へ吹き重ねると、空隙や弱点になる可能性があります。法尻や足場上に堆積した材料も、施工計画に従って処理します。([一般社団法人長野県林業コンサルタント協会 |][3])
ラス網が吹付時に動いた場合は、材料でそのまま押さえ込まず、影響範囲を確認します。固定具が外れた場合や網が大きく変形した場合は、施工管理者の判断で吹付材を除去し、補修してから再施工することがあります。
吹付厚は表面の見た目だけで判断せず、施工計画で定めた測定方法と頻度に従って確認します。法面の凹凸が大きい場合は、平均厚だけでなく、局所的な不足がないかにも注意します。
吹付後は、急激な乾燥、低温、降雨などから施工面を保護し、材料と現場条件に応じて養生します。養生方法や期間は、仕様書と施工計画書に従います。
完成後の点検と維持管理
吹付工が完成するとラス網は見えなくなりますが、内部の不具合や背面水の影響が、表面の変状として現れることがあります。点検では、ひび割れ、浮き、剥離、変色、漏水、錆汁、膨らみなどを確認します。
ひび割れを見つけた場合は、発生位置と形状を記録します。法面全体に細かく分散しているのか、一方向へ長く伸びているのか、構造物との境界に集中しているのかによって、考えられる原因が異なります。
打音によって周囲と異なる反応が確認される場合は、内部空洞や浮きの可能性があります。ただし、打音だけで原因や範囲を確定することはできません。高所や落石のおそれがある場所では、管理者が安易に近づかず、必要に応じて専門業者へ調査を依頼します。
錆色の水や変色が見られる場合は、ラス網や固定材の腐食、背面からの漏水などが考えられます。表面だけを塗り直しても、水の供給が続いていれば再発する可能性があるため、排水設備の閉塞や法肩からの浸入を含めて確認します。
水抜き孔は、土砂、植物、析出物などで詰まっていないかを点検します。降雨後に特定箇所から大量の水が出る場合や、吹付面の別の場所から漏水する場合は、背面の排水状態を調査します。
維持管理では、同じ位置と方向から定期的に写真を撮影すると、変化を把握しやすくなります。ひび割れの長さ、漏水範囲、剥離範囲などを記録して前回点検と比較すれば、進行性の有無を判断する材料になります。
落石、急な膨らみ、広範囲の剥離、法肩の亀裂など、重大な変状が確認された場合は、法面へ近づかず、周辺の立入を制限したうえで専門家へ相談します。表面補修だけで対応できると自己判断せず、法面全体の安定性を確認することが重要です。
発注者が施工業者へ確認したい内容
発注者や施設管理者は、ラス張りの工事名称だけでなく、採用理由を確認します。今回のラス張りが、吹付層の一体性確保を主な目的としているのか、ひび割れや剥離の拡大抑制を目的としているのか、設計者の意図を説明してもらいます。
使用するラス網については、設計図書との整合を確認します。材料の種類、施工範囲、固定方法、重ね部、端部、スペーサー、排水設備との取り合いが施工計画書へ記載されていると、現場検査を行いやすくなります。
吹付前検査の時期も事前に確認します。ラス張り完了直後に吹付作業へ移る工程では、発注者が確認する時間を確保できない場合があります。立会いが必要な場合は、連絡方法と検査時刻を調整しておきます。
清掃後に大きな亀裂、脆弱部、湧き水などが見つかった場合の連絡手順も重要です。誰が施工継続の可否を判断するのかを明確にし、現場作業員だけへ判断を任せず、施工管理者、設計担当者、発注者が情報を共有できる体制を整えます。
記録として残す内容も確認します。材料確認、施工前の法面、ラス張り完了時、固定部、重ね部、端部、排水部、スペーサー、吹付厚の確認状況などを撮影し、撮影位置を特定できる状態で保存します。
写真は、平面図や法面展開図の施工区画と対応させると確認しやすくなります。どの区画をいつ施工したのか、使用材料、天候、検査結果、是正内容などを整理しておけば、完成後の点検や補修で役立ちます。
スマートフォンやデジタルカメラを活用し、撮影日時や施工区画などの情報を関連付けて保存する方法もあります。ただし、端末で撮影するだけでは工事記録として十分とは限りません。発注者の写真管理基準に従い、工事名、工種、測点、設計寸法、実測寸法など、必要な情報を記録します。
記録方法を工事開始前に統一し、必要な写真が抜けない運用を決めることが重要です。関係者が同じ資料を確認できる状態にすることで、吹付後に見えなくなるラス張りの施工履歴を追跡しやすくなります。
まとめ
法面工事のラス張りは、吹付モルタルや吹付コンクリートを施工する前に、法面へ網状の補強材を取り付ける工程です。完成後には吹付材の内部へ隠れるため、吹付前の施工と検査が品質管理の重要なポイントになります。
ラス張りの主な役割は、吹付材を連続的に保持して吹付層の一体性を確保しやすくすること、ひび割れや剥離の拡大を抑えること、法面全体で吹付層の品質を安定させることです。ただし、ラス網だけで法面全体の安定性を確保できるわけではありません。
施工では、法面清掃、湧き水処理、ラス網の配置、固定、重ね、端部処理、吹付厚、養生までを一連の工程として管理します。ラス網は地山の凹凸になじませ、大きな浮きやたるみを避けることが基本です。同時に、スペーサーの有無や吹付厚内の位置は、設計図書と施工計画書に従って確認します。
発注者や実務担当者は、完成した表面だけを見るのではなく、吹付前のラス張りが設計どおりに施工されているかを確認します。施工前写真、材料確認、固定部、重ね部、排水部、是正記録を残し、どの位置へどのように施工したかを追跡できる状態にすることが、将来の維持管理にもつながります。
吹付後に見えなくなる工程だからこそ、施工時点の状態を正確に記録し、設計意図と施工結果を関係者が確認できる形で管理することが、法面工事の品質と信頼性を高めます。