配電設備では、盤や金属製の壁をケーブルが貫通する部分に局部的な過熱が発生することがあります。特に注意が必要なのが、交流回路に使用する単心ケーブルを、鋼板などの磁性体へ一本ずつ貫通させる施工です。ケーブル自体の許容電流に余裕があり、端子の締付状態にも問題がないにもかかわらず、貫通部の金属板や固定金具だけが高温になる場合は、交流電流による磁束の影響を疑う必要があります。
単心ケーブルの貫通部過熱は、施工直後には表面化せず、設備の負荷率が上がったときや連続運転時間が長くなったときに顕在化することがあります。温度上昇を放置すると、ケーブル被覆の劣化、絶縁性能の低下、金属部の変色、シール材の硬化、周辺機器への熱影響などにつながる可能性があります。さらに、増設や更新によってケーブル配置が変更されると、従来は問題のなかった貫通部に新たな過熱が発生することもあります。
本記事では、配電設備を設計、施工、保守する実務担当者に向けて、単心ケーブル貫通部が過熱する仕組みと、事故を防ぐための5つの施工対策を解説します。単に耐熱材を追加するのではなく、磁気回路を形成させないこと、電流の往復経路を近づけること、金属材料や固定方法を適切に選ぶことが重要です。
単心ケーブルの貫通部で過熱が起こる理由
交流電流が流れる導体の周囲には、時間とともに方向や大きさが変化する磁界が発生します。三相交流回路では、各相の電流によって生じる磁界が互いに打ち消し合うように導体を配置すれば、周囲の金属に与える影響を小さくできます。しかし、各相の単心ケーブルを離して配置したり、鋼板へ一本ずつ独立して貫通させたりすると、それぞれの導体の周囲に磁束が形成されやすくなります。
磁性体である鋼板の開口部に単心ケーブルを一本だけ通すと、導体の周囲を取り囲むように鋼板内へ磁束が流れる経路ができます。交流によって磁束が繰り返し変化すると、鋼板には渦電流が発生します。磁性材料では、磁化の反転に伴う損失も生じます。これらの損失が熱へ変換されることで、ケーブルを通した穴の周辺や金属製の固定部材が局部的に温度上昇します。
過熱の程度は、電流値だけで決まるものではありません。鋼板の材質や厚さ、貫通穴の形状、相間距離、ケーブルの配置、周波数、固定金具の構造、周囲温度、換気条件などが影響します。同じ太さのケーブルを使用していても、施工方法が異なれば貫通部の温度に差が生じます。
負荷電流が大きくなるほど磁界も強くなるため、過熱は一般に高負荷時ほど顕著になります。ただし、通常運転時の電流が小さくても、長時間の連続運転や高調波電流の増加、周囲温度の上昇などが重なると、無視できない温度になる場合があります。そのため、ケーブルの許容電流だけを確認して安全と判断するのではなく、貫通部を含む施工構造全体を確認する必要があります。
多心ケーブルと単心ケーブルで異なる磁束の影響
多心ケーブルでは、同一回路を構成する各相の導体が一つの外装内に近接して配置されています。各導体の電流による磁界が近い位置で重なり、正常な平衡状態では外部へ漏れる磁束が比較的小さくなります。そのため、多心ケーブルを鋼板へ貫通させる場合は、単心ケーブルを一本ずつ通す場合と比べて、磁束による局部過熱が起こりにくい構造です。
一方、単心ケーブルは各相が独立しているため、施工者が相互の位置関係を決めます。三相分を離して配置すると、個々のケーブル周囲に発生する磁界が十分に打ち消されません。特に、各相を別々の鋼板穴へ通す構造では、穴の周囲に磁性体の連続した経路が形成され、発熱が集中するおそれがあります。
単相回路でも考え方は同じです。往路と復路の導体を離して別々の磁性体開口部へ通すと、それぞれの周囲に磁束が生じます。二本を同じ開口部へ近接して通せば、往復電流による磁界が打ち消し合いやすくなります。三相四線式回路では、各相だけでなく中性線の電流も考慮しなければなりません。不平衡負荷や高調波の影響によって中性線に電流が流れる場合があるため、中性線を別の開口部へ通すと磁気的なバランスが崩れる可能性があります。
保護接地線は通常時の負荷電流を流す導体ではありませんが、事故時の電流経路や電磁力、接地方式との関係があります。単純に相導体と同じ扱いにするのではなく、設計図書や適用する施工基準に従って配置することが重要です。
施工前に確認しておきたい設計条件
単心ケーブルの貫通部過熱を防ぐには、現場で穴を開ける段階ではなく、設計時から貫通構造を決めておく必要があります。ケーブルサイズや条数だけを図面に記載しても、どの相をどの開口部へ通すか、貫通板にどの材料を使うかが決まっていなければ、施工者ごとに異なる方法が採用されるおそれがあります。
最初に確認するのは、回路方式です。三相三線式、三相四線式、単相二線式などによって、同じ開口部へまとめるべき電流経路が異なります。並列回路を採用する場合は、各並列回路の相構成を明確にし、特定の開口部へ同相だけが集中しないように計画します。並列導体を誤って相別にまとめると、磁束の打ち消しが不十分になるだけでなく、各導体のインピーダンス差や電流分担にも影響する可能性があります。
次に、貫通部の材料と構造を確認します。盤底板、側板、床板、壁面の補強枠、ケーブルグランド取付板、押さえ金具など、ケーブルの周囲を囲む部材が磁性体であるかどうかを把握します。貫通板だけを非磁性材料にしても、その外側に鋼製の補強枠やリング状金具が残っていれば、閉じた磁気経路が形成されることがあります。
ケーブルの敷設方法も重要です。平形配置、三角形配置、複数回路の並列配置では、磁界の分布やケーブル間の放熱条件が変わります。ケーブルの許容電流は、周囲温度、敷設間隔、条数、管路内の占有率などによって補正が必要です。磁気的な過熱を防ぐためにケーブルを近接させる一方で、密集によるケーブル自体の温度上昇にも配慮しなければなりません。
防火区画を貫通する場合は、防火性能を維持するための充填材や枠材が必要です。止水区画では水密性も求められます。磁気対策だけを優先して防火性能や機械的強度を損なわないように、設計段階で各要求事項を両立させます。
施工対策1 同一回路の導体を同じ開口部に通す
最も基本的で効果的な対策は、同一回路を構成するすべての電流導体を、同じ開口部へまとめて通すことです。三相三線式であれば三相の導体を同一開口部へ通し、三相四線式であれば中性線を含めて配置します。単相回路では、往路と復路の導体を同一開口部へ通します。
同一回路の導体を近接させると、各導体の電流によって生じる磁界が互いに打ち消し合います。正常な三相平衡状態では三相電流の瞬時値の合計が小さくなるため、開口部の外側へ広がる磁束を抑えられます。不平衡負荷が存在する場合でも、中性線を含めた電流経路を同じ開口部へ通すことで、磁気的なバランスを保ちやすくなります。
ただし、単に同じ大きな穴へ通せばよいわけではありません。開口部の中で各相が大きく離れていると、磁束の打ち消し効果が低下します。ケーブル外径、曲げ半径、施工性を考慮しながら、各相をできるだけ近接して配置します。三相回路では三角形状に配置する方法や、各相を平行に近接させる方法があります。採用する配列は、ケーブルの仕様、支持間隔、電磁力、放熱条件などを踏まえて決定します。
複数回路を同じ盤へ引き込む場合は、回路ごとに相導体をまとめることが原則です。たとえば、二回路分のケーブルを施工するときに、同相の導体だけを一つの開口部へ集め、別の穴へ他相を集める配置は避けます。各開口部の電流の合計が磁気的に打ち消されるように、回路単位で構成します。
並列回路では、各並列群に三相分を含める配置を基本とします。A相の並列導体だけを一つの穴へ通し、B相とC相を別の穴へ通すと、穴の周囲に強い磁束が生じる可能性があります。並列回路の識別表示を明確にし、施工途中で相構成が入れ替わらないように管理することが大切です。
施工対策2 貫通板に非磁性材料を使用する
同一回路の導体を一つの開口部へまとめることが難しい場合や、大電流回路で温度上昇の影響が懸念される場合は、ケーブルの周囲に非磁性材料を使用する方法があります。非磁性材料は、一般的な磁性鋼板と比べて磁束を集中させにくく、磁化による損失を抑えられます。
盤の構造上、筐体全体を非磁性材料にする必要はありません。ケーブルが貫通する部分だけを交換式の貫通板として構成し、その部分に適切な非磁性材料を使用する方法があります。ただし、非磁性であることだけで材料を選定してはいけません。必要な機械的強度、耐食性、接地の連続性、耐候性、防火性能、加工性などを確認する必要があります。
貫通板を交換する場合は、板の周囲にある鋼製フレームとの位置関係にも注意します。非磁性の板を使用していても、ケーブルのすぐ近くに鋼製の補強枠がリング状に配置されていると、磁束が補強枠へ集中する可能性があります。開口部から磁性体までの距離を確保し、閉じた経路ができていないかを立体的に確認します。
ケーブルグランドや押さえ金具についても同様です。貫通板だけが非磁性でも、ケーブル一本ごとに磁性体のリング状金具を取り付ければ、その金具が発熱するおそれがあります。金具の材質、形状、固定方式を確認し、単心交流ケーブルの周囲を磁性体で一周させない構造にします。
非磁性材料を使用する場合でも、渦電流が完全になくなるとは限りません。導電性を持つ材料では、磁界の条件や形状によって誘導電流が生じる可能性があります。そのため、材料名だけで安全と判断せず、同一回路の導体を近接させる対策と組み合わせることが重要です。
施工対策3 磁性体に閉じた磁気経路をつくらない
既設盤の改修などで貫通板を交換できない場合は、磁性体に閉じた磁気経路を形成させない施工を検討します。単心ケーブルの周囲を鋼板が連続して取り囲むと、磁束が流れる閉じた経路ができます。この経路を構造的に分断すれば、磁束の集中や誘導加熱を抑えられる場合があります。
代表的な考え方は、各貫通穴の間や外周に切れ目を設け、鋼板がケーブルを一周しない形状にすることです。ただし、現場判断で鋼板を切断すると、盤の強度、防じん性、防水性、防火性能、接触防止性能などを損なうおそれがあります。切れ目を設ける場合は、必ず設計上の検討を行い、必要に応じて非磁性の補強材や保護材を使用します。
切れ目を設けた後に、磁性体の当て板や固定金具を取り付けて再び連続経路をつくってしまう事例もあります。表面から見ると鋼板が分断されていても、裏側の補強材、ボルト、押さえ板などを通じて磁気的な経路が成立する可能性があります。施工図では表面だけでなく、断面構造まで確認する必要があります。
また、開口部の縁にケーブル保護用の金属リングを取り付ける場合も注意が必要です。リングが磁性体であり、単心ケーブルの周囲を完全に囲む形状であれば、局部的な発熱源になることがあります。ケーブルの外傷防止には、適切な絶縁性保護材や非磁性の部材を選びます。
既設設備で貫通部の発熱が確認された場合、鋼板の一部を切断するだけで対処を完了させるのは危険です。切断によって温度が下がったか、別の部位へ発熱が移っていないか、機械的強度や接地性能に問題が生じていないかを確認します。改修後は実負荷に近い条件で温度を測定し、対策の有効性を検証することが必要です。
施工対策4 ケーブルの配置間隔と支持方法を適正化する
単心ケーブルは、貫通部だけでなく、その前後の配置も温度上昇に影響します。同一回路の各相を開口部では近接させていても、その直前で大きく分離している場合は、鋼板や周辺金具へ磁束が広がりやすくなります。盤へ入る手前から盤内の接続部まで、相導体の位置関係をできるだけ安定させることが重要です。
ケーブルの配列が途中で崩れないように、適切な支持間隔で固定します。三角形状に配置する場合は、施工中や短絡時の電磁力によって配置が変形しないように支持します。平形配置では、相順と間隔を一定に保ちます。支持材は通常運転時の自重だけでなく、事故電流が流れた際に発生する機械力も考慮して選定します。
固定金具の材質にも注意が必要です。単心ケーブルを一本ずつ磁性体の金属バンドで囲むと、固定部に誘導電流が流れて発熱する可能性があります。複数相をまとめて固定する場合でも、金具が閉じた導電ループを形成していないか確認します。支持材や締結部品は、必要な強度と耐久性を確保しながら、磁気的な影響を抑えられる構造とします。
ケーブルを近接させることは磁界の低減に有効ですが、密集させすぎると放熱条件が悪化します。単心ケーブルの許容電流は、単独で空中敷設する場合と、複数条を密着させる場合で異なります。ケーブル仕様、周囲温度、敷設方式、回路数に応じて許容電流を確認し、必要な補正を行います。
盤内では、ケーブルを急角度で曲げたり、貫通部の縁へ強く押し付けたりしないことも大切です。熱による膨張と収縮、運転中の振動、外部からの引張力が加わると、被覆へ局部的な応力が集中します。適切な曲げ半径を確保し、貫通部へケーブル重量や引張荷重が直接加わらないように支持します。
各相のケーブル長をそろえることも重要です。並列導体では、長さ、敷設経路、接続方法が異なるとインピーダンス差が生じ、電流分担が偏る可能性があります。特定の導体に電流が集中すれば、その導体周辺の貫通部温度も上昇しやすくなります。ケーブル配置と電流分担を一体で確認する必要があります。
施工対策5 施工後に負荷運転と温度確認を行う
施工図どおりに工事が完了しても、貫通部過熱の対策が十分であることを外観だけで判断することはできません。受電後または試運転時には、可能な範囲で負荷をかけ、ケーブル貫通部の温度を確認します。初期確認を行うことで、材料の選定ミス、相配置の誤り、固定金具の発熱などを早期に発見できます。
温度測定では、ケーブル表面だけでなく、貫通板、穴の縁、ケーブルグランド、押さえ金具、補強枠、ボルト周辺などを確認します。誘導加熱による温度上昇は、ケーブル導体の発熱とは異なる位置に現れることがあります。金属板の一部分だけが周囲より高温になっている場合は、閉じた磁気経路や誘導電流が生じている可能性があります。
測定結果を評価するときは、単一の温度値だけで判断しないことが重要です。負荷電流、周囲温度、運転開始からの経過時間、隣接回路の運転状況、換気状態を記録します。同じ設備でも、低負荷時と高負荷時では温度が大きく異なります。測定時の電流値が分からなければ、将来の最大負荷時にどの程度温度が上がるかを適切に評価できません。
三相回路では、各相の温度差も確認します。特定相のケーブルや金具だけが高温であれば、電流不平衡、接続抵抗、配置の偏り、金具の材質差などが考えられます。貫通板全体が広く温度上昇している場合は、磁束による損失だけでなく、盤内の換気不足や周辺機器からの放熱も調査します。
非接触式の温度測定では、金属表面の反射や表面状態によって表示温度が実際と異なる場合があります。必要に応じて接触式の測定方法を併用し、測定条件を統一します。また、充電部に近接する測定作業は危険を伴うため、設備の電圧、構造、作業距離に応じた安全措置を講じます。
施工直後の確認だけでなく、負荷が増加した時期にも再測定することが望まれます。設備増設後、季節負荷の最大時、運転方式の変更後などは、竣工時よりも電流が増えている可能性があります。初期値を記録しておけば、将来の温度変化を比較しやすくなります。
防火区画と止水処理で注意するポイント
ケーブル貫通部には、磁気対策以外にも防火、防煙、防じん、止水などの性能が求められることがあります。単心ケーブルを同じ開口部へまとめる場合は、開口面積が大きくなるため、充填材の施工方法や支持構造を事前に検討する必要があります。
防火区画では、指定された構造や材料を使用し、必要な厚さや施工範囲を確保します。磁気対策のために開口部へ切れ目を設けた場合、その切れ目が防火性能や煙の遮断性能に影響しないように処理しなければなりません。設計上認められていない方法で金属板や防火部材を加工すると、区画全体の性能を損なう可能性があります。
充填材を強く詰めすぎると、ケーブルへ過度な圧力が加わり、熱膨張や振動を吸収できなくなる場合があります。一方、隙間が大きいと防火や止水の性能が不足します。ケーブルの外径、条数、将来増設の有無を考慮し、適切な開口寸法と充填方法を選定します。
止水が必要な場所では、ケーブルを伝って水が浸入する経路にも注意します。貫通部が高温になると、シール材の硬化、収縮、ひび割れが進み、水密性が低下する可能性があります。磁気的な発熱を抑えることは、絶縁保護だけでなく、止水性能を長期間維持するうえでも重要です。
防火材やシール材を追加して貫通部を覆うと、放熱しにくくなることがあります。改修前よりも熱がこもる構造になっていないかを確認し、必要に応じて負荷運転時の温度を再測定します。表面から発熱部が見えなくなる場合は、点検方法や測定位置も施工記録へ残しておきます。
ケーブルシールドや接地線を施工するときの注意
高圧系統などで使用される単心ケーブルには、金属シールドや遮へい層が設けられていることがあります。シールドの接地方法が不適切であると、誘導電圧や循環電流が発生し、シールドや接地部が過熱する可能性があります。貫通板の磁気加熱とは原因が異なりますが、発熱位置が近いため、現場では混同されることがあります。
シールドの片端接地、両端接地、クロスボンドなどの方式は、ケーブル長、系統電圧、回路構成、事故時の電位上昇などを考慮して設計されます。現場判断で接地方法を変更したり、予備線を追加接地したりすると、意図しない循環電流が流れるおそれがあります。接地接続は設計図書に従い、接続位置を記録します。
シールド接地線やボンディング線を金属部へ接続するときは、接続部の抵抗、締付状態、腐食対策を確認します。接続抵抗が大きいと、事故時だけでなく誘導電流によって局部的に温度が上がる場合があります。端子部の発熱と貫通板の誘導加熱を区別するため、温度分布を広い範囲で確認します。
保護接地線を貫通部の近くへ施工する場合は、事故電流が流れたときの電磁力や熱的耐量も考慮します。通常運転時に電流が流れていないことだけを理由に、支持や接続を簡略化してはいけません。また、鋼製の盤を分割したり非磁性の貫通板を設けたりした場合でも、必要な接地の連続性を確保します。
過熱を発見した場合の調査手順
単心ケーブルの貫通部で変色、焦げ、異臭、シール材の硬化などを発見した場合は、設備の運転条件と安全性を確認したうえで、原因を調査します。温度が高い状態で安易に金属部やケーブルへ触れると、やけどや感電につながるため、接近方法を慎重に判断します。
最初に確認するのは、発熱している位置です。ケーブル導体に近い端子部なのか、貫通板の穴周辺なのか、固定金具なのかによって、想定される原因が異なります。貫通板の穴を囲むように温度が高い場合は、磁束による損失が疑われます。端子接続部だけが高温の場合は、締付不良、接触面の劣化、導体の損傷なども調査します。
次に、回路方式とケーブル配置を確認します。同一回路の各相が同じ開口部を通っているか、中性線が別経路になっていないか、並列導体が相別に分けられていないかを図面と現物で照合します。相表示だけを信用せず、必要に応じて回路の接続先まで追跡します。改修工事の履歴がある場合は、更新前後で配置が変わっていないかも確認します。
負荷電流は各相について測定し、不平衡や高調波の影響を確認します。電流値がケーブルの許容範囲内でも、貫通部の施工が不適切であれば発熱する可能性があります。逆に、磁気対策を行っていても、過負荷や端子不良があれば温度は上昇します。原因を一つに限定せず、電気的要因と施工要因を分けて調査します。
貫通板、金具、補強材の材質も確認します。外観だけでは磁性の有無を判断しにくいため、図面や材料記録と照合します。既設設備では、改修時に材質の異なる部材へ交換されている場合があります。表面の板が非磁性でも、背面の補強材が磁性体である可能性もあります。
対策後は、同じ負荷条件または比較可能な条件で再測定します。温度が低下したことだけでなく、他の部位へ発熱が移っていないことを確認します。改修内容、測定条件、温度、負荷電流を記録し、次回点検時の基準とします。
よくある施工ミスと再発防止策
よくある施工ミスの一つは、盤の外観を整えるために、三相の単心ケーブルを一本ずつ等間隔の穴へ通す方法です。見た目は整然としていても、鋼板の各穴がケーブルを囲むため、磁気的には不利な構造になります。ケーブルの整列性だけでなく、交流電流による磁束の経路を考慮しなければなりません。
次に多いのは、非磁性の貫通板を使用したことで対策が完了したと判断し、磁性体のケーブルグランドや押さえ金具を一本ずつ取り付ける施工です。発熱源が貫通板から金具へ移るだけの場合があります。ケーブルの周囲を一周するすべての部材を確認することが必要です。
既設盤の改修で、新しいケーブルだけを空いている別穴へ通す施工にも注意が必要です。既設三相回路のうち一相だけを別経路へ変更すると、従来の磁気バランスが崩れる可能性があります。ケーブル更新では、交換する導体だけでなく、同一回路全体の配置を確認します。
並列回路の相構成を誤る事例もあります。施工性を優先して同相ケーブルをまとめると、貫通部過熱に加え、ケーブル間の電流分担や周辺金属の発熱に影響することがあります。施工図へ回路番号、相、並列群、貫通穴を明記し、通線前と結線前の両方で照合します。
貫通部に切れ目を設けた後、鋼製の当て板をボルトで固定し、結果として閉じた経路を復元してしまうこともあります。対策部の断面図を作成し、表面と裏面の部材構成を確認します。完成後に隠れる部分は、施工途中の写真を残すことが有効です。
温度測定を無負荷に近い状態で行い、異常なしと判断することも避けるべきです。磁気的な発熱は電流の影響を強く受けるため、負荷が小さい状態では顕在化しない場合があります。測定時の電流値と運転時間を必ず記録し、将来の最大負荷を踏まえて評価します。
再発を防ぐには、施工者個人の経験だけに依存せず、標準図や施工要領へ反映することが重要です。同一回路を同じ開口部へ通すこと、磁性体で単心ケーブルを囲まないこと、施工後に温度を確認することを共通ルールとして明文化します。
定期点検で確認したい劣化兆候
単心ケーブル貫通部は、竣工時に問題がなくても、負荷の増加や周辺環境の変化によって温度が上がることがあります。定期点検では、ケーブルと端子だけでなく、貫通板や固定金具も点検対象に含めます。
外観点検では、塗装の変色、金属表面の焼け、シール材の硬化、ひび割れ、ケーブル被覆の変形、異臭、周囲へのすすの付着などを確認します。発熱と冷却が繰り返されると、固定部が緩んだり、シール材が収縮して隙間が生じたりする場合があります。
温度確認は、できるだけ過去と同じ運転条件で行います。測定位置、負荷電流、周囲温度、運転時間をそろえることで、経年変化を把握しやすくなります。絶対温度だけでなく、前回との差、左右の貫通部との差、同種設備との差を確認します。
設備増設後には、既設ケーブルの温度も再確認します。新しい回路を追加すると、盤内温度が上昇したり、ケーブル配置が変わったり、換気経路が狭くなったりする場合があります。増設した回路だけを点検するのではなく、周辺の既設回路を含めて確認します。
異常がなくても、施工記録と現物が一致しているかを定期的に確認することが大切です。小規模な改修で図面が更新されていないと、将来の工事で誤った貫通穴が使用される可能性があります。現場表示、単線結線図、ケーブル表、貫通部図の整合性を保ちます。
単心ケーブル貫通部の記録を残す重要性
貫通部過熱の防止では、完成状態だけでなく、施工途中の記録が重要です。防火材やカバーを施工した後は、貫通板の材質、穴の配置、切れ目、補強構造、ケーブルの相配列を確認できなくなる場合があります。将来の点検や改修に備え、隠ぺい前の写真を残します。
記録には、回路番号、ケーブル種類、導体サイズ、相表示、貫通部番号、板材の種類、固定金具の構造、施工日などを含めます。温度測定を行った場合は、測定位置、各相の電流、周囲温度、運転経過時間も保存します。数値だけでなく、どの位置を測定したのかが分かる写真や図を添えると、後から比較しやすくなります。
複数の盤や建屋を管理する現場では、写真だけを個別の端末に保存すると、撮影場所や対象設備が分からなくなることがあります。設備番号と撮影位置を関連付け、検索できる状態にしておくことが重要です。点検時に過去の写真を確認できれば、変色や部材の変形などの小さな変化も把握しやすくなります。
施工会社と保守担当者が異なる場合は、記録の引継ぎ方法も事前に決めておきます。完成図だけでは分からない貫通部内部の構造や、施工時に行った磁気対策を明確にします。将来のケーブル増設時に既存の対策を壊さないためにも、記録の共有が欠かせません。
まとめ
配電設備の単心ケーブル貫通部過熱は、ケーブルの許容電流超過だけでなく、交流電流がつくる磁界と、周囲の磁性体によって発生します。特に、各相の単心ケーブルを鋼板へ一本ずつ通す施工は、穴の周囲に磁束を集中させ、渦電流や磁化損失による局部過熱を生じさせる可能性があります。
有効な施工対策は、同一回路の電流導体を同じ開口部へまとめること、貫通部に適切な非磁性材料を使用すること、磁性体に閉じた経路をつくらないこと、ケーブルの配列と支持方法を適正化すること、施工後に負荷運転と温度確認を行うことです。いずれか一つだけを実施するのではなく、回路方式、材料、配置、放熱、機械的強度、防火性能を総合的に検討する必要があります。
また、竣工時の確認だけでは十分ではありません。増設や負荷変更によって運転条件が変われば、貫通部の温度も変化します。定期点検では、ケーブル表面だけでなく、貫通板、固定金具、補強枠、シール材まで確認し、過去の測定結果と比較します。
施工途中の配列や貫通構造を写真で残し、設備位置、回路番号、測定結果と関連付けて管理することも、再発防止に役立ちます。配電設備の施工記録や点検写真を現場位置とともに整理し、改修前後の状態を継続的に比較したい場合は、LRTK Phoneを活用した記録管理も有効です。