配電設備の保全では、故障してから修理する事後保全だけでなく、絶縁劣化の兆候を早い段階で捉える状態監視が重要です。とくに部分放電は、絶縁系の一部で局所的に生じる放電現象であり、絶縁物の内部や表面、導体周辺の気体空間などで発生します。継続すると絶縁性能の低下を進める要因になり得ますが、発生初期から外観に明確な変化が出るとは限りません。焦げ跡や異臭、温度上昇が確認できる段階では、劣化が相応に進んでいる可能性もあります。
そこで活用されるのが、放電に伴って生じる超音波成分を確認する方法です。空中へ伝わる高周波の音を非接触で検出し、聞き取りやすい音へ変換したり、信号強度や波形として表示したりすることで、点検者が異常候補を絞り込みます。空気中のコロナ放電や絶縁物表面に近い放電など、音が外部へ伝わりやすい現象では有効な場合があります。配電盤、開閉装置、ケーブル端末、がいし、母線周辺などを、機器の仕様と事業所の安全手順で認められる範囲から一次スクリーニングできる点は大きな利点です。
一方で、超音波が検出されたからといって、直ちに部分放電と断定できるわけではありません。空気漏れ、機械振動、冷却ファン、接触音、周辺設備の動作音なども超音波成分を含むことがあります。また、設備内部で発生している放電が外部まで十分に伝わらず、空中超音波だけでは捉えにくい場合もあります。重要なのは、単一の数値や音の印象だけで判断せず、再現性、位置、周期性、経時変化、環境条件、他の診断結果を組み合わせることです。
本記事では、配電設備の部分放電を超音波で捉える際に押さえたい6つの判定ポイントを、現場での点検手順や誤判定防止の考え方とともに解説します。
配電設備で部分放電を早期に捉える重要性
配電設備は、受電した電力を安全に開閉し、変圧し、各負荷へ分配する重要な設備です。設備内部には電界が集中しやすい箇所があり、絶縁物の劣化、汚損、結露、部材の緩み、異物の付着、施工時の傷、ケーブル端末処理の不具合などが重なると、局所的な放電が発生することがあります。部分放電は、導体間を完全に橋絡する大きな放電とは異なり、絶縁系の一部だけで生じるのが特徴です。
初期段階では設備が通常どおり運転しているように見えても、放電による局所的な発熱、化学的な変化、微細な侵食が積み重なると、絶縁材料の表面や内部に劣化経路が形成されることがあります。さらに湿度や汚損が加われば、放電活動が変化し、地絡や短絡、設備停止につながるおそれがあります。そのため、部分放電の兆候を早期に見つけ、計画停止の時期や精密診断の要否を判断することは、突発停止の可能性を低減するうえで有効です。
ただし、部分放電の有無だけで設備の健全性を一律に評価することはできません。放電の種類、発生場所、設備構造、電圧、負荷、湿度、絶縁材料、継続時間によって影響は異なります。たとえば空気中の先端部付近で生じるコロナ放電と、絶縁物内部の空隙で生じる内部放電では、外部に現れる音響的、電磁的な特徴が異なります。空中超音波点検が比較的得意なのは、空気中や絶縁物表面に近い場所で生じ、音として外部へ伝わりやすい現象を探すことです。
実務では、超音波点検を「故障を断定する検査」ではなく、「異常候補を早く見つけ、次の確認につなげるスクリーニング」と位置付けることが重要です。この考え方を共有しておくと、数値が高いという理由だけで過剰な緊急対応を行ったり、反対に数値が低いから安全だと決めつけたりする誤りを減らせます。
超音波点検で分かることと分からないこと
空気中のコロナ放電や絶縁物表面に近い放電では、放電に伴う急峻なエネルギー変化によって広い周波数成分を持つ音響信号が生じ、その一部が超音波として空中へ伝わることがあります。設備内部の放電でも音響波が生じる場合がありますが、外板、絶縁媒体、隔壁、密閉構造などの影響を受けるため、外部の空中センサーで検出できるとは限りません。点検機器は、検出した信号を人が聞き取れる周波数へ変換したり、信号レベルを数値化したりします。点検者は、音の連続性、パルスの密度、方向性、設備表面での強弱などを確認しながら、異常候補を探します。
超音波点検の利点は、機器仕様と安全手順で認められる範囲において、通電状態を維持したまま、盤の外側から短時間で広い範囲を確認しやすいことです。定期巡視へ組み込みやすく、同じ設備を繰り返し測定すれば、前回との変化を追跡できます。また、指向性のある受音部や音響カメラを使うことで、複数の盤や区画の中から信号が強い方向を探し、点検対象を絞り込める場合があります。異音や異臭がまだ明確でない段階でも、変化の兆候を拾える可能性があります。
一方、超音波点検だけでは、見掛けの放電電荷量、絶縁余寿命、故障までの時間を直接求めることはできません。音が強くても、外部へ伝わりやすい場所で比較的小規模な放電が起きている場合があります。反対に、設備内部の遮蔽された場所で放電が起きていても、外部で検出する音が弱いことがあります。設備の外板、扉、パッキン、通気口、内部構造によって音の伝わり方も変わります。
また、測定値は機器の設定、受音部と設備の距離、角度、周囲騒音、点検者の操作によって変化します。そのため、異なる条件で得た数値を単純比較するのは適切ではありません。比較するなら、測定位置、距離、感度、周波数帯、設備の運転状態、周囲環境をできるだけそろえる必要があります。超音波点検の価値は、単発の数値だけではなく、同一条件での再現性と経時変化にあります。
判定ポイント1 信号が同じ条件で再現するか
最初の判定ポイントは、検出した信号が同じ条件で繰り返し現れるかどうかです。部分放電に由来する信号は、設備に電圧が印加されている間、一定の傾向を持って継続または反復することがあります。測定位置をいったん外して再び同じ位置へ戻したとき、同程度の方向と強さで信号が現れるなら、偶発的なノイズではなく、設備に結び付いた現象である可能性が高まります。
再現性を確認するときは、受音部の向き、設備までの距離、感度設定をそろえます。点検者が手を動かした際の衣服の擦れ、足音、工具の接触、通信機器の操作音などが一時的に入ることがあるため、数秒間だけのピークで判断してはいけません。一定時間静止し、信号が継続するか、同じ傾向で繰り返すかを確認します。
設備の負荷や周囲条件が変わると、放電の出方も変化することがあります。そのため、一度確認できなかったからといって、直ちに異常なしとは判断できません。負荷が高い時間帯、湿度が高い日、雨天後、結露が生じやすい時間帯など、現象が現れやすい条件で再確認することが有効な場合があります。ただし、危険な状態が疑われる場合に、現象を再現させるため意図的に運転条件を変えることは避け、設備管理者の手順に従います。
再現性の確認では、同型設備との比較も役立ちます。同じ室内に同じ構造の盤が並んでいる場合、同じ距離と設定で順番に測定し、特定の盤だけに継続的な信号があるかを見ます。ただし、負荷や内部構成が異なる設備を完全に同一条件とはみなせません。あくまで相対的な異常候補の抽出に使い、最終判断は個別設備の履歴や構造を踏まえて行います。
さらに、電源を必要とする補機や冷却装置が周期的に動作する設備では、その運転音が再現性のある超音波として検出される場合があります。再現性があることは重要な手掛かりですが、それだけで部分放電とは断定できません。再現性を確認した後は、位置、音質、周期性、環境ノイズの切り分けへ進む必要があります。
判定ポイント2 発生位置を狭い範囲まで絞り込めるか
二つ目の判定ポイントは、信号が特定の位置や方向へ集中しているかどうかです。部分放電が設備の一部で発生している場合、受音部を左右や上下へ振ると、ある方向で信号が強くなることがあります。盤全体から一様に同じ音が聞こえるのではなく、扉の継ぎ目、通気口、ケーブル引込部、端末部、がいし周辺などで局所的に強くなるなら、発生源を絞り込める可能性があります。
位置を探る際は、いきなり盤へ近づくのではなく、安全な距離から広い範囲を走査し、信号が強い方向を確認します。その後、設備の接近制限や作業手順を守りながら、測定点を細かくします。通電中の配電設備では、点検手順で明示的に認められていない限り、扉を開けたり、保護カバーを外したり、隙間へ受音部を差し込んだりしてはいけません。点検のためにインターロックなどの安全機能を無効化することも避けます。
信号の強弱は、発生源までの距離だけでなく、音が外へ漏れやすい開口部の位置にも左右されます。たとえば内部の別の場所で発生した音が、通気口や扉の隙間から強く出てくることがあります。そのため、「外側で最も強く検出した場所」と「内部の実際の発生場所」が一致するとは限りません。盤の構造図、内部配置、隔壁、ケーブル経路を確認し、音の伝搬経路を考慮する必要があります。
構造を介して伝わる振動を確認できる機器もありますが、接触型センサーを使用できる位置や条件は、設備の構造、接地された外装かどうか、機器メーカーの指示、事業所の作業手順などによって異なります。通電部へ近づく測定や、通常の点検範囲を超える測定は行わず、必要に応じて停電や安全措置を含む正式な点検計画の中で実施します。
位置の絞り込みでは、隣接設備からの回り込みにも注意が必要です。高い周波数の音は直進性が比較的高い一方、金属面で反射し、通路や壁面で複雑に聞こえることがあります。盤の正面、側面、背面から安全に測れる場合は、複数方向から確認し、同じ区画へ収束するかを見ます。方向を変えても同じ区画が強いなら、発生源の推定精度は高まります。
判定ポイント3 音質と周期性に放電らしい特徴があるか
三つ目の判定ポイントは、変換された音の質と、信号の周期性です。部分放電に伴う超音波は、一定のうなり、細かな連続パルス、ぱちぱちとした断続音、ざらついた音として聞こえる場合があります。ただし、音の表現は点検機器の変換方式や設定によって異なり、点検者の聴感にも左右されます。そのため、「この音なら必ず放電」と決めつけるのではなく、波形や信号レベルの変化と合わせて確認します。
交流で運転する設備では、放電が印加電圧波形の特定の位相付近で発生しやすく、信号に電源周波数と関係する周期性が現れる場合があります。耳で聞くと規則的な脈動や一定のリズムとして感じられることがあります。周期性が安定しており、設備への指向性も明確なら、部分放電を疑う根拠の一つになります。ただし、超音波機器の可聴化音だけから位相特性を確定することはできません。
一方、機械の回転音やファンの羽根通過音にも周期性があります。リレーの動作、接触器の振動、電磁力によるうなり、空気流の乱れなども規則的に聞こえる可能性があります。周期性があるだけでは放電と機械音を区別できないため、設備の運転サイクルと照らし合わせます。補機が停止した時刻と信号の消失が一致するなら、その補機由来の可能性が高まります。反対に、補機の運転状態と無関係に同じ場所で信号が続くなら、別の発生源を検討します。
放電の状態は常に一定とは限りません。湿度、表面汚損、電圧、負荷、温度の変化によって、音の密度や強さが変わることがあります。とくに絶縁物表面の放電は、水分や汚れの影響を受けやすく、乾燥時には弱く、湿潤時に目立つ場合があります。点検時の気象や室内環境を記録しておくと、音質の変化を説明しやすくなります。
音を記録できる場合は、聞き取りだけで終わらせず、同じ設定で短い記録を残します。後日、前回の音と比較できれば、パルスの増加や連続化などを確認しやすくなります。ただし、音の録音データは機器設定や信号処理に依存するため、異なる設定や異なる機種の記録を無条件に直接比較しないことが重要です。
判定ポイント4 絶対値ではなく経時変化で悪化を捉えられるか
四つ目の判定ポイントは、測定値の絶対値だけでなく、同一設備における経時変化を重視することです。超音波の信号レベルは、受音部の距離や角度、盤の構造、感度設定、周囲環境によって大きく変わります。そのため、機器メーカーや設備管理基準で適用条件が明確にされていない単一の基準値を、すべての配電設備へ一律に当てはめると、正常設備を異常と判断したり、異常設備を見逃したりするおそれがあります。
実務で有効なのは、設備ごとに定点を決め、同じ条件で測定を繰り返す方法です。盤の正面右上、ケーブル引込部、扉の継ぎ目など、再現しやすい測定位置を決め、距離、角度、感度、周波数設定、測定時間を記録します。次回点検でも同じ条件を再現し、信号レベル、音質、パルス密度、発生位置が変化していないかを確認します。
前回と比べて数値が上がっていても、測定条件が異なれば単純な悪化とは言えません。距離が近くなった、感度が高くなった、扉や換気設備の状態が違った、周囲の設備が停止していたなどの違いがないかを確認します。反対に、数値の上昇が小さくても、信号が局所化し、音が断続的な状態から連続的な状態へ変化しているなら、注意すべき変化かもしれません。
経時変化を見る際は、負荷や環境条件も合わせて記録します。同じ設備でも、軽負荷時と高負荷時では温度や電界分布に関係する条件が異なり、信号に差が出ることがあります。湿度の高い日だけ信号が強くなる場合は、表面汚損や結露の影響を疑う材料になります。単に数値の折れ線を見るのではなく、運転条件と環境条件を重ねて解釈することが重要です。
傾向管理では、急激な変化と緩やかな変化を分けて考えます。前回までほとんど検出されなかった設備で突然明瞭な信号が現れた場合は、測定ミスや一時的ノイズを切り分けたうえで、早めの再点検を検討します。数か月から数年かけて徐々に強くなる場合は、劣化が進行している可能性を考え、設備の重要度や他の診断結果を踏まえて、停止点検や精密診断の計画へ反映します。
判定ポイント5 周囲のノイズと環境条件を切り分けられるか
五つ目の判定ポイントは、検出した超音波が配電設備由来か、周囲のノイズ由来かを切り分けることです。超音波点検では、人には聞こえにくいさまざまな音が検出されます。圧縮空気の漏れ、蒸気やガスの流れ、ファン、ポンプ、モーター、軸受、ベルト、空調設備、清掃作業、金属同士の摩擦などが代表例です。屋外では、風雨、昆虫、鳥、車両、工事音の影響も考えられます。
ノイズを切り分ける基本は、設備へ向けたときと別方向へ向けたときの差を確認することです。受音部を配電盤から外したときに信号が大きく低下し、再び同じ場所へ向けると戻るなら、設備との関連が疑われます。周囲のどの方向へ向けても同程度に検出される場合は、空間全体へ広がる環境ノイズの可能性があります。
次に、周辺機器の運転状態と信号の変化を照らし合わせます。安全かつ運用上可能な範囲で、近くの換気設備や補機の運転記録を確認し、信号の発生時刻と一致していないかを見ます。点検のために無断で機器を停止してはいけません。運転状態の確認は、中央監視の記録や設備管理者への聞き取りなど、安全な方法で行います。
湿度、結露、汚損は、部分放電の発生条件にも、音の伝わり方にも影響する可能性があります。雨天後に信号が強まる屋外設備では、絶縁物表面の水分や汚れが関係している可能性があります。屋内でも、空調停止後の温度変化や換気不足により結露が生じることがあります。点検時には、気温、湿度、天候、設備表面の状態を記録し、必要に応じて条件をそろえて再確認します。
風が強い場所では、受音部周辺の乱流がノイズになる場合があります。点検者の移動や衣服の擦れも影響します。測定中は姿勢を安定させ、必要以上に機器を動かさず、短時間のピークではなく継続的な信号を確認します。複数の点検者が同じ位置で同じ傾向を確認できれば、主観による誤判定を減らせます。
設備室内に複数の盤が並ぶ場合は、基準となる比較設備を先に測る方法も有効です。健全と考えられる盤でも一定の背景音はあります。背景レベルを把握してから対象設備を測ることで、その設備だけに現れる局所的な信号を見つけやすくなります。ただし、比較設備も未確認の異常を抱えている可能性があるため、「正常設備」と断定せず、相対比較の基準として扱います。
判定ポイント6 他の点検結果と整合しているか
六つ目の判定ポイントは、超音波の結果が、外観、温度、臭気、電気的診断、運転履歴などと整合しているかどうかです。部分放電の判定精度を高めるには、異なる原理の点検方法を組み合わせることが重要です。超音波は有効な入口ですが、単独で故障部位や緊急度を確定するものではありません。
まず外観では、絶縁物表面の汚れ、変色、白化、炭化痕、ひび割れ、異物、結露跡、端末部の変形などを、安全に確認できる範囲で見ます。通電中の盤を不用意に開放せず、点検窓や外部から確認できる範囲に限定します。異臭がある場合は、放電や過熱の可能性を考えますが、臭いを確かめるために顔を近づける行為は危険です。
温度点検では、接続部の緩みや過電流による異常加熱を確認できる場合があります。ただし、部分放電は必ずしも大きな温度上昇を伴いません。温度が正常だから部分放電がないとは言えず、超音波信号があるのに温度差が小さい場合もあります。反対に、温度上昇があっても原因が接触抵抗や負荷偏りであり、部分放電とは別の現象であることがあります。
電気的な部分放電診断には、設備構造や電圧階級に応じて、電荷ベースの測定、過渡的な接地電位の検出、高周波電流の検出、超高周波信号の検出など複数の方法があります。どの方法が適切かは設備ごとに異なり、専門知識と安全な測定環境が必要です。絶縁抵抗測定や誘電特性の測定は、絶縁状態を評価する補助情報にはなりますが、それだけで部分放電の有無や発生位置を直接確認できるものではありません。超音波で異常候補が見つかった場合は、設備管理者や保全責任者が、停止点検や適切な精密診断の要否を判断します。
運転履歴も重要です。過去に同じ区画で結露、浸水、ケーブル端末不良、絶縁物汚損が発生していないか、最近の工事や増設で負荷や換気条件が変わっていないかを確認します。事故や警報がなくても、直近の負荷増加や環境変化が、放電発生の背景にある可能性があります。
複数の兆候が同じ場所へ収束している場合は、優先度を上げて対応します。たとえば、超音波が局所的に強く、前回より増加し、外観にも変色があり、湿度上昇時に悪化するなら、単独の信号よりも異常の可能性は高まります。反対に、超音波だけが一時的に検出され、位置が定まらず、再現性もなく、周囲の機械音と連動しているなら、環境ノイズの可能性を検討します。
超音波点検を安全かつ効率的に進める手順
超音波点検を実施する前に、対象設備、運転状態、立入区分、接近制限、保護具、緊急時の連絡方法を確認します。配電設備の点検は、事業所の保安規程、作業手順、必要な教育や資格要件に従って行う必要があります。測定しやすいからという理由で、通電中の扉を開けたり、インターロックを解除したり、受音部を隙間へ差し込んだりしてはいけません。
点検は、設備室全体の環境確認から始めます。空調、換気、ポンプ、圧縮空気配管など、背景ノイズになり得る設備の位置と運転状態を把握します。次に、比較対象となる設備を測定し、室内の背景レベルを確認します。その後、対象設備を一定の順序で走査すると、測り忘れや点検者ごとの差を減らせます。
広範囲の走査では、盤から安全な距離を保ち、正面、側面、可能であれば背面を確認します。信号を捉えたら、受音部を小さく動かして強い方向を探ります。位置が絞れたら、測定点、距離、角度、感度、周波数設定、信号レベル、音の特徴、周囲条件を記録します。写真を撮影する場合は、設備番号と測定位置が分かるようにし、通電部や立入制限を侵さない位置から行います。
点検中に、明瞭で強い放電様の信号、異臭、煙、明らかな変色、異常な振動などを確認した場合は、測定を続けるよりも安全確保を優先します。設備へ近づかず、定められた連絡系統で報告し、運転継続の可否を設備管理者が判断します。点検者が独断で設備を操作することは避けます。
定期点検へ組み込む場合は、測定ルートと定点を固定します。設備番号、測定面、測定高さ、距離を標準化し、点検者が変わっても同じ条件を再現できるようにします。測定時間帯も可能な範囲でそろえると、負荷や環境の差を小さくできます。
誤判定を減らすための記録と基準づくり
超音波点検の精度は、機器の性能だけでなく、記録方法と判定基準の整備によって大きく変わります。点検者が音を聞いて「異常らしい」と感じても、その根拠が残っていなければ、次回点検で比較できません。設備ごとに定点を定め、数値、音、波形、測定条件、環境条件を一緒に記録することが重要です。
記録には、設備名称、設備番号、測定日時、運転状態、負荷の目安、周囲温度、湿度、天候、測定位置、距離、角度、感度設定、周波数設定、信号レベル、音の特徴、再現性、推定位置を含めます。異常候補がある場合は、同じ場所を別方向から測った結果や、隣接設備との比較結果も残します。写真上に測定点を示せば、後から現場を知らない担当者でも状況を把握しやすくなります。
判定基準は、単一の数値だけで作らないことが重要です。信号の有無、再現性、局所性、周期性、前回からの増加、他の兆候との一致を組み合わせ、注意、要再点検、要精密診断、緊急報告などの区分を定めます。区分ごとに、再点検の時期、報告先、必要な追加診断、停止計画への反映方法を決めておくと、点検後の対応が属人化しません。
同じ型式の設備群がある場合は、健全と考えられる設備の通常傾向を蓄積し、比較の基準を作ります。ただし、設備の設置年、負荷、内部構成、環境が異なれば、通常傾向も変わります。設備群の平均から外れていることだけで異常と断定せず、その設備自身の過去データと合わせて評価します。
点検者教育では、実際の通常音と異常候補音を共有し、ノイズの例も学びます。放電音だけを覚えるのではなく、空気漏れ、ファン、機械振動、工具接触などの音を聞き分ける訓練が有効です。複数人で同じ設備を測定し、結果の差を確認することで、受音部の動かし方や感度設定のばらつきを把握できます。
測定機器の点検も欠かせません。受音部の汚れ、破損、電池残量、設定状態、機器メーカーが指定する機能確認や点検時期などを確認し、機器側の不具合を設備異常と誤認しないようにします。点検開始前に、機器メーカーが推奨する方法や既知の確認対象で動作確認を行えば、測定途中の異常に気付きやすくなります。
異常度に応じた対応判断の考え方
超音波で異常候補を検出した後は、設備の重要度と兆候の強さを踏まえて対応を決めます。すべての信号に対して直ちに停電点検を行うと、運用への影響が大きくなります。一方、明確な悪化傾向を見逃すと、突発停止のリスクが高まります。そのため、判定結果を段階的に扱うことが現実的です。
信号が弱く、再現性がなく、位置も定まらない場合は、測定条件を確認したうえで短期間に再点検します。周辺設備の運転状態や環境ノイズを調べ、同じ条件で信号が再び現れるかを確認します。記録を残さず「様子見」とするのではなく、再確認する期限と担当者を決めることが重要です。
信号が繰り返し現れ、特定区画へ集中するものの、経時的な増加や他の異常兆候が見られない場合は、監視頻度を上げることを検討します。負荷や湿度が異なる条件で再測定し、設備の保守履歴を確認します。次回の計画停止時に、内部の外観確認や清掃、締結状態、絶縁物の状態確認を行うことも検討します。
前回より信号が増加し、音が連続化し、局所性が高まっている場合は、測定条件の差を確認したうえで、精密診断や停止点検の優先度を上げます。設備の重要度、代替回路の有無、停止に必要な準備期間を考慮し、保全計画へ反映します。超音波以外の診断で同じ場所に異常が示されるなら、対応の根拠はさらに強くなります。
強い放電様の信号に加え、異臭、煙、変色、異常振動、警報などがある場合は、通常の点検フローから切り離し、緊急時の手順に従います。点検者は設備へ接近せず、現場の安全を確保し、設備管理者へ速やかに連絡します。運転停止や系統切替は、権限を持つ担当者が設備状況を確認して判断します。
重要なのは、超音波の数値だけで緊急度を決めないことです。設備の構造、電圧、重要度、故障時の影響、放電の推定位置、経時変化、他の兆候を総合して判断します。判定基準と対応手順を事前に整備しておけば、担当者による判断のばらつきを抑え、必要な対応を適切な時期に実施しやすくなります。
まとめ
配電設備の部分放電を超音波で捉える際は、信号が検出されたかどうかだけではなく、同じ条件で再現するか、発生位置を絞り込めるか、音質と周期性に特徴があるか、経時的に悪化しているか、周囲ノイズを切り分けられるか、他の点検結果と整合しているかという6つの判定ポイントを組み合わせることが重要です。
超音波点検は、機器仕様と安全手順で認められる範囲において、通電中の設備を外部から確認し、異常候補を効率よく抽出できる方法です。ただし、設備内部のすべての部分放電を捉えられるわけではなく、測定値だけで絶縁状態や残存寿命を断定することもできません。定点測定、同一条件での比較、環境記録、他の診断との照合を徹底することで、点検結果の信頼性を高められます。
また、配電設備の点検では、安全確保が最優先です。通電中の盤を不用意に開放せず、接近制限や保護具、必要な教育や資格、事業所の手順を守り、異常が疑われる場合は設備管理者へ速やかに報告します。超音波点検を単発のイベントで終わらせず、日常巡視と定期点検の記録をつなげて傾向管理することが、突発故障の予防につながります。
点検結果は、設備番号、盤列や区画、測定面、写真、測定条件と関連付けて整理することが重要です。屋内では衛星測位に頼らず、設備台帳の識別番号や図面上の位置を主な手掛かりとして記録すると、再点検や保全計画の引き継ぎを行いやすくなります。