配電設備で雷サージ対策が重要になる理由
配電設備で発生する雷被害は、建物や電柱に雷が直接落ちた場合だけに限られません。周辺への落雷によって電源線や信号線に過電圧が誘導されるケース、架空配電線を通じてサージが侵入するケース、接地電位が急激に上昇するケースなど、さまざまな経路があります。落雷地点が設備から離れていても、長いケーブルや屋外配線を通じて雷サージが伝わり、配電盤や制御盤の内部機器を損傷させることがあります。
雷サージとは、落雷などに伴って瞬間的に発生する大きな過電圧や過電流です。継続時間は短くても、通常運転時の電圧を大きく超えるエネルギーが配電設備へ加わる可能性があります。遮断器は主に過負荷や短絡電流から配線を保護する装置であるため、非常に短時間の雷サージを、それだけで十分に抑えられるとは限りません。
配電設備へ雷サージが侵入すると、主回路機器の焼損だけでなく、制御装置の停止、通信異常、計測値の乱れ、監視装置の再起動、センサー入力部の故障などが起こることがあります。外観上の損傷が見えない場合でも、電子部品が劣化し、落雷から時間が経過した後に不具合として現れる可能性もあります。
現在の配電設備には、遠隔監視、運転制御、エネルギー管理、設備診断などのために多くの電子機器が組み込まれています。こうした機器は設備管理を効率化する一方、瞬間的な過電圧に対する耐性が主回路機器より低い場合があります。そのため、従来は大きな被害が生じなかった設備でも、電子化の進展によって雷サージ対策の重要性が高まることがあります。
雷サージによる被害を減らすために用いられるのがSPDです。SPDは、通常時には配電回路へ大きな影響を与えず、一定以上の過電圧が加わったときにサージ電流を接地側などへ流し、機器に加わる電圧を制限するための装置です。
ただし、SPDを盤内に取り付けただけで、あらゆる雷被害を防げるわけではありません。SPDの種類、最大連続使用電圧、放電耐量、電圧防護レベル、設置位置、配線長、接地構成などが設備条件に合っていなければ、十分な保護効果を得られない可能性があります。
さらに、雷サージは電源線だけから侵入するとは限りません。通信線、制御線、計装線、屋外センサーの配線などを通じて回り込むこともあります。電源回路にSPDを設置していても、別の配線が無保護であれば、機器内部に大きな電位差が生じ、故障につながることがあります。
配電設備の雷サージ対策では、単に大きな放電電流に耐えられるSPDを選ぶのではなく、設備全体の構成と保護対象を把握したうえで選定する必要があります。本記事では、実務担当者が確認したいSPD選定の条件を五つに整理し、段階的な保護や設置後の点検方法まで解説します。
SPDを選ぶ前に確認する配電設備の条件
SPDの仕様を比較する前に、対象となる配電設備の条件を整理します。最初に確認したいのは、雷サージが侵入する可能性のある経路です。受電線が架空で引き込まれているのか、地中配線なのか、別棟との間を長いケーブルで接続しているのか、屋外設備へ配線が延びているのかによって、必要な対策は変わります。
架空線は周辺への落雷による誘導の影響を受ける可能性があり、受電点付近で比較的大きなサージを想定しなければならない場合があります。地中配線であっても、雷サージの影響がなくなるわけではありません。地上に露出する区間、接続先の設備、接地電位の上昇、通信線からの回り込みなどを考慮する必要があります。
次に、受電点から末端機器までの配電経路を確認します。主配電盤、分電盤、制御盤、屋外盤、末端機器がどのようにつながっているかを単線結線図で整理します。図面だけでなく、実際の配線距離や敷設経路も重要です。盤間の距離が長い場合は、上流側のSPDを通過した後に、新たな誘導サージが配線へ加わる可能性があります。
系統電圧と配電方式も確認します。単相か三相か、線間電圧と対地電圧がどのような関係になっているか、中性線がどのように扱われているかによって、SPDの接続方法と必要な電圧定格が異なります。非常電源や自家発電設備、電源切替回路がある場合は、運転状態によって電圧条件や接地構成が変化しないかも確認します。
接地方式については、図面上の記載だけでなく、現場の接続状態を確認することが大切です。改修を重ねた設備では、設計時とは異なる接地線の取り回しになっていることがあります。複数の接地系統が離れた位置に設けられている場合、雷サージ時に接地間の電位差が大きくなる可能性もあります。
保護対象機器については、電源入力の定格だけでなく、通信端子、制御入出力端子、センサー端子なども確認します。制御装置に複数の外部配線が接続されている場合、一つの回路だけを保護しても十分とは限りません。設備外へ延びるすべての金属配線を洗い出し、侵入経路を整理することが重要です。
過去の雷被害履歴も選定に役立ちます。どの盤で、どの機器が、どのような状態で故障したかを確認します。電源入力部が損傷したのか、通信端子が損傷したのか、複数の機器が同時に故障したのかによって、推定される侵入経路が変わります。
落雷時に遮断器が動作したか、SPDの状態表示が変化したか、接地線や端子に変色がないかといった情報も記録します。故障した機器だけを交換しても、侵入経路が残っていれば被害が再発する可能性があります。SPD選定は、設備全体の調査から始めることが重要です。
条件1 設置場所と保護目的に合うSPDを選ぶ
一つ目の条件は、設置場所と保護目的に合ったSPDを選ぶことです。SPDには、受電点付近で大きな雷電流の一部を処理するもの、分電盤などで残留サージを抑えるもの、末端機器の近くで電圧をさらに低減するものがあります。
SPDの区分は、適用する規格や設計条件によって表現が異なる場合があります。そのため、区分名だけを見て判断するのではなく、どの試験波形に対して、どの程度の電流を処理できるのかを確認する必要があります。
建物に外部雷保護設備が設けられている場合や、直撃雷による電流の一部が電源系統へ流入する可能性がある場合は、受電点付近で大きなエネルギーを処理できるSPDが必要になることがあります。この用途では、代表的に10/350マイクロ秒の電流波形に対する性能が確認されます。
10/350マイクロ秒の波形は、立ち上がりが急であるだけでなく、電流が比較的長く継続する特徴があります。そのため、同じ電流値に見えても、短い波形に比べてSPDへ加わる電荷量やエネルギーが大きくなる場合があります。
主配電盤の下流や分電盤では、受電点側で抑えきれなかった残留サージや、建物内部の配線に誘導されたサージを処理する役割が中心になります。この段階では、代表的に8/20マイクロ秒の電流波形に対する公称放電電流や最大放電電流が選定項目になります。
末端機器に近い場所では、大きな放電耐量だけでなく、保護対象に加わる電圧をどの程度まで低減できるかが重要です。制御装置、通信機器、計測機器などは、主回路機器よりも過電圧に対する余裕が小さい場合があります。上流側のSPDだけでは必要な保護水準を満たせない場合、末端側にもSPDを設けます。
ここで注意したいのは、受電点用の大容量SPDを末端に一台設置すれば、すべてを保護できるとは限らないことです。大きな電流を処理できても、末端機器が必要とする低い電圧防護レベルを満たさない可能性があります。
反対に、末端保護を目的とするSPDを受電点へ設置すると、想定を超える雷電流によって早期に劣化したり、故障したりするおそれがあります。設置場所ごとに役割を分担させ、上流から下流へ段階的にサージのエネルギーを減らす考え方が必要です。
電源回路用と信号回路用のSPDを区別することも重要です。電源回路用では、系統電圧や負荷条件への適合が求められます。信号回路用では、信号電圧、通信速度、周波数帯域、線路インピーダンス、許容される挿入損失などを考慮します。
信号回路用SPDの特性が回路に合っていないと、通信速度が低下したり、計測信号が変化したりすることがあります。電源用SPDをそのまま信号線へ使用することはできません。保護する回路の種類に合わせて選定します。
設置環境も確認します。盤内温度、湿度、結露、粉じん、腐食性ガス、振動、標高などがSPDの使用条件から外れる場合、期待する寿命を得られないことがあります。屋外盤や半屋外盤では、SPDだけでなく、盤の防水、防じん、換気、結露防止を含めて検討します。
条件2 系統電圧と接地方式に適合させる
二つ目の条件は、SPDの電圧定格を配電設備の系統電圧と接地方式へ適合させることです。特に重要なのが最大連続使用電圧です。これは、SPDへ連続して加えてよい電圧の上限を示す値です。
最大連続使用電圧は、単に設備の公称電圧より高ければよいわけではありません。通常時の電圧変動、線間電圧、対地電圧、地絡時の一時的な過電圧、非常電源への切替時の状態などを含めて判断します。
SPDを線間に接続するのか、相線と接地間に接続するのか、中性線と接地間に接続するのかによって、通常時に加わる電圧は異なります。三相配電設備では、線間電圧だけを基準に選ぶと、各端子間に加わる実際の電圧を見落とす可能性があります。
選定時には、単線結線図上でSPDの接続位置を明確にし、各端子間に通常時と異常時に加わる電圧を確認します。変圧器の二次側結線、中性線の接地状態、発電設備の接続構成なども確認対象です。
最大連続使用電圧が低すぎるSPDを使用すると、通常の電圧変動や一時的な過電圧によって、内部素子へ継続的な負担が加わることがあります。その結果、漏れ電流の増加、温度上昇、早期劣化、切離し機構の動作などにつながる可能性があります。
SPDの劣化によって前段の遮断器が動作すると、保護対象ではなく配電回路全体が停止することもあります。設備停止の影響が大きい施設では、通常運転時の電圧条件を正確に把握する必要があります。
一方で、最大連続使用電圧を必要以上に高くすると、通常時の余裕は増えますが、サージ時に電圧を制限する水準も高くなる傾向があります。そのため、保護対象機器へ加わる残留電圧が大きくなり、十分な保護効果を得られない可能性があります。
余裕を見込んで高い電圧定格を選べば安全とは限りません。通常電圧への耐性と、サージ時の電圧抑制性能を両立させる必要があります。
接地方式によっては、地絡時に健全相の対地電圧が上昇することがあります。この状態がどの程度続く可能性があるかを確認し、SPDが一時的な過電圧に耐えられるかを検討します。
雷サージではなく、系統事故による一時的な過電圧でSPDが損傷するケースも考えられます。SPDの仕様に示される一時的な過電圧への耐性や、異常時の動作特性も確認します。
既設盤への追加では、図面と現場の配線が一致しているかを確認します。中性線と接地線が設計どおりに分離されているか、接地端子がどこへ接続されているか、改修による変更がないかを調べます。
電圧を実測する場合は、通常運転時だけでなく、負荷変動時や電源切替時の変化も把握します。ただし、通電中の盤内測定には感電や短絡の危険があるため、設備の管理手順と安全措置に従い、必要な資格や技能を持つ担当者が実施します。
条件3 想定する雷電流に見合う放電耐量を確保する
三つ目の条件は、SPDの放電耐量を、設置場所で想定される雷電流に合わせることです。放電耐量を示す代表的な項目には、インパルス電流、公称放電電流、最大放電電流などがあります。
これらの数値は、試験に使用する電流波形や評価目的が異なります。数値だけを比較して、最も大きなものを選べばよいわけではありません。どの波形に対する値かを必ず確認します。
受電点付近など、雷電流の一部が流入する可能性がある場所では、10/350マイクロ秒の波形に対するインパルス電流耐量が重要になる場合があります。分電盤や制御盤などでは、8/20マイクロ秒の波形に対する公称放電電流や最大放電電流が重視されることがあります。
公称放電電流は、所定の条件で繰り返しサージを処理する能力を評価するための指標です。最大放電電流は、より大きな単発サージに対する限界的な性能を示すために用いられることがあります。具体的な定義や試験回数は、適用される規格と仕様書を確認します。
雷が多い地域、山間部、沿岸部、周囲に高い建物が少ない場所、広い屋外敷地では、雷サージへさらされる可能性が高くなる場合があります。また、長い架空線や屋外配線がある設備も注意が必要です。
ただし、地域の雷発生頻度だけで放電耐量を決めるのは適切ではありません。受電方式、外部雷保護設備の有無、建物の高さ、配線の長さ、接地構成、過去の被害状況などを総合的に評価します。
建物間を金属ケーブルで接続している場合、落雷時に建物ごとの接地電位が異なり、ケーブルを通じて大きな電流が流れる可能性があります。屋外ポンプ、照明設備、監視設備、計測設備などへ長い配線を延ばしている場合も、末端側の保護を検討します。
放電耐量が大きいSPDを選んでも、接続線や端子が雷電流に対応できなければ、設備全体として安全に電流を流せません。SPD本体だけでなく、接続導体の断面積、端子の適合、接地線の経路、前段保護装置の条件をそろえることが必要です。
三相回路では、雷サージが各相へ均等に分流するとは限りません。相線と接地間、中性線と接地間、線間など、どの保護モードにどの程度の電流が流れる可能性があるかを考えます。
仕様書では装置全体の放電性能だけでなく、一極当たりの定格を確認します。極数が合っていても、接続方法を誤ると、特定の保護素子へ負担が集中することがあります。
SPDが短期間で繰り返し劣化する場合は、単純に放電耐量の大きなものへ交換するだけでは不十分です。系統電圧の不適合、一時的な過電圧、接地間電位差、配線の長さ、SPD間の協調不良なども考えられます。
状態表示が頻繁に異常を示す場所では、交換履歴と雷発生状況を照合します。雷が発生していない時期にも劣化している場合は、通常電圧や設備構成に原因がないかを確認します。
条件4 保護対象に合う電圧防護レベルを確認する
四つ目の条件は、SPDがサージを処理した後に保護対象へ加わる電圧を確認することです。放電耐量が十分でも、残留する電圧が機器の耐電圧を上回れば、故障を防げない可能性があります。
SPDの電圧防護レベルは、規定された試験条件においてSPDの端子間に現れる電圧の上限を示す指標です。この値と、保護対象機器のインパルス耐電圧を比較します。
主回路機器は比較的高い耐電圧を持つ場合がありますが、制御基板、通信装置、計測機器、センサー入力回路などは、より低い電圧で損傷する可能性があります。同じ盤内でも、機器ごとに必要な保護水準が異なります。
保護対象の中で耐電圧が低い機器に合わせてSPDを選ぶ方法がありますが、系統全体を一つのSPDだけで保護しようとすると、放電耐量や配線条件との両立が難しくなることがあります。その場合は、上流と末端でSPDを分けて配置します。
ここで重要なのは、SPDの仕様書に記載された電圧防護レベルと、実際に機器端子へ加わる電圧が必ずしも同じではないことです。SPDへ接続する配線にはインダクタンスがあり、雷サージのような急激な電流が流れると、配線部分にも電圧が発生します。
SPDから主回路への接続線や、SPDから接地端子への配線が長くなるほど、配線による追加電圧が大きくなる可能性があります。SPD本体の性能が高くても、配線が長く迂回していれば、保護対象へ高い電圧が加わることがあります。
そのため、SPDは保護する回路の近くへ配置し、接続線をできる限り短く、直線的に施工します。余った接地線を輪状にまとめたり、盤内を大きく迂回させたりする配線は避けます。
主回路の端子位置と接地端子の位置が離れている盤では、SPDを空きスペースへ取り付けるのではなく、最短の接続経路を確保できる位置を検討します。既設盤でスペースが限られている場合は、端子台の追加や盤内配置の変更も含めて検討します。
上流側と下流側へ複数のSPDを設置する場合は、SPD間の協調が必要です。上流側が大きなサージエネルギーを処理し、下流側が残留電圧をさらに低減するように構成します。
協調が不十分だと、下流側のSPDへ過大な電流が集中し、上流側より先に劣化する場合があります。反対に、上流側の動作電圧が高すぎると、下流側だけでサージを処理する状態になる可能性があります。
SPD間の距離、配線インピーダンス、各SPDの動作特性などによって協調条件は変わります。一定の距離を設ければ必ず協調できるとは限りません。組み合わせ条件が示されている場合は、その条件に従います。
電源線と信号線が同じ機器へ接続されている場合は、それぞれのSPDが抑える電位をそろえることも重要です。電源側だけが低い電位に抑えられていても、通信線側の電位が上昇すれば、機器内部に大きな電位差が生じます。
外部配線が多い制御装置では、電源端子だけでなく、通信、制御、計装の各端子について保護水準を確認します。機器へ入るすべての経路を同じ境界で保護する考え方が有効です。
条件5 配線と遮断保護と状態監視まで含めて選ぶ
五つ目の条件は、SPD本体の定格だけでなく、配線方法、遮断保護、状態監視、交換方法まで含めて選ぶことです。SPDは、雷サージを繰り返し処理することで徐々に劣化する可能性があるため、永続的に同じ性能を維持する機器とは考えないことが重要です。
SPDが劣化して内部短絡に近い状態になると、配電系統から切り離す必要があります。そのため、SPDの前段には、指定された条件に適合する遮断器やヒューズなどのバックアップ保護が必要になります。
上位の遮断器をバックアップ保護として利用できる場合もありますが、定格や遮断容量が適合していなければ、SPDの故障時に安全に切り離せない可能性があります。SPDの仕様に示される前段保護装置の条件を確認します。
前段保護の定格が大きすぎると、SPD内部で異常が発生しても、速やかに切り離せないおそれがあります。一方で、定格が小さすぎると、雷サージが流れるたびに不要動作し、設備停止につながる可能性があります。
重要負荷では、SPDの異常によって主回路全体が停止しないよう、SPD用の分岐回路を設けることも検討されます。ただし、SPDだけが切り離された状態では、負荷が無保護のまま運転されることになります。
SPD用分岐が遮断された場合に、管理者へ警報を出せる構成が必要です。保護を失ったことに気付かず運転を続けると、次の落雷で被害を受ける可能性があります。
SPDには、正常と異常を示す目視表示を備えたものがあります。無人設備や巡視間隔が長い設備では、警報接点によって遠隔監視できる構成が有効です。
警報接点を監視装置へ接続する場合は、警報線の配線経路にも注意します。警報線が盤外へ長く延びる場合、その線自体がサージの侵入経路になる可能性があります。必要に応じて警報回路側の対策も検討します。
交換方法も選定項目に含めます。SPDを交換するために盤全体の停電が必要な構成では、重要設備ほど交換作業を実施しにくくなります。保護素子部分を交換できる構造や、交換作業を行いやすい端子配置を選ぶと、保守負担を減らせます。
ただし、通電した状態での交換が可能かどうかは、SPDの構造だけで判断できません。盤の構造、充電部との離隔、作業規程、感電防止措置などを確認し、安全な手順を定めます。
SPDの接続線は、指定された導体断面積を確保します。放電電流が大きいSPDでは、必要な接続線も太くなる場合があります。端子が対応する導体範囲、圧着端子、曲げ半径、盤内スペースも確認します。
接地線は短くすることが基本ですが、単に接地抵抗の低い場所へ長い線を引けばよいわけではありません。雷サージは急激に変化する電流であるため、配線の長さや曲がりがインピーダンスへ影響します。
接地線を鋭く曲げたり、不要な輪を作ったりすると、サージ電流が流れにくくなり、SPD端子間の電圧が高くなる可能性があります。できる限り短く、滑らかな経路で主接地端子へ接続します。
SPD専用の独立した接地極を設ければ必ず保護性能が上がるとは限りません。既存の接地系統から離れた接地極を設けると、雷サージ時に接地極間で電位差が生じることがあります。
建物の主接地端子、配電設備の接地、外部雷保護設備の接地などを等電位化し、危険な電位差を抑えることが重要です。接地抵抗値だけでなく、雷電流が流れる経路全体を確認します。
複数のSPDを段階的に配置する方法
配電設備の雷サージ対策では、一か所にSPDを設置するだけでなく、受電点から末端機器まで段階的に配置する方法が有効です。上流側で大きなエネルギーを処理し、下流へ進むにつれて電圧を低減します。
受電点付近では、建物へ侵入する大きな雷サージを最初に処理します。主配電盤や分電盤では、上流側のSPDを通過した残留サージや、建物内部で誘導されたサージを抑えます。
制御盤や末端機器の近くでは、電子機器の耐電圧に合わせて、さらに低い水準まで過電圧を制限します。このように役割を分けることで、一台のSPDへ負担が集中することを避けやすくなります。
受電点にSPDがある場合でも、離れた別棟へ長いケーブルで給電している場合は、別棟の引込部にもSPDが必要になることがあります。建物間では、それぞれの接地電位が異なる可能性があるためです。
同じ建物内でも、屋上設備、屋外設備、外壁沿いの配線、階をまたぐ長い幹線には注意が必要です。上流側でサージを抑えても、その後の配線区間で誘導サージが発生することがあります。
段階的に配置するときは、SPD同士の協調を確認します。放電耐量の大きなSPDを上流に、電圧防護レベルの低いSPDを下流に配置するだけでは、必ずしも適切に分担できるとは限りません。
各SPDの動作電圧、配線距離、配線インピーダンス、保護対象の特性などを確認します。指定された組み合わせがある場合は、それに従うことが基本です。
盤間距離が短く、配線インピーダンスによる分離効果を得にくい場合は、協調用の要素が必要になることもあります。具体的な構成は、設備条件とSPDの技術仕様に基づいて判断します。
段階保護では、設備の重要度に応じて優先順位を付けることも有効です。停止による影響が大きい制御設備、復旧に時間がかかる通信設備、交換部品の調達が難しい機器は、末端まで保護を強化します。
一方で、重要機器だけを保護し、周辺回路を無保護にすると、別の回路からサージが回り込むことがあります。重要設備を中心にしながら、接続される電源線や信号線を含めて保護範囲を決めます。
電源線以外から侵入する雷サージへの対策
配電設備の雷サージ対策では、電源線だけに注目しないことが重要です。制御盤や監視装置には、通信線、制御線、計装線、センサー線など、多くの外部配線が接続されています。
屋外センサー、監視設備、アンテナ設備、別棟の制御装置などにつながる配線は、雷サージの侵入経路になる可能性があります。電源側をSPDで保護していても、信号線側からサージが侵入すれば、機器内部で絶縁破壊が起こることがあります。
通信線用SPDを選ぶ際は、通常信号の電圧を超えない範囲で、十分な最大連続使用電圧を確保します。動作電圧が低すぎると通常信号へ影響し、高すぎると機器を保護できない可能性があります。
通信速度や周波数帯域への適合も必要です。SPDを挿入することで信号が減衰したり、波形が乱れたりすると、雷が発生していない通常時にも通信障害が起こることがあります。
計装回路では、微小な電流や電圧を扱う場合があります。SPDの漏れ電流や直列抵抗が計測値へ影響しないかを確認します。温度、圧力、流量などのセンサー回路では、わずかな変化が測定誤差につながる可能性があります。
電源線用SPDと信号線用SPDは、できるだけ同じ等電位境界付近へ配置します。電源線が建物へ入る位置と信号線が入る位置が大きく離れていると、雷サージ時に盤内へ電位差を持ち込む可能性があります。
建物外から入る金属配線を一つの場所に集め、主接地端子との距離を短くする構成が望ましい場合があります。ただし、既設設備では配線経路の変更が難しいこともあるため、各引込部で適切に保護します。
金属配線を光による通信経路へ置き換える方法も、建物間の電位差によるサージ電流を抑える対策の一つです。ただし、変換装置の電源回路や接地構成には別途対策が必要です。
制御盤の改修時には、新たに追加した通信線やセンサー線がSPDの保護範囲に入っているかを確認します。導入当初は十分な対策がされていても、設備増設によって無保護の侵入経路が増えることがあります。
SPDの設置後に必要な点検と交換判断
SPDは設置後も継続的な点検が必要です。外観が正常に見えても、過去に処理した雷サージや通常電圧の影響によって内部素子が劣化している可能性があります。
定期点検では、状態表示、警報接点、前段保護装置、端子の緩み、変色、異臭、異常な温度上昇、腐食、結露などを確認します。盤内へ水分や粉じんが侵入している場合は、SPDだけでなく盤の環境対策も見直します。
状態表示が異常を示している場合は、表示部分だけを復帰させるのではなく、SPDの交換要否を確認します。保護素子が切り離された状態では、盤内にSPDが取り付けられていても雷サージを抑えられません。
遠隔監視を行っている設備では、SPDの警報接点を監視項目へ加えます。警報が発生した場合の連絡先、確認手順、交換判断、復旧確認をあらかじめ定めておくと、保護機能を失った状態を短くできます。
雷雨の後には、定期点検を待たずに臨時確認を行う方法も有効です。SPDの状態表示だけでなく、制御装置の警報履歴、通信エラー、再起動履歴、計測値の変化を確認します。
完全に故障していなくても、雷サージを受けた電子部品が劣化し、後から不具合が現れることがあります。雷発生前後の運転データを比較できるよう、平常時の記録を保存します。
SPDの交換履歴には、設置場所、交換日、交換理由、状態表示、前段保護装置の動作、雷発生状況などを記録します。同じ場所で短期間に交換が続く場合は、単なる寿命と判断せず、選定や施工を見直します。
最大連続使用電圧が低すぎないか、配線が長すぎないか、上流と下流のSPDが協調しているか、接地間に大きな電位差が生じていないかを確認します。
予備品を保管する場合は、定格や極数が異なるSPDを取り違えないように管理します。外観が似ていても、最大連続使用電圧、放電耐量、電圧防護レベル、警報接点の有無などが異なることがあります。
設備台帳には、SPDの仕様だけでなく、盤内の設置位置、接続先、前段保護装置、接地線の経路を記録します。写真を残す場合は、交換前後で同じ範囲を撮影すると、端子や配線の変化を比較しやすくなります。
SPD選定で起こりやすい失敗
SPD選定で起こりやすい失敗の一つは、最大放電電流の数値だけで製品仕様を比較することです。放電電流が大きくても、最大連続使用電圧や電圧防護レベルが設備に合っていなければ、十分な保護はできません。
試験波形が異なる数値を、そのまま比較することも避けます。10/350マイクロ秒のインパルス電流と、8/20マイクロ秒の放電電流では、評価しているサージの性質が異なります。
二つ目は、盤内の空きスペースを優先してSPDを配置することです。主回路端子や接地端子から遠い場所へ設置すると、接続線が長くなり、配線による電圧上昇が大きくなる可能性があります。
SPDの選定と配置は別々に考えず、短い接続経路を確保できるかまで確認します。仕様上は適合していても、施工後の配線によって保護性能が低下することがあります。
三つ目は、接地抵抗値だけを見て対策が十分と判断することです。接地抵抗が低くても、SPDから接地端子までの線が長く、曲がりが多ければ、雷サージ時の電圧を十分に抑えられない可能性があります。
複数の接地極を別々に設けている設備では、接地極間の電位差にも注意します。雷サージ時の等電位化を考え、建物全体の接地構成を確認します。
四つ目は、受電点にSPDを設置しただけで、末端機器まで保護できると考えることです。長い配線の途中で誘導サージが加わる場合や、末端機器の耐電圧が低い場合は、追加のSPDが必要になることがあります。
五つ目は、電源線だけを保護して、通信線や制御線を見落とすことです。雷サージが侵入した方向と、電流が流れ出る方向が異なる場合、機器内部へ大きな電位差が加わります。
六つ目は、前段保護装置の条件を確認しないことです。SPD本体が適切でも、遮断器やヒューズが指定条件に適合していなければ、SPD故障時の安全な切離しができない可能性があります。
七つ目は、設置後の点検方法を決めていないことです。状態表示が異常になっても気付けなければ、長期間にわたって無保護の状態が続きます。点検周期、警報の確認方法、交換手順、予備品管理まで計画します。
雷被害後に同じSPDへ交換するだけで終わらせることも、再発につながる可能性があります。SPDが想定どおりに動作して被害を抑えたのか、放電耐量を超えて損傷したのか、電圧条件の不適合で劣化したのかを確認します。
故障した機器の位置、端子の損傷、SPDの状態、遮断器の動作、接地線の変色などを記録し、サージが流れた経路を推定します。その結果を次の選定と施工へ反映することが重要です。
まとめ
配電設備の雷サージ被害を減らすためには、SPDの仕様を一つの数値だけで判断せず、設備条件に合わせて総合的に選定する必要があります。
一つ目の条件は、設置場所と保護目的に合うSPDを選ぶことです。受電点、分電盤、制御盤、末端機器では、処理すべき雷サージの大きさと役割が異なります。
二つ目の条件は、系統電圧と接地方式に最大連続使用電圧を適合させることです。通常時だけでなく、地絡や電源切替による一時的な過電圧も考慮します。
三つ目の条件は、想定する雷電流に見合う放電耐量を確保することです。電流値だけでなく、試験波形、設置場所、繰り返し性能を確認します。
四つ目の条件は、保護対象機器に合う電圧防護レベルを選ぶことです。SPD本体の性能だけでなく、接続線によって生じる追加電圧や、上流と下流のSPDの協調も考慮します。
五つ目の条件は、配線、前段保護、状態監視、交換方法まで含めて選ぶことです。SPDは劣化する可能性があるため、異常を検知し、速やかに交換できる運用体制が欠かせません。
また、雷サージは電源線だけでなく、通信線、制御線、計装線などからも侵入します。外部から配電設備へ入るすべての金属配線を確認し、機器内部に危険な電位差を生じさせないよう対策します。
SPDは単独で雷被害を完全に防ぐものではありません。外部雷保護設備、等電位ボンディング、接地、配線経路、盤内配置、段階的なSPD配置、定期点検を組み合わせることで、配電設備全体の耐雷性能を高められます。
既設設備では、図面だけでなく現場の配線や接地線の状態を確認することが重要です。改修履歴が十分に残っていない場合は、盤の位置、配線経路、接地端子、屋外設備との接続状況を調査し、設備台帳へ反映します。
SPDの設置位置や接地線の経路、盤周辺の状況を継続的に記録すると、雷被害後の原因調査や更新計画を進めやすくなります。配電設備の位置情報、現場写真、周辺形状を効率よく残したい場合は、LRTK Phoneを活用して設備管理記録を整備する方法も検討できます。