配電設備で接地電位上昇への対策が必要な理由
配電設備で地絡事故が発生すると、事故電流の一部が接地導体や接地極を通じて大地へ流れます。このとき、接地設備の電位が遠方の大地に対して一時的に上昇する現象が接地電位上昇です。接地電位上昇が大きい場合、接地された機器の金属外箱に触れる人へ接触電圧が加わったり、地表面を歩く人の両足間に歩幅電圧が生じたりする可能性があります。
本記事では、主として商用周波数の地絡事故を対象に接地網設計を整理します。雷サージでは、電流の立上がりが速く、導体のインダクタンス、接地系の過渡応答、土壌の非線形な挙動などが影響するため、地絡事故と同じ定常的な接地抵抗だけでは評価できません。避雷設備や雷保護を検討する場合は、接地網とのボンディングを含め、過渡現象として別途評価する必要があります。
商用周波数の事故における接地電位上昇は、概念的には接地網から大地へ流れる電流と、接地網が遠方大地に対して持つインピーダンスの積で表されます。ただし、系統で発生する地絡電流の全量が接地網から大地へ流れるとは限りません。架空地線、ケーブルの金属遮へい層や金属シース、建築物の鉄骨、金属配管、中性線、他の接地設備などへ分流する場合があります。
そのため、接地網設計では系統の最大地絡電流だけを用いるのではなく、接地網から大地へ流出する電流を設備構成に合わせて見積もります。分流経路を無視すれば過大な設計条件になることがありますが、反対に、図面上の接続をすべて健全な分流経路として扱うと、接地網へ流れる電流を過小評価するおそれがあります。通常運用、回線停止、保守時の切離し、将来増設など、接続状態が変わる条件も確認することが重要です。
接地電位上昇の数値が大きいからといって、人体へ同じ電圧がそのまま加わるわけではありません。安全性を判断するうえで重要なのは、人が同時に触れる二つの点の電位差と、その電位差が継続する時間です。接地された機器と足元との電位差が接触電圧であり、地表面上の離れた二点に置かれた両足間の電位差が歩幅電圧です。
接地網の内部では電位を比較的均一にしやすい一方、外周部、導体端部、垂直接地極の周辺、事故電流が流れ込む接続点では、電位勾配が急になる場合があります。屋外盤の操作位置、変圧器の周囲、門扉、フェンス、引込柱、照明柱、通路などがこうした場所にあると、人が利用する位置で大きな電位差が生じる可能性があります。
接地安全は、接地抵抗値だけでは判断できません。接地抵抗が低くても、導体配置や人の立ち位置によって局所的な接触電圧が大きくなることがあります。反対に、地盤条件のため接地抵抗を大幅に下げにくい場所でも、導体配置、等電位化、地表面層、動線、立入管理を組み合わせることで、人体に加わる危険を低減できる場合があります。
保護装置の動作時間も重要です。事故回路を短時間で遮断できれば危険な電位差の継続時間を短くできますが、主保護の不動作や遮断器の不動作を想定して後備保護で遮断する条件では、継続時間が長くなることがあります。接地網設計と保護協調は別々に扱わず、共通する事故電流、分流条件、遮断時間を用いて検討します。
なお、実際の安全判定に用いる許容接触電圧や許容歩幅電圧は、事故継続時間、地表面層、人体モデルなどの前提によって変わります。一律の目安だけで合否を決めず、設備に適用される法令、技術基準、設計基準、電力会社や施設管理者の要求を確認し、必要に応じて接地設計の専門知識を持つ技術者が評価することが重要です。
接地網設計を始める前に整理すべき条件
接地網を具体的に設計する前には、配電設備の系統条件、配置条件、地盤条件、周辺条件を整理します。最初に確認したいのは、想定される地絡電流、接地網から大地へ流れる電流、事故継続時間です。受電電圧、変圧器構成、中性点接地方式、上位系統の短絡容量、ケーブル構成、保護装置の整定などによって条件は変わります。
事故電流については、単一の最大値だけでなく、接触電圧や歩幅電圧が厳しくなる運用状態を探します。地絡電流が大きくても、架空地線やケーブル遮へい層への分流が大きい状態と、地絡電流はやや小さくても接地網へ流れる割合が大きい状態では、接地電位上昇の大小が逆転する場合があります。分流率を一つの固定値として扱わず、代表的な系統状態を比較します。
事故継続時間は、主保護が正常に動作する条件だけでなく、後備保護が動作する条件も整理します。ただし、どの故障条件を設計対象にするかは、設備の重要度、保護方式、冗長性、適用基準によって異なります。設計図書には、採用した電流、遮断時間、分流条件、系統状態とその根拠を残します。
現在の運用状態だけでなく、将来の設備増強も考慮します。変圧器の増設や容量変更、受電回線の変更、分散電源の連系、ケーブル更新などによって、地絡電流や分流経路が変わる可能性があります。接地網は完成後の大規模な改修が難しいため、具体化している増設計画は初期設計へ反映させることが望まれます。
次に、接地対象となる金属体を整理します。変圧器、配電盤、開閉装置、ケーブルラック、避雷設備、構造物、フェンス、門扉、照明柱、手すり、金属階段、金属配管など、事故時に電位が変化する可能性がある部分を確認します。人が同時に触れられる範囲にある金属体は、等電位化するか、電気的かつ物理的に十分な分離を確保するかを検討します。
設備配置だけでなく、人の動線も重要です。操作盤の前面、扉を開く際の立ち位置、保守点検で立つ場所、出入口、門扉の内外、日常通路、避難経路、臨時作業で立ち入る場所を図面上で確認します。接地網の安全性は、人がどこに立ち、何へ触れるかによって変わるためです。
地中埋設物の情報も欠かせません。電力ケーブル、通信管路、排水管、給水管、ガス管、基礎杭などがあると、接地導体や接地極を計画どおりに施工できない場合があります。既設設備では古い図面だけに頼らず、現地調査、埋設物探査、必要に応じた試掘を行い、安全な施工範囲を確認します。
さらに、敷地境界と周辺施設との関係を整理します。接地網が境界に近い場合、設備外の地表面へ電位勾配が広がることがあります。敷地外の歩道、隣接建物、金属フェンス、共用配管、通信設備などへの移行電位も検討対象です。
設計の前提には不確かさが含まれます。土壌抵抗率、埋設物、既設接地導体の健全性、分流率などが十分に把握できない場合は、単一の楽観的な条件へ絞らず、安全側と想定される複数条件で解析します。こうした準備により、接地抵抗値だけを目的にした設計から、人体と設備の安全を総合的に確保する設計へ移行できます。
改善策1 土壌抵抗率を測定して接地網の外形を最適化する
1つ目の改善策は、現地の土壌抵抗率を測定し、その結果に合わせて接地網の外形や接地極の構成を決めることです。土壌抵抗率は、接地導体から大地へ電流が流れる際の重要な条件です。同じ材質、同じ長さの接地導体を施工しても、土壌抵抗率や層構成が異なれば得られる接地性能は変わります。
土壌抵抗率は敷地内で一定とは限りません。表土、盛土、砂質土、粘性土、砂れき層、岩盤などが複雑に分布し、場所や深さによって値が変化することがあります。造成地では、埋戻し材、締固め状態、排水状態の違いにより、近接した場所でも測定結果が異なる場合があります。
代表的な一地点だけを測定し、敷地全体の条件とみなすことは避けます。接地網を設ける範囲、敷地の地形、造成履歴を考慮し、複数地点、複数方向で測定することが望まれます。接地網の一部を離れた場所まで延長する場合は、延長先の土壌条件も確認します。
電極間隔を変えながら測定すると、深さ方向の土壌構成を推定する材料になります。ただし、測定値から得られる層構成は逆解析を含む推定であり、一意に決まるとは限りません。必要に応じて地盤調査結果や地質情報と照合し、単層地盤、二層地盤、多層地盤など、目的に合うモデルを選びます。
測定時の天候や土壌水分にも注意します。降雨直後は地表付近の抵抗率が通常より低く測定される可能性があり、乾燥期には高くなることがあります。測定日時、天候、直前の降雨、地表面の状態、測定方向、電極間隔、周辺の埋設金属体を記録し、設計値を決めた根拠を残します。
地表付近の土壌抵抗率が比較的低く、敷地面積を確保できる場合は、水平方向に接地網を広げる方法が候補になります。接地網の外形を広げると、大地へ電流を放出する範囲が増え、接地インピーダンスの低減が期待できます。また、主要設備や操作位置を接地網内部へ収めやすくなります。
ただし、接地網を外側へ広げれば常に安全になるとは限りません。外周を敷地境界へ近づけると、急な電位勾配が敷地外へ移る場合があります。外形の拡大による接地インピーダンスの改善と、境界外の接触電圧や歩幅電圧への影響を同時に確認します。
敷地が狭い場合や表層の抵抗率が高い場合は、深い位置に低抵抗層があるかを確認します。深部に導電性の高い層がある場合は、垂直接地極を利用してその層へ電流を流しやすくできる可能性があります。深部まで高抵抗の地盤が続く場合は、長い接地極を追加しても期待した改善が得られないことがあります。
接地網の外形は、可能な範囲で主要な配電設備と通常の作業位置を包むように計画します。変圧器や屋外盤が接地網の外側にあると、機器まで延びる接地導体の周辺で局所的な電位差が生じる場合があります。将来の設備増設位置が具体化している場合は、その範囲も考慮します。
土壌抵抗率の調査は、接地抵抗計算へ数値を入力するだけの作業ではありません。接地網をどの方向へ広げるか、垂直接地極をどこへ配置するか、地表面対策をどこへ重点的に設けるかを判断する基礎です。設計初期に調査を行うことで、施工後の追加対策や不確実な補正を減らしやすくなります。
改善策2 接地導体の配置と網目間隔を見直す
2つ目の改善策は、接地導体の配置と網目間隔を見直し、接地網内部の電位分布を整えることです。接地網の総延長を増やすと大地と接する範囲が広がり、接地インピーダンスの低減が期待できます。網目を細かくすると、機器周辺や人が立つ場所の局所的な電位差を抑えやすくなる場合があります。
ただし、同じ面積の中へ接地導体を過度に密集させても、接地抵抗が導体量に比例して低下するわけではありません。近接する導体の電流放出領域が重なるためです。限られた導体量で効果を高めるには、接地網全体を広げる部分と、局所的に網目を細かくする部分を分けて検討します。
網目を細かくする候補は、操作盤の前面、変圧器の周囲、屋外開閉装置の操作位置、保守作業員が立つ場所です。作業位置の下や周囲へ導体を配置すると、足元の地表面電位を接地された機器の電位へ近づけ、接触電圧を低減できる場合があります。ただし、効果は埋設深さ、土壌抵抗率、地表面層、導体間隔によって変わるため、解析で確認します。
接地網の外周部も重点的に検討します。外周部では、接地網の電位から遠方大地の電位へ移るため、電位勾配が急になる傾向があります。外周導体が設備境界から大きく内側へ入っていると、フェンスや通路が急な電位勾配の範囲に入る可能性があります。
一方、外周導体を敷地境界へ近づけ過ぎると、敷地外へ電位勾配を移すおそれがあります。隣接する歩道や建物へ人が立ち入る場合は、接地網の外周位置、敷地境界、人の動線を一体として確認します。外周導体の追加は、接地抵抗の低減だけでなく、敷地内外の接触電圧と歩幅電圧で評価します。
接地導体の埋設深さも電位分布へ影響します。深く埋設すれば必ず接触電圧が低下するとは限りません。浅い導体は地表面電位へ強く影響する一方、外周付近の勾配を変えることがあります。深い導体は表層の乾燥や温度変化の影響を受けにくい場合がありますが、地表面電位への効果は配置との組合せで変わります。
事故電流が接地網へ流れ込む位置も考慮します。変圧器中性点、開閉装置、ケーブル遮へい層、避雷設備などの接続点には、事故条件によって大きな電流が集中する可能性があります。接続点から接地網全体へ電流を分散できるよう、導体の経路、断面積、接続点数を検討します。
主要機器を一つの細い導体だけで接地網へ接続すると、その導体や接続部へ電流が集中する可能性があります。必要に応じて複数経路や環状経路を検討しますが、複数接続が常に最適とは限りません。通常時の循環電流、電磁両立性、ケーブル遮へい層の接地方式、設備メーカーの条件も確認します。
既設配電設備では、増設のたびに導体を継ぎ足し、網目状ではなく枝状になっている場合があります。枝状の接地導体は、途中の接続部が損傷したときに先端設備が孤立しやすくなります。可能であれば、別経路との接続を追加して冗長性を確保し、接地系統図と現地状態を一致させます。
接地導体の配置改善は、接地抵抗の低減量だけで評価しません。接触電圧や歩幅電圧が大きい場所を特定し、その場所へ重点的に導体を追加することで、比較的限られた施工量でも危険を低減できる場合があります。
改善策3 垂直接地極を追加して事故電流を分散する
3つ目の改善策は、垂直接地極を追加し、事故電流を水平方向だけでなく深さ方向へも分散させることです。敷地面積が限られ、水平方向へ接地網を広げにくい配電設備では、有力な選択肢になる場合があります。
垂直接地極は、接地網の四隅、外周部、事故電流が流れ込む設備の近くなどへ配置する方法が考えられます。深部に比較的低い抵抗率の層がある場合は、その層まで到達させることで接地インピーダンスを改善できる可能性があります。
ただし、接地極を追加すれば必ず接地抵抗や接触電圧が大幅に改善するわけではありません。効果は、土壌抵抗率の深さ方向分布、接地極の長さ、直径、本数、配置間隔、水平接地網との接続位置によって変わります。深部まで高抵抗の地盤が続く場所では、長い接地極の効果が限定されることがあります。
複数の接地極を近接して配置すると、それぞれの電流放出領域が重なり、一本当たりの効果が小さくなる場合があります。本数だけを増やすのではなく、施工可能な間隔を確認し、接地極追加と接地網外形の拡張を比較します。必要な間隔は土壌モデルや接地極長などによって変わるため、一律の数値だけで決めないことが重要です。
外周部へ接地極を設けると、接地インピーダンスや外周付近の電位分布を改善できる場合がありますが、配置によっては接地極周辺へ電流が集中し、局所的な歩幅電圧が大きくなることもあります。人が立ち入る場所へ設置する場合は、表面層、立入範囲、通路の位置と組み合わせて評価します。
接地極の施工では、既設のケーブル、配管、基礎、杭などとの干渉に注意します。特に既設配電設備では、図面に記載されていない埋設物が存在する可能性があります。埋設物調査や必要な試掘を行い、関係設備の管理者と調整したうえで施工位置を決めます。
接地極と水平接地導体の接続部には事故電流が集中する可能性があります。接続導体の断面積、接続方法、機械的強度、腐食対策を計画します。地中接続部は完成後に確認しにくいため、埋戻し前に外観、接続状態、位置を確認し、必要な導通測定と記録を行います。
雷保護を兼ねる接地経路では、商用周波数の接地抵抗だけでなく、過渡的なインピーダンスやボンディングも別途検討します。導体を不必要に長くしたり、急な折返しを設けたりすると、雷電流に対する電位差が大きくなる可能性があります。ただし、雷保護の設計条件を商用周波数の地絡事故へそのまま置き換えることはできません。
接地極の周囲へ接地性能を改善する材料を使用する方法もあります。採用する場合は、材料の長期安定性、乾燥、流出、周囲金属への腐食影響、環境条件、施工品質を確認します。施工直後の測定値だけで判断せず、長期に性能を維持できるかを評価します。
垂直接地極の追加後は、接地抵抗値だけでなく、接地電位上昇、主要地点の接触電圧、外周部と接地極周辺の歩幅電圧を再評価します。追加した接地極がどの事故条件で有効かを確認し、期待した効果が得られない場合は導体配置や地表面対策を見直します。
改善策4 接触電圧と歩幅電圧を地表面対策で低減する
4つ目の改善策は、地表面の構成や人の動線を見直し、人体へ流れる電流を低減することです。この方法は接地電位上昇そのものを必ずしも下げるものではありません。接地網の電位が上昇した場合でも、人が危険な電位差へさらされにくくする対策です。
屋外配電設備では、機器周辺へ砕石などの表面層を設ける方法があります。表面層の抵抗が十分に高ければ、接地された機器へ触れた人の足元から大地へ流れる電流を抑えられる可能性があります。ただし、材料名だけで効果を決めず、使用する材料の抵抗率、厚さ、粒径、含水状態、下層地盤との関係を確認します。
表面層は施工後に状態が変わります。土砂や細粒分が隙間へ入り込む、砕石が減る、雑草が繁茂する、水が滞留するといった変化により、設計時に期待した抵抗が得られなくなる場合があります。設計値へ表面層の効果を見込むときは、維持管理方法も合わせて定めます。
排水状態も重要です。操作盤の前面や門扉付近に水たまりが生じると、表面層の効果が低下する可能性があります。接地網設計と排水計画を別々に進めず、地盤勾配、排水溝、雨水の流れ、凍結や融雪の影響などを確認します。
接触電圧を低減するには、作業者の足元の電位を、触れる機器の電位へ近づける考え方もあります。操作位置の直下や周囲へ接地導体を配置すると、地表面電位を接地網電位へ近づけられる場合があります。扉を開く際の立ち位置や点検時の移動範囲まで考慮し、解析で効果を確認します。
歩幅電圧は、接地網の外周部、接地極の周辺、導体端部で大きくなる場合があります。日常通路や避難経路がこれらの場所を横切らないよう、設備配置や動線を見直します。通路を変更できない場合は、導体追加、表面層、立入管理などを組み合わせます。
門扉周辺は、接触電圧と歩幅電圧の双方に注意が必要です。門扉を接地網へ接続すると、接地網の電位が門扉へ伝わります。門扉の外側に立つ人の足元が遠方大地に近い電位であれば、門扉との間に大きな電位差が生じる可能性があります。
反対に、門扉を接地網から切り離せば必ず安全になるわけでもありません。門扉と接地されたフェンス、構造物、配管などを同時に触れられる場合は、別の接触電圧が生じる可能性があります。接地するか分離するかは一律に決めず、内側と外側の立ち位置、周囲の導体配置、表面層、同時接触の可能性を含めて評価します。
門扉の蝶番は、機械的につながっていても電気的な導通が安定しないことがあります。塗装、さび、グリース、摩耗により抵抗が変化する可能性があるため、等電位化する場合は可動に対応した接続導体を検討し、定期的に状態を確認します。
フェンスも接地網との関係を明確にします。接地網へ接続された金属フェンスが敷地外まで連続すれば、接地電位を外部へ伝える経路になる場合があります。接地網へ接続しない場合でも、接地された設備と同時に触れられる位置にあれば危険な電位差が生じる可能性があります。
屋外照明柱、手すり、金属階段、配管支持材なども見落とせません。主要機器だけを接地網へ接続しても、作業員が同時に触れられる別の金属体の電位が異なれば接触電圧が生じます。設備周辺の金属体を洗い出し、等電位化、分離、立入制限の方針を統一します。
地表面対策は、接地網の設計不足を単純に補う万能策ではありません。接地網による電流分散、保護装置による早期遮断、地表面層による人体電流の抑制、動線変更、立入管理を組み合わせ、適用基準に基づく接触電圧と歩幅電圧の評価で効果を確認します。
改善策5 外部へ伝わる移行電位を管理する
5つ目の改善策は、接地網から外部へ延びる導電性の経路を把握し、移行電位を管理することです。この対策も接地電位上昇そのものを必ずしも下げる方法ではありません。接地網の電位が離れた場所へ伝わり、設備外で危険な電位差を生じることを防ぐための対策です。
接地網の電位が上昇すると、接地網へ接続された機器の金属外箱や接地導体も電位上昇します。その接地導体、ケーブルの金属部分、配管などが遠方まで連続していれば、接地電位が別の場所へ伝わる場合があります。外部へ伝わった電位と、その場所の地表面や別系統の接地との間に生じる電位差が問題になります。
移行電位の経路には、電力ケーブルの金属遮へい層や金属シース、通信ケーブルの金属部分、制御線の遮へい、金属配管、建物間の接地線、鉄骨、金属フェンスなどがあります。接地網設計では、単線結線図だけでなく、通信系統図、配管図、建築図、敷地配置図も確認します。
ケーブルの金属遮へい層は、事故電流の分流経路になる場合があります。分流により接地網から大地へ直接流れる電流が減る可能性がある一方、ケーブルの接続先へ電位を伝える経路にもなります。分流による接地電位上昇の低減だけでなく、接続先の接触電圧、機器絶縁、遮へい層へ流れる電流を評価します。
通信回線や制御回路では、両端の接地電位が異なると、回路の絶縁や機器端子へ大きな電圧が加わる可能性があります。信号線だけでなく、遮へい層の接地位置、電源回路の接地、保護装置の接続先を含めて確認します。
外部との電位差を抑えるため、電気的に絶縁された伝送経路や絶縁機器を介した接続が候補になることがあります。ただし、接地接続を安易に切り離すと、感電保護、過電流保護、雷保護、ノイズ対策に必要な経路まで失われる可能性があります。回路の目的と保護機能を確認し、関係する設計者間で方針を整合させます。
金属配管へ絶縁継手を設ける場合も注意が必要です。絶縁継手の両端には事故時に大きな電位差が加わる可能性があります。絶縁性能だけでなく、設置場所、人が両側へ同時に触れる可能性、雷サージや誘導の影響を確認します。
別棟の配電設備同士を接地線で接続する場合は、両方の接地網の電位上昇を考慮します。等電位化を目的とした接続であっても、接地網の規模や事故条件が異なれば、建物間の接地線へ大きな電流が流れる場合があります。接続線の熱的強度、機械的強度、経路、端部の接触電圧を確認します。
既設設備では、後から追加された通信線や配管が新たな移行電位経路になることがあります。設備更新の審査では、機器の容量や配線だけでなく、接地系との接続、遮へい層の処理、外部へ延びる金属経路を確認します。
接地網の境界を越える導体を一覧化し、接続先、接地方法、通常時と事故時の電流経路を記録することが有効です。接地網内部の安全だけでなく、離れた建物、通信設備、配管利用者などへ電位差が及ばないかを追跡できるようにします。
接地網の導体断面積と接続方法を確認する
接地導体の断面積は、通常時の電流ではなく、事故時に流れる電流と継続時間を基に確認します。地絡事故が発生すると接地導体へ大きな電流が流れ、導体温度が上昇します。断面積が不足すると、導体の過熱、接続部の損傷、機械的強度の低下につながる可能性があります。
断面積の検討では、事故電流、分流率、遮断時間、導体材質、初期温度、許容温度、接続部の耐熱性能を確認します。短時間電流に対する熱的強度だけでなく、腐食による将来の断面減少、施工時の損傷、機械的強度も考慮します。
接地網では、事故電流がすべての導体へ均等に分流するとは限りません。変圧器中性点、開閉装置、ケーブル遮へい層などの接続位置では、網目へ分流するまでの区間に大きな電流が流れる可能性があります。接地網全体の平均的な電流だけで導体断面を決めないことが重要です。
接地導体の材質は、導電性だけでなく、土壌中での腐食、周辺金属との組合せ、施工方法、期待寿命を踏まえて選定します。異種金属を地中で直接接続すると、土壌条件によっては電食が進みやすくなることがあります。接続材料と防食方法は、導体材質と環境条件に適合させます。
接続部は接地網の性能を左右する重要箇所です。図面上では連続していても、接続部が緩む、腐食する、施工不良があると、事故電流が想定どおりに流れません。地中接続部は点検しにくいため、施工時の品質管理が特に重要です。
埋戻し前には、接続部の外観、接続方法、位置、導体の損傷を確認します。必要に応じて導通を測定し、施工写真と出来形図を残します。写真だけでは位置関係が分かりにくいため、接続部が接地網のどこにあるかを図面や座標情報へ反映します。
接地導体がケーブルダクト、排水管、基礎などと交差する場所では、将来の掘削によって損傷する可能性があります。交差位置を記録し、必要に応じて保護構造や埋設表示を設けます。後続工事の担当者が接地導体の存在を把握できる管理方法を整えます。
地上の接地端子では、緩み、塗装のかみ込み、腐食、振動による損傷へ注意します。外観上は接続されていても、接触抵抗が増加している場合があります。主要機器の接地接続は、点検と測定が可能な構造にすることが望まれます。
設計後に実施したい解析と現地測定
接地網の形状を決めた後は、接地抵抗または接地インピーダンスだけでなく、接地電位上昇、接触電圧、歩幅電圧、移行電位、接地導体の熱的強度を確認します。特に人が立ち入る場所、接地網の外周部、接地極の周辺、外部導体の接続先では、電位分布を細かく確認します。
解析に使用する事故電流は、想定する系統状態によって変わります。通常運用時だけでなく、回線停止時、変圧器停止時、系統増強後、ケーブル遮へい層の接続状態が変わる条件も確認します。事故電流の大きさと分流率の双方を変え、厳しい条件を見落とさないようにします。
故障継続時間は、主保護と後備保護の条件を整理します。主保護が短時間で遮断する条件だけを使うと、遮断器不動作時などの影響を見落とす可能性があります。ただし、極端な条件を無条件に重ねるのではなく、適用基準と設備の保護設計に基づいて、評価対象を明確にします。
接触電圧の評価地点は、実際の作業位置を基に選びます。配電盤の操作位置、扉を開く際の立ち位置、変圧器の点検位置、門扉の内外、フェンス沿いの通路、外部導体の終端などを対象にします。作業時に長い工具や可搬機器を扱う場合は、同時に触れ得る範囲も確認します。
歩幅電圧は、接地網の外周部、接地極の周辺、導体端部を重点的に確認します。日常的な通路でなくても、点検、故障対応、避難時に立ち入る可能性があれば評価対象に含めます。
施工完了後は、接地抵抗または接地インピーダンス、接地導体の導通、必要な地点の電位差を現地で測定します。測定結果を設計値と比較する際は、架空地線、ケーブル遮へい層、鉄骨、配管などが接続されていたかを確認します。これらが接続された状態では、接地網単独ではなく周辺経路を含む値になる場合があります。
補助電極を用いる測定では、配置距離や方向が結果へ影響します。大規模な接地網では、補助電極を十分に離せないと、接地網と補助電極の電位分布が重なり、結果が不安定になることがあります。敷地条件に応じて複数方向や複数距離で測定し、測定方法の適用限界を確認します。
接地網へ試験電流を流し、敷地内外の電位差を測定する方法もあります。試験電流に対する電位差を事故電流へ換算する場合は、対象が商用周波数であり、土壌や接地系の応答を線形とみなせる範囲かを確認します。雷サージや大電流による土壌の非線形挙動を、低電流試験から単純比例で推定しないことが重要です。
測定時には、試験電流の帰路、周囲の電力設備から受ける誘導、測定線の配置、ノイズ、作業者の安全へ注意します。通電試験や稼働設備付近の測定は、資格や技能を有する者が作業計画と安全措置を整えたうえで実施します。
設計値と測定値が大きく異なる場合は、計算か測定のどちらかを直ちに誤りと判断せず、条件差を確認します。土壌抵抗率の季節変化、導体の施工位置、接続漏れ、想定外の分流経路、周辺金属体との接続、測定電極の配置などが原因として考えられます。
測定結果は数値だけでなく、測定方法、測定位置、周波数、天候、地表面の状態、設備の接続状態とともに保存します。同じ条件を再現できる記録があれば、定期測定で接地網の性能変化を判断しやすくなります。
既設配電設備の接地網を改善する手順
既設配電設備の接地網を改善する場合は、最初に現在の接地系統を把握します。古い設備では、図面に記載された接地導体と実際の施工状態が一致していないことがあります。設備増設、建物改修、掘削工事などにより、一部の導体が撤去または切断されている可能性もあります。
接地系統図、設備配置図、建築図、ケーブル経路図、過去の点検記録を集め、接地対象と接続経路を整理します。その後、地上で確認できる接地端子、接地母線、接続箱、構造体との接続部を現地で確認します。
導通測定では、各機器が共通の接地網へ接続されているかを確認します。ただし、複数の並列経路がある場合は、一つの導体が断線していても別経路を通じて低い抵抗値が測定されることがあります。可能な範囲で経路を切り分け、測定値だけで導体の健全性を断定しないことが重要です。
接地抵抗が高い場合は、接地網の規模不足だけでなく、導体断線、接続部の腐食、接地極の劣化、土壌の乾燥、周辺分流経路の変更などを調べます。原因を確認せずに接地極を追加すると、本来修理すべき断線箇所が残る可能性があります。
敷地に余裕があれば、既設接地網の外周を拡張する方法が候補になります。新しい水平接地導体を既設網へ適切な位置で接続し、面積を広げます。接続点が一箇所だけでは追加導体へ十分に電流が分散しない場合があるため、解析と施工条件を踏まえて接続位置を決めます。
敷地が狭い場合は、垂直接地極の追加、操作場所の下への導体追加、地表面層の改善、動線変更を組み合わせます。接地抵抗を大幅に下げられなくても、接触電圧が大きい場所へ重点的な対策を行うことで、危険を低減できる場合があります。
門扉やフェンス付近で問題がある場合は、接地接続だけでなく、人の立ち位置や通路も見直します。設備運用に支障がなければ、急な電位勾配が生じる範囲への立入りを制限する方法もあります。ただし、立入制限だけを恒久的な電気安全対策の代替にしないことが重要です。
改善工事では、既設設備の接地導体を一時的に切り離す作業へ注意します。運転中の設備から接地接続を外すと、保護機能が失われたり、別の経路へ電流が集中したりする可能性があります。停電範囲、仮接地、作業手順、復旧確認を事前に計画します。
工事完了後は、接地抵抗または接地インピーダンス、導通、主要地点の電位差を確認します。追加した導体や接地極の位置、深さ、接続方法を記録し、図面へ反映します。埋戻し前の写真や位置記録も残しておくと、将来の掘削や設備更新に活用できます。
接地網の性能を維持する保守管理
接地網は地中に埋設されているため、日常点検で全体を直接確認することは困難です。そのため、地上接続部の状態、接地抵抗または接地インピーダンスの推移、導通測定、設備変更履歴、掘削履歴を組み合わせて性能を管理します。
測定値は、土壌水分、温度、周辺接続状態によって変化します。毎回異なる季節や異なる方法で測定すると、接地網の劣化による変化か、環境条件による変化かを判断しにくくなります。可能な範囲で測定時期、測定方向、補助電極位置、設備の接続状態をそろえます。
前年より測定値が高くなっても、直ちに接地網が劣化したとは限りません。降雨量、乾燥、周辺工事、ケーブル更新による分流経路の変化などを確認します。一方、複数回にわたり上昇傾向が続く場合や、導通測定にも変化がある場合は、接続部の腐食や導体断線を疑います。
地上の接地端子や接地母線では、緩み、腐食、変色、発熱痕、機械的損傷を確認します。接地線の接触面へ塗膜や異物が入り込んでいないかも確認します。接続部の抵抗が増加すると、事故時に局所的な発熱が生じる可能性があります。
設備増設時には、新設機器を近くの接地端子へ接続するだけでなく、その端子から接地網までの経路を確認します。既設接地線の断面積、接続部、分流経路が、新しい事故条件に対して十分かを再評価します。
変圧器容量の変更、受電方式の変更、ケーブル更新、保護装置の整定変更、分散電源の追加などが行われると、接地網の設計条件も変わる場合があります。設備更新時は、事故電流、遮断時間、分流率、移行電位を再確認します。
敷地内の掘削工事は、接地網へ損傷を与える大きな要因です。排水管、通信管路、外構設備などの工事で地中導体が切断されることがあります。工事前に位置を確認し、施工業者へ情報を共有します。
接地導体を損傷した場合は、見える範囲をつなぐだけでなく、元の導体と同等以上の熱的強度、機械的強度、耐食性、接続品質を確保します。補修箇所の位置と接続方法を記録し、接地系統図を更新します。
地表面層も定期的に確認します。砕石の減少、土砂の堆積、雑草、水たまりなどにより、接触電圧対策として期待した効果が低下する場合があります。砕石を追加するだけでなく、排水不良や土砂流入の原因を改善します。
接地網の記録には、土壌抵抗率、想定事故電流、分流条件、事故継続時間、導体の材質と断面積、埋設深さ、接地極の位置、接続部、測定結果を含めます。設計時の前提が分かれば、設備条件が変わった際に再評価しやすくなります。
接地導体や接地極の位置を座標情報として記録する方法も有効です。ただし、座標系、基準点、測定方法、測定精度、測定対象を明確にし、位置情報だけでなく導体の深さ、接続先、施工日を関連付けます。地中設備の位置は測位結果だけで断定せず、施工時の出来形確認と図面を組み合わせて管理します。
まとめ
配電設備の接地電位上昇による危険を抑えるには、接地抵抗値だけを下げるのではなく、事故電流の流れ方、地表面の電位分布、人体が触れる条件、外部への移行電位を総合的に管理する必要があります。接地網へ流れる電流、故障継続時間、土壌抵抗率、導体配置、人の動線、外部へ延びる導体を一体として検討します。
1つ目の改善策は、複数地点と複数の電極間隔で土壌抵抗率を把握し、接地網の外形を地盤条件へ合わせることです。水平方向へ広げるか、深部の低抵抗層を利用するかを測定と解析から判断します。
2つ目は、接地導体の配置と網目間隔を見直すことです。外周部、操作盤の前面、事故電流が流れ込む接続点などへ重点的に導体を配置し、接触電圧と歩幅電圧を評価します。
3つ目は、垂直接地極を追加して事故電流を深さ方向へ分散することです。効果は地盤条件や配置間隔によって変わり、接地極周辺の歩幅電圧が大きくなる場合もあるため、追加後の電位分布まで確認します。
4つ目は、表面層、排水、通路、操作位置を見直し、人体へ流れる電流を低減することです。これは接地電位上昇そのものではなく、その影響を抑える対策であり、維持管理を含めて効果を確認します。
5つ目は、ケーブル遮へい層、通信線、金属配管、建物間接地線などを通じて外部へ伝わる移行電位を管理することです。接地網の境界を越える導電経路を一覧化し、事故時にどこへ電位が伝わるかを追跡します。
既設配電設備では、図面だけに頼らず、現地調査、導通測定、接地測定を組み合わせて実際の接地系統を把握します。改善後は施工位置と測定条件を記録し、設備増設や掘削工事のたびに接地網への影響を確認します。
接地導体や接地極は完成後に見えなくなるため、施工時の記録が長期的な保守管理を左右します。LRTK Phoneを位置記録や現場情報の共有に用いる場合も、使用した座標系、基準点、測定方法、精度条件を明記し、出来形図、施工写真、導体深さ、接続先と関連付けて管理することが重要です。