RTKなどの相対測位では、基準局と移動局を結ぶ三次元のベクトルを基線と呼び、その長さを基線長と呼びます。単一基準局RTKでは、基準局と移動局が同じ衛星を同時に観測し、搬送波位相などの差分を使って移動局の位置を求めます。基線が短いほど、両地点で受ける衛星軌道誤差や大気遅延の影響が似やすく、差分後に残る誤差を小さくしやすいのが一般的です。反対に、基線が長くなるほど電離層や対流圏の状態が両地点で一致しにくくなり、初期化時間、FIXの維持、座標の再現性に影響が出る可能性があります。
ただし、基準局から何km離れたら一律に使えなくなる、という共通の境界はありません。測位性能は、受信機とアンテナの仕様、利用周波数、衛星数と衛星配置、補正方式、基準局座標、通信遅延、周辺の遮へいとマルチパス、高低差、気象条件、観測時間、成果に求める精度によって変わります。距離が同じでも、開けた平地と建物や樹木に囲まれた場所では結果が異なります。
本記事では、単一基準局から補正情報を受けるRTK測位を中心に、基線長を7段階に分けて管理上の判断基準を示します。ここで扱う距離帯は、法令、公共測量の一律基準、製品の保証範囲を示すものではありません。距離が伸びるにつれて、どの確認を追加し、どの段階で基準局の近接化、ネットワーク型補正、静止観測、後処理などへ切り替えるかを考えるための保守的な運用目安です。公共測量や契約成果に使用する場合は、適用する作業規程、仕様書、機器仕様、発注者との協議内容を優先してください。
長基線で測位精度が低下しやすい理由
単一基準局RTKでは、基準局と移動局で同時に観測した信号を差分処理し、受信機時計や衛星時計に由来する成分を除去しながら、衛星軌道誤差や大気遅延などの影響を小さくします。衛星軌道誤差と大気遅延は、基準局と移動局が近いほど似た成分として扱いやすくなります。基線が長くなると、両地点から各衛星までの信号経路が異なり、電離層の電子密度や対流圏の気圧、水蒸気量などの空間差が残りやすくなります。
距離に応じて増える性能成分は、機器仕様でppmとして示されることがあります。1ppmは100万分の1であり、距離換算では1km当たり約1mmです。仕様が仮に水平10mm+1ppmであれば、距離項は5kmで約5mm、10kmで約10mm、20kmで約20mm、30kmで約30mmです。ただし、この計算は距離に比例する成分だけを示しています。固定項との合成方法、水平と高さの別、標準偏差や信頼水準、良好な受信環境などの試験条件は製品ごとに異なるため、単純な足し算をそのまま最大誤差や保証値として扱ってはいけません。
さらに、ppmの計算には基準局座標の誤り、アンテナ高の入力ミス、ポールの傾き、観測点への据え付けずれ、マルチパス、補正情報の遅延などが自動的に含まれるわけではありません。距離項が数mmでも、設置や入力の誤りによって数cm以上のずれが生じることがあります。長基線の評価では、機器仕様上の距離項と現場作業に由来する誤差を分けて考える必要があります。
長基線では、座標のばらつきだけでなく整数アンビギュイティの決定にも注意します。搬送波位相測位では、衛星と受信機の間にある搬送波の整数波数を推定し、正しい整数解が得られた状態を一般にFIXと呼びます。大気残差やマルチパスが大きいと、FIXまでの時間が長くなったり、FIXとFLOATを行き来したり、再初期化後の座標が一致しにくくなったりします。
高さ方向は、水平方向より衛星配置の影響を受けやすく、対流圏遅延、アンテナ高、ポールの鉛直性、ジオイドモデルや標高変換の設定にも左右されます。水平位置が安定して見えても、高さが同じ精度で得られているとは限りません。長基線では、水平較差と高さ較差を分けて評価することが重要です。
距離だけで測位精度を判断できない理由
基線長は重要ですが、測位品質を決める条件の一つにすぎません。基線が2kmでも、移動局の周囲に建物の壁、金属フェンス、橋桁、大型車両、重機、法面、樹木があれば、直接波以外の反射波を受信してマルチパスが発生する可能性があります。この場合、距離に比例する誤差より、観測点周辺の環境による誤差が大きくなることがあります。
反対に、10kmを超える基線でも、上空が開け、複数周波数と複数衛星系を利用でき、補正通信が安定し、大気状態が比較的均一であれば、要求精度を満たす結果が得られる場合があります。ただし、ある時刻に一度だけ良い結果が出たことと、別の初期化や別の時刻でも同じ結果を再現できることは別です。重要点では、良好に見える一回の結果より再現性を重視します。
基準局と移動局の高低差も確認が必要です。水平距離が同じでも、沿岸部と山間部、谷底と尾根のように標高差が大きい組み合わせでは、対流圏を通過する条件が異なります。高さを成果として利用する場合は、基線長だけでなく高低差、気圧差、標高変換の設定を点検します。
気象条件についても、単に雨が降っているかどうかだけで判断しません。基準局と移動局の間に前線や強い気象変化があり、気圧、気温、水蒸気量の分布が大きく異なる場合は、対流圏遅延の差が増える可能性があります。長い基線で山地や異なる気象域をまたぐときは、両地点の条件が似ているかを確認します。
補正方式によって距離の捉え方も変わります。単一基準局方式では、実際の基準局と移動局の距離が基線長になります。ネットワーク型補正では、複数局の観測から大気誤差などを推定し、移動局付近の補正情報を生成する方式があります。そのため、特定の物理基準局までの距離だけで単純に評価できません。一方で、ネットワーク型でも基準局網の配置、網の外側か内側か、補正生成の状態、通信品質によって結果が変わるため、距離の影響が完全になくなるわけではありません。
距離別の7段階は、使用可否を自動判定する線ではなく、品質管理を強めるための管理区分として使います。距離が伸びるほど、既知点確認、再初期化、時間を空けた再観測、補正源の変更、別方式との照合を追加します。
判断基準1:0〜3kmでは基準局設定と現場環境を優先する
0〜3kmは、単一基準局RTKで比較的短い基線として扱いやすい距離帯です。仕様上の距離項が1ppmなら、3kmで約3mmです。この範囲で数cm以上の不一致が出た場合は、距離だけを原因と考えず、基準局設定、座標系、アンテナ高、ポールの傾き、マルチパスなどを先に点検します。
最初に確認するのは基準局座標です。緯度と経度の入力順、度分秒と十進度の違い、測地基準系、座標の元期、楕円体高と標高の区別、平面直角座標系の系番号などを誤ると、移動局の全成果に共通したずれが入ります。基準局アンテナの基準位置とアンテナ高も、機器の取扱方法に合わせて入力します。
移動局側では、アンテナ直近の遮へいと反射物を確認します。建物壁面や金属物のすぐ近くでFIXしていても、既知点との較差を確認しないまま成果を採用するのは安全ではありません。受信環境が悪い場合は、可能な範囲でアンテナ位置を開けた場所へ移し、測位点へ座標を移す方法も検討します。
ポールの傾きは短基線でも大きな誤差源です。アンテナ高が2mでポールが鉛直から1度傾くと、アンテナ中心は水平方向へ約35mm移動します。距離項が数mmであっても、整準が不十分ならその利点を失います。気泡管の点検、ポール先端の摩耗、観測点中心への据え付けを日常的に確認します。
この距離帯でも、作業開始前の既知点確認は省略しません。既知点の水平較差と高さ較差が許容値を超える場合は、新点観測を始める前に原因を切り分けます。距離が短いことは、基準局の誤設定や現場作業の誤りを補ってくれる条件ではありません。
判断基準2:3〜5kmでは独立した再観測を追加する
3〜5kmも多くの単一基準局RTKで扱いやすい距離帯ですが、一回のFIX結果だけで重要点を確定しない運用へ移ります。仕様上の距離項が1ppmなら5kmで約5mmですが、実際の成果には固定項、設置誤差、マルチパス、大気残差、基準局座標の不確かさなどが重なります。
有効なのは、同じFIX状態のまま連続記録するだけでなく、整数アンビギュイティを独立に解き直した再観測を行うことです。測位をいったん終了して再開する、衛星追尾や補正接続を再確立するなど、機器の正規手順で再初期化し、同一点を再測定します。同じ初期化を維持した連続値は、同じ誤りを共有している可能性があるため、独立確認としては弱い場合があります。
再観測では、水平座標と高さを分けて比較します。高さだけが不安定な場合は、アンテナ高、ポールの鉛直性、衛星配置、対流圏条件、標高変換設定などを点検します。水平が許容範囲内でも、高さが業務要件を満たさなければ、その観測を高さ成果として採用しません。
FIXへ切り替わった直後の値をすぐ保存するのではなく、座標、解の状態、推定精度、補正情報の経過時間が安定しているかを確認します。ただし、待ち時間を長くすれば必ず正しくなるわけではありません。値が収束しない、FIXとFLOATを繰り返す、再初期化のたびに座標が変わる場合は、観測環境や補正源を見直します。
多数点を短時間で測る現場では、始業時だけでなく、休憩後、通信再接続後、基準局再設置後、受信環境が大きく変わった後にも確認点を測ります。3〜5kmという距離より、作業途中の状態変化を検出できる手順が重要です。
判断基準3:5〜10kmではFIXの安定性と距離項を確認する
5〜10kmでは、単一基準局RTKを利用できる場面が多い一方、基線長による距離項を成果計画へ明示的に含めます。仕様上の距離項が1ppmなら10kmで約10mmです。要求精度が数cmの場合でも、固定項や高さ成分、現場誤差を加えると余裕が小さくなることがあります。
この距離帯では、FIXしたかどうかだけでなく、通常の現場と比べた初期化時間とFIX維持状況を記録します。以前より初期化に時間がかかる、移動のたびにFLOATへ戻る、再初期化後の座標が許容値内で一致しない場合は、基線長、大気状態、衛星配置、マルチパス、補正通信のいずれかが悪化している可能性があります。
複数周波数の利用は、電離層遅延を推定しやすくするうえで有効です。ただし、何kmから必須になるかは測位方式、機器仕様、適用規程によって異なります。公共測量の作業規程で定められる周波数や観測時間の条件は、観測方法と等級によって異なるため、単一基準局RTKの一般論と混同しないようにします。
基準局と移動局の高低差や気象差が目立つ場合は、10km未満でも追加確認を行います。海岸部と山間部、谷と高原のような組み合わせでは、距離だけを見て短基線と判断しないことが大切です。重要点では、作業開始時と終了時に既知点または確認点を測り、作業中に基準局や補正状態が変化していないかを確かめます。
5〜10kmの判断基準は、FIX率が高いかではなく、独立した初期化でも既知点と新点の座標が要求精度内で再現されるかです。結果が一致しないときは、平均して採用するのではなく、原因を特定してから再観測します。
判断基準4:10〜20kmでは単一基準局方式の余裕を点検する
10〜20kmでは、単一基準局RTKが前提とする大気条件の類似性が現場によって崩れやすくなります。海外の単一基準局RTKの実務指針には、20km以下を比較的短い基線として扱う考え方がありますが、これは20kmまでの精度を一律に保証する境界ではありません。新しい受信機やアルゴリズムでより長い基線を扱える場合もあり、反対に環境が悪ければ10km未満でも要求精度を満たせないことがあります。
仕様上の距離項が1ppmなら20kmで約20mmです。水平固定項が10mm程度の例でも、成果の信頼水準、設置誤差、マルチパス、基準局座標の不確かさを含めれば、単純に30mm以内と断定できません。高さ方向は水平より大きい固定項が示される機器もあるため、水平と高さで別の許容値を設定します。
重要点では、時間を空けた再観測を検討します。衛星配置とマルチパス条件が変わる時間差を設けることで、同じ偏りを共有した連続観測より独立性を高められます。ただし、二つの結果が許容値を超えて不一致なら、単純平均で成果を確定しません。基準局、座標系、アンテナ設置、大気条件、補正源を確認し、必要に応じて観測をやり直します。
基準局を移動できる場合は、作業区域へ近づける方法を優先します。基線長を10km短くすれば、1ppmの距離項は約10mm小さくなります。ただし、基準局を近づけても、座標が正しく決定されていない、設置が動く、アンテナ高が誤っている場合は成果が改善しません。基線短縮と基準局品質を同時に管理します。
作業区域が広い場合は、ネットワーク型補正の利用も候補になります。複数局による補正は、単一の遠方基準局より距離依存誤差を抑えやすいことがありますが、サービスの提供範囲、基準局網の配置、補正方式、通信状態を確認します。10〜20kmでは、方式名より既知点較差と再観測較差で利用可否を判断することが安全です。
判断基準5:20〜30kmでは基線短縮と補正方式変更を検討する
20〜30kmは、単一基準局RTKを日常的に使うには品質管理を大きく強めたい距離帯です。大気遅延の空間差や衛星軌道残差が増えやすく、初期化時間、FIX維持、再現性に影響する可能性があります。距離が長いほど誤差が必ず一定割合で増えるわけではありませんが、仕様上の距離項と現場条件の両方で余裕が小さくなります。
仕様上の距離項が1ppmなら、20kmで約20mm、30kmで約30mmです。この値だけを見て使用可否を決めず、固定項、信頼水準、高さ成分、基準局座標、アンテナ設置、受信環境を合わせて評価します。数cmのずれが許容されない基準点、境界、出来形、高さ管理では、単一基準局のリアルタイム値だけで確定しない方針を検討します。
第一の対策は基準局を近づけることです。現場内または近傍に信頼できる既知点があり、安全で安定した場所へ基準局を設置できるなら、基線を短くするのが直接的です。新たに基準局座標を決定する場合は、その決定精度と測地基準系を成果精度に含めます。
第二の対策はネットワーク型補正へ切り替えることです。ただし、ネットワーク型であれば無条件に精度が確保されるわけではありません。利用地域が基準局網の内側にあるか、補正サービスの推奨条件を満たすか、既知点で要求精度を再現できるかを確認します。公共測量で利用する場合は、採用する観測方法に対応した規程と点検手順に従います。
第三の対策は、機器が生のGNSS観測データを保存でき、適切な解析環境がある場合に限り、リアルタイム結果を後処理結果と照合することです。すべての端末やアプリが後処理用データを出力できるわけではありません。後処理を計画する場合は、観測形式、記録間隔、衛星情報、アンテナ情報、基準局データの入手可否を作業前に確認します。
判断基準6:30〜50kmではリアルタイム解だけで確定しない
30〜50kmでは、単一基準局RTKのFIX表示だけを根拠に重要な座標を確定する運用は避けるのが安全です。仕様上の距離項が1ppmなら50kmで約50mmに達します。これは距離項だけの値であり、固定項や高さ成分、現場誤差を含む総合精度を示すものではありません。
この距離帯では、初期化に時間がかかる、FIXを維持できない、衛星構成の変化で座標が動く、再初期化ごとの結果が一致しないといった現象が起こる可能性が高まります。FIXは整数アンビギュイティが一つの解として決定された状態を示しますが、その解が真値に近いことを画面表示だけで保証するものではありません。
リアルタイム測位を使う場合は、基線を短くする、ネットワーク型補正や広域補正を利用する、既知点で検証するなどの対策を組み合わせます。ネットワーク型でも、基準局網の外縁、局間隔が広い地域、通信が不安定な場所では補正品質が低下する可能性があるため、サービス圏内という表示だけで採用しません。
重要点は、再初期化後の観測と時間を空けた観測を比較します。二組以上の結果が許容値内で一致しない場合は、平均値を採用して整った座標に見せるのではなく、原因が解決するまで保留します。独立した別方式で確認できない場合は、その結果を概略値または仮値として扱い、用途を限定します。
機器が後処理に必要な観測データを保存できる場合は、静止観測や後処理解析を併用します。より長い観測時間、適切な基準局データ、解析品質の点検によって、リアルタイム値とは別に成果を検証できます。30〜50kmでの判断は、測位画面に座標が出るかではなく、要求精度を独立した方法で説明できるかです。
判断基準7:50km超では長基線向けの観測計画へ切り替える
50kmを超える基線では、一般的な単一基準局RTKの延長として扱わず、長基線向けの観測計画を立てます。リアルタイムでFIX解が得られることはありますが、それだけで成果精度を確定できません。距離帯の境界は機器や方式で変わるものの、50km超を通常の短時間単一基線RTKとして扱わないことは、保守的な品質管理として有効です。
代表的な対策は、作業区域に近い基準局の利用、ネットワーク型または広域補正の利用、複数周波数による長時間の静止観測、複数基準局を使った解析、適切な後処理です。観測時間を長くすることで衛星配置の変化を取り込み、短時間観測では分離しにくい誤差を評価しやすくなります。ただし、長時間観測だけで基準局座標の誤りやアンテナ高の入力ミスが解消されるわけではありません。
FLOAT状態の推定精度表示が小さく見えても、数cm精度を要求する成果へそのまま採用しません。FLOATは整数アンビギュイティが確定していない状態であり、FIXより不確かさが大きいのが一般的です。長基線でFIXできない場合は、待ち続けるだけでなく、方式、基準局、受信環境、観測時間を見直します。
広域の作業では、測地基準系と座標の元期にも注意します。異なる時期や異なる基準系で決定された既知点を混在させると、地殻変動や成果改定に伴う不整合が現れる場合があります。日本国内では、使用する測地成果、標高成果、地殻変動補正の要否を作業目的と規程に合わせて確認します。
この距離帯では、現場のリアルタイム値を仮成果として扱い、既知点比較、独立観測、閉合や網の点検、後処理などを経て確定成果にします。即時性を優先する作業と、精度を証明する成果作成を分けて設計することが重要です。
長基線で確認したい測位品質の指標
最初に確認するのは解の状態です。FIX、FLOAT、単独測位などを区別し、重要点は安定したFIX状態で取得することを基本とします。ただし、FIX表示だけで正しさを保証できないため、既知点較差と再観測較差を合わせて確認します。
次に、初期化に要した時間とFIXの維持状況を記録します。通常より長くかかる、短時間でFLOATへ戻る、再初期化のたびに値が変わる場合は、基線長、大気、衛星配置、マルチパス、通信のいずれかに問題がある可能性があります。正常時の傾向を現場ごとに記録しておくと、異常を発見しやすくなります。
衛星数だけでなく衛星配置も確認します。衛星数が多くても、観測できる方向が偏っていれば幾何学的な強さは十分とは限りません。DOPは衛星配置による誤差増幅の目安ですが、表示する種類や計算方法は機器によって異なるため、単一のしきい値だけで採否を決めません。
補正情報の経過時間や通信状態も重要です。補正情報が途切れると、受信機が一定時間は古い補正を使って解を維持することがあります。許容される経過時間は機器や方式で異なるため、取扱説明や運用基準に従います。長基線では距離依存残差に通信遅延の影響が重なる可能性があるため、補正の更新状態を記録します。
推定精度、標準偏差、RMSなどの内部指標は参考になりますが、それだけで絶対精度を確認できません。基準局座標が誤っている場合、全点が同じ方向へずれていても内部のばらつきは小さく表示されることがあります。座標系やアンテナ高の誤りも、内部指標だけでは検出できない場合があります。
最も実務的なのは、信頼できる既知点との較差と、独立した再観測間の較差です。既知点で成果座標を再現できるか、再初期化後も同じ位置になるか、時間帯を変えても許容値内に収まるかを確認します。長基線ほど、内部表示より外部基準との照合を重視します。
距離別の判断基準を現場手順に落とし込む方法
作業前に、利用予定の基準局と作業区域を地図上で確認し、最短基線と最長基線を把握します。広い現場では入口の距離だけでなく、区域の端までの距離を確認します。ネットワーク型補正の場合は、単一の物理局までの距離だけでなく、サービスの提供方式と推奨条件を確認します。
0〜5kmでは、基準局座標、座標系、アンテナ高、ポールの鉛直性、マルチパス、既知点較差を重点確認します。5〜10kmでは、これらに加えて再初期化後の較差、初期化時間、FIX維持、補正情報の経過時間を記録します。
10〜20kmでは、高低差と気象差を確認し、重要点について時間を空けた再観測を追加します。20〜30kmでは、基準局の近接設置、ネットワーク型補正、後処理可能な観測方法への変更を検討します。30kmを超える場合は、単一のリアルタイム観測だけで重要成果を確定しないことを作業手順に明記します。
50kmを超える場合は、長時間の静止観測、複数基準局、後処理、閉合や網の点検などを作業計画へ組み込みます。機器が後処理用観測データを保存できるか、必要な基準局データを入手できるかを現場へ入る前に確認します。
記録には、基準局名または識別情報、補正方式、基線長、観測時刻、解の状態、初期化時間、使用衛星数、DOP、推定精度、補正情報の経過時間、アンテナ高、既知点較差、再観測較差を残します。座標値だけでは、後日問題が見つかったときに原因を追跡しにくいためです。
許容値は作業目的から逆算します。概略位置、埋設物の探索、施工位置確認、出来形、基準点、変位監視では必要な精度と信頼性が異なります。RTKだから一律にセンチ級と考えず、水平、高さ、相対位置、絶対位置のどれを成果とするのかを明確にします。
長基線測位で起きやすい誤判断
代表的な誤判断は、FIX表示なら正しいと考えることです。FIXは整数アンビギュイティが決定された状態ですが、誤った整数解の可能性を画面だけで完全に排除できません。長基線やマルチパス環境では、再初期化と既知点確認によって妥当性を検証します。
推定精度が小さいため問題ないと判断することも危険です。内部指標は、基準局座標、座標系、アンテナ高の誤りによる共通ずれを検出できない場合があります。点同士のばらつきが小さくても、真の座標に近いとは限りません。
同じFIX状態で短時間に繰り返した値を、独立観測とみなすのも避けます。同じ衛星配置と同じ反射環境では、観測が同じ偏りを共有する可能性があります。独立性を高めるには、再初期化、時間差、再設置、補正源の変更などを作業目的に応じて組み合わせます。
距離項だけを計算し、総合精度だと考えるのも誤りです。1ppmなら20kmで20mmという計算は距離比例成分の説明にすぎません。固定項、信頼水準、高さ成分、マルチパス、設置誤差、通信遅延などを別に評価します。
ネットワーク型補正なら距離を気にしなくてよい、という判断も適切ではありません。複数局による補正は有効ですが、基準局網の配置、地域、補正方式、通信、サービス運用によって性能が変わります。方式にかかわらず、既知点で要求精度を再現できるかを確認します。
再観測値が合わないときに平均すればよい、という対応も避けます。許容値を超える不一致は、基準局、座標系、アンテナ、受信環境、大気、通信のどこかに問題がある可能性を示します。原因が不明なまま平均しても、正しい位置へ近づく保証はありません。
LRTK Phoneを使う場合の長基線管理
LRTK Phoneを使用する場合も、単一基準局RTKに関する基本原則は変わりません。作業前に、利用する補正情報の方式、適用地域、通信状態、基準局または補正サービスの条件を確認します。アプリ上で高精度な解が表示されていても、既知点との較差と再観測の一致を確認してから重要成果へ採用します。
作業区域が広い場合は、入口付近の一地点だけでなく、区域の反対側や高低差のある場所にも確認点を設けると、距離や環境変化の影響を見つけやすくなります。確認点の座標が信頼できること、使用する測地基準系と標高の基準が一致していることを事前に確認します。
重要点では、一度測位を終了してから機器の正規手順で再度測位し、独立した初期化後の結果を比較します。水平較差と高さ較差を分け、許容値を超える場合は採用を保留します。特に高さを使う作業では、ポールの鉛直性、アンテナ高、標高表示の基準を再確認します。
測位結果を写真、点群、現場メモなどと関連付けて管理すると、後から観測環境を確認しやすくなります。周囲に建物や重機があったか、FIXが不安定だったか、確認点との較差がどうだったかを残すことで、座標一覧だけより原因追跡に役立ちます。ただし、写真や点群を関連付けても、測位精度そのものが自動的に保証されるわけではありません。
長基線になる可能性がある現場では、作業開始前に距離帯ごとの確認ルールを決めます。10kmを超えたら独立再観測を強化する、20kmを超えたら基線短縮や補正方式変更を検討する、30kmを超えたらリアルタイム解だけで重要成果を確定しない、といった管理基準を作業目的に合わせて設定します。製品仕様、利用する補正サービス、公共測量や発注仕様の条件がある場合は、それらを本記事の目安より優先します。
まとめ
長基線で測位品質が低下しやすい主な理由は、基準局と移動局で衛星軌道誤差や大気遅延の影響が共通でなくなり、差分処理後の残差が増える可能性があるためです。仕様に1ppmの距離項が含まれる場合、距離比例成分は1km当たり約1mmですが、これは総合誤差や保証値ではありません。固定項、信頼水準、高さ成分、設置誤差、マルチパス、通信、基準局座標を別に確認する必要があります。
測位精度は距離だけでは決まりません。衛星配置、受信周波数、補正方式、高低差、気象条件、周辺環境、アンテナ設置、基準局座標、観測手順が複合的に影響します。そのため、0〜3km、3〜5km、5〜10km、10〜20km、20〜30km、30〜50km、50km超という区分は、利用可否の保証線ではなく、確認項目を増やすための運用目安として使います。
0〜3kmでは設定と据え付けを優先し、3〜5kmでは独立した再観測を加えます。5〜10kmではFIXの安定性と仕様上の距離項を確認し、10〜20kmでは時間差を設けた再観測や基線短縮を検討します。20〜30kmでは基準局の近接化や補正方式変更を検討し、30〜50kmではリアルタイム解だけで重要成果を確定しません。50kmを超える場合は、長時間の静止観測、複数基準局、後処理などを含む長基線向け計画へ切り替えます。
最終的な判断材料は、FIX表示や推定精度の小ささではなく、信頼できる既知点を再現できるか、独立した観測でも同じ結果が得られるかです。基線長、補正方式、解の状態、再観測較差を記録し、求める水平精度と高さ精度に応じて採否を決めてください。