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土地改良でため池を廃止する判断と手続き5つの要点

農業用ため池の利用者が減り、草刈りや堤体点検、取水設備の操作といった維持管理を続けることが難しくなった地域では、ため池の廃止が土地改良上の選択肢になります。しかし、現在ほとんど使われていないという理由だけで、直ちに廃止できるわけではありません。農業用水の代替手段、下流への影響、所有関係、法令上の届出、工事後の排水機能などを一体的に確認する必要があります。 ため池の廃止は、単に水を抜いて放置することではなく、貯水機能を失わせ、将来にわたって安全に流下させる状態へ変更する取り組みです。適切な調査や合意形成を省くと、工事後に農業用水が不足したり、雨水が下流へ集中したり、所有者との調整が止まったりする可能性があります。 この記事では、土地改良の実務担当者がため池の廃止を検討するときに押さえたい判断と手続きの要点を、事前調査から工事後の管理まで順を追って解説します。法令や申請様式、必要な協議先は地域や施設の指定状況によって異なるため、実際に進める際は都道府県、市町村、土地改良区などの担当窓口へ早い段階で確認することが重要です。

ため池廃止は「使っていない」だけで決めない

ため池の廃止を検討するきっかけとして多いのは、受益農地の減少、耕作放棄地の増加、管理者の高齢化、堤体や取水施設の老朽化です。利用者が少ないため池では、草刈り、漏水確認、洪水吐の清掃、取水施設の操作などを担う人員を確保しにくくなります。補修が必要でも地域だけでは対応できず、廃止を望む声が出ることがあります。 ただし、「利用者がいないように見えること」と「農業用水として不要であること」は同じではありません。平常時には取水していなくても、渇水時の補給水、代かき期の不足分、周辺水路の水位維持などに使われている可能性があります。管理組織の資料に利用実績が残っていなくても、特定の農地だけが慣行的に利用しているケースも考えられます。 さらに、ため池には農業用水の供給以外の役割が生じていることがあります。雨水を一時的に受けることで下流への流出を遅らせている場合があり、地域の防火用水、景観、生物の生息場所、環境学習の場として認識されていることもあります。これらの機能があるから必ず存続させるべきというわけではありませんが、廃止後に何が変わるのかを把握せずに工事を進めることは避けるべきです。 土地改良の実務では、廃止するか存続させるかという二者択一から始めるのではなく、現状の課題と必要な機能を分けて整理します。農業用水の供給は不要でも雨水の流下経路は必要であり、生態系への配慮も求められるというように、機能ごとに異なる判断が必要になるためです。 なお、ため池の水を一時的に抜いた状態や、取水を休止しただけの状態は、通常、施設としての廃止とは区別して考える必要があります。堤体や貯水区域が残り、降雨によって再び水がたまるのであれば、決壊や越流の危険が消えたとは限りません。管理をやめるために水位を下げるだけでは、長期的な安全対策にならない可能性があります。 廃止の基本的な考え方は、必要な農業用水を別の方法で確保したうえで、ため池の貯水機能を確実に失わせ、上流から流入する水を安全に下流へ流せる状態にすることです。そのため、利用実態、防災性、権利関係、法的手続き、工事設計を順番に確認する必要があります。

要点1 農業用水としての必要性と代替水源を確認する

最初の要点は、ため池が現在どの農地に、どのような方法で水を供給しているかを確認することです。受益農地の面積だけでなく、作物、取水時期、必要水量、用水路の経路、他水源との接続状況まで調べます。台帳上の受益区域と実際の耕作区域が一致していないこともあるため、資料確認と現地聞き取りを組み合わせることが大切です。 確認の対象は、毎年取水している農地だけではありません。数年に一度だけ利用する農地、渇水時に補給を受ける農地、ため池からの浸透水や放流によって間接的に水を得ている農地も検討対象になります。水利慣行が書面化されていない地域では、土地所有者だけでなく、耕作者、水路管理者、集落の経験者などから利用状況を確認します。 利用量を把握するときは、満水時の貯水量だけで判断しないことが重要です。実際に利用できる水量は、堆積土砂、水位低下、漏水、取水口の位置、降雨条件によって変わります。過去の取水記録がない場合は、作付面積や取水日数、既存水路の流量などから必要性を検討しますが、推定値と確認済みの事実を混同しないようにします。 ため池を廃止しても農業を続ける場合は、代替水源の実現性を確認します。既存水路からの取水、近隣ため池との統合、揚水施設による供給、営農計画の変更などが候補になります。ただし、水が存在することと、必要な時期に必要な量を安定して利用できることは別です。取水地点の高さ、送水距離、揚程、電源、維持管理者、渇水時の優先順位まで含めて検討する必要があります。 近隣ため池へ機能を集約する場合は、受入先の容量だけでなく、堤体や洪水吐の安全性、既存受益者への影響も確認します。一つのため池へ依存を集中させることで、管理効率が高まる一方、故障や渇水が起きたときの影響範囲が広がる場合があります。送水路を新設する場合は、通過する土地の権利関係や維持管理の分担も課題になります。 取水がなくなったという説明だけで廃止を決めると、工事後に隠れていた水需要が判明する可能性があります。そこで、利用者への聞き取り結果、受益農地図、取水経路、代替水源の供給条件を資料として残します。廃止判断の根拠を記録しておけば、将来の土地利用変更や関係者からの問い合わせにも説明しやすくなります。 農業用水以外の利用についても確認が必要です。防火用水として地域の計画に位置付けられている場合や、環境用水として下流水路へ通水している場合は、農業部門だけで廃止判断を完結できないことがあります。関係部局や地域組織と協議し、必要であれば代替施設や別の水源を検討します。 最終的には、ため池を廃止しても営農と地域利用に重大な支障が生じないことを、定性的な意見だけでなく、位置、水量、時期、管理主体の情報を用いて確認します。代替水源の整備を伴う場合は、その供用開始前にため池の機能を失わせないよう、工程の順序にも注意が必要です。

要点2 防災上の危険度と廃止以外の対策を比較する

二つ目の要点は、ため池が抱える危険と、存続させた場合に必要となる対策を把握することです。堤体に亀裂や陥没がある、漏水が増えている、洪水吐が狭い、取水設備が操作できない、流木や土砂が堆積しているといった状態は、安全性を判断する重要な情報になります。 外観上の変状が少ない場合でも、豪雨や地震に対する安全性を目視だけで判断することはできません。堤体の材料、築造時期、改修履歴、基礎地盤、集水区域、下流の住宅や道路などを確認し、必要に応じて専門的な調査や評価を行います。ため池の規模が小さいことだけを理由に、影響も小さいと決めつけるのは適切ではありません。 下流に住宅、公共施設、道路などがある場合は、万一の決壊による影響を踏まえて検討します。行政上の防災重点農業用ため池や特定農業用ため池に該当するかどうかも確認します。名称が似ていますが、選定や指定の目的、手続き上の扱いが同一とは限らないため、施設台帳や都道府県への照会によって正確に把握します。 廃止は防災対策の一つですが、常に唯一の方法ではありません。堤体の補修、洪水吐の改修、取水設備の更新、低水位管理、監視体制の強化などによって存続できる場合もあります。農業用水や地域機能の必要性が高ければ、改修と継続管理が合理的な選択になることがあります。 一方、受益農地がほとんどなく、将来も利用再開の見込みが乏しいため池に大規模な改修を行うと、その後も点検や草刈り、設備操作を継続しなければなりません。工事時の負担だけでなく、将来の管理体制まで比較することが重要です。現在の管理者が対応できても、数年後に引き継ぐ人がいない場合は、存続案の実行可能性が低くなります。 比較するときは、工事規模だけで判断せず、農業用水の必要性、災害時の影響、環境への影響、維持管理の継続性、関係者の合意などを総合的に評価します。補助制度を利用できる可能性があっても、採択条件、事業主体、対象工事、実施時期は制度や地域によって異なります。制度利用を前提に結論を固定せず、担当機関への相談を通じて確認します。 注意したいのは、管理負担を減らす目的で取水口を開放し、水位を下げたままにする方法です。流入口や放流経路が閉塞すれば再び貯水する可能性があり、豪雨時の安全性が保証されるわけではありません。堤体が残る限り、変状や流下能力を確認する必要が生じます。暫定的な低水位管理と、施設を恒久的に廃止する工事は分けて考えます。 廃止方針を決める資料には、現在の変状、想定される下流影響、存続に必要な改修、廃止後に必要な排水施設、各案の管理方法をまとめます。数字だけで一律に点数化するのではなく、評価の前提と不確実な点を明記すると、行政協議や住民説明で認識のずれを減らせます。

要点3 所有者・管理者・受益者を整理して合意を形成する

三つ目の要点は、誰がため池を所有し、誰が管理し、誰が利益を受けているかを整理することです。ため池では、土地の所有者、堤体の所有者、施設管理者、用水利用者が一致しないことがあります。共有地や未登記の土地、相続登記が整理されていない土地を含む場合は、関係者の特定に時間がかかります。 確認には、登記事項、地図、ため池台帳、土地改良施設台帳、土地改良区の資料、管理規程、過去の工事記録などを利用します。ただし、一つの資料だけで権利関係を確定できるとは限りません。登記上の筆界と現地の堤体範囲が一致しない場合や、水面と堤体で筆が分かれている場合もあります。 所有者が複数いるときは、共有者の範囲と連絡先を整理します。名義人が亡くなっている場合は相続関係の確認が必要となり、廃止工事に使用する進入路や仮設排水路が第三者の土地を通る場合は、その土地の利用調整も必要です。工事予定地だけでなく、資材置場、伐採範囲、排水先まで含めて権利関係を確認します。 土地改良区が管理しているため池では、施設の廃止が土地改良事業計画、定款、管理規程、施設台帳などに影響する場合があります。必要となる内部決定や行政手続きは施設の造成経緯や事業主体によって異なるため、土地改良区内の決議だけで工事を始めず、土地改良担当部局と協議します。 受益者との合意形成では、廃止の必要性だけを説明するのでは不十分です。代替水源、工事期間中の通水、廃止後の排水、跡地利用、管理責任の変化まで示す必要があります。水利用への影響を受ける人と、工事車両や排水の影響を受ける人は異なる場合があるため、説明対象を広く捉えます。 下流住民にとっては、ため池がなくなることで安全になるという期待がある一方、降雨時の流出量が増えるのではないかという不安も生じます。上流側では、これまでため池へ流れ込んでいた水がどこを通るのかが問題になります。説明会では結論だけを伝えるのではなく、廃止後の水の流れ、排水路の断面、管理者、異常時の連絡体制を具体的に示すことが有効です。 地域によっては、ため池が景観や伝統行事、生物観察の場として親しまれています。農業利用がなくても、地域住民が別の価値を感じている可能性があります。その場合は、防災上の必要性を説明したうえで、水辺の一部を安全な湿地として残す方法や、跡地の環境整備が可能かを検討します。ただし、水域を残す場合は、再び危険な貯水状態にならない構造と管理体制が必要です。 合意内容は、会議の記録、説明資料、図面、同意書などの形で残します。口頭で了解を得たつもりでも、工事範囲や跡地利用について理解が異なることがあります。特に「ため池の廃止」と「土地の所有権移転」は別の問題であり、廃止したから土地を自由に利用できるとは限りません。 所有者が不明であることを理由に、必要な安全対策を放置することも避けなければなりません。特定農業用ため池などでは、行政が関与できる仕組みが設けられている場合があります。所有者探索の経過を記録し、市町村や都道府県と相談しながら、利用できる制度と手順を確認することが重要です。

要点4 指定状況を確認して必要な届出と許認可を進める

四つ目の要点は、工事前と工事後に必要となる手続きを整理することです。ため池の廃止では、農業用ため池に関する手続きだけでなく、土地改良、河川、森林、砂防、文化財、農地利用、道路使用など複数の制度が関係する可能性があります。必要な手続きは、所在地、所有者、指定区域、工事方法、跡地利用によって変わります。 最初に確認したいのは、対象施設が法令上の農業用ため池に該当するか、届出済みか、防災重点農業用ため池または特定農業用ため池として扱われているかという点です。過去に農業利用をやめていても、正式な廃止手続きが行われず、施設として登録が残っている場合があります。現地で使われていないことだけを根拠に、手続きの対象外と判断しないようにします。 同じため池でも、所有者が国や地方公共団体である場合と、個人や団体である場合では、届出や協議の扱いが異なることがあります。まず市町村のため池担当窓口に施設番号、名称、所在地を伝え、都道府県を含む相談先と必要書類を確認すると効率的です。 特定農業用ため池で廃止を目的とする防災工事を行う場合は、原則として着手前に防災工事の計画を都道府県知事へ届け出る手続きが関係します。着手日の一定期間前までに提出する仕組みであるため、工事契約後に確認するのでは遅れる可能性があります。計画段階で対象施設の指定状況と提出期限を確認します。 防災工事計画では、工事の種類、施工方法、着工・完了予定時期などの説明に加え、計画図や関連資料を求められることがあります。他法令の許認可が必要な場合は、その手続き状況の説明が必要になることもあります。自治体が定める様式と添付書類を確認し、設計内容と届出内容を一致させます。 一方、農業用ため池そのものの廃止届は、一般に工事計画の事前相談とは役割が異なります。廃止工事が完了し、貯水機能が失われた後、届出対象となる所有者が廃止年月日、廃止理由、廃止後の利用計画などを届け出る流れが基本になります。事前の工事計画と事後の廃止届を混同しないことが大切です。 堤体を少し切り下げただけで、豪雨時に再び水がたまる状態では、廃止が完了したと認められない可能性があります。廃止の判断は、呼び方ではなく構造と機能の実態に基づきます。届出前に完成形を行政担当者へ確認し、必要に応じて完成図、写真、測量結果などを準備します。 土地改良事業で造成された施設については、事業計画の変更、財産処分、管理規程や施設台帳の変更などが必要になる場合があります。補助事業で整備された施設では、処分や用途変更に関する確認が必要となる可能性もあります。過去の採択資料や財産管理資料を調べ、造成主体と現在の管理主体の双方へ確認します。 堤体の開削や埋立てを行う区域が森林、保安林、砂防指定地、地すべり防止区域、河川区域などに該当する場合は、それぞれの制度に基づく許可や協議が必要となることがあります。工事で発生する土砂を移動する場合や、跡地を農地以外に利用する場合にも別の手続きが関係する可能性があります。 許認可一覧を作るときは、手続き名だけでなく、担当窓口、申請者、提出期限、必要図面、前提となる同意、審査状況を整理します。工事前の手続き、工事中の報告、工事後の届出を時系列に並べると、提出漏れを防ぎやすくなります。 法令や自治体の様式は改正されることがあります。過去の工事資料をそのまま転用せず、工事を実施する時点の最新様式と運用を確認します。早期相談は、単なる形式確認ではなく、工法や工程を変更する必要があるかを設計前に見極める機会になります。

要点5 廃止工法と工事後の排水・維持管理を設計する

五つ目の要点は、貯水機能を確実に失わせながら、上流からの水を安全に流す構造を設計することです。ため池を廃止しても、集水区域に降った雨がなくなるわけではありません。これまでため池へ流入していた水を、工事後にどの経路で下流へ流すかが重要になります。 代表的な考え方には、堤体を開削して開水路を設ける方法、堤体内に流下経路を設ける方法、池敷を埋め戻して水路を形成する方法などがあります。適する方法は、堤体の高さや材料、基礎地盤、流入量、下流排水路、跡地利用、施工ヤード、環境条件によって異なります。 堤体を開削する場合は、開削幅、法面勾配、侵食防止、基礎部の安定、既存構造物の処理などを検討します。狭すぎる開削部では流木や土砂が詰まり、豪雨時に再び水がたまる可能性があります。反対に、急激に水を流す構造にすると、下流で洗掘や溢水を起こすおそれがあります。 堤体内に流下経路を設ける場合は、閉塞、不同沈下、接合部からの漏水、将来の点検方法を考慮します。水路を埋設すれば地表を利用しやすくなる場合がありますが、内部の異常を発見しにくくなります。維持管理者が確保できないことを理由に廃止するのであれば、完成後に複雑な点検や清掃を必要とする構造は慎重に検討すべきです。 埋立てを行う場合は、必要な土量、材料の品質、締固め、沈下、排水、周辺地下水への影響を確認します。池底の泥土は含水量が高く、そのままでは安定した基盤にならないことがあります。発生土を利用できるか、場外から材料を搬入するかは、土質調査と跡地利用を踏まえて判断します。 廃止後の排水路は、平常時の流量だけでなく、豪雨時の流出、流木、落ち葉、土砂の移動を考慮します。ため池が一時的に担っていた貯留作用が失われると、下流へ水が到達する時間や流量の変化が生じる場合があります。下流水路の断面、勾配、合流部、道路横断部、放流先の状況まで確認します。 流域の一部だけを見て水路を設計すると、放流先で問題が発生することがあります。現地調査では、ため池直下だけでなく、流末まで連続して確認します。既存水路に損傷や閉塞がある場合は、廃止工事と合わせて対策する範囲を関係者と決めます。 工事中の安全管理も重要です。池内に水が残っている状態で堤体を開削すると、急激な流出や法面崩壊につながるおそれがあります。事前の落水、仮排水、降雨時の中止基準、緊急時の退避、下流への周知などを施工計画に反映します。台風や出水が多い時期を避けるだけでなく、施工途中の状態でも安全を確保できる工程にします。 池底に堆積した泥土や水には、周辺環境に応じた取り扱いが必要です。排水によって濁水が下流へ流れないようにし、土砂の仮置場や搬出経路を計画します。廃棄物が投棄されている場合や、通常と異なる臭い・変色が確認された場合は、一般的な土砂として安易に処理せず、関係部署や専門家へ相談します。 ため池には希少な動植物が生息している可能性がある一方、外来生物が定着している場合もあります。工事前に既存資料と現地状況を確認し、必要に応じて専門家の助言を受けます。保全対象の移動、工事時期の調整、生息環境の一部確保などを検討すると同時に、外来生物を下流水域へ拡散させない対策も必要です。 環境配慮は、防災対策を行わない理由にするのではなく、安全性を確保する工法の中で実行可能な方法を選ぶことが基本です。水域を一部残す場合も、危険な貯水機能を復活させないこと、将来の管理者を明確にすることが欠かせません。 完成後は、排水路の洗掘、土砂堆積、法面崩壊、埋戻し部の沈下、局所的な滞水などを確認します。廃止工事が完了したから管理が完全に不要になるとは限りません。少なくとも植生が安定し、排水経路が定着するまでの点検時期と対応者を決めておく必要があります。 跡地を農地、緑地、道路、資材置場などに利用する場合は、土地の排水性、支持力、安全な進入、境界、管理責任を確認します。将来利用が決まっていない場合でも、立入り防止や雑草管理、排水路清掃の担当を明確にしておきます。

ため池廃止を進める標準的な実務の流れ

ため池廃止の検討は、最初に基礎情報を集めるところから始めます。施設名、所在地、施設番号、所有者、管理者、築造・改修履歴、受益農地、指定状況を確認します。図面がない場合でも、現地踏査によって堤体、洪水吐、取水施設、流入口、下流排水路の位置を整理します。 次に、農業用水の利用状況と代替方法を調べます。受益者への聞き取りだけでなく、実際の水路接続や高低差を現地で確認します。代替水源を整備する場合は、ため池廃止工事より先に利用可能な状態とし、営農への影響を確認します。 その後、防災上の課題と施設機能を評価し、存続、改修、低水位管理、廃止を比較します。この段階で廃止案を一つの工法に固定せず、複数の施工方法について流下能力、施工性、環境、工事後の管理を検討します。 廃止が妥当と判断したら、所有者、管理者、受益者、上下流の関係者と合意形成を進めます。工事範囲、代替水源、跡地利用、排水路の管理、費用負担、工事後の責任を説明し、合意内容を記録します。所有者探索に時間がかかる可能性があるため、この作業は設計と並行して早めに始めます。 行政との事前相談では、農業用ため池の指定状況、事業主体、届出、許認可、補助制度の適用可能性を確認します。手続きによっては、詳細設計の前に協議資料が必要になる場合があります。担当窓口から求められた情報を設計者と共有し、図面や工程へ反映します。 詳細設計では、流域、流入量、堤体、地盤、下流排水、施工時の仮排水、発生土、環境条件を検討します。工事中と完成後の両方について、水の流れを確認することが重要です。完成形だけが安全でも、施工途中に出水へ対応できなければ適切な計画とはいえません。 着工前には、必要な届出や許認可の完了状況を確認し、周辺住民や水路管理者へ工程を周知します。工事中に設計と異なる地盤や構造物が見つかった場合は、その場で埋め戻して進めるのではなく、監督員や設計者と協議して変更内容を記録します。 工事完了後は、貯水機能が確実に失われているか、排水が安全に流れるかを確認します。完成図、施工写真、測量成果、使用材料、変更記録などを整理し、必要な廃止届や施設台帳の更新を行います。行政上の登録が残ったままにならないよう、届出の受付や台帳反映まで確認します。 最後に、降雨後の点検を行います。平常時には問題がなくても、強い雨の後に土砂堆積や洗掘、法面崩壊が発生することがあります。工事後の点検結果を記録し、必要な補修を実施してから、長期的な管理者へ引き継ぎます。

現地調査と記録整備で手続きの手戻りを減らす

ため池廃止の実務では、古い図面と現地形状が一致しないことが少なくありません。堤体が追加盛土されている、洪水吐の位置が変わっている、取水施設が土砂に埋まっている、下流水路が改修されているといった変化が考えられます。現況を正確に把握しないまま設計すると、工事数量や排水計画に大きな手戻りが生じます。 現地記録では、堤体の天端と法尻、流入口、洪水吐、取水口、底樋、下流水路、進入路、隣接する土地境界などを同じ位置情報の体系で整理します。写真についても、撮影方向と対象箇所が分かるようにします。変状を記録する場合は、全景、周辺との位置関係、近接状況を組み合わせると、後から確認しやすくなります。 標高情報は特に重要です。堤体開削部の底高、上流側の池底高、下流水路の水路底高が整合していなければ、水が残ったり逆流したりする可能性があります。異なる時期や異なる測量方法の成果を組み合わせる場合は、座標系、高さの基準、基準点を確認します。 測量結果は、行政協議、工法比較、数量計算、施工管理、完成確認で共通して利用できる形に整理すると効率的です。ただし、簡易な現況記録と、設計や境界確認に必要な正式な測量成果は役割が異なります。必要な精度と成果形式を事前に決め、専門資格や公的な手続きが必要な作業は適切な担当者へ依頼します。 現地では草木や軟弱な地面、水際部の危険によって測点へ近づけないことがあります。無理に池内へ立ち入らず、安全な位置から確認できる方法を選びます。落水後であっても池底の泥土は深く、歩行が困難な場合があります。単独作業を避け、立入範囲と退避経路を事前に決めることが大切です。 記録を時系列で残すことも重要です。廃止前、落水後、施工中、完成時、降雨後の状況を同じ位置から記録すると、構造の変化や工事効果を説明しやすくなります。設計変更があった場合は、変更理由と現地状況を関連付けて保存します。 携帯型の測位環境を活用すれば、現地で位置情報と写真を関連付け、堤体や水路の形状を整理する作業を効率化できる場合があります。LRTK Phoneを利用する場合も、周辺の遮蔽物、衛星受信環境、補正情報、座標系、高さの扱いによって計測結果が変わるため、既知点での確認や必要な精度に応じた検証が欠かせません。

まとめ

土地改良でため池を廃止する際は、利用者が減ったという事情だけで結論を出さず、農業用水の必要性、防災上の危険、所有関係、法的手続き、完成後の排水機能を一体的に確認する必要があります。 第一に、受益農地と取水実態を調べ、廃止後も営農に必要な水を確保できるか確認します。第二に、堤体の状態や下流への影響を把握し、改修や低水位管理を含む選択肢と廃止を比較します。第三に、所有者、管理者、受益者、上下流の関係者を整理し、工事範囲や跡地利用について合意を形成します。 第四に、農業用ため池の届出状況や指定状況を確認し、事前の工事計画、他法令の許認可、工事後の廃止届を適切な順序で進めます。第五に、貯水機能を確実に失わせるだけでなく、上流からの雨水を安全に流し、工事後も管理しやすい構造を選びます。 ため池廃止は、施設をなくして終わる作業ではありません。農業用水、防災、土地利用、自然環境を将来にわたってどのように維持するかを再設計する土地改良の取り組みです。早い段階で行政や関係者と情報を共有し、判断根拠と現地記録を残すことが、手続きの停滞と工事後の問題を防ぎます。 ため池の堤体や水路、流入口、排水先の位置を現地で記録し、廃止前後の状況を分かりやすく管理したい場合は、LRTK Phoneの活用をご検討ください。

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