建築基準法第12条に基づく定期報告、いわゆる12条点検の現場では、現行の建築基準に合っていないように見える部分が見つかることがあります。そのとき実務担当者が判断に迷いやすいのが、その部分が既存不適格なのか、建築基準法令に違反している状態なのか、あるいは経年劣化や維持管理上の不備なのかという点です。
既存不適格と違反状態は、現行基準に適合していないという外見上の結果が似ていても、法的な成り立ちが異なります。一般に、建築時またはその部分の工事時には適法であったものが、その後の法令改正や都市計画の変更などによって現行規定に適合しなくなった場合は、既存不適格となる可能性があります。これに対し、建築時から当時の規定に適合していなかった場合や、完成後の増築、改修、用途変更、設備撤去、使用方法の変更などによって適用される規定に適合しなくなった場合は、違反状態が疑われます。国土交通省も、法令改正や都市計画の変更などによって適合しなくなった規定が一定の条件で適用除外となる状態を、いわゆる既存不適格として説明しています。
ただし、古い建物だから既存不適格、新しい建物だから違反という単純な区分はできません。一棟の建築物の中に、既存不適格となる部分、後の改変によって違反状態が疑われる部分、経年劣化によって要是正となる部分が混在することもあります。
また、12条点検は、建物に関係するすべての規定について法適合性を確定する包括的な法令調査ではありません。特定建築物の定期調査では、告示や地域の運用に基づく調査項目について、劣化状況や不適切な改変の有無などを確認し、結果を特定行政庁へ報告します。国土交通省は、定期報告制度について、損傷や腐食などの劣化状況の点検を基本としつつ、不適切な改変によって違反状態が生じていないかも確認する制度と説明しています。([国土交通省][1])
したがって、現地で確認した状態だけで既存不適格または違反と断定するのではなく、建築時期、当時の法令、確認申請図書、検査記録、増改築や用途変更の履歴、現在の使用状況などを結び付けて整理することが重要です。本記事では、12条点検で既存不適格と違反状態を見分けるための5つの判断基準と、誤った判定を避けるための実務手順を解説します。
12条点検で理解しておきたい既存不適格と違反建築物の違い
一般に12条点検と呼ばれる業務には、特定建築物の定期調査、建築設備や防火設備の定期検査、昇降機等の定期検査などがあります。本記事では、そのうち建築物の敷地、構造、防火・避難関係などを調べる特定建築物の定期調査を中心に説明します。報告対象となる建築物や報告時期は、国が定める対象に加え、地域の実情に応じて特定行政庁が指定するものがあるため、所在地ごとの制度確認が必要です。([国土交通省][1])
定期調査で現行基準に合っていない部分を発見しても、その事実だけで直ちに違反建築物と判断することはできません。最初に区別する必要があるのが、既存不適格、違反状態、劣化または維持管理上の不備です。
既存不適格とは、建築時やその部分の工事時には適法であったものが、後の法令改正、規制強化、区域や数値の指定変更などによって、現行規定に適合しなくなっている状態をいいます。建築基準法には、一定の条件に該当する既存建築物について、新しい規定を直ちに遡って適用しない仕組みがあります。
たとえば、建築当時は適法だった階段、廊下、開口部、構造仕様などが、その後の規定変更によって現在の基準を満たさなくなることがあります。建築後に防火地域、準防火地域、用途地域、建蔽率や容積率の指定内容などが変わり、現行の計画で新築するなら異なる仕様や規模が求められるようになる場合もあります。ただし、個別の部位が本当に既存不適格に該当するかは、当時の規定、工事時期、区域指定、当初状態を確認しなければ判断できません。
これに対し、一般に違法建築と呼ばれるものは、法令実務では違反建築物または違反状態と表現されることがあります。建築時または後の工事・使用時に適用される建築基準関係規定に適合していない建築物や部分が対象です。
必要な建築確認を受けずに対象工事を行った場合だけが問題になるわけではありません。確認を受けた計画と異なる施工をした場合、完成後に床を増設した場合、必要な防火設備を撤去または無効化した場合、避難経路を間仕切りや物品で塞いだ場合、用途変更後に必要となる防火・避難上の措置が確保されていない場合なども、違反状態となる可能性があります。
確認済証や検査済証が見当たらないことだけで、違反建築物と断定することはできません。所有者変更時の引継ぎ不足や紛失の可能性があり、行政台帳などに交付記録が残っている場合もあります。一方、確認済証や検査済証が存在することだけで、現在の建物全体が適法だとも断定できません。検査後の増築、改修、用途変更、設備撤去、使用方法の変更までは、その証書によって確認できないためです。
定期調査の結果に用いられる要是正という判定も、直ちに法令違反を意味するものではありません。外壁の浮き、鉄骨部材の腐食、手すりのぐらつき、排煙設備や防火設備の作動不良など、経年劣化や維持管理上の不備によって要是正となることがあります。法的な区分と安全上の評価を分けて記録することが、判断を誤らないための基本です。
判断基準1 建築当時の法令に適合していたかを確認する
既存不適格と違反状態を見分ける最初の判断基準は、対象となる部分が、建築時またはその部分の工事時に適用されていた規定に適合していたかどうかです。
既存不適格として整理するには、単に建物が古いことではなく、対象部分が当時は適法であり、後の法令改正や指定変更によって現行基準に適合しなくなったことを説明できる必要があります。建築当時から必要な基準を満たしていなかった部分を、築年数だけを理由に既存不適格と扱うことはできません。
まず、新築、増築、改築、用途変更などの時期を整理します。登記事項に記録された新築年月だけで適用法令を確定できるとは限りません。確認申請の受付時期、確認済証の交付日、工事着手日、計画変更の時期、完成時期、検査済証の交付日などを確認し、問題となる規定について、どの時点の法令が適用されたかを検討します。
建築基準法令は、構造、防火、避難、採光、換気、排煙、昇降機、敷地、道路などの規定が同時に改正されるとは限りません。したがって、築年数だけで建物全体を一括して既存不適格と評価するのは適切ではありません。対象となる規定ごとに、適用時期と改正履歴を確認する必要があります。
たとえば、定期調査で階段の幅が現行基準より狭いように見える場合、その階段が建築当時から同じ幅だったのかを調べます。当初図面と現況が一致し、工事時の規定に適合していたことを確認できるのであれば、後の規制強化による既存不適格である可能性があります。
一方、当初図面では必要な幅が確保されていたものの、後から壁、配管、収納設備、受付カウンターなどを設置したことで有効幅が狭くなったのであれば、法令改正によって生じた不適合ではありません。後の改変または使用方法に起因する問題として整理します。
防火区画や防火設備についても同様です。建築時には不要だった区画が後の規定では必要になっている場合と、建築時から必要だった区画が施工されていない場合、完成後に区画壁や防火設備が撤去された場合では、法的な評価が異なります。
用途地域、防火地域、準防火地域、高度地区、建蔽率、容積率などの指定履歴も確認対象になります。建築後の都市計画変更によって現在の規定に適合しなくなった場合でも、指定変更前に建築物が適法に存在していたことを裏付ける資料が必要です。
増築部分がある場合は、既存部分と分けて工事時期を確認します。古い本体が既存不適格であっても、後から追加された増築部分には、原則として増築時に適用される規定が関係します。本体が既存不適格であることを理由に、後の増築部分まで自動的に既存不適格になるわけではありません。
建築当時の資料が不足している場合は、建築計画概要書、台帳記載事項に関する証明、登記事項、過去の図面、工事写真、修繕記録、航空写真などから、工事時期や当初形状を確認できることがあります。ただし、資料がないという事実だけから、既存不適格または違反のいずれかに推定することは避けます。
国土交通省の既存建築物の現況調査ガイドラインでは、調査結果を適合、不適合のうち既存不適格、不適合のうちその他、不明などに分けて整理する考え方が示されています。工事着手時を特定できず調査できない規定は、不明として扱う考え方も明示されています。
判断基準2 確認済証や設計図書と現況を照合する
二つ目の判断基準は、確認済証、確認申請図書、検査記録などに示された計画と、現在の建築物が一致しているかどうかです。
定期調査は現況を確認する業務ですが、現在の状態だけを見ても、それが建築当初から存在していたのか、適法な変更手続きを経たのか、完成後に無断で変更されたのかは分かりません。既存不適格と違反状態を区別するには、図書と現況の照合が欠かせません。
確認したい資料には、確認済証、確認申請書、配置図、各階平面図、立面図、断面図、構造関係図書、設備図、計画変更関係書類、中間検査関係書類、検査済証、増築や用途変更に関する図書などがあります。図面が複数ある場合は、作成日、改訂日、確認番号、工事名を確認し、どれが最終的な承認図書または竣工時の状態を示す資料なのかを整理します。
現況との照合では、建築面積、延べ面積、階数、用途、主要な間取り、階段、廊下、避難出口、防火区画、防火設備、排煙設備、非常用の照明装置などを確認します。外部では、増設された屋根、物置、倉庫、機械室、囲い、外階段、バルコニーの囲い込みなどにも注意します。
図面にない部屋や床が現況で確認された場合は、その部分がいつ、どのような経緯で設けられたのかを調べます。吹き抜けへの床の新設、倉庫内の中間床、屋上の機械室、ピロティの室内化、バルコニーの囲い込みなどは、床面積だけでなく、構造、防火、避難、建蔽率、容積率などへ影響する可能性があります。
ただし、図面と現況が異なるという事実だけで、直ちに違反と断定することはできません。保管図面が最終版ではない可能性、適法な計画変更や別工事が行われている可能性、法令上の手続を要しない変更である可能性があるためです。変更内容、工事時期、当時の手続要否、関連記録を確認します。
反対に、確認済証があることだけで現在の建築物が適法だと判断することもできません。確認済証は、原則として申請された計画について、確認時点で建築基準関係規定への適合が確認されたことを示す資料です。申請後に計画と異なる施工が行われた場合や、完成後に変更された場合の現況まで保証するものではありません。
検査済証は、完了検査時点の状態を確認するうえで重要ですが、その後の増築、用途変更、設備撤去、使用方法の変更まで適法であることを示すものではありません。検査済証がある建物でも、完成後に防火設備を撤去したり、避難通路に間仕切りを追加したりすれば、現在は問題のある状態になっている可能性があります。
一方、所有者の手元に検査済証がないことだけで、違反建築物と決めつけることもできません。行政台帳に交付記録が残っている場合があるため、所在地を管轄する行政庁で利用できる証明や閲覧制度を確認します。
図面との照合では、部材や設備が存在するかだけでなく、本来の機能が維持されているかも確認します。図面上で避難経路となっている廊下が物品や家具で狭くなっていれば、壁の位置が変わっていなくても避難上の支障が生じます。
防火設備が図面どおりの位置に残っていても、固定具で常時開放されている、閉鎖機構が作動しない、扉の前に物品が置かれて閉鎖できないという状態では、本来の機能を果たせません。図面上の存在と現場での有効性は分けて確認します。
現地では、図面と異なる部分を写真で残すだけでなく、階、室名、位置、寸法、変更内容、周囲との関係を記録します。後から行政庁、設計者、所有者と協議するときに、どの部分がどの図面と異なるのかを説明できる状態にしておくことが重要です。
判断基準3 増築・改修・用途変更の履歴を確認する
三つ目の判断基準は、新築後に行われた増築、改修、用途変更について、工事時に必要だった手続と技術基準への適合が確認できるかどうかです。
既存不適格建築物であっても、完成後に自由な増築や改修が認められるわけではありません。増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替、用途変更などを行う場合は、工事内容、規模、用途、構造、地域、工事時期などに応じて、建築確認や現行規定への適合が求められることがあります。
既存不適格建築物への現行規定の適用範囲には、一定の緩和措置があります。ただし、緩和は既存不適格であることを確認できた規定について、法令が定める条件の範囲で適用されるものです。違反している規定まで既存不適格の緩和対象になるわけではありません。国土交通省の解説集でも、緩和措置は既存不適格である規定に限って適用され、違反している規定には適用されないと整理されています。([国土交通省][2])
実務で注意したいのは、所有者やテナントが、小規模な工事だから法令確認は不要だと判断しているケースです。倉庫の一部を事務室や作業室にする、廊下に間仕切りを設ける、屋外部分に屋根を設ける、機械室に床を追加する、天井内で区画壁を貫通する、といった工事でも、建物の条件によっては建築基準法令上の検討が必要です。
建築確認の要否は、面積だけで一律に決められるものではありません。工事時の法令、建築物の用途、構造、階数、区域、工事範囲、主要構造部への影響などを確認します。申請記録が見当たらない場合でも、まず工事時にどの手続が必要だったかを調査し、そのうえで現況の適合性を確認します。
用途変更も見落とされやすい項目です。事務所を飲食店へ変える、倉庫を店舗や作業場として使う、共同住宅の一部を宿泊用途として使うなど、使用目的が変わると、防火、避難、採光、換気、排煙、内装、用途制限などの適用関係が変わる可能性があります。
用途変更について確認手続が不要となる場合でも、変更後の用途に適用される技術基準まで当然に免除されるわけではありません。手続が必要かどうかと、変更後の建物が適用される技術基準に適合しているかどうかは分けて確認します。国土交通省の現況調査ガイドラインでも、用途変更時に新たに適用される規定や、用途に応じて適用される規定について、現行規定または用途変更時の規定への適合状況を確認する考え方が示されています。
複数のテナントが入る建物では、所有者が把握しないまま間仕切りや設備が変更されることがあります。防火区画を貫通して配管を設ける、排煙口を内装材で塞ぐ、避難出口の前に受付を設ける、共用廊下へ物品を置くなど、テナント側の工事や使用方法が建物全体の安全性に影響することがあります。
改修履歴を確認するときは、確認申請関係書類だけでなく、工事契約書、見積書、竣工図、工事写真、修繕台帳、テナント工事申請書、設備点検記録、消防関係書類なども調べます。工事名が内装更新や設備改修であっても、実際には間取り、防火区画、用途、床面積に影響する変更が含まれている場合があります。
過去の12条点検報告書も参考になります。前回報告時の写真や図面と現在を比較すれば、壁、扉、床、設備などの変更時期を絞り込めることがあります。ただし、過去の報告書に記載がないことだけで、その部分が当時存在しなかったと断定することはできません。調査対象外、記録不足、見落としなどの可能性があるため、複数の資料を組み合わせます。
改修工事について確認申請が行われていた場合でも、申請内容と実際の工事が一致しているか、工事を契機に必要となった既存部分の改修が完了しているかを確認します。申請記録の有無だけで判断を終えないことが大切です。
判断基準4 不適合が生じた原因と時期を特定する
四つ目の判断基準は、現在確認されている不適合が、いつ、どのような原因で生じたのかを整理することです。
既存不適格は、単に古くなった建物を表す言葉ではありません。法令の施行や改正、都市計画の変更などにより、それまで適法だった建築物または部分が現行規定に適合しなくなった状態です。
そのため、定期調査で問題を見つけた場合は、法令改正によるものなのか、建築後の改変によるものなのか、当初からの施工または計画上の問題なのか、経年劣化なのか、使用方法によるものなのかを分けて整理します。
たとえば、現在の基準に対して階段や廊下の有効幅が不足している場合でも、原因は一つではありません。建築当時から同じ幅で、当時の規定に適合していたのであれば既存不適格の可能性があります。後から壁や設備が設置されて狭くなったのであれば改変による問題です。物品が置かれて通行幅が不足しているのであれば、使用または維持管理上の問題です。
防火設備についても、建築当時の適法な仕様がそのまま残り、後の規制強化で現行仕様と異なる場合と、完成後に設備を撤去、交換、固定、無効化した場合では評価が異なります。また、適法に設置された設備であっても、経年劣化によって作動しなければ、定期検査や維持管理上の是正対象になります。
経年劣化と違反状態も区別します。外壁の浮き、鉄骨階段の腐食、手すりのぐらつき、防水層の損傷などは、それだけで建築時からの法令違反を意味するものではありません。しかし、落下、転落、倒壊などの危険があれば、法的な由来の調査とは別に安全確保が必要です。
反対に、見た目が新しく損傷がない部分でも、違反状態が疑われることがあります。必要な手続や技術基準への適合を確認できない増築部分は、施工状態が良好に見えても、法的な問題がないことの証明にはなりません。
発生原因を調べるときは、建築時の図面、現在の図面、過去の点検写真、修繕履歴、テナント入退去記録、工事契約書などを時系列に並べます。どの時点の資料から現在と同じ状態になっているかを確認することで、変更時期を推定しやすくなります。
聞き取り調査も有効ですが、記憶だけに依存しないことが重要です。以前からこの状態だった、前所有者が工事したといった説明だけでは、既存不適格か違反状態かを確定できません。聞き取り内容は、図面、写真、契約書、行政記録などの客観資料と照合します。
基準不適合が見つかった場合は、法的な評価と安全上の危険度を分けて記録します。既存不適格であっても著しい腐食や損傷があれば早急な対応が必要です。違反の可能性がある部分について調査に時間を要する場合でも、落下防止、立入制限、障害物撤去、設備の復旧など、先に安全を確保すべきことがあります。
調査記録には、不適合の内容、確認した資料、推定される発生原因、確認できていない事項、安全上の危険度を分けて記載します。推測を確定事実のように書かないことが、その後の行政相談や是正計画を円滑にするポイントです。
判断基準5 行政記録と12条点検結果を総合して判断する
五つ目の判断基準は、現地調査だけで結論を出さず、行政記録、設計図書、工事履歴、使用状況と12条点検の結果を総合して整理することです。
現地調査によって、現在の形状、寸法、劣化状況、設備の作動状態などは確認できます。しかし、その状態が建築当時から存在していたのか、適法な手続を経て変更されたのかは、現場を見るだけでは確定できません。
行政記録として確認したいものには、建築確認や完了検査の履歴、建築計画概要書、台帳記載事項に関する資料、許可、認定、計画変更などの記録があります。所有者が確認済証や検査済証を紛失していても、行政側に交付履歴が残っている場合があります。
ただし、行政台帳に確認記録があることだけで、現在の建築物全体が適法だとは判断できません。確認後に計画と異なる施工が行われた可能性や、完成後に増築、用途変更、設備撤去などが行われた可能性があるためです。
過去に特定行政庁から指導を受けている場合は、その対象箇所、指導内容、対応状況を確認します。過去に指摘された部分が是正済みなのか、未対応なのか、その後の改変で再び問題が生じているのかを整理します。
一方、過去に行政から指摘を受けていないことは、適法性の証明にはなりません。行政が建築物のすべての部分を常時確認しているわけではなく、過去の調査対象外だった部分や、その後に変更された部分が存在する可能性があります。
定期調査結果表で要是正となった箇所も、すべてが違反を意味するわけではありません。劣化、腐食、作動不良、維持管理上の不備なども含まれます。指摘事項ごとに、告示上の判定、法令上の適合性、安全上の危険度を分けて整理します。
同様に、過去の報告書に既存不適格と記載されていても、その記載だけを根拠に結論を出さないことが大切です。適用法令、工事時期、当初図面、改修履歴との照合根拠が残っているかを確認します。
国土交通省の現況調査ガイドラインは、既存建築物の増築等や用途変更を行う際に、建築士が法令への適合状況を調査する手順や方法を示しています。調査できない規定を不明として扱う考え方も示されているため、根拠が不足したまま既存不適格と断定しないことが重要です。([国土交通省][2])
なお、12条点検の調査者が、定期調査報告書だけで建築物の法的状態を最終確定するものではありません。疑義がある場合は、建築士による追加の法適合調査を行い、必要に応じて特定行政庁へ相談します。違反の正式な認定や行政上の措置は、個別事情と法令に基づいて特定行政庁が判断することになります。
行政庁へ相談するときは、建物全体について漠然と違反かどうかを尋ねるのではなく、対象部分、工事時期、当時の図面、現在の写真、関係する規定、確認済み事項と未確認事項を整理します。相談内容を具体化することで、追加資料や今後の手続を確認しやすくなります。
条例、運用基準、定期報告の対象、報告時期、様式、相談方法などは地域によって異なる場合があります。他地域の事例だけを根拠にせず、建物所在地を管轄する特定行政庁の最新の取扱いを確認します。
既存不適格と違反状態が混在しやすい代表例
実際の建物では、既存不適格と違反状態を一棟単位で明確に分けられないことがあります。規定や部位ごとに異なる状態が混在しているためです。
代表的なのが、古い建物に後から改修を重ねているケースです。建築当時の階段幅や構造仕様は既存不適格であっても、後から防火設備を撤去していれば、その撤去部分は別に違反状態が疑われます。
既存不適格となっている廊下に、後から収納棚や受付設備を設け、有効幅をさらに狭くしている場合もあります。当初から存在する寸法上の既存不適格と、完成後の設置物による避難上の支障を分けて評価します。
屋上に増築された機械室では、既存建物本体の一部が既存不適格である一方、増築部分について確認手続や構造安全性の検討が不足している可能性があります。本体が古いことを理由に、増築部分まで既存不適格として扱うことはできません。
用途変更が行われた建物も注意が必要です。構造そのものは建築時から変わっていなくても、新しい用途に必要な防火、避難、内装、排煙、用途制限などへの対応が不足していれば、用途変更後の使用に問題が生じる可能性があります。
テナントビルでは、共用部分は所有者が管理していても、専有部分の改修内容を十分に把握していないことがあります。各テナントが設置した間仕切り、扉、天井、配管などが、防火区画、排煙計画、避難経路に影響している場合があります。
法的には既存不適格として存続している部分でも、経年劣化によって安全性が低下していることがあります。既存不適格、違反状態の疑い、劣化による要是正は、それぞれ別の欄や記録で整理することが必要です。
定期調査では、建物全体を一つの分類に当てはめようとするのではなく、対象部位ごとに、いつ設けられたか、当時は適法だったか、後から変更されたか、現在危険があるかを確認します。
判定を誤らないための実務的な調査手順
既存不適格と違反状態を適切に見分けるには、点検当日だけでなく、事前準備から調査後の整理まで一貫した手順を設けることが重要です。
最初に、建築物の基本情報を整理します。建築時期、構造、階数、延べ面積、用途、確認済証と検査済証の有無、増築時期、主な改修履歴、用途変更履歴などを確認します。
次に、所有者が保管している図面の種類を確認します。確認申請時の図面、計画変更図、竣工図、改修図、日常管理用の図面が混在している場合があります。図面の作成日、改訂日、工事名、確認番号を確認し、どの時点の状態を表しているのかを明確にします。
必要に応じて行政記録も調べます。所有者保管資料と行政記録を比較し、新築、増築、用途変更、計画変更、完了検査などの履歴を時系列で整理します。
現地調査では図面を持参し、現況との差を確認します。寸法だけでなく、用途、間仕切り、防火設備、避難経路、排煙設備、天井内の区画貫通部など、定期調査の対象と追加確認が必要な部分を区別して記録します。
図面と異なる箇所を発見した場合は、対象部分の接写に加え、周囲との位置関係が分かる写真も残します。階、室名、通り、方角、付近の設備などを記録し、後から撮影場所を特定できるようにします。
寸法を測る場合は、測定位置と測定条件を明確にします。廊下や階段では、壁間寸法だけでなく、手すり、配管、扉の開放範囲、設置物などを考慮した有効寸法が問題になることがあります。
調査後は、建築当時の状態、過去の改修、前回点検時の状態、現在の状態を時系列で並べます。これにより、不適合が生じた時期と原因を検討しやすくなります。
指摘事項ごとに、現行規定への適合状況、工事時の規定への適合状況、図面との一致、改修履歴、安全上の危険度、未確認事項を記録します。単に違反の疑いとするのではなく、何が未確認で、どの資料や調査が必要なのかを明示します。
安全上の危険が高い箇所については、法的な区分の調査が完了するまで放置しないことが重要です。落下のおそれがある外壁、ぐらついた手すり、閉鎖できない防火設備、塞がれた避難出口などは、立入制限、応急措置、障害物の撤去、専門業者による確認を検討します。
一方、十分な調査をしないまま恒久的な是正工事へ進むことにも注意が必要です。既存不適格建築物に増築や一定の改修を行うと、工事内容によって現行規定の適用範囲が変わる場合があります。工事計画を決める前に、法的な状態、確認手続、設計条件を整理します。
判断できない箇所を12条点検でどう扱うか
資料が不足し、既存不適格か違反状態かを判断できないケースは少なくありません。古い建物では、確認済証、検査済証、設計図書、改修記録が一部または全部残っていないことがあります。
このような場合に避けるべきなのは、資料がないという理由だけで既存不適格と断定することです。既存不適格であることを確認できない状態と、既存不適格であることを確認できた状態は同じではありません。
反対に、資料がないことだけで違反と断定することも適切ではありません。書類の紛失、所有者変更時の引継ぎ不足、古い時代の記録状況などにより、手元に資料がないだけの場合もあります。
判断できない箇所は、不明、未確認、追加調査が必要など、確認状況が分かる形で整理します。そのうえで、必要な資料、調査方法、相談先を明確にします。
たとえば、増築時期が不明であれば、過去の航空写真、登記事項、工事写真、前回の点検報告書、固定資産関係の資料などを検討します。防火設備の撤去時期が不明であれば、過去の平面図、設備点検記録、改修履歴、現場担当者への聞き取りを組み合わせます。
図面と現況の差が大きく、定期調査の範囲では判断できない場合は、現況図の作成や詳細な法適合調査を検討します。構造部分に影響する増築が疑われる場合は、構造設計者などによる専門的な調査が必要になることもあります。
定期調査の記録では、確認できた事実と評価を混在させないことが重要です。図面に記載がない、工事記録を確認できない、現地に増設部分があるという事実と、手続を経ていない可能性があるという評価を分けて記載します。
行政庁へ相談中である場合も、その状況を記録します。相談したこと自体で適法になるわけではないため、行政庁から求められた資料、確認中の論点、今後必要となる対応を明確にしておきます。
既存不適格でも安全上の問題は放置しない
既存不適格は違反状態とは異なりますが、改修や維持管理が不要という意味ではありません。建築時に適法だった部分でも、長期間の使用によって劣化し、安全性が低下することがあります。
たとえば、建築時の規定に適合していた外部鉄骨階段でも、腐食が進み、踏板や接合部の強度が低下していれば、安全上の問題があります。防火設備の仕様が既存不適格である場合でも、作動不良によって閉鎖できなければ、本来の防火機能を発揮できません。
既存不適格建築物について、損傷、腐食その他の劣化が生じ、そのまま放置すれば保安上危険または衛生上有害となるおそれがあると認められる場合には、特定行政庁による指導や助言の対象となり得ます。建築物の条件や危険性によっては、勧告や命令に関する制度も設けられています。([国土交通省][3])
耐震、防火、避難に関する既存不適格は、利用者数や利用形態の変化によって実際の危険度が高まることもあります。建築時より利用者が増えている、高齢者や避難に時間を要する人が多く利用している、室内レイアウトが大きく変わっている場合は、法的な区分とは別に実際の避難安全性を検討します。
改修を計画する場合は、安全性を高めることに加え、工事によって現行規定がどこまで適用されるかを事前に確認します。部分的な改修であっても、工事内容によって確認手続や追加対応が必要になる場合があります。
12条点検を報告書作成だけで終わらせず、建物の法的状態、安全性、維持保全、将来の改修方針を整理する機会として活用することが重要です。既存不適格であることを理由に問題を先送りするのではなく、安全上の優先順位に応じて計画的に対応します。
まとめ
12条点検で既存不適格と違反状態を見分けるためには、現在の建築物が現行基準に適合しているかだけを見ても十分ではありません。
第一に、対象部分が建築時またはその部分の工事時に適用されていた規定に適合していたかを確認します。当時は適法で、その後の法令改正や都市計画の変更によって現行規定に適合しなくなったのであれば、既存不適格となる可能性があります。
第二に、確認済証、検査済証、確認申請図書と現況を照合します。図面と異なる部分がある場合は、適法な計画変更や別工事なのか、完成後の改変なのかを調査します。
第三に、増築、改修、用途変更の履歴を確認します。既存不適格建築物であっても、後から行われた工事について、必要な手続や適用される技術基準の確認が不要になるわけではありません。
第四に、不適合が生じた原因と時期を特定します。法令改正による不適合、後の改変、当初からの不適合、経年劣化、使用方法の問題を区別することが重要です。
第五に、定期調査の現地確認だけで結論を出さず、行政記録、設計図書、改修履歴、過去の報告書を総合して整理します。確認できない部分は、根拠なく既存不適格または違反と断定せず、不明または追加調査が必要な事項として記録します。
一棟の建物の中に、既存不適格となる部分、違反状態が疑われる部分、経年劣化による要是正部分が混在することもあります。建物全体を一括して分類するのではなく、規定や部位ごとに判断根拠を残すことが実務上の重要なポイントです。
現場写真、測定値、図面との差異、設備の作動状況、確認できなかった事項を、後から第三者が追跡できる形で記録してください。重大な疑義がある場合は、定期調査の範囲だけで断定せず、建築士による法適合調査や特定行政庁への相談につなげることが、安全で実務的な対応です。