12条点検における外壁調査の基本
12条点検の担当者が判断に迷いやすい項目の一つが、外壁調査の対象範囲です。地上から外周を見れば足りるのか、高所を含めて近接確認が必要なのか、竣工から10年を超えた建物ではどの部分に全面打診等が求められるのかなど、建物ごとに整理しなければならない事項が多くあります。
一般に12条点検という言葉は、建築基準法第12条に基づく建築物の定期調査や定期点検を指して使われます。民間建築物等の定期報告と、国や地方公共団体等が管理する建築物の定期点検では根拠となる項や手続が異なるため、対象建物の所有者区分と所管制度を最初に確認することが必要です。
特定建築物の定期調査では、敷地、地盤、建築物の外部、屋上や屋根、建築物の内部、避難施設などについて、損傷、腐食、劣化や不適切な変更の有無を確認します。外壁では、美観上の汚れや色あせだけでなく、外装仕上げ材の剥落、ひび割れ、浮き、著しい白華、躯体の欠損、鉄筋露出、金属部の腐食、外壁に設けられた部材の緩みなど、安全性に関係する変状を把握することが重要です。
外装仕上げ材等のうち、タイル、石貼り等で乾式工法によるものを除く部分、モルタル等については、通常の定期調査で手の届く範囲を打診等により確認し、その他の部分を必要に応じて双眼鏡等を用いて目視します。異常が認められた場合は、落下により歩行者等へ危害を加えるおそれのある部分を全面打診等により確認することが基本です。
さらに、竣工後、外壁改修後または前回の全面打診等の実施後10年を超え、最初に実施する定期調査等では、一定の例外を除き、危害を加えるおそれのある部分について全面打診等を行うという節目があります。したがって、「築10年になった日に建物の全外壁を一律に打診する」と理解するのではなく、起算となる工事や調査、定期調査の時期、外壁材、危険範囲を区画ごとに整理する必要があります。
ここでいう全面打診等は、必ずしも建物のすべての外壁を無条件にテストハンマーで打診するという意味ではありません。対象は、告示の対象となる外装仕上げ材等のうち、落下により歩行者等へ危害を加えるおそれのある部分です。また、打診と同等以上の精度を有することが確認された赤外線調査などを用いることもできます。
一方、制度上の対象範囲を狭く解釈し、人が利用する通路や出入口に面する壁面を除外することは避けなければなりません。道路側だけでなく、駐車場、駐輪場、搬入口、管理通路、屋上作業場所など、実際に人が立ち入る範囲を確認することが必要です。
外壁調査の計画では、建物を立面、階、増築区画、仕上げ材、施工方法、改修履歴ごとに分け、その区画に適した調査方法を割り当てます。遠方目視、近接目視、打診、赤外線調査を一つの方法に偏らせず、確認できない部分を別の方法で補完する考え方が重要です。
法定の定期調査は、法令上の資格を有する者が実施します。施設管理者による日常点検は、変状の早期発見に有効ですが、日常点検だけで法定の定期調査を代替できるわけではありません。日常点検の記録を調査資格者へ引き継ぎ、法定調査、応急措置、詳細調査、修繕を連続して管理することが基本です。
基準1 建物が定期報告の対象か確認する
外壁調査の範囲を検討する最初の基準は、その建物が特定建築物の定期報告対象に該当するかどうかです。12条点検という名称が広く使われていても、すべての建物に同じ報告義務や同じ周期が適用されるわけではありません。
定期報告の対象は、建物の用途、規模、階、対象部分などによって決まります。劇場、集会場、宿泊施設、病院、福祉施設、物販店舗、飲食店などは対象となる可能性がありますが、用途名だけで判断することはできません。対象用途に供する部分の床面積、位置する階、建物全体の規模などを確認する必要があります。
国が定める対象に加えて、特定行政庁が地域の実情に応じて対象建築物を指定する場合があります。このため、用途と規模が似ている建物でも、所在地が異なれば対象の有無や報告時期が異なることがあります。
実務では、建物所在地を所管する特定行政庁の最新案内、過去の通知、前回の定期調査報告書を確認します。一般的な解説記事や過去の社内資料だけで判定すると、制度改正や地域指定の変更を見落とすおそれがあります。
所有者や管理者が変わった建物では、以前の通知や報告書が引き継がれていない場合があります。施設台帳に建物用途、延べ面積、対象階、前回報告日、次回報告年度、所管窓口を記録し、担当者が変わっても確認できる状態にしておくことが大切です。
用途変更や増築が行われた建物にも注意が必要です。竣工時に対象外だった建物でも、その後の用途変更や増築により対象となる可能性があります。確認済証、検査済証、用途変更に関する手続資料、増改築図面、現況の利用実態を照合します。
複合用途の建物では、建物全体を一つの用途名で扱わないことが重要です。低層階が店舗、中層階が事務所、高層階が宿泊用途のような建物では、用途ごとの対象部分、床面積、階を整理します。
報告周期についても、前回の報告日へ単純に一定年数を加えるだけでは不十分です。特定行政庁が定める報告年度や提出期間を確認し、資料収集、現地踏査、安全計画、施設利用者との調整に必要な期間を逆算します。
なお、定期報告の対象外であることと、外壁の安全管理が不要であることは同じではありません。道路、出入口、駐車場などに面する外壁には、法定報告の対象外でも剥落等の危険が生じる可能性があります。所有者や管理者は、建築物を安全に使用できる状態に保つため、必要に応じて自主点検や専門調査を行うことが望まれます。
外壁調査を計画するときは、法定報告として確認する範囲と、維持保全として自主的に確認する範囲を分けて整理すると、発注範囲、報告先、修繕計画を明確にできます。
基準2 外壁材と施工方法から調査対象を分ける
二つ目の基準は、外壁材と施工方法です。外壁調査では、表面に見えている材料名だけでなく、その材料が下地や躯体へどのように固定されているかを確認する必要があります。同じタイルや石材でも、施工方法が異なれば、想定する不具合と適切な調査方法が変わります。
全面打診等の検討で特に重要となるのは、タイル、石貼り等で乾式工法によるものを除く部分、モルタル等です。これらは仕上げ材と下地の間に浮きや剥離が生じても、外観だけでは判断しにくい場合があります。
湿式のタイル仕上げでは、タイル、張付け材、下地モルタル、躯体との界面など、複数の位置で剥離が生じる可能性があります。目視ではタイルのひび割れ、欠損、目地の異常、白華、はらみ、剥落跡などを確認し、打診等では浮きの可能性を確認します。
石貼りについても、湿式部分と乾式部分を区別します。湿式部分では浮きや剥離を確認し、乾式部分では石材の割れ、支持金物の腐食、留め付け部の緩み、目地の異常、部材の変位などを確認します。乾式工法であるという理由だけで調査が不要になるわけではなく、確認方法が異なると理解することが大切です。
金属系パネルでは、表面の腐食だけでなく、接合部、固定部、端部、異種材料との取合い、変形、緩みを確認します。表面が健全に見えても、背面の支持材や留め付け部が劣化している可能性があります。
コンクリート系の外装パネルでは、ひび割れ、欠損、錆汁、接合部周辺の変形、目地の劣化などを確認します。錆汁を伴うひび割れがある場合は、内部の鉄筋や金物の腐食も考慮し、表面補修だけで判断を終えないことが重要です。
鉄筋コンクリート造の外壁躯体が露出している部分や塗装仕上げの部分では、躯体のひび割れ、欠損、鉄筋露出、著しい白華、塗膜の膨れや剥がれを確認します。塗膜の色あせだけで直ちに危険とは限りませんが、膨れや剥がれの背後に水分が入り、躯体劣化が進んでいる場合があります。
窓サッシ、ガラス周辺、シーリング、看板、配管や機器の支持部なども、外壁面の安全性と関係します。ただし、法定調査の項目と発注契約上の対象範囲を区別し、どこまで確認するかを仕様書で明示することが必要です。
長期間使用されている建物では、部分的な張り替え、塗装更新、窓改修、設備工事などにより、一つの立面に複数の工法が混在していることがあります。竣工時の仕上げ表だけを見て、現在の外壁構成を決めつけないことが重要です。
近年は、タイルが接着層から剥離しても落下を防止する金物や突起等を備えた外壁タイルがあります。一定の固定方法を採用し、第三者試験資料、仕上げ表、施工位置を示す立面図、固定方法を示す図書、施工記録などを定期調査時に確認できるものは、別途歩行者等の安全を確保するための対策を講じているものとして取り扱える場合があります。
ただし、落下防止措置があると説明されているだけでは足りません。制度上求められる要件と資料を確認できない場合は、従来どおり全面打診等の対象として扱う必要があります。また、落下防止措置付き外壁タイルであっても、ひび割れ、欠損、金物の不具合など、別の劣化がないかを確認することが必要です。
調査計画では、立面図上で材料、施工方法、改修範囲、落下防止措置の有無を区分し、それぞれに調査方法を割り当てます。工法を確認できない部分は推測で分類せず、工法不明として記録し、資料調査や現地での追加確認につなげます。
基準3 落下によって人に危害を与える範囲を確認する
三つ目の基準は、外壁仕上げ材が落下した場合に、歩行者等へ危害を加えるおそれがあるかどうかです。全面打診等の範囲は、外壁面積や方位だけで決まるものではありません。外壁の下や周辺を誰が、いつ、どのように利用しているかを確認する必要があります。
道路や歩道に面した外壁は、通行人への危険を考慮し、慎重に範囲を設定します。正面玄関、通用口、店舗入口、駐車場、駐輪場、搬入口、荷さばき場なども、人が日常的に利用する場所です。
見落としやすいのが、設備点検通路、清掃作業員の動線、廃棄物の搬出場所、植栽の管理場所、警備員の巡回経路です。関係者だけが利用する場所や利用頻度が低い場所でも、人が立ち入るのであれば危害の可能性を検討します。
一時的な利用も確認します。イベント時に人が集まる広場、災害時の避難経路、繁忙期の待機場所、工事中の仮設通路などは、通常時の現地踏査だけでは把握できない場合があります。施設管理者へ聞き取りを行い、年間を通じた利用状況を確認します。
外壁の直下に庇、低層屋根、バルコニー、外階段などがある場合も、存在するだけで上部外壁を危険範囲から除外しないことが重要です。落下物が庇へ衝突して跳ねる、庇上に残った破片が後から落下する、庇上を点検者が利用するといった可能性があります。
落下防止ネットや仮設防護設備が設けられている場合は、設置範囲、固定状態、破損、耐久性、点検記録などを確認します。設置されている事実だけでは、制度上の安全対策として有効かどうかを判断できません。
立入禁止措置も同様です。表示や簡易柵があっても容易に進入できる状態であれば、継続的な安全対策として十分でない可能性があります。施錠、監視、管理規則、関係者への周知、代替動線の確保を含めて実効性を評価します。
危険範囲を考えるときは、建物直下だけに限定しません。落下物は、風、壁面の傾斜、部材の形状、庇や設備への衝突などにより、壁面から離れた位置へ達する可能性があります。具体的な範囲は、建物高さ、外壁形状、周辺状況を踏まえて調査資格者が判断します。
実務では、立面図と配置図を組み合わせます。立面図には外壁材、建物高さ、開口部、庇、設備、看板などを示し、配置図には道路、歩道、出入口、駐車場、通路、立入制限範囲などを示します。
調査範囲は、「道路側」「人通りのある部分」といった文章だけで済ませず、立面図上で明示します。どの立面のどの高さ、どの区画を対象とし、どこを対象外としたか、その理由を記録することが大切です。
建物周囲の利用方法は、前回調査時から変わる場合があります。空地が駐車場になった、従業員通路が来客動線になった、出入口が移設されたなどの変更があれば、以前は危険範囲でなかった壁面が新たに対象となる可能性があります。調査のたびに現況を確認します。
基準4 竣工・改修・前回調査からの経過年数を確認する
四つ目の基準は、竣工、外壁改修、前回の全面打診等からの経過年数です。12条点検の外壁調査では10年という年数がよく注目されますが、建物の築年数だけを確認すればよいわけではありません。
タイル、乾式工法によるものを除く石貼り等、モルタル等については、竣工後、外壁改修後または全面打診等の実施後10年を超え、最初に実施する定期調査等が重要な節目となります。その時点で、落下により歩行者等へ危害を加えるおそれのある部分を全面打診等により確認することが基本です。
ただし、定期調査前の3年以内に実施された全面打診等の結果を確認する場合、定期調査後3年以内に外壁改修等が行われることが確実である場合、または別途歩行者等の安全を確保する対策を講じている場合は、告示上の例外となることがあります。
例外を適用する場合は、単なる予定や口頭説明ではなく、調査結果、契約、予算、工程、施工記録、安全対策の内容など、判断根拠を確認します。特定行政庁による運用上の確認事項がある場合も考えられるため、調査資格者と所管窓口の案内を確認することが安全です。
前回の全面打診等については、報告書の表紙や実施日だけで判断しません。どの立面のどの範囲を、どの方法で調査したか、調査不能部分がなかったか、異常箇所が修繕されたかを確認します。
建物全体で一つの起算日になるとは限りません。南面は全面改修済みでも、北面と東面は竣工時のままであれば、立面ごとに経過年数が異なります。部分改修が繰り返されている建物では、階や工区単位で履歴を管理します。
工事名称に外壁改修と記載されていても、その内容が塗装更新やシーリング更新だけであれば、タイルや下地の状態を全面的に改修したとは限りません。浮き補修、張り替え、固定、下地補修など、実際の施工内容と範囲を確認します。
落下防止措置付き外壁タイルを安全対策として扱う場合も、対象となる固定方法と施工記録等を確認できることが前提です。資料が確認できなければ、落下防止措置があるという外観や説明だけで全面打診等を省略しないことが重要です。
改修予定を理由に全面打診等を行わなかった後、工事が延期または中止となる場合にも注意が必要です。確実と判断した前提が崩れた時点で安全判断を見直し、追加調査、立入規制、仮設防護などを検討します。
竣工や改修から10年に達していなくても、通常の目視や手の届く範囲の打診等で異常が認められた場合は、全面打診等による確認が必要になります。外壁片の落下、浮き、著しい白華、ひび割れ、漏水、地震後の変状などがあるときは、次回の定期報告時期だけを基準にせず対応します。
10年という年数は、異常が見えなくても調査範囲を見直す節目です。「10年未満なら安全」「10年を超えた瞬間に全壁面が危険」という意味ではありません。外壁材、施工方法、危険範囲、異常の有無、履歴を組み合わせて判断します。
履歴を確認できない部分は、推測で調査済みや改修済みと扱わないことが大切です。資料がないこと自体を不確定要素として記録し、必要に応じて調査範囲や確認方法を充実させます。
基準5 異常の有無に応じて調査方法を選ぶ
五つ目の基準は、目視や手の届く範囲の打診等で異常が認められているかどうかです。外壁調査には、目視、触診、打診、赤外線調査、高所からの近接確認などがありますが、一つの方法だけですべての外壁を確実に判定できるわけではありません。
目視では、剥落、欠損、ひび割れ、著しい白華、錆汁、膨れ、変色、目地の破断、パネルの変形、固定部の異常などを確認します。地上から肉眼で見えない場所は、必要に応じて双眼鏡等を用います。
汚れや色むらだけで直ちに危険と判断することはできませんが、ひび割れに沿った汚れ、白華、錆汁、局所的な膨れなどが重なっている場合は、水分浸入や内部腐食の可能性を考慮します。
打診は、テストハンマーで仕上げ面を軽打し、音質の違いから浮き等を確認する方法です。湿式タイルやモルタル等で広く用いられますが、周辺騒音、仕上げ形状、下地構成、調査者の技能などにより判定条件が変わります。
打診結果は、立面図へ位置を特定できる形で記録します。「南面に浮きあり」という記載だけでは、詳細調査や修繕数量の検討に使いにくくなります。階、通り、開口部との位置関係、範囲、写真番号を対応させます。
赤外線調査は、外壁表面の温度分布を利用して、浮きの可能性がある部分を把握する方法です。地上に設置した赤外線装置や、無人航空機に搭載した赤外線装置を用いる場合でも、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する方法として実施する必要があります。
赤外線調査は、機器を向けるだけで常に正確な結果を得られる方法ではありません。天候、環境温度、風、調査前の降雨、壁面の方位、仕上げ材、撮影角度、離隔距離、周辺からの放射熱、日射や影などの影響を受けます。
調査前には、対象建物で赤外線調査が適用できる部分を確認し、同一部位で打診と赤外線調査を行って浮きの検出状況を確かめます。検出が難しい部位は、測定条件を変更するか、打診による調査へ切り替えます。
軒裏、出隅、入隅、庇下、バルコニー内部、設備背面、隣棟との狭い隙間などは、赤外線調査が難しい場合があります。撮影できない部分や判定できない部分を未確認のままにせず、近接目視や打診等で補完します。
無人航空機を使用する場合は、外壁調査の精度に加え、飛行の可否と安全対策を検討します。周辺道路、隣地、第三者の立入り、電線、設備、風、電波環境などを確認し、関係法令と現場条件に適合する飛行計画を作成します。
通常の調査で異常が認められた場合は、経過年数だけで範囲を限定しません。手の届く範囲で浮きが見つかった場合、その周辺や同じ施工条件の区画にも浮きが広がっている可能性を考慮します。
外壁片の落下や剥落のおそれがあるなど、緊急性の高い異常が見つかった場合は、報告書の完成を待たず、安全措置を検討します。外壁直下の立入規制、通路変更、仮設防護、危険部材の応急撤去などにより、第三者の安全を優先します。
発注仕様書には、「全面打診等一式」「赤外線調査一式」とだけ記載せず、対象立面、対象仕上げ材、調査範囲、除外部分、併用する方法、判定不能時の対応、成果品の内容を明示します。
外壁調査の範囲を決める実務手順
外壁調査の範囲を決めるときは、最初に建物を立面ごとに整理します。東西南北だけでなく、増築部、セットバック部、中庭側、塔屋、低層部、高層部など、外壁構成や周辺条件が変わる位置で区切ります。
次に、各区画の外壁材と施工方法を確認します。湿式タイル、湿式石貼り、モルタル、塗装仕上げ、乾式外装、金属系パネル、コンクリート系パネルなどに分けます。
材料名が同じでも施工方法が異なる場合は、別区画として扱います。過去の改修により施工方法が変わっている可能性があるため、竣工図だけでなく、改修図、施工記録、工事写真を確認します。
落下防止措置付き外壁タイルがある場合は、その施工位置を立面図で特定し、固定方法、第三者試験資料、施工記録などがそろっているかを確認します。資料が不足する部分は、通常のタイル面と分けて扱わず、必要な全面打診等を検討します。
続いて、建物周囲の利用状況を配置図へ記録します。道路、歩道、出入口、駐車場、駐輪場、搬入口、管理通路、屋上作業場所などを確認し、落下により人へ危害を加えるおそれのある立面を抽出します。
その後、竣工、外壁改修、前回の全面打診等の年月日と対象範囲を区画ごとに整理します。実施年月日だけでなく、調査方法、調査不能範囲、修繕の有無まで確認します。
前回の定期調査、日常点検、漏水記録、災害後点検で異常が報告されていないかも確認します。補修済みの指摘は、補修方法、施工範囲、完了日、完了確認の記録を照合します。
ここまでの情報を重ね、各区画に調査方法を割り当てます。目視で確認する区画、手の届く範囲を打診等で確認する区画、全面打診等を行う区画、乾式外装の支持部を重点確認する区画などに分けます。
調査困難な場所がある場合は、計画段階で補完方法を決めます。高所作業設備、ロープアクセス、赤外線調査などの採否は、建物形状、周辺条件、安全性、必要な精度を踏まえて決定します。
調査中の安全対策も同時に計画します。打診や近接作業により小片が落下する可能性があるため、作業者だけでなく、施設利用者、通行人、車両への安全措置を講じます。
学校、病院、宿泊施設、店舗など、利用を止めにくい建物では、作業時間と動線変更を事前に調整します。登下校、診療、搬出入、来客の多い時間帯を避けるなど、施設運営と調査の両立を図ります。
最終的な調査計画では、立面図に区画番号、外壁材、施工方法、調査方法、危険範囲、調査不能予定部を記載します。発注者、調査者、施設管理者が同じ図面を用いることで、対象範囲の認識違いを防げます。
外壁調査前にそろえておきたい資料
外壁調査の品質は、使用する機器だけでなく、事前に建物情報をどこまで整理できるかによって変わります。調査前には、確認済証、検査済証、竣工図、仕上げ表、立面図、断面詳細図、外壁施工図などをそろえます。
改修履歴がある建物では、改修設計図、施工範囲図、工事写真、数量表、完了報告書を確認します。「外壁改修済み」という記録だけでは、どの範囲に何を行ったか判断できません。
過去の定期調査報告書では、判定結果だけでなく、調査方法と調査範囲を確認します。目視範囲、打診範囲、赤外線調査範囲、確認できなかった範囲を区別します。
全面打診等の報告書がある場合は、異常分布図、調査不能範囲、使用した方法、赤外線調査時の条件、打診との照合方法、補完調査の内容を確認します。
修繕工事の記録も重要です。タイルの張り替え、浮き補修、固定、シーリング更新、躯体補修など、施工方法によって次回調査で確認すべき点が変わります。
落下防止措置付き外壁タイルについては、第三者機関による試験記録等、仕上げ表、施工位置を示す立面図、外壁断面や固定方法を示す図書、施工記録を保管します。資料が欠けると、安全対策としての取扱いを確認できない可能性があります。
施設管理者への聞き取りでは、地上に外壁片が落ちていた、強風時に異音がする、特定の窓周りで漏水する、清掃時に目地の欠損を見つけたなど、書類に残っていない情報を集めます。
地震、台風、豪雨などの後に異常が発生した記録があれば、時期と場所を確認します。災害前後の写真を比較できれば、ひび割れや変形の進行を判断しやすくなります。
建物周囲の利用状況が分かる配置図、避難経路図、駐車場図、搬出入計画、設備点検経路なども確認します。図面作成時から動線が変わっている場合があるため、現地踏査で現況を確かめます。
資料が不足している場合は、推測で本調査の範囲を確定せず、予備調査を行います。現地踏査、外観写真、部分的な近接確認を通じて外壁構成と調査条件を整理します。
資料の不足や不明点は、調査仕様書と報告書に明記します。確認できなかった履歴を明示することで、発注後の追加調査や次回点検時の判断につなげられます。
現地調査で見落としやすい外壁の部位
外壁の異常は、広く平らな壁面だけに生じるわけではありません。形状が変化する部分、水が集まりやすい部分、異なる材料が接する部分は、重点的に確認する必要があります。
開口部の隅は、ひび割れが生じやすい場所です。窓や扉の四隅から斜め方向へひび割れが伸びている場合は、仕上げ材だけでなく下地や躯体の状態も確認します。
水平打継部は、施工時期や材料状態が異なる部分の境界となるため、ひび割れや漏水が生じる場合があります。外観上は汚れに見えても、水分浸入の痕跡である可能性を考慮します。
斜壁や傾斜面は、鉛直壁とは雨水や日射の受け方が異なります。仕上げ材に作用する条件も異なるため、浮き、剥離、目地劣化を確認します。
窓上部、窓台、庇の付け根、バルコニー端部、パラペット下部では、シーリングの破断や排水不良から水が入り、周辺の仕上げ材や躯体が劣化することがあります。
設備配管や看板の支持部周辺では、アンカー周辺のひび割れ、金物の腐食、緩み、シーリングの劣化を確認します。設備更新時に新たな穴が設けられ、防水処理が不十分な場合もあります。
外壁の出隅や入隅では、仕上げ材の端部に応力が集中することがあります。一方向からの観察だけでは確認しにくいため、複数方向から見ます。
隣棟との間隔が狭い面、中庭側、設備が密集した面は、調査困難になりやすい場所です。前回も未調査だった可能性があるため、過去の範囲図と照合し、今回の補完方法を検討します。
補修跡も重点確認箇所です。補修材が健全に見えても、補修範囲の周辺に新たなひび割れや浮きが生じる場合があります。補修前の異常位置と現在の状態を比較します。
地上付近では、車両や台車の接触、散水、植栽、泥はねなど、高所と異なる影響を受けます。高所からの剥落だけに注目せず、出入口や駐車場側の低層部も確認します。
屋上や低層屋根に面する外壁は、地上の通行人に直接影響しないように見える場合があります。しかし、設備点検者や清掃作業員が利用する場所であれば、人への危害を検討する必要があります。
外壁調査の結果を修繕につなげる方法
12条点検は、調査報告書を提出して終わる業務ではありません。異常が確認された場合は、安全措置、詳細調査、修繕設計、工事、補修後の確認までを継続して管理します。
最初に、指摘事項を緊急性で分けます。外壁材が剥がれかけている、外壁片が落下している、支持部が著しく腐食しているなど、第三者への危険が高い場合は、応急的な安全措置を優先します。
応急措置には、外壁直下の立入規制、通路変更、仮設防護、危険部材の撤去などがあります。応急措置を実施した後も、その状態を恒久対策と混同せず、詳細調査と修繕を計画します。
次に、異常位置と範囲を立面図へ記録します。立面、階、通り、開口部との関係、写真番号を統一し、調査者以外でも現地位置を特定できる状態にします。
浮きやひび割れの数量だけでなく、異常が集中する条件を確認します。特定の階、方位、目地、開口部周辺に集中している場合は、水分浸入、温度変化、下地条件、過去施工などの共通原因がないか検討します。
修繕範囲は、異常判定箇所だけを機械的に補修するのではなく、周辺への広がりと再発可能性を考慮して決めます。必要に応じて部分撤去、接着強度の確認、下地調査などの詳細調査を行います。
工事完了後は、使用材料、施工方法、施工範囲、完了日、施工写真、検査結果を保存します。これらは、次回の定期調査で経過年数と再劣化を判断するための根拠になります。
補修位置図は、調査時の立面図と同じ区画番号を使用すると管理しやすくなります。調査、修繕、次回点検で位置の表し方が変わると、過去の異常を追跡しにくくなります。
中長期修繕計画では、部分補修を継続する方法と、仮設足場等を用いて広い範囲をまとめて改修する方法を比較します。異常分布、外壁全体の経過年数、施設運営への影響、再発状況を考慮します。
外壁調査の記録は、報告書、写真、立面図、調査条件、補修記録を関連付けて保存します。前回と今回の写真を同じ位置で比較できれば、ひび割れ、白華、変色、補修部の変化を判断しやすくなります。
12条点検の外壁調査でよくある誤解
よくある誤解の一つは、築10年未満なら全面的な調査を考えなくてよいというものです。経過年数が短くても、通常の調査で異常が認められた場合は、危害を加えるおそれのある部分を全面打診等で確認する必要があります。
二つ目は、築10年を超えたら建物のすべての外壁面を無条件に打診しなければならないというものです。対象は、該当する外装仕上げ材等のうち、落下により歩行者等へ危害を加えるおそれのある部分です。
三つ目は、10年を超えた時点で直ちに調査期限が到来するというものです。制度上は、竣工後、外壁改修後または全面打診等の実施後10年を超え、最初に実施する定期調査等が節目になります。
四つ目は、地上から外壁全体を撮影すれば目視調査が完了するという考え方です。遠方写真だけでは、細かなひび割れ、浮き、留め付け部の緩みなどを確認できない場合があります。
五つ目は、赤外線調査を行えば打診や近接確認が一切不要になるという考え方です。赤外線調査は適用条件を確認し、同一部位で打診との検出状況を確かめ、判定困難部を別の方法で補完する必要があります。
六つ目は、無人航空機で撮影すれば制度上の全面打診等として自動的に認められるという考え方です。無人航空機による赤外線調査も、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する方法として実施しなければなりません。
七つ目は、外壁調査とはタイルだけを確認する業務だという考え方です。躯体、乾式外装、パネル、サッシ周辺、外壁に設けられた部材なども、該当する調査項目と契約範囲に応じて確認します。
八つ目は、外壁改修工事を行えば建物全体の起算日が一律に改修時点へ変わるという考え方です。部分改修では、未改修部分と改修部分の履歴を分けて管理する必要があります。
九つ目は、落下防止措置付きタイルであれば資料がなくても全面打診等を省略できるという考え方です。制度上の取扱いには、固定方法の要件と施工記録等の確認が必要であり、資料を確認できない場合は従来どおりの対応が必要です。
十個目は、立入禁止表示があれば危険範囲から除外できるという考え方です。表示だけでなく、実際に人が進入できない管理状態か、継続して安全を確保できるかを確認します。
十一個目は、前回の報告書が異常なしであれば、次回まで外壁を確認しなくてよいという考え方です。地震、台風、漏水、設備工事、周辺動線の変更などにより、外壁の状態と危険範囲は変化します。
十二個目は、調査会社へ建物名と外壁面積だけを伝えれば適切な範囲が決まるという考え方です。外壁材、施工方法、改修履歴、前回調査、落下防止措置、周辺利用状況を共有しなければ、必要な方法と範囲を正確に計画できません。
まとめ
12条点検の外壁調査で必要な範囲は、建物の全外壁を一律に目視する、または築10年を超えたらすべての面を一律に打診するという考え方だけでは決まりません。
最初に、建物が特定建築物の定期報告対象であるか、国や地方公共団体等の定期点検対象であるかを確認します。民間建築物等では、用途、規模、対象階、報告時期に加え、所在地を所管する特定行政庁の指定を確認します。
次に、外壁材と施工方法を整理します。湿式タイル、乾式工法によるものを除く石貼り等、モルタル等と、乾式外装やパネルでは、想定する異常と調査方法が異なります。
落下防止措置付き外壁タイルについては、一定の固定方法と施工記録等を確認できる場合、別途歩行者等の安全を確保するための対策として扱えることがあります。ただし、資料を確認できなければ自動的に全面打診等を省略できません。
三つ目に、落下により歩行者等へ危害を加えるおそれのある範囲を確認します。道路や主要出入口だけでなく、駐車場、搬入口、管理通路、屋上作業場所など、実際に人が立ち入る場所を調べます。
四つ目に、竣工、外壁改修、前回の全面打診等からの経過年数を区画ごとに整理します。10年を超え、最初に実施する定期調査等が節目となりますが、3年以内の全面打診等の結果、確実な外壁改修予定、安全対策などの例外条件も資料に基づいて確認します。
五つ目に、通常の目視や手の届く範囲の打診等で認められた異常に応じ、全面打診等、近接目視、赤外線調査を組み合わせます。赤外線調査や無人航空機を用いる場合も、打診と同等以上の精度、適用条件、打診との照合、判定困難部の補完が必要です。
外壁調査を確実に進めるには、立面図に外壁材、施工方法、改修履歴、前回調査、周辺動線、調査方法を重ねて整理することが有効です。調査後は、異常位置、写真、判定、応急措置、補修内容を同じ区画情報で管理し、次回の12条点検へ引き継ぎます。
法令や告示に基づく最終的な調査範囲と報告方法は、建物の所在地、用途、所有区分、外壁仕様によって異なります。発注前に調査資格者と所管する特定行政庁の最新案内を確認し、根拠を図面と記録に残すことが、過不足のない外壁調査につながります。