高層建物の12条点検で足場なし調査が注目される理由
一般に12条点検と呼ばれる業務には、建築基準法第12条に基づく建築物の定期調査や、建築設備、防火設備、昇降機などの定期検査があります。本記事で扱うのは、主として特定建築物の定期調査における外壁調査です。報告対象となる建築物、報告時期、対象項目は、法令に加えて所在地を所管する特定行政庁の指定や運用によって確認する必要があります。
高層建物という表現には、12条点検の対象を一律に決める法令上の共通基準があるわけではありません。高さや階数だけで判断せず、用途、規模、構造、所在地、前回報告の時期などを確認し、今回必要な調査範囲を確定することが出発点になります。
高層建物では、地上から確認できる範囲が限られます。外壁の上層部、庇の周囲、塔屋、設備ルーバー、バルコニーの外側などは、通常の地上目視だけでは状態を把握しにくい部位です。外壁材の欠損やひび割れ、シーリング材の破断、金属部材の腐食、仕上げ材の浮きなどを確認するには、対象部位へ接近する方法や、必要な解像度と条件を満たす計測方法が必要になります。
従来から、足場を設置して調査者が近接目視や打診を行う方法が広く用いられています。足場には、外壁の広い範囲へ安定して接近しやすく、異常部の触診、打診、寸法確認、応急処置などへ移りやすい利点があります。一方、高層建物では設置と解体に期間を要し、建物の出入口、車両動線、店舗営業、住戸の採光、避難経路、道路使用などへの影響が大きくなる場合があります。
こうした事情から、地上からの望遠撮影、赤外線調査、無人航空機、ロープアクセス、仮設ゴンドラ、高所作業車などを組み合わせ、全面足場を設置せずに必要な調査を行う方法が検討されます。ただし、足場なし調査は法令上の一つの調査方式を示す名称ではありません。必要な調査項目を、適用可能な方法で安全かつ適切な精度をもって確認する計画の総称として捉える必要があります。
特に、タイル、石貼り等のうち乾式工法によらないもの、モルタル等の外装仕上げ材については、国土交通省の案内で、手の届く範囲の打診等に加え、おおむね10年に一度、落下により歩行者等へ危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等を行う考え方が示されています。ここでいう全面的な打診等は、必ずしも建物の全外壁面を意味するものではなく、対象範囲は告示、建物条件、過去の調査や改修、特定行政庁の取扱いを踏まえて確認します。
無人航空機で可視画像を撮影しただけでは、外装仕上げ材の浮きに関する全面的な打診等の代替になりません。赤外線調査を用いる場合は、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する方法であることが必要です。国土交通省のガイドラインでは、適用条件の事前確認、同一部位での打診との比較、検出が難しい部位への打診対応、結果図や撮影条件を含む報告書作成などが示されています。
足場なし調査を検討するときは、足場を設置しないこと自体を目的にしてはいけません。調査対象、外壁仕上げ、建物形状、周辺環境、安全性、気象条件、判定精度、記録方法を総合的に確認し、調査不能や判定不能となる範囲を補完できる場合に採用することが基本です。
条件1 調査対象と必要な確認方法を整理できる
足場なし調査を検討する第一の条件は、今回の12条点検で何を確認する必要があるのかを整理できることです。調査方法を決める前に、法定報告の対象、前回報告日、外壁全面調査の実施履歴、改修履歴、前回の指摘事項、今回の報告期限を確認します。
建物調査では、敷地や地盤、外部通路、基礎、外壁、屋上、屋根、避難施設、防火区画など、多くの部位を確認します。外壁を撮影できたからといって、12条点検の全項目が完了するわけではありません。足場なしで確認する外壁の範囲と、地上、屋上、共用部、建物内部などから確認する範囲を分け、調査計画全体の中に位置付けます。
外壁についても、異常の種類によって確認方法が異なります。タイルやモルタルの浮き、石材の固定状態、金属パネルの変形、塗膜の剥がれ、シーリング材の破断、ガラスのひび割れなどを、一つの撮影方法だけで同じ精度で判断することはできません。
表面に現れたひび割れ、欠損、錆汁、変色、シーリング材の破断は、高解像度の可視画像から把握できる場合があります。一方、仕上げ材の浮きは表面に明瞭な変化が現れないことがあります。浮きを調べる必要がある部位では、告示に適合する打診等を選択し、赤外線調査を用いる場合も適用条件と精度確認を満たさなければなりません。
乾式工法で固定された石材や金属パネルでは、固定金物、ボルト、支持部、目地、シーリングなどの状態が重要です。表面温度分布だけで金物の腐食や緩みを確認できるとは限らないため、可視画像、近接目視、触診、図面照合などを組み合わせます。ガラスや建具も、望遠画像だけでは固定部の緩み、開閉状態、周辺部材との取り合いを確認できない場合があります。
調査計画では、外壁を方位、階、仕上げ、施工年代、改修範囲などで区分します。それぞれの区画について、確認対象、予定する方法、必要な画質や測定条件、補完方法、判定困難時の扱いを整理します。建物全体を一つの方法で処理しようとすると、死角や適用外の仕上げが残りやすくなります。
前回報告書に要是正、指摘、経過観察、調査不能などの記録がある場合は、その位置を今回の調査範囲へ確実に含めます。補修済みであれば、補修範囲、施工時期、工法、施工記録を確認します。前回と同じ位置を比較できれば、ひび割れ、腐食、変色、シーリング材の破断などの進行を把握しやすくなります。
足場なし調査を成立させるには、機器や作業方法を先に決めるのではなく、法定調査として必要な情報から逆算して方法を組み立てることが第一の条件です。
条件2 建物形状と外壁仕上げが調査方法に適している
第二の条件は、建物の形状と外壁仕上げが、予定する足場なし調査に適していることです。同じ高さの建物でも、外壁の凹凸、隣接建物との距離、庇やバルコニー、セットバック、塔屋の有無によって、調査可能範囲は大きく変わります。
壁面が比較的平らで、建物周囲に十分な空間がある場合は、地上からの望遠撮影や無人航空機による撮影を計画しやすくなります。外壁へ正面に近い角度から撮影できれば、ひび割れや欠損などの位置と形状を記録しやすくなります。反対に、周囲が狭く隣接建物が近い場合は、必要な離隔距離と撮影角度を確保できないことがあります。
地上から高層部を見上げて撮影すると、上層階ほど角度が急になり、外壁面が画像上で縮んで見えます。高倍率で拡大できても、庇、看板、植栽、設備配管などに隠れた部分は確認できません。画像の画素数だけではなく、対象部の実寸に対して必要な解像度が得られるかを確認します。
無人航空機を使用すれば、高層部へ接近し、外壁に対して正面に近い位置から撮影できる場合があります。しかし、入隅、設備ルーバーの裏側、バルコニー内部、狭い建物間、庇の上下面などには接近しにくいことがあります。建物角部や塔屋周囲では風が乱れやすく、安定した位置を保てない場合もあります。
ロープアクセスや仮設ゴンドラを採用する場合は、屋上の状況が重要です。屋上に必要な作業空間があるか、支持方法を安全に計画できるか、設備や配管がロープ経路を妨げないかを確認します。大きな庇や段状のセットバックがある建物では、屋上から降下しても対象面へ接近できないことがあります。
外壁仕上げの種類は、調査方法の選定に直接影響します。タイル張りやモルタル塗りでは、浮き、ひび割れ、欠損などが主要な確認対象になります。赤外線調査は表面温度差を利用して浮きの可能性を調べる方法ですが、すべての外壁や気象条件に適用できるわけではありません。
外壁材の種類、色、厚さ、下地、方位、日射、補修履歴によって温度分布の現れ方は異なります。光沢の強い面、ガラス面、金属面では、反射や周囲からの放射熱の影響を受けることがあります。熱画像に差があることだけを根拠に浮きと確定するのは適切ではありません。
同じ立面に複数の仕上げが混在している場合も注意が必要です。竣工図では全面タイル張りでも、その後の改修で一部が塗装、パネル、張り替えタイルへ変更されていることがあります。注入補修部、補修モルタル、下地の異なる部分などは周囲と異なる温度分布を示す可能性があるため、改修図や施工記録と照合します。
金属パネルや乾式石張りでは、固定部、目地、シーリング、パネルの変形や腐食を中心に確認します。赤外線調査の適用範囲とは異なるため、高解像度の可視画像や近接調査を組み合わせます。
足場なし調査を採用できるかは、機器を外壁へ向けられるかではなく、必要な範囲を必要な精度で判定できるかによって判断します。立面ごとに死角と適用外部分を洗い出し、補完方法を組み込めることが第二の条件です。
条件3 周辺環境と気象条件を管理できる
第三の条件は、周辺環境と気象条件を事前に確認し、調査中も管理できることです。足場なし調査は建物単体で完結せず、敷地の広さ、道路、歩行者、車両、隣接施設、風、雨、日射などが安全性と調査品質に影響します。
駅前、繁華街、幹線道路沿いでは、建物周囲を多数の歩行者や車両が通行します。地上撮影でも機材の設置場所や作業員の待機場所を確保できないことがあります。高所作業車を使用する場合は、車両の設置範囲、アウトリガー、旋回範囲、交通への影響、進入経路を確認します。
敷地内に空間があっても、地下駐車場や地下構造物の上部では、大型車両を安全に設置できない可能性があります。舗装下に地下ピットや設備配管があることもあるため、車両重量と支持条件を図面や施設管理者への確認で把握します。
無人航空機を使用する場合は、飛行経路だけでなく、離着陸場所、操縦者と補助者の配置、第三者の立入りを管理する範囲、緊急時の退避先を検討します。飛行場所、方法、機体、周辺状況に応じて航空法その他の関係法令、必要な許可や承認、土地管理者との調整を確認しなければなりません。
高層建物の周囲では、地上が穏やかでも上層部で強い風が吹いていることがあります。建物角部、塔屋、隣接棟との間、大きな庇の周囲では風向や風速が変化しやすく、無人航空機、ロープアクセス、ゴンドラ作業へ大きな影響を与えます。地上の予報だけで実施可否を決めず、現地条件と各作業方法の中止基準を照合します。
風は画像品質にも影響します。機体やカメラが揺れると、細いひび割れや目地の状態を判定できないことがあります。撮影直後に画像を確認し、ぶれ、露出、画角、対象区画の欠落がないかを現地で確認できる体制が必要です。
赤外線調査では、日射、環境温度、風速、降雨履歴、外壁表面の湿潤状態、周辺建物からの放射熱などが結果に影響します。外壁面に適切な温度変化が生じなければ、浮き部と健全部の差を捉えにくくなります。設備の排熱、室内温度、反射、日陰などによって、浮きとは関係のない温度差が現れることもあります。
建物の方位ごとに日射条件は異なります。東面と西面では適した撮影時間が異なり、北面や隣接建物の影に入る面では十分な条件が得られないことがあります。すべての立面を同じ時刻に撮影する前提を置かず、方位ごとに時間帯を設定し、必要に応じて複数日に分けます。
降雨直後は、湿っている部分と乾いている部分の差が熱画像へ現れることがあります。汚れ、植栽の影、開口部、柱や梁、補修跡も温度分布へ影響します。熱画像、可視画像、図面、施工履歴、打診との比較結果を総合して判定します。
調査日程には予備日を設けます。強風、雨、日射不足などの条件で無理に実施すると、安全上の問題だけでなく、判定不能なデータが増えます。中止基準と延期基準を事前に定め、必要な条件が整わなければ別日に変更できる工程を組むことが第三の条件です。
条件4 安全対策と補完調査の体制を確保できる
第四の条件は、調査者、建物利用者、通行者の安全を守る体制と、確認できない部分を補う体制を確保できることです。足場を設置しない場合でも、安全管理が簡略化されるわけではありません。方法ごとに異なる危険を想定し、作業計画と緊急時対応を準備します。
無人航空機では、建物や設備への接触、機体や部品の落下、通信や測位の不安定化、突風による逸脱などを想定します。飛行経路に電線、看板、アンテナ、突起物がないかを確認し、第三者の立入りを管理できる体制を整えます。
ロープアクセスでは、支持点の位置と強度、作業用と安全確保用の系統、ロープの擦れ対策、工具の落下防止、作業員の救助方法などを計画します。既存の手すり、配管、設備架台などを、構造と強度を確認せずに支持点として用いてはいけません。
仮設ゴンドラでは、屋上の設置条件、支持方法、壁面との距離、庇やセットバックの影響を確認します。風により作業床が揺れ、外壁へ接触する危険があるため、作業中止基準と退避手順を決めます。
高所作業車では、車両の設置地盤、勾配、段差、地下構造物、架空線、樹木、作業半径を確認します。作業床の最大高さだけで車両を選ぶと、実際には建物へ近づけず、対象部へ届かないことがあります。
外壁の劣化が進んでいる場合は、調査行為によって仕上げ材が落下する可能性も想定します。打診や接触が浮いた部材へ影響することがあるため、異常が疑われる外壁の直下を立入制限し、落下物対策を講じます。
安全対策と同時に、死角や判定困難箇所を補完する方法も準備します。地上からの望遠撮影では、庇の上部、バルコニー内部、入隅などが見えないことがあります。無人航空機でも、狭い隙間、設備の背面、乱流が生じる場所へ接近できないことがあります。
見えない部分を調査済みとして扱うことはできません。建物内部の窓から確認する、バルコニーへ立ち入る、屋上から撮影装置を下ろす、ロープアクセスで近接する、高所作業車や部分足場を利用するなど、複数の方法を組み合わせます。
赤外線調査では、調査前に同一部位で打診との比較を行い、検出が難しいと判断される部位は測定条件を変更するか、打診で対応することが国土交通省のガイドラインに示されています。異常らしい温度差が現れた部分だけでなく、適用条件を満たさない部分や判定不能部分の補完方法も当初計画へ含めます。
可視画像でひび割れを発見しても、画像だけでは幅、深さ、進行性、周辺の浮きなどを確定できないことがあります。落下危険や補修の緊急性を判断するため、近接測定や追加調査が必要になる場合があります。
補完調査は、異常発見後に初めて考えるのではなく、どの状態になったら追加するのか、誰が判断するのか、どの方法で接近するのかを事前に決めます。広い範囲を非接触で確認する方法と、異常部を近接して確認する方法を組み合わせられることが第四の条件です。
条件5 調査結果を報告書と修繕計画に反映できる
第五の条件は、取得した画像や測定結果を整理し、12条点検の報告書とその後の維持管理へ反映できることです。足場なし調査では、多数の写真、動画、熱画像、撮影条件などが生じます。データ量が多いだけでは、有効な調査記録にはなりません。
最も重要なのは、画像と撮影位置を対応させることです。建物を方位、階、通り芯、外壁区画などで分割し、各区画に番号を付けます。どの画像がどの位置を示すかを、後から第三者が追跡できるようにします。
撮影ファイルの名称も統一します。撮影日、棟、方位、階、区画、画像種類などを一定の規則で記録すれば、必要な画像を探しやすくなります。可視画像と熱画像を同じ位置で取得する場合は、相互に照合できる番号を付けます。
赤外線調査では、熱画像と同じ範囲の可視画像、撮影時刻、天候、環境温度、風速、外壁の方位、撮影位置、使用機器、打診との比較範囲などを記録します。解析結果の根拠が分からなければ、後から判定の妥当性を検証できません。
異常箇所は、外壁立面図や位置図へ反映します。単に南面上部と記録するのではなく、階数、目地、開口部、外壁区画などを基準に位置を示し、異常の種類、範囲、判定根拠を記載します。
調査結果には、確認済みの範囲だけでなく、判定困難箇所と未確認箇所も明示します。庇の影で撮影できなかった、設備に隠れた、日射条件が不足した、飛行や接近が安全上困難だったなど、理由と範囲を記録し、追加確認の方法を整理します。
異常は、落下の危険性、進行性、影響範囲などを踏まえて扱います。緊急性が疑われる欠損や著しい浮きについては、立入制限、応急措置、追加調査などを優先します。経過観察とする場合も、次回調査で比較できる位置情報と画像を残します。
前回調査との比較も重要です。同じ区画を同じ番号で整理すれば、ひび割れ、錆汁、変色、シーリング材の破断などの変化を確認しやすくなります。毎回異なる撮影順序や区画番号を使用すると、経年変化の確認に時間がかかります。
調査結果は、法定報告書を作成するためだけの資料ではありません。修繕範囲の検討、工事数量の把握、仮設計画、建物利用者への説明、長期修繕計画にも活用できます。異常箇所の位置と状態を具体的に整理すれば、補修工事の発注条件を明確にできます。
撮影や解析を専門作業者へ依頼する場合でも、定期調査としての最終的な確認と判定は、所定の資格を有する特定建築物調査員等が必要な情報を確認したうえで行います。国土交通省のガイドラインでも、外壁調査実施者、赤外線調査実施者、ドローン調査安全管理者などの役割を分け、資格者が告示の判定基準に基づいて結果をまとめる体制が示されています。
現地で取得した情報を、位置、判定根拠、未確認範囲とともに報告書と修繕計画へ一貫してつなげられることが第五の条件です。
足場なし調査で活用される主な方法
高層建物の足場なし調査では、建物条件と確認対象に応じて複数の方法を使い分けます。それぞれに得意な範囲と制約があり、一つの方法ですべての異常を確認できるとは限りません。
地上からの目視と望遠撮影は、建物全体の変色、欠損、ひび割れ、錆汁、シーリング材の破断などを確認する一次的な方法として利用できます。建物から十分な距離を確保し、外壁へ正面に近い角度から撮影できる場合は、高層部の外観も記録できます。
一方、地上から見上げる角度では、庇の上、バルコニー内側、設備の背面などを確認できません。上層階ほど画像が斜めになり、細部の判定が難しくなります。可視画像だけで外装仕上げ材の浮きに関する全面的な打診等を代替できるわけではない点にも注意が必要です。
無人航空機による可視画像調査は、高層部へ接近し、外壁に対して正面に近い位置から撮影できることが利点です。タイルの欠け、表面のひび割れ、シーリング材の破断、金属部分の腐食など、外観に現れる異常の記録に活用できます。
ただし、飛行空間、風、障害物、第三者の立入り管理、周辺施設との関係を確認する必要があります。建物へ近づけば必ず鮮明な画像が得られるわけではなく、撮影角度、明るさ、ぶれ、対象物の実寸に対する解像度も品質に影響します。
赤外線調査は、外壁表面の温度分布を測定し、タイルやモルタルなどの浮きが疑われる範囲を面的に調べる方法です。定期報告制度で用いる場合は、打診と同等以上の精度を有する方法として実施し、適用条件、打診との比較、判定困難部への対応、報告内容を整える必要があります。
赤外線画像に温度差が現れても、原因が必ず浮きとは限りません。柱や梁、補修跡、設備の排熱、反射、日陰、汚れ、湿潤状態でも差が生じます。可視画像、図面、施工履歴、打診結果などと照合して判断します。
ロープアクセスは、調査者が外壁へ接近し、近接目視、触診、打診、簡易測定などを行える方法です。異常が疑われる部分や、非接触調査では判定できない部分の補完に利用できます。ただし、支持条件、作業員の技能、救助計画、風、落下防止を確認します。
仮設ゴンドラは、作業床を外壁面に沿って移動させ、近接目視や打診を行う方法です。屋上に設置条件があり、外壁面が比較的連続する建物で活用できます。大きな庇やセットバックがある場合は、対象面へ近づけないことがあります。
高所作業車は、低層部や中層部、敷地から到達可能な異常箇所を部分的に確認する際に利用できます。敷地の広さ、地盤、進入経路、車両重量、作業半径による制約があります。
建物内部から窓やバルコニーを利用する方法もあります。安全に接近できれば、外部から見えない部分を補完できます。ただし、建物利用者との調整、転落防止、室内養生、窓の開閉可否などを確認します。
実務では、地上撮影や無人航空機で広い範囲の外観を確認し、赤外線調査で適用可能な範囲の浮きを調べ、異常部や死角をロープアクセス、高所作業車、内部確認、部分足場などで補う組み合わせが考えられます。方位や高さによって方法を変えることも有効です。
高層建物の足場なし調査で起こりやすい失敗
足場なし調査で起こりやすい失敗の一つは、使用する機器を先に決めることです。無人航空機や赤外線装置を使うことが先に決まり、法定調査として何を確認する必要があるかが整理されていないと、必要な画像、測定条件、補完調査が不足します。
可視画像を撮影した後に浮きの調査が必要だと分かれば、別日に打診や赤外線調査を行うことになります。反対に、赤外線調査だけでは、シーリング材の破断、金属部材の腐食、固定部の変形などを十分に確認できない可能性があります。
建物の外壁仕上げを一種類だと思い込むことも失敗につながります。竣工図の記載と現況が異なり、改修で一部が塗装や金属パネルへ変更されている場合があります。仕上げが異なれば、適用できる調査方法と判定の考え方も変わります。
現地踏査を省略すると、隣接建物、看板、樹木、電線、屋上設備、地下構造物などの障害を見落とす可能性があります。図面上では飛行や高所作業が可能に見えても、実際には必要な空間や支持条件を確保できないことがあります。
天候による予備日を設けないことも問題です。強風や降雨だけでなく、赤外線調査に必要な環境条件が得られない場合があります。予定日に無理に実施すると、判定に利用できないデータが増え、再調査が必要になります。
撮影できなかった部分を明確に記録しないことも避けなければなりません。大量の写真があると外壁全面を確認できたように見えますが、庇の上、入隅、設備の背面などが写っていない場合があります。確認済み、補完済み、判定困難、未確認を区別して記録します。
画像の整理方法を決めずに撮影すると、帰社後に位置を特定できなくなることがあります。似た窓や目地が連続する高層建物では、画像だけで階数や方位を判断できないことがあります。撮影区画、ファイル名、立面図への反映方法を事前に定めます。
調査資格者と撮影担当者の連携不足にも注意します。撮影担当者が調査目的を理解していなければ、必要な角度や解像度で撮影できません。調査資格者が飛行や高所作業の制約を理解していなければ、現場で実施できない指示を出す可能性があります。
異常発見後の対応を決めていないことも失敗の原因です。赤外線画像で異常が疑われても近接確認の方法がなければ、判定を進められません。落下危険が疑われる欠損を発見しても、直下の立入制限や緊急連絡の手順がなければ、迅速な安全確保ができません。
足場なし調査では、現地調査だけでなく、判定不能部の補完、異常発見時の応急対応、修繕検討までを見据えた計画が必要です。
調査を発注する前に準備したい資料
高層建物の足場なし調査を発注する前には、建物概要、外壁仕上げ、過去の調査、改修に関する資料を整理します。資料が不足した状態で調査を始めると、対象範囲の見落としや工程の追加につながります。
配置図、各階平面図、立面図、断面図、屋上平面図、外壁仕上げ表などを確認します。建物の高さ、外壁の方位、庇、バルコニー、セットバック、塔屋、屋上設備などの位置を把握します。
外壁改修を実施している場合は、改修図、施工範囲、工法、補修箇所、施工時期、完了記録を確認します。全面的な打診等や外壁調査を行った記録がある場合は、その実施時期、対象範囲、結果、補修対応も重要です。
過去の12条点検報告書には、要是正、指摘、経過観察、調査不能などの情報が記載されている場合があります。前回の指摘が補修されたか、未対応かを確認します。前回の写真や立面図が残っていれば、同じ位置を今回も撮影できるようにします。
外壁材の落下、ひび割れ、漏水などが発生している場合は、発生位置、原因、応急措置、補修内容を整理します。繰り返し異常が生じる箇所は重点確認範囲とします。
建物の利用状況に関する情報も必要です。営業時間、休館日、搬入時間、車両動線、屋上への立入り条件、建物利用者への通知期間などを確認します。調査中に閉鎖できない出入口や道路がある場合は、作業時間や方法を変更する必要があります。
無人航空機や高所作業車を使用する場合は、敷地境界、道路、隣接建物、電線、樹木、地下構造物などの情報を整理します。必要な行政手続き、土地管理者との調整、道路や敷地の使用条件は、調査工程へ組み込みます。
発注仕様には、足場なしという希望だけでなく、調査対象、必要な方法、打診等との関係、補完調査、判定困難箇所の扱い、成果品の形式、画像整理方法、異常発見時の連絡方法を記載します。
足場を絶対に使用しない条件にすると、必要な近接確認ができない場合でも方法を変更しにくくなります。足場なしを基本としつつ、条件を満たさない部分は、部分足場や別の接近方法へ切り替えられる発注条件にすることが実務的です。
工程は、資料確認、現地踏査、対象範囲の確定、調査方法の選定、安全計画、関係者調整、本調査、データ整理、補完調査、資格者による判定、報告書作成という流れで組みます。気象条件の影響を受ける調査では予備日も確保します。
足場を設置する方法へ切り替える判断基準
足場なし調査は有効な選択肢ですが、すべての高層建物に適しているわけではありません。確認できない範囲が多い場合や、近い時期に広範囲の補修が必要な場合は、全面足場や部分足場を設置したほうが合理的なことがあります。
外壁全体に広範囲の浮き、ひび割れ、欠損、はらみ、錆汁などが確認され、早期に補修工事を行う可能性が高い場合は、調査と補修を連続して実施できる足場を検討します。足場なしで調査した直後に全面足場を設けると、関係者調整や安全管理を二度行うことになります。
庇、バルコニー、設備ルーバー、セットバックなどが多く、地上撮影や無人航空機で広い死角が残る建物もあります。複数の補完方法を組み合わせても未確認範囲が多い場合は、足場なしという前提を維持する意味が小さくなります。
隣接建物との距離が近く、無人航空機の飛行、高所作業車の設置、ロープアクセスのいずれも安全に実施できない場合は、部分足場や全面足場が現実的な方法になる可能性があります。
赤外線調査に適さない外壁仕上げや環境で、広い範囲に打診が必要な場合も、足場の設置を検討します。部分的な打診で補完できるのか、対象範囲へ連続して近接する必要があるのかを確認し、仮設方法を比較します。
外壁材の落下が発生した場合や、大きなはらみ、欠損、固定不良などが確認された場合は、通常の定期調査工程より安全確保を優先します。直下の立入制限、応急撤去、緊急調査などを行い、必要に応じて足場を設置します。
足場を使用するかどうかを建物全体で統一する必要はありません。低層部に部分足場を設け、上層部は別の方法で調査するなど、方位、高さ、外壁形状、異常の種類に応じて方法を分けることができます。
判断の中心は、必要な範囲を安全に確認できるか、告示等に適合する方法で異常を判定できるか、未確認範囲を明示して補完できるか、調査結果を修繕へつなげられるかという点です。足場を設置しないことを優先せず、建物ごとに実効性の高い方法を選びます。
まとめ
高層建物の12条点検で足場なし調査を検討する際は、最初に法定報告の対象と今回必要な調査範囲を整理します。外壁調査だけで12条点検の全項目が完了するわけではなく、敷地、屋上、避難施設、防火区画など、建物の状況に応じた確認が別途必要です。
第一の条件は、外壁の仕上げや異常の種類ごとに必要な確認方法を選べることです。特に、タイル、乾式工法を除く石貼り、モルタル等の浮きについては、可視画像の撮影だけで全面的な打診等を代替できません。赤外線調査を用いる場合も、打診と同等以上の精度を確保し、適用条件と補完方法を明確にします。
第二の条件は、建物形状と外壁仕上げが予定する撮影、赤外線調査、ロープアクセスなどに適していることです。第三の条件は、周辺環境、風、雨、日射などを管理し、安全性と判定品質を確保できることです。
第四の条件は、安全対策と補完調査の体制を整えられることです。地上撮影、無人航空機、赤外線調査には、それぞれ死角や判定上の限界があります。必要に応じて、ロープアクセス、仮設ゴンドラ、高所作業車、建物内部からの確認、部分足場などで補います。
第五の条件は、取得した情報を位置と対応させ、12条点検の報告書と修繕計画へ反映できることです。方位、階、外壁区画、撮影条件、判定根拠、未確認範囲を整理し、次回調査でも比較できる記録を残します。
広範囲の劣化が確認されている建物や、近い時期に外壁改修を予定している建物では、足場を設置して調査と補修を連続して行うほうが適する場合があります。足場なし調査は万能な方法ではなく、法定調査の要件、安全性、判定精度、補完体制を満たす場合に選択する方法です。