赤外線外観検査は、可視光では捉えにくい表面状態の違い、温度分布の変化、条件によっては内部や表層下の異常に由来する熱応答を確認できるため、製造ラインの品質管理で活用されています。一方で、搬送中のワークを検査する場合、揺れや位置ずれが画像のぶれ、温度ムラの誤認、輪郭抽出の不安定化につながり、検査精度を左右しやすくなります。特にインライン検査では、検査速度を落とせない、設置スペースが限られる、ワーク形状がばらつくといった制約が重なり、単純にカメラを高性能化するだけでは解決しにくいことがあります。この記事では、赤外線 外観検査で情報を探している実務担当者に向けて、搬送中の揺れを抑えるための実践的な6つの対策を、機械設計、撮像条件、検査タイミング、画像処理の観点から解説します。
赤外線外観検査で搬送中の揺れが問題になる理由
赤外線外観検査では、ワーク表面から放射される赤外線、加熱後の温度分布、材料や表面状態による赤外線応答の差を画像として捉えます。可視光検査と同じように画像を扱う場面もありますが、赤外線画像は温度、放射率、周囲からの反射、カメラに対する面の向きなどの影響を受けるため、揺れによる見え方の変化が判定に影響しやすい特徴があります。
搬送中にワークが上下左右に揺れると、撮像位置が毎回変わります。検査領域がずれるだけでなく、カメラからワークまでの距離や角度が変化し、画素ごとの輝度値や温度換算値、輪郭の出方が不安定になります。赤外線外観検査では、欠陥部と正常部の温度差が小さいケースもあるため、わずかなぶれや位置ずれが過検出や見逃しにつながることがあります。
また、搬送中の揺れは単に画像がぼやけるだけではありません。ワークが回転したり傾いたりすると、赤外線カメラに対する面の向きが変わり、同じ箇所でも輝度や見かけの温度の出方が変わります。表面に光沢や曲面がある場合、反射成分や周囲環境の映り込みも変化します。その結果、正常品であっても異常のように見える、あるいは本来検出したい欠陥が周辺ノイズに埋もれるといった問題が起きる可能性があります。
さらに、赤外線外観検査は搬送速度との関係も重要です。高速搬送では、露光時間や積分時間を短くする必要が出る場合があります。取得時間が長すぎると動きによるぶれが発生しやすくなり、短くしすぎると信号量が不足して画像ノイズが目立つことがあります。そこに搬送揺れが重なると、判定しきい値の設定が難しくなります。検査装置の立ち上げ時には良好に見えても、量産中に搬送状態が変わったり、ワークの供給ばらつきが増えたりすると、判定が不安定になることもあります。
このような問題を防ぐには、揺れを画像処理だけで補正しようとするのではなく、搬送、保持、架台、撮像、トリガー、判定の各要素を総合的に見直す必要があります。赤外線外観検査は、カメラだけの性能ではなく、ライン全体の安定性によって検査品質が左右される工程です。
揺れ対策の基本は機械と撮像と処理を分けて考えること
搬送中の揺れを抑えるうえで最初に整理したいのは、問題を一つの原因に決めつけないことです。現場では、画像がぶれる、検査位置がずれる、判定が安定しないといった症状として現れますが、その背景には搬送機構の振動、ワークの保持不足、カメラ固定の剛性不足、撮像条件の不適合、トリガー遅れ、画像処理条件の過敏さなど、複数の要因が絡んでいることが少なくありません。
特に赤外線外観検査では、可視光検査とは異なり、温度状態や表面状態の影響も受けます。そのため、機械的な揺れだけを見ていても本質に届かない場合があります。たとえば、ワークの位置は大きくずれていなくても、加熱直後の温度分布が搬送中に変化している場合、赤外線画像では不安定な見え方になることがあります。逆に、温度分布は安定していても、カメラとワークの相対位置が変わることで検査領域がずれ、欠陥判定がばらつくこともあります。
そのため、揺れ対策は大きく三つに分けて考えると進めやすくなります。一つ目は、機械的に揺れを発生させにくくすることです。搬送機、駆動部、ガイド、保持具、架台などを見直し、ワークとカメラの相対位置を安定させます。二つ目は、撮像条件を揺れに強くすることです。露光時間、積分時間、視野、分解能、検査距離、加熱条件、撮像タイミングを調整し、多少の揺れがあっても画像が破綻しにくい状態を作ります。三つ目は、画像処理と判定ロジックで残ったばらつきを吸収することです。位置補正、領域追従、特徴量の安定化、しきい値の設計により、現実的に残る微小な揺れに対応します。
重要なのは、この三つを順番に積み上げることです。機械的な揺れが大きいまま画像処理だけで補正しようとすると、条件変更のたびに判定が崩れやすくなります。一方で、機械対策だけにこだわりすぎると、設備改造が大きくなり、費用や工期の面で現実的でなくなることがあります。実務では、まず大きな揺れを機械的に抑え、次に撮像条件でぶれにくくし、最後に画像処理で量産ばらつきを吸収するという考え方が有効です。
対策1 搬送系の振動源を減らしてワーク姿勢を安定させる
搬送中の揺れを抑える最初の対策は、搬送系そのものの振動源を減らすことです。赤外線外観検査で画像が安定しない場合、カメラや画像処理に目が向きがちですが、搬送機の駆動ムラ、ローラーの偏心、ベルトの継ぎ目、チェーンのガタ、ワーク受け部の摩耗などが原因になっていることがあります。
搬送系の振動は、ワークに直接伝わります。ワークが搬送面上で跳ねたり、微小に滑ったり、横方向に振られたりすると、撮像位置が毎回変わります。赤外線画像では、こうした動きが輪郭のずれや温度分布のにじみとして現れる場合があります。特に検査領域が細かい場合や、欠陥サイズが小さい場合には、わずかな姿勢変化でも判定結果が大きく変わることがあります。
振動源を減らすには、まず搬送速度が必要以上に高くなっていないかを確認します。生産能力を維持する必要はありますが、検査工程だけが不安定になっている場合、前後工程とのバランスを見ながら搬送速度や加減速条件を調整する余地があります。急加速や急停止はワークの姿勢を乱しやすいため、検査区間の前後では速度変化をなだらかにすることが有効です。
次に、搬送面の状態を確認します。ベルト搬送であれば張力のばらつき、蛇行、継ぎ目の段差、表面摩耗が揺れの原因になります。ローラー搬送であれば、ローラー径のばらつき、回転抵抗、軸受けの劣化、ワークとの接触状態を確認します。パレット搬送であれば、パレット自体の反り、位置決め部の摩耗、ストッパー接触時の衝撃が問題になることがあります。
赤外線外観検査では、検査直前のワーク挙動も重要です。搬送区間全体が安定していても、検査位置に入る直前に段差や受け渡しがあると、そこで発生した揺れが撮像時まで残ることがあります。検査位置の少し手前に整流区間を設け、ワークの姿勢が落ち着いてから撮像するだけでも、画像のばらつきが改善する場合があります。
また、振動は設備周辺からも伝わります。隣接するプレス、搬送装置、排気設備、冷却装置などの周期振動が架台や床を通じて検査部に伝わることがあります。赤外線外観検査の不安定さが一定周期で発生する場合は、搬送機だけでなく周辺設備の稼働タイミングも含めて確認することが大切です。振動の発生源を切り分けることで、必要な対策が過剰にならず、効果のある箇所に絞って改善しやすくなります。
対策2 ガイドと保持方法を見直してワークの暴れを抑える
搬送系の振動を減らしても、ワーク自体の保持が不十分であれば揺れは残ります。赤外線外観検査では、ワークの位置、角度、高さが安定していることが重要です。ワークが軽い、薄い、長い、反りやすい、表面が滑りやすいといった条件では、搬送中に微小な暴れが発生しやすくなります。
ガイドの役割は、単にワークを搬送路から外さないことではありません。検査位置でカメラに対して同じ姿勢になりやすいように、ワークの動きを整えることが目的です。左右ガイドの隙間が広すぎると横振れが残り、狭すぎると擦れや詰まりが発生します。高さ方向の押さえがない場合、搬送面のわずかな段差でワークが上下に跳ねることがあります。赤外線画像では、この上下方向の変化が焦点ずれや温度換算値のばらつきとして現れる場合があります。
保持方法を検討する際は、検査面を邪魔しないことも重要です。赤外線外観検査では、検査対象面を遮る部材があると、その部分の温度分布や赤外線放射を正しく取得しにくくなります。ガイドや押さえが検査視野に入ると、背景温度の影響や不要な反射が発生することがあります。そのため、保持具は検査領域から外れた位置でワークを安定させる設計が望まれます。
ワーク形状にばらつきがある場合は、固定的に強く押さえるよりも、一定の逃げを持たせたガイドのほうが安定することがあります。強い押さえ込みは一見すると揺れを抑えるように見えますが、ワークに反りや寸法差があると接触状態が変化し、逆に姿勢がばらつくことがあります。検査対象の許容寸法、反り、表面状態を踏まえ、必要な自由度を残しながら過度な暴れを抑える設計が大切です。
エアを使った浮上や吸着、軽い押さえ機構、位置決めピン、搬送治具なども候補になります。ただし、赤外線外観検査ではエアの流れが温度分布に影響する場合があるため注意が必要です。加熱後のワークを検査する工程では、冷却風や吸着部の接触が温度ムラを作り、欠陥のように見えることがあります。保持方法を変えたら、揺れだけでなく赤外線画像上の温度分布がどう変化するかを確認する必要があります。
量産ラインでは、ワークの供給状態も保持安定性に影響します。前工程からの投入姿勢がばらつくと、検査位置でいくらガイドしても完全には整わない場合があります。検査部だけでなく、供給部、整列部、受け渡し部を含めてワーク姿勢を安定させることが、搬送中の揺れ対策につながります。
対策3 架台とカメラ固定を高剛性化して相対揺れを減らす
赤外線外観検査では、ワークだけでなくカメラ側の揺れも問題になります。ワークが安定して搬送されていても、カメラ、レンズ、加熱部、照明部、架台が振動していれば、画像上では同じように揺れとして現れます。検査で重要なのは、ワークとカメラの相対位置が安定していることです。
カメラ固定でよくある問題は、取付部材の剛性不足です。細い支柱、長い片持ちアーム、薄いプレート、調整機構の締結不足は、搬送振動や周辺設備の振動を拾いやすくなります。特に赤外線カメラは検査距離や視野の都合で高い位置や斜め方向に設置されることがあり、取付剛性が不足すると微小な揺れが画像上で位置ずれとして現れやすくなります。
対策としては、カメラをできるだけ短い支持構造で固定し、片持ちを避け、振動しにくい架台に取り付けることが基本です。調整機構を設ける場合でも、調整後に確実に固定できる構造にします。角度調整や高さ調整がしやすいことは立ち上げ時には便利ですが、量産中に動いてしまう構造では検査の安定性を損ないます。調整しやすさと固定剛性の両立が重要です。
また、搬送機本体とカメラ架台を一体化するか分離するかは、振動の伝わり方を見て判断する必要があります。搬送機の振動が大きい場合、カメラを搬送機に直接固定すると、その振動を拾ってしまいます。一方で、搬送機とカメラ架台が別々に揺れると、相対位置が不安定になることもあります。単に分離すればよい、単に一体化すればよいという話ではなく、どちらが相対揺れを小さくできるかを現場で確認することが大切です。
床からの振動も見逃せません。架台が軽すぎる、脚部が不安定、レベル調整が不十分、アンカー固定が弱いと、設備全体が振動しやすくなります。必要に応じて架台の重量や剛性を高め、床との接地状態を安定させます。防振部材を使う場合は、対象となる振動周波数と設備重量に合っているかを確認する必要があります。合わない防振対策は、かえって揺れを増幅することがあります。
赤外線外観検査では、カメラだけでなく加熱部や照明部の位置安定性も重要です。加熱位置がずれると温度分布が変わり、照明位置がずれると反射や背景条件が変わります。カメラ固定だけを強化しても、加熱や照明が揺れていれば画像は安定しません。検査に関わる要素を同じ基準で固定し、量産中に相対位置が変わりにくい構造を目指すことが必要です。
対策4 照明・加熱条件と撮像条件を最適化して揺れの影響を受けにくくする
搬送中の揺れを完全になくすことは現実的には難しいため、撮像条件を揺れに強くすることも重要です。赤外線外観検査では、カメラの露光時間や積分時間、フレーム取得条件、検査距離、視野、焦点、加熱条件、背景条件が画像の安定性に関係します。方式によっては赤外線照明や外部加熱源の条件も確認対象になります。
まず確認したいのは、露光時間や画像取得時間です。搬送速度が速い状態で露光時間や積分時間が長いと、ワークが移動している間に画像が取得され、ぶれが発生しやすくなります。可視光検査でいうモーションブラーに近い現象ですが、赤外線外観検査では温度分布の境界がぼやけることで、欠陥部のコントラストが低下する場合があります。欠陥の輪郭が曖昧になると、面積、長さ、濃淡差などの特徴量が安定しません。
露光時間や積分時間を短くすればぶれは抑えやすくなりますが、その分だけ信号量が減り、画像ノイズが増えることがあります。赤外線画像は微小な温度差を扱うことがあるため、単純に取得時間を短くすればよいとは限りません。必要な信号量を確保しながら、搬送速度に対して十分短い撮像条件を探ることが大切です。
視野と分解能の設計も重要です。検査対象を画面いっぱいに拡大すると、細かな欠陥を捉えやすくなる一方で、わずかな揺れでも画面上の移動量が大きくなります。逆に視野を広げると揺れには強くなりますが、小さな欠陥の検出力が落ちる場合があります。必要な欠陥サイズ、検査精度、搬送ばらつきを踏まえ、過度に狭い視野にしないことが安定化につながります。
被写界深度も見直すべき要素です。ワークが上下に揺れる場合、被写界深度が浅いと画像の鮮明さが変化します。赤外線外観検査では、見たい温度差や輪郭がわずかな場合、ピントの変化が判定結果に影響します。検査距離、レンズ条件、絞り条件を調整し、想定される上下方向のばらつきに対して十分な許容範囲を持たせることが望まれます。
加熱を伴う赤外線外観検査では、加熱条件の安定も欠かせません。熱を与えてから赤外線画像を撮る方式では、加熱量、加熱位置、加熱時間、撮像までの時間が変わると温度分布が変化します。搬送中にワークが揺れて加熱位置がずれると、欠陥ではない温度ムラが発生することがあります。加熱部と撮像部の間に適切な距離を設け、温度分布が検査に適した状態になるタイミングで撮像することが大切です。
背景条件にも注意が必要です。赤外線カメラは対象物からの放射に加えて、条件によっては周囲環境の反射成分も画像に含むため、背景温度や反射の影響を受ける場合があります。ワークが揺れて角度が変わると、背景の映り込み方が変化し、画像上の濃淡がばらつくことがあります。背景材の温度を安定させる、不要な熱源を視野から外す、反射しやすい部材を避けるなど、撮像環境を整えることも揺れ対策の一部です。
対策5 トリガー位置と検査タイミングを合わせてぶれを抑える
搬送中の赤外線外観検査では、いつ撮像するかが非常に重要です。ワークが検査位置に到達した瞬間を安定して捉えられなければ、機械やカメラを整えても、画像の位置がばらつきます。トリガー位置と検査タイミングのずれは、搬送揺れと同じように見えることがあるため、早い段階で確認したい項目です。
トリガーの基本は、ワークの位置を安定して検出し、カメラの撮像タイミングに正しく反映することです。検出用センサーの位置が遠すぎると、トリガー後に搬送速度のわずかな変動が入り、撮像位置がずれやすくなります。センサーから検査位置までの距離が長いほど、速度変動やワークの滑りの影響を受けやすくなります。可能であれば、検査位置に近い場所で安定してトリガーを取る設計が望まれます。
ただし、赤外線外観検査ではカメラや画像取得装置に応答時間があります。トリガー信号が入ってから実際に画像が取得されるまでの遅れ、画像を取り込むタイミング、搬送制御との同期状態を確認する必要があります。設定上は同じタイミングに見えても、実際には数ミリ分の搬送移動が発生していることがあります。搬送速度が速いラインでは、この小さな遅れが無視できない場合があります。
トリガー位置のばらつきは、ワーク形状にも左右されます。先端形状が不安定なワーク、透明部材や反射部材、表面色や温度がばらつくワークでは、検出センサーが毎回同じ位置を捉えられない場合があります。赤外線外観検査の前段で使うトリガーは、検査対象の特徴に依存しすぎない方法を選ぶことが大切です。ワーク端面、治具位置、パレット位置など、安定して検出できる基準を利用すると再現性が高まります。
また、撮像タイミングは揺れが少ない瞬間に合わせることも有効です。搬送中に常に揺れているように見えても、実際には受け渡し直後、加減速直後、段差通過直後に揺れが大きく、その後に収束する場合があります。検査位置を少し後ろにずらす、トリガー後の遅延時間を調整する、整流区間を設けるといった工夫で、ワークの姿勢が落ち着いたタイミングを狙えます。
加熱を伴う検査では、トリガーは位置だけでなく熱の時間管理にも関係します。加熱してから撮像するまでの時間がばらつくと、温度分布が変わります。搬送速度の変動があるラインでは、加熱位置から撮像位置までの到達時間が変わり、同じ欠陥でも見え方が変化します。位置同期だけではなく、加熱から撮像までの時間を安定させる考え方が必要です。
対策6 画像処理と判定ロジックで残る揺れを吸収する
機械、保持、架台、撮像、トリガーを見直しても、量産ラインでは微小な揺れや位置ずれが残ります。その残差を吸収するのが画像処理と判定ロジックです。ただし、画像処理は大きな揺れを無理に隠すための手段ではなく、現実的な量産ばらつきを前提に検査を安定させるための設計要素として考える必要があります。
まず有効なのは、検査領域の位置補正です。ワークが画面内で毎回少しずれる場合、固定座標で検査すると正常部を異常として見たり、欠陥部を見逃したりします。ワークの輪郭、基準穴、端面、特徴的な温度パターンなどを基準にして、検査領域を追従させることで、位置ずれの影響を減らせます。赤外線画像だけでは基準が取りにくい場合は、別の撮像情報や搬送治具の位置情報を併用する設計も考えられます。
次に、判定に使う特徴量を揺れに強いものにすることが大切です。単一画素の温度換算値や狭い範囲の最大値だけに依存すると、微小な位置ずれやノイズの影響を受けやすくなります。一定領域内の平均、周辺との差分、領域全体の分布、連続性、面積、形状などを組み合わせることで、判定が安定しやすくなります。欠陥の種類によっては、絶対的な温度換算値よりも周囲との相対差を見たほうが、搬送条件や環境温度の影響を受けにくい場合があります。
しきい値設定も重要です。立ち上げ時の少数サンプルだけでしきい値を決めると、量産中の揺れや温度変動に対応できないことがあります。正常品のばらつき、不良品の見え方、搬送速度の変動、ワーク姿勢の変化を含めて評価し、過検出と見逃しのバランスを取る必要があります。赤外線外観検査では、日内の温度変化や設備の暖まり具合も画像に影響するため、しきい値には適切な余裕を持たせることが望まれます。
画像の前処理も有効です。ノイズ低減、背景補正、温度ムラ補正、コントラスト強調、平滑化などを適切に使うことで、揺れによる微小なばらつきを抑えられる場合があります。ただし、前処理を強くしすぎると、本来検出したい小さな欠陥まで目立ちにくくなることがあります。画像をきれいにすることが目的ではなく、検査したい欠陥を安定して分離することが目的です。処理前後で欠陥の見え方がどう変わるかを確認しながら設定します。
判定ロジックでは、瞬間的な異常値に過敏にならない工夫も必要です。搬送中の揺れにより一部のフレームだけ値が乱れる場合、単発のピークで判定するよりも、位置補正後の領域全体で整合性を見るほうが安定します。連続ラインで複数画像を取得できる場合は、複数フレームの情報を使って判定を安定化する方法もあります。ただし、処理時間が長くなるとライン速度に影響するため、検査タクトとのバランスを取る必要があります。
画像処理で最も避けたいのは、機械的な大きな揺れを無理に補正しようとすることです。補正量が大きいほど、基準検出に失敗したときの影響も大きくなります。画像処理は、機械的に抑えきれない小さなばらつきを扱うために使うのが基本です。搬送中の揺れが大きい場合は、まず機械側で揺れを減らし、そのうえで画像処理の許容範囲に収めることが安定運用への近道です。
揺れ対策を進めるときの評価手順
搬送中の揺れ対策は、思いついた箇所から個別に改善すると、効果が見えにくくなることがあります。対策前後の比較条件がそろっていないと、実際に揺れが減ったのか、たまたまワーク状態が良かったのか判断できません。赤外線外観検査を安定化するには、評価手順を決めてから改善を進めることが重要です。
最初に行うべきことは、揺れの症状を画像として記録することです。良品、不良品、過検出品、見逃しが疑われる品をそれぞれ撮像し、どの位置でどのようにずれているのかを確認します。可能であれば、同じワークを繰り返し流し、画像上の位置、角度、温度換算値、欠陥候補領域の変化を比較します。これにより、ワークごとの個体差なのか、搬送中の位置ずれなのか、撮像条件によるばらつきなのかを切り分けやすくなります。
次に、揺れの方向を確認します。上下方向の揺れなのか、左右方向のずれなのか、搬送方向の位置ずれなのか、回転なのかによって対策は変わります。上下方向であれば搬送面、保持、被写界深度が重要になります。左右方向であればガイド、蛇行、ワーク供給姿勢を確認します。搬送方向であればトリガー、速度変動、撮像遅れが疑われます。回転がある場合は、ワークの当たり面や位置決め基準を見直す必要があります。
その後、対策を一つずつ実施します。複数の対策を同時に入れると、どれが効いたのか分からなくなります。まず搬送速度や加減速条件を調整し、次にガイドや保持を見直し、さらにカメラ固定や撮像条件を調整するなど、段階的に効果を確認します。量産ラインでは停止時間を最小限にしたい事情がありますが、根拠のない変更を重ねると、後から再現しにくい条件になってしまいます。
評価指標も明確にしておきます。画像上の位置ずれ量、検査領域の追従成功率、正常品の判定ばらつき、不良品の検出安定性、過検出率、見逃しリスク、処理時間などを確認します。赤外線外観検査では、単に画像が見やすくなったかどうかではなく、量産判定として安定したかどうかを見る必要があります。現場担当者の目視印象だけに頼らず、数値で比較できる状態にしておくと、関係者間の合意も取りやすくなります。
また、環境変化を含めた確認も欠かせません。設備立ち上げ直後、連続稼働後、室温変化がある時間帯、ワークロットが変わったときなど、赤外線画像の条件は変動します。短時間のテストで安定していても、量産では条件が広がります。搬送中の揺れ対策は、立ち上げ時の一時的な調整ではなく、量産中の変動に耐える設計として検証することが重要です。
赤外線外観検査の安定化はライン全体で設計する
赤外線外観検査で搬送中の揺れを抑えるには、カメラ性能や画像処理だけに頼らず、ライン全体を見て対策することが重要です。搬送系の振動源を減らし、ガイドと保持方法でワークの姿勢を整え、架台とカメラ固定を高剛性化し、撮像条件とトリガータイミングを最適化し、最後に画像処理で残るばらつきを吸収する。この流れで考えると、過剰な設備改造を避けながら、実際に効果のある改善に近づけます。
赤外線外観検査は、可視光検査では見えにくい情報を得られる一方で、温度、放射率、反射、搬送状態、周囲環境の影響を受けます。そのため、搬送中の揺れを単なる機械振動として扱うのではなく、画像上の見え方と判定結果にどのように影響しているかを結び付けて考える必要があります。現場で起きている過検出や見逃しの背景を丁寧に分解すれば、対策すべき箇所を見つけやすくなります。
特に量産ラインでは、検査精度だけでなく、タクト、保守性、品種切り替え、作業者の調整負荷も重要です。揺れ対策を行う際は、ある条件だけで成り立つ繊細な設定ではなく、日々の運用で再現しやすい仕組みにすることが求められます。機械的に安定した搬送、再現性のある撮像、余裕を持った判定ロジックを組み合わせることで、赤外線外観検査はより信頼性の高い品質管理手段になります。
搬送中の揺れに悩んでいる場合は、まず現状の画像、搬送状態、検査条件を整理し、どこで相対位置が乱れているのかを確認することから始めるのが有効です。小さな揺れでも、赤外線画像では大きな判定差になることがあります。反対に、原因を正しく切り分ければ、カメラ交換や大規模改造をしなくても改善できる場合があります。
赤外線外観検査の導入や既存ラインの安定化で、搬送中の揺れ、画像ぶれ、判定ばらつきに課題がある場合は、現場条件に合わせた見直しが必要です。検査対象、搬送方式、必要な欠陥検出レベル、設置スペースを踏まえて、最適な対策を検討することが安定稼働への近道です。詳しい相談や具体的な検討を進めたい場合は、お問い合わせフォームなどからご相談ください。