集合住宅、オフィスビル、商業施設、医療施設などの共用部では、外壁や付属物の一部が落下すると、通行人や利用者に重大な被害を与えるおそれがあります。とくに、エントランス、共用廊下、外階段、駐輪場、車寄せ、搬入口、敷地内通路の上部は、人が日常的に滞在または通行するため、外壁検査で優先的に確認したい場所です。
外壁の劣化は、表面に現れたひび割れや浮きだけで判断できるとは限りません。目地の破断、金物の腐食、固定部の緩み、雨水の浸入を疑う痕跡など、複数の兆候を組み合わせて確認する必要があります。また、地上からの目視だけでは把握しにくい異常もあるため、建物の高さ、外装材の種類、過去の補修履歴、周辺の通行状況を踏まえて検査方法を計画することが大切です。
この記事では、外壁検査で共用部の落下リスクを減らすために確認したい7点を、実務担当者向けに整理します。日常点検から専門調査へのつなぎ方、異常を発見した後の対応、記録の残し方まで含めて解説します。なお、法定の定期調査に該当する建物や対象範囲、調査方法、報告時期は、建物の用途や規模、所在地の自治体、外装材、改修履歴などによって異なります。本記事は一般的な維持管理の考え方を示すものであり、法定調査や有資格者による判定の代わりになるものではありません。
共用部の落下リスクを外壁検査で確認する重要性
共用部は、居住者、従業員、来訪者、配送員など、多くの人が利用する可能性がある場所です。外壁の一部や付属物が落下した場合、安全上の問題となるだけでなく、通行制限、施設利用の停止、緊急補修など、建物運営にも大きな影響が生じます。そのため、外壁検査では劣化の有無だけでなく、異常箇所の直下を誰がどの程度利用しているかを考慮する必要があります。
同じ大きさのひび割れや浮きであっても、通常は人が立ち入らない場所の上部にある場合と、毎日多くの人が通るエントランスの上部にある場合では、対応の優先度が異なります。外壁検査の実務では、劣化の程度と、落下や飛散が生じた場合の影響を組み合わせて評価することが重要です。
共用部の外壁検査を始める際は、まず人の動線を把握します。エントランスからエレベーターホールまでの経路、外階段、共用廊下、駐輪場、ゴミ置場、車路、荷さばきスペースなどを確認し、その上部にどのような外装材や付属物があるかを整理します。人が滞在するベンチ、受付前、待合スペースなども、通過するだけの場所とは異なる視点で確認します。
外壁の劣化は、降雨、温度変化、風、振動、材料の動きなどの影響を受けます。庇の先端、建物の角部、屋上やバルコニーの端部、目地の交差部、異なる材料が接する部分は、変形や水の影響が集中する場合があります。過去に補修された箇所についても、補修材と既存部分の境界に新たなひび割れや隙間が生じていないかを確認します。
落下リスクを減らすためには、異常が大きくなってから一度だけ検査するのではなく、小さな変化を継続的に把握することが有効です。前回の写真や図面と比較できれば、ひび割れが伸びているか、錆汁の範囲が広がっているか、部材の傾きや隙間が変化しているかを判断しやすくなります。
確認1 外壁タイルの浮き・ひび割れ・欠損
外壁タイルは建物の外装仕上げとして広く使われていますが、タイルや張付け材、下地の状態によっては、浮きや剥離が生じることがあります。タイル表面がきれいに見えていても、内部の接着状態までは外観だけで把握できないため、目視だけで安全性を断定しないことが重要です。
共用部では、エントランス上部、外階段まわり、共用廊下の外側、駐輪場の上部、建物際の通路沿いを優先して確認します。目視では、タイル自体のひび割れ、角部の欠け、目地の割れ、部分的な変色、膨らみを疑う外観、周囲との段差などを探します。一枚だけに異常があるように見えても、周辺に同様の劣化が広がっている場合があるため、異常箇所だけを狭く見ないことが大切です。
タイルのひび割れが縦方向や横方向に連続している場合は、タイル単体の損傷だけでなく、下地や躯体の動きが影響している可能性も考えます。また、目地をまたいでひび割れが続いている場合や、開口部の隅から斜め方向に伸びている場合は、周辺を含む広い範囲の状態を確認します。
白い析出物や茶色い錆汁が見られる箇所も記録します。白い析出物は、水分の移動に伴って生じることがありますが、外観だけで発生原因や内部の状態を確定することはできません。錆汁についても、周辺または内部の金属が腐食している可能性を示す兆候として扱い、発生位置と水の流れを合わせて確認します。
タイルの浮きが疑われる場合は、必要に応じて専門者が打診などの方法で範囲を確認します。打診結果は、仕上げや下地の構成、使用器具、周辺騒音、検査条件などの影響を受けるため、音の違いだけで直ちに落下すると決めつけることはできません。目視結果、調査結果、位置、高さ、直下の利用状況などを合わせて評価します。
高所や人通りの多い場所で浮きが疑われる場合は、詳細調査の完了まで無条件に放置せず、直下の利用状況を踏まえて立入範囲や通行方法を見直します。落下のおそれを否定できない場所では、応急的な安全対策と専門調査を並行して検討することが重要です。
確認2 モルタルやコンクリート表面の剥離兆候
モルタル仕上げやコンクリート打放し部分では、ひび割れ、浮き、剥離、欠損、鉄筋腐食に伴う劣化の兆候などを確認します。表面の小さなひび割れが直ちに落下につながるとは限りませんが、水分が内部へ浸入する経路になると、時間の経過とともに劣化が進む場合があります。
共用部で注意したいのは、庇の先端、バルコニーや共用廊下の鼻先、外階段の裏側、梁型、柱の角、開口部の上部です。これらは人の頭上に位置することが多く、欠片が落下した場合の影響が大きくなります。
目視では、表面が盛り上がっている部分、周囲と色調が異なる部分、ひび割れに沿った錆汁、欠損して内部が見えている部分を確認します。塗装面に膨れがある場合、塗膜だけの劣化なのか、下地モルタルやコンクリートの劣化を伴っているのかを外観だけで断定しないことが大切です。必要に応じて、安全な方法による近接確認や専門者の調査へつなげます。
コンクリート内部の鉄筋が腐食すると、腐食生成物の膨張によって周囲のコンクリートにひび割れや剥離が生じることがあります。ひび割れに沿って茶色い跡が見える場合や、表面が層状に浮いているように見える場合は、落下可能性を含めて慎重に扱います。
一方で、表面の色むらや汚れがすべて剥離兆候とは限りません。雨だれ、排気、藻類、過去の補修跡などでも外観は変化します。そのため、異常を発見した際は、位置、形状、範囲、ひび割れの方向、周辺の水掛かりを整理し、単一の外観情報だけで判断しないことが大切です。
過去に断面修復などの補修を行った箇所では、既存部分との境界を確認します。補修部分の周囲に細いひび割れが発生している場合や、補修材の一部に浮きが疑われる場合は、再劣化の可能性があります。補修済みという理由だけで確認対象から外さず、前回の施工範囲と現在の状態を比較します。
確認3 目地とシーリング材の劣化
外壁の目地やシーリング材は、部材間の動きに追従し、所定の納まりの中で雨水の浸入を抑える役割を担います。シーリング材に破断、剥離、硬化、欠損などが生じると、外壁内部への水分浸入に関係し、タイルやモルタルの劣化、金属固定部の腐食などを進める要因になる場合があります。
確認する際は、シーリング材の表面だけでなく、両側の外壁材との接着部分を見ます。中央部の破断、端部が外壁材から離れている剥離、表面の細かな割れ、著しい痩せ、欠損などを記録します。ただし、外観だけで残存性能や漏水原因を確定することはできません。
窓や扉の周囲、換気口まわり、外壁材の縦目地と横目地、庇と外壁の取り合い、手すり支柱の根元などは、水の影響を受けやすい場所です。共用廊下や外階段では、室内側に雨染みが出ていなくても、外壁内部や部材の取り合いで水分が移動している可能性があります。
目地の交差部や端部は、シーリング材の変形が複雑になりやすいため、直線部分と分けて確認します。また、異なる材料が接する箇所は、温度変化による伸縮差などによって隙間や割れが生じる場合があります。
シーリング材の劣化自体が、そのまま部材の落下を意味するわけではありません。しかし、水分の浸入が続けば、接着層、下地、金属固定部などの劣化に関係する可能性があります。そのため、外壁検査ではシーリング材を防水上の問題だけとして扱わず、周辺部材の状態を確認する手掛かりとして扱います。
部分的に新しいシーリング材へ改修されている場合は、施工範囲の端部も見ます。新旧部分の境界、施工されていない短い区間、角部の納まりなどに隙間が残っていないかを確認します。過去の補修記録があれば、施工時期や対象範囲と照合することで、変化を把握しやすくなります。
確認4 手すり・笠木・水切りなど金属部材の固定状態
共用廊下や外階段、屋上、バルコニーまわりには、手すり、笠木、水切り、見切り材などの金属部材が設置されています。これらは外壁仕上げとは別の部材ですが、外壁や躯体に固定されていることが多く、固定部の腐食、緩み、下地の劣化などが落下や脱落のリスクにつながる場合があります。
手すりでは、支柱の根元、壁面への取付部、継ぎ目、端部を確認します。通常の使用時に明らかなぐらつきや異音が認められる場合は、固定部に異常が生じている可能性があります。ただし、点検者が安全を確認しないまま意図的に強く揺らしたり、体重をかけたりして確認することは避けます。外観や通常使用の範囲で異常が疑われた場合は、使用制限を含む安全措置を検討し、専門的な確認へつなげます。
支柱根元に錆汁がある場合や、周囲のシーリング材が切れている場合は、水分が固定部へ浸入している可能性があります。表面の錆だけでなく、根元周囲の膨れ、ひび割れ、隙間、変色を合わせて確認します。
笠木は、パラペットや立上り部分の上端を覆う部材です。継ぎ目の浮き、端部の開き、固定部の緩み、変形、不自然な段差がないかを見ます。風の影響を受けやすい場所では、小さな緩みが繰り返し動くことで拡大する可能性があるため、周辺を含めて記録します。
水切りや見切り材では、端部が外側へ反っていないか、ビスや固定部に欠落や浮きがないか、部材に不自然な振動や変形がないかを確認します。薄い金属部材は軽量でも鋭い端部を持つことがあり、落下や飛散によって危険が生じる場合があります。
異種金属が接する箇所では、材料の組合せや水分の存在などの条件によって腐食が進みやすくなる場合があります。塗膜の剥がれ、点状の錆、穴あき、断面の減少が見られる場合は、表面処理で対応できる状態か、部材交換や固定方法の見直しが必要かを専門者が判断できるよう記録します。
確認5 軒裏・庇・共用廊下天井の劣化
軒裏、庇の下面、共用廊下天井、車寄せ天井などは、利用者の頭上に位置するため、落下リスクを確認するうえで重要な範囲です。外壁検査という名称から垂直面だけを確認しがちですが、外壁と連続する水平面や下面も、建物の安全管理上の確認範囲として整理する必要があります。
目視では、天井材のたわみ、継ぎ目の開き、固定部の浮き、表面の膨れ、雨染み、錆汁、欠けを確認します。天井板の一部が周囲より下がっている場合や、継ぎ目に段差が生じている場合は、内部の下地や固定部に異常がないかを専門的に確認します。
庇では、先端部と外壁との取り合いを重点的に確認します。上面の防水や排水に不具合があると、内部へ水が入り、下面に染みや剥離が現れる場合があります。庇の先端に連続したひび割れや錆汁が見られる場合は、コンクリートやモルタルの剥離だけでなく、内部または周辺の金属部分の腐食も可能性の一つとして考えます。
共用廊下天井に点検口や設備開口がある場合は、その周囲も確認します。開口部では天井材や下地の納まりが変わるため、隙間やたわみが生じていないかを見ます。換気口、配管貫通部、照明器具の周囲に水染みが集中している場合は、上階床、外壁、設備配管など複数の経路を候補として原因調査へつなげます。
塗膜の剥がれだけに見える場合でも、下地の状態までは外観だけで判断できません。表面の塗膜だけの劣化なのか、下地材を含む浮きや脆弱化なのかによって対応は異なります。頭上部分では、小さな剥離でも利用者に当たる可能性があるため、位置と落下した場合の影響を重視して評価します。
天井内に設備や配管がある場合は、外観検査だけで全体の状態を把握できないことがあります。点検口から安全に確認できる範囲、過去の漏水記録、上階の排水経路、設備の修繕履歴などを組み合わせて、劣化原因を整理します。
確認6 雨樋・配管・配線支持金具の緩み
外壁には、雨樋、排水管、給排気用の配管、電気配線、通信線などが取り付けられています。これらを支持するバンドや金具が緩むと、部材が振動したり、外壁から離れたりすることがあります。管や配線そのものが健全に見えても、支持金具、固定ビス、固定先の下地の劣化によって落下や脱落のリスクが高まる場合があります。
確認時は、支持金具の配置だけでなく、それぞれの固定状態を見ます。バンドが変形していないか、ビスに浮きや欠落がないか、固定部周辺の外壁にひび割れがないか、錆汁が流れていないかを確認します。設計上必要な支持間隔や固定方法の適否は、設備の種類や仕様によって異なるため、外観だけで一律に判定しません。
配管が途中で不自然に曲がっている場合や、壁面から離れている場合は、支持金具の緩み、配管の変形、取付位置のずれなどを疑います。風が強い日に部材が揺れている場合、通常時の目視では異常が分かりにくいこともあります。居住者や施設利用者から異音の申告があった場所は、発生した天候や時間帯などを聞き取り、点検範囲を絞り込みます。
雨樋では、継ぎ目の外れ、縦樋のずれ、集水器の傾き、支持金具の腐食などを確認します。詰まりによって雨水があふれると、外壁へ継続的に水が掛かり、周辺の仕上げや固定部の劣化に関係する場合があります。雨樋の異常は、樋自体の落下だけでなく、周辺外壁への水掛かりを増やす要因としても扱います。
外壁を貫通する配管や配線の周囲では、隙間やシーリング材の破断を確認します。貫通部から水が入ると、固定ビス周辺や内部下地の劣化につながる可能性があります。配管の支持状態と貫通部の防水状態を別々に扱うだけでなく、周辺外壁を含めて確認することが大切です。
使用されていない古い配線や金具が残されている場合も注意します。設備が撤去されても、支持金具や固定ビスだけが外壁に残っていることがあります。不要部材は管理対象から外れやすく、腐食や緩みが進んでも発見が遅れる可能性があります。現役設備だけでなく、残置物も確認対象に含めます。
確認7 看板・照明・換気口など外壁付属物の固定状態
建物名称を示す看板、案内板、照明器具、換気口カバー、防鳥部材、装飾材など、外壁にはさまざまな付属物があります。これらは後から追加されることも多く、建設時とは異なる時期や方法で固定されている場合があります。
看板では、本体の変形、傾き、固定金具の腐食、ボルトの緩みを疑う外観、外壁との隙間を確認します。大きな看板だけでなく、室名表示、誘導表示、注意表示などの小さな板も対象です。軽量な部材でも、風で飛散すると人に当たる危険があります。
照明器具では、器具本体の傾き、カバーの割れ、固定ビスの欠落、取付部周辺の錆やひび割れを確認します。配線が露出して垂れ下がっている場合や、器具と外壁の間に隙間がある場合は、固定状態、防水状態、電気的な安全性をそれぞれの専門分野で確認する必要があります。点検者が通電部や破損器具へ不用意に触れないことも重要です。
換気口やベントキャップでは、外周部の隙間、カバーの変形、ビスの浮きや欠落、錆、周囲の汚れを確認します。換気による排気汚れと、雨水浸入による変色は外観が似る場合があるため、汚れの方向や広がり方、降雨との関係も記録します。
防鳥用のネットやワイヤーなどが設置されている場合は、固定端部、たるみ、破断、部材の垂れ下がりを確認します。外れた部材が通行者へ接触したり、他の設備へ絡んだりする可能性があります。また、後付け部材の固定位置や固定方法が適切かどうかは、外壁材や下地の構成を確認したうえで判断する必要があります。
外壁付属物の検査では、部材単体だけでなく、固定されている外壁側も確認します。金具が健全に見えても、周囲のタイル、モルタル、下地などに浮きや劣化があれば、固定先を含めて脱落する可能性があります。付属物、固定金具、固定先の下地を一つの系統として評価することが重要です。
共用部を見落とさない外壁検査の進め方
共用部の外壁検査は、建物全体を漫然と見回るのではなく、範囲と順序を決めて実施します。最初に建物の平面図や立面図、設備図、過去の調査記録などを確認し、人が通る場所、滞在する場所、車両が停車する場所を図上で整理します。その後、現地で実際の利用状況を確認し、図面と異なる動線がないかを把握します。
施設の運用変更によって、以前は人が通らなかった場所が主要動線になっていることがあります。駐輪場の移設、受付位置の変更、待機場所の設置、通用口の常用化などがあると、落下時の影響度も変わります。外壁検査では、建物完成時の用途だけでなく、現在の使われ方を基準に評価します。
次に、上部にある外装材や付属物を分類します。タイル、モルタル、コンクリート、金属パネル、天井材、手すり、配管、照明、看板など、対象を分けることで確認漏れを減らせます。高所部分を確認するときは、双眼鏡や撮影機器などを補助的に利用できますが、遠方からの画像だけで固定部や内部の状態を断定することはできません。
目視で異常が疑われた場所は、近接確認、打診、赤外線装置を用いる方法など、対象部位と目的に適した追加調査を検討します。法定調査として採用できる方法や精度要件は、関係法令、告示、自治体の運用などを確認する必要があります。高所作業を伴う場合は、墜落や物体落下を防ぐための作業計画を立て、利用者がいる状態で無理に調査を進めないことが重要です。
検査の順序は、人通りの多い場所、滞在時間の長い場所、過去に異常が確認された場所などを優先します。エントランス、車寄せ、主要通路、外階段、駐輪場などを先に確認し、その後に利用頻度の低い場所へ進むと、安全上の優先順位を反映しやすくなります。
天候も検査結果と作業安全に影響します。強風、降雨、降雪、凍結などの条件では、高所作業や部材への接触を避ける必要があります。一方で、降雨後に水染みや変色が現れ、晴天時には分かりにくい異常を把握できる場合もあります。異なる天候時の記録を比較すると、水の流れや発生条件を整理しやすくなります。
異常を発見した直後に行う安全確保
外壁検査で落下のおそれが疑われる異常を発見した場合は、詳細な原因究明より先に、直下と周辺の安全を確保します。異常箇所の真下だけでなく、部材が風や接触によって斜め方向へ落下または飛散する可能性も考慮し、建物管理者と専門者が必要な規制範囲を検討します。
立入制限を行う場合は、簡易な表示だけで終わらせず、利用者が誤って入らない方法を選びます。迂回経路が分かりにくいと規制範囲を通り抜ける人が出るため、代替動線の案内も必要です。建物管理者、警備担当者、施設運営者などの間で、規制理由、連絡体制、解除条件を共有します。
剥がれかけた部材を、専門知識や安全設備のない現場担当者が無理に取り除くことは避けます。高所の部材に触れると、想定外の範囲まで剥離したり、破片が飛散したりする可能性があります。応急撤去、落下防止措置、養生などが必要な場合は、対象部材と作業条件に応じた方法を選び、安全を確保できる体制で実施します。
異常箇所は、位置が分かる遠景写真と、状態が分かる近景写真を撮影します。撮影時刻、天候、発見者、規制範囲、実施した応急対応を記録すると、後の判断や引き継ぎに役立ちます。ただし、撮影のために危険区域へ入ったり、頭上の異常部へ近づいたりしないことが前提です。
緊急性の評価では、部材の大きさだけで判断しないことが重要です。小さな欠片でも高所から落下すれば危険になり得ます。また、軽い金属板やカバーは風で広い範囲へ飛散する可能性があります。部材の重量、形状、高さ、固定状態、直下の利用頻度、風の影響などを総合して対応を決めます。
補修判断につながる記録の残し方
外壁検査の記録は、異常があったことを示すだけでなく、追加調査、応急措置、補修範囲、優先順位を決める資料として残す必要があります。写真だけを大量に保存しても、撮影位置や対象が分からなければ比較に使いにくくなります。
記録には、建物名、面の方位、階数、通り番号、部位、異常の種類、範囲、直下の用途を含めます。たとえば、単にタイルひび割れと書くのではなく、南面三階共用廊下入口上部、縦方向に連続、直下は主要通路というように、位置と影響が分かる形にします。
写真は、建物全体の中で位置を示す遠景、周辺との関係を示す中景、劣化状態を示す近景をそろえると整理しやすくなります。大きさを示す必要がある場合は、安全を確保したうえでスケールが分かる方法を用います。画像の拡大率や撮影距離が異なると見え方が変わるため、比較条件もできる範囲でそろえます。
前回検査と比較できるように、可能な範囲で同じ方向と距離から撮影します。ひび割れの長さ、錆汁の広がり、部材の傾き、隙間などを継続して記録すれば、変化の有無を判断しやすくなります。ただし、写真だけで安全性や進行性を確定せず、必要に応じて専門調査の結果と合わせます。
補修履歴についても、施工年月、対象範囲、使用材料の種類、工法、施工者、施工後の確認結果などを可能な範囲で残します。どのような目的で、どの部分へ、どの範囲の補修を行ったかが分かる記録にすると、将来の担当者が再劣化や追加補修を判断しやすくなります。
検査結果は、異常なしと確認できなかったを区別します。高所、障害物、植栽、設備、立入制限などの影響で確認できない部分を異常なしとして扱うと、未確認範囲が見えなくなります。確認できなかった理由と、追加確認の必要性を明記することが重要です。
外壁検査を継続的な維持管理につなげる方法
落下リスクを減らすには、外壁検査を一度実施して終えるのではなく、日常管理、定期的な点検、詳細調査、補修、補修後確認をつなげる必要があります。日常管理では、管理員、清掃担当者、警備担当者などが発見した変化を報告できる仕組みを整えます。
床に小さな破片が落ちていた、強風時に金属音がした、雨の後だけ天井に染みが出るといった情報は、外壁や付属物の異常を早期に発見する手掛かりになります。報告を受けた際は、破片を廃棄して終わらせず、安全を確保したうえで材質、落下位置、発見時刻、天候、上部の状態を確認します。
定期的な検査では、前回指摘箇所の変化を優先して見ます。経過観察とした箇所がその後どうなったかを確認しないと、記録を維持管理へ生かせません。経過観察には、次回確認時期と、どのような変化があれば対応を早めるかという条件を設定します。
補修後も、施工した部分だけを確認するのではなく、周囲への影響を見ます。部分補修後に新旧部分の境界へひび割れや隙間が生じる場合もあるため、補修直後の状態を記録し、その後の比較基準にすることが大切です。
建物の改修計画を立てる際は、外観の美観だけでなく、共用部の安全性を優先順位に反映します。落下時の影響が大きい場所、劣化の進行が疑われる場所、過去に繰り返し補修している場所を整理することで、調査や改修の順番を決めやすくなります。
外壁検査の結果を図面上で管理すると、異常の分布や集中箇所を把握しやすくなります。毎回できるだけ同じ形式で記録し、写真と位置情報を関連付けることで、担当者が変わっても検査履歴を引き継ぎやすくなります。
現地での記録作業には、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、図面管理システムなどの汎用的な記録手段を活用できます。異常箇所の写真、位置、部位名、状況、対応内容をその場で関連付ければ、事務所へ戻ってから写真の場所が分からなくなる事態を減らせます。外壁検査を単発の確認で終わらせず、共用部の安全管理へつなげるには、再確認できる形で記録し、次回の比較に使える情報を蓄積することが重要です。
まとめ
共用部の落下リスクを減らす外壁検査では、タイルやモルタルなどの外壁仕上げだけでなく、シーリング材、金属部材、庇や天井、配管支持金具、看板や照明などの付属物まで、建物の状況に応じて確認する必要があります。
とくに重要なのは、劣化の大きさだけでなく、異常箇所の直下を誰がどのように利用しているかを考えることです。エントランス、共用廊下、外階段、駐輪場、車寄せなど、人が日常的に利用する場所では、小さな異常でも優先的な確認が必要になる場合があります。
目視で浮きや緩みが疑われる場合は、外観だけで安全と判断せず、必要に応じて専門者による近接確認や詳細調査へつなげます。落下のおそれを否定できないときは、原因調査の完了を待つ前に立入制限などの安全対策を検討することが大切です。
外壁検査の価値は、異常を発見することだけではありません。位置、状態、範囲、直下の利用状況、確認できなかった範囲を記録し、過去の写真や補修履歴と比較することで、劣化の変化や補修の優先順位を判断しやすくなります。
現場で撮影した写真、位置情報、確認結果を汎用的な記録ツールで整理し、継続的な履歴として残すことで、外壁検査を共用部の安全確保と計画的な維持管理につなげられます。