施工中の通行規制をARで説明する意義
道路工事、造成工事、外構工事、建築工事、設備工事などでは、施工中に通行規制が必要になる場面が多くあります。車道の一部を片側交互通行にする場合、歩道を一時的に切り回す場合、搬入車両の進入時間を限定する場合、出入口付近に仮囲いや誘導員を配置する場合など、規制の内容は現場ごとに異なります。通行規制は安全確保に欠かせない一方で、利用者や近隣住民、発注者、協力会社にとっては状況を理解しにくい情報でもあります。
従来の説明では、平面図、工程表、看板、カラーコーン配置図、誘導計画図などがよく使われます。これらは正確な情報を整理するうえで重要ですが、図面に慣れていない人には、実際の道路幅、歩行者の進む方向、車両の待機位置、規制帯の長さ、交差点との距離感が直感的に伝わりにくいことがあります。特に、現地の景色と図面上の線を頭の中で結び付ける作業は、専門知識のない人にとって負担になります。
ARは、現実の映像に仮想の情報を重ねて見せる技術です。施工中の通行規制に使う場合、現地の道路や歩道、建物、仮囲い、既設構造物を見ながら、規制範囲、進入禁止範囲、仮設歩道、車両動線、誘導員の配置、注意箇所などを重ねて確認できます。そのため、紙の図面だけでは伝わりにくい「どこを通れるのか」「どこで止まるのか」「いつ切り替わるのか」「何に注意すべきか」を、現場感のある形で説明しやすくなります。
もちろん、ARを使えば通行規制の安全性が自動的に高まるわけではありません。規制計画そのものは、関係法令、道路管理者や警察との協議、発注者の条件、現場の施工計画、周辺交通量、歩行者や自転車の利用状況などを踏まえて作成する必要があります。ARは、その計画を分かりやすく共有し、現地での認識違いを減らすための補助手段です。特に、施工前説明、朝礼、近隣説明、規制切替前の確認、作業員教育、関係者協議などで役立つ可能性があります。
この記事では、ARで施工中の通行規制を説明する6つの活用法を、実務担当者向けに整理します。単に見栄えの良い表示を作るのではなく、通行者の安全、現場の作業性、関係者への説明、記録の残し方まで含めて、現場で使いやすい考え方を紹介します。
活用法1 規制範囲を現地の景色に重ねて示す
施工中の通行規制を説明するとき、最初に重要になるのは、規制範囲を正しく共有することです。どこからどこまでが通行止めなのか、どこまでが片側交互通行なのか、どの範囲が作業帯なのか、資材置場や重機旋回範囲がどこにあるのかを明確にしなければ、現場の安全管理は成り立ちません。
ARを使うと、現地の道路や歩道に対して、規制帯の外形を視覚的に重ねて表示できます。たとえば、車道上に作業帯の境界を半透明の面として表示し、その外側に通行可能範囲を示すことで、関係者は実際の幅員感を見ながら規制範囲を理解できます。平面図上では十分な幅があるように見えても、現地で見ると電柱、側溝、植栽、看板、既設構造物、駐車車両などが影響し、通行可能な空間が狭く感じられることがあります。ARで重ねて見ることで、図面だけでは見落としやすい圧迫感や死角に気付きやすくなります。
規制範囲を示すときは、単に線を重ねるだけでなく、意味の違いを分かりやすく分けることが大切です。作業員だけが入れる範囲、一般通行者が入ってはいけない範囲、誘導員の指示で一時的に通れる範囲、緊急時に確保すべき退避範囲などは、それぞれ性格が異なります。AR表示でも、色や透過度、ラベル、矢印などを使い分け、見た人が区別できるようにします。ただし、色だけに頼ると、屋外の明るさや端末画面の見え方によって判別しにくくなる場合があります。文字表示や形状の違いも組み合わせると、誤解を減らしやすくなります。
特に有効なのは、規制開始位置と規制終了位置を現地で確認する場面です。通行規制では、看板や予告標識をどの位置に置くか、カラーコーンやバリケードをどこから配置するか、誘導員をどこに立たせるかが重要になります。AR上で開始点と終了点を現地に重ねて確認すれば、図面上の距離と実際の見通しが一致しているかを検討しやすくなります。曲線部、坂道、交差点付近、出入口付近などでは、視認性や安全確保に関する配慮が必要になるため、現地映像に重ねた確認が役立ちます。
また、規制範囲を関係者全員で見ることで、説明の基準をそろえやすくなります。発注者、施工管理者、協力会社、誘導員、近隣対応担当者が、それぞれ違う解釈を持ったまま作業に入ると、当日の配置ミスや説明不足につながります。ARで同じ現地表示を見ながら確認すれば、「この電柱の手前まで」「この出入口は確保する」「この区間は歩行者通路として残す」といった具体的な会話がしやすくなります。
ただし、ARの表示位置には誤差が生じる場合があります。端末の測位状況、現地の電波環境、周囲の構造物、照明条件、利用するデータの精度によって、表示がずれることがあります。そのため、ARの表示は安全施設の設置位置を直接決める唯一の根拠にするのではなく、図面、現地測量、墨出し、関係機関との確認と組み合わせて使うことが重要です。ARは、規制範囲を理解しやすくする説明手段として位置付けると、実務に取り入れやすくなります。
活用法2 歩行者と車両の動線を分けて見せる
通行規制で特に注意が必要なのは、歩行者、自転車、一般車両、工事車両、作業員の動線が交差する場所です。図面上では矢印で整理できていても、現地では視界の悪さ、段差、幅員不足、仮設物の存在、車両の出入り、利用者の動きによって、想定どおりに流れないことがあります。ARは、こうした複数の動線を現地で分けて見せる用途に向いています。
歩行者動線を説明する場合、AR上で仮設歩道や迂回路を実際の地面に沿って表示できます。通行者がどの方向へ進むのか、どこで道路を横断するのか、どこで誘導員の案内を受けるのかを、矢印や進行方向の表示で示します。特に、普段使っている歩道が一時的に使えなくなる現場では、利用者が戸惑いやすくなります。事前説明や掲示用資料の作成時に、ARで見た通行イメージをもとに説明文を整えると、案内の分かりやすさを高められます。
車両動線では、一般車両と工事車両を分けて見せることが重要です。工事車両の搬入経路、待機位置、後退禁止範囲、旋回範囲、出入口の一時停止位置などをARで表示すると、現場に不慣れな運転者や新規入場者にも注意点を伝えやすくなります。特に、狭い道路から現場へ進入する場合や、歩行者通路と近接する出入口では、車両の軌跡と歩行者の通路を同時に確認することで、接触リスクを想定しやすくなります。
通行規制の説明では、「通れる場所」だけでなく「通ってはいけない場所」を明確にすることも大切です。AR上で進入禁止エリアを表示し、作業帯、重機旋回範囲、吊り荷の下、段差部、開口部、資材仮置き場などを区別して示せば、危険区域への立ち入りを防ぐ意識付けにつながります。特に、現場内では慣れによって近道をしてしまうことがあります。毎日の朝礼や新規入場者教育でAR表示を見せることで、現場のルールを視覚的に確認できます。
また、動線を分けて見せることで、誘導員の配置検討にも役立ちます。誘導員は、通行者から見えやすく、車両運転者からも確認しやすく、かつ自分自身が危険にさらされにくい位置に立つ必要があります。ARで歩行者と車両の流れを重ねると、誘導員がどこに立てば双方を見渡せるか、声かけや合図が届きやすいか、退避場所を確保できるかを検討しやすくなります。現地で立ち位置を確認しながら話し合えるため、机上の計画よりも具体的な改善につながります。
歩行者には高齢者、子ども、車いす利用者、ベビーカー利用者、自転車利用者など、さまざまな人が含まれます。ARで動線を確認するときは、最短距離だけでなく、段差、勾配、通路幅、見通し、足元の状態、雨天時の水たまり、夜間の明るさなども意識する必要があります。表示上はスムーズな通路に見えても、実際には通りにくい場合があります。ARは現地の景色を見ながら確認できるため、こうした利用者目線の検討にも役立ちます。
活用法3 時間帯ごとの規制変更を事前に共有する
施工中の通行規制は、常に同じ状態とは限りません。朝の搬入時間だけ一部を規制する場合、昼間は片側交互通行にする場合、夜間に全面通行止めを行う場合、休日だけ作業帯を広げる場合、工程の進行に合わせて歩行者通路を切り替える場合など、時間帯や日程によって規制内容が変わることがあります。こうした切替は、関係者の認識違いが起きやすいポイントです。
ARを使えば、時間帯ごとの規制状態を切り替えて表示できます。たとえば、午前中の搬入時、昼間の通常作業時、夕方の開放時、夜間作業時というように表示を分け、同じ場所で規制範囲や通行可能範囲がどのように変わるかを確認します。これにより、関係者は「いつからどこが通れなくなるのか」「どのタイミングで案内看板を移動するのか」「どの段階で誘導員の配置を変えるのか」を具体的に理解しやすくなります。
時間帯ごとの説明は、近隣住民や店舗、施設管理者への説明にも有効です。通行規制そのものよりも、生活や営業に影響する時間がいつなのかを知りたい人は多いです。ARで現地に重ねた表示を見せながら、「この時間帯は出入口を確保します」「この時間帯は車両の出入りが増えます」「この日だけ歩行者通路が反対側になります」と説明できれば、相手が自分の行動に置き換えて理解しやすくなります。
工程管理の面でも、ARによる時間別表示は役立ちます。規制切替には、仮設材の移動、看板の設置替え、カラーコーンの並べ替え、誘導員への周知、作業員への連絡、関係機関への報告など、多くの作業が伴います。ARで切替前後の状態を確認しておくと、当日の作業手順を具体化しやすくなります。たとえば、どの順番でバリケードを動かすか、車両をどこに待機させるか、歩行者を一時的にどちらへ誘導するかを、現地の景色に合わせて整理できます。
ただし、時間帯別のAR表示を使う場合は、表示している時点の規制状態を明確にする必要があります。利用者が古い表示や別時間帯の表示を見てしまうと、誤った行動につながる恐れがあります。現場で使う場合は、表示画面に日付、時間帯、工程名、適用条件を分かりやすく記載し、現在有効な規制なのか、事前説明用の計画表示なのかを区別します。関係者用の確認資料として使う場合も、最新版であることを確認できる管理が必要です。
天候や現場状況によって、予定していた規制切替が変更になることもあります。雨天で作業が延期される場合、資材搬入が遅れる場合、周辺道路の混雑によって誘導方法を変える場合など、現場では変更が起こります。AR表示を作るときは、計画どおりに進む前提だけでなく、変更時にどの情報を更新するのかを決めておくことが大切です。更新されないAR表示は、かえって混乱の原因になります。運用ルールとセットで使うことで、ARは時間帯ごとの通行規制説明に活用しやすくなります。
活用法4 危険箇所と注意行動を直感的に伝える
通行規制の目的は、単に通行を制限することではなく、工事中の危険を避けながら人や車を安全に通すことです。そのため、規制範囲や動線だけでなく、危険箇所と具体的な注意行動を伝えることが重要です。ARは、危険がある場所に直接注意情報を重ねて表示できるため、直感的な安全説明に向いています。
たとえば、段差がある場所には足元注意の表示を重ね、仮設スロープには勾配や滑りやすさへの注意を示し、重機の旋回範囲には立入禁止の表示を置きます。車両の出入口には一時停止や左右確認の表示を重ね、見通しの悪い角には徐行や誘導員確認の表示を加えます。紙の注意看板も重要ですが、ARでは現地の具体的な位置に情報を重ねられるため、「この場所で何に注意するのか」が伝わりやすくなります。
作業員向けには、危険箇所の確認を朝礼や現地KY活動と連動させると効果的です。今日の作業で使う搬入経路、仮設歩道、重機作業範囲、資材仮置き場、開口部、架空線付近、狭あい部などをARで確認し、作業前にリスクを共有します。口頭だけの説明では、聞き手が自分の作業場所と危険箇所を結び付けられないことがあります。ARで現地を見ながら確認すれば、作業員が「自分が通る場所」「自分が作業する場所」として理解しやすくなります。
一般通行者向けの説明では、注意情報を多く出しすぎないことも重要です。AR表示に文字や記号を詰め込みすぎると、かえって見づらくなります。通行者に必要なのは、どちらへ進めばよいか、どこで止まればよいか、どこに近づいてはいけないか、足元や車両に注意すべき場所はどこかといった情報です。安全担当者や施工管理者が確認する詳細情報と、一般利用者向けに見せる情報は分けて設計する必要があります。
危険箇所をARで示すときは、注意行動までセットで表示することが大切です。「危険」とだけ表示しても、利用者や作業員が何をすればよいか分からない場合があります。「ここで一時停止する」「誘導員の合図を確認する」「右側の仮設通路へ進む」「足元の段差を避ける」「この線より中へ入らない」といった行動に落とし込むと、説明の実効性が高まります。安全表示は、見る人の行動を変えるためにあります。
さらに、ARは事前の安全検討にも活用できます。実際に規制を始める前に、ARで危険箇所を仮表示しながら現地を歩くことで、看板の位置、照明の必要性、段差養生、誘導員配置、仮設通路幅、車両の見通しなどを確認できます。現地で端末をかざしながら歩くと、図面上では気付きにくい「ここは曲がった直後で見えにくい」「この看板は植栽に隠れそう」「夜間は足元が暗い」といった改善点を見つけやすくなります。
ただし、危険箇所をARで表示しても、実際の安全施設や現場管理を省略できるわけではありません。カラーコーン、バリケード、看板、照明、誘導員、仮設通路、段差養生などの物理的な安全対策は不可欠です。ARは、それらの意味や位置を分かりやすく説明する補助として使います。現場で本当に人を守るのは、計画、設備、教育、監視、改善の積み重ねです。ARはその共有力を高める道具として考えると、無理なく実務に組み込めます。
活用法5 近隣住民や関係者への説明資料として使う
施工中の通行規制では、工事関係者だけでなく、近隣住民、店舗、施設利用者、学校、病院、配送業者、管理組合、自治体担当者など、さまざまな関係者への説明が必要になります。通行規制によって、車の出入り、歩行ルート、駐車場への進入、荷さばき、通学路、緊急車両の通行、来客動線などに影響が出ることがあるためです。
ARを使った説明は、相手が現地の状況をイメージしやすい点に強みがあります。平面図だけを渡されても、自宅や店舗の前がどのように変わるのか分からない人は少なくありません。ARで現地の景色に規制範囲や迂回ルートを重ねて見せると、「自分の出入口は使えるのか」「車はどちらから入るのか」「歩行者はどこを通るのか」「工事車両はどこを通過するのか」といった疑問に答えやすくなります。
説明資料として使う場合は、AR表示をその場で見せる方法と、ARで確認した内容を静止画や説明資料に反映する方法があります。現地説明会や個別訪問では、端末を使って実際の位置を見せると伝わりやすくなります。一方で、すべての人がその場でARを確認できるとは限らないため、掲示物や配布資料にも落とし込めるようにしておくと安心です。ARはあくまで説明を分かりやすくする手段であり、周知の基本は、日時、場所、規制内容、問い合わせ先、注意事項を明確に伝えることです。
近隣説明で大切なのは、相手に関係する情報を優先して見せることです。施工者側は作業帯や工程を詳しく説明したくなりますが、住民や店舗が知りたいのは、日常の移動や営業にどのような影響があるかです。AR表示でも、専門的な施工情報を前面に出しすぎるのではなく、出入口の確保、歩行者ルート、車両通行可能時間、騒音や振動が想定される作業時間、誘導員の位置など、相手の行動に関わる情報を中心に整理します。
関係機関との協議にも、ARは補助資料として役立ちます。道路管理者、施設管理者、発注者、協力会社などと現地で打ち合わせる際、ARで規制範囲や誘導計画を重ねて見せることで、問題点をその場で指摘しやすくなります。たとえば、交差点からの距離、既設出入口との干渉、通学時間帯の歩行者集中、バス停や駐輪場との関係、緊急車両の通行幅などを、現地の景色に合わせて確認できます。協議後に修正した内容を再度AR表示へ反映すれば、変更点の共有もしやすくなります。
また、説明履歴を残すという観点でも有効です。どの時点の規制計画を、誰に、どのように説明したのかを記録しておくことは、後日の問い合わせ対応や社内共有に役立ちます。AR表示を使った説明内容を、日付、場所、対象者、説明項目、変更点、申し送り事項とともに記録しておけば、担当者が交代した場合でも経緯を追いやすくなります。特に、工程変更が多い現場では、古い説明内容と新しい説明内容が混在しないよう、版管理を意識する必要があります。
ただし、ARを見せるだけで合意形成が完了するわけではありません。通行規制に対する不安や不満は、単に情報不足だけでなく、生活や営業への影響から生じます。ARで分かりやすく説明しつつ、相手の懸念を聞き取り、必要に応じて時間帯や案内方法、誘導員配置、掲示内容を見直す姿勢が重要です。ARは一方的に見せる道具ではなく、現場と周辺関係者が同じ景色を見ながら話し合うための共通言語として使うと効果的です。
活用法6 現場内の作業員教育と日々の確認に活用する
通行規制は、計画を作っただけでは安全に運用できません。実際に現場で作業する人、資材を運ぶ人、重機を操作する人、誘導する人、巡回する人が、規制の意味とルールを理解している必要があります。ARは、現場内の作業員教育や日々の確認にも活用できます。
新規入場者教育では、現場の全体像を短時間で理解してもらう必要があります。どこが一般通行者の通路なのか、どこから工事車両が出入りするのか、どこに立ち入ってはいけないのか、どの時間帯に規制が切り替わるのかを、口頭と紙資料だけで説明すると、聞き手が十分に理解できないことがあります。ARで現地を見ながら説明すれば、初めて現場に入る人でも位置関係を把握しやすくなります。
朝礼や作業前ミーティングでは、その日の規制状態を確認する用途に向いています。前日と同じように見える現場でも、作業帯が少し延びている、歩行者通路が反対側に切り替わっている、搬入車両の待機場所が変わっている、誘導員の配置が増えているといった変更がある場合があります。ARで当日の状態を見せながら説明すれば、変更点を強調しやすくなります。特に、複数の協力会社が入る現場では、情報の伝達漏れを防ぐために視覚的な共有が役立ちます。
誘導員教育にも活用できます。誘導員は、一般通行者や車両運転者と直接接する重要な役割を担います。どの位置で待機するのか、どの方向から車両が来るのか、歩行者をどのタイミングで止めるのか、工事車両の出入り時にどこを確認するのかを、ARで現地に重ねて説明すると、実際の行動をイメージしやすくなります。誘導員同士の連携位置や合図の届く範囲を確認する際にも役立ちます。
現場内の教育では、規制を守る理由を伝えることも大切です。単に「ここを通らない」「この線を越えない」と指示するだけでは、作業員が状況に応じて判断しにくくなります。ARで作業帯、通行帯、重機範囲、死角、車両動線を重ねて見せると、なぜそのルールが必要なのかを理解しやすくなります。理由が分かれば、予期しない状況が起きたときにも、安全側の判断をしやすくなります。
日々の巡回点検にもARは使えます。計画どおりにカラーコーンやバリケードが設置されているか、仮設歩道の幅が確保されているか、看板の向きが通行者に見えるか、出入口がふさがれていないか、資材が通路にはみ出していないかを、AR表示と現地状況を比較しながら確認します。完全な計測や検査の代替ではありませんが、目視確認の観点をそろえるうえで有効です。担当者ごとに確認の基準がばらつく現場では、AR表示が共通のチェック基準になります。
教育や確認に使うAR表示は、現場の実態に合わせて更新されている必要があります。古い規制計画のまま表示すると、作業員に誤った情報を伝えてしまいます。工程変更、規制変更、通路切替、仮設物の移動があった場合は、ARデータも更新し、どの版を使うかを管理します。現場では、使いやすさを優先するあまり、古い資料が残り続けることがあります。ARも同じで、最新版管理を怠ると安全管理上のリスクになります。
ARで通行規制を説明するときの注意点
ARで施工中の通行規制を説明する場合、最も注意すべきなのは、AR表示を過信しないことです。現実の安全管理は、現地調査、施工計画、関係機関との協議、交通誘導計画、安全施設の設置、作業員教育、日常点検によって成り立ちます。ARは、それらを分かりやすく共有するための補助です。表示が現地に重なって見えるからといって、必ず正確な位置を示しているとは限りません。
屋外でARを使う場合、位置ずれが起こることがあります。高い建物の近く、樹木の多い場所、高架下、トンネル付近、電波環境の悪い場所、夜間や逆光の条件では、端末の認識や測位が不安定になる場合があります。また、元となる図面や座標データに誤りがあれば、AR表示も誤った内容になります。実際の規制施設を設置するときは、必要な測量、現地確認、管理者確認を行い、ARだけで判断しないことが重要です。
表示内容の整理も大切です。通行規制には多くの情報がありますが、すべてを同時に表示すると見づらくなります。規制範囲、歩行者動線、車両動線、危険箇所、誘導員配置、時間帯別変更、近隣向け説明など、目的に応じて表示を切り替える設計が必要です。施工管理者向けの詳細表示と、一般通行者向けの案内表示を同じにすると、情報過多になることがあります。誰が、どの場面で、何を理解するために見るのかを先に決めることが、使いやすいAR説明につながります。
現場でARを使う際は、端末を見る行為自体が安全上のリスクにならないよう注意します。道路上や重機周辺で画面に集中しすぎると、周囲の車両や歩行者への注意が薄れる場合があります。AR確認は、安全な場所で立ち止まって行い、必要に応じて複数人で役割を分けます。一般通行者に見せる場合も、歩きながら画面を見るような使い方ではなく、説明担当者が安全な位置で案内する運用が望ましいです。
さらに、ARで示す内容は、現場の正式な計画や掲示と矛盾しないようにする必要があります。看板には右側通行と書かれているのに、ARでは左側を示しているような状態は避けなければなりません。紙の図面、掲示物、朝礼資料、近隣説明資料、AR表示の内容をそろえることで、説明の信頼性が高まります。情報の更新担当者、確認手順、承認方法を決めておくと、現場で運用しやすくなります。
ARの効果を高めるには、現場の状況を正確に記録することも重要です。既設道路、歩道、縁石、側溝、出入口、電柱、標識、仮設物、資材置場、重機作業範囲などを、できるだけ現実に近い形で把握しておくと、AR表示の説得力が増します。反対に、現地情報が古いままだと、現場で見たときに違和感が生じます。施工中は状況が変わりやすいため、必要に応じて現地情報を更新しながら使うことが大切です。
AR導入の目的は、見た目の新しさではなく、説明の誤解を減らし、安全な行動につなげることです。通行規制は、工事関係者だけでなく、周辺の人々の日常にも影響します。だからこそ、分かりやすく、正確で、相手の立場に立った説明が求められます。ARは、その説明を現地の景色に近づけるための有効な方法です。
まとめ
ARで施工中の通行規制を説明する活用法は、規制範囲の見える化、歩行者と車両動線の整理、時間帯ごとの切替共有、危険箇所と注意行動の説明、近隣住民や関係者への説明、作業員教育と日々の確認に整理できます。いずれも共通しているのは、図面や言葉だけでは伝わりにくい現場の位置関係を、実際の景色に重ねて理解しやすくする点です。
通行規制は、安全と利便性の両方に関わる繊細な業務です。規制が不十分であれば事故のリスクが高まり、説明が不足すれば近隣からの不安や問い合わせが増えます。逆に、規制の目的、範囲、時間、迂回方法、注意箇所を分かりやすく伝えられれば、関係者の理解を得やすくなり、現場運営も安定しやすくなります。ARは、そのための説明力を高める手段として活用できます。
ただし、ARは万能ではありません。表示位置の誤差、データ更新の遅れ、情報過多、端末利用時の安全確保など、実務上の注意点があります。正式な施工計画、交通誘導計画、現地確認、安全施設、関係機関との協議を前提にし、その内容を分かりやすく共有する道具として使うことが重要です。ARを現場の判断の代わりにするのではなく、現場の判断を支える視覚的な補助として位置付けることで、無理なく導入できます。
今後、施工現場では、図面、写真、点群、位置情報、クラウド共有などを組み合わせながら、より分かりやすい現場説明が求められていきます。通行規制のように、多くの人が同じ場所を別々の立場で利用する場面では、関係者全員が同じ空間認識を持つことが安全管理の出発点になります。現地を見ながら規制範囲や動線を共有できるARは、その出発点をつくるうえで有効です。
施工中の通行規制をより分かりやすく説明したい場合は、現場の位置情報を正確に扱い、記録から共有までを一連の流れで整えることが大切です。スマートフォンを使って現場を計測し、取得した情報をもとに施工範囲や通行ルートを確認できる環境を整えれば、説明資料づくりや現地確認の負担を減らしやすくなります。現場の状況を素早く記録し、ARによる説明やクラウド共有へつなげたい実務担当者は、次のステップとしてスマートフォンを活用した現場計測と情報共有の仕組みづくりを検討してみてください。