88条申請の対象かどうかを確認する場面では、「建設物を設置するから必要」「足場を組むから必要」と単純に判断してしまうと、届出漏れや不要な手戻りにつながります。実務では「88条申請」と呼ばれることがありますが、労働安全衛生法第88条の手続きは、性質としては許可申請ではなく、工事や仕事の開始前に計画を届け出る制度です。現行の第88条では、厚生労働省令で定める機械等の設置・移転・主要構造部分の変更、特に大規模な建設業の仕事、一定の建設業・土石採取業等の仕事について、提出期限や提出先が分かれています。(厚生労働省法令等データベース)
88条申請の基本は「申請」ではなく事前の計画届
「88条申請」という言葉は、建設現場や工場設備の設置計画でよく使われます。ただし、実務担当者が最初に押さえるべきなのは、この手続きが一般的な意味での許可取得ではなく、労働安全衛生法第88条に基づく計画の届出であるという点です。届出の目的は、危険または有害な機械等、仮設物、工法、作業計画が採用されることによって労働災害が起きるリスクを、工事や仕事が始まる前に確認できる状態にすることです。
88条申請の対象を調べる人の多くは、「この設備は対象なのか」「足場の高さが何メートルなら必要なのか」「提出は30日前なのか14日前なのか」といった実務上の判断に直面しています。特に、機械等設置・移転・変更届と、建設工事・土石採取計画届が混同されやすい点には注意が必要です。厚生労働省の様式では、機械等設置・移転・変更届は様式第20号、建設工事・土石採取計画届は様式第21号として整理されています。([厚生労働省][2])
提出期限も一律ではありません。労働安全衛生法第88条第1項の機械等の設置・移転・主要構造部分の変更は、原則として当該工事の開始の日の30日前までに所轄労働基準監督署長へ届け出ます。同条第2項の特に大規模な建設業の仕事は、仕事の開始の日の30日前までに厚生労働大臣へ届け出る類型です。同条第3項の一定の建設業や土石採取業等の仕事は、仕事の開始の日の14日前までに所轄労働基準監督署長へ届け出る類型です。(厚生労働省法令等データベース)
つまり、88条申請の対象確認では、「対象か対象外か」だけでなく、「第88条のどの類型に該当するか」「様式第20号か様式第21号か」「提出先は所轄労働基準監督署長か厚生労働大臣か」「計画作成参画者が必要か」を分けて確認する必要があります。建設物を新築する、既存建物を改造・解体する、設備を新設・移転する、足場を長期間設置する、深い掘削や圧気工法を行うなど、現場の内容によって確認すべき条文と資料が変わります。
なお、88条申請は書類を提出すれば安全対策が終わる制度ではありません。計画届は、設計段階で災害防止措置を具体化し、図面、施工計画、工程表、現場記録に反映するための入口です。対象になる可能性がある工事では、見積段階や施工計画の初期段階から、安全衛生担当、設計担当、設備担当、元請、協力会社の間で情報をそろえておくことが重要です。
条件1:設置するものが機械等または建設工事の対象に当たる
88条申請の対象を判断する最初の条件は、計画している内容が、法令上の「機械等」の設置・移転・主要構造部分の変更に当たるのか、それとも建設業や土石採取業等の「仕事」の計画届に当たるのかを分けることです。現行の労働安全衛生法第88条第1項は、厚生労働省令で定める機械等を設置し、移転し、または主要構造部分を変更しようとするときの届出を定めています。建設物の新築や解体そのものは、主に第88条第2項または第3項の建設業の仕事として、規模や種類によって確認します。(厚生労働省法令等データベース)
ここを混同すると、「建物を建てるから様式第20号が必要」「建物内の設備だから建設工事計画届だけ見ればよい」といった誤判断につながります。たとえば、建屋内に有機溶剤や特定化学物質を扱う設備、局所排気装置、放射線装置、動力プレス、化学設備などを設置する場合は、建物本体の規模とは別に、機械等設置・移転・変更届の対象になる可能性があります。一方で、高さ31メートルを超える建築物や工作物の建設、改造、解体、破壊などは、建設業の仕事として計画届の対象になり得ます。
この条件で誤りやすいのは、「建設物」という言葉に引っ張られて、建物本体だけを見てしまうことです。88条申請の対象確認では、建設物の有無だけでなく、設置する機械等、仮設物、作業方法、取扱物質、設置期間、工事場所の危険性を一体で確認します。設備担当者が「単なる機械更新」と考えていても、安全衛生担当者から見ると、局所排気、粉じん、化学物質、作業床、点検通路、荷役動線などが絡み、届出対象の可能性が出てくることがあります。
また、「設置」という言葉にも注意が必要です。新しい設備を導入する場合だけでなく、既存設備を別の場所へ移す場合、既存設備の主要構造部分を変更する場合も確認対象になります。ライン変更やレイアウト変更では、設備そのものの能力が同じでも、作業者の立ち位置、通路幅、避難経路、メンテナンス空間、周辺設備との距離が変わることで、災害リスクが増えることがあります。
したがって、条件1の実務上の結論は、「建物を建てるかどうか」ではなく、「第88条第1項の機械等に該当するものを設置・移転・変更するのか」「第88条第2項または第3項の建設業等の仕事に該当するのか」を分けて確認することです。ここを初期段階で整理しておくと、次に確認すべき対象設備、規模要件、提出期限、添付図面、参画者の要否が明確になります。
条件2:危険有害性の高い対象設備として定められている
次に確認する条件は、設置する機械等が、危険有害性の高い対象設備として法令上定められているかどうかです。労働安全衛生規則第85条は、第88条第1項の対象となる機械等を、同法に基づく他の省令に定めるもののほか、別表第七の上欄に掲げる機械等としています。第86条では、別表第七に掲げる機械等を設置・移転・主要構造部分変更しようとするときに、様式第20号の届書と、対象に応じた書面・図面等を添えて提出することが定められています。([厚生労働省法令等データベース][3])
対象になり得る設備には、動力プレス、一定規模以上の溶解炉、化学設備、乾燥設備、アセチレン溶接装置、ガス集合溶接装置、軌道装置、型枠支保工、架設通路、足場、有機溶剤や鉛、特定化学物質、粉じん、放射線に関係する設備などがあります。建設現場でよく問題になるのは、足場、型枠支保工、架設通路、軌道装置です。工場や研究施設では、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、密閉設備、放射線装置などが確認対象になりやすいといえます。([労働局資料][4])
この条件で大切なのは、「危なそうだから対象」と感覚で判断しないことです。安全衛生上のリスクがある設備でも、88条申請の届出対象として定められていなければ、別の安全措置や別法令の対応は必要でも、88条第1項の届出までは不要な場合があります。一方で、現場担当者が日常的に使い慣れている設備であっても、法令上の対象に該当する場合は届出が必要になります。慣れている設備ほど見落としやすいため、設備名称だけでなく、構造、能力、寸法、使用目的、設置期間、取扱物質、作業方法まで確認することが重要です。
たとえば、化学物質を扱う設備では、物質名だけでなく、濃度、取扱量、発散の可能性、附属設備の構造、作業場所の換気が関係します。排気設備では、単に換気扇を設置するという話ではなく、有害物質や粉じんをどの位置で捕集し、どの経路で排出し、どのように作業者のばく露を防ぐかが問題になります。仮設設備では、足場や通路の高さ、長さ、構造、材質、設置期間が判定材料になります。
また、対象設備かどうかを判断する際は、設備メーカーや施工業者に任せきりにしないことも重要です。設備を納入する側は機械仕様に詳しく、施工業者は組立方法に詳しい一方で、事業場全体の作業環境、他設備との関係、常時使用する労働者数、作業工程全体のリスクを把握しているのは発注者側や元請側であることが多いためです。88条申請では、設備単体の仕様と現場全体の使われ方を接続して判断する必要があります。
条件3:足場・型枠支保工・架設通路は種類、規模、期間を確認する
建設物設置に関連して88条申請の対象確認が最も多く発生するのが、足場、型枠支保工、架設通路といった仮設物です。これらは工事が終われば撤去されるため、「一時的なものだから届出は不要」と誤解されることがあります。しかし、仮設物であっても、種類や規模が一定以上になると労働災害の危険が高くなるため、機械等設置・移転・変更届の確認対象になります。
足場については、つり足場、張出し足場、またはそれ以外の足場で高さが10メートル以上の構造のものが対象に挙げられています。ただし、労働安全衛生規則第85条では、足場や架設通路などについて、組立てから解体までの期間が60日未満のものは除外される整理があります。したがって、足場は高さだけでなく、種類、構造、組立開始日、解体完了予定日をセットで確認する必要があります。([厚生労働省法令等データベース][3])
型枠支保工では、支柱の高さが3.5メートル以上のものが対象に挙げられています。ここで注意したいのは、足場や架設通路の60日未満除外と、型枠支保工の要件を混同しないことです。型枠支保工は、設置期間そのものが届出要否の除外条件として扱われるのではなく、支柱高さ、構造、材質、主要寸法、コンクリート構造物の概要などを中心に確認します。設置期間は届出書類上の記載事項や工程管理上の重要情報ですが、「短期だから当然に対象外」と判断しないことが大切です。([労働局資料][4])
架設通路も見落とされやすい対象です。労働安全衛生規則別表第七では、高さおよび長さがそれぞれ10メートル以上の架設通路が対象に挙げられています。架設通路は安全のために設けるものですが、作業者が毎日通るため、転落、踏み抜き、滑り、資材との接触、避難時の混雑などのリスクが蓄積します。足場と同様に、組立てから解体までの期間が60日未満かどうかも確認します。
軌道装置や特定化学物質関連の附属設備も、建設現場や工場内工事で問題になることがあります。軌道装置は使用目的、起点と終点、高低差、軌道の長さ、曲線半径、勾配などが確認事項になります。特定化学物質を扱う設備では、業務の概要、主要構造部分、附属設備の構造が確認されます。これらは足場のように目で見て規模を判断しやすいものではないため、仕様書、施工図、作業手順書、物質情報、換気計画を組み合わせて判断する必要があります。
条件3で大切なのは、仮設物を「短期間使う補助設備」と軽く見ないことです。足場、支保工、通路は、現場の安全を支える一方で、構造や設置方法を誤ると災害の起点になります。届出対象かどうかは、現場経験だけで判断せず、寸法と期間を数値で確認し、図面と工程表に落とし込むことが実務上の安全策です。
条件4:建設工事そのものが計画届の対象規模に入る
88条申請では、機械等の設置だけでなく、建設工事そのものが計画届の対象になる場合があります。ここを混同すると、様式第20号で考えるべき案件なのか、様式第21号で考えるべき案件なのかが曖昧になります。大規模な建築物や工作物の建設、改造、解体、破壊、橋梁工事、ずい道工事、一定以上の地山掘削、圧気工法、石綿に関する一定の作業、廃棄物焼却施設の解体等は、建設工事・土石採取計画届として確認が必要になることがあります。([厚生労働省法令等データベース][3])
代表的な判断要素として、高さ31メートルを超える建築物または工作物の建設等があります。ここでいう建設等には、建設、改造、解体、破壊が含まれるため、新築だけを見ていると見落とす可能性があります。高層建築物の解体や大規模改修では、建物を新たに設置しないにもかかわらず、工事そのものが計画届の対象になることがあります。つまり、「建設物設置」という検索意図で調べている場合でも、対象判断では解体や改造まで視野に入れる必要があります。
橋梁工事では最大支間が重要な要素になります。最大支間50メートル以上の橋梁の建設等の仕事や、最大支間30メートル以上50メートル未満の橋梁の上部構造の建設等の仕事で一定の場所において行われるものは、計画届の確認対象になります。橋梁は高所作業、揚重作業、交通動線との近接、水上作業、架設時の不安定状態など、多くのリスクを伴うため、工法、機械配置、労働災害防止措置、工程を一体で整理する必要があります。
ずい道等の建設、掘削の高さまたは深さが10メートル以上である地山の掘削、圧気工法による作業も、88条関係の計画届で注意すべき領域です。掘削では、崩壊、落石、土砂流出、地下水、重機との接触、作業員の退避経路などが問題になります。圧気工法では、高気圧環境に伴う健康障害や作業管理が関係します。石綿に関する作業では、吹き付け石綿等の除去、封じ込め、囲い込みや、石綿等を使用した保温材・耐火被覆材等の作業で粉じんを著しく発散するおそれがあるかどうかが重要になります。
また、第88条第2項の特に大規模な建設業の仕事では、仕事開始の30日前までに厚生労働大臣へ届け出る類型があります。たとえば、高さ300メートル以上の塔、堤高150メートル以上のダム、最大支間500メートル以上の橋梁、長さ3000メートル以上のずい道等など、通常の現場よりもさらに大規模な仕事が該当します。多くの実務では所轄労働基準監督署長への14日前届出を確認する場面が中心ですが、「88条はすべて監督署へ14日前」または「すべて30日前」と覚えるのは危険です。([厚生労働省法令等データベース][3])
条件4の実務上のポイントは、機械等設置届と建設工事・土石採取計画届を分けて確認することです。たとえば、大規模修繕で足場が対象になる場合は様式第20号の観点が必要になり、同じ工事で建築物の高さや解体内容が一定条件に該当すれば様式第21号の観点も必要になります。ひとつの現場で複数の届出要否が重なる可能性があるため、工事概要、仮設計画、解体計画、設備設置計画を別々に確認し、最終的に一つの工程表に統合することが大切です。
条件5:設置・移転・主要構造部分の変更を工事開始前に届け出る
88条申請の対象になる5つ目の条件は、行為が「設置」「移転」「主要構造部分の変更」に当たることです。新設だけが対象だと誤解されがちですが、既存設備を移す場合や、構造上重要な部分を変更する場合も対象確認が必要です。労働安全衛生規則第86条では、別表第七の上欄に掲げる機械等を設置し、移転し、または主要構造部分を変更しようとするときに、様式第20号による届書と必要な書面・図面等を提出する扱いが示されています。([厚生労働省法令等データベース][3])
「設置」は比較的分かりやすい行為です。新しい機械、設備、足場、支保工、通路、排気設備などを現場に設ける場合が該当します。ただし、購入した機械を置くだけ、仮設設備を組むだけ、既製品を据え付けるだけと考えてしまうと判断を誤ります。88条申請で問われるのは、現場に設置された状態で労働者がどのように作業し、どのような危険や健康障害を防止するかです。したがって、据付位置、基礎、支持方法、周囲との離隔、作業床、点検口、保守スペース、緊急停止や退避動線まで含めて確認します。
「移転」は、既存設備を別の場所へ移す行為です。同じ設備を使い続ける場合でも、移転先の床荷重、周辺設備、作業者の動線、排気経路、騒音や粉じんの影響、搬入経路が変わります。以前の場所で安全に使用できていた設備であっても、移転後も同じ安全性が確保されるとは限りません。特に工場内レイアウト変更では、複数設備の位置関係が変わり、危険区域が通路に近づいたり、点検時に高所作業が必要になったりすることがあります。
「主要構造部分の変更」は判断が難しい領域です。設備の一部交換や補修であっても、構造、強度、支持方法、安全装置、囲い、排気性能、作業者との距離に影響する場合は、単なる保全ではなく主要構造部分の変更として確認が必要になる可能性があります。足場であれば盛替え、開口部の追加、壁つなぎの位置変更、張出し部の変更、通路位置の変更などが問題になることがあります。型枠支保工では支柱配置や荷重条件の変更、架設通路では高さ、幅、支持方法、勾配の変更が問題になり得ます。
期限管理も重要です。機械等設置・移転・変更届では、当該工事の開始の日の30日前までに提出することが基本です。ここでいう工事開始は、本格稼働日ではなく、設置や変更のための工事に着手する日を基準に考える必要があります。基礎工事、仮設工、搬入、組立のどの段階を開始と見るかは案件によって整理が必要ですが、少なくとも稼働開始直前に届出を準備するのでは遅いと考えるべきです。
また、労働局や労働基準監督署への申請・届出では、電子申請に対応する手続きもあります。厚生労働省は、安全衛生に関する申請・届出の電子申請について、足場や局所排気装置等の設置・移転・変更届も案内しています。電子で提出する場合でも、期限、添付書類、図面の整合性、社内承認、控えの保管が不要になるわけではありません。むしろ、提出前に電子データとして図面や工程を整える必要があるため、早めの準備が重要です。([厚生労働省][5])
条件6:計画参画者・添付図面・工程表を準備できている
88条申請の対象になるかを判断する最後の条件は、単に設備や工事が該当するかだけでなく、必要な計画参画者、添付図面、工程表を準備できるかどうかです。労働安全衛生法第88条第4項は、一定の届出に係る工事や仕事の計画を作成するときに、労働災害の防止を図るため、厚生労働省令で定める資格を有する者を参画させることを定めています。労働安全衛生規則第92条の2・第92条の3では、対象範囲と資格が整理されています。(厚生労働省法令等データベース)([厚生労働省法令等データベース][3])
計画参画者は、単に名前を記入するための存在ではありません。構造の安全性、施工方法、災害防止措置、作業手順、工程上の危険時期を確認し、計画に反映する役割を持ちます。足場や型枠支保工であれば、組立、使用、変更、解体の各段階で危険が変化します。大規模な建設工事であれば、仮設計画、重機配置、資材搬入、墜落防止、崩壊防止、第三者災害防止、緊急時対応まで含めた検討が必要になります。資格者が参画していても、設計図、施工図、現場条件が共有されていなければ、形式的な参画になってしまいます。
添付図面についても、対象に応じて求められる内容が変わります。建設業に係る計画届では、仕事を行う場所の周囲の状況や四隣との関係を示す図面、建設等をしようとする建設物等の概要図、工事用の機械・設備・建設物等の配置図、工法の概要を示す書面または図面、労働災害を防止するための方法と設備の概要を示す書面または図面、工程表などが必要になります。これらは、単に図面枚数をそろえるためではなく、計画全体を第三者が見て理解できるようにするための資料です。([厚生労働省法令等データベース][3])
機械等設置届でも、設備の種類に応じて、設置箇所、構造、材質、主要寸法、設置期間、使用目的、取扱物質、作業方法、安全措置の概要などを示す必要があります。足場であれば種類と用途、構造、材質、主要寸法が重要です。型枠支保工ではコンクリート構造物の概要、構造、材質、主要寸法、設置期間が重要です。架設通路では設置箇所、構造、材質、主要寸法、設置期間が確認されます。つまり、届出書の記載だけでは不十分で、図面と現場条件が一致していることが必要です。
工程表の精度も対象判断に直結します。足場や架設通路の組立てから解体までの期間が60日未満かどうか、建設工事の開始日をいつと見るか、工事中に対象設備の設置期間が延びる可能性があるかは、工程表がなければ判断できません。現場では天候、資材納入、発注者都合、追加工事によって工程が延びることがあります。当初は対象外の短期予定だったものが、工程変更によって対象になり得る場合は、早めに所轄の窓口へ相談し、工程変更時の対応を確認しておくことが安全です。
この条件6は、実務的には「届出対象だと分かってから準備する」のでは遅い領域です。参画者の確保、図面作成、構造計算、施工計画、工程調整、社内承認、提出、補正対応までを考えると、着工直前の対応では間に合いません。対象になる可能性がある時点で、計画参画者を巻き込み、図面と工程を届出に耐える精度まで引き上げることが、工程遅延を防ぐ現実的な方法です。
対象判断で間違いやすい実務上の注意点
88条申請の対象判断で最も多い失敗は、「過去の似た工事では不要だった」という経験則だけで判断することです。似た工事であっても、高さ、設置期間、構造、場所、作業方法、取扱物質、周囲の状況が変われば結論は変わります。特に足場は、建物の高さだけでなく、足場自体の種類、構造高さ、設置期間、張出しの有無、つり足場の有無によって判断が変わります。大規模修繕や外壁改修では、当初予定より工期が延びることも多いため、工程の余裕を見込んで確認する必要があります。
次に注意すべきなのは、建築確認や消防関係、環境関係の手続きと88条申請を混同することです。建築確認を出しているから88条申請は不要、あるいは設備の法定検査を受けるから88条申請は不要といった判断はできません。それぞれの制度は目的が異なります。88条申請は、労働者の安全と健康を確保する観点から、危険有害な機械等、工法、作業計画を事前に確認するものです。他の手続きが進んでいても、労働安全衛生上の計画届が別途必要になる場合があります。
また、発注者、元請、下請のどの事業者が届出義務を負うのかも実務上の論点です。数次の請負契約によって仕事が行われる場合、一定の類型では、仕事を自ら行う発注者がいるときはその発注者、いないときは元請負人が届出義務者として整理される場面があります。現場では、契約形態、施工体制、実際に計画を作成する者、仮設物を設置する者が異なることがあるため、誰が届出を行うのかを早めに決める必要があります。
対象外と判断した場合でも、その根拠を残しておくことが重要です。たとえば、足場の種類、高さ、設置期間、型枠支保工の支柱高さ、架設通路の高さと長さ、掘削深さ、建築物の高さ、橋梁の最大支間など、数値で判断したものは記録として保存します。後から工程変更や設計変更があった場合、当初判断と変更後判断を比較できるようにしておくことで、届出漏れを防ぎやすくなります。安全衛生担当者だけでなく、現場代理人、設計担当、設備担当、協力会社にも同じ情報が共有されている状態をつくることが理想です。
さらに、提出後の変更にも注意が必要です。届出を出した後に、設置位置、構造、主要寸法、工法、工程、安全措置が変わった場合、当初の届出内容と現場実態が一致しなくなることがあります。88条申請は提出して終わりではなく、届出内容に沿って施工し、変更が生じたときに再確認する運用が必要です。現場では、施工性を高めるための軽微な変更が積み重なり、結果として主要構造部分や安全措置に影響することがあります。判断に迷う場合は、変更内容を整理したうえで所轄労働基準監督署へ相談するのが安全です。
最後に、88条申請は安全衛生管理の一部であり、災害防止措置そのものではないという点も押さえておく必要があります。届出書を提出しても、現場で手すり、幅木、親綱、開口部養生、立入禁止措置、点検、作業主任者の配置、作業手順の周知が不十分であれば、労働災害のリスクは残ります。88条申請の対象確認をきっかけに、現場の安全計画、日常点検、写真記録、是正管理までつなげることが、実務担当者に求められる役割です。
まとめ:88条申請の対象確認は設置計画と現場記録まで一体で進める
88条申請の対象になる建設物設置で注意したい条件は、設置・移転・変更するものが第88条第1項の機械等に当たるか、建設物の建設・改造・解体・破壊などの仕事が第88条第2項または第3項の対象規模に入るかを分けて確認することです。そのうえで、危険有害性の高い対象設備として定められていること、足場・型枠支保工・架設通路などで種類、規模、期間の要件を満たすこと、建設工事そのものが計画届の対象規模に入ること、設置・移転・主要構造部分の変更を工事開始前に届け出る必要があること、そして計画参画者・添付図面・工程表を準備できていることを確認します。
特に重要なのは、88条申請を安全衛生担当者だけの書類作成業務にしないことです。対象判断には、設計情報、設備仕様、施工方法、工程、現場寸法、作業動線、取扱物質、仮設計画が関係します。どれか一つでも情報が欠けると、対象外と誤判断したり、提出後に補正が必要になったりする可能性があります。設計段階から関係者が同じ図面と工程を見て、数値と根拠を共有することが、88条申請を円滑に進める近道です。
また、届出対象かどうかの判断には、現場の実測と記録が欠かせません。足場の高さ、架設通路の長さ、掘削深さ、設備の設置位置、危険区域との距離、点検時の作業位置などは、図面だけでなく現地確認によって精度が高まります。設置後も、届出内容と現場実態が一致しているかを写真や位置情報とともに残しておくことで、変更管理や安全点検が行いやすくなります。
88条申請の対象確認を確実に進めるには、法令上の条件を押さえるだけでなく、現場で必要な情報を正確に取得し、関係者がすぐ確認できる形で残すことが重要です。判断に迷う場合は、最新の法令、厚生労働省や労働局の資料、所轄労働基準監督署の案内を確認し、届出要否、提出先、提出期限、添付書類を早めに整理しましょう。
[2](https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74001000&dataType=0&pageNo=3 [2)]: [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei36/index_00001.html [3](https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei36/index_00001.html [3)]: [https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74003000&dataType=0&pageNo=3 [4](https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74003000&dataType=0&pageNo=3 [4)]: [https://jsite.mhlw.go.jp/okinawa-roudoukyoku/library/okinawa-roudoukyoku/ken-an/H26/20150129bepyoudainana.pdf [5](https://jsite.mhlw.go.jp/okinawa-roudoukyoku/library/okinawa-roudoukyoku/ken-an/H26/20150129bepyoudainana.pdf [5)]: [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei.html