AR土木でトンネル線形を確認する意味
トンネル工事では、道路や造成工事のように施工物の全体を上から見渡すことが難しく、確認できる範囲が限定されます。坑口から奥へ進むほど周囲は閉じた空間になり、照明条件、粉じん、湧水、機械の配置、作業員の動線などによって、図面上では単純に見える線形確認も現場では複雑になります。中心線、縦断勾配、横断形状、支保工の建込み位置、覆工コンクリートの仕上がり、排水勾配、設備の将来配置など、確認すべき要素が多く、しかもそれらが互いに関係しています。
AR土木は、このような現場確認を視覚的に補助する手段として活用できます。ここでいうAR土木とは、設計データや測量データ、施工管理上の確認点などを現地の視界に重ね、現場で位置関係を把握しやすくする考え方です。トンネル工事では、設計線形が現場のどこを通るのか、掘削断面や支保工が計画に対してどのような位置にあるのか、次工程で干渉しそうな箇所はどこかを、図面だけでなく現地の空間の中で確認しやすくなることが利点です。
ただし、ARを使えばトンネル工事の線形確認が自動的に正確になるわけではありません。AR表示は、元になる座標、基準点、端末の位置姿勢、現場環境、データ変換の条件などに影響されます。特にトンネル内では衛星測位が使いにくい場面が多く、坑外の測位や坑内基準点、測量成果との組み合わせを前提に考える必要があります。そのため、AR土木は測量の代替ではなく、測量成果を現場で理解しやすくする補助的な道具として位置づけることが大切です。
トンネル工事の線形確認を楽にするためには、AR表示そのものの見栄えよりも、何を確認するために使うのかを整理する必要があります。中心線の見える化だけを目的にするのか、支保工や覆工の位置確認まで含めるのか、掘削余掘りや内空断面の確認に使うのか、あるいは関係者への説明や記録共有に使うのかによって、準備するデータも現場での使い方も変わります。目的が曖昧なまま導入すると、表示はできても判断に使いにくい、記録は残っても後から根拠を追いにくい、といった状態になりやすくなります。
この記事では、AR土木でトンネル工事の線形確認を楽にするための実務的な視点を5つに分けて整理します。設計線形と現場基準の合わせ方、切羽から覆工までの確認範囲、高さ方向の扱い、記録と共有、そしてARに頼りきらない運用の考え方まで、現場担当者が導入前に押さえておきたいポイントをまとめます。
視点1 設計線形と現場基準を同じ座標で見る
トンネル工事でAR土木を使うとき、最初に重要になるのは、設計線形と現場基準を同じ座標の考え方で扱うことです。AR画面に中心線や断面位置が表示されても、その表示がどの基準に基づいているのかが曖昧であれば、確認結果を施工判断に使うことはできません。トンネルの線形は、平面線形、縦断線形、横断勾配、施工基準点、測点、坑口位置などが一体で管理されます。ARで確認したい対象も、この座標体系の中に正しく置かれている必要があります。
現場で起こりやすいのは、図面、測量成果、施工用データ、AR表示用データの間で基準が少しずつ異なることです。例えば、設計図では測点に沿って中心線が整理されている一方で、現場では任意の基準点や仮設基準を使って位置出しをしている場合があります。また、平面座標と高さの基準が別々に管理されていたり、CADデータの原点や単位、回転方向が施工用の座標と完全には一致していなかったりすることもあります。こうした差がある状態でARにデータを取り込むと、現地の表示がずれたり、向きが合わなかったり、測点位置の認識が人によって変わったりするおそれがあります。
そのため、AR土木で線形確認を始める前には、どの座標を正とするのかを決める必要があります。設計線形の中心線データ、坑口付近の基準点、坑内に設ける測量基準、施工中に使う測点表示を一つの流れとして整理し、AR表示用データも同じ流れで作成します。ここで重要なのは、単にデータを変換することではなく、現場で誰が見ても同じ位置を同じ意味で理解できる状態にすることです。中心線、左右の離れ、計画断面、支保工位置、覆工内面などを表示する場合も、それぞれが何を基準にしているのかを明確にしておく必要があります。
特にトンネル工事では、測点の扱いが重要です。現場では「何メートル地点」「どの断面」「どの支保パターンの区間」といった言い方で会話することが多く、平面座標だけでは施工管理の文脈に乗りにくい場合があります。AR表示上でも、中心線だけを出すのではなく、測点や断面位置の目安が分かるようにしておくと、現場確認を進めやすくなります。作業員、測量担当、施工管理担当、発注者側の確認者が同じ測点を指して話せるようになるため、説明の手戻りを減らせます。
また、トンネルの線形確認では、坑口付近と坑内で確認方法が変わります。坑口周辺では外部の基準点や既設構造物との関係を確認しやすい一方、坑内に入ると衛星測位や広域的な位置把握が難しくなります。そのため、坑口で合わせたAR表示をそのまま坑内の奥まで過信するのではなく、坑内の基準点や測量結果で段階的に確認し直す考え方が必要です。一定距離ごとに基準を取り直す、表示位置のズレを点検する、測量成果との整合を確認してから現場説明に使う、といった手順を組み込むことで、AR表示を実務に使いやすくできます。
AR土木の良さは、座標や線形という抽象的な情報を現場の空間に置き換えて見られる点にあります。しかし、その前提として、座標の整理ができていなければ表示の意味が崩れてしまいます。最初の段階で設計線形、現場基準、測点、断面データをそろえておくことが、トンネル工事の線形確認を楽にする土台になります。
視点2 切羽・支保・覆工の位置関係を連続して確認する
トンネル工事の線形確認は、中心線だけを見ればよいわけではありません。実際の現場では、切羽の進行、掘削断面、支保工の建込み、吹付け、ロックボルト、インバート、覆工コンクリート、排水設備、将来の内装や設備配置が連続して関係します。ある段階で小さなズレがあっても、その時点では大きな問題に見えないことがあります。しかし、次工程に進んだときに内空不足、設備干渉、排水勾配の不整合、出来形確認の手戻りとして表面化することがあります。
AR土木を使う場合は、現在見えている施工段階だけでなく、次に重なる構造や仕上がりを意識して表示することが有効です。例えば、切羽付近で計画中心線や計画断面を確認するだけでなく、支保工がどの位置に建つ予定なのか、覆工内面が最終的にどのラインになるのかを重ねて見ることで、現在の掘削や支保の判断が後工程に与える影響をイメージしやすくなります。トンネルは線形方向に長く続く構造物であり、1断面だけの判断ではなく、前後の連続性を見ることが大切です。
切羽での確認では、作業の安全性と施工効率を妨げない表示が求められます。AR表示に情報を詰め込みすぎると、かえって何を見ればよいのか分からなくなります。切羽付近では、中心線、計画断面、掘削範囲、注意すべき余掘りや不足の方向など、確認目的に必要な情報に絞ることが重要です。表示する情報を整理することで、現場担当者が短時間で判断しやすくなります。特に掘削直後は状況が変わりやすく、粉じんや水、照明条件によって視認性も変わるため、AR表示は補助線として使い、最終判断は測量や出来形確認と合わせて行うべきです。
支保工の段階では、建込み位置、建込み間隔、傾き、中心線との関係を確認しやすくなります。支保工はトンネル断面の骨格に近い役割を持つため、ここでのズレは後工程に影響しやすい部分です。ARで計画位置を現地に重ねて見られると、支保工の設置前におおよその位置関係を共有しやすくなります。特に、曲線区間や縦断勾配の変化点付近では、平面的な中心線だけでは断面の向きや位置関係を理解しにくいことがあります。ARで断面の向きや連続する支保工の並びを確認できれば、図面を読み慣れていない関係者にも説明しやすくなります。
覆工や仕上げ段階では、出来形として残る部分の確認が重要になります。覆工コンクリートの内空、厚さに関わる位置関係、中心線との関係、設備設置スペース、排水側溝や監査路との取り合いなど、最終的な機能に関わる確認が増えます。AR土木を使って計画内空や設備予定位置を現地に表示できれば、完成後に見えなくなる下地や埋設部、将来設備の配置を施工途中で確認しやすくなります。これにより、後から「図面上は入るはずだったが、現場では余裕がなかった」という事態を減らす助けになります。
また、切羽、支保、覆工を別々の工程として見るのではなく、連続した線形管理として扱うことが大切です。AR表示により、前回確認した位置、今回確認する位置、次に施工する位置をつなげて見られるようにすると、現場の会話が変わります。単発の確認ではなく、「この区間では少し右側に注意が必要です」「次の断面から勾配変化を意識します」「覆工前にこの位置関係をもう一度見ます」といった、先を見た施工管理がしやすくなります。
トンネル工事では、施工が進むほど前の状態に戻って確認することが難しくなります。だからこそ、AR土木を使うなら、いま見えているものだけでなく、次に隠れるもの、後から影響するものを重ねて確認する視点が重要です。切羽から覆工までを連続した線形として見ることで、確認作業は単なるチェックではなく、手戻りを防ぐための先行管理に変わります。
視点3 高さ方向と勾配のズレを早めに見つける
トンネル工事の線形確認では、平面位置だけでなく高さ方向の管理が重要です。中心線が平面的に合っていても、縦断勾配や断面高さがずれていると、排水、内空、舗装厚、インバート、設備設置に影響します。特にトンネルは閉じた空間であるため、わずかな高さの認識違いが後工程で大きな調整になることがあります。AR土木を活用する際も、見た目の平面位置だけで判断せず、高さ方向の意味を意識することが必要です。
AR表示では、現地の映像に線や面を重ねるため、平面のズレは比較的見つけやすく感じます。一方で、高さ方向のズレは表示の見え方や端末の姿勢に影響されやすく、現場で感覚的に判断すると誤解が起こることがあります。例えば、中心線が床面に沿って正しく表示されているように見えても、実際には計画高さとの差が残っている場合があります。また、端末を持つ位置や見る角度によって、計画断面の上端や側壁位置が合っているように見えたり、逆にずれているように見えたりすることもあります。
そのため、高さ方向を確認する場合は、AR表示だけに頼らず、基準高、測点、縦断勾配、断面寸法をセットで確認する運用が欠かせません。AR上では、計画高さの目安、インバートや路盤の計画面、排水勾配の方向、覆工内面の高さなどを分かりやすく表示し、必要な箇所では測量値や出来形値と照合します。ARは高さの関係を直感的に理解するために使い、数値としての合否判定は測量や管理基準に基づいて行う、という役割分担が現実的です。
縦断勾配の変化点や曲線区間では、特に注意が必要です。トンネル線形は、直線的に見える区間でも勾配が変わっていたり、曲線と勾配が同時に変化していたりします。図面上では測点ごとに整理されていても、現場ではどこから変化が始まり、どの方向に調整が必要なのかを瞬時に把握しにくい場合があります。ARで勾配変化の位置や計画面を表示できれば、作業前の打ち合わせで注意点を共有しやすくなります。特に、床付け、インバート、排水溝、舗装下地などは高さの連続性が重要になるため、早い段階でズレの傾向をつかむことが役立ちます。
排水に関わる部分では、高さ方向の確認が機能確認にもつながります。トンネル内の排水は、縦断勾配や横断勾配、側溝、集水部、坑口側の接続条件と関係します。見た目には問題なく施工されていても、局所的な逆勾配や不連続があると、水たまりや維持管理上の不具合につながる可能性があります。AR土木を使って排水の流れる方向や計画勾配のラインを現場で確認できれば、図面上の数値を現場の感覚に置き換えやすくなります。ただし、水の流れは微小な高さ差にも左右されるため、AR表示はあくまで確認の入口とし、必要な箇所はレベル確認や出来形測定で裏付ける必要があります。
高さ方向の確認では、基準面をどこに置くかも重要です。トンネル内には、掘削面、吹付け面、支保工、覆工内面、路盤面、仕上げ面など、複数の面が存在します。AR表示でどの面を表示しているのかが曖昧だと、関係者間で認識がずれます。例えば、表示しているのが掘削計画面なのか、覆工内面なのか、完成後の路面なのかによって、同じ位置に見える線でも意味が異なります。表示データには、面の名称や用途を分かりやすく整理し、現場説明でも必ず確認対象を明確にすることが必要です。
AR土木で高さ方向と勾配を扱うときのポイントは、見た目の分かりやすさと数値管理を切り離さないことです。画面上で分かりやすく見えるほど、ついその表示を正しいものとして扱いたくなります。しかし、トンネル工事では細かな寸法管理が後工程に影響することもあります。AR表示でズレの方向や傾向を早めに見つけ、測量や出来形確認で必要な精度を確保する。この組み合わせによって、高さ方向の確認を進めやすくなります。
視点4 共有と説明に使える記録を残す
トンネル工事の線形確認では、現場で見て判断するだけでなく、その判断を後から説明できる形で残すことが重要です。施工が進むと、切羽の状態、支保工の設置状況、吹付け前後、覆工前の下地など、多くの部分が見えなくなります。その場では全員が納得していても、後日確認したときに、どの測点で何を見たのか、どの基準で判断したのか、写真がどの方向を向いているのかが分からないと、記録としての価値が下がります。
AR土木は、線形や断面の情報を現場映像に重ねて記録できるため、説明資料として使いやすい特徴があります。通常の写真では、どこが中心線なのか、計画断面と現況がどの程度離れているのか、次工程でどの部分が関係するのかを読み取るには補足説明が必要です。AR表示を重ねた記録であれば、確認したいラインや面が写真内に示されるため、現場にいなかった人にも状況を伝えやすくなります。発注者、設計担当、協力会社、社内の品質管理担当など、立場の異なる関係者に説明するときにも役立ちます。
ただし、AR記録を残す場合は、見栄えのよい画像を残すだけでは不十分です。記録として使うには、撮影日時、測点、確認対象、表示しているデータの種類、基準点や座標の条件、確認者、判断内容などを紐づけることが大切です。例えば、同じ断面を撮影した写真でも、掘削確認なのか、支保工位置確認なのか、覆工前確認なのかによって意味が変わります。AR表示の線が何を表しているのかが分からなければ、後から見た人は判断できません。写真とメモ、測点情報、確認項目を一体で管理することで、記録の信頼性が高まります。
共有の場面では、現場の説明時間を短くできる効果もあります。トンネル工事では、関係者全員が毎回坑内の同じ場所に入って確認することが難しい場合があります。安全管理上の制約や作業工程の都合により、確認できる時間が限られることもあります。ARを使って線形確認の結果を記録しておけば、事務所や打ち合わせの場で状況を共有しやすくなります。特に、曲線区間、坑口取り合い、非常駐車帯や横坑など形状が変わる部分、設備との干渉が懸念される部分は、図面だけで説明するよりも現場映像を使った方が理解されやすくなります。
また、施工中の変更や協議にも記録が役立ちます。地山状況や湧水、支保パターンの変更、補助工法の追加、施工順序の調整など、トンネル工事では現場条件に応じた判断が発生します。そのとき、線形や断面に関わる確認をAR記録として残しておくと、なぜその判断をしたのか、どの範囲に影響するのかを説明しやすくなります。単なる作業写真ではなく、設計線形や計画断面と現況を重ねた記録があることで、協議の前提をそろえやすくなります。
記録を残すときには、撮影位置と対象位置の違いにも注意が必要です。トンネル内では、狭い空間の中で斜め方向から撮影することが多く、写真だけを見ると対象の位置を誤解しやすい場合があります。AR表示が入っていても、撮影者がどこに立ち、どちらを向いていたのかが分からなければ、後から正確に読み解くことが難しくなります。撮影位置、方向、測点、対象断面を記録し、必要であれば同じ箇所を複数方向から撮ることで、説明性が高まります。
AR土木の記録は、品質管理や出来形管理の正式な書類を置き換えるものではありません。しかし、判断の過程を分かりやすく残す補助資料としては有効です。現場で見たことをその場限りにせず、後から確認できる形にしておくことで、関係者間の認識差を減らし、同じ説明を何度も繰り返す負担を小さくできます。トンネル工事の線形確認を楽にするには、見るためのARだけでなく、伝えるためのARとして使う視点が欠かせません。
視点5 ARに頼りきらず測量と施工管理を組み合わせる
AR土木は便利な確認手段ですが、トンネル工事の線形確認では、ARだけで判断を完結させないことが重要です。トンネル内は外部環境と比べて位置推定が難しく、照明、粉じん、湿気、金属構造物、狭い空間、作業機械の移動など、表示精度や視認性に影響する要素が多くあります。画面上で計画線がきれいに重なって見えても、測量成果と照合しなければ、施工管理上の根拠としては不十分な場合があります。
ARを実務で使ううえでは、確認の目的を分けることが大切です。概略の位置関係を共有するために使うのか、危険箇所や干渉の可能性を早めに発見するために使うのか、出来形確認前の事前チェックに使うのかによって、求める精度は変わります。すべての場面で同じ精度を期待すると、運用が重くなりすぎます。一方で、重要な合否判断に使う場面では、測量結果や管理基準と照合する手順を必ず入れる必要があります。ARは「気づき」と「共有」を早め、測量は「根拠」と「数値」を支えるものとして組み合わせると、無理のない運用になります。
測量との組み合わせでは、基準点の管理が要になります。坑口付近の基準点、坑内に設ける基準点、測点ごとの確認点、断面測量の結果などを、AR表示の基準と対応させておく必要があります。基準点が移動していたり、仮設物で見えにくくなっていたり、作業の都合で使えない状態になっていたりすると、AR表示の確認も不安定になります。基準点の保護、定期的な点検、使用した基準の記録を徹底することで、AR表示の信頼性を保ちやすくなります。
施工管理との組み合わせでは、確認タイミングを工程に組み込むことが大切です。AR確認を思いついたときだけ行うと、記録が断片的になり、効果が見えにくくなります。切羽の進行に合わせた確認、支保工建込み前後の確認、覆工前の確認、設備設置前の干渉確認など、工程上の節目に合わせてAR確認を行うと、現場に定着しやすくなります。さらに、確認結果を日報、写真管理、出来形確認、協議記録と関連づけることで、単なる便利機能ではなく施工管理の一部として使えるようになります。
安全面への配慮も欠かせません。トンネル内で端末画面を見ながら移動すると、足元、重機、資材、段差、湧水、ケーブルなどへの注意が薄れることがあります。AR確認は、作業の合間や安全が確保された位置で行う必要があります。確認者、誘導者、周囲作業との分担を決め、端末を見る人が現場全体への注意を失わないようにします。便利な表示に集中しすぎると、現場安全の基本がおろそかになるため、AR活用は安全ルールとセットで運用することが重要です。
また、AR表示のズレを発見したときの扱いも決めておく必要があります。画面上で設計線形と現況が合わないように見えた場合、それが施工のズレなのか、AR表示のズレなのか、データ変換の問題なのか、端末位置の問題なのかを切り分けなければなりません。すぐに施工不良と判断するのではなく、測量担当と確認し、基準点、データ、表示条件を点検します。逆に、AR表示で問題が見えないからといって、測量確認を省略するのも危険です。ARの結果は、次に何を確認すべきかを示す手がかりとして扱うのが適切です。
トンネル工事の線形確認を楽にする本質は、確認作業を雑にすることではありません。必要な精度を保ったまま、関係者の理解を早め、問題を早く見つけ、説明や記録の負担を減らすことです。AR土木はそのための有効な手段ですが、測量、出来形管理、写真記録、安全管理と組み合わせて初めて実務に耐えるものになります。ARに頼りきらず、現場管理の流れの中に自然に組み込むことが、長く使える運用につながります。
AR土木をトンネル現場で定着させる運用の考え方
AR土木をトンネル工事で使い続けるためには、導入時の盛り上がりだけでなく、日常業務にどう組み込むかを考える必要があります。新しい技術は、最初は注目されやすい一方で、準備や操作が面倒だと現場で使われなくなります。特にトンネル工事は工程が細かく、作業時間も限られ、安全確認も多いため、AR確認が追加作業として重く感じられると定着しにくくなります。
定着の第一歩は、使う場面を絞ることです。最初からすべての線形確認をARで行おうとすると、データ準備も運用も複雑になります。まずは、坑口取り合い、曲線区間、勾配変化点、支保工の位置確認、覆工前の内空確認、設備干渉が心配な箇所など、効果が分かりやすい場面に限定して使うとよいです。現場担当者が「この場面ではARがあると説明しやすい」と感じられるようになると、自然に利用範囲を広げやすくなります。
次に、データ準備の流れを標準化することが大切です。AR表示用のデータを毎回担当者が手作業で作ると、変換ミスや基準の取り違えが起きやすくなります。中心線、測点、断面、施工範囲、確認対象をどの形式で整理するのか、どのタイミングで更新するのか、誰が確認済みとするのかを決めておく必要があります。データの版管理も重要です。古い設計データや変更前の線形を表示してしまうと、現場判断に混乱を招きます。AR表示に使うデータは、図面や施工計画の最新版と対応していることを確認し、変更があった場合は現場に周知します。
現場での操作ルールもシンプルにする必要があります。誰でも同じ手順で起動し、同じ確認対象を表示し、同じ方法で記録を残せるようにしておくと、担当者が変わっても運用が続きます。トンネル工事では昼夜作業や交替制の現場もあり、特定の人だけが使える状態では実務に乗りにくくなります。表示するデータ名、確認する測点、撮影時のメモ、保存先のルールを分かりやすくしておくことで、現場全体で使いやすくなります。
教育の面では、ARの操作方法だけでなく、表示結果の読み方を共有することが重要です。画面に出ている線が何を意味するのか、どの程度の精度で見てよいのか、どの場面では測量確認が必要なのかを理解していないと、誤った使い方につながります。若手担当者にとっては、AR表示を通じてトンネルの線形や断面構成を学びやすくなる効果もあります。図面だけではイメージしにくい中心線、断面、勾配、支保工の関係を現場空間で確認できるため、教育資料としても活用できます。
また、現場内だけでなく、事務所側との連携も考えると効果が高まります。現場で撮影したAR記録を、日報、打ち合わせ資料、協議資料、社内確認に活用できるようにすると、現場と事務所の認識差が小さくなります。事務所側で図面を見ている人と、坑内で実際に施工している人が同じ視覚情報を共有できることは、トンネル工事では大きなメリットです。特に、施工条件が変わったときや判断に迷う箇所では、AR記録があることで説明が早くなります。
一方で、AR土木を導入する際には、使わない場面を決めることも大切です。精密な出来形判定、重要な合否確認、基準点の再確認、安全上すぐに判断すべき場面などでは、ARだけで済ませるべきではありません。ARは万能な確認方法ではなく、視覚的に理解しやすくする補助です。使う場面と使わない場面を明確にすることで、現場の信頼を保ちやすくなります。
トンネル現場でAR土木を定着させるには、技術そのものよりも運用設計が重要です。データを正しく準備し、確認場面を絞り、記録方法を統一し、測量と施工管理につなげる。この流れができると、ARは特別なイベントではなく、日常の確認を少し楽にする道具になります。現場に無理なくなじませることが、結果的に線形確認の品質と効率を高めます。
まとめ
AR土木でトンネル工事の線形確認を楽にするには、単に設計線を現場に重ねて表示するだけでは足りません。重要なのは、設計線形と現場基準を同じ座標の考え方で整理し、切羽、支保、覆工、排水、設備といった後工程まで含めて位置関係を確認することです。トンネルは閉じた空間で施工が進むため、いま見えている状態だけでなく、次に隠れる部分や将来干渉する可能性のある部分を早めに把握する視点が欠かせません。
また、平面位置だけでなく高さ方向と勾配の確認も重要です。中心線が合っているように見えても、縦断勾配や計画面の認識がずれていれば、排水や内空、仕上がりに影響する可能性があります。AR表示は、こうした高さや勾配の関係を現場でイメージしやすくする助けになりますが、最終的な判断は測量成果や出来形管理と組み合わせて行う必要があります。
さらに、AR土木は記録と共有にも力を発揮します。線形や断面を重ねた現場写真を残せば、現場にいなかった関係者にも状況を説明しやすくなります。撮影日時、測点、確認対象、表示データ、判断内容を紐づけておけば、後から確認できる記録として活用できます。施工が進むと見えなくなる部分が多いトンネル工事では、この説明性が大きな価値になります。
一方で、ARに頼りきる運用は避けるべきです。トンネル内では表示条件が不安定になることもあり、基準点、測量、施工管理、安全確認との組み合わせが前提になります。ARは、現場の理解を早め、確認の入口を分かりやすくし、関係者の認識をそろえるための道具です。測量の根拠と施工管理の流れに組み込むことで、実務に使える確認方法になります。
これからAR土木をトンネル工事に取り入れる場合は、まず坑口や曲線区間、勾配変化点、支保工や覆工前の確認など、効果が見えやすい場面から始めるとよいです。データの基準をそろえ、確認手順を決め、記録を残し、測量結果と照合する流れを作れば、線形確認の負担は少しずつ軽くなります。現場で扱いやすいモバイル端末を活用し、必要な位置情報と施工情報をその場で確認できる環境を整えることが、トンネル工事におけるAR土木活用の次の一歩になります。