十二条点検と是正報告の関係を整理する
建築物を維持管理する実務では、「十二条点検」という言葉が広く使われています。一般には、建築基準法第12条に基づく定期報告制度に関係する建築物の調査や、建築設備、防火設備、昇降機等の検査を指して使われることが多い言葉です。定期報告制度では、対象となる建築物や設備等について、所有者や管理者に定期的な調査・検査と特定行政庁への報告が求められ、法令に基づく資格者が調査・検査を実施する仕組みとなっています。([国土交通省][1])
十二条点検で重要なのは、点検を実施して報告書を作成することだけではありません。点検によって不具合や劣化などが確認された場合、その内容を把握し、必要な対応を検討し、建築物を継続して適切に維持管理していくことが大切です。
実務担当者が特に負担を感じやすいのが、点検後の是正管理です。報告書の中に指摘事項があると、所有者や管理者は、指摘箇所を確認し、施工会社などへ相談し、必要な対応を進め、その結果を記録することになります。さらに、所管する行政庁の運用や個別の通知によって、改善状況の報告や是正に関する書類の提出が求められる場合があります。
ここで注意したいのは、「是正報告」という名称や手順が全国で完全に統一されていると考えないことです。例えば東京都では、定期調査・検査報告に関する改善状況の報告様式として、改善計画書や改善完了報告書などが案内されています。長野県では、報告内容に「要是正」の指摘事項があり、既存不適格に該当するものを除く場合について、是正報告書または是正計画書の提出が案内されています。必要となる書類、提出先、提出方法などは、対象建物を所管する行政庁の最新案内や個別の通知を確認することが基本です。([東京都都市整備局][2])
そのため、本記事でいう「是正報告」は、十二条点検で確認された指摘事項について、是正内容を整理し、必要に応じて所管行政庁等へ改善状況を説明する一連の実務を広く指すものとして扱います。
是正報告をスムーズに進めるポイントは、工事が終わった後に慌てて資料を集めるのではなく、点検結果を受け取った直後から報告完了までを一つの工程として管理することです。指摘を整理し、対応方針を決め、工事と記録を同時に進め、最後に報告資料へまとめるという流れをつくることで、抜け漏れや二度手間を減らせます。
是正報告がスムーズに進まない主な原因
十二条点検後の是正対応が長期化する原因は、必ずしも工事そのものにあるとは限りません。実際には、情報整理や担当者間の連携が不十分なために時間がかかるケースもあります。
典型的なのが、調査者から受け取った報告書をそのまま施工担当者へ渡し、「とりあえず見積もりをお願いします」と依頼する進め方です。指摘が一件だけなら対応できるかもしれませんが、複数階、複数部位に指摘がある建物では、どの場所について何を直すのか整理するだけでも時間がかかります。
施工会社から現地確認を求められ、管理担当者が再度対象場所を探すことになる場合もあります。さらに工事完了後、報告資料を作ろうとした段階で、施工前の写真が残っていない、施工中の状況が分からない、どの写真がどの指摘に対応しているのか判断できないといった問題が発生します。
もう一つの原因は、担当範囲が明確になっていないことです。
調査者は調査結果を報告し、施工会社は依頼された工事を行います。しかし、施工会社が工事を完了したことと、管理者側の是正管理が完了したことは同じではありません。工事が終わった後に、元の指摘事項に対して適切な対応になっているかを確認し、必要な資料を整理し、行政庁等から求められる手続きに対応する工程が残る場合があります。
所有者、施設管理者、管理会社、調査者、施工担当者など複数の関係者がいる建物では、「次は誰が動くのか」が不明確になると案件が止まりやすくなります。
また、すべての指摘を同じ優先順位で扱うことも、進行を遅らせる原因になります。簡単な管理改善で対応できるものもあれば、専門的な調査、設計、予算確保、工事日程の調整が必要なものもあります。これらを一つのリストに並べて順番に処理するより、内容と緊急性を確認して対応方針を分けたほうが合理的です。
是正報告をスムーズにするには、「点検」「修繕」「報告」を別々の作業にしないことが重要です。これらを一連の業務として管理するため、次の5ステップで進めます。
ステップ1 指摘事項を一件ずつ整理する
最初のステップは、十二条点検で確認された指摘事項を一件ずつ整理することです。
報告書を受け取ったら、すぐに工事方法を考えるのではなく、「何が」「どこで」「どのように指摘されたのか」を明確にします。
同じ建物でも、屋上、外壁、共用廊下、階段、機械室、避難経路など、多数の場所に指摘が分散することがあります。そのため、指摘番号、建物名、階、室名や区画名、対象部位、指摘内容などを関連付けて管理します。
例えば「3階廊下の扉」という記録だけでは、同じような扉が何枚もある建物で施工担当者が迷います。「3階東側共用廊下、階段室前の扉」のように、初めて現場を見る人でも対象を絞り込める情報にしておくと、その後の確認が容易になります。
屋外であれば、「北側外壁」「屋上西側」だけでは範囲が広すぎることがあります。柱番号、設備番号、周囲の構造物、出入口からの位置関係などを組み合わせて記録するとよいでしょう。
指摘内容については、元の報告書の表現を残すことが重要です。
管理担当者が分かりやすくするために指摘を短く要約することはできますが、元の記載を削除して要約だけを残すと意味が変わる可能性があります。社内管理用の説明を追加する場合でも、原文と区別して管理すると安全です。
現況写真も指摘事項と対応させます。
写真は近接写真だけでは十分とは限りません。破損部を大きく撮影した写真だけを見ると、建物のどの位置なのか分からなくなるためです。対象場所が分かる全景、対象部位が分かる写真、不具合の状態を確認できる近接写真を組み合わせると、後工程で利用しやすくなります。
さらに、点検実施日から是正検討まで期間が空いている場合は、必要に応じて現況を再確認します。点検後に劣化が進んでいることもあれば、施設側で応急的な措置が行われている場合もあります。
この場合は、点検時点の状態と現在の状態を混同しません。「点検時写真」と「是正検討時写真」のように時点を分けておくと、経過が分かります。
ステップ1の目的は、施工方法を決定することではなく、指摘事項を誰でも追跡できる形にすることです。
この整理を丁寧に行っておけば、見積もり依頼、現地確認、発注、施工、完了確認、是正報告のすべてで同じ情報を使えます。反対に、この段階を省略すると、後になって何度も現場確認や資料整理をやり直すことになります。
ステップ2 優先度と是正方針を決める
指摘事項を整理したら、それぞれについて優先度と対応方針を検討します。
すべての指摘を報告書の記載順に処理する必要があるとは限りません。不具合の内容、安全への影響、利用状況、劣化の進行可能性、施工に必要な準備などを踏まえて検討します。
例えば、落下や転落、避難、防火など、人の安全に関わる可能性がある指摘については、美観上の劣化などとは分けて考える必要があります。ただし、管理担当者が外観だけを見て危険度を独自に確定するのではなく、必要に応じて調査者や専門技術者へ確認しながら判断することが重要です。
工事をすぐに行えない場合には、本格的な是正までの間に利用範囲の制限や仮措置などを検討すべきケースもあります。ただし、具体的にどの措置が必要かは個別条件によって異なります。専門的判断を要するものについては、調査者、設計者、施工者など適切な専門家と協議します。
一方、管理方法の変更だけで比較的早く対応できる指摘もあります。
例えば、対象設備の周囲に物品が置かれていることが問題であれば、設備自体を交換するのではなく、物品を移動して適切な状態を維持する運用を整えることが対応につながる場合があります。
ただし、その指摘が本当に物品の移動だけで解消されるのかは、元の指摘内容を確認して判断する必要があります。
是正方針を決める段階では、「誰が」「何を」「いつまでに進めるか」も明確にします。
調査者へ追加確認する項目、施工会社へ見積もりを依頼する項目、所有者の予算承認が必要な項目、施設運営部門との日程調整が必要な項目などに分けると、次の行動が見えやすくなります。
行政庁から改善状況の報告や個別の対応について期限を示されている場合には、その期限を工事工程とは別に管理します。自治体によっては是正報告書や是正計画書などの提出を求める運用があるため、工事が期限までに完了しそうにない場合は、自己判断で放置せず、対象建物を所管する窓口や調査者等へ必要な対応を確認します。長野県では、要是正の指摘事項があり、既存不適格に該当するものを除く場合について、是正報告書または是正計画書の提出を案内しています。([長野県公式サイト][3])
優先順位を決める目的は、単に急ぐ案件を決めることではありません。限られた人員と時間の中で、すべての指摘を漏れなく完了へ進めるための工程をつくることです。
ステップ3 是正工事と完了確認を記録する
是正方針が決まったら、実際の是正へ進みます。
この段階で大切なのは、工事と記録を別々に考えないことです。
工事会社へ依頼するときは、対象箇所だけではなく、十二条点検のどの指摘に対応する工事なのかを明確にします。ステップ1で管理番号を設定している場合は、その番号を見積もり、施工記録、施工写真などにも関連付けます。
工事着手前には、対象箇所の状態を記録します。
点検時の写真がある場合でも、点検から時間が経過しているなら、施工直前の状態を追加で残しておくと経過を確認しやすくなります。施工を開始して部材を撤去した後では元の状態を撮影できないため、着手前の記録は重要です。
施工内容によっては、施工中の写真も必要になります。
例えば、完成後に仕上げ材で隠れる固定部、下地、内部の補修部分などは、施工後の外観写真だけでは何を行ったのか確認できません。どの段階を記録すべきかは工事内容によって異なるため、施工担当者と事前に確認します。
完了後は、「工事をした」という事実だけでなく、元の指摘に対してどのような状態になったのかを確認します。
例えば、扉の閉鎖状態について指摘されているのであれば、塗装がきれいになっただけでは指摘に対する是正を確認したことにはなりません。排水機能が問題となっている場合も、周辺を清掃した写真だけでなく、元の指摘に対してどのような対応が行われたのかを見る必要があります。
つまり、完了確認では、工事内容だけを見るのではなく、元の指摘内容との対応関係を確認することが重要です。
施工会社から「完了しました」という連絡を受けた時点で案件を終了させるのではなく、指摘番号ごとに対応内容、施工日、完了写真、確認日などを記録します。
専門的な性能や安全性について確認が必要な内容であれば、管理担当者が写真だけで独自に判断せず、必要に応じて調査者や専門技術者へ確認します。
この工程を徹底すると、是正報告書を作る段階で施工会社へ何度も資料を依頼する必要を減らせます。工事完了と並行して報告に必要な情報を整理するため、是正報告の作成も進めやすくなります。
ステップ4 是正報告に必要な資料を整える
是正工事と完了確認ができたら、必要な報告資料をまとめます。
ここで重要なのは、最初に提出先の要件を確認することです。
建築基準法第12条に基づく定期報告制度自体は法令に基づく制度ですが、指摘後の改善状況について求められる手続き、書類名称、提出先や提出方法などには行政庁等による違いがあります。東京都では改善計画書や改善完了報告書に関する案内があり、長野県では要是正の指摘事項があり、既存不適格に該当するものを除く場合について、是正報告書または是正計画書の提出が案内されています。そのため、過去に別の自治体で使った書類をそのまま流用できるとは限りません。([東京都都市整備局][2])
所管行政庁等の最新様式や個別の通知内容を確認し、それに沿って作成します。
資料を作る際は、「指摘」と「是正」の対応関係を明確にすることが重要です。
指摘事項が複数ある場合、是正内容を長い文章でまとめてしまうと、どの説明がどの指摘に対応しているのか分かりにくくなります。指摘番号ごとに対象場所、指摘内容、対応内容、施工日、確認状況、写真などを追跡できる状態にしておきます。
是正内容については、「対応済み」「修理済み」といった抽象的な表現だけでは内容が伝わりにくくなります。
何をどのように改善したのか、事実として確認できる範囲で記載します。ただし、施工会社や専門家から示されていない性能や原因を推測して書き加えないことも重要です。
写真についても、単に画像を並べるだけでは十分ではありません。
どの写真がどの場所なのか、是正前なのか是正後なのか、いつ撮影したのかを追えるように整理します。写真番号と指摘番号を関連付けておくと、確認する側の負担も小さくなります。
是正前後の写真は、可能な範囲で同じ方向や同程度の画角から撮影すると比較しやすくなります。
施工前は対象箇所だけを大きく撮り、施工後は建物全体を遠くから撮影するという組み合わせでは、改善状況を比較しにくくなります。位置関係が分かる全景と、施工内容が分かる近接写真を組み合わせると説明しやすくなります。
提出前には、未完了項目を誤って完了扱いにしていないかも確認します。
複数の工事が同時進行している建物では、写真がそろった項目と施工が終わった項目を混同することがあります。「工事発注済み」「施工中」「施工完了」「完了確認済み」「報告済み」のように進捗状態を分けて管理しておくと、誤りを防ぎやすくなります。
ステップ5 提出後の対応と記録保管まで管理する
是正報告に関する資料を提出したら、最後のステップとして提出後の対応と記録保管を行います。
是正管理は、資料を送った時点ですべて終了するとは限りません。提出先で確認された結果、説明や追加資料への対応が必要になる場合もあるため、提出後の状況も管理します。
そのため、何を、いつ、どこへ提出したのかを記録します。
提出した書類と写真についても、提出時点のデータを一式として保管します。提出後に修正する場合は、元のデータへ上書きして履歴を消してしまうのではなく、どの版を提出したのか分かる管理方法にすると安全です。
施工会社から追加写真を受け取ったり、文章を修正したりした結果、所有者、管理会社、施工会社が異なる資料を持っていると混乱します。提出版を明確にすることで、後日問い合わせがあっても同じ資料を基準に説明できます。
また、是正後の資料は次回の十二条点検でも重要になります。
定期報告制度では、建築物の損傷や腐食などの劣化状況に加え、不適切な改変などによって違反状態が生じていないかを確認し、その結果を行政へ報告する仕組みが設けられています。([国土交通省][1])
前回指摘された場所が次回どのような状態になっているかを比較できれば、単発の点検だけでは把握しにくい変化を確認しやすくなります。
したがって、是正報告の完了を「提出済み」という状態だけで判断するのではなく、提出記録、施工記録、写真、確認記録が保存され、次回点検で参照できる状態まで整えることが重要です。
是正前後の写真を分かりやすく残すポイント
十二条点検後の是正管理では、写真の整理方法がその後の作業効率を大きく左右します。
ここでいう品質とは、高画質であることだけではありません。「どこを撮影した写真なのか」「何を確認してほしい写真なのか」が第三者に伝わることが重要です。
不具合箇所だけを画面いっぱいに撮影すると、劣化状況はよく見えても位置が分からなくなります。特に外壁、屋上、駐車場、地下空間、長い廊下などでは、似たような箇所が多数存在します。
そのため、最初に周囲との位置関係が分かる写真を撮影し、その次に対象部位を撮り、最後に不具合部分を近接して記録するという考え方が有効です。
是正後も同じ構成で撮影します。
例えば、外壁金物の不具合であれば、建物のどの面なのか分かる写真、対象金物が分かる写真、補修した部分が確認できる写真を残します。
また、撮影日も重要です。
工事前、工事中、工事後の写真が混在すると、ファイルを見ただけでは順序を判断できない場合があります。撮影日時と対象箇所を指摘番号へ関連付けておけば、後から整理しやすくなります。
写真を撮影した担当者が報告資料を作るとは限りません。数か月後に別の担当者が資料を見ることも考え、「自分だけが分かる写真」にしないことが重要です。
是正報告のためだけに写真を撮るというより、指摘から是正までの経緯を確認できる記録を残すという意識で撮影すると、次回点検にも活用しやすくなります。
すぐに是正できない項目の管理方法
十二条点検で指摘を受けても、すべての項目を短期間で工事できるとは限りません。
大規模な外壁改修、設備更新、営業時間や施設利用に影響する工事、複数のテナント調整が必要な工事などでは、調査、設計、見積もり、予算承認、発注、施工という複数の工程が必要になることがあります。
この場合、「まだ工事できないから保留」として管理から外してしまうのは避けるべきです。
未完了の項目についても、現在の状態、担当者、次の行動、予定時期などを管理し続けます。
所管行政庁から期限や改善計画について具体的な指示がある場合には、それに従います。自治体によっては、要是正事項について是正計画書等を用いる運用があります。例えば長野県では、要是正の指摘事項があり、既存不適格に該当するものを除く場合について、是正報告書または是正計画書の提出を案内しています。([長野県公式サイト][3])
ただし、特定の自治体の運用を全国共通のルールとして扱うことはできません。対象建物を所管する行政庁の案内や個別の通知を確認する必要があります。
工事完了まで時間がかかる場合でも、管理上何もしていない状態と、是正方針を決めて工程を管理している状態では対応状況が異なります。
また、安全への影響が懸念される指摘については、本工事までの間に暫定的な措置が必要かどうか、必要に応じて専門家へ確認することも重要です。
是正できない項目を「未対応」として放置するのではなく、「対応中の案件」として継続管理する仕組みをつくることで、次回の十二条点検まで忘れられてしまう事態を防ぎやすくなります。
要是正と既存不適格を混同しない
十二条点検の結果を確認する際には、指摘された事項の性質を正しく理解する必要があります。
特に注意したいのが、経年劣化や破損、維持管理上の問題と、建築時期や法令改正などに関係する既存不適格を安易に同一視しないことです。定期報告関係の様式でも、要是正の項目について既存不適格に該当するかを区別して扱う考え方が採られています。([国土交通省][4])
古い建築物では、建築時には適法であったものの、その後の法令改正によって現在の基準とは異なる状態が存在することがあります。一方で、建築後に不適切な改修が行われているケースや、劣化によって本来の状態を維持できていないケースも考えられます。
管理担当者が「現行基準と違うからすべて違反」「古い建物だからすべて問題ない」と独自に判断することは避ける必要があります。
判断が難しい場合には、点検を行った調査者や設計者などへ内容を確認し、必要に応じて確認申請関係資料、検査済証、竣工図、改修履歴などを調べます。
指摘の背景を確認せず、単に見た目を変える工事だけを実施すると、本来の指摘に対応できない場合があります。
是正報告を急ぐときほど、最初に「何が問題として指摘されているのか」を正確に把握することが重要です。
関係者の役割を明確にして停滞を防ぐ
是正報告の進行管理では、役割分担が非常に重要です。
建物所有者、施設管理者、管理会社、調査者、施工会社など複数の関係者がいると、それぞれが「誰かが対応している」と考え、結果として作業が止まることがあります。
そのため、指摘事項ごとに担当を明確にします。
例えば、専門的な指摘内容について確認する担当、工事見積もりを依頼する担当、発注承認を行う担当、工事日程を調整する担当、完成後の資料を回収する担当、行政手続きを管理する担当を整理します。
一人ですべてを担当する場合でも、作業段階を分けて管理する意味があります。
特に注意したいのが、「施工完了」と「案件完了」の違いです。
施工会社は契約した工事が終了すれば施工上の作業は完了します。しかし、管理者側では、その工事が十二条点検の指摘に対応しているかを確認し、必要な写真や資料を受け取り、必要に応じて報告に反映する工程があります。
したがって、施工会社から完了報告を受けただけで案件を閉じるのではなく、是正確認と資料整理まで行って完了とする運用が有効です。
担当者が途中で異動した場合にも、指摘内容と進捗状態が記録されていれば引き継ぎやすくなります。
個人のメールや記憶だけに進捗を依存させないことが、是正報告を安定して進めるポイントです。
複数の指摘事項を効率よく管理する方法
一つの建物に多数の指摘がある場合や、複数施設の十二条点検を管理する場合には、一件ずつの状況を一覧で把握できる仕組みが必要です。
重要なのは、指摘事項に一意の管理番号を付けることです。
同じ番号を現況写真、見積もり、工事写真、完了確認、報告資料まで通して使用すれば、後から資料を探しやすくなります。
例えば、施工会社から写真が十数枚まとめて届いた場合でも、写真に指摘番号が関連付けられていれば整理できます。反対に「昨日工事したところの写真です」という状態では、数か月後に誰も判断できなくなる可能性があります。
進捗状態も段階的に管理します。
「未対応」と「完了」だけでは、その間に何が起きているか分かりません。内容確認中、見積もり中、承認待ち、発注済み、工事日程調整中、施工済み、完了確認待ち、報告準備中など、現在の状態が分かるようにすると停滞している案件を発見しやすくなります。
ただし、管理項目を細かくしすぎると入力作業が負担になります。
重要なのは、管理表を作ることそのものではなく、「次に誰が何をすべきか分かる状態」を維持することです。
定期的に進捗を確認し、止まっている項目があれば原因を確認します。
見積もりを依頼したまま返答がないのか、所有者承認で止まっているのか、工事日は決まっているが写真の担当が決まっていないのかによって、次に行うべき対応が変わります。
このような工程管理を行うことで、十二条点検から数か月経過した場合でも未処理項目を把握しやすくなります。
位置情報を是正管理に活用する
十二条点検では、指摘された場所を再度訪れる作業が何度も発生します。
調査者による確認、施工会社の現地調査、工事、管理者の完了確認など、同じ場所へ複数の担当者が向かう場合があります。
屋内の小さな建物なら室名などで十分なこともありますが、大規模な敷地、駐車場、外構、屋上、長い外壁などでは位置を説明すること自体が負担になります。
そこで活用できるのが、写真と位置情報を組み合わせた記録です。
指摘箇所を撮影するときに位置情報を関連付けておけば、後から地図や現場記録と照合しやすくなります。特に屋外で似た設備や構造物が並んでいる場所では、位置を特定するための補助情報として役立ちます。
ただし、座標が記録されていれば場所を完全に確定できるとは限りません。
衛星測位を利用する機器では、上空の見通しや周囲の建物などの環境によって測位条件が変化します。屋内や地下など衛星信号を利用しにくい場所もあります。そのため、位置情報だけに依存せず、建物名、階、部位名称、写真、周囲の目印などを組み合わせて管理することが大切です。
位置情報は、是正箇所の説明だけでなく、次回点検で同じ場所を確認するときにも活用できます。
例えば、敷地内の外構金物を前回補修した場合、その位置と写真が記録されていれば、次回は補修箇所を探すための手掛かりになります。
点検時の位置と是正後の位置を関連付けて管理することで、「前回と同じ箇所なのか」を確認する際の補助情報にもできます。
是正履歴を次回の十二条点検につなげる
是正報告を効率化する目的は、一回の行政手続きを早く終えることだけではありません。
十二条点検を建物の維持管理に生かすためには、過去の指摘と是正履歴を次回の点検につなげることが重要です。
例えば、前回補修した場所に同じような劣化が再発していれば、単なる経年劣化なのか、原因が別にあるのかを検討するきっかけになります。
屋上の排水口を毎回清掃しているにもかかわらず同じ場所で詰まりが繰り返されるのであれば、周辺から土砂や落ち葉が流入する条件について検討する必要があるかもしれません。
外壁部材を補修した場所に再び変化が見られる場合も、前回の施工記録と現在の状態を比較することで経過を把握しやすくなります。
このような比較を行うためには、前回の写真や工事記録が「どこかに保存されている」だけでは不十分です。
どの指摘に関係する資料なのかが分かり、次回調査時にすぐ取り出せる状態にすることが重要です。
年度ごとにフォルダを分けるだけでは、同じ場所の履歴を追うときに複数年度を行き来しなければなりません。対象箇所や管理番号を軸として過去の履歴を確認できるようにすると、継続的な管理に利用しやすくなります。
十二条点検、是正工事、是正報告、次回点検をそれぞれ独立した業務として扱うのではなく、一つの維持管理サイクルとして考えることがポイントです。
点検で異常を発見し、状態を記録し、必要な是正を行い、その結果を保存し、次回に同じ場所を再確認する。この循環ができれば、報告のためだけの点検ではなく、建物の状態変化を継続的に把握する仕組みにつなげられます。
まとめ
十二条点検で是正報告をスムーズに進めるには、点検後に指摘箇所を直すだけではなく、指摘を受け取った時点から報告と記録保管までを一連の工程として管理することが重要です。
最初のステップでは、指摘事項を一件ずつ整理します。指摘番号、場所、対象部位、指摘内容、現況写真を関連付け、第三者でも対象箇所を追える状態にします。
次のステップでは、指摘内容ごとの優先度と是正方針を決めます。安全への影響や工事条件を考慮し、必要に応じて調査者や専門家へ確認しながら、誰が何を進めるのかを明確にします。
三つ目のステップでは、是正工事と記録を同時に進めます。工事前、必要に応じて工事中、工事後の状態を記録し、工事が終了したという事実だけではなく、元の指摘に対してどのような対応が行われたのか確認できるようにします。
四つ目では、所管行政庁等から求められる手続きに応じて是正報告に必要な資料を整理します。改善状況に関する手続きや書類名称、提出方法などには行政庁による違いがあるため、建物所在地を所管する行政庁の最新情報や個別の指示を確認して進めることが大切です。東京都と長野県でも、改善状況に関する様式や取扱いがそれぞれ案内されています。([東京都都市整備局][2])
五つ目では、提出して終わりにせず、提出内容、提出日、修正履歴、施工写真などを保管します。そして、その資料を次回の十二条点検でも確認できる状態にします。
是正報告で発生しやすい二度手間の多くは、工事そのものだけではなく、場所の再確認、写真の探索、担当者への問い合わせ、指摘と施工内容の照合作業などにもあります。
だからこそ、指摘番号を軸として位置、写真、是正方針、工事、完了確認、報告を一つにつなげることが効果的です。
管理対象が多くなるほど、現場で取得した情報をその場限りにしない仕組みが重要になります。写真だけで対象箇所を管理するのが難しい屋外施設や広い敷地では、位置情報も補助情報として活用できます。
LRTK Phoneでは、スマートフォンと組み合わせて測位を行い、位置情報を写真などの現場記録に活用できます。屋外の是正対象箇所について写真と位置情報を関連付けておけば、施工担当者への場所の共有や是正後の再確認、次回点検時の履歴確認に役立てることができます。([Lefixea Irtk][5])
ただし、衛星測位の利用条件によって測位状態は変化するため、座標だけで対象箇所を断定するのではなく、写真、建物名、部位名称、周囲の目印などと組み合わせて管理することが大切です。こうした使い方であれば、十二条点検から是正報告までの現場記録を、より追跡しやすい形に整理できます。