絶対座標ARで時刻差が問題になる理由
3D図面を現地の風景に重ねて表示するARでは、モデルが正しい絶対座標を持っているだけでは十分ではありません。カメラが画像を取得した瞬間の位置と向きを、同じ時刻の測位情報と対応させる必要があります。
カメラ画像が取得された時刻と、測位センサーが位置を計測した時刻に差があると、画面に映っている現在の風景に対して、少し前または少し後の位置情報が使われます。その結果、3D図面が進行方向へずれたり、端末を振った方向とは反対側へ遅れて動いたりすることがあります。
この現象は、作業者が静止しているときには目立たない場合があります。ところが、歩行しながらAR表示を確認すると、モデルが遅れて追従するように見えます。車両や建設機械で移動しながら確認する場合は、わずかな時刻差でも位置のずれが大きくなる可能性があります。
時間方向のずれによる位置誤差は、概算では移動速度と時刻差の積で考えられます。たとえば、毎秒1メートルで移動しているときに0.1秒の時刻差があれば、移動方向に約0.1メートルの差が生じます。毎秒5メートルで移動する状況では、同じ0.1秒の差でも約0.5メートルになります。
回転運動でも同様です。端末を毎秒30度の速さで振っているときに0.1秒の時刻差があると、画像と姿勢の対応には約3度の差が生じます。遠くにある構造物ほど、わずかな角度差が画面上の大きなずれとして現れるため、位置が合っていても3D図面が横方向へ滑るように見えることがあります。
絶対座標ARで扱う時刻差は、単に端末に表示される時計が数秒ずれているという問題ではありません。カメラの露光時刻、測位センサーの観測時刻、データ受信時刻、演算開始時刻、AR画面への描画時刻が別々に存在します。それぞれの時刻が混同されると、補正値を設定しても期待した結果が得られません。
3D図面のAR表示を実務で利用するには、座標系、標高、センサー間の位置関係に加えて、時間軸も一つの基準にそろえる必要があります。特に絶対座標を利用する場合は、位置の数字が正しく見えるだけで判断せず、その位置がいつ計測されたものなのかを確認することが重要です。
補正を始める前に切り分けるべき誤差
AR表示のずれが見つかったとき、すぐに時刻差の補正値を変更するのは適切ではありません。表示ずれには複数の原因があり、時間方向の誤差と空間方向の誤差を切り分けなければ、別の問題を時刻差として誤って補正する可能性があります。
最初に確認したいのは、3D図面の座標系です。図面が使用している平面座標、緯度経度、高さの基準、単位、軸の向きがAR表示側の設定と一致していなければ、端末が静止していても一定方向のずれが残ります。座標系の不一致は、移動速度にかかわらず発生するため、動きに応じて増減する時刻差とは挙動が異なります。
次に、カメラと測位センサーの物理的な位置差を確認します。測位センサーが取得しているのは、一般にセンサーの基準点の座標です。一方、AR表示の視点はカメラの光学的な位置を基準にします。両者が数センチメートルから数十センチメートル離れている場合、その距離と方向を補正しなければなりません。
この位置差が未補正の状態では、端末の向きを変えるだけでAR表示が円弧状に動くことがあります。端末を右へ向けたときと左へ向けたときでずれの方向が変わる場合は、時刻差だけでなく、カメラと測位センサーの位置関係を疑う必要があります。
さらに、方位や姿勢の推定誤差も切り分けます。位置座標が正しくても、カメラの向きが正しく推定されていなければ、3D図面は視線方向から外れて表示されます。磁気環境、振動、急な旋回、特徴の少ない風景などは、姿勢推定の安定性に影響することがあります。
時刻差によるずれには、比較的分かりやすい特徴があります。同じ方向へ一定速度で移動したときに、モデルが常に後方へ遅れる場合は、古い測位情報が使われている可能性があります。進行方向を反転するとずれの方向も反転する場合は、時間方向の誤差を疑いやすくなります。
反対に、停止しても同じ位置にずれ続ける場合は、座標変換、センサー間の位置差、基準点の設定などが原因である可能性があります。静止後に数秒かけて表示が正しい位置へ近づく場合は、平滑化処理や遅延を含む可能性があります。
補正前には、静止時のずれ、直線移動時のずれ、方向転換時のずれ、端末回転時のずれを分けて記録します。どの動作で誤差が増えるのかを把握することで、時刻差を調整すべき範囲を絞り込めます。
手順1 カメラと測位センサーの時刻基準を確認する
最初の手順は、カメラと測位センサーがそれぞれ何を時刻として記録しているかを確認することです。画面上に同じ形式の時刻が表示されていても、その意味が同じとは限りません。
カメラ側の時刻として考えられるものには、撮影処理を要求した時刻、露光を開始した時刻、露光の中央時刻、画像データを受け取った時刻、画像処理が完了した時刻があります。AR表示で必要なのは、原則として画面に使われる画像が実際の光景を取得した時刻です。
撮影要求時刻を基準にすると、カメラ内部で露光が始まるまでの待ち時間が含まれません。画像受信時刻を基準にすると、露光後の読み出しや画像処理に要した時間が加わります。どの時刻を使っているかによって、数値として設定すべき補正量は変わります。
測位センサー側にも複数の時刻があります。衛星測位の観測が成立した時刻、位置計算の対象時刻、測位結果がセンサーから送信された時刻、端末が結果を受信した時刻、アプリケーションがデータを読み取った時刻などです。
絶対座標ARで合わせたいのは、画像が取得された時刻と、その瞬間に対応する測位結果の観測時刻です。受信時刻同士を比較するだけでは、通信や処理の遅延が混ざるため、実際の観測時刻差を正しく把握できません。
確認時には、各データに記録されている時刻の基準もそろえます。協定された世界時を基準にするのか、端末内部の単調増加する時刻を使うのか、起動後の経過時間を使うのかによって、比較方法が異なります。
日付と時刻を表す時計は、人がログを確認するときには便利ですが、利用中に時刻補正が入ると値が不連続に変化することがあります。処理時間やセンサー間の差を細かく計測するときは、起動後に連続して増加する時刻を併用すると、途中で時計が調整された影響を受けにくくなります。
カメラと測位センサーのデータが同じ端末内で処理される場合でも、必ずしも同じ時計が使われているとは限りません。外付けの測位センサーには独自の時計があり、端末側は受信時刻しか取得できない場合があります。その場合は、センサー時刻と端末時刻の対応関係を記録する仕組みが必要です。
撮影時刻を一つの値で扱えるかどうかも確認します。一般的なカメラでは、画面全体を完全に同時に読み出すのではなく、画像の上から下へ順番に読み出す方式が使われることがあります。端末が速く動いたり回転したりすると、画像の上部と下部で実際の撮影時刻が異なります。
このような読み出し差が無視できない条件では、露光中央時刻へ測位データを合わせるだけでは、画面全体を完全には補正できません。まずは移動速度や回転速度を抑えた運用で影響を小さくし、必要に応じて画像内の読み出し時間まで考慮します。
手順1では、補正値をまだ決めません。カメラ画像、測位座標、姿勢情報、描画処理に付与されている時刻が、それぞれ何を意味するかを文書化することが目的です。ここが曖昧なままでは、後工程で算出した補正値に再現性を持たせられません。
手順2 データ経路ごとの遅延と時刻ずれを記録する
時刻基準を確認したら、カメラと測位センサーのデータがAR画面へ届くまでの経路を整理します。時刻差は一つの処理だけで発生するとは限らず、複数の遅延が積み重なって発生します。
カメラでは、撮影要求、露光、画像読み出し、画像変換、特徴抽出、姿勢推定、画面描画という流れがあります。測位センサーでは、信号観測、位置演算、出力周期に基づく送信、無線または有線通信、端末での受信、座標変換、平滑化、AR処理への受け渡しという流れがあります。
データ経路を整理するときは、観測時刻と到着時刻を分けて記録します。たとえば、ある測位データが端末へ12時00分00.200秒に到着していても、そのデータが表している位置は12時00分00.100秒時点のものかもしれません。この場合、到着時点ではすでに0.1秒前の位置になっています。
測位結果の出力周期にも注意が必要です。測位センサーが一定間隔で位置を出力している場合、カメラ画像の時刻と完全に一致する測位データが毎回存在するとは限りません。カメラ画像が取得された時刻の直前と直後にある測位データから、その間の位置を推定する必要があります。
通信遅延は一定とは限りません。周囲の電波環境、端末の処理負荷、通信量、電力管理、同時に動作している処理などによって変動します。平均遅延だけでなく、遅延のばらつきも記録することが重要です。
一定量の遅延は、固定値として補正できる可能性があります。一方、毎回異なる遅延は、単一の固定補正値では取り除けません。観測時刻が取得できる場合は到着時刻ではなく観測時刻を使い、取得できない場合は遅延の分布を把握して、誤差が許容範囲に収まるかを評価します。
時計そのもののずれも記録します。起動直後には一致していても、時間が経過すると少しずつ差が広がることがあります。これが時計の進み方の違いによるドリフトです。固定値だけで補正すると、開始直後は合っていても、長時間の作業後に再びずれが増える可能性があります。
ドリフトを確認するには、作業開始時だけでなく、一定時間経過後にも同じ時刻比較を行います。開始時の差が20ミリ秒で、1時間後に50ミリ秒へ増えていれば、固定差に加えて時間依存の変化があると判断できます。
データを記録するときは、補正前の値を残します。後から補正値を変更した場合でも、元の観測時刻、受信時刻、座標、姿勢、カメラ時刻が残っていれば、異なる補正方法を再計算できます。補正後の値だけを保存すると、原因分析や再検証が難しくなります。
LRTK Phoneを含む測位機器とAR表示を組み合わせる場合も、測位値がどの時点の位置を表すのか、アプリケーションへ届くまでにどの処理が入るのかを確認します。設定や利用環境によって処理経路が異なることがあるため、推測だけで固定値を決めず、実際のログを基に判断することが大切です。
手順3 動的な検証で固定時刻差を推定する
データ経路を整理したら、実際に端末を動かしながら固定時刻差を推定します。静止状態だけでは、位置が時間方向にずれていても同じ座標が連続するため、時刻差を見つけにくくなります。
検証場所には、座標が確認でき、空が比較的開けていて、直線的に移動できる場所を選びます。壁面、縁石、路面上の測点、構造物の角など、AR表示のずれを目視しやすい対象があると評価しやすくなります。
最初は一定速度で直線移動します。カメラを進行方向へ向け、絶対座標を持つ3D図面の基準線や既知点が、現地対象に対してどの方向へずれるかを記録します。その後、同じ経路を反対方向へ移動し、ずれの向きが反転するかを確認します。
古い測位情報が画像に使われている場合、3D図面は一般に移動方向と反対側へ遅れて見えます。逆方向へ歩くと遅れる方向も反転します。一定の空間オフセットであれば、移動方向を変えても同じ方角へずれやすいため、挙動を比較することで原因を分けられます。
次に、速度を変えて同じ検証を行います。ゆっくり歩いたときよりも速く歩いたときのずれが大きくなる場合、時間方向の誤差が含まれている可能性があります。おおよその時刻差は、進行方向のずれを移動速度で割ることで推定できます。
たとえば、毎秒1メートルで移動したときに進行方向へ0.15メートル相当のずれが確認された場合、単純なモデルでは約0.15秒の時刻差が考えられます。ただし、実際には姿勢推定、画面描画、平滑化、測位誤差なども含まれるため、この値をそのまま最終補正値にはしません。
固定時刻差を探索するときは、複数の候補値を適用して結果を比較します。補正なし、少し過去へずらした場合、少し未来へ進めた場合というように、時間軸上の対応を段階的に変更します。どの値で往路と復路のずれが最も小さくなるかを調べます。
補正値は一方向の走行だけで決めないことが重要です。往路だけを基準にすると、座標系の固定ずれやセンサー間の位置差が時間差として取り込まれる可能性があります。往路と復路、低速と高速、直線移動と方向転換を組み合わせて評価します。
端末をその場で左右へ回転させる検証も有効です。位置をほぼ変えずに向きだけを変え、3D図面の端部が現地対象に対して遅れて追従するかを観察します。回転時の遅れが大きい場合は、カメラと姿勢情報の時刻差、画面描画の遅延、画像読み出しの影響も考えられます。
補正候補を比較するときは、目視だけに頼らず、可能であれば画面記録とログを同時に残します。画面内の基準対象と3D図面の位置関係を後から確認できれば、現場で感じた印象だけで補正値を決めることを避けられます。
最終的な固定時刻差は、特定の一回で最も良く見えた値ではなく、複数回の検証で安定して誤差を小さくできる値を選びます。値が試験ごとに大きく変わる場合は、固定遅延よりも通信のばらつき、時計ドリフト、測位状態の変化などを疑う必要があります。
手順4 測位データを補間してカメラ時刻へ合わせる
固定時刻差を推定した後は、カメラ画像の取得時刻に対応する位置を求めます。単に直前の測位データを使用する方法では、測位の出力間隔に応じた階段状の誤差が発生しやすくなります。
基本的な考え方は、カメラの基準時刻に固定補正値を加減し、その時刻を挟む測位データから位置を補間することです。たとえば、カメラ時刻が10.150秒で、補正後に対応させたい時刻が10.050秒になった場合、その前後にある測位データを用いて10.050秒時点の位置を推定します。
直線移動が中心で、測位データの時間間隔が短い場合は、前後二点を使った線形補間が実用的です。前の時刻から後の時刻までの経過割合に応じて、座標を内分します。これにより、直前の測位値をそのまま使う場合よりも滑らかな位置を得やすくなります。
ただし、急な加速、旋回、段差通過などがある場合、単純な線形補間では実際の軌跡を十分に表せないことがあります。必要に応じて、速度、加速度、角速度などの情報を利用し、動きの変化を考慮します。
未来側の測位データを使って補間するには、そのデータが到着するまで描画を待つ必要があります。待ち時間を設ければ時間合わせの精度を高められる可能性がありますが、AR画面の応答が遅くなります。リアルタイム性を優先する場合は、過去の位置と速度から短時間先を予測する方法もあります。
予測を使うと表示遅延を小さくできますが、急停止や急旋回では誤差が増えることがあります。そのため、補間と予測のどちらを採用するかは、利用目的と端末の動かし方に応じて判断します。
施工前の位置確認のように、作業者がゆっくり移動しながら見る用途では、わずかな描画待ち時間を許容して安定性を優先できる場合があります。一方、移動体から連続確認する用途では、予測を含めた処理が必要になることがあります。
座標を補間するときは、緯度経度の値をそのまま単純に補間するよりも、対象地域に適した平面座標や局所的な直交座標へ変換して計算した方が扱いやすい場合があります。対象範囲、座標系、必要精度を確認し、距離と方向を適切に表現できる座標で処理します。
高さ方向も同じ時刻へ合わせます。水平位置だけを補間し、高さは直前値のままにすると、坂道や法面を移動したときに3D図面が上下へ遅れて見えることがあります。ただし、高さは水平位置より変動が大きく見える場合があるため、過度な追従や平滑化にも注意が必要です。
姿勢情報を時間補間する場合は、角度を単純に数値として補間すると、角度が一周する境界付近で不自然な結果になることがあります。姿勢を連続的に表現できる方法を用い、最短の回転経路になるよう処理します。
カメラ、測位センサー、姿勢センサーのデータを統合するときは、すべてを同じ基準時刻へ合わせます。位置だけをカメラ時刻へ合わせても、姿勢が別の時刻のままでは、AR表示のずれが残ります。
また、測位データが一時的に途切れた場合の処理も決めておきます。前後データの時間間隔が通常より長い場合に無条件で補間すると、実際とは異なる直線軌跡を作る可能性があります。許容する時間間隔を設定し、それを超えた場合は精度低下を画面に示す、AR表示を一時停止する、再測位を待つといった対応が必要です。
時刻補正値を適用する位置も重要です。元の測位ログを書き換えるのではなく、AR表示へ渡す段階で補正した時刻と座標を生成すると、元データを保持したまま条件を比較できます。後から補正値を変更する場合にも、再計算しやすくなります。
手順5 補正結果を現場条件別に検証して運用へ反映する
時刻補正を実装したら、一つの場所で表示が合っただけで完了としないことが重要です。現場の移動速度、端末の向き、測位環境、処理負荷によって、補正結果が変わる可能性があります。
まず、既知の座標を持つ基準対象を用意します。測点、構造物の角、路面上の線、杭位置など、3D図面上の位置と現地位置を対応させやすい対象を選びます。対象は一か所だけでなく、離れた複数地点に設けると、座標変換の問題も見つけやすくなります。
静止状態では、数秒間保持したときの平均的なずれと、表示のばらつきを確認します。静止時に大きな一定差が残る場合は、時刻補正よりも座標系、センサー間の位置差、基準点設定を再確認します。
低速移動では、歩行しながら基準線に沿って往復し、進行方向によるずれの反転が残っていないかを確認します。補正前に後方へ遅れていた表示が、補正後に進行方向へ先行して見える場合は、補正量が大きすぎる可能性があります。
移動速度を上げる試験では、実際の運用で想定する上限付近まで確認します。ただし、安全を優先し、表示確認を行う担当者と移動操作を行う担当者を分けるなど、現場条件に合わせて実施します。
方向転換の試験では、直角に曲がる、折り返す、円を描くように移動するなど、速度と向きが変化する動作を確認します。直線移動では良好でも、旋回時にずれが増える場合は、姿勢情報の時刻差や補間方法を見直します。
端末回転の試験では、位置を変えずにゆっくり左右へ振った場合と、やや速く振った場合を比較します。速い回転だけで大きくずれる場合は、固定時刻差のほか、カメラの読み出し方式や描画処理の遅延も影響している可能性があります。
測位環境が変化する場所でも確認します。開けた場所で良好でも、建物付近、樹木の近く、法面の際などでは測位値のばらつきが増えることがあります。時刻補正では測位そのものの不確かさは解消できないため、測位状態が悪いときに表示を継続する条件を決めておきます。
端末の処理負荷も検証対象です。大容量の3D図面を表示した場合、他の処理を同時に動かした場合、長時間使用した場合などに、描画遅延が変化する可能性があります。通常の検証用モデルだけでなく、実際に現場で使うデータ量に近い条件で確認します。
補正結果は、平均的なずれだけで評価しません。最大のずれ、移動方向ごとの差、速度による変化、作業開始直後と長時間経過後の違いも記録します。平均値が小さくても、特定条件で大きく外れる場合は、その条件を運用上の制限として明確にする必要があります。
合否基準は、用途に応じて設定します。概略的な位置確認と、構造物の細部照合では必要な精度が異なります。AR表示は視覚的な支援手段であり、求める精度によっては別の測量や検査方法との併用が必要です。
補正値が確定したら、機器構成、設定、アプリケーションの版、測位出力周期、3D図面の座標系、試験場所、移動速度、補正値、検証結果を記録します。補正値だけを残しても、構成が変わったときにその値を継続利用できるか判断できません。
時刻差補正で見落としやすい注意点
時刻差の補正では、固定オフセットだけに注目しすぎないことが大切です。実際のシステムでは、固定遅延、通信のばらつき、時計ドリフト、描画遅延、センサー間の位置差が重なって見えることがあります。
特に注意したいのが、受信時刻を観測時刻として扱うことです。測位データが届いた瞬間をその位置の時刻とみなすと、通信や演算にかかった時間が含まれます。可能な限り、測位データが表している観測時刻を利用します。
平滑化処理も遅れの原因になります。表示を安定させるために過去の複数データを平均すると、ばらつきは小さく見えますが、動きに対する追従が遅れることがあります。時刻補正後もモデルがゆっくり追いかけてくる場合は、位置や姿勢の平滑化設定を確認します。
補正を二重に適用する問題もあります。測位センサー側ですでに予測や遅延補正が行われている状態で、AR側でも同じ量を補正すると、表示が先行する可能性があります。各処理段階で何が行われているかを把握し、一つの遅延を複数回補正しないようにします。
センサー間の位置差を時刻差で隠さないことも重要です。カメラと測位センサーが離れていると、端末回転時に見かけ上の位置変化が生じます。この誤差を時間方向へずらして一時的に合わせても、別の向きや速度では再びずれます。
時計のドリフトがある場合、固定値での補正は長時間維持できません。開始時刻に対する経過時間に応じて補正値を変える方法や、定期的に二つの時計の対応を更新する方法を検討します。
端末が一時停止している間に、データがまとめて処理されることもあります。処理待ちが発生すると、受信時刻の間隔が不規則になり、瞬間的に古い測位値が使われる可能性があります。平均的な遅延だけでなく、最大遅延や連続した遅延発生も確認します。
3D図面の描画時刻も無視できません。カメラ画像と測位値を正しく合わせても、その結果が画面に表示されるまでに時間がかかれば、利用者が見る時点では風景が変化しています。画面更新の直前に姿勢や位置を更新するなど、描画経路全体で遅延を管理する必要があります。
画面録画による確認では、録画処理自体が端末負荷を増やす場合があります。通常利用時と録画時で挙動が変わる可能性を考慮し、録画を使わない試験結果とも比較します。
測位精度が低下している状態で補正値を評価すると、時間差と測位誤差を分離できません。測位状態、利用している補正情報、観測環境、位置のばらつきを記録し、安定した条件で基準となる補正値を求めます。
継続的に精度を保つための管理方法
時刻差補正は、一度設定すれば永久に同じ値を使えるとは限りません。機器構成、通信方法、処理内容、データ量、ソフトウェアの更新などによって、遅延特性が変化する可能性があります。
運用では、作業開始前に短時間の確認を行います。既知点の前で静止表示を確認した後、数メートルの往復移動を行い、進行方向に応じた遅れや先行がないかを確認します。この確認を定型化すれば、大きな異常を現場作業前に見つけやすくなります。
補正値には、適用対象となる構成情報をひも付けます。測位センサー、接続方法、端末、カメラ設定、測位出力周期、AR表示設定などが異なれば、同じ補正値を利用できるとは限りません。
変更管理も必要です。アプリケーションの更新、処理方式の変更、3D図面の軽量化方法の変更、通信設定の変更を行った場合は、再検証の要否を判断します。特に、データ取得や描画の処理が変更された場合は、時刻差が変わる可能性があります。
作業中には、測位状態だけでなく、データの鮮度を示す情報を確認できると有効です。現在表示に使っている測位データが何秒前のものか、最後の更新からどれだけ経過したかが分かれば、古いデータによる誤表示を判断しやすくなります。
許容時間を超えた測位データを使い続けない仕組みも重要です。通信が途切れたときに最後の座標を表示し続けると、作業者が移動しても3D図面が古い場所に残ります。一定時間以上更新されていない場合は、表示の信頼度を下げる、警告を出す、絶対座標による重ね合わせを一時停止するといった対応が考えられます。
時刻補正値は、現場ごとに無制限に調整しない方が管理しやすくなります。現場で表示が合わないたびに補正値を変更すると、測位環境や座標設定の問題まで時間差として取り込むおそれがあります。基準となる検証手順を決め、その手順で再現できた場合だけ補正値を変更します。
記録には、成功した条件だけでなく、表示が不安定になった条件も残します。急旋回時、長時間使用時、通信が不安定な場所、大容量モデル表示時などの挙動を蓄積すると、利用可能な範囲と注意すべき条件を明確にできます。
現場担当者には、時刻差による典型的な表示の特徴を共有します。歩行方向と反対側へモデルが遅れる、進行方向を反転するとずれも反転する、静止すると徐々に合うといった特徴を理解していれば、座標系の誤りや測位不良と区別しやすくなります。
絶対座標ARを検査や出来形確認の補助に利用する場合は、AR画面だけで合否を確定せず、必要に応じて座標値、測定結果、設計データとの数値比較も行います。時刻補正はAR表示の整合性を高めるための重要な処理ですが、測位や設計データ自体の正しさを保証するものではありません。
まとめ
絶対座標ARで3D図面を正しい位置に表示するには、空間的な座標合わせだけでなく、カメラと測位センサーの時間合わせが必要です。画像が取得された瞬間と異なる時刻の測位座標を使うと、移動時や端末回転時にモデルが遅れたり先行したりします。
補正では、最初にカメラと測位センサーの時刻が何を表しているかを確認します。次に、観測から通信、演算、描画までのデータ経路を整理し、固定遅延、ばらつき、時計ドリフトを記録します。
その後、一定速度の往復移動や端末回転などの動的な試験を行い、進行方向によるずれの変化から固定時刻差を推定します。推定した補正値を使い、カメラ時刻を挟む測位データから位置を補間することで、画像と絶対座標を同じ時間軸へ近づけます。
補正後は、静止、低速移動、高速移動、旋回、長時間使用、大容量モデル表示など、実際の運用を想定した条件で検証します。平均的に合っているかだけでなく、最大誤差、移動方向による差、時間経過による変化も確認することが重要です。
また、時刻差と座標系の誤り、カメラと測位センサーの位置差、姿勢推定誤差、測位不良を混同しないようにします。時刻補正だけで表示が改善しない場合は、時間軸以外の設定を含めて再点検する必要があります。
絶対座標を持つ3D図面のAR表示を安定した現場運用につなげるには、補正値そのものよりも、時刻の定義、ログの保存、再現可能な検証、変更管理を一体として整えることが大切です。測位とAR表示を現場で活用する際は、LRTK Phoneの対応機能や利用条件を確認し、今回紹介した時刻差の確認手順を実際の作業フローへ組み込んでください。