土地の共有者の一人に認知症がある場合、地籍調査の立会いや筆界確認を誰がどのように行うのかは、診断名だけでは決められません。家族が日常的に財産を管理していても、家族であることだけを理由に、本人に代わって筆界を確認したり、本人名義の書類へ署名したりできるとは限らないためです。
一方、認知症と診断されているからといって、本人が地籍調査に関する説明を理解できず、意思を示せないと一律に扱うことも適切ではありません。意思表示の有効性は、本人の状態だけでなく、説明の内容や難しさ、意思表示をした時点の状況などを踏まえて個別に検討する必要があります。
地籍調査では、土地所有者その他の利害関係人またはその代理人による現地立会いのほか、図面等を用いて筆界を確認する方法が採られることもあります。具体的な確認方法、提出書類、期限は調査実施主体や案件によって異なるため、早い段階で市区町村などの地籍調査担当部署へ事情を伝えることが重要です。地籍情報提供システム+1
この記事では、地籍調査の対象地に複数の共有者がいて、そのうちの一人に認知症がある場合に、公開情報と一般的な実務上の注意点を踏まえて確認したい4点を整理します。個別案件の法的判断や代理権の判定は、調査実施主体、家庭裁判所、法務局、弁護士、司法書士、土地家屋調査士などへ確認してください。
地籍調査で共有者の確認が重要になる理由
土地が共有されている場合、複数の共有者が持分を有しています。地籍調査における筆界確認についても、連絡窓口となった共有者一人の意向だけで、当然にほかの共有者全員の確認を代替できるとは限りません。国の検討資料でも、共有地については原則として土地所有者等の全員による筆界確認を必要とする取扱いが示され、その見直しは長期的な検討課題とされています。国土交通省
したがって、共有者の一人に認知症があると分かった場合は、その人を最初から手続の対象外にするのではなく、本人による確認が可能か、法的な支援者が選任されているか、任意の代理人が有効な権限を持つかを順番に確認する必要があります。
本人が過去に委任状を作成していても、委任状があるという事実だけで十分とは限りません。対象土地、委任事項、作成時期、本人の意思、委任の終了事由の有無などを確認し、今回の立会いや書類確認が委任の範囲に含まれるかを調査担当者と整理する必要があります。
成年後見制度を利用している場合も、成年後見、保佐、補助、任意後見では権限の仕組みが異なります。特に保佐人や補助人の代理権は、家庭裁判所が定めた特定の行為に限られることがあります。また、任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。肩書だけで判断せず、登記事項証明書や代理権目録などで現在の権限を確認することが欠かせません。法務省+2裁判所+2
確認1 診断名だけでなく本人が今回の内容を理解できるか確認する
最初に確認したいのは、認知症という診断名の有無だけではなく、本人が今回示される土地、筆界案、立会いの目的、確認後の手続を理解し、自分の意思を示せる状態かどうかです。
認知症の症状や進行の程度には個人差があります。日常生活で支援が必要であっても、所有する土地の場所や取得経緯、過去の境界標識について具体的に説明できる人もいます。反対に、会話が自然に見えても、対象地を取り違えたり、説明した内容を保持できなかったりする場合があります。
そのため、「認知症だから本人への説明は不要」「本人の署名は常に無効」と決めつけるのは適切ではありません。反対に、返事やうなずきがあっただけで、内容を理解した有効な意思表示があったと断定することも避ける必要があります。
本人へ説明するときは、対象地の所在と地番、確認する線や点、既存の境界標識、隣接地との位置関係、確認後に作成される成果を分けて示します。図面だけで理解しにくい場合は、現地写真や建物、道路、水路、塀などの目印を対応させると、内容を把握しやすくなることがあります。
本人の回答が短時間で大きく変わる、説明した土地と別の土地を話している、筆界案の意味を理解できていない可能性が高いといった場合は、その場で署名や押印を急がないことが安全です。家族が本人の土地に詳しいと説明していても、本人自身の意思表示を根拠に手続を進めるなら、本人が今回の内容を理解しているかが重要になります。
ただし、地籍調査の担当者や家族が、本人の医学的な診断や法的な能力を独自に確定することも適切ではありません。判断に迷う場合は、本人の尊厳と個人情報に配慮しながら、成年後見制度の利用状況を確認し、調査実施主体や法律・登記の専門職へ相談します。
記録を残す際は、病名や診療内容を必要以上に詳しく書くのではなく、説明した資料、確認した事項、本人の回答の概要、同席者、日時、保留した事項など、地籍調査に必要な情報に限定します。認知症の診断や病歴に関する情報は要配慮個人情報に該当し得るため、共有範囲を必要最小限にすることも重要です。PPC+1
確認2 成年後見人等や代理人の有無と権限を確認する
本人による確認に不安がある場合は、成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人または任意の代理人がいるかを確認します。名称が似ていても、本人に代わって行える行為の範囲は同じではありません。
成年後見人は、原則として成年被後見人の財産に関する法律行為を代理する立場にありますが、具体的な書類の性質、本人と成年後見人との利益相反、他の共有者との関係などによって追加の確認が必要になることがあります。法務省
地籍調査の書類であっても、単なる筆界確認を超えて、土地の譲渡、交換、和解、持分処分などを含む場合は、別の法的問題が生じます。
保佐人や補助人は、選任されているだけであらゆる行為を代理できるわけではありません。代理できるのは、家庭裁判所の審判で付与された範囲です。保佐人には民法上の一定の重要行為について同意権や取消権がありますが、代理権は別途付与された特定の行為に限られます。補助人の同意権や代理権も、審判で定められた範囲を確認する必要があります。裁判所+2裁判所+2
任意後見については、本人が判断能力のあるうちに公正証書で契約を結んでいても、それだけで任意後見人予定者が代理権を行使できるとは限りません。任意後見監督人が家庭裁判所により選任され、契約が発効しているかを確認し、代理権目録に今回の行為が含まれるかを確認します。法務省+1
権限確認では、成年後見登記の登記事項証明書、家庭裁判所の審判書謄本、確定証明書、代理権目録などが手掛かりになります。ただし、提出または提示を求められる書類は案件や調査実施主体によって異なります。必要以上の個人情報を提出せず、どの部分の確認が必要かを担当者へ事前に聞くことが安全です。成年後見登記の証明書には、後見等の類型や代理権の内容が記載される場合があります。法務省+1
任意の代理人が対応する場合は、委任状の作成時に本人が委任の意味と対象行為を理解していたか、委任事項が今回の地籍調査を具体的に含むかを確認します。「土地に関する一切の手続」といった抽象的な文言だけでは、筆界案の確認や書類への署名まで含むか判断しにくいことがあります。
本人が現在も委任内容を理解できる場合は、調査実施主体の指定書式や案内に従い、対象土地、委任する手続、代理人、作成日などを具体的に記載する方法が考えられます。本人が委任の意味を理解できない状態であれば、家族だけの判断で新しい委任状を作らず、法定後見制度を含む適切な支援方法を相談します。
また、代理人と本人の利益が対立する可能性がある場合は、通常の代理権だけで進められないことがあります。例えば、本人と成年後見人が隣接地の所有者同士である場合や、共有持分の帰属をめぐり利害が対立する場合です。このような場合は、監督人による代理や特別代理人等の選任が必要になることがあるため、家庭裁判所や専門職への確認が必要です。裁判所+1
確認3 他の共有者と地籍調査担当者への連絡方法を整理する
共有者の一人による確認が難しい可能性があると分かったら、立会い当日まで待たず、地籍調査の担当部署へ連絡します。必要書類や確認方法を事前に調整できれば、当日の中断や再日程の発生を減らせます。
担当者へ伝える内容は、本人の病状を詳しく説明することではありません。共有者の一人について本人による現地立会いや書類確認が難しい可能性があること、成年後見人等の選任状況、代理人候補、既存の委任状の有無、連絡に必要な時間など、手続に必要な範囲を整理して伝えます。
地籍調査における確認方法は、必ずしも現地立会いだけではありません。図面等の送付、会場での図面確認、調査手法に応じた別の方法が採られる場合があります。ただし、本人が現地へ行けないことと、有効な意思表示や代理権の問題は別です。郵送やオンラインに切り替えただけで代理権の問題が解消するわけではありません。地籍情報提供システム+1
他の共有者には、本人の病名や症状を必要以上に共有せず、「有効な確認方法と代理権を整理している」と説明します。本人の尊厳を守りながら、手続上必要な協力を求める姿勢が大切です。
共有者の代表者や連絡窓口を決める場合は、連絡を取りまとめる権限と、本人に代わって筆界を確認し署名する代理権を分けて考えます。通知の受領や日程調整を担当する人が、当然に全共有者を代理できるわけではありません。
連絡体制では、誰が担当部署へ連絡するのか、誰が現地へ行くのか、誰が権限確認書類を準備するのか、誰が他の共有者へ結果を伝えるのかを明確にします。口頭だけで役割を決めると、署名権限や提出期限について認識がずれやすいため、簡単な連絡メモを共有すると安全です。
共有者間や隣接所有者との境界認識が一致していない場合は、認知症の共有者への対応だけに問題を限定しないことも重要です。既存の公図、地積測量図、過去の境界確認資料、現地標識、占有状況などを調査担当者へ示し、筆界案の根拠を確認します。
電話で協議した場合も、連絡日、担当部署、担当者名、伝えた内容、求められた書類、回答期限、次の連絡予定を記録します。自治体指定の委任状や提出方法がある場合は、独自の書式を作る前に入手しておくと、やり直しを防ぎやすくなります。
確認4 必要書類と期限と対応記録を管理する
4つ目は、必要書類、通知、期限、連絡履歴、現地資料を一つの案件記録として管理することです。
権限確認に使われる可能性がある資料には、成年後見登記の登記事項証明書、審判書謄本、確定証明書、代理権目録、本人確認書類、委任状、土地の登記事項証明書などがあります。ただし、すべてが常に必要なわけではありません。調査担当者へ確認し、必要な資料だけを準備します。
診断書や詳しい医療記録は、代理権を直接証明する書類ではありません。調査実施主体から法令や手続上の根拠を示して求められた場合を除き、病状の詳細を安易に提出しないことが安全です。本人の状態について説明が必要な場合も、手続に必要な範囲へ絞ります。
本人が自ら確認できる可能性がある場合は、説明に使う図面、現地写真、登記記録、過去の測量図、境界確認書、工事図面などを整理します。本人の記憶は重要な手掛かりになり得ますが、記憶だけで筆界を決めず、客観的資料と現地状況を照合します。
過去の測量図については、作成年月日、作成者、座標値の有無、隣接所有者の確認状況、現地標識との一致、後年の分筆や合筆の有無などを確認します。古い図面に線が描かれていることだけで、現在の筆界が確定するわけではありません。
現地写真は、境界標識の近接写真だけでなく、道路、建物、塀、擁壁、水路、樹木などとの位置関係が分かる遠景も残します。撮影日、撮影方向、対象地番、写真番号を記録し、図面上の撮影位置と対応させます。
地籍調査は、一筆地調査、測量、地籍図・地籍簿案の作成、成果の閲覧など複数の段階で進みます。成果案は閲覧に供され、誤り等を申し出る機会が設けられます。立会いが終わったから手続がすべて完了したと考えず、成果閲覧の案内まで追跡することが大切です。国土交通省QSR+1
通知を受け取ったら、対象地番、共有者名、通知の種類、立会日時、提出期限、閲覧期間、問い合わせ先を一覧化します。成年後見人や遠方の共有者との調整には時間がかかることがあるため、期限までの担当者と連絡日を早めに決めます。
対応記録には、本人への説明、本人の意思確認、代理権資料の確認、共有者への連絡、調査担当者との協議、現地立会い、追加資料の提出、成果閲覧までの経過を残します。記録の目的は本人を排除することではなく、本人の権利へ配慮しながら適切な方法を検討した経過を後から確認できるようにすることです。
家族が本人の代わりに立ち会う場合の注意点
実務上は、本人の配偶者や子が「自分が代わりに立ち会う」と申し出ることがあります。家族が長年土地を管理し、境界標識や過去の工事について詳しいこともあります。
しかし、土地に詳しいことと、本人を法的に代理できることは別です。家族は現地事情を説明する人や連絡窓口にはなれても、家族関係だけで本人に代わって筆界を確認し、本人名義の書類へ署名できるわけではありません。
本人が委任内容を理解できる場合は、調査実施主体の案内に従って家族へ委任する方法が考えられます。その際は、対象土地の所在と地番、委任する手続、代理人の氏名、作成日などを明確にし、立会いだけを任せるのか、図面確認や書類提出まで含めるのかを区別します。
本人が委任の意味を理解できない状態で、家族が本人の氏名を代筆したり、本人の印鑑を使って新たな委任状を作ったりすることは避けなければなりません。印鑑を保管していることは、本人の代理権を証明するものではありません。
本人の署名を家族が補助する場合も、本人の意思に基づく単なる筆記補助なのか、家族が代理人として署名するのかを明確にします。本人が内容を理解して自ら意思を示している場合の筆記補助と、本人が理解できない状態で家族が判断する代理行為は性質が異なります。
成年後見人等が選任されている場合は、その人が親族か専門職かにかかわらず、権限を確認して進めます。成年後見人等が遠方にいる場合も、家族が代わって署名できると即断せず、成年後見人等と調査担当者の双方へ対応方法を確認します。
家族が現地事情を説明し、法的な確認や署名は権限を持つ本人または代理人が行うという役割分担も考えられます。現地に詳しい人と法的権限を持つ人が別であることは珍しくないため、誰がどの立場で参加したかを記録しておくことが重要です。
成年後見制度を利用していない場合の進め方
認知症があっても、成年後見制度が利用されているとは限りません。家族が日常生活や税金の支払いを支援していても、不動産に関する正式な代理権を持つ人がいない場合があります。
本人が地籍調査の内容や委任の意味を理解できる場合は、本人が立ち会う、図面等で確認する、家族その他の人へ具体的に委任する方法を検討できます。認知症の診断だけを理由に、直ちに成年後見制度の利用が必要になるわけではありません。
本人が今回の内容を理解できず、有効な委任をすることも難しい場合は、家族だけで代理手続を進めることは困難です。その場合は、法定後見制度の利用が選択肢になります。ただし、申立てをすれば必ず希望する親族が成年後見人等に選任されるわけではなく、家庭裁判所が本人の状況や支援の必要性を踏まえて判断します。
成年後見制度は、地籍調査の一回だけのために簡易な代理人を選ぶ制度ではありません。選任後は、本人の財産管理や身上保護に関する継続的な職務、家庭裁判所等への報告が伴います。地籍調査以外の財産管理や契約も含め、本人にとって制度利用が必要かを検討することが大切です。裁判所+1
地籍調査の期限が近くても、申立てから審判、確定、登記まで直ちに終わるとは限りません。まず調査担当者へ事情を説明し、立会時期、図面確認、資料提出、回答期限の調整が可能かを相談します。調査実施主体が代替方法を案内する場合もありますが、個別判断になるため、自己判断で通知を放置しないことが重要です。
成年後見制度の利用を検討する場合は、家庭裁判所の案内、市区町村の相談窓口、地域包括支援センター、権利擁護支援の窓口、弁護士や司法書士などへ相談します。地籍調査担当部署は地籍調査の進め方を案内できますが、成年後見制度の必要性や代理権の法的判断を最終的に決める機関ではありません。
土地境界のみなし確認制度との関係
地籍調査では、現地調査等の通知を複数回行っても土地所有者等から反応がない場合に、一定の手続を経て筆界を確認したものとみなす土地境界のみなし確認制度が設けられています。2024年6月28日に施行された改正では、無反応の所有者等へ筆界案を送付し、20日以上経過しても意見の申出がない場合に、確認したものとみなして調査を進めることができる仕組みが整備されました。国土交通省+1
ただし、共有者に認知症があるという理由だけで、この制度が自動的に適用されるわけではありません。制度は、通知を複数回行っても反応がない所有者等への手続です。本人が通知の意味を理解できなかった可能性、家族や成年後見人等から連絡がある場合、筆界案への異議や回答保留が示されている場合は、単純な無反応とは事情が異なります。
実務担当者が「本人は回答できないから、みなし確認で進めればよい」と決めるものでもありません。制度を適用できるかは、調査実施主体が準則や具体的事情に基づいて判断します。本人が確認できる方法、法的な代理人の有無、連絡経過、筆界案への意見を整理して担当部署へ伝えることが重要です。
また、通知を放置してみなし確認を待つことは勧められません。筆界案に疑問がある、代理権の確認に時間が必要、本人への説明方法を調整しているといった事情があれば、期限前に担当部署へ連絡し、対応方法を相談します。
筆界と所有権界を混同しない
地籍調査で確認する境界を考えるときは、筆界と所有権界の違いを理解する必要があります。
筆界は、土地が登記された際に、その土地の範囲を区画するものとして定められた線です。所有者同士の合意だけで自由に変更できるものではありません。一方、所有権界は所有権の及ぶ範囲を示す線で、筆界と一致することが多いものの、取得時効、売買、交換などの事情によって一致しない場合があります。法務局+1
例えば、隣地所有者と「長年この塀まで使っているので、ここを境界にしよう」と合意しても、その合意だけで登記上の筆界が移動するわけではありません。地籍調査は、都合のよい位置へ新しい筆界を作る場ではなく、資料と現地状況を踏まえてもともとの筆界を調査するものです。
代理人が地籍調査の立会いや筆界案の確認を行える場合でも、その権限が土地の一部を譲渡する合意、交換、共有持分の処分、所有権界に関する和解まで含むとは限りません。示された書類に筆界確認以外の内容が含まれていないかを確認します。
境界標識と塀の位置が異なる、長年の利用範囲と公図の形状が合わない、過去に口頭で土地を交換したという話がある場合は、その場で一つの線に安易に同意せず、調査担当者や専門職へ資料を示して確認します。
実務担当者が避けたい対応
避けたい対応の一つは、認知症という診断名だけで本人を手続から除外することです。本人が今回の内容を理解できる場合には、分かりやすい方法で本人へ説明し、意思を確認する余地があります。
反対に、本人が内容をほとんど理解していない可能性があるのに、うなずきや形式的な署名だけを得て手続を進めることも避ける必要があります。署名や押印の有無だけでなく、何について、どの資料を用いて意思を確認したかが重要です。
家族が本人の印鑑を持参したため、そのまま本人名義で押印してもらう対応も危険です。印鑑の保管、固定資産税の支払い、日常的な土地管理は、本人を代理する権限を直接証明するものではありません。
連絡窓口になった共有者が、ほかの共有者全員を代表できると決めつけることも避けます。連絡の取りまとめと、筆界確認や署名を行う代理権は別です。
現地立会いの場で、「昔からここで間違いない」と強く求められても、資料の不一致や代理権の不足があれば、その場で書類を完成させることを優先しません。確認できない点を保留し、追加資料や権限書類をそろえます。
本人の病名や症状を、隣接所有者、地域住民、手続に関与しない親族へ詳しく伝えることも避けます。立会方法の調整が必要であることだけを伝え、個人情報の共有を必要な範囲にとどめます。
また、対応が難しいことを理由に通知を放置してはいけません。回答できない事情がある場合も、期限前に担当部署へ連絡し、保留や期限調整、必要書類について相談することが重要です。
立会い前から現地記録を整えておく
共有者に認知症がある案件では、本人が過去の土地利用や境界標識について重要な情報を持っていることがあります。本人が説明できる状態であれば、負担へ配慮しながら、土地を取得した経緯、過去の立会い、境界杭を設置した時期、塀や擁壁の工事、隣接所有者との話合いなどを聞き取ります。
ただし、本人や家族の記憶だけで筆界を決めるのではなく、調査資料の一つとして扱います。記憶の内容、聞き取った日、同席者を記録し、公図、地積測量図、登記記録、現地標識、過去の写真などと照合します。
現地では、境界標識の有無だけでなく、標識の種類、損傷、傾き、周辺の工事跡、地形の変化を確認します。草木や土砂で隠れている標識を探す場合も、所有者や管理者の承諾なく掘削したり、標識を動かしたりしません。
写真は近接写真と遠景写真を組み合わせます。境界標識だけを撮影すると、後から場所を特定できないことがあります。道路、建物、水路、塀などを含め、撮影方向、対象地番、写真番号を記録します。
図面には、「既設の境界標識」「共有者が説明した位置」「隣接所有者が主張する位置」「調査担当者が示した筆界案」「確認済みの点」「保留中の点」を区別して記載します。測定した位置が、そのまま法的に確認された筆界になるわけではないため、候補点と確定した成果を混同しないことが重要です。
位置情報付き写真や測点記録を利用する場合も、記録の精度、測定方法、基準点との関係を確認します。スマートフォン等で取得した位置情報は、現地整理の補助にはなっても、それだけで筆界を確定する資料になるとは限りません。
立会い後は、確認できた点、確認できなかった点、追加資料が必要な点、次回の回答期限を整理します。本人や成年後見人等へ結果を説明する際は、専門用語だけでなく、写真と図面を対応させて示すと、確認内容を共有しやすくなります。
まとめ
地籍調査の対象土地に複数の共有者がいて、その一人に認知症がある場合は、本人を一律に手続から除外するのでも、家族へ当然に任せるのでもなく、個別の状況に応じて確認方法を整える必要があります。
第一に確認するのは、診断名ではなく、本人が今回の地籍調査の内容を理解し、意思を示せるかどうかです。本人が理解できる場合は、図面や現地写真を使って説明を工夫します。判断が難しい場合は、実務担当者だけで能力を確定せず、調査実施主体や専門職へ相談します。
第二に、成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人または任意の代理人の有無を確認し、登記事項証明書や代理権目録などで権限の範囲を確認します。家族関係、印鑑の保管、納税や土地管理の実績だけでは、本人を代理する根拠になりません。
第三に、他の共有者と地籍調査担当者への連絡方法を整理します。連絡窓口、現地説明者、筆界を確認する人、書類へ署名する人を分けて考え、立会い前に必要書類と対応方法を確認します。
第四に、通知、期限、権限書類、現地資料、連絡履歴を一つの案件記録として管理します。現地立会いだけで終わらせず、その後の追加確認や成果閲覧まで追跡します。
土地境界のみなし確認制度がある場合も、認知症を理由に自動適用されるものではありません。無反応として扱ってよいかを家族や実務担当者が決めるのではなく、連絡経過や代理関係を整理して調査実施主体の判断を求めます。
本人の権利保護と地籍調査の円滑な進行を両立させるには、結論を急がず、本人の理解と意思、代理権、客観的資料、共有者間の連絡、調査実施主体の手続を一つずつ確認することが重要です。