地籍調査で海外在住の共有者対応が難しくなる理由
地籍調査は、主に市町村などが実施主体となり、一筆ごとの土地について所有者、地番、地目などを調査し、筆界の位置と面積を測量して、地籍図と地籍簿を作成する事業です。認証などの手続を経た成果は登記所へ送付され、登記記録や登記所備付地図の更新に利用されます。そのため、共有者への連絡は単なる日程調整ではなく、対象土地の表示や将来の管理に関係する重要な手続です。
土地が共有名義である場合、国内にいる共有者一人へ連絡しただけで、他の共有者の意思確認まで完了したことになるとは限りません。誰が登記名義人で、現在の権利関係がどうなっているか、誰が本人として対応し、誰が代理人として対応するのかを、対象地番ごとに整理する必要があります。
共有者が海外に住んでいると、登記記録上の住所と現在の居住地が一致していない、国際郵便の到着に時間がかかる、時差がある、氏名や住所の表記が国内資料と異なるといった問題が加わります。相続で持分を取得した後に海外へ移住した人や、相続登記が完了しないまま親族が各地に分散している土地では、連絡先の確認だけでも時間を要することがあります。
海外在住者が対象土地を見たことがない場合もあります。地番だけを示して筆界の確認を求めても、どの土地のどの線を確認するのか判断できません。位置図、現況写真、境界点番号、周辺の道路や水路との関係などを分かりやすく示す準備が必要です。
地籍調査で調べる筆界は、登記された土地の区画を示す公法上の境界です。実施主体が当事者の希望に応じて自由に新しい線を作る手続ではありません。登記所の地図や図面、地積測量図、過去の測量成果、地形や地物、関係者の説明などを総合して調査します。
一方、塀の位置、耕作範囲、占有の状況、当事者間の合意による利用範囲などは、筆界と一致しないことがあります。共有持分の割合に応じて土地を現実に分ける手続でもありません。この違いを説明せずに連絡すると、売却や持分移転への同意を求められていると誤解されるおそれがあります。
海外在住であることだけを理由に、連絡や確認を後回しにするのも適切ではありません。遠隔地居住者については、現地立会い以外に図面や写真を用いる調査方法が選択されることがあります。利用できる方法は実施主体が現地状況や資料の内容を踏まえて判断するため、本人へ連絡する前に担当部署と方針をそろえることが重要です。
連絡前に整理すべきなのは、共有関係、連絡先、本人確認、参加方法、説明資料、期限です。これらを先に整えておけば、海外在住者が判断しやすくなり、書類の再送や説明の食い違いを減らせます。
手順1 登記情報と共有関係を整理する
最初に、対象土地の登記情報と共有関係を一筆ごとに整理します。対象地番、登記名義人の氏名、登記上の住所、持分、登記原因、受付年月日などを確認し、複数筆がある場合は土地ごとの差も記録します。
現地で一体的に利用されている土地でも、登記上の名義や持分が同じとは限りません。一筆は父と子の共有、別の一筆は亡くなった祖父名義、さらに別の一筆は兄弟三人の共有ということもあります。利用状況だけで対象者を決めず、一筆ごとに確認対象を整理する必要があります。
登記事項証明書に加えて、登記所に備え付けられた地図や公図、地積測量図、過去の境界確認資料、区画整理や土地改良の成果、道路や水路との境界資料なども確認します。筆界の調査は登記記録だけで完結するものではなく、複数の資料と現地情報を照らし合わせて進めるためです。
登記名義人と現在の権利者が一致しているかも確認します。登記名義人が死亡している場合、海外在住者が親族であるというだけで相続人や現在の権利者と断定することはできません。相続放棄、遺産分割、代襲相続などにより、親族関係と権利関係が一致しないことがあります。
相続関係の確認は、国内の親族から聞いた内容だけで確定させないようにします。戸籍関係資料や既に行われた登記、実施主体が行う所有者調査などを踏まえ、誰を土地所有者等として扱うのかを担当部署と確認します。
固定資産税の納税通知書を受け取っている人や、草刈りなどの日常管理を担っている人が、当然に他の共有者を代理できるわけではありません。管理上の窓口と、地籍調査における筆界確認の代理人は区別します。
代理人を選任する場合は、委任者、受任者、対象地番、委任事項を明確にします。共有者の一人が代表して対応する場合でも、他の共有者から必要な権限を与えられているかを確認します。必要となる委任の範囲や書式は、調査方法や実施主体の運用によって異なる可能性があるため、独自様式を海外へ送る前に担当部署へ確認します。
委任状については、原本提出の要否、自署や押印の扱い、本人確認資料の添付、電子データでの事前提出の可否などを確認します。国内用の案内をそのまま海外へ送ると、取得できない証明書を求めたり、返送後に書き直しが必要になったりすることがあります。
整理結果は、対象地番、登記名義人、現在の所有者等として確認中の者、国内住所、海外住所、連絡手段、参加予定者、代理関係、未確認事項を対応させて記録します。確定情報と未確認情報を分けて記載すると、推測を事実として扱うミスを防げます。
手順2 海外在住者の連絡先と本人確認方法を確認する
共有関係を整理したら、海外在住者へ連絡できる情報を確認します。国名、郵便番号、現地住所、現地で使用している氏名表記、電子メールアドレス、電話番号、利用可能な言語、時差を記録します。
海外住所は、日本語表記だけでなく、現地郵便で使用できる表記も確認します。建物名、部屋番号、州名や地域名の欠落があると配達されないことがあるため、本人または信頼できる連絡経路を通じて確認します。
国内共有者から電子メールアドレスを教えてもらった場合でも、そのアドレスが現在も本人のものかを確かめます。最初の連絡では、対象者の氏名と連絡の目的を示しつつ、詳細図面や本人確認資料などの個人情報をいきなり大量に送らない方が安全です。
郵送と電子連絡を併用できれば、発送の案内や到着確認を行いやすくなります。ただし、電子メールを送信した事実だけで、法令や実施主体の運用上必要な通知が完了したことになるとは限りません。正式な通知方法、到達確認の方法、記録の残し方は担当部署の指示に従います。
本人確認は、連絡先の確認と、書面上の意思表示を受ける際の確認に分けて考えます。日程調整の段階と、委任状や確認書を受領する段階では、必要となる確認の程度が異なることがあります。
旅券の写しなどを一律に求めると、必要以上の個人情報を収集することになりかねません。どの資料を、何のために、どの段階で必要とするのかを明確にし、実施主体が求める範囲に限定します。
海外在住の日本人は、国内の市区町村で通常の印鑑登録証明書を取得できないことがあります。不動産登記手続で印鑑証明書が必要となる場面では、日本の在外公館が作成する署名証明が代替書面として利用できる場合があります。また、在外公館での取得が困難な事情がある場合に、居住国の公証人による署名証明が認められる取扱いもあります。
ただし、これらは主として不動産登記手続に関する取扱いです。地籍調査の案内、日程回答、図面確認、委任状の全てに署名証明が必要という意味ではありません。地籍調査の書類と、その後に別途行う不動産登記の書類を混同しないことが重要です。
日本の在外公館による署名証明は、原則として日本国籍を有する本人が公館へ出向き、領事の面前で署名する手続です。外国籍の共有者について同じ証明を当然に利用できるとは限りません。居住国の官公署や公証人が作成する書類などが必要になる場合は、提出先へ事前に確認します。
外国語で作成された証明書については、翻訳の要否、認証の要否、原本提出の要否を確認します。国や書類の種類によって扱いが異なるため、「海外の書類だから必ず認証が必要」と一律に案内するのは避けます。
在外公館が発給する電子形式の証明書についても、提出先が電子データや印刷物を受理できるとは限りません。電子形式を申請する前に、地籍調査の担当部署や登記手続の提出先が対応できるかを確認します。
本人確認資料を受領するときは、保存場所、閲覧権限、保存期間、廃棄方法を決めます。共有者一覧と本人確認書類を関係者全員へ配布したり、隣接所有者へ転送したりせず、必要な担当者が必要な範囲で取り扱います。
手順3 立会い・図面確認・代理対応の選択肢を整理する
海外在住の共有者に対して、最初から帰国して現地立会いを行うよう求める必要があるとは限りません。地籍調査では、所有者が遠隔地に住んでいる場合などに、現地以外の場所で図面、写真その他の資料を用いて筆界を確認する図面等調査が行われることがあります。
図面等調査を行うかどうかは、本人や受託事業者だけで決めるものではありません。現地状況、既存資料の内容、境界標の有無、関係者の説明などを踏まえ、実施主体が判断します。海外在住であることを早めに伝え、選択できる方法を確認します。
参加方法としては、本人が現地立会いを行う方法、国内の共有者や親族などを代理人にする方法、図面や写真による確認を希望する方法、別の日程やオンラインの説明を受けた上で回答する方法などが考えられます。実際に利用できる方法は案件ごとに異なります。
一時帰国の予定がある場合でも、その日程だけに合わせて調査全体を止められるとは限りません。帰国予定日、現地調査の時期、隣接所有者の日程を担当部署と共有し、代理人や図面確認の方が適切かを検討します。
代理人を選任する場合は、委任範囲を曖昧にしないようにします。「土地に関する一切の件」とだけ記載するのではなく、対象地番、地籍調査における現地立会い、図面確認、関係書類の提出や受領など、必要な権限を実施主体の様式に沿って示します。
代理人が現地で判断できる範囲と、本人へ再確認すべき事項も整理します。既存の境界標について説明を受ける権限はあっても、資料と異なる筆界案にその場で同意する権限までは与えられていない場合があります。
共有者の一人を代理人にする場合、その人が現地事情に詳しいとは限りません。最近相続した人や長期間現地を離れていた人であれば、境界標や過去の経緯を知らないことがあります。代理権の有無と、現地知識の有無は分けて確認します。
図面等調査を行う場合は、平面図だけを送って署名を求めないようにします。対象地の位置図、地番配置、確認対象の筆界線、境界点番号、現況写真、道路や水路、既存の標識との位置関係を示します。
複数の図面で方位や縮尺の示し方が異なると、誤認の原因になります。図面と写真の境界点番号を一致させ、写真には撮影方向を示します。塀、植栽、側溝、舗装端などの地物が筆界そのものとは限らないことも説明します。
海外在住者が現地を見られないことを理由に、国内共有者の判断へ無条件に従うよう求めるのは避けます。不明点を質問できる連絡先を示し、必要に応じて図面を共有しながら説明する機会を設けます。
手順4 送付書類と説明内容を一本化する
海外在住の共有者へ送る資料は、一度で全体像を把握できるように整理します。案内文、対象土地の一覧、地籍調査の概要、位置図、確認用図面、現況写真、回答書、必要に応じた委任状、返送方法、問い合わせ先を一つの資料群として管理します。
案内文の冒頭では、受取人がなぜ連絡を受けているのかを説明します。登記記録上の共有者として記録されているためなのか、相続関係の確認中で連絡しているのかを区別し、確認中の事項を確定した事実のように書かないようにします。
地籍調査の通知自体は、土地の売買、収用、持分移転、共有物分割への同意を直接求めるものではありません。所有者、地番、地目などを調査し、筆界の位置と面積を測量して地籍図と地籍簿を作成する事業であることを説明します。
調査成果が登記所へ送付され、登記記録や地図の更新に利用されることも伝えます。ただし、どの項目がどのように訂正されるかは調査結果や登記所の処理によるため、「必ずこの内容に変更される」といった断定は避けます。
対象土地については、所在、地番、登記名義人、共有持分、今回確認を求める範囲を記載します。複数筆を同時に送る場合は、回答書と図面に共通の識別番号を付け、どの書類がどの土地に対応するか分かるようにします。
筆界の確認を求めるときは、「図面に同意してください」とだけ記載しないようにします。どの線や点を確認するのか、筆界案の作成に用いた主な資料は何か、既存の境界標や地物がどこにあるかを説明します。
地籍調査は、共有持分の割合に合わせて土地を分割する手続ではありません。現況の塀、垣根、耕作範囲が筆界と一致しない場合もあります。この点を案内文に含めると、利用範囲をそのまま承認する手続だという誤解を防ぎやすくなります。
回答書には、確認対象となる図面の名称、作成日、版番号を記載します。図面を修正した場合は、変更箇所と理由を示し、旧版を使用しないよう案内します。
委任状を同封する場合は、委任者、受任者、対象地番、委任事項、作成日を記載できる様式にします。押印、署名、証明書の要件については、実施主体が必要とする内容だけを案内します。
外国語での説明が必要な共有者には、少なくとも手続の目的、対象土地、確認を求める内容、回答期限、選択できる対応、問い合わせ先が分かる資料を準備します。日本語原文と翻訳文のどちらを正式文書として扱うかは、担当部署で統一します。
送付資料には、本人が現地に参加する、代理人を選任する、図面等調査を希望する、説明を受けてから回答する、筆界案に意見を申し出るといった対応方法を示します。実施主体が認めていない選択肢を記載しないよう、発送前に内容を確認します。
問い合わせ先には、担当部署名、担当者、連絡可能な時間帯、文章で質問できる連絡手段を記載します。時差を考えると、電話だけでなく、送受信記録を残せる方法を用意する方が実務的です。
手順5 時差と返送期間を踏まえた連絡計画を作る
書類が整ったら、発送日、到着見込み、回答期限、到達確認日、再連絡日を含む連絡計画を作ります。国内郵便と同じ感覚で期限を設定すると、受取人が書類を受け取った時点で期限が迫っていることがあります。
国際郵便の所要期間に加え、本人が内容を確認し、家族や専門家へ相談し、必要書類を取得して返送する期間を考慮します。現地の祝日や長期休暇、郵便事情、在外公館や公証人の予約状況も影響します。
回答期限は、発送日だけを基準にするのではなく、到着が見込まれる日から検討期間を確保する考え方が必要です。ただし、法令や実施主体が定める期限がある場合は、その取扱いを優先します。
海外在住者だけ期限を設けずに待ち続けると、隣接地を含む調査全体に影響します。最初の連絡で、回答期限、期限までに回答できない場合の連絡方法、質問や意見の申出方法を明示します。
電話やオンラインで説明する場合は、時差を考慮して候補時間を複数示します。口頭で説明した後は、要点を文章でも送り、どの図面について何を説明したかを記録します。
発送後は、送付日、送付先、送付方法、追跡番号、書類の版、到達状況、問い合わせ内容、回答日を記録します。電子メールを併用した場合も、送信日だけでなく、受信確認や添付資料の閲覧可否を記録します。
郵便物が返送された場合は、住所不完全、転居、保管期間経過、受取拒否などの返送理由を確認します。返送理由によって、住所の再調査、再送、別の手続の検討など、その後の対応が変わります。
再連絡では、同じ書類を繰り返し送るだけでなく、回答が止まっている理由を確認します。日本語が分かりにくい、土地に心当たりがない、図面の見方が分からない、署名方法が分からない、共有者間で調整中であるといった事情が考えられます。
国内共有者へ協力を依頼する場合も、海外在住者の住所や本人確認資料を必要以上に共有しないようにします。国内共有者から本人へ連絡してもらう場合は、最終的な質問や意思表示を調査担当部署へ直接伝えられるよう案内します。
現在の地籍調査には、現地調査等の通知に反応がない所有者等について、一定の要件のもとで筆界案の確認があったものとみなす制度があります。ただし、一度連絡して返事がないだけで適用できる制度ではありません。
みなし確認を進めるには、現地調査や図面等調査の通知を複数回行い、さらに筆界案を送付して到達を確認し、到達日から二十日間に意見の申出がないことなど、定められた条件を満たす必要があります。積極的に立会いや図面等調査を拒んでいる者や、通知または筆界案の到達を確認できない者は同じ扱いになりません。
連絡記録は、みなし確認や所在不明所有者等に関する手続を検討する際の基礎になります。担当者が独自判断で連絡を省略せず、実施主体が法令や作業規程に沿って判断できるよう、客観的な経過を残します。
海外在住の共有者へ連絡した後の確認事項
海外在住者から回答が届いたら、署名の有無だけで処理を終えず、対象土地と回答内容が一致しているかを確認します。複数筆のうち一筆しか回答されていない、旧版の図面に署名されている、本人欄と代理人欄を取り違えているといったことがあります。
回答書に意見が書かれている場合は、単純に同意か不同意かへ分類しません。「現地を見ていないので判断できない」「親族から聞いていた位置と違う」「塀の中心が境界だと思っていた」といった記載には、追加説明や資料確認が必要です。
図面を確認したと回答していても、何を根拠に判断したのかが分からない場合があります。国内親族の説明だけに依存しているときは、実施主体が保有する資料や筆界案の根拠と整合しているかを確認します。
代理人を選任する回答が届いた場合は、委任者、受任者、対象地番、委任事項を確認します。海外在住者一人の委任状が届いたからといって、代理人が他の共有者まで当然に代理できるわけではありません。
署名証明や住所証明などが添付されている場合は、今回の手続に必要な書類か、提出先が受理できる形式かを確認します。不備が疑われるときは、すぐに再取得を求める前に、補足説明や別資料で対応できるかを担当部署へ確認します。
海外在住者から受けた質問と回答内容は、同じ土地に関係する他の共有者への説明にも反映します。ただし、個人的な事情、住所、連絡先、本人確認資料を他の共有者へ共有する必要はありません。
筆界案を修正した場合は、変更の影響を受ける共有者や隣接所有者に、必要な再確認を行います。一度回答を受けたことを理由に、修正後の図面への確認を省略しないようにします。
回答受領後は、受領日、書類の種類、図面の版、本人または代理人の区分、意見の有無、不足資料、追加説明の要否を記録します。原本と電子記録を対応させ、後から経過を追える状態にします。
共有者から反応がない場合の考え方
海外在住者から期限までに回答がない場合でも、一度の郵送や電子メールに反応がなかっただけで、同意したものとして扱うことはできません。住所が正しいか、郵便物が到達したか、電子連絡が本人へ届いたか、説明内容を理解できたかを確認します。
無反応所有者等に対するみなし確認制度は、通知に反応しない者について、定められた手続を経た場合に利用できる制度です。現地調査等の通知を複数回行った上で、実施主体が筆界に関する情報を総合的に考慮して筆界案を作成し、その筆界案を送付します。
筆界案の到達日から二十日間に意見の申出がない場合には、要件を満たす範囲で筆界案の確認があったものとみなして調査を進めることができます。制度の適用可否は実施主体が判断します。
この制度は、返信がない人を無条件で除外する仕組みではありません。積極的に調査を拒否している者は対象外とされ、図面等調査の通知や筆界案の到達が確認できない場合も対象外です。
共有者の一部だけが無反応である場合でも、その共有者について要件を満たすかを個別に確認する必要があります。国内共有者が回答したことだけで、海外在住共有者への通知や到達確認を省略することはできません。
海外住所への郵便が返送されている場合は、筆界案が到達したとはいえない可能性があります。所在が判明している無反応者として扱えるのか、所在不明所有者等に関する別の手続を検討するのかを、実施主体が調査記録に基づいて判断します。
国内共有者から「海外の共有者は土地に関心がない」と説明されても、その言葉だけで本人の意思確認を省略しません。持分の大小、家族関係、日常管理への関与の有無は、法令や実施主体が求める手続を省略する根拠にはなりません。
無反応が続く場合は、連絡先の誤り、言語の問題、図面の分かりにくさ、本人確認への不安など、改善可能な原因を確認します。督促回数を増やすだけでなく、短い説明文や質問方法を追加する方が回答につながることがあります。
実施主体へ報告するときは、送付日、送付先、送付方法、到達状況、再通知日、電子連絡の状況、国内共有者から得た情報を整理します。客観的な記録が、次の手続を選択するための基礎になります。
意見が一致しない場合に避けたい対応
海外在住の共有者が筆界案に意見を示した場合、国内共有者の多数が同意していることだけを理由に、その意見を無視しないようにします。筆界の位置を共有者間の多数決で決めるものではありません。
まず、意見の内容を具体化します。図面の読み違いなのか、既存の境界標について別の情報を持っているのか、過去の測量図や境界確認書を保有しているのか、筆界と所有権の範囲を混同しているのかを確認します。
海外在住者が持つ資料が古い場合でも、直ちに無関係と判断しません。売買時の図面、相続時の資料、過去の境界確認書、工事写真などが筆界調査の参考になる可能性があります。作成者、作成時期、対象地番を確認して実施主体へ提出します。
現況の塀、擁壁、側溝、植栽、舗装端は重要な現地情報ですが、それだけで筆界が決まるとは限りません。「塀があるから必ずそこが境界」と断定せず、登記資料や過去の測量成果などと併せて検討します。
共有者間の金銭問題や土地利用上の対立が含まれている場合は、地籍調査で扱う筆界の確認と、共有物の使用、持分売買、賃料、越境物の処理などを分けます。地籍調査の担当部署が民事上の争いを全て解決するわけではありません。
関係者の確認が得られず、筆界を調査できない場合には、筆界未定として処理されることがあります。ただし、無反応所有者等へのみなし確認、所在不明所有者等への手続、地方公共団体による筆界特定申請など、案件に応じて検討される仕組みがあります。
海外在住者が現地へ来られないという理由だけで、直ちに筆界未定になるわけではありません。一方で、遠隔対応を選べば必ず筆界を確定できるとも限りません。資料の内容、関係者の意見、現地状況を踏まえて実施主体が判断します。
意見が対立したときほど、誰が、いつ、どの図面について、どのような説明や意見を示したかを記録します。電話での発言を担当者の記憶だけに頼らず、要点を文章で確認します。
海外在住共有者への連絡で起こりやすい失敗
起こりやすい失敗の一つは、登記記録上の住所へ一度郵送し、返送された時点で直ちに所在不明と判断することです。登記住所が出国前の国内住所のままになっている可能性があるため、実施主体が利用できる資料と方法で現住所や連絡先を調査します。
次に、国内にいる共有者を当然の代表者として扱う失敗があります。納税や草刈りを担当している人でも、他の共有者から筆界確認に必要な権限を与えられているとは限りません。
地籍調査の回答書、委任状、不動産登記の申請書類を区別せず、全てに同じ署名証明や住所証明を求めることも問題です。書類の目的と提出先を確認し、必要な資料だけを案内します。
図面だけを送り、位置図や現況写真、筆界案の根拠を示さないと、土地を見たことがない人は判断できません。広域の位置図から境界点の写真まで、段階的に位置を把握できる資料にします。
国際郵便の期間を考慮せず、国内所有者と同じ短い回答期間を設定するのも避けます。到着見込み、相談期間、証明書を取得する可能性、返送期間を考慮します。
担当者ごとに異なる説明をすることも信頼低下につながります。ある担当者が現地立会いを必須と説明し、別の担当者が図面確認できると説明すると、海外在住者はどの案内に従うべきか判断できません。
本人確認資料や詳細図面を電子メールで送る際に、宛先確認を十分に行わないことも危険です。最初は必要最小限の連絡を行い、本人の受信先であることを確かめてから資料を送ります。
海外在住者へ「国内の家族に任せてください」とだけ案内するのも適切ではありません。本人が代理人を選任するのか、図面等調査を希望するのか、説明を受けた上で選べるようにします。
返送された書類の図面番号や作成日を確認しないと、旧版への回答を最新の同意として扱うおそれがあります。回答書と対象図面を対応させて管理します。
地籍調査で確認する筆界と、共有持分に応じた土地の分割を混同させる失敗もあります。共有物を現実に分ける場合は、地籍調査とは別に、共有物分割や分筆などの手続を検討する必要があります。
これらの失敗は、海外在住という事情だけから生じるものではありません。連絡前の情報整理、説明資料、委任範囲、期限、記録管理の不足が重なることで発生します。
まとめ
地籍調査の対象土地に海外在住の共有者がいる場合は、すぐに書類を発送するのではなく、登記情報と現在の共有関係を一筆ごとに整理します。登記名義人、現在の所有者等、持分、相続状況、代理関係を分けて確認することが出発点です。
次に、海外住所、氏名表記、電子連絡先、利用可能な言語、時差を確認し、どの段階でどの本人確認資料が必要になるかを整理します。海外在住者が国内の印鑑登録証明書を取得できない場合でも、全ての地籍調査書類に署名証明が必要になるわけではありません。
参加方法については、本人の現地立会いだけでなく、適切な委任による代理対応や、図面と写真を使う図面等調査が可能かを実施主体へ相談します。帰国できないという理由だけで対応不能と判断しないことが大切です。
送付資料には、地籍調査の目的、対象土地、確認を求める筆界、図面の見方、選択できる対応、回答期限、問い合わせ先をまとめます。土地を見たことがない人でも位置関係を把握できるよう、位置図、現況写真、境界点番号を対応させます。
連絡計画では、国際郵便、時差、相談、証明書の取得、返送に必要な期間を考慮します。送付と回答だけでなく、到達確認、質問対応、再通知、書類の受領確認までを一つの工程として記録します。
共有者から反応がない場合でも、一度の連絡で同意とみなすことはできません。みなし確認制度を利用するには、現地調査等の通知を複数回行い、筆界案の到達を確認し、到達日から二十日間に意見の申出がないことなどの要件を満たす必要があります。
また、積極的に調査を拒否している者や、通知または筆界案の到達を確認できない者は、無反応所有者等のみなし確認と同じ扱いにはなりません。所在不明者への手続や意見対立への対応は、実施主体が資料と経過に基づいて判断します。
海外在住共有者への対応では、連絡手段よりも、連絡前に何を整理したかが結果を左右します。地番、共有者、連絡先、委任状、図面、回答状況を対応させ、担当者が交代しても経過を追える記録を残すことが、安全で円滑な地籍調査につながります。