地籍調査では、一筆ごとの土地について、所有者、地番、地目、筆界、面積などを調査し、その成果を地籍図や地籍簿として整理します。現地調査では、対象土地の所有者だけでなく、筆界を共有する隣接土地の所有者等への通知や確認が必要になります。しかし、登記記録上の住所へ文書を送っても返送される、登記名義人がすでに死亡している、相続登記が終わっていないなどの事情により、連絡すべき相手をすぐに確認できないことがあります。
隣地所有者が分からないからといって、現地を利用している人や近隣住民の説明だけで所有者を決めることはできません。登記記録、公的資料、相続関係資料、過去の調査資料、現地の管理状況を順に確認し、確認できた事実と第三者から得た情報を分けて記録する必要があります。
また、登記名義人は分かるが現在の住所が分からない状態、登記名義人が死亡して相続人を調査している状態、通知が到達しているのに返答がない状態、必要な探索をしても所有者等の所在を確認できない状態は、それぞれ異なります。地籍調査では、この違いに応じて追加調査や筆界調査の手続を選ばなければなりません。
この記事では、地籍調査で隣地所有者が不明な場合に調べる5つの方法と、調査記録の残し方、所有者等を確認できないまま筆界調査を進める際の注意点を解説します。個別案件では、地籍調査の実施主体が最新の法令、地籍調査作業規程準則、運用通知、自治体の個人情報取扱規程に基づいて判断することが前提です。
地籍調査で隣地所有者が不明になる主な理由
隣地所有者への連絡が難しくなる代表的な理由は、登記記録と現在の状況が一致していないことです。不動産の登記記録には所有権の登記名義人と住所が記録されていますが、転居後に住所変更登記が行われていなければ、登記上の住所へ通知しても本人へ届かないことがあります。
登記名義人が死亡しているにもかかわらず、相続登記が行われていない土地もあります。この場合、登記記録には亡くなった人が所有権の登記名義人として残っているため、法定相続人や遺言、遺産分割の状況を別途確認しなければ、現在の権利関係を整理できません。相続開始から長期間が経過していると、相続人にも死亡者が生じ、調査対象が複数世代へ広がることがあります。
共有名義の土地では、一部の共有者と連絡できても、ほかの共有者が転居、死亡、海外居住などにより連絡不能となっている場合があります。一人の共有者から説明を受けただけで、直ちに全共有者の確認が得られたと扱うことはできません。誰がどの持分を有し、どの共有者まで確認できたのかを分けて管理する必要があります。
山林、農地、空き地、旧道沿いの土地などでは、現地を管理している人と登記名義人が異なることがあります。草刈りや耕作をしている人、資材を置いている人、近隣で鍵を預かっている人がいても、その人が所有者とは限りません。親族、賃借人、使用借人、管理受託者、近隣住民などの可能性があるため、利用や管理の事実と所有権を区別します。
地番と住居表示の取り違えも、誤った所有者へ連絡する原因になります。建物の住所として使用される住居表示と、土地を特定する地番は同じとは限りません。対象筆を誤認したまま登記情報を取得すると、調査対象ではない土地の名義人へ通知するおそれがあります。
さらに、過去に分筆、合筆、換地、区画整理、道路整備、河川改修などが行われた区域では、古い図面と現在の登記記録の対応が分かりにくいことがあります。所有者探索に着手する前に、現地で隣接しているように見える土地が、登記上どの一筆に当たるのかを整理することが出発点になります。
方法1 登記情報と公図から対象筆を特定する
最初に、対象となる隣地の所在と地番を特定し、土地の登記事項証明書、登記所備付地図または地図に準ずる図面、地積測量図などを確認します。土地の登記事項証明書は公開されている登記情報であり、地番を特定できれば、所有者本人以外の者でも所定の手続により取得できます。
登記事項証明書では、所有権の登記名義人、住所、共有者、持分、受付年月日、登記原因などを確認します。現在の記録だけでは経緯を整理できないときは、閉鎖登記記録や過去の地番との関係を確認する必要が生じることもあります。
ただし、登記名義人が常に現在の権利者を完全に示しているとは限りません。相続登記が未了であれば死亡者の名義が残り、住所変更登記が未了であれば旧住所が残ります。登記情報は所有者探索の出発点ですが、通知結果や公的資料による追加確認が必要です。
地番の特定には、登記所の図面だけでなく、地籍調査の旧成果、土地所在図、地積測量図、道路台帳、河川や水路の管理図面、区画整理図、換地図、用地取得図、過去の境界確認資料などが役立ちます。資料の作成目的と年代を確認し、現地の道路、水路、擁壁、塀、建物、境界標との対応を整理します。
地図に準ずる図面は土地のおおよその位置関係を確認する資料として有用ですが、地域や作成時期によって精度に差があります。図面上の辺長や形状だけで筆界位置を断定してはいけません。地積測量図がある場合も、作成年代、測量方法、基準点、座標の有無、周辺筆との整合を確認します。
対象筆については、所在、地番、地目、登記面積、登記名義人、登記住所、共有者、参照資料、旧地番、現地との対応状況を調査管理表へまとめます。複数の担当者が関わる場合でも、どの地番について何を確認済みなのかを共有できる状態にします。
現地では、対象地との間に細長い道路敷、水路敷、畦畔、法定外公共物、未利用地などが挟まっていないかを確認します。見た目では隣接していても、登記上は別の筆が介在する場合があります。筆界を共有していない土地の所有者を誤って隣接所有者として扱わないため、接続関係を図面と現地の両方で確認します。
方法2 登記住所への通知と現地確認で手掛かりを探す
登記名義人と登記住所を確認したら、地籍調査の実施主体が定める方法で現地調査、図面等調査、立会いなどの通知を送付します。発送日、宛先、文書名、回答期限、送付方法、配達結果を記録し、必要な手続では到達状況を確認できる方法を用います。
通知が返送された場合は、返送封筒を所定の方法で保存し、返送日と返送理由を確認します。宛所に尋ね当たらない、転居先不明、保管期間経過、受取拒否などでは意味が異なります。住所が確認できない状態と、到達した可能性があるのに返答がない状態を同じ扱いにしないことが重要です。
過去の調査資料に電話番号が記録されていても、無条件に利用できるとは限りません。情報の取得目的、作成時期、利用権限、個人情報の取扱規程を確認し、調査に必要な範囲に限定します。古い番号が別人へ再割当てされている可能性もあるため、電話の冒頭で土地の詳細や名義人情報を一方的に伝えない配慮が必要です。
現地確認では、表札、管理看板、耕作状況、駐車場や資材置場の表示、建物の使用状況などから、管理者につながる手掛かりを探します。ただし、無断で敷地内へ立ち入る、郵便物の宛名をのぞく、閉鎖された門や柵を越えるなどの行為は避けます。現地調査に必要な立入りについては、地籍調査の実施主体が法令と所定の手続に従って対応します。
土地上に建物がある場合は、建物の登記情報が関係者探索の手掛かりになることがあります。ただし、建物所有者と土地所有者は一致しないことがあります。借地、賃貸、親族間の使用貸借なども考えられるため、土地と建物の権利関係を分けて整理します。
農地では実際の耕作者が所有者と異なる場合があり、山林では親族や地域組織が管理している場合があります。管理者から連絡先の手掛かりを得られても、その発言だけで所有者を確定せず、登記記録や公的資料と照合します。
現地で得た情報は、所有権を確認した事実ではなく、所有者探索の手掛かりとして記録することが基本です。誰が、いつ、どこで、何を確認し、誰からどのような説明を受けたのかを分けて残すことで、後から判断過程を検証できます。
方法3 行政が利用できる台帳や過去資料を照合する
登記住所で本人の所在を確認できない場合は、地籍調査の実施主体が、法令上の根拠と所定の庁内手続に基づき、利用可能な公的情報を照合します。候補となる資料には、住民票や除票、戸籍の附票、戸籍関係資料、固定資産課税台帳、過去の地籍調査票、用地取得資料、道路や水路の境界確認資料などがあります。
これらの情報は、誰でも自由に閲覧できるものではありません。地籍調査を受託した事業者や測量担当者が、自らの判断だけで住民情報、戸籍情報、税務情報を取得できるわけではありません。実施主体の担当部署が、利用目的、権限、照会範囲、委託先へ共有する情報、保存方法を整理したうえで取り扱います。
住民票や戸籍の附票を適法に確認できる場合は、登記住所から現在の住所につながる情報を追えることがあります。ただし、保存期間、除票の状態、戸籍の改製、転籍などにより、すべての履歴を連続して確認できるとは限りません。記録が途切れた場合は、途切れた地点を明示します。
固定資産課税台帳には、登記名義人とは異なる納税義務者、相続人代表者、書類送付先などが記録されている場合があります。しかし、課税上の納税義務者や送付先が、民法上の所有者を当然に示すわけではありません。新しい住所や関係者の手掛かりとして利用し、所有権の確定資料とは区別します。
過去の用地交渉資料、境界確認資料、地籍調査票には、当時の所有者、代理人、親族、管理者の情報が残っていることがあります。ただし、作成後に転居、死亡、相続、法人の変更などが生じている可能性があります。古い連絡先を現在も有効な情報として扱わず、最新性を確認します。
庁内照会では、対象地番、登記名義人、登記住所、通知結果、死亡情報の有無、確認したい事項を整理して依頼します。必要な情報を限定することで、個人情報の過剰な共有を防ぎながら、照会先の負担も抑えられます。
公的情報から得た内容は、どの資料をいつ確認したのか、何が判明し、何が判明しなかったのかを記録します。戸籍や住民情報の全文を調査管理表へ転記するのではなく、調査の進捗に必要な最小限の事項だけを記載し、原資料へのアクセス権限を限定します。
方法4 戸籍関係資料から相続人を確認する
登記名義人の死亡が判明した場合は、現在の権利関係を把握するため、法定相続人や遺言、遺産分割の状況を確認します。同居していた家族や土地を管理している親族がいても、その人だけを所有者と決めることはできません。
法定相続人を確定するためには、登記名義人について必要な範囲の戸籍、除籍、改製原戸籍などを確認し、配偶者、子、代襲相続人、直系尊属、兄弟姉妹など、相続順位に応じた関係者を整理します。一般に出生から死亡までの連続した戸籍が必要になる場面はありますが、必要資料の範囲は家族関係や相続の経過によって異なります。
相続人の一人が土地を引き継いだと説明していても、遺言書、遺産分割協議書、登記記録などの裏付けがなければ、唯一の権利者として扱うことは危険です。遺産分割が済んでいない場合は、複数の相続人が関係する可能性があります。
相続が数次にわたって発生している土地では、最初の登記名義人の相続人を確認した後、すでに死亡している相続人について次の相続関係を確認します。関係者が増えやすいため、相続関係図を作り、確認済み、資料待ち、連絡済み、所在不明などの状態を区別します。
相続放棄の有無は、親族の説明だけで判断できません。相続放棄は家庭裁判所での手続を要し、単に遺産を受け取らないと話していることとは異なります。遺言がある場合も、内容や方式、遺言執行者の有無などによって確認先が変わるため、複雑な案件では法務担当者や専門家と連携します。
相続人へ連絡するときは、最初からその人を所有者と断定せず、登記名義人との関係、相続手続、遺言、遺産分割、相続放棄の有無などを確認します。地籍調査担当者が相続人間の権利争いを判断したり、遺産分割の結論を示したりしてはいけません。
相続登記の申請は2024年4月1日から義務化され、相続により不動産を取得したことを知った相続人は、原則としてその事実を知った日から3年以内に申請する必要があります。制度開始前に発生した相続も対象ですが、義務化によって過去の未登記相続が自動的に解消されるわけではありません。
2026年2月2日には、所有不動産記録証明制度が始まりました。所有権の登記名義人本人や、その相続人その他の一般承継人などが請求し、特定の人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的に確認する制度です。第三者が自由に故人の所有不動産を検索できる制度ではありません。また、検索は登記記録上の氏名や住所等を基に行われるため、請求結果だけで対象不動産を完全に把握できたと決めつけず、相続人の協力が得られる場合の補助的な確認手段として扱います。
方法5 親族・占有者・管理者などへ限定的に照会する
公的資料だけでは現在の連絡先を確認できない場合は、親族、土地の占有者、管理者、借受人など、所有者情報を持っている可能性が高い関係者へ範囲を限定して照会します。不特定多数へ広く聞き回る方法は、誤情報や個人情報の拡散につながるため避けます。
近隣住民へ確認するときは、所有者の住所や電話番号を直接求めるのではなく、管理している人へ地籍調査の文書を渡す方法を知っているかなど、必要最小限の質問にします。近隣住民から得た情報には、記憶違い、古い家名、通称、過去の所有者の情報が含まれる可能性があるため、正式な所有者確認資料としては扱いません。
親族が判明しても、本人の連絡先を無理に聞き出すことは避けます。親族から対象者へ連絡文書を転送してもらい、本人から実施主体へ連絡してもらう方法であれば、個人情報を直接取得する範囲を抑えられます。
土地を耕作している人、駐車場として利用している人、資材を置いている事業者などがいる場合は、所有者、賃借人、使用借人、管理受託者など、どの立場で利用しているのかを確認します。占有している事実と所有権を混同しないことが重要です。
管理会社、森林組合、土地改良区、地域の管理組織などが関与している場合は、所有者本人への文書転送を依頼できることがあります。ただし、相手方にも守秘義務や個人情報保護上の制約があります。連絡先の開示を強く求めるのではなく、地籍調査の目的と連絡の必要性を説明します。
聞き取りでは、相手の氏名、対象土地との関係、実施日時、方法、得られた内容、情報の根拠を記録します。本人から管理を委任されているという説明と、以前その人が管理していたらしいという伝聞では、情報の確実性が異なります。
電話や訪問で名義人または相続人を名乗る人と連絡できた場合は、氏名の一致だけで本人と判断しません。対象地との関係、登記上の住所、取得経緯、親族関係など、必要な範囲の複数情報を照合します。ただし、相手に過剰な個人情報を求めないよう、本人確認の方法は実施主体の手続に従います。
本人と確認できた後も、口頭で筆界位置を聞いただけで調査を完了させません。実施主体が定める通知、立会い、図面確認、署名、記録作成などの手続により、どの筆界案について誰がどのように確認したのかを残します。
所有者不明・所在不明・無反応を区別する
実務では、連絡できない土地を一括して所有者不明と呼びがちですが、現在の状態を細かく分ける必要があります。
登記名義人と登記住所は判明しているものの、通知が宛先不明で返送された場合は、主に所在の追加調査が必要な段階です。住民票、戸籍の附票、相続関係などをまだ確認していないのであれば、必要な探索を終えた状態ではありません。
通知の到達を確認できるものの返答がない場合は、無反応の状態です。所有者の氏名や所在が分からない状態とは異なります。無反応だからといって、所有者が存在しない、筆界に異議がない、立会いを放棄したと直ちに判断することはできません。
登記名義人が死亡し、相続人を調べている途中であれば、相続関係調査中として管理します。相続人候補が判明しても、遺言、遺産分割、相続放棄などを確認できていなければ、現在の権利関係を確定できないことがあります。
共有者の一部と連絡できない場合は、一部共有者所在不明または一部共有者無反応として整理します。ほかの共有者と連絡できたことを理由に、連絡できない共有者の確認まで得られたと扱ってはいけません。
必要な公的資料や関係者情報を調べても所有者等の所在を確認できない状態では、地籍調査作業規程準則に定める所在不明者への手続を検討します。一方、通知が到達しているのに必要な応答がない状態では、無反応者への別の手続を検討します。適用条件が異なるため、調査記録で両者を明確に区別します。
調査管理表には、登記名義人判明、登記住所へ発送済み、宛先不明返送、転居先調査中、死亡確認、相続人調査中、一部共有者所在不明、通知到達後無反応など、現在の段階が分かる表現を用います。すべてを所有者不明と記載すると、次に行うべき作業と適用できる手続が分からなくなります。
2026年4月1日から、所有権の登記名義人について住所、氏名、法人の名称などに変更があった場合、原則として変更日から2年以内に変更登記を申請することが義務化されました。義務化前に生じた変更も対象とされています。今後は登記情報と現住所等のずれが抑えられることが期待されますが、過去から残る不一致や未登記相続については、引き続き個別の探索が必要です。
調査結果を証拠として残す記録方法
所有者探索では、最終結果だけでなく、判断に至った過程を残すことが重要です。所有者を確認できた場合でも、どの資料と情報を根拠に本人と判断したのかが分からなければ、後に誤りが判明したときに検証できません。
調査記録には、対象地の所在と地番、参照した登記記録、登記名義人、登記住所、共有者、調査開始日、担当者を記載します。分筆、合筆、換地などの履歴がある場合は、旧地番や従前地との関係も残します。
通知については、発送日、送付方法、宛先、文書名、回答期限、配達結果、返送理由、再発送の有無を記録します。返送封筒、配達記録、通知文書の控えは、実施主体の文書管理規程に従って保管します。
電話連絡では、発信日時、相手方、本人確認に使用した事項、説明した内容、相手の回答、次の対応を記録します。個人の記憶や手帳だけに頼ると、担当変更時に経緯が失われます。
現地確認では、確認日、確認者、立入りの根拠、確認した範囲、境界標や地物の状態、管理状況、現地で面談した人と土地との関係を記録します。写真を撮影するときは、撮影地点、撮影方向、写真番号、対象地番、対象物を関連付けます。
聞き取り内容は、担当者が直接確認した事実と、相手の発言を区別します。建物に表札があったことは現認した事実ですが、以前の所有者の親族が管理しているらしいという話は第三者から得た情報です。記録上でも両者を混同しないようにします。
公的資料を照合した場合は、資料名、取得または確認日、確認範囲、判明事項、未判明事項を残します。ただし、戸籍、住民情報、税務情報などを必要以上に複写したり、共有の管理表へ転記したりしないことも重要です。調査に必要な情報だけを記録し、原資料はアクセス権限を限定して保管します。
相続関係を調べる場合は、相続関係図に資料の確認状況を付記します。死亡年月日、続柄、住所などを推測で確定せず、確認できない項目は未確認として残します。
調査を終了または次工程へ移すときは、所有者等を確認できた根拠、確認できなかった理由、未確認事項、追加調査の要否、適用を検討する手続を記載します。調べたが不明という一文だけではなく、登記確認、通知、公的資料照合、相続調査、関係者照会など、実施した範囲を示します。
所有者が見つからないまま筆界調査を進める場合の注意
地籍調査では、土地所有者等の確認を得ながら筆界を調査することが基本です。しかし、必要な探索をしても所有者等の所在を確認できない場合や、通知が到達しているのに反応がない場合に対応するため、一定の手続が設けられています。いずれの場合も、担当者が任意に筆界位置を決められるわけではありません。
筆界案を検討するときは、登記所備付地図、地図に準ずる図面、地積測量図、過去の境界確認資料、既往の地籍調査成果、現地の地形や地物、境界標、占有状況、関係者の説明など、筆界に関する情報を総合的に考慮します。塀、擁壁、水路、道路の端や中心が、常に筆界と一致するわけではありません。
一方の隣接所有者の主張だけを採用することも避けます。長年の管理範囲や利用範囲と、登記上の筆界は一致しないことがあります。所有権に関する主張、占有範囲、筆界資料を分けて整理します。
所有者等の所在を探索しても確認できない場合には、筆界案の公告など、所在不明者に対応する手続が検討されます。どの資料まで調査する必要があるか、公告の方法、意見提出の扱いなどは、地籍調査作業規程準則と実施主体の運用に従います。
これとは別に、2024年6月28日の地籍調査作業規程準則の改正により、現地調査等の通知を複数回行っても反応がない所有者等への土地境界のみなし確認制度が設けられました。所定の方法で筆界案を送付し、筆界案が到達した後、20日以上の期間を設けても意見の申出がない場合には、要件を満たす範囲で筆界案の確認があったものとみなして調査を進められます。
この制度は、一度電話がつながらなかった場合や、普通郵便を一度送っただけで適用できるものではありません。複数回の通知、通知や筆界案の到達、筆界案の作成根拠、意見申出期間など、定められた要件を満たす必要があります。
住所が分からず筆界案を送付できない所在不明者と、通知や筆界案が到達しているのに反応しない無反応者では、検討すべき手続が異なります。無反応者向けのみなし確認制度を、到達を確認できない人へそのまま適用しないよう注意します。
資料を総合しても筆界を適切に調査できない場合は、無理に筆界を決めず、筆界未定として処理する必要が生じることがあります。筆界未定は対象筆だけでなく、隣接土地の登記や利用にも影響する可能性があるため、関係者へ意味と影響を丁寧に説明します。
筆界を巡る対立がある場合、地籍調査担当者が所有権争いを仲裁し、どちらの主張が正しいかを決定することはできません。筆界特定制度、訴訟、調停など、争点の性質に応じた手続を検討し、実施主体の法務担当者や専門家と連携します。
地籍調査担当者が使える実務フロー
実務では、最初に対象筆を正確に特定します。調査対象地と隣接地の地番、接続関係、分筆や合筆の履歴を確認し、登記所の図面、地籍調査資料、現地を照合します。地番が不確かなまま所有者探索を始めると、別人へ通知し、調査をやり直すおそれがあります。
次に登記事項証明書を確認し、登記名義人、登記住所、共有者、持分、登記原因を整理します。名義人が法人の場合は、法人登記により本店、商号、代表者、合併、解散、清算などの状況を確認します。
登記住所へ通知を発送し、到達、返送、無回答を区別して記録します。返送された場合は理由を確認し、住所探索へ移ります。到達後に無回答の場合は、所定の期限や再通知の要否を確認します。
その後、実施主体が法令上利用できる公的情報を確認します。住所移転、死亡、相続関係、固定資産関係資料、過去の調査資料などを照合し、新しい連絡先や関係者の手掛かりを探します。
死亡が確認された場合は、相続関係の調査へ移ります。法定相続人、死亡している相続人、代襲関係、数次相続、遺言、遺産分割、相続放棄の可能性を整理し、誰に何を確認する必要があるかを明確にします。
公的資料だけで確認できない情報は、親族、占有者、管理者など、対象土地と関係がある人へ限定して照会します。聞き取りで得た情報は手掛かりとして扱い、可能な範囲で客観資料による裏付けを行います。
所有者、相続人、代理人などへ連絡できたら、対象土地、地籍調査の目的、確認を求める内容、立会いまたは図面確認の方法を説明します。本人が参加できない場合は、代理権をどのように確認するかを実施主体の手続に従って判断します。
最後まで所有者等の所在を確認できない場合は、探索経緯を整理し、所在不明、相続人不明、一部共有者所在不明、無反応などの状態を分類します。そのうえで、所在不明者への公告手続、無反応者へのみなし確認制度、筆界特定制度の利用、筆界未定の可能性などを実施主体が判断します。
この流れを標準的な調査票、通知記録、相続関係図、進捗管理表として整備すると、担当者ごとの調査品質のばらつきを抑えられます。ただし、台帳へ記録する個人情報は必要最小限とし、閲覧権限と保存期間を明確にします。
よくある失敗と防止策
よくある失敗の一つは、住居表示を地番と思い込み、別の土地の登記情報を取得することです。登記事項証明書を請求する前に、登記所の図面や地番参考資料を使い、対象筆を特定します。
登記名義人をそのまま現在の所有者と断定することも危険です。相続登記や住所変更登記が未了の可能性があります。登記情報は基礎資料として扱い、通知結果、公的資料、相続関係資料で補います。
現地を管理している人を所有者として扱うことも避けます。利用者には、賃借人、使用借人、親族、近隣住民、管理受託者などの可能性があります。所有者確認と管理者確認を分けます。
一度通知が返送された段階で所有者不明と処理することも問題です。登記住所への通知は探索の一段階にすぎません。返送理由に応じて、住所移転、死亡、法人移転、相続の有無を確認します。
近隣住民へ無制限に聞き取りを行うと、個人情報に関するトラブルや誤情報の拡散につながります。照会先と質問内容を限定し、対象者の氏名、住所、相続事情などを必要以上に伝えません。
相続人の一人と連絡できたため、全相続人の確認が済んだと判断する失敗もあります。遺産分割や遺言による承継が確認できない限り、ほかの相続人が関係する可能性があります。
電話や口頭で筆界位置の了承を得ただけで、正式な記録を残さないことも問題です。後に担当者や関係者が変わると、どの図面のどの位置について誰が回答したのか分からなくなります。実施主体が定める図面、調査票、署名、通知記録などを使用します。
調査資料を担当者個人の端末や紙ファイルだけで管理すると、引継ぎ時に情報が失われます。地番単位で資料を整理し、アクセス権限を管理した共有環境で保管します。
現地写真は、撮影しただけでは調査資料として十分ではありません。写真番号、撮影地点、方向、対象となる境界標や地物、撮影日を関連付け、図面上の位置と照合できるようにします。
境界標が見つかったことを理由に、その位置を無条件で筆界と判断することも避けます。標識が移動している可能性や、所有権界、施工管理線、仮設標識など別の目的で設置された可能性があります。周辺資料、座標、測量成果、関係者の説明を総合して評価します。
調査を急ぐあまり、不明な点を推測で埋めないことが重要です。確認できなかった事項を明示し、追加調査や別手続へつなげられる状態にする方が、誤った所有者や筆界を確定したように扱うより安全です。
まとめ
地籍調査で隣地所有者が不明な場合は、最初から所有者不明と決めつけず、段階を追って探索することが重要です。
まず、登記所備付地図、地図に準ずる図面、地積測量図、過去の地籍調査資料などを確認し、調査対象となる隣地の地番を正確に特定します。次に登記事項証明書から登記名義人、登記住所、共有者を確認し、実施主体が定める方法で通知します。
通知が返送された場合や登記情報が古い場合は、地籍調査の実施主体が法令上利用できる公的情報や過去資料を照合します。登記名義人の死亡が判明したときは、必要な戸籍関係資料から相続人を調査します。それでも連絡先を確認できない場合は、親族、占有者、管理者など、情報を持つ可能性が高い関係者へ限定して照会します。
調査では、登記名義人が不明なのか、住所が不明なのか、相続人を調査中なのか、通知に反応がないのかを区別しなければなりません。所在不明者への公告手続と、通知が到達した無反応者へのみなし確認制度では、要件と進め方が異なります。
所有者等を確認できない場合でも、調査担当者が独自に筆界を決定してよいわけではありません。登記所の図面、地積測量図、既往資料、現地の地形や地物、境界標、通知記録、関係者の説明を整理し、地籍調査の実施主体が所定の手続に基づいて判断します。
所有者探索では、誰にいつ連絡し、どの資料を確認し、どのような結果だったのかを残すことが欠かせません。所有者等が最終的に見つからなかった場合も、探索経緯が整理されていれば、公告、みなし確認、筆界特定、筆界未定など、次に検討すべき対応を判断しやすくなります。
現地調査の精度を高めるには、所有者情報だけでなく、境界標、塀、擁壁、水路、道路、地形などの位置を一貫した方法で記録することも重要です。スマートフォン、カメラ、GNSS測位機器などを利用する場合は、写真、座標、撮影方向、対象地番を関連付け、測位精度や利用条件を記録します。所有者探索の記録と現地の位置情報を結び付けることが、複雑な地籍調査を安全かつ効率的に進める基盤になります。