地籍調査で隣地が寺院のときに注意したい理由
地籍調査は、土地を一筆ごとに調べ、所有者、地番、地目、筆界の位置、面積などを整理する調査です。隣地が寺院であっても基本的な進め方はほかの土地と同じですが、現地の呼び方、実際の利用範囲、不動産登記上の筆、宗教法人としての権限関係が一致しないことがあるため、立会い前の資料整理が重要になります。
本堂、庫裏、山門、墓地、参道、駐車場、山林などが連続していると、外見上は一つの寺院敷地に見えます。しかし、登記上は複数筆に分かれ、筆ごとに所有者、地番、地目、地積が異なる場合があります。寺院が日常的に管理している範囲と、宗教法人が所有する範囲も同じとは限りません。
土地の登記名義が宗教法人である場合もあれば、住職などの個人、以前の関係者、共有者、地域団体、自治体その他の名義である場合もあります。現地で使われている寺院名や、長年管理してきたという説明だけで、土地所有者や立会いを求める相手を決めることはできません。
寺院には、住職、代表役員、責任役員、総代、寺務担当者、墓地管理者など、異なる立場の関係者がいることがあります。宗教上の役職である住職と、宗教法人を法律上代表する代表役員が同一とは限りません。また、現地の事情に詳しい人と、法人名義の土地について確認を行う権限を持つ人が異なる場合もあります。
寺院周辺では、石垣の積み直し、塀の改修、墓地造成、駐車場整備、参道の拡幅、水路の暗きょ化などが長期間のうちに行われていることがあります。現在の構造物は土地利用の手掛かりになりますが、その位置が既存の筆界をそのまま示しているとは限りません。
地籍調査は、新しい境界を自由に作る手続ではなく、資料、現地の状況、関係者の説明などを踏まえて既存の筆界を調べる手続です。そのため、立会い前には、対象筆と所有者を示す資料、筆の配列を示す資料、過去の測量資料、法人の登記上の代表者を示す資料、代理権などを確認する資料を順に照合します。
ただし、必要書類や本人確認、代理人確認の方法は、地籍調査の実施主体が定める案内や様式によって異なることがあります。寺院だから特別な書類を一律に求めるのではなく、土地の登記名義と参加者の立場に応じて、必要な範囲を判断することが大切です。
資料1 土地の登記事項証明書
最初に確認したいのは、調査対象地に接する土地の登記事項証明書です。土地の所在、地番、地目、地積、登記名義人、共有の場合の持分などを確認し、どの筆について誰に連絡すべきかを整理します。
寺院側の土地は一筆とは限りません。境界線の途中で地番が変わることもあれば、境内地、墓地、参道、山林、駐車場が別筆になっていることもあります。まず地図や地図に準ずる図面で隣接筆を洗い出し、必要な筆の登記事項を確認します。
所有者が宗教法人の場合は、法人の正式名称を正確に記録します。山門、看板、ウェブ上の案内などで使われる寺院名が、法人登記や不動産登記上の名称と完全に一致するとは限りません。通知や立会記録では、通称だけでなく登記上の名称と対象地番を基準にします。
所有者が個人の場合は、その人と寺院との関係を推測で補わないことが重要です。現住職の個人名義である場合もあれば、前住職、寄附者、檀家、相続未了の名義人などが登記されている場合もあります。寺院が使用しているという事実だけでは、宗教法人が土地所有者であることにはなりません。
登記名義人が死亡していることが判明した場合は、実施主体の所有者調査の手順に従って相続関係を確認します。寺院側から管理の経緯を聞くことは参考になりますが、通知先や立会いを求める相手は、登記記録と調査で確認した権利関係に基づいて整理します。
共有地では、現地に来た共有者一人の説明だけで、ほかの共有者の意思まで確認したものとして扱わないよう注意します。共有者の範囲、連絡状況、代理関係、実施主体が定める確認方法を整理し、必要に応じて追加確認を行います。
地目は現況と一致しないことがあります。本堂や庫裏の周辺が宅地であっても、墓地、山林、原野、畑、雑種地などが混在する場合があります。地籍調査では地目も調査対象になりますが、登記事項証明書に記録された地目だけで現況や筆界を判断することはできません。
地積も同様です。登記上の面積は対象筆を把握する基礎情報ですが、古い測量や図面に由来する場合があり、現地測量の結果と差が生じることがあります。面積の一致だけを根拠に境界点を動かしたり、特定の構造物を境界と決めたりしないことが重要です。
立会い準備では、地番、所有者名、住所、地目、地積、共有の有無、連絡状況を筆ごとに整理し、図面、写真、立会予定者と対応させます。寺院の通称による管理ではなく、地番を中心に整理することで取り違えを防ぎやすくなります。
資料2 地図または地図に準ずる図面
二つ目は、登記所に備え付けられている地図または地図に準ずる図面です。一般に公図と呼ばれるものの多くは地図に準ずる図面であり、不動産登記法上の地図とは位置精度や性質が異なることがあります。
この資料では、調査対象筆と寺院側の筆の配列、地番の並び、おおよその形状、道路や水路との関係を確認します。現地で直接接しているように見えても、細い道路敷、水路敷、参道の別筆などが間に入っている場合があります。
参道は特に思い込みが生じやすい場所です。寺院が清掃し、門や舗装を管理していても、その土地が宗教法人所有とは限りません。独立した筆、複数人の共有地、公道、法定外公共物などの可能性があるため、地番と登記名義を別に確認します。
側溝や蓋付き水路も同様です。現地では舗装面の一部に見えていても、図面上は別の筆や水路として残っていることがあります。間に別筆があるなら、調査対象地と寺院所有地が直接接する境界ではない可能性があります。
墓地については、境内地と同じ筆に含まれる場合と、墓地だけが別筆になっている場合があります。墓地内に複数の筆が存在することもあります。墓石や墓所の外柵の並びは利用区画を示すことがありますが、それが不動産登記上の筆界と一致するとは限りません。
図面の線は、筆の位置関係を把握する重要な手掛かりですが、図面上の長さや角度をそのまま現地へ当てはめられるとは限りません。特に古い地図に準ずる図面では、現況とのずれや形状の相違が生じていることがあります。
立会い用図面には、調査対象筆だけでなく、周辺の地番、道路、水路、参道、墓地、山門などが分かる範囲を含めます。境界区間の始点と終点、途中で隣接地番が変わる箇所を示すと、参加者が確認対象を理解しやすくなります。
事前に現地写真を撮影する場合は、撮影位置と方向を図面に対応させます。山門、石段、石垣、塀、側溝、既存標識などを目印にしつつ、それらを境界そのものと決めつけない表現で整理します。
図面と現況が大きく異なる場合は、その差を立会い前の論点として記録します。図面上の細長い筆が駐車場として一体利用されている、図面上の水路が現地で見えない、境界線付近の石垣が大きく改修されているなど、追加資料が必要になりそうな箇所を把握します。
地図または地図に準ずる図面は、単独で境界点を決めるための資料ではありません。どの筆を調べるか、誰に連絡するか、現地のどこを重点的に確認するかを決めるための基礎資料として用います。
資料3 地積測量図と過去の境界確認資料
三つ目は、地積測量図と過去の境界確認資料です。地積測量図が登記所に備え付けられている場合は、対象地番、作成年月日、作成目的、辺長、境界標の表示、座標値、隣接地番などを確認します。
地積測量図は、主に分筆、地積更正などの登記に伴って提出されていることがありますが、すべての土地に存在するわけではありません。また、作成年代によって記載内容や測量方法、座標の有無が異なります。
座標値が記載されている図面でも、現在使用する基準や周辺の測量成果との関係を確認する必要があります。古い図面の数値を、その条件を確認せず現在の座標系へ直接当てはめることは避けます。辺長だけが記載された図面も、作成時の目的と精度を踏まえて参考にします。
寺院周辺では、本堂の建て替え、庫裏の改修、墓地造成、駐車場整備、石垣補修、道路拡幅などに伴い、測量図や境界確認書が作られている場合があります。土地所有者が保管する資料に加え、寺院側にも関連資料がないか確認します。
寺院へ資料を依頼するときは、対象地番と境界区間を示したうえで、過去の測量図、境界確認書、道路や水路の境界資料、石垣工事の平面図、墓地造成図、土地取得や寄附に伴う図面、境界標の写真など、探してほしい資料の例を具体的に伝えます。
ただし、建築工事の配置図、墓地の区画図、管理用図面は、筆界を正確に示す目的で作成されたものとは限りません。図面に線が描かれていても、それが筆界、工事範囲、管理範囲、計画線のどれかを確認する必要があります。
過去の境界確認書が見つかった場合は、作成日、対象地番、対象区間、当事者、図面との対応、署名押印の状況などを確認します。同じ寺院名が書かれていても、山門側、墓地側、山林側など別の区間を扱った資料である可能性があります。
現地に境界標が残っている場合は、図面に記載された標識の種類や位置と照合します。コンクリート杭、石杭、金属標、鋲などの種類が一致しても、それだけで同一の標識と断定せず、周辺点との位置関係や設置経緯も確認します。
既存標識には、工事で移動したもの、仮杭、所有者が目印として設置したものが含まれる可能性があります。見つけた位置を直ちに採用するのではなく、過去資料、周辺の確かな点、関係者の説明との整合を確認します。
石垣付近では、図面上の線が石垣のどの部分を示すのかに注意します。上端、下端、外面、背面、基礎端では位置が異なります。図面に石垣が描かれているだけでは、筆界との関係が明らかでない場合があります。
複数資料の位置が一致しないときは、一つだけを都合よく採用しません。作成時期、作成目的、測量方法、基準点、現地改修の履歴、当時の確認者を比べ、差が生じた理由を整理します。
資料4 宗教法人の登記事項証明書
四つ目は、土地の登記名義が宗教法人である場合に確認する、宗教法人の登記事項証明書です。土地の登記事項証明書が不動産の登記名義人を示すのに対し、法人の登記事項証明書は、法人の正式名称、主たる事務所、登記上の代表役員などを確認する資料です。
不動産登記上の所有者名と、法人登記上の名称を照合します。現地の寺院名が通称であったり、寺院を運営する法人の名称が異なったりする場合があるため、案内板に書かれた名称だけで法人を特定しないことが重要です。
現地の住職が、法人登記上の代表役員とは限りません。住職は宗教上の役職であり、代表役員は宗教法人を法律上代表する立場です。同じ人が兼ねる場合もありますが、肩書だけで同一と判断せず、登記事項で確認します。
法人の登記事項証明書で確認できるのは、あくまで登記されている内容です。代表役員の変更登記が未了であるなど、現状との不一致が疑われる場合は、寺院側へ事情を確認し、実施主体の手順に従って追加資料や対応方法を検討します。
代表役員が立会いに参加できず、代理人が参加する場合は、代理権を確認します。現地管理を任されていることと、地籍調査で土地の範囲を確認する権限を委任されていることは同じではありません。
一方、法人登記上の代表役員が現地の経緯を詳しく知らない場合もあります。その場合は、代表権を確認できる人と、過去の石垣工事、参道利用、境界標などを説明できる人を分けて参加してもらうと、権限確認と事実確認を両立しやすくなります。
土地の所有者が個人や別法人である場合は、寺院の宗教法人登記を確認しても、その土地についての所有者確認にはなりません。寺院施設として利用されていても、立会いの相手は土地の登記名義と所有者調査を基準に整理します。
通知書や記録には、対象地番、土地の登記名義人、法人の正式名称、参加者の立場を区別して記載します。寺院名、住職名、法人名を混在させると、誰がどの資格で確認したのかが分かりにくくなります。
資料5 規則・議事録・委任状などの権限資料
五つ目は、必要に応じて確認する、宗教法人の規則、決議を示す資料、委任状などです。ただし、これらをすべての寺院に一律で提出してもらうという意味ではありません。まず土地の登記名義と法人の登記事項証明書を確認し、立会人が代表役員本人ではない場合や、法人内部の意思決定手続に疑問がある場合に、必要な範囲で確認します。
宗教法人では、代表役員が法人を代表し、責任役員が規則に従って法人の事務を決定します。具体的な手続は法人ごとの規則により異なる可能性があります。そのため、担当者が外部から一律の決議方法を指定するのではなく、寺院側に規則上必要な手続を確認してもらうことが基本です。
地籍調査における筆界の確認は、不動産の売却や担保設定そのものではありません。したがって、不動産処分に関する承認、公告、決議が常に必要になると決めつけるのは適切ではありません。ただし、確認しようとする位置が従来の認識と大きく異なる場合など、法人側が規則に基づいて内部確認を必要と判断することはあります。
代表役員本人が参加する場合でも、実施主体の様式に従った本人確認や資格確認が必要になることがあります。代理人が参加する場合は、委任者、受任者、対象地番、地籍調査の立会いまたは図面確認に関する委任内容、作成日などが分かる委任状を用います。
「寺院の事務一切を委任する」といった包括的な表現だけでは、対象土地の筆界確認まで含むか分かりにくい場合があります。実施主体が指定する書式があるならそれを使用し、対象地番と委任事項を明確にします。
議事録や決議書については、法人内部の全記録を求めるのではなく、今回の立会人の選任や確認方針について、法人側が必要な決議を行ったことを確認する必要がある場合に限って扱います。全文提出が不要であれば、該当部分の写し、証明書、法人側の確認書など、目的に足りる方法を実施主体と相談します。
規則についても、第三者が当然に全内容の提出を求められるとは限りません。確認したいのは宗教上の事項ではなく、法人名義の土地について誰がどの手続で対応できるかという世俗的な権限関係です。調査目的と無関係な宗教活動、信者情報、財務情報へ確認範囲を広げないよう配慮します。
現地事情に詳しい寺務担当者、総代、墓地管理者などの説明は重要ですが、説明者であることと代理権を持つことを分けて記録します。権限を持つ人が確認し、事情に詳しい人が説明を補助する形にすると整理しやすくなります。
書類が不足していても、現地状況の説明や写真記録まで中止しなければならないとは限りません。ただし、誰の権限で正式な確認を行うのかが不明なまま、確認済みとして処理しないことが重要です。後日書類を補うのか、図面確認を改めて行うのかは、実施主体の手順に従います。
寺院周辺で境界と間違えやすい現地物
寺院周辺には、石垣、擁壁、塀、参道、側溝、墓地の外柵、樹木、生け垣など、境界のように見える物が多くあります。これらは筆界を検討する手掛かりですが、存在するだけで筆界と決めることはできません。
石垣には厚みがあり、上端、下端、外面、背面、基礎端の位置が異なります。斜面に設けられた石垣では、見えている面より基礎が広がっていることもあります。「石垣が境」という説明を受けたら、具体的にどの線や点を指すのかを確認します。
塀やフェンスも、所有者が自分の土地の内側へ控えて設置している場合があります。中心線、外面、基礎端のどこが筆界なのかは、構造物だけでは判断できません。改修や建て替えで位置が変わっていないかも確認します。
参道は、寺院が長年管理していても、所有者と利用者が異なることがあります。門柱や舗装の端、石段の幅をそのまま土地の範囲とみなさず、地番、登記名義、過去資料を照合します。
側溝や水路が間にある場合は、その敷地の帰属を確認します。蓋が掛けられて通路として使われていても、独立した水路敷である可能性があります。調査対象地と寺院側土地が直接接しているかどうかを図面で確認します。
墓地の外柵、墓石、墓所の石囲いは、墓所の使用範囲を示していても、不動産の筆界を示すとは限りません。個々の墓所の使用関係と、墓地全体の土地所有関係を混同しないことが大切です。
大木や生け垣が昔からの境と伝えられている場合もあります。樹木は成長し、根元の位置の見え方が変わります。倒木、植え替え、剪定などの影響もあるため、樹木だけを唯一の根拠にしません。
石仏、供養塔、記念碑、墓碑などが境界付近にある場合は、文化的、宗教的な配慮が必要です。測量や標識設置のために無断で動かしたり、穴を開けたり、表示を貼り付けたりしないようにします。
現地物は、登記事項、地図、地積測量図、過去写真、工事履歴、関係者の説明と組み合わせて評価します。構造物の所有関係と土地の筆界も別の問題であるため、寺院が構造物を管理していることだけで土地所有の範囲を推定しないことが重要です。
立会い前に寺院側へ確認しておきたい事項
立会い前には、まず連絡窓口を確認します。最初に電話や書面へ対応した人が、土地事務や法人手続を担当しているとは限りません。対象地番と土地の登記名義を伝え、土地関係の担当者または代表役員へ取り次いでもらいます。
次に、参加予定者の氏名と立場を確認します。土地所有者本人、法人の代表役員、代理人、現地説明者のどれに当たるのかを整理し、代理人なら委任状の要否と様式を早めに案内します。
寺院側が保管する過去資料の有無も確認します。測量図、境界確認書、石垣や塀の工事図面、墓地造成図、道路や水路の境界資料、土地取得時の図面、古い写真などが考えられます。
資料を借りる場合は、原本を当然に預かるのではなく、現地で閲覧するのか、写しを提出してもらうのか、撮影の許可を得るのかを事前に決めます。古文書や傷みやすい図面は、寺院側の保存方法を尊重します。
集合場所は、対象区間が分かるよう具体的に案内します。寺院敷地が広い場合は、本堂前という案内だけでなく、山門側、墓地入口側、駐車場北側など、迷いにくい場所を指定します。
法要、葬儀、年中行事、墓参者が多い時期などに配慮し、参拝や宗教活動への支障が少ない日程を調整します。ただし、配慮を理由に必要な所有者確認や代理権確認を省略することはできません。
急な石段、苔のある通路、斜面、老朽化した石垣、倒木のおそれがある区域など、安全条件も確認します。境界点が墓地奥や山林内にある場合は、移動経路を確認し、必要に応じて現地を知る人の同行を依頼します。
連絡経過は記録します。連絡日、相手、対象地番、参加予定者、持参予定資料、委任状の案内、日程上の配慮事項などを残しておくと、担当者が変わっても経緯を追いやすくなります。
立会い当日の進め方と記録方法
立会い当日は、参加者の氏名と資格を確認します。土地所有者本人、法人の代表役員、代理人、現地説明者などの立場を区別し、提出された委任状や資格資料と対応させます。
書類に不足がある場合は、その場で権限が確認できたように扱わず、追加確認事項として記録します。現地説明を受けることと、正式な確認を完了することを分けて進めます。
次に、対象地番と境界区間を図面で示します。寺院敷地全体の話ではなく、どの筆とどの筆の間の、どの区間を確認するのかを明確にします。途中で隣接地番が変わる場合は区間を分けます。
現地では、既存の境界標、石垣、塀、側溝、参道、樹木などを確認します。境界標が見つかった場合は、種類、状態、傾き、周辺構造物との位置関係を記録します。
傾いた杭、動く標識、工事跡に残る鋲などは、現在見えている位置を直ちに採用しません。過去資料や周辺の確かな点と整合するかを確認します。
関係者から昔の経緯を聞いた場合は、誰が何を説明したのかを記録します。本人が直接経験した事実なのか、前任者や地域住民から聞いた話なのかも分けておくと、資料評価の参考になります。
写真は、境界点の近景だけでなく、周囲との位置関係が分かる全景も撮影します。図面上に写真番号と撮影方向を記入し、同じ石垣や塀を複数方向から撮影した場合も位置を対応させます。
墓地付近の撮影では、墓碑の個人名、参拝者、宗教行事など、調査に不要な情報が過度に写り込まないよう配慮します。取得した写真は利用目的を明確にし、実施主体の情報管理ルールに従って保管します。
新たな標識を設置する場合は、実施主体の方法と関係者の確認に従います。石垣、塀、石造物、樹木などへ無断で穴を開けたり、固定物を設置したりしないようにします。
確認できた事項、意見が一致しない事項、資料不足で判断できない事項、権限確認が未了の事項を分けて記録します。判断できない区間を曖昧な表現で確認済みにしないことが重要です。
資料と現地の状況が一致しない場合の対応
地籍調査では、地図、地積測量図、過去資料、現地構造物が一致しないことがあります。寺院周辺は長期間の改修が重なりやすいため、違いが生じた時期と理由を整理する必要があります。
公図上では直線でも、現地の石垣が折れ曲がっている場合があります。このとき、図面か石垣のどちらかを直ちに採用するのではなく、地積測量図、境界確認書、既存標識、工事履歴、周辺筆との整合を確認します。
地積測量図の辺長と現地距離が合わない場合は、作成年代、測量方法、座標の基準、図面の対象範囲、後年の工事を確認します。面積を合わせるためだけに一つの境界点を動かすことは避けます。
寺院側と隣接所有者の認識が異なる場合は、双方が示した位置を具体的に記録します。寺院側が石垣上端、隣接所有者が石垣下端を示したのであれば、それぞれの位置、理由、根拠資料を図面と写真へ残します。
参加者の権限に問題がある場合は、位置の問題と分けて整理します。現地で位置について同じ説明が得られても、法人を代表する人または適切な代理人による確認が未了なら、その点を記録します。
反対に、代表役員が参加していても、資料が不足して位置を判断できない場合があります。その場で結論を急がず、追加資料の提出、測量成果の照合、再立会い、図面による確認などを検討します。
建築配置図、墓地管理図、工事平面図は、筆界確定を目的とする図面ではない可能性があります。線の名称、凡例、注記、作成者、作成目的を確認し、参考資料としての重みを判断します。
合意や確認が得られない場合の取扱いは、実施主体の手順に従います。必要に応じて、内部協議、追加調査、関係部署との連携、筆界特定制度の検討などが行われることがありますが、担当者が一方の主張を採用して権利紛争を解決することはできません。
寺院内部の対立や、土地所有権そのものの争いがある場合も、地籍調査担当者は中立的に事実を整理します。提出資料、関係者の資格、各人の主張、現地で示された位置、未解決事項を記録し、必要に応じて専門家への相談を案内します。
地籍調査の記録を後工程へつなげる方法
寺院隣接地では、対象筆が多く、関係者の立場も複数になりやすいため、立会い後の記録を地番と境界区間を基準に整理します。
各地番に、土地の登記事項、隣接地番、地図、地積測量図、過去資料、立会人、資格資料、委任状、現地写真、確認結果を関連付けます。本堂側、墓地側、参道側などの通称だけで管理すると、登記情報との対応が曖昧になります。
通称を使う場合も、「寺院所有の何番、墓地入口付近」のように地番を先に記録します。境界線の途中で隣接筆が変わる場合は、区間ごとの始点、終点、関係者、確認状況を分けます。
写真には、撮影日、撮影方向、対象点、撮影者、対応する図面番号を付します。全景、近景、標識の状態、構造物との位置関係が追えるように整理します。
権限資料は、誰が、どの地番について、どの範囲の委任を受けたのかが分かるようにします。一つの委任状を、対象外の地番や別日の立会いへ誤って適用しないよう注意します。
立会い後に追加資料が提出された場合は、受領日、提出者、資料名、対象地番、判断への影響を記録します。後から判断が変わった場合は、以前の記録を消すのではなく、変更の経緯が追える形で残します。
担当者間の引継ぎでは、口頭説明だけに頼らず、代表役員、代理人、現地説明者の違い、確認済みの区間、未解決区間、追加資料の依頼状況を図面と記録で共有します。
現地で取得した位置情報、写真、説明、資料番号を現場用端末や記録システムへ関連付けておけば、事務所での照合や再立会いの準備に活用できます。ただし、使用する機器やサービスにかかわらず、個人情報、墓碑情報、法人資料の保存範囲とアクセス権を管理することが重要です。
記録を地番、位置、関係者、権限、確認結果で結び付けることで、寺院隣接地のように情報量が多い案件でも、確認漏れ、写真の取り違え、委任範囲の誤認を防ぎやすくなります。
まとめ
地籍調査で隣地が寺院の場合も、基本は一筆ごとの土地調査です。現地の寺院名、建物、管理範囲だけで土地所有者や筆界確認の相手を判断せず、登記上の筆と名義を基準に整理します。
一つ目の資料は土地の登記事項証明書です。寺院側の地番、地目、地積、登記名義人、共有の有無を筆ごとに確認します。
二つ目は地図または地図に準ずる図面です。境内、墓地、参道、道路、水路などの位置関係を確認し、調査対象地とどの筆が接しているのかを整理します。
三つ目は地積測量図と過去の境界確認資料です。図面の作成年代と目的、辺長、座標、境界標、過去の確認内容を調べ、現地物との関係を検討します。
四つ目は、土地が宗教法人名義である場合の宗教法人の登記事項証明書です。法人の正式名称、主たる事務所、登記上の代表役員を確認し、住職や現地担当者の立場と区別します。
五つ目は、必要に応じた規則、決議を示す資料、委任状などです。すべてを一律に要求するのではなく、代理人の権限や法人内部で必要な手続を確認する目的に限り、実施主体の様式と手順に従って扱います。
石垣、塀、参道、側溝、墓地の外柵、樹木などは筆界の手掛かりになりますが、それだけで筆界と断定することはできません。資料、既存標識、現地状況、関係者の説明を相互に照合します。
位置の認識が異なる場合は、双方が示した位置と根拠を具体的に記録し、追加資料や再確認につなげます。権限確認が未了の事項や、資料不足で判断できない区間を確認済みとして処理しないことが大切です。
最後に、地番、図面、写真、関係者の立場、委任範囲、確認結果を一体的に管理します。寺院への宗教的配慮と、土地調査として必要な中立性、正確性、個人情報保護を両立させることが、安全で円滑な地籍調査につながります。